その後のそれぞれです。
〜更識楯無の場合〜
状況を説明しよう。
謎のISが侵入して来て織斑君がトドメを刺してから、一時間が経った。
私、更識楯無は寮の自室にて湿布を持ったまま息を荒げていた。目の前には上半身裸の真理君。いや、なんか、もうさ、わかるでしょ!?毎日槍を、というか物干竿を振るっている真理君の体が不摂生な筈が無く、鍛え上げられ、所謂細マッチョな体型、且つ私が持っている湿布を貼る患部は肩や背中である為、私に背中を向けて座っている。この状態で興奮しない女子がいるなら、その子は理性の塊だね。
うん。もう確定だね。私は、真理君が好きだ。異性として、付き合いたいと思う程に。
だが、それは真理君にとってはとても迷惑な話だろう。一般人として生きて行きたいという彼にとって、暗部の長をやっている私は最も付き合いたくない人種だろう。そもそも彼が誰かと付き合いたいと思うかどうかは甚だ疑問だが。
付き合いたい。でも、その気持ちは真理君にとって迷惑になる。自分の気持ちを優先するか、彼の気持ちを優先するか。
本当に彼を思うなら、私のこの気持ちは隠し通すべきだ。でも、彼と一緒にいたい、彼に私の『名前』を呼んで欲しい。二つの気持ちを思う強さは同等だ。
自然とため息が出る。
日本を支える更識家の長の弱点の一つが恋愛ごとだなんて、誰が思うだろうか。普段人を振り回す側である自分が振り回されるとは、恋の力というのは偉大だ。
さまざまな感情が頭を駆け巡る中、私の思い人の声が静かな部屋に響く。
「あの、そろそろ貼ってもらえませんか?」
「え…あ、そ、そうね!」
とりあえず、今はこの状況を楽しんでおこう。付き合うとかどうとかはもう少し真理君を知ってからでも遅くないしね。
「この辺でいい?」
「はい。それにしても、先輩が治療してくれるなんてどういう風の吹き回しですか?」
「言い方に棘があるわね…。頑張った真理君へのご褒美よ」
どっちかって言うと私へのご褒美だけどね。パソコンのデータ容量増やして簪ちゃんと同様に真理君の盗撮ファイル作ろうかしら。
「ご褒美に辿り着くまでがキツすぎじゃないっすかね…」
「いいじゃない。ただの打撲程度でこ〜んな美人なお姉さんに手当してもらえるんだから」
「そもそも怪我したくないんですけどね」
「そりゃそうね。それより、意外だったわ」
「何がです?」
「篠ノ之ちゃんを守った事よ。真理君は自分の身を犠牲にしてまで他人を助けるような人じゃないと思ってたからね」
それが悪い事だとは思わない。人間、窮地に立たされれば他人を犠牲にする事も厭わなくなる。ただ普段、八方美人を演じているから、集団で危機に陥ったときに周りからの評価を気にせず行動したとき、その評価ががた落ちする。だったら最初から評価も気にせず行動する。真理君はそういうタイプだと思ってたんだけど。
「あ〜、そうっすね。俺もそう思ってたんですけどね」
「ん、心境の変化かしら?」
「いや、そんなんじゃないですよ。ただ周りの熱がすごいってだけで」
「熱?」
熱とはなんだ?
「ええ、まあ。それより、終わりました?服着たいんですけど」
「え?あ、ああ、おわっ…いや、まだ終わってないわ」
「は?だって背中も肩も貼り終わって「ないわ」る……」
彼の上裸なんて機会は滅多に無い。シャワーから上がってくる時も既に浴衣に身を包んだ状態で出て来るし。
後ろ姿は高性能無音カメラで撮ったから、慌てる姿とか見てみたいなぁ。
「そんで、何すればいいんすか?」
「え?」
「だって湿布貼り終わったんでしょう?この状態で俺に何かして欲しいんじゃないですか?」
な、な、なんてチャンスなの!?これはもう何してもいいんじゃないの!?
どうしよう、何してもらおう?いや、逆に私がなにかするのもあり?
「そ、そそうね…」
「なにキョドってんすか」
「うるさいわね!こっちだって今何するか考えてるのよ!……あ」
気づいた時には真理君の上半身に肌色成分は無く、無慈悲な白い制服姿になっていた。
「あ、ああ、あぁぁぁ………」
「そんな世界の滅亡を目の前にして何も出来なかった時みたいな声出さないでくださいよ」
「えらく具体的に表現するわね…?」
「そういや生徒会の仕事はないんですか?あんだけの事がありゃ、生徒会も大忙しなんじゃ?」
「無視?無視なの?お姉さん泣いちゃうよ?」
「泣けば良いじゃないですか。で、生徒会の方はどうなんです?」
せ、性格が悪すぎる…!
「はぁぁあ……。今回の事件は外部からの侵入だったからね。セキュリティなんかの問題もあるから、いくら権力のある生徒会でも仕事は回ってこないのよ。ま、その代わり先生達は書類やらあのISの解析やらで大忙しでしょうけど」
「へぇ〜。じゃあ何もやる事無いんすか?」
「ん〜、事件の時にどう動いたかの報告書作るくらいかな。うん。他の仕事も終わってるし来週になるまで仕事は無いかも」
はっ!明後日から休日だし、アリーナの調整で月曜が臨時休業になるかも。それは無いか。いや、それより休日のどっちかに真理君と遊びに行こうかしら。レゾナンスなら一日遊べるでしょうし。多分ティナちゃんも同じ事考えてるだろうか約束は早めに取り付けた方がいいわよね。
そんな脳内計画を実行する為の約束を取り付けようと私が口を開く前に、真理君の言葉が耳に入る。
「じゃあ土日で外に泊まって来ていいですか?」
「はっ?……はぁぁぁあああ!?」
そ、それって友達の家、よね?だって真理君彼女いなさそうだし…。うん、きっとそうよね…?
「泊まるって、どこに?」
内心ビクビクしながら、それでも表情は更識として、真理君の護衛としての仮面を被って聞いてみる。いや、これで彼女の家とか言われたらどんな手を使ってでも止めるかもしれない。
でもそんな思考は杞憂だったようで。
「桜新町の槍桜道場です。学園生活も落ち着いてきましたし、挨拶に行こうと思って」
桜新町。
真理君の住んでいた町の隣にあり、真理君が幼い頃から通っている町。
挨拶とは道場の師範に、だろう。あの真理君があれだけ尊敬しているのだ。なにかあれば直ぐに報告するような関係なのだろう。
まぁ行っても大丈夫ではある。入学して一ヶ月も経てば、初期に存在していた男性操縦者反対派の連中も、国に取りこもうとしている連中も少なくなっているし。
だが、真理君は泊まる、と言ってなかったか?休日である土日に、IS学園にいないと、そう言っているのか?
「え、えっと、護衛は必要かしら?」
何としてでも一緒に居たい私としては面白くない。なので言外について行くという旨を伝えてみるが、効果は無いようで。
「ここから一時間ちょっとですし大丈夫です。泊まりですから護衛の人にも迷惑掛けちゃいますしね」
「うーん…そんな事無いと思うけどなぁ…?」
「あ、外泊って書類とか必要ですか?」
「え?ああ、うん」
「わかりました。山田先生から貰ってきます」
織斑先生じゃないのは面倒くさいからだろう。いや、そんなことより。
職員室に行くであろう真理君の背中を見ながら、無慈悲にもバタンと音を立てて閉められた扉を見てから、天井を仰ぐ。
「ああぁぁぁぁあ!真理君とデートしたいぃぃぃいい!!」
私の願いが届くのは、いつになるのだろうか。
〜織斑一夏の場合〜
俺は今真理を探している。理由は言うまでもなく、箒を助けてくれたお礼を言いたいからだ。本来なら助けられた箒が行くべきなんだろうけど、あの距離からじゃあ箒は何が起こったのか見えず、観客席も反対側だったから、誰が何をしたか分からなかったっぽい。だから俺が真理にお礼を言いたいんだけど、全く見当たらない。部屋に行けば会えるんだろうけど真理の部屋番号知らないんだよな。くそぉ、聞いておけば良かった。巧も知らないみたいだったし。
「……あ」
見つけた。
「おーい、真理!」
「あ?」
歩き去って行く背中に声を掛けたら、顔だけ振り向いてくれた。近づいてみると、紙を一枚持っている。なんだ?
「その紙なんだ?」
「外泊届け。土日で知り合いの家に行って来るから」
「へぇ〜。じゃあ弾の家には巧と2人で行くかぁ」
「用はそんだけか?今日は疲れたからすぐ寝たいんだが」
確かに普段から疲れた顔してるけど、今日はその比じゃないくらい疲れた顔をしてる。あとで千冬姉から聞いた話だと、客席にいた人たちの避難指示とかもしていたらしい。多分俺じゃあ、何も出来なかっただろうな。
「いや、今日はありがとう。観客の避難とか、箒も助けてもらったし」
「出来る事をしただけだ。適材適所っていうだろ。それに、扉を壊せる澵井がいなかったら何も出来なかったしな」
「それでもだよ。最終的には真理の指示のおかげで怪我する人がいなかったわけだし。だから、ありがとう」
でも、俺は思う。
あの場に巧がいなくても、真理ならどうにか出来たんじゃないかって。根拠も無いけど、そんな気がする。
真理は頭がいい。勉強ができるとかじゃなくて、知恵が働くタイプの頭の良さだ。だから、俺が何も出来ないと思う状況でも、真理なら何か出来るんじゃないかって、そう思うんだ。
「わかった。礼は受け取っとく」
「おう、そうしてくれ」
「…代わりに、篠ノ之に言っといてくれ」
「?別にいいけど、箒は懲罰室だぞ?」
「別にいいさ」
箒は放送室をジャックしたことで懲罰室に入れられているのだ。まぁ、仕方がないとは思う。
真理は一拍置いて、俺とは目を合わさずに言った。
「緊急時に冷静でいられない奴は真っ先に死んでくのがテンプレだぜ、ってな」
「はは、なんだそれ」
この時は軽く流していた。
真理の言葉にどれだけ重大な意味があるかも考えずに。
〜ティナ・ハミルトンの場合〜
私は今、寮の屋上に来ていた。ルームメイトの鈴は疲れが出て爆睡中だ。
「はぁ」
ここに来て何度目かのため息が出る。
謎のISがアリーナの天井を突き破って来て観客席がパニックになった時、真理は誰よりも冷静に動いていた。学園中の生徒から、それも特に真理を嫌っている人間が多い一年生の観客席で、彼を嫌っている相手に指示を出し避難させていた。
彼は自分の能力を理解できている。自分に何が出来て、何が出来ないのか。そして自分一人で出来ない事があれば他人をも利用して状況を解決させる事が出来る。
それに比べて私はあの場で何をしていた?近くに冷静な真理と巧がいたからか、周りの人程パニックになる事は無かったものの、騒ぎを鎮める事も出来ず、それどころか騒ぎを鎮め、避難させようとするあの2人のお荷物になっていた。
非常口が開かれた後も真理の指示に従って避難し、途中転んだ生徒に手を貸したけれど、それだけだ。
あの場で無力な者が何かをしようとすれば、力を持つ者の邪魔になる事は分かっている。
それでも、私は真理の助けになりたかった。
水平線に沈み行く夕日を眺めていると、背後の扉が開かれる音がした。
誰が来たのか、知り合いだったら挨拶しないと、と思いながら振り返ると、そこには真理がいた。
「………え、あ、ど、どどどうしたの真理!?」
「いや、お前がどうした…」
今の今まで考えていた人間がいきなり背後に現れたら誰だって驚くと思う。それにしたって私もキョドり過ぎだとは思うが。
「部屋で更識先輩が騒いでんだよ。廊下まで聞こえて来たから、部屋に入らないで暇つぶししに来たんだ。ロビーも食堂も俺がいると空気悪くなるからな」
「あー…」
「お前も否定しなくなって来たな。まぁいいけど。で、お前は?」
「へ、何が?」
「お前は何しにここに来たんだ?」
って言われても、部屋は鈴がいびきかきながら寝てるから今一シリアスになれなくて、一人に慣れそうな所を考えてみたら、校舎裏の広場か屋上しかなくて、広場は真理がいる可能性があるからここに来ただけなんだけどな。
「ちょっと悩みがね…」
「へぇ…!」
私が聞こえるか分からない程の声音で言うと、真理は意外そうに声を出した。
「なによ?」
ちょっとだけムスッととして聞くと、真理はくくと微かに笑いながら言った。
「いや、お前でも悩む事があるんだな、って思ってな」
「失礼な。私だって悩む事くらいあるよ」
「ふーん、あっそ」
真理は私の顔を数秒凝視したかと思うと、つまらなさそうに表情を無くしながら私の隣まで来て、屋上を囲っているフェンスに背を預けた。
風が吹く。
彼の目を隠す程の長い前髪が風に靡いて、その下のだるそうにした半開きの目が露になる。
珍しい。素直にそう思った。彼と出会って一ヶ月くらい経ち、彼の性格なんかは理解しつつある。だから、彼が私に限らず、誰かの悩みを聞くなんて本当に珍しいと思う。
彼にとって私や巧も、周りで彼の陰口を言っている人たちも同等の存在なのだ。…と思う。そうであって欲しくないが、多分あっている。だから彼が他人の悩みに耳を傾けた事が珍しいし、その上でその場に留まることはあり得ないと思った。
「珍しいね、真理がこんな事するの」
「ん、ああ、そうだな。自分でも思うよ」
詳しく説明しなくても理解して言葉を返してくれる事が嬉しい。それが初めての友達なら尚更だ。
「まぁ、人に言った事を自分が出来ないのは多々あるけど、今回は出来たことだからな」
「?」
真理が言っていることを理解できない。何を言ってるんだろう?
「適材適所だ」
「?何言ってるか分かんないよ、真理」
「山田先生から聞いたよ。避難中に転んだ奴に肩を貸したんだってな」
「……それは当たり前だよ。私じゃなくても出来たことだし」
真理が何を言いたいか分かって来た。どうやって見抜いたのか、私が今回の事件で何も出来なかったことを悩んでいるから、励ましに来たのだろう。
人を貶すことは得意な癖に、励ますことはヘタクソだなぁ。
「そうだな。誰にでも出来ることかもしれない」
「うん…」
でも、と真理は続けた。
「助けたのはお前だ。そもそも、逃げる事に必死になってる奴らは周りの事なんか見ない。今回お前が助けた奴は、お前がいなきゃ助からなかったかもしれない。お前がいたから、お前だからこそ助かった奴がいるんだ」
彼は、真理は本当に励ますのがヘタクソだ。
そして、そんなヘタクソな励ましで元気になっちゃう私は単純だ。
「そっか…わたし『だから』か…」
「おう。つーか俺だったら完全に無視してるね。他人の命より自分の命」
「あはは。クズいなぁ、真理は」
「自覚してる。そんじゃそろそろ更識先輩も落ち着いただろうし帰るわ」
フェンスから背を離し、扉へと歩いてく。その背中に私は言い放つ。
「ありがと、真理!また明日ね!」
真理は振り返らずに右手をひらひらさせて屋上から去った。器用な癖に変な所で不器用な人だ。だからこそ、私は彼を…彼を?私は真理を、どう、思っているのだろう。
いや、それよりもやらなくちゃいけない事がある。
真理はああ言ってくれたけど、やっぱり出来る事は増やしておいた方がいい。いつか真理の隣に立ちたいなら、今よりももっと、もっと強くならなくちゃ。
私は携帯を取り出し、電話帳からある人物の名前を探す。
私にこの学園を進めてくれた、私の姉のような人。
「もしもし?」
『あら、久しぶりね。ティナ』
「うん、久しぶり。ちょっと頼みたい事があるんだけど、いい?」
『ふふ、私がティナの頼みを断った事あったかしら?』
「……けっこうあるよ」
『そうだったかしら?それで?』
久しぶりとは言ってもたった二ヶ月程度だ。
私は、今しがた芽生えた目標の為に、しなければならない事を口にする。多分、びっくりするだろうな。
想像したら少しだけ笑える。
「私を鍛えて欲しい。勿論、IS乗りとして」
『…ティナ。貴女整備科志望じゃなかった?』
「うん。でも、やりたい事が出来たの」
『厳しいわよ』
「臨む所よ」
電話越しなのに、相手の顔が見えるようだ。もう十年以上の付き合いだからかな、相手の声を聞いただけでどれだけ真剣なのかが分かる。それは向こうも同じだろう。そして私の覚悟が伝わっているなら、きっと。
『わかったわ。とりあえず訓練メニューを考えるから時間を頂戴』
「!ありがとう!」
『こういう時のティナは折れないって知ってるからね。それより、やりたい事って何?』
「そ、それは…」
少しだけどもってしまう。
ただそれは相手の好奇心に火をつけてしまったようで。
『!男なの!?』
「ち、違うよ!もう、頼んだからね!ナタル姉!」
電話越しにちょっと待ちなさいとか聞こえるけど、無視して通話終了ボタンを押す。
私は半分以上沈んだ夕日を見て、気合いを入れる。
これから、頑張るぞ!
まずは鈴を起こす所から始めよう。
〜織斑千冬の場合〜
私は今、後輩の真耶がいるであろうIS学園の地下空間に来ていた。
一夏が倒した謎のISを極秘裏に調査しているからだ。先程調査が終わったという連絡を受け、始末書なんかの書類整理を中断して来た。ただでさえ男子生徒の入学から電話対応やら女尊男卑のバカ共から届く対応で忙しいというのに、ここにきてISの侵入者と来た。どれだけ私たちを多忙にさせれば気が済むんだ。
「真耶」
地下室に着き、コンソールを叩いてる緑髪の後輩に声をかける。
「あ、先輩」
「解析が終わったらしいな」
「はい」
真耶は座っている椅子をずらし、私にもパソコンの画面が見えるようにしてから言った。
「やはり無人機でした。コアも未登録のものを使用しているようです」
「ふむ……」
こんなことをする奴は、私は一人しか知らない。というか、今回も一夏の成長の為とかでぶっ込んで来たに違いない。
「先輩、心当たりが…?」
奴程では無いが真耶とも長い付き合いだからな。私の表情からある程度考えを読んだのだろう。
だが、確証が無い今、奴を犯人と断定するのは良くない。いや、確実に奴が犯人であると私は断定できるが、真耶を含めた、奴から見て路傍の石ころのような他人には物的証拠なりが必要だろう。
だからこそ、私は言った。
「無い。今はまだ、な」
真耶は怪訝そうに私の顔を見てから、何かを察したようにコンソールへと目を移した。そして、話題を変えるように、ある事を言った。
「そ、それはそうと、佐倉君は凄いですね」
「ああ、そうだな」
私も頭を切り替えて答える。
確かに佐倉は凄い、と言わざるを得ない。何せ、『ISを使わずに絶対防御を発動させた』んだからな。
私でもタイミングが完璧でなければ出来るか分からないのに、客席からの投擲で急所を狙い、且つ威力も落とさずに命中させる等、およそ凡人に出来ることじゃない。
「その、佐倉君が投擲した物干竿も一応調べてみたんですけど、物干竿自体は至って普通のものでした。強度が普通じゃなかったですけど」
「あれは更識が用意したものだからな。強度に関しては真剣とやり合っても折れない程の強さだろうな」
「あはは…。ただ、一点、気になることがありまして」
「なんだ?」
真耶はコンソールを操作して、佐倉の物干竿の画像をだす。
「物干竿自体には何も無かったんですけど、佐倉君が握っていたであろう部分に妙なエネルギー反応があるんです」
「?どういうことだ」
「解析してみたんですけど、現存するどんなエネルギーでも無かったんです」
どういうことだ?
これが物干竿全体であれば更識が何かしたんだろうと思える。更識じゃなくても、直前まで一緒に行動していた澵井のISにそういった武装があるのでは、と思えるが、握っていた部分だけ、とはまたおかしな話だ。
「これ以上の解析は出来ないのか?」
「はい。天災、篠ノ之博士レベルになればできるかも知れませんが…」
こいつ、実は私の考えが完全に読めてるんじゃないか?いや、そんな事より、束か…。私が頼めばやってくれるとは思うが…。
「害があるものでは無いんだな?」
「ええ、はい」
「なら解析はしなくていい。欠損している訳ではなさそうだし、佐倉に返しておけ」
「いいんですか?」
「ああ。じゃあ私は戻る。お前もまだ書類が残ってるんだから早く戻ってこい」
「えーっと、私の分をやって置いて貰ったりは…?」
「はは、面白い冗談を言う。私の書類はお前の二倍あるんだぞ」
「ですよね〜…はぁ」
ため息を吐きたいのはこっちだ、全く。
どうやら今日も、眠れそうにない。