「……ねえ、サコ……あのね……」
「なんだ、ユコ?」
ユコはサコに近付き、周りに聞こえないように耳打ちした。
なにか策があるのか。俺はこれといったアイディアが浮かばいから、頼むぞ。
そう願いながら、ユウは二人を見守った。
「なるほど!わかったぞ!」
「サコならできると思うな♪」
「おう!!サコは、ユコのためならなんでもできるんだからな!!」
「だよね!ユコはこっちで見張ってるからサコ、よろしくね!」
「よーーーし!!」
話を終えたサコとユコ。ユコはニコニコとその場を離れ、サコはやる気に満ちた顔でストレッチを始めた。
見てても何をするのかわからない。ちょっと気になってユコに何をするのか聞いてみる。
「お前ら……なにする気だ?」
「大丈夫だよ。先生は見ててね」
返ってきたのは濁った回答。答えを焦らすもんだから、余計気になってしまう。
ユウは大人しく見守ることにした。
「よし!いくぞ!」
「サコ!頑張ってー!」
サコは大声を出しながら、走り出した……四天王がいる、道なき場所に向かって。
「え!?」
「サコ!跳んで!」
「うおおおおお!!」
欠落した通路の端でサコは大ジャンプ。放物線を描き、見事目的地に着地。
が、しかし、四天王もサコが着地すると同時に向こう側に跳んでいってしまった。因みに、四天王は(いきなり跳んできてビビったーー!)と、内心焦っていた。
「ダメかぁ……」
どうやらユコが思い付いたのは、サコが跳んでいって捕まえるという策だったようで、失敗したとわかると、ユコはあからさまにしょんぼりとしてしまった。
それを見たサコがすかさずフォローを入れる。
「ゆ、ユコはわるくないぞ!つぎはサコがちゃんとおっかけるからな!」
あんな無茶ぶりをやってのけたんだから、十分だと思うんだが、サコはユコがOKと言わないと満足いかないようだ。
それにしても、下に広がっているマグマを飛び越えろと言うユコ。それを躊躇なく飛び越えるサコ。ちょっと一般的な思考の違いが心配になるな。
「スゲーじゃんか、サコ!」
「それじゃ、今度はあっちに追い詰めましょう!」
「サコはそこにいてね。みんなが回り込んだら、声をかけるから」
「おう、わかったぞ!」
他のみんなはユウのような心配ごとは毛頭ないようで、おいかけっこの突破口を見つけてくれた二人を褒める。そして、この勢い乗ろうと四天王を追い詰めるように回り込むことにした。
サコユコのことは、俺が気にかけておくからいいか。
ユウは、心配事をそんな程度に考え、みんなの最後尾を追うように走り出した。
挟み撃ちができる形で回り込むように移動した俺達一行の前方に奴はいた。
「いたの……!」
最初に四天王を発見したアリス。彼女がみんなに奴の姿が確認できたことを知らせると、それにいち早く反応したユコはサコに合図を送る。
「サコ!そっちから来て!」
「おう!いくぞーーー!!」
道なき場所からジャンプ。マグマを飛び越え、着地するとそのまま四天王に向かって飛び掛かる。
寸のところで手を掠め、かわされてしまった。
四天王はこの時もビビっている。
「くそ!また、ダメか……!」
「とにかく、追いかけるしかないの……」
「そうね。攻略法もわかったし、あとは時間の問題よ」
士気が落ちることなく、再び奴を追いかけ始めた。
奴が逃げた先は、分岐点がない一本道で、迷うことなく走り抜けることができた。そのお陰か、意外に早くも行き止まりへと奴を追い詰めることに成功した。
「今度こそ!」
みんなは広がって壁を作りながらにじりよっていく。
(チクショウ……ッ!!こうなったら!)と、意を決した四天王はユウ達に背を向けて走り出す。その先には、今まで跳んだものより遥かに大きな欠落した道がありその向こうのかなり離れた場所に道なき場所がある。
───まさか、これを跳ぶのか!
さっきのとは比べ物にならない距離で、これを跳べるなんて夢でも想像できなかった。
しかし、奴はやってのけた。
さっきよりも滞空時間の長い跳躍。遥か先の足場に見事着地した。(おっしゃーーー!やれたーーー!)と、四天王は内心大喜び。
目の前で起きたことに驚きを隠せない一同。
「お、おい!あの距離を跳ぶのかよ!」
「サコさんも、流石にこの距離は……」
「落ちたら怪我どころじゃないものね。そうなると、なにか他の策を考えないと……」
せっかくの突破法も無理だと判断し、おいかけっこは振り出しへと戻ってしまった。
誰もがそう思って悩んでいると、ユコが平然とした態度でサコにこう言った。
「……あれくらい、サコなら跳べるよね?」
『え?』
「えっ……!?」
一体なに考えて発言してるんでしょこの子は!?
あまりにぶっ飛んだ発言にユウ達だけではなく、サコまで鳩が豆鉄砲くらったような顔をしている。
しばらく固まっていたサコだが、すぐにキッと表情を戻して、笑ってみせた。
「お、おう!!もちろん、ちょろいぞ!!」
サコがユコの前ではかっこつけたがり、言うことをなんでも聞いては、やってのけてしまうほど、ユコのことを溺愛しているのは知っているが、今回ばかりはそれが可哀想に思えてくる。
サコ自身も流石に無理かもとは予感しているようで、少し表情が固い。しかし、見栄を張った以上、彼女は今さら無理とは言わないし、言えない。
助け船を出してやるか。と、ユウは二人に近付く。
近付いてきたユウに気が付いた二人は、何事かと視線をユウに向ける。
ユウは身を屈めて、両手でサコの足首をさする。
「なあ、サコ。さっきのジャンプで足でも痛めたか?様子が変だぞ?」
「そうなの、サコ?」
「え?……ぁ……」
突然の身に覚えのない言葉に、サコは目を丸くかするサコ。助けてやるよ。と、足をさすりながらアイコンタクトを送る。サコは真意に気付き納得したような顔をする。
そのまま話しに乗ってこい。と、目で言うが、サコは首を横に降り、大丈夫だと言わんばかりの良い笑顔を俺に向けた。そこに表情の固さは残っていない。
「だいじょう。こんぐらいへっちゃらだ!」
「……そうか」
覚悟の決めたサコの姿にユウはそれ以上何も言わなかった。
「先生、もういい?」
「ああ、ユコ。悪かった続けてくれ」
「うん!えっとね、サコ……」
周りの人に聞かれないように、耳打ちするユコ。
「さっすがユコ!てんさいだなーーー!!そんじゃサコ、いってくる!」
「うん♪ユコ達は待ってるから!」
「おう!」
サコは一人で走って行ってしまった。
「ちょっと……サコ、大丈夫なの?」
「わかんないけど、信じて待ってやろうぜ。……あ、そう言えばみんな、ちょっと聞いてほしいことがある……」
・
・・
・・・
暫く時間が経過した。
まだ、四天王は道なき場所で(早くどっか行ってくんねーかな?そしたら、逃げるなり不意打ちするなりできるのに)と、考えながら暇をもて余していた。
ユウ達はただ、奴を観察し続けて、サコを待った。
「おっ!サコが来たぞ!」
ランの指差す方向。四天王の向こう側の欠落した通路のはしっこにサコがいた。その顔から緊張の色がうかがえる。
「サコ!跳んで!」
「ユコのためなら……おりゃあああああああ!!」
助走をつけて大ジャンプ。
……ダンッと地に足をつける音を響かせた。サコはマグマを飛び越え、見事着地してみせた。
「あの距離を跳んだ!?」
「……人間のできることじゃないの……!!」
これにはみんなも驚きを隠せない。
四天王は注意していた方向とは反対側からの襲撃に驚き、反射的に逃げるように跳び上がった。
そして、跳んだ先は……
「待ってたよ、クリミナルさん♪」
俺達がいる目の前だ。
「へっへっへ~!ユコのさくせんどーりだな!」
跳ぶのになれたのか、余裕の表情で跳んできたサコ。四天王クリミナルの後ろを取った。そした、グローブをはめた拳を構えて戦闘体勢をとる。
「いっくぞーー!」
「とりあえず、メンバーはサコ、ユコ、アリス、トモエでいこう」
名前を呼ばれたメンバーは四天王を囲み。それ以外は俺と一緒にさがる。
逃げ場を失った四天王はキョロキョロと慌てたように周りを見回す。逃走不可と悟り、体を震わす。
「なんだ?ビビってるのか?」
「……誰がビビってるってんだ、ああ?」
静かにドスの効いた声を響かす四天王。
奴の背中でスーツの内側から突き上げるように、山を二つ作られると、服を突き破り、燃え盛る翼が突き出た。腕は手が異様に盛り上がり、強靭なものになっていく。体も翼と腕の大きさにあった大きさに変化した。
「こっちが、善意で戦わねぇようにしてやってんのに調子に乗りやがって。もうやめだ!女子供だろうがぶっ殺してやるよ!」
強靭な肉体を持つ炎の悪魔の姿をしたクリミナル。レイジーファミリー四天王の一人、『Mr.ビースト』が吼えた。
戦闘開始だ。
「せんてひっしょう!」
素早い動きでサコはビーストに近付き、【ほのおパンチ】を放つ。
ビーストは手の甲で攻撃をガード。もう片方の手で、サコを掴み、アリスに向かって投げ飛ばす。
「ふにゃあ!」
「っぃ……!」
サコとアリスは激突。二人は床に転がった。
「サコさん!アリスさん!」
トモエが二人の名を叫び、安否を確認しようとする。同時に自分のいる場所が影で覆われる。一気に近づかれたのだ。
───いつの間に!
体が反応した時にはビーストの拳がトモエに迫っていた。
トモエは鞘ごと刀を構えて拳を防ごうとするが、ビーストのパワーに負け、吹き飛ばされてしまう。
「おい、あいつ。今までの奴より戦いの動きが熟練的だぞ」
「今までのクリミナルより、戦いなれているってことか。ちょっとマズイかな……?」
俺は『全体回服薬』をトモエ達に振り撒き、ダメージ少しでも回復させる。
「おいおい、デーモンもインビジも殺られたっていうからどんなもんかと思ったが、弱ぇ弱ぇ!」
少し戦った程度で、調子に乗った発言をするビースト。思いっきり油断している。
「うっ!?な、なんだ?」
そんなビーストを襲う違和感。突然体に起きたその異変に驚いた。
「力が入らねぇ……!」
「後ろだよ」
ビーストが振り返ると、ユコが箒を向けて立っていた。
ユコは【アタックダウン】でビーストの攻撃力を下げたのだ。
「もう一回!」
ユコは【ガードダウン】をビーストに浴びせた。
ビーストの体を違和感が走る。
「クソッ!なんなんだこりゃ!?」
「よそ見はアカンよ?」
防御力が下がるという違和感に襲われているビーストの隙をつき、トモエが死角からビーストに迫り、【居合い】を放つ。
「ぐぉおおおおおお!」
刀は脇腹を切り裂き、ビーストは苦悶の声をあげる。
「クソガァアアア!」
ビーストは【ファイアーブレス】を放つ。
繰り出された炎から逃れることができず、攻撃を浴びてしまうトモエ。
「くっ。心配せんでええよ!」
しかし、倒れるほどのダメージは無い。
「クソ!いまいち、火力が出ねぇ。あのピンクのガキのせいか。なら……」
ビーストはユコに狙いを定めると、自らの体を炎で包み、火球となってタックルする、【バーングライド】を放つ。
突然、ビーストの攻撃対象がトモエからユコに移ったことで、ユコは反応が遅れて動けなかった。
「ユコーーーーー!!」
「サコぉ!」
サコがユコの前に走り込み、ビーストの正面を立ちはだかたり、拳に炎を纏わせた。
サコはビーストとぶつかり合う気だ。
「あのバカ!」
それを察したユウは持ち物の中から、ピンポン玉サイズの緑色の玉を取りだし、サコに向かって放り投げた。
「死ねぇええええ!!」
「うおおおおおお!!」
二つの炎がぶつかった。
「ぐぐぐっ!」
結果はサコの劣勢。飛び出した時の勢いはなく、すでにじりじりと押されている。
「どけぇ!」
ビーストは頭をつかい、サコをかちあげて吹き飛ばす。
吹き飛ばされたサコは勢いよく地面に叩きつけられる。その衝撃で、地面が砕けた。
障害がなくなり、後はユコに向かうだけだったビーストだが、奴の正面ではユコの武器が神々しく光っていて、その武器はビーストに向けられていた。
「ら、ライトボール!!」
ユコの【ライトボール】が放たれ、ビーストの顔面に吸い込まれるように命中した。
大きな爆発音がこの技の威力を物語る。しかし、
「痛てぇじゃねーかチクショウが!!」
ユコの【ライトボール】はビーストの炎吹き飛ばす程度で終わり、ビーストの動きを止めることは出来なかった。
ビーストは強靭な腕を薙ぎ、ユコを吹き飛ばす。
「────ッ!!」
声にならない悲鳴をあげて宙を舞い、力なく落ちていく。
「あれはマズイって!」
ユウは走ってユコの落下地点へと走り、衝撃が少なくなるようにキャッチする。
すぐさま、回服薬を取り出してユコを治療するが、気を失っていて目を覚ます気配はない。
「まずは一人。ハハッ、調子を狂わせられなかったら、負けやしねぇよ!」
「……おい、そこのデカイの」
「ああ?なんだなんだ?女の子抱えてキザってぇ野郎だな」
「うちの子は誰一人として、お前なんかに負けねぇよ。もちろん、ユコだってな」
「ハァッ!寝言は寝ていいな!そのお嬢ちゃんさえいなけりゃこっちのもんだ」
ビーストはあくまで高圧的だ。
そんなビーストを静かな目で見詰めるユウ。
「……お前、ユコの攻撃で体の炎が消えてんぞ」
「あ?だからなんなんだよ!ごちゃごちゃ言うなら、次はテメーを血祭りにしてやんぞ!」
「いや、ね。寒くないかなって思ってな。……腕、凍ってんぞ?」
「あ?」
ユウにそう告げられても意味がわからなかったビースト。しかしその時、ビーストの耳にパキパキと言う音が聞こえた。
その音は、自分からとても近くで聞こえ、同時に四肢の異様な
ビーストは嫌な予感を覚え、自分の体を見下ろす。
「なんだぁ、こりゃ!?手足に氷が張ってやがる!」
「ユコが炎消してくれたからなの……」
いつの間にかビーストのそばにいたアリス。開いた本が青く光ながら、彼女を中心に冷気が迸らせて、ビーストがいる場所を冷している。
「この技を使うには……あなたの炎が邪魔だった……冷気を出しても氷が張らないから……だから、ユコが一瞬だけ炎をふっとばす役を引き受けてくれたの……」
「おいおい、じゃあなんだ。今までのは全部計算通りってわけか?」
「それは違うんよ?」
アリスとは別の声。反対側からトモエが歩いてきた。その手には美しく氷結した刀が握られている。
「この作戦はサコさんには伝えてなかったんよ。そん時にいなかったもんやから。だから、サコさんの行動によっては失敗するかもしれへんかったけど、まさか正面からぶつかっていくとは思わんかったわぁ。お陰で、ユコさんは攻撃を限界まで溜めるの時間を確保できて、うちとアリスさんは、これの準備を気付かれずにできたってわけやね」
「マジか……この作戦はあの野郎が考えたのか?」
「せやで。……センセの作戦は少し雑なとこがあるのが面白いんよ♪今までもそうでな、割りとうちらに任せっきりになんよ」
「……ゴメンね。大体をまかせっきりでゴメンね」
「そうかそうか。……あ~あ、後は……」
まだ何かを喋ろうとするビースト。その姿は話を聞きたいと思っているようにはみえず、別の意図があるようだ。
「……もしかして、あんさん時間稼ぎしとるん?」
「っ!?」
体をビクッとさせるビースト。図星である。
「もう炎は纏えないの……燃えてた部分は完全に凍らせて……酸素が取り込めないようにしてあるから……」
「だ、だったら……!」
ビーストは氷のせいで動きにくそうにしながらも、アリスに飛び掛かる。
「テメーを倒して氷をとかっカアッ!!?」
「おいたは……あかんよ?」
ビーストの行動が終わる前に、後ろから躊躇なく切り捨てるトモエ。
アリスとトモエの協力技【氷結刀カッチン】。魔法で冷気を放ち、氷の刀で切り裂く。辺りを死の白銀に染め、切り砕く。
ビーストは体の大部分を凍らせて地に伏せる。もう虫の息だ。
「さあ、サコさん。止めよ」
「……おう!」
吹き飛ばされていたサコはピンピンしながらビーストのそばに立ち、【ハイチャージ】して、【ラッキーパンチ】を構える。
自分の最強技をまともに食らったはずなのに、立っていられるサコを見て、ビーストは強い驚きを覚え、愕然とした。
「なんでテメー……平気な顔してんだ……!?あれは、ドンピシャに決まったのに……」
ビーストの質問をユウが答える。
「ああ、それ。『DEFブースト』使ってたからね」
そう言って、緑色の玉を見せる。
「なんだ……そりゃ……?」
「聞くだけ無駄さ。……じゃあな」
次の瞬間、サコの拳が氷を砕く音を辺りに響かせた。
(こんなやつら、勝てねーよ……)
辺りに白い結晶が飛び散り、美しく彩る。命の終わりのように。
◇◇◇◇◇
もう、わたし、一人か……
仇は取る!
DAMUDOです。
ビーストくんは戦闘が始まるとヒャッハーってなります。
戦闘が終わると一人でこっそり、戦いかたの反省会をしてます。
そんな独自妄想。
1日遅れてゴメンね。