バカとテストと文学少女っ!   作:しほ

13 / 13
第12話 - 作戦 -

問『女性は( )を迎えることで第二次性徴期になり、特有の体つきになり始める』

 

 

姫路瑞希の答え

『初潮』

 

教師のコメント

正解です。

 

 

吉井明久の答え

『明日』

 

教師のコメント

随分と急な話ですね。

 

 

前原玲奈の答え

『明後日からだったかな…』

 

教師のコメント

痛みに負けルナ。

 

 

土屋康太の答え

『初潮と呼ばれる、生まれて初めての生理。医学用語では、生理のことを月経、初潮のことを初経という。初潮年齢は体重と密接な関係があり、体重が43kgに達する頃に初潮を見るものが多い為、その訪れる年齢には個人差がある。日本では平均十二歳。また、体重の他にも初潮年齢は人種、気候、社会的環境、栄養状態などに影響される』

 

教師のコメント

詳し過ぎです。

 

 

 

 

 

 

「昨日言っていた作戦を実行する」

 

翌朝、登校した僕らに雄二は開口一番そう告げた。

 

「作戦?でも、開戦時刻はまだだよ?」

 

今の時刻は午前八時半。開戦予定時刻は九時だ。

 

「Bクラス相手じゃない。Cクラスの方だ」

 

「あ、なるほど。それで何をすんの?」

 

「秀吉にコイツを着てもらう」

 

そう言って雄二が鞄から飛び出したのはうちの学校の女子の制服。

赤と黒を基調としたブレザータイプで、他校にもオトナのオトモダチにもかなり人気がある垂涎の一品だ。

 

………ところで雄二、それどうやって手に入れたの?

君に何があったんだい?

 

「それは別に構わんが、ワシが女装してどうするんじゃ?」

 

男としては大いに構った方が良さそうな気もするけど、秀吉だし。

それにしても、そんなものを着たらますます秀吉は女の子らしくなって、Aクラスにいる双子の姉と見分けがつかなく_____

 

「秀吉には木下優子として、Aクラスの使者を装ってもらう」

 

なるほど、それが狙いか。

秀吉にはAクラスに所属する双子の姉がいる。

一卵性双生児かと思うほどよく似ていて、違う箇所なんてテストの点数と話し方ぐらいしか思いつかない。

 

彼女に化けて、Aクラスとして圧力をかけるということか。

 

「と、いうわけで秀吉。用意してくれ」

 

「う、うむ…」

 

雄二から制服を受け取り、その場で生着替えを始める秀吉。

な、なんだろうこの胸のときめきは。いやいやだめだ、僕には玲奈ちゃんという素敵な女の子が…いやでも相手は男なのに目が離せない!

 

「明久くん、私があそこで着替えてもあんなに見つめてくれないんじゃ…」

 

「めっちゃ見つめます」

 

「きっ、聞こえてたの!?ていうか見つめちゃダメなんじゃ、私以外の女の子の着替えもガン見するつもりでしょ!」

 

女の子の生着替えなんてたとえ僕の心に永遠のアイドル玲奈ちゃんがいたとしても気になっちゃうよ。仕方ないよ。

 

「女の子は繊細なんだからね!覗いちゃダメなんだからね!」

 

「うんうん、わかってるよぉ」

 

「なんでデレデレするのー!」

 

ぽかぽか叩かれているけど可愛い。そんなポカポカ殴りじゃまるで痛くないよぉ。

 

「よし、着替え終わったぞい。ん?皆どうした?」

 

きっと僕らはとても複雑な表情をしていることだろう。

 

「さぁな?俺にもよくわからん」

 

「おかしな連中じゃのう」

 

いや、絶対におかしいのは秀吉の外見だ。どうしてそんなに色っぽいんだよ!

 

「んじゃ、Cクラスに行くぞ」

 

「うむ」

 

雄二が秀吉を連れて教室を出ていく…ところで、玲奈ちゃんに手招きした。

 

「玲奈は確か、木下優子と仲がよかったな。廊下で誰かに出会った際に玲奈が一緒にいれば、木下優子としての信憑性が高くなる。ついてきてくれ」

 

「あ、はいっ。了解です!」

 

「あ、それなら僕も行くよ」

 

秀吉の演技も気になるし、と慌てて追いかける。

昨日も思ったけど、CクラスとFクラスって結構離れている。

クラスによって教室の大きさが違うから変な配置になるのも仕方ないけど、もうちょっとわかりやすい構造にしてほしいもんだ。

 

そのまましばらく歩き、Cクラスを目の前にして立ち止まる僕達。

 

「さて、ここからはすまないが一人で頼むぞ、秀吉」

 

Aクラスからの使者になりすます以上、Fクラスの僕や雄二、そしてFクラスであることが他クラスから認識されている玲奈ちゃんも同行するわけにはいかない。玲奈ちゃんはあくまで廊下などでのブラフなのだ。

 

「気がすすまんのう…」

 

あまり乗り気ではなさそうな秀吉。そりゃそうだ、姉のふりをして敵を騙すなんて、決して気持ちの良い話ではないだろう。

 

「そこをなんとか頼む」

 

「ムゥ……。仕方ないのう…」

 

「悪いな。とにかくあいつらを挑発して、Aクラスに敵意を抱くよう仕向けてくれ。お前なら出来るはずだ」

 

秀吉は演劇部のホープで、演技がものすごく達者だ。

勉強は苦手だけど、他の面に抜群に秀でているのだ。

 

「はぁ……。あまり期待はせんでくれよ……」

 

溜息と共に力なくCクラスに向かう秀吉。本当に気が重そうだ、うまくいくだろうか。

 

「雄二、秀吉は大丈夫なの?別の作戦を考えておいた方が…」

 

「シッ、秀吉が教室に入るぞ」

 

雄二が口に指を当てる。ここから声は聞こえたりはしないだろうけど、念のため指示に従うことにした。

 

ガラガラガラ、と秀吉がCクラスの扉を開ける音が聞こえてくる。

 

『静かになさい、この薄汚い豚ども!』

 

………うわぁ。

 

「流石だな、秀吉」

 

「うん。これ以上ない挑発だね……」

 

「な、なんだか秀吉くんの新しい一面を見た気分です…」

 

玲奈ちゃんも苦笑いの演技力。

もう何も言わなくてもCクラスの敵意はAクラスに向かっているんじゃないだろうか。

 

『な、何よアンタ!』

 

この高い声は昨日会ったCクラス代表の小山さんだろう、怒っているのが顔を見なくてもわかる。ま、いきなり豚呼ばわりだしねぇ…

 

『話しかけないで!豚臭いわ!』

 

自分から来たくせに豚臭いって。もうツッコミどころが多すぎだよ。

 

『アンタ、Aクラスの木下優子ね?ちょっと点数良いからって良い気になってるんじゃないわよ!何の用よ!』

 

知名度としては秀吉よりも断然Aクラスである木下優子の方が高いだろう。そもそも秀吉は女装しているわけだし、見分けがつくわけがない。しかも相手をうまく怒らせて冷静な観察力も奪われている。Cクラスは確実に木下優子と思い込むだろう。

 

『私はね、こんな臭くて醜い教室が同じ校内にあるなんて我慢ならないの!貴女達なんて豚小屋で十分だわ!』

 

『なっ!言うに事欠いて、私達にはFクラスがお似合いですって!?』

 

別にFクラスとは言ってないぞ小山さん!

 

『手が汚れてしまうから本当は嫌だけど、特別に今回は貴女達を相応しい教室に送ってあげようかと思うの』

 

演劇部ってここまで出来ないとダメなのかな。それともうちの学校がおかしいのかな。

 

『ちょうど試召戦争の準備もしているようだし、覚悟しておきなさい。近いうちに私達が薄汚い貴方達を始末してあげるから!』

 

そう言い残し、靴音を立てながら秀吉は教室を出てきた。

 

「これで良かったかのう?」

 

どこかすっきりした顔で秀吉がこちらへ近づいてくる。

玲奈ちゃんはもはや引き気味である。仕方ないね。

 

「ああ。素晴らしい仕事だった」

 

『Fクラスなんて相手にしてられないわ!Aクラス戦の準備を始めるわよ!』

 

Cクラスから小山さんのヒステリックな叫び声が聞こえてくる。

どうやらうまくいったようだ。……でも、なんだろうこの罪悪感は。

 

隣の玲奈ちゃんも同じように、渋い顔をしている。そんな顔も可愛いなあ。

 

「作戦もうまくいったことだし、俺たちもBクラス戦の準備を始めるぞ」

 

「あ、うん」

 

余計なことに気を取られている暇はない。あと十分で今日の試召戦争が始まるのだ。僕らは早足でFクラスへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドアと壁をうまく使うんじゃ!戦線を拡大させるでないぞ!」

 

秀吉の指示が飛ぶ。

あの後午前九時よりBクラス戦が開始され、僕らは昨日中断したBクラス前という位置から進軍を開始した。

 

雄二曰く、『敵を教室内に閉じ込めろ』とのこと。

そんなわけで指示を遂行しようと戦争をしているんだけど、ここで一つ問題があった。

 

姫路さんの様子がおかしい。

本来は総司令官であるはずの彼女だけど、今日は一向に指示を出す気配がない。それどころか何にも参加していないように見える。何かあったんだろうか。

 

「勝負は極力単教科で挑むのじゃ!補給も念入りに行え!」

 

そんなわけで今指揮をとっているのは副司令の秀吉。ここ数時間は雄二の指示通りうまくやれている。

 

「左側出入り口、押し戻されています」

 

「古典の戦力が足りない!援軍を頼む!」

 

押し戻された左の出入り口にいるのは古典の竹中先生だったか。

まずいな、Bクラスは文系が多いので、先頭に立って戦っている玲奈ちゃんがどうしても戦いのメインになる。

玲奈ちゃんは文系は得意でAクラス代表をも凌ぐほどの実力だけど、長時間ずっとBクラスの袋叩きにされる勢いで攻め続けられているから、そろそろ体力的にも厳しいものがあるはずだ。

 

「姫路さん、左側に援軍を!」

 

「あ、そ、そのっ…!」

 

その肝心な姫路さんが、戦線に加わらず泣きそうな顔をしてオロオロしている。マズイ!突破される!

 

「だあぁっ!」

 

掛け声と共に人混みをかき分け、左側の出入り口にダッシュ。

そして立会人をやっている竹中先生の耳元でささやく。

 

「………ヅラ、ずれてますよ」

 

「っ!」

 

頭を抑えて周囲を見回す竹中先生。

いざと言う時のための脅迫ネタ〜古典教師編〜をこんなところで使う羽目になるなんて。これは計算外だ。

 

「少々席を外します!」

 

狙い通り少しの間ができる。

 

「古典の点数が残っている人は左側の出入り口へ!消耗した人は補給にまわって!玲奈ちゃんの消耗具合を見て玲奈ちゃんには下がってもらって!」

 

「了解!」

 

古典の援護に向かう人たちにそう伝えると、彼らは頷いて玲奈ちゃん達の方へ向かった。さて、この間に。

 

「姫路さん、どうかしたの?」

 

姫路さんに声をかける。なんだかわからないけれど様子がおかしい。この原因がわからないことには動けない。

 

「そ、その、なんでもないんですっ」

 

大きく首を横に振るけど、その動きはあまりにも大袈裟で、本当は何かあるのが見え見えだ。

 

「そうは見えないよ。何かあったなら話してくれないかな、それ次第では作戦も大きく変わるだろうし」

 

「ほ、本当になんでもないんです!」

 

そうは言うけど、泣きそうな顔は相変わらずだ。絶対におかしい。

 

「右側出入口、教科現国に変更されました!」

 

「数学教師はどうした!」

 

「Bクラス内に拉致された模様!」

 

右側までもBクラスの得意とする文系科目に切り替えられるなんて。

更に言うと美波は文系科目が苦手だ!まるで戦力にならない!

 

「私が行きますっ!」

 

そう言って姫路さんが戦線に加わろうと駆け出した。でも、

 

「あ……」

 

急にその動きを止めて俯いてしまった。

姫路さんが見ていた方を目で追えば、そこには根本くんの姿がある。

 

「っ!」

 

そこで僕は見た。彼が手にしているものを。

なんの変哲もない、手に入れようと思えば普通に手に入るものだけど、逆にいくらお金を出しても買えないものでもある。

 

彼が手にしていたもの。

 

それは、ピンクの封筒に入った、明らかに大事な、ラブレターだった。

 

「……なるほどね。そういうことか」

 

昨日の協定の話を聞いた時からおかしいとは思っていたんだ。あの根本くんが僕らの利になるような提案をしてくるなんて。

それでもあの提案は協定を組むことでの妨害のためだとばかり思っていた。

 

なるほど、結局あの時点で既に姫路さんを無力化する算段が立っていたってわけだ。たとえ玲奈ちゃんがいくら驚異的でも、同じ文系科目を得意とするBクラスなら十分押さえつけられると判断して、姫路さんにターゲットを切り替えたんだ。

 

姫路さんが参加できない前提なら、あの協定は明らかにBクラスが圧倒的に有利な条件なのだ。

 

うまい方法だ。合理的で失うものもリスクもない。

 

「姫路さん」

 

「は、はい……?」

 

「具合が悪そうだからあまり戦前には加わらないように。試召戦争はこれで終わりじゃないんだから、体調管理には気を付けてもらわないと」

 

「……はい」

 

「じゃ、僕は用があるから行くね」

 

「あ……!」

 

姫路さんは何か言いたげだったけど、気にせず背を向けて駆け出す。

しかし、僕は途中で呼び止められた。最悪の形で。

 

「吉井!待て、戦線から離れるなら前原さんも一緒に!」

 

「え?」

 

「酷い熱なんだ、もしかすると朝からかもしれない!これ以上戦ったら本当に倒れちまう!」

 

「なっ…」

 

そう言って須川くんが前原さんを僕に預けると、すぐに戦線へと戻る。

 

「……玲奈ちゃん」

 

「……ぁ、き、…さくん、」

 

「……いつから熱っぽかったの?朝から?」

 

「……はぃ……」

 

観念したように頷く玲奈ちゃんの体は熱い。これはヘタをすると四十度近くの熱があるかもしれない。

 

「保健室に行こう、今日はもうこれ以上は無理だ」

 

「………そ、んな……わたし、まだ…役に…」

 

「ダメ。絶対ダメだから」

 

僕が譲る気はないということがわかると、玲奈ちゃんは辛そうに涙を一筋流して、「ごめんなさい」と蚊の鳴くような声で謝る。

 

「もっと…お役に……」

 

言いかけて、辛さが頂点を超えたのかことんと眠りに落ちてしまった。

倒れそうになった体をなんとか支え、僕はもう一度、姫路さんが見ていた根本くんがいる方を見やる。

 

根本くんはこちらを見ていて、僕と意識を失った玲奈ちゃんを見てにやりと笑うと、そのままふいと視線をそらしてBクラスに指示を出しているようだった。

 

 _____ 根本くんは親戚だと玲奈ちゃんは言っていた。

 

玲奈ちゃんは根本くんが自分のクラスにしたことを恥じて、僕らのためにこんなにも尽力してくれている。

それなのにあの男は、卑怯な手で姫路さんを無力化し、あまつさえ親族である玲奈ちゃんが倒れたことをまるで計画通りとでも言わんばかりに眺めて、笑ったのだ。

 

「面白いことしてくれるじゃないか、根本くん」

 

そっと、玲奈ちゃんを起こさないようにゆっくりと抱き上げて、まず目指すのは保健室。

そして、次に向かうのは代表のいる教室だ。

 

 

 _____あの野郎、ブチ殺す。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:15文字~500文字)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。