バカとテストと文学少女っ!   作:しほ

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第8話 - 作戦会議 -

「そういえば坂本、次の目標だけど」

「ん?試召戦争のか?」

「うん」

 

激しくも楽しい昼食を終え、復活した皆でのんびりお茶をすする。特に秀吉には大量にお茶を飲ませる。さっきも飲んでたけどまだ飲め。何があるかわからないから。

 

「相手はBクラスなの?」

「ああ。そうだ」

 

そういえば昨日雄二が言っていた。Dクラスの窓の外に設置されている、Bクラス用のエアコン室外機に用があるって。

まさかAクラスを攻めるのにBクラスの室外機は関係ないだろうから、次の目標はBクラスだろう。

 

「どうしてBクラスなの?目標はAクラスなんでしょう?」

 

僕らの目標はAクラスだ。通過点に過ぎないBクラスを相手にする理由がわからないのだろう。僕もわからないし。

 

「正直に言おう」

 

雄二が急に神妙な面持ちになる。

 

「どんな作戦でも、うちの戦力じゃAクラスには勝てやしない」

 

戦う前から降伏宣言。雄二らしくもない。

______とはいえ、無理もないだろう。文月学園はAからFの六クラスから成るけど、Aクラスは格が違う。別次元だと言ってもいい。五十人のAクラス生徒のうち、四十人はまだいい。Bクラスよりも少々点数が上の普通の生徒だ。

でも、残り十人がヤバイ。特に代表をやっている霧島翔子さん。彼女の力は想像を絶する。奇襲が成功して僕らが彼女一人を取り囲んだとしても、おそらく返り討ちに遭ってしまうだろう。

どんな作戦を練ろうとも、代表を討ち取れない限り勝利はない。止めを刺せない以上、僕らに勝ち目はないだろう。

 

「それじゃ、ウチらの最終目標はBクラスに変更ってこと?」

 

AクラスほどじゃないけどBクラスの設備だって立派過ぎるほどに立派だ。皆には何の不満もないだろう。

 

「いいや、そんなことはない。Aクラスをやる」

「雄二、さっきと言ってることが違うじゃないか」

 

島田さんの台詞を引き継ぐように間に入る。Aクラスに勝てるかどうかは僕にとって大きな問題だ。

 

「クラス単位では勝てないと思う。だから一騎打ちに持ち込むつもりだ」

「一騎打ちに?どうやって?」

「Bクラスを使う」

「なるほど…」

 

納得したように頷く玲奈ちゃん。使う?Bクラスを?なににどうやって?

 

「試召戦争で下位クラスが負けた場合の設備はどうなるか知っているな?」

「え?も、もちろん!」

 

知らない。

 

(明久くん、下位クラスは負けたら設備のランクを一つ落とされるんだよ)

 

玲奈ちゃんの助け舟。なるほど、そうだったのか。

 

「設備のランクを落とされるんだよ」

「……まあいい。つまり、BクラスならCクラスの設備に落とされるわけだ」

「そうだね。常識だね」

「では、上位クラスが負けた場合は?」

「悔しい「相手クラスと設備を入れ替えられてしまいます」……だよ!」

「ムッツリーニ、ペンチ」

「ややっ。僕を爪切り要らずの体にする動きがっ」

 

間違ってはいないと思うんだけど。悔しいよね?

そしてありがとう玲奈ちゃん。でも玲奈ちゃんのフォローも虚しく爪剥がされそうになったよ。

 

「つまり、うちに負けたクラスは最低の設備と入れ替えられちゃうんだね」

「ああ、その通りだ玲奈。…そのシステムを利用して、交渉をする」

「交渉、ですか?」

 

姫路さんの疑問に、雄二はゆっくりと頷く。

 

「Bクラスをやったら、設備を入れ替えない代わりにAクラスへと攻め込むよう交渉する。設備を入れ替えたらFクラスだが、Aクラスに負けるだけならCクラス設備で済むからな。まずうまくいくだろう」

「ふんふん。それで?」

「それをネタにAクラスと交渉する。『Bクラスとの勝負直後に攻め込むぞ』、といった具合にな」

「なるほどねー」

 

学年でも二番手のクラスと戦った後に休む暇なくまた戦争。これはきついだろう。

Fクラスも連戦だけど、僕達には不満という原動力がある。そもそも頭は悪いけど体力の余っている野郎がほとんどのクラスだし。

でもAクラスはそうじゃない。勝っても何も得られないし、Fクラス相手に時間を食うのも嫌がるはず。モチベーションの差は歴然としている。

 

「じゃが、それでも問題はあるじゃろう。体力としては辛いし面倒じゃが、Aクラスとしては一騎打ちより試召戦争の方が確実であるのは確かじゃからな。それに_____ 」

「それに?」

「そもそも一騎打ちで勝てるのじゃろうか?こちらに姫路がいることはまだ知れていないじゃろうが、文系科目…特に現国や古文においてはあの霧島にも引けを取らない玲奈の存在はすでに知れ渡っていることじゃろう?」

 

FクラスがDクラスに勝ったとなると、当然その勝ち方に注目が集まる。前回は玲奈ちゃんの活躍で姫路さんの存在を隠すことは出来たが、玲奈ちゃんの存在はもはや周知の事実となっていることだろう。そうなると、相手も玲奈ちゃんに対してなんらかの対策を練ってくるはず。更に、Bクラス戦では姫路さんを隠すことは不可能。Aクラスと戦う時には姫路さんのことも相手に知れることになるのは明白だ。

 

「その辺に関しては考えがある。心配するな」

 

僕の不安とは対照的に自信ありげな雄二。

 

「とにかくBクラスをやるぞ。細かいことはその後に教えてやる」

「ふーん。ま、考えがあるならいいけど」

 

勝算がなければこんなことは言い出さないだろうし。

 

「で、明久」

「ん?」

「今日のテストが終わったら、Bクラスに行って宣戦布告をしてこい」

「断る。雄二が行けばいいじゃないか」

 

今更どの面下げてそんなことを。

 

「やれやれ。それならじゃんけんで決めないか」

「じゃんけん?」

 

うーん、ま、問答無用で行かされるよりはマシか。

 

「OK。乗った」

「あ…」

「よし。負けた方が行く、で良いな?」

 

何やら少し悲しそうな顔をしている玲奈ちゃん。え、なんで?

とりあえず雄二にこくりと頷いて返す。

 

「ただのじゃんけんでもつまらないし、心理戦ありでいこう」

 

そんな雄二の提案。心理戦って、あれか。何を出すかを言って、その裏をかくのかどうかっていうやつ。なるほど面白い。

 

「わかった。それなら僕はグーを出すよ」

 

じゃんけんの構えを取りながら雄二に告げる。

 

「そうか。それなら俺は_____ 」

 

さて、雄二はどう考えるだろう。僕がそのまま正直にグーを出すと思うのか。それとも裏をかいてくると思うのか。こうなるとじゃんけんも知的な競技になるね。

 

「お前がグーを出さなかったらぶち殺す」

 

ちょっ……!なにその心理戦!?

 

「行くぞ、じゃんけん」

「わぁぁっ!」

 

パー(雄二) グー(僕)

 

「ああ…」

「決まりだ。行って来い」

「絶対に嫌だ!」

 

玲奈ちゃんが可愛い顔を覆っているのが見える。ごめんね雄二がクソなばっかりに!

 

「Dクラスの時みたいに殴られるのを心配しているのか?」

「それもある!」

「それなら今度こそ大丈夫だ。保証する」

 

まっすぐな目で雄二が僕を見つめてくる。

騙されるもんか!そうやってまた酷い役割を押し付ける気なんだ!

 

「何故なら、Bクラスは美少年好きが多いらしい」

「そっか。それなら確かに大丈夫だね!」

 

これは僕にしかできない任務だ。責任重大だぞ。

 

「でも、お前不細工だしな………」

 

ため息混じりに雄二がつぶやく。なんだとこのっ!

 

「失礼な!365度どこからどうみても美少年じゃないか!」

「5度多いぞ」

「実質5度じゃな」

「二人なんて嫌いだっ」

 

一年365日と混ざっちゃっただけなのに、人のちょっとした間違いを馬鹿にして!ちくしょー!

 

「とにかく、頼んだぞー」

 

雄二の言葉を背中に受けて昼食はお開きになり、再びテスト漬けの午後が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言い訳を聞こうか」

 

僕はBクラスの暴行で千切れそうになった袖を抑えながら、雄二に詰め寄った。

放課後の教室には僕ら以外誰もいない。

 

「予想通りだ」

「くきぃー!殺す!殺し切る!」

「落ち着け」

「ぐふぁっ!」

 

み、鳩尾強打……。あんまりだ……。

 

「先に帰ってるぞ。明日も午前中はテストなんだから、あんまり寝てるんじゃないぞ」

 

爽やかに言い残して教室を出て行く雄二。外道め。

 

「うぅっ…」

 

何とか痛む腹を抑えながら匍匐前進で教室を出ようとすると、外から何やら声が聞こえた。

 

「………だろ?………なんだ………れよ」

「嫌………!何度………じゃな………か………!」

 

何だ?と思わずこっそり廊下を覗き込むと、そこには玲奈ちゃんと、外道で有名な根元の姿が。

 

(何だ…?あの二人、知り合いだったのかな?)

 

確かに、玲奈ちゃんと根元は去年同じクラスだったような気がする。しかし、なにやら玲奈ちゃんは嫌がっているようだ。

仕方なく、痛む腹を押さえて玲奈ちゃん達の方へと歩いていく。

 

「…何してるの?」

「…!明久くん、」

「おや、君は…」

 

根元くんはどうやら僕を知っているらしい。が、まあ当たり前と言えば当たり前だ。僕は馬鹿の代名詞、「観察処分者」と言う名を着せられた哀れな(美少年)生徒。

その名を知っていてもおかしくはない。

 

にしてもこんなダサい格好で玲奈ちゃんに会うとは、と溜息を吐きたくなる衝動を抑えつつ、その状況を分析する。

掴まれた玲奈ちゃんの細い手首、抱えられた腰、近すぎる距離、嫌がる玲奈ちゃんの目には涙。

 

「………強姦なら訴えるぞ?」

 

にこ、と笑顔でそう呟く。痛む身体も気にならない。

思わずもう反対の細い手首を引き寄せた。

 

「…っ!」

 

ぎゅ、と抱きしめた柔らかな玲奈ちゃんの体が震えているのがわかる。僕の怒りは更に沸々と湧き上がる。

 

「……まさか。強姦だなんて、そんな言い方はよしてくれよ。僕は、彼女と少し世間話をしていただけじゃないか」

「そんな風には見えなかったけど?それに、世間話なら玲奈ちゃんが泣く理由はないじゃないか」

「彼女が泣いていた?君の見間違いじゃないのか。

_____なあ、玲奈?」

 

名前を呼ばれて、玲奈ちゃんはびくりと体を縮こまらせた後、すぐに上目遣いに僕をみた。その顔はすでに笑顔だった。

 

「そうだよ明久くん、ほら!私元気だし!」

 

ありがとうね、と呟いて可愛らしい笑みを浮かべた玲奈ちゃん。

だけど僕は騙されたりしない。

 

_____僕の好きな玲奈ちゃんは、いつも花がほころぶような優しい笑顔で笑うんだ。こんな作り笑いじゃない。演技の上手な玲奈ちゃんでも、こんなに下手糞に笑うのは初めて見た。

 

「…恭二くん、それじゃまたね」

 

「ああ。

………玲奈が大事なら、せいぜい守れよ?騎士(ナイト)くん」

 

ニヤリと笑う根本くんに、嫌悪にも似た感情を覚える。

 

「……そうさせてもらうよ」

 

睨むことさえ馬鹿らしく、冷え切った目で相手を見れば、少し怯む。場馴れも喧嘩慣れもしてないのバレバレだよ。

 

「いこう、玲奈ちゃん」

 

「う、うん…」

 

ちらりとまた、根本くんを見て悲しそうな顔をする玲奈ちゃん。

一体こいつが何をして、玲奈ちゃんに何を言ったのかなんてわからないし、玲奈ちゃんは誤魔化すつもりみたいだけど。

 

僕は、この男を許さない。絶対に。

 

 

 

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