バカとテストと文学少女っ!   作:しほ

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大変長らくお待たせいたしました。
文学少女とその仲間達が帰ってまいりました。失踪気味の私ではございますが、長い目で更新を待っていただけると大変恐縮です。
なんか日本語おかしくない?


第6話 -幸か不幸か-

 

「うあー……づがれだー」

 

机に突っ伏す。

とりあえず四教科が終了。ただでさえテストは疲れるというのに、更に朝から船越先生(独身)とひと悶着あったから余計に疲れた。

ちなみに船越先生には近所のお兄さん(39歳/独身……お兄さん?)を紹介しておいた。昨日の呼び出しもその件だったということにした。

 

「うむ。疲れたのう」

 

いつのまにか近くに来ていた秀吉が僕の独り言に答える。

今日は髪をポニーテールにしているようだ。うぅっ。僕のストライクゾーンど真ん中じゃないか。男のくせに僕を惑わすなんて…!!

とはいっても、同じく栗色でセミロングの髪をポニーテールにしている玲奈ちゃんは更にかわいい。

さらさらの髪を高い位置でひとまとめにしているため、細くて白い首すじとうなじが見えて、思わずゴクリと生唾をのんでしまった。少しの後れ毛と、ふぅとひとつ吐いた ため息すら、恐ろしいほどの色気を感じて、僕は思わず目を逸らした。

 

「………(コクコク)」

 

僕がそうして玲奈ちゃんへの邪な気持ちを隠すようにブンブンと首を振っていると、秀吉の隣では、いつも無口で存在が薄く思われがちなムッツリーニも、秀吉や僕の会話に頷いているようだった。よし、コイツらを見て心を浄化しよう。男を見ても色気なんて………ああっ、やっぱり秀吉には並々ならぬ可愛さと色気が……!!ああでも僕には玲奈ちゃんという理想の女の子がいて…!

 

と、僕がくだらない(ようでいてとても大事な)ことで百面相していれば、隣の卓袱台で授業を受けていた雄二が突然勢いよく立ち上がった。

 

「よし、昼飯食いに行くぞ!今日はラーメンとカツ丼と炒飯(チャーハン)とカレーにすっかな」

 

そんな雄二からは全然疲れが感じられない。どういう身体の構造しているんだか。昼食のメニューも含めて。

 

「ん?吉井達は食堂に行くの?だったら一緒していい?」

「ああ、島田か。別に構わないぞ」

「それじゃ、混ぜてもらうね」

「………(コクコク)」

 

ムッツリーニが頷いているのは下心のせいだろう。島田さんに色気を求めても無駄だというのに。

 

「吉井、なんかウチの悪口考えてない?」

「滅相もございません」

 

なんて恐ろしい勘なんだ。

まぁ、とりあえず今は待ち望んだ昼休み。美味しいものでも食べて元気を出そう。

学食だからそこまで美味しいというわけでもないけど。

 

「じゃ、僕も今日は贅沢にソルトウォーターあたりを___ 」

「瑞希ちゃん、やっぱり声をかけないとみんな行っちゃうよね…?」

「は、はい…あ、あの。皆さん…」

 

立ち上がり、食堂に行こうとしたところで声をかけられた。

 

「うん?あ、姫路さん。それに玲奈ちゃんも…、一緒に食堂に行く?」

「あ、いえ。え、えっと……、お、お昼なんですけど、その…」

「昨日の約束、覚えてるかな…?」

 

姫路さんはもじもじしながら、玲奈ちゃんもそわそわと落ち着かないような様子で聞いてくる。昨日の、約束…?

僕が無い頭でなんとか思い出そうと記憶を振り絞ってみるが、昨日といえば教科書を忘れて取りに帰ったことや、姫路さんのラブレターを見て雄二を羨ましいと思ったこと、そして何より玲奈ちゃんのためにもう少し頑張ろうといつもより勉強したことくらいしか思い出せない。約束…約束…?

 

「おお、もしや弁当かの?」

「は、はいっ。迷惑じゃなかったらどうぞっ」

「わ、わたしからも!」

 

と、二人は身体の後ろに隠していたバッグを出してくる。

本当に!?姫路さんも玲奈ちゃんも、今日はテストもあるというのに、なんていい子なんだ…!

君たちのおかげで僕はもう少し長生きができるかもしれないよ!

 

「迷惑なもんか!ね、雄二!」

「ああ、そうだな。ありがたい」

「そうですか?良かったぁ〜」

「良かったね、瑞希ちゃんっ」

「はいっ、玲奈ちゃんも!」

 

ほにゃっとした笑顔で柔らかく、そして嬉しそうな表情を浮かべる二人にはほんわかとした空気が漂う。マイナスイオンたっぷりの二人の会話はまさに女の子。うんうん、これこそ僕が求める理想的な女子の会話ってやつだよ!

 

「吉井?やっぱりアンタ、ウチのこと馬鹿にしたわよね?」

「いえ全く」

「おかしいなぁ…このイライラは何なのかしら…」

「(嫉妬してるんだね、美波…カワイイ!)」

 

危ない危ない、また島田さんに怒られるところだった。この野生の勘は本当に侮れないな…と、それはさておき。

 

「それでは、せっかくのご馳走じゃし、こんな教室ではなくて屋上にでも行くかのう」

「そうだね」

 

確かに、こんな腐った畳と男の匂いしかしない場所で頂いて良いような物じゃない。屋上の気持ちのいい空間で最大級の感謝を込めて味わうべきだろう。秀吉の意見に頷く。

 

「そうか。それならお前らは先に行っててくれ」

「ん?雄二はどこか行くの?」

「飲み物でも買ってくる。昨日頑張ってくれた礼も兼ねてな」

「あ、それならわたしも…」

「いいわよ玲奈、アンタはお弁当も作ってきてくれたんだし、休憩してなさい。ウチが坂本について行くから」

「え、でも……ほんとにいいの?」

「いいっていいって!ほら、瑞希たちと先行ってて?」

「う、うん…ありがとう二人とも」

「気にするな。悪いな、島田。それじゃ頼む」

「おっけー」

 

雄二の手伝いを名乗り出ようとした優しい玲奈ちゃんを制して、柔らかな笑顔で気遣いを見せた島田さん。うーん、どういう風の吹き回しだろうか。僕だったらそのまま連れていかれてボコられるのを警戒する場面だけど。申し訳なさそうに笑ってお礼を言った玲奈ちゃんは、今日も可愛い。ポニーテールを結んでいる髪飾りがゆらりと揺れた。

 

「きちんと俺たちの分をとっておけよ」

「大丈夫だってば。あまり遅いとわからないけどね」

「そう遅くはならないはずだ。じゃ、行ってくる」

 

雄二と島田さんは財布を持って教室を出て行った。きっと一階の売店に向かったんだろう。

 

「僕らも行こうか」

「そうですね」

 

姫路さんと玲奈ちゃんが抱えていたバッグを受け取り、屋上まで歩く。律儀にお礼を言ってくれた玲奈ちゃんに笑い返しつつ、その重みに驚く。まあ全員で七人分の食事だし、雄二は食べ盛りだ。これくらいにもなるのか、と頷きつつも、随分張り切って作ってくれたことに感動する。

 

「天気が良くて何よりじゃ」

「そうですねー」

「風も気持ちいいね」

 

屋上へと続く扉の向こうには抜けるような青空が広がっている。絶好のお弁当日和だ。

 

「あ、シートもあるんですよ」

「わぁ、瑞希ちゃん気が効く!」

 

姫路さんがバッグからビニールシートを取り出す。準備も万端だ。ピクニック用のセットだったりするのだろうか。

わいわいと準備を始める僕達。幸い屋上は他に人もいなくて、僕らの貸切状態だ。

 

「うーん、気持ちいいねー」

「………(コクリ)」

 

ビニールシートの上に足を投げ出す。日差しと風が気持ちよかった。

 

「あの、あんまり自信はないんですけど…」

 

姫路さんが重箱の蓋を取る。と、同時に、気持ちよさそうに目を細めていた玲奈ちゃんも、慌てて可愛らしいピンクのバッグから驚くほど大きな重箱を取り出した。姫路さんが用意したものの数倍の大きさはあるだろうそれに、僕らは思わず「おお…」と感嘆した。

 

「玲奈ちゃん、結構大きいよね?それ」

「あ、わたし…お恥ずかしながら、よく食べるの…坂本くんも他のみんなも育ち盛り食べ盛りだろうしと思って、とりあえず多めに作ってきたんだけど…」

 

食べきれなかったら言ってね!わたしが食べるから!

と、なんとも元気よく告げた玲奈ちゃん。意外だ、見た目も可憐な玲奈ちゃんはどことなく少食のイメージがあったのだが。

しかしそんなところも可愛いというか、ギャップがあるというか、僕自身よく食べる方ではある(雄二ほどじゃないし、胃も小さくなっているから今はそんなに入らないけど)ので、気が合うな、と思わず笑ってしまった。

 

「あ、明久くん、笑わないで…」

「ち、違うよ!気が合うなって思っただけで、」

「ほんとにほんと?」

 

ぷくっとほっぺを膨らませる玲奈ちゃんがあまりにあざとくて、思わず目をそらす。しかしかろうじて出てきた「ほんとだよ…」の一言で何とか安心したらしく、表情を和らげて大きな重箱の蓋を開けた。

 

『おおっ!』

 

姫路さんが少し前に開けてくれたものと並べて、総勢6つの重箱に詰められていたのは、唐揚げやエビフライにおにぎりやアスパラ巻きなど、定番のメニューだ。玲奈ちゃんの重箱にはサンドウィッチやクロワッサンなどのパン類が入った箱のほか、肉じゃがやエビとほうれん草の胡麻和え、春巻き、ささみのチーズ揚げなどどれも手作りとは思えない仕上がりのものが並んでいて、どちらも凄く旨そうだった。

 

「それじゃ、雄二には悪いけど、先に___ 」

「………(ヒョイ)」

「あっ、ずるいぞムッツリーニっ」

 

動きの素早いムッツリーニがエビフライを摘みとった。そして、流れるように口に運び___

 

「………(パク)」

 

バタン ガタガタガタガタ

 

豪快に顔から倒れ、小刻みに震えだした。

 

「………」

「………」

「………」

 

秀吉と玲奈ちゃんと、三人で顔を見合わせる。

 

「わわっ、土屋くん!?」

 

姫路さんが慌てて、配ろうとしていた割り箸を取落す。

玲奈ちゃんも、持っていた紙コップが1つ、その膝の上に転がり落ちていた。

 

「………(むくり)」

 

ムッツリーニが起き上がった。

 

「………(グッ)」

 

そして、姫路さんに向けて親指を立てる。

多分、『すごく美味しいぞ』と伝えたいんだろう。

 

「あ、お口に合いましたか?良かったですっ」

 

ムッツリーニの言いたいことが伝わったのか、姫路さんが喜ぶ。

でもムッツリーニ、それならなぜ足が未だにガクガクと震えているんだい?僕にはKO寸前のボクサーにしか見えないよ。

 

「良かったらどんどん食べてくださいね」

 

姫路さんが笑顔で勧めてくる。そんなに嬉しそうに勧めてくれると断れない。むしろ、どんなにまずかろうとも残さず食べてやる、という気にさえなってくる。

 

___でも、僕には目を虚ろにして身体を震わすムッツリーニの姿が忘れられない。

 

(………秀吉、玲奈ちゃん。あれ、どう思う?)

 

姫路さんに聞こえないくらいの小さな声で、両隣にいる秀吉と玲奈ちゃんに話しかける。

 

(……どう考えても演技には見えん)

(だよね。ヤバイよね)

(ま、待ってください二人とも、あれは絶対に異物混入か毒を盛られたに違いありません!でなくちゃこんな悲惨なことにはならないはずです!)

(なかなか言うのうお主…さすが姉上の親友じゃ)

(と、とにかく!いくらなんでもあんな倒れ方するなんて…だってお料理ですよ?)

(だけど目の前で起こったことは現実だよ。落ち着いて玲奈ちゃん、深呼吸するんだ。そしてもう一度ムッツリーニを見てみよう)

(は、はい。___…すー、はー…すー、はー…)

 

なんとか深く深呼吸をした玲奈ちゃんが、そうっと側に倒れているムッツリーニを見遣る。

 

「やっぱりおかしいよーーーー!!!」

「玲奈ちゃん!落ち着いて!!」

「ご、ごめんなさい…つい…」

「ど、どうかしたんですか?玲奈ちゃん…」

「ううんなんでもない、なんでもないから!」

「そ、そうですか?」

 

その必死の剣幕に思わず頷いた姫路さんは、僕達の為に紙コップにお茶を注いでくれている。

 

(……明久。お主、身体は頑丈か?)

(正直胃袋に自信はないよ。食事の回数が少なすぎて退化してるから)

 

表情は当然笑顔のままだ。姫路さんにこの会話と僕らの驚愕を気取らせるわけにはいかない。若干玲奈ちゃんが荒ぶってしまったが、女の子だし僕らとは違って修羅場(?)の経験も少ないだろう。当然といえば当然だった。

 

(ならば、ここはワシに任せてもらおう)

 

勇気ある秀吉の台詞が囁かれる。

 

(そんな、危ないよ!)

(大丈夫じゃ。ワシは存外頑丈な胃袋をしていてな。ジャガイモの芽程度なら食ってもびくともせんのじゃ)

(見かけによらずタフな内蔵をしていらっしゃる…)

 

玲奈ちゃんの言う通りだ。ジャガイモの芽って確か毒だったと思うけど。

 

(でも……)

(安心せい。ワシの胃袋を信じて__)

 

外見はさながら美少女でありながら、誰よりも男らしい台詞を言おうとしたところで、

 

「おう、待たせたな!へー、こりゃ旨そうじゃないか。どれどれ?」

 

雄二登☆場。

 

「あっ、雄二」

 

止める間もなく素手で卵焼きを口に放り込み、

 

パク バタン___ガシャガシャン、ガタガタガタガタ

 

ジュースの缶をぶちまけて倒れた。

 

「さ、坂本!?ちょっと、どうしたの!?」

 

遅れてやってきた島田さんが雄二に駆け寄る。

……間違いない。コイツは、本物だ……。

ムッツリーニ同様激しく震える雄二を眺めながら、僕はそう思った。

 

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