バカとテストと文学少女っ!   作:しほ

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見ようによっては姫路さんアンチ・ヘイトに見えるかもしれません。そういうのが苦手な方はご注意下さいませ。ちなみに言っておくと、作者は姫路さんちゃんと好きです。努力家ってすごい。







第5話 -究極の選択-

問 以下の問いに答えなさい。

『ベンゼンの化学式を書きなさい』

 

 

姫路瑞希の答え

『C6H6

 

前原玲奈の答え

『C6H6

 

教師のコメント

簡単でしたかね。

 

 

土屋康太の答え

『ベン+ゼン=ベンゼン』

 

教師のコメント

君は化学をなめていませんか。

 

 

吉井明久の答え

『B - E- N - Z - E - N』

 

教師のコメント

あとで土屋くんと一緒に職員室に来るように。

 

 

 

 

 

Dクラス代表 平賀源二 討死

 

『うぉぉーーっ!』

 

その報せを聞いたFクラスの勝鬨とDクラスの悲鳴が混ざり、耳を劈くような大音響が校舎内を駆け巡った。

 

「すげぇよ!本当にDクラスに勝てるなんて!」

「これで畳や卓袱台ともおさらばだな!」

「ああ。アレはDクラス連中の物になるからなー

「坂本雄二サマサマだな!」

「やっぱりあいつは凄い奴だったんだな!」

「坂本万歳!」

「姫路さん愛しています!」

 

尚も姫路さんに止まらないラブコールを続けるクラスメートがすごく気になるけれど、今はこの勝利を喜ぶタイミングなので気にしないことにする。

 

___私と平賀くんとの対戦で決着のついたこの戦争。

代表である坂本くんを褒め称える声が至る所から聞こえている。

彼の作戦がなければ勝ち得なかったことだ、当然だろう。

さっきまで坂本くんがいた所を見れば、がっくりとうなだれるDクラス生徒たちの奥で、Fクラスのみんなに囲まれている姿があった。

 

「あー、まぁ。なんだ。そう手放しで褒められると、なんつーか」

 

頬をぽりぽりと掻きながら明後日の方向を見る坂本くん。あまり付き合いは長くないけど、照れているのはなんだか意外だ。

 

「坂本!握手してくれ!」

「俺も!」

 

もう英雄扱いだ。

この光景を見るだけで、彼らがどれだけあの教室に不満を抱いていたのかがよくわかる。まあ、それに関してはみんながもっと勉強すればよかったわけだけど、結局下がいることで上が育つこの仕組みはシンプルで合理的だ。私たちみたいな最底辺がいるからこそ、中途半端な()が育つのである。

 

そんなことはさておき、今回姫路さんがFクラスにいるということを見せずに戦争を終えられた。これは多分、すごく大きな功績だ。

私も現国、古典の二教科は十分補充できたし、残る教科は明日の補充で間に合わせることにする。

私は早めに切り上げて平賀くんを討ち取る役目があったので、三科目目である英語Wは中途半端な点数に終わってしまった。しかし、私の予想では次の相手はBクラス。もともと私はAクラス並みの学力があるわけじゃないから、どんなに頑張ってもBクラスと張り合うには200点以上は必要だ。そして今回の英語W、調子が良かったのか、217点という珍しくなかなか良い点数が取れた。中途半端でも、おそらくこれだけの点数があればBクラスとは戦えるだろう。

 

問題は数学である。多分頑張っても平均点以下___赤点は免れられない。数学においては明久の方がよっぽど点数を取れるだろう。

制限時間1時間で100点満点のプリントを一枚終えられない。良くても50点台、普段なら30点台常連である。公式とか訳わからないし。数学なんて滅びればいいのに。

 

そんなことを考えていた為に知らなかった。

明久が包丁を忍ばせて坂本くんに襲いかかったことも、返り討ちにあって生爪を剥がされそうになったことも。

 

 

 

 

 

「まさか、前原さんがFクラスだなんて…信じられん」

 

背中から聞こえる声に振り向くと、そこにはヨタヨタと歩み寄る平賀くんの姿があった。

 

「あ、その、さっきはごめんなさい…」

 

いたたまれない気持ちでそう告げる玲奈ちゃんに、「いや、謝ることはない」と平賀くんは続ける。

 

「すべてはFクラスを甘く見ていた俺たちが悪いんだ」

 

これも勝負だから、騙し討ちみたいになってしまったが、玲奈ちゃんが謝ることはない。だけど玲奈ちゃんは優しいから、きっと気にしているんだろう。

 

「ルールに則ってクラスを明け渡そう。ただ、今日はこんな時間だから、作業は明日で良いか?」

 

敗残の将か。なんだか可哀想に見える。これから彼は再び試召戦争を行使できる権利が回復するまでの3ヶ月間を、あの教室でクラスメートに恨まれながら過ごさなくてはならない。勝てば英雄のように扱われるのが代表なら、負ければ戦犯として扱われるのも代表なのだから。

 

「もちろん明日でいいよね、雄二?」

 

こんな姿を見て今日中に済ませろなんて言えないので、僕は雄二にそう聞いた。

 

「いや、その必要はない」

「え?なんで?」

「Dクラスを奪う気は無いからだ」

 

それが当然のことであるかのように告げる雄二。僕には雄二の言いたいことがさっぱりわからない。

 

「雄二、それはどういうこと?折角普通の設備を手に入れることが出来たのに」

「忘れたのか?俺たちの目標はあくまでもAクラスのはずだろう?」

 

打倒Aクラス。それは僕と雄二の至るべき到達点。

 

「でもそれなら、なんで標的をAクラスにしないのさ。おかしいじゃないか」

 

どうせ敵に回すのならこんな回りくどいことをせずに一気に攻め込めばいいのに。

 

「少しは自分で考えろ。そんなんだから、お前は近所の中学生に『馬鹿なお兄ちゃん』なんて愛称をつけられるんだ」

「なっ!そんな半端にリアルな嘘をつかないでよ!」

「おっとすまない。近所の小学生だったか」

「……人違いです」

「まさか……本当に言われたことがあるのか……?」

 

み、見ないで!そんな目で僕を見ないで!

 

「と、とにかくだな。Dクラスの設備には一切手を出すつもりはない」

「それは俺たちにはありがたいが……。それでいいのか?」

「もちろん、条件がある」

 

ま、そりゃそうだよね。このまま解放したらそれこそ意味がない。

 

「一応聞かせてもらおうか」

「なに。そんなに大したことじゃない。俺が指示を出したら、窓の外にあるアレを動かなくしてもらいたい。それだけだ」

 

雄二が指したのはDクラスの窓の外に設置されているエアコンの室外機。でも、この室外機はDクラスの物じゃない。ちょっと貧しい普通の高校レベルの設備でしかないDクラスにエアコンなんてものはないのだから。置いてあるのは、スペースの関係でここに間借りしている_____

 

「Bクラスの室外機か」

「設備を壊すんだから、当然教師にある程度睨まれる可能性もあるとは思うが、そう悪い取引じゃないだろ?」

 

悪い取引であるはずがない。うまく事故に見せかければ厳重注意で済み、それだけで3ヶ月もの期間をあの教室で過ごすと言う状態から逃れられるのだから。

 

「それはこちらとしては願っても無い提案だが、なぜそんなことを?」

 

平賀くんの疑問はもっとも。目標はAクラスなのにBクラスを、しかもエアコンなんて直接関係の無いものにダメージを与えてどうするつもりなんだろうか。

 

「次のBクラス戦の作戦に必要なんでな」

「……そうか。ではこちらはありがたくその提案を呑ませて貰おう」

「タイミングについては後日詳しく話す。今日はもう行っていいぞ」

「ああ。ありがとう。お前らがAクラスに勝てるよう願っているよ」

「ははっ。無理するなよ。勝てっこないと思ってるだろ?」

「それはそうだ。AクラスにFクラスが勝てるわけがない。ま、社交辞令だな」

 

じゃあ、と手を挙げてDクラス代表、平賀くんは去っていった。

 

「さて、皆!今日はご苦労だった!明日は消費した点数の補給を行うから、今日のところは帰ってゆっくりと休んでくれ!解散!」

 

雄二が号令をかけると、みんな雑談を交えながら自分のクラスへと向かい始めた。帰りの支度をするのだろう。

 

「雄二。僕らも帰ろうか」

「そうだな」

 

勝てたと言う満足感は大きいけど、正直疲労がかなり強い。まだ試召戦争は続くようだし、今日はおとなしく帰って寝ることにしよう。

 

「あ、あのっ、坂本くんっ」

「ん?」

 

皆の後を追って教室に向かおうとする雄二を呼び止める声。姫路さんだ。

 

「お、姫路。どうした?」

「実は、坂本くんに聞きたいことがあるんです」

 

胸に手を当てながら興奮気味に話す彼女。大事な話みたいだ。僕は席を外した方がいいのかな。

 

「おう。わかった」

 

なんだか寂しいなと思いながらも周りを見渡せば、そこには姫路さんを待っているのだろうか、玲奈ちゃんがいた。

 

「___玲奈ちゃんっ」

「え?…あっ、明久くん!」

「あれ?君付け?」

「結局、男の子を呼び捨てって慣れなくて…ダメかな?」

「いや、僕はどんな呼び方でも気にしないよ。

それより、今日はお疲れ様!玲奈ちゃんのお手柄だもんね」

「ええ?私は、そんな…」

 

坂本くんの指示に従ったまでだよ、と苦笑いを浮かべる玲奈ちゃんは相変わらず可愛い。

小さい頃から何も変わらず、優しくて穏やかで、僕の理想の女の子。

 

「明久くんだって」

「うん?」

「立派に戦ったんでしょう?姫路さんがいない中、格上のDクラス相手に、体を張って戦線を守ったって聞いたんだよっ」

「…………え?」

「私、それを聞いて興奮しちゃって!

美波もすごく頑張ったって聞いたし、すごいなあって思ってたの!」

 

そんなことを、まるで本当に興奮している様子で身振り手振りしながら伝えてくれる玲奈ちゃん。

 

「あはは、そんなことないよ」

 

撤退しようとしたし、島田さんを犠牲にしたし、僕は結構卑怯者だ。

その自覚はあるし、僕はそれでも構わないと思ってた。これは戦いで、戦争だから。

でも____

 

「すごいねっ!」

 

きらきらした瞳でこんなこと言われたら、がんばるしかないじゃないか。

 

「___うん。次はもっとがんばるよ」

「?うん、私もがんばるね!」

 

この愛しい人を守れるように。誰より優しい、この子のことを。

 

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