一般人は毒を吐く。   作:百日紅 菫

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桜新町に行ってきます。

クラス代表戦の騒動が終わった週の金曜日、俺は帰りのHRが終わったと同時にとある書類を出しに、織斑先生の元に来ていた。

 

「先生」

 

教室を出て廊下を歩いてく織斑先生を引き止める。あれ、織斑先生だけでいいのに山田先生も止まっちゃったよ。まぁいいか。この人織斑先生好きっぽいし。それは関係無いか、無いな。

 

「明日から外泊してきますんで」

「ああ、外泊届けか。昨日も言ったが次からはもっと早めに出せよ」

「はい、すいませんでした」

「まあ、生徒会に入ったらしいからな。今回は更識のせいにしといてやるが、次回からは許さんからな」

「了解しました」

 

色々言われたが提出できて良かった。もう師範達には伝えてあるからな、行けなくなったら申し訳ない。

俺が内心ほっとしていると、山田先生が話しかけて来た。ちょっと目の毒なんで、胸部装甲外してから話しかけてください。え、無理?じゃあしょうがないですね。

 

「どちらに向かうんですか?」

「道場です。学園生活にも慣れて来たんで報告に行こうかと」

「へぇ〜!道場というと、佐倉君の槍術のですか?」

「はい。幼い頃からお世話になってるんで」

 

その後、二三言葉を交わして先生達と別れ、教室に置きっぱなしの鞄を取って寮へと戻る。途中、まだ教室に残っていた織斑と澵井に何か言われたが無視した。だってあいつ等より明日の方が大事だもん。

二組の前で米、中の外人2人組に捕まらないよう早歩きで通り過ぎ、さっさと靴を履き替え、寮に戻る。

部屋の鍵を開けて中に入り、ジャージに着替えてから、朝の内にベッドの上に出しておいたボストンバッグに着替えやら、明日必要なものを放り込み、確認し終えてから物干竿を持っていつもの広場へと急ぐ。

明日は朝早くから学園を出て、道場についたら師範とすぐに試合をする事になる。鍛錬を欠かした事は無いが、師範に勝てた事は無い。が、いつまでも負けっぱなしではいられない。明日に備えていつもより集中してイメージトレーニングをする必要がある。

しっかりと準備運動をして体を温め、いつもの型をこなす。それを終えたらイメトレだ。師範はスピードも力も更識先輩の比では無いくらい強い。正直今の俺では一撃もいれらない。だが、師範と試合をする時だけは許された技がある。まぁそれ使っても勝てないんだけど…。

そんな訳で、今日に限っては君等の相手をしている暇は無いんだよ、ハミルトン、更識先輩。

2人が茂みに隠れている事に気づくも、そのまま無視してイメトレを続ける。だって明日は本当に勝ちに行く。それどころか、少しでも気を抜けば瞬殺される。鍛錬始めたばっかの頃とか試合と呼べるものですら無かったからなぁ。

まぁ過去を振り返るのも程々に、頭の中で師範をイメージし、立ち回りやどこでどういった攻撃をして来るか、過去の試合を元に自分の動きと師範の動きを想定しながら体を動かす。

先輩との試合で痛感した体力不足も改善して来たし、師範から言われていた事も改善出来るように努力してきた。

 

 

二時間の特訓を終え、タオルで汗を拭きながら寮へと戻る。その際、女子からの嫌みな視線が以前より減っている気がした。まあ、どうでもいいけど。

部屋に戻ると、更識先輩がベッドに寝転んで雑誌を読んでいた。

 

「先にシャワー使わせてもらってもいいですか?」

「ええ、いいわよぉ」

 

妙に間伸びた声で了承の意を伝えて来る。つーか先輩の読んでる雑誌、表紙が更識先輩だぞ…。

更識先輩に若干引きながらもシャワーを浴び、食堂に行く手間を省く為に買っておいたおにぎりとサンドイッチを食べる。

……さっきからやけに先輩が静かだ。昨日は、そりゃもうこれ以上無いってくらいドン引きする程騒いでいたというのに。何かあったのか?

 

「あの、更識先輩?」

「……なぁに?」

 

怖っ。

 

「なんかあったんすか?」

 

え、何この人。さっきからやけに静かだし、顔に若干陰りがあるし、よくよく見るとシャワーから出てくる前と読んでるページ同じだし、極めつけはその恰好。

入って来た時は気にしなかったが、今更識先輩が着ているのは俺のジャージだ。いや、別に着るくらいはいいよ。ちゃんと洗って返してくれるなら貸すし、洗わないんだったら捨てるだけだし。人と関わらないスタンスの俺でも、最早更識先輩とハミルトンは諦めてるし。織斑?アイツは多分どうにか出来る。

 

「……なんで?」

 

だから怖ェよ。

 

「いつもの先輩ならもっとうる…騒がしいですし、無駄にスキンシップとって来るじゃないですか。珍しくそれが無いんで何かあったのかなぁ、と」

 

んー、なんかキャラじゃないな。

多分明日あの人たちに会えるから、気分が高まってるのかもしれない。

更識先輩はゆっくりと雑誌を閉じて立ち上がると、ベッドに座っている俺の肩に手を置いた。下を向いているため、前髪が落ちてその目が見えない。それが一層恐怖を駆り立てる。いや、ほんと怖い。なんかフフってちょっと笑ってるし、海外の古びた館にいる幽霊みたいだ。幽霊にしちゃ生き生きし過ぎだけどな。多分全然怖くない。初見の人は勢いで告白しちゃって振られるけど諦めきれずにズルズルと引っ張っちゃって三十代まで独身を貫いちゃうレベル。

 

「…真理君…」

「は、はい」

「………お土産、よろしくね」

「おやすみなさい」

「わぁ〜!ウソウソ!」

 

じゃあ何なんだよ。

 

「やっぱり護衛はいらない?」

「はい。ISを使わない奴らが相手なら、ここよりも道場の方が安心できますし」

「……そっか」

 

何故更に落ち込む。大体、生身であの人達に勝てる奴なんていないよ。織斑先生でさえ勝てるかどうか分かんないし。あれ?じゃあ師範て世界最強じゃね?

いや、師範が強いことは分かってる事だし。今はそれよりこの人を宥め方が先だ。

 

「IS相手だったら流石に無理そうなんで、先輩が、更識先輩が頼りになりますけど」

「……私が?」

「はい」

「…頼り?」

「そうです」

 

ほらな、チョロい。なんでこの人暗部の頭やってるんだ?

最近になってきて、更識先輩の扱い方を覚えて来た。布仏先輩からも教わったし。

この人は『お姉さん』扱いされるのが嬉しいらしい。自分が認めた身内に頼りにされるとか、お願いされると断れないようだ。

 

「ふふふ…分かったわ。お姉さんに任せなさい!」

「………まぁ、ISが出て来るなんてあり得ないけどな」

 

更識先輩には聞こえないようにぼそっと呟く。浮かれてる先輩には、やっぱり聞こえてないようで、うふふと笑っている。

 

「じゃあ大丈夫っすね。生徒会の仕事が無い事も布仏先輩に聞いてきましたし」

「むっ。何よ、それは私が言ったじゃない!」

「別にいいじゃないですか、そこは。というかそのジャージ、着るのはいいですけどちゃんと洗っといてくださいね」

「え?あれぇえええ!?」

 

驚いている更識先輩を尻目に、手持ち無沙汰な状態であることに気づく。明日の準備も終わったし、飯も少ないけど食った。訳分からん苦悩に陥ってた先輩も治って、今風呂場に行ったし。あ、ハミルトンに行くって言ってねぇな。別に言わなくてもいいけど、戻って来た時に喚かれたら面倒くさいし一応言っとくか。

俺は携帯を取り出してハミルトンにメールを送る。

『明日から学園にいないから。そこんとこよろしく。』っと。これでいいかな、いいな。

よし、本でも読むかぁ。

勉強机の棚から一冊の本を取り出す。ちなみにこの棚には読んでない本だけを並べて、読み終わった本は荷物を入れていた段ボールに詰めてベッドの下に入れてある。この前読んだ『レ・ミゼラブル』の和訳のルーズリーフはファイルに纏めて引き出しの中だ。

今回取り出したのは、アーサー王伝説の和訳版、その上巻だ。大体のあらすじは知っているが、詳しく読んだ事は無い。エクスカリバーとかめっちゃ有名だよね。

椅子に座って机の照明を調節して表紙をめくる。

そして、一ページ目を読み終わる前に、部屋の扉がノックされる。だが、当然の如く居留守を使う。だってぇ、めんどくさいんだも〜ん。読み始めたばっかで動きたくないしぃ〜。

 

「真理ぃ!明日からいないってどういう事!?」

 

Oh…。

 

「早く出て来なさい!いるのは分かってるんだから!」

 

あれぇ?帰って来たとき喚かれると面倒だからメール送ったのに、なんで今あいつが来てんだ?あれれ?

チェーンを掛けて、扉を薄く開ける。

 

「えっと、なんですかね?」

「なんですかね、じゃないでしょ!明日から学園からいなくなるってどういう事なの!?てゆうかなんでチェーンしてるのよ!」

「だって開けたら無理矢理入って来ると思ったし。しかも、いなくなるって言っても明後日には帰って来るし」

「は?そうなの?」

 

うん、そうなんです。なので今日はもう帰ってくれませんか。そして今後も近づかないでいてくれるとありがたいんですけど。

その願いが通じる事は無く、ハミルトンは未だに扉の外側からチェーンを外そうと格闘している。

 

「もう!いい加減これ外してよ!」

「嫌。つーかなんで帰らないの?」

「だって真理の部屋見てみたいし。部屋に戻ってもやる事無いし」

 

お前も同類かよ。

 

「はぁ。開けてやるからちょっと待ってろ」

 

パタンと一ページしか開いていない本を、というか奇麗な装飾がされた表紙を閉じて靴棚の上に置き、チェーンを外す。その音で分かったのか、俺が扉を開けるよりも早くハミルトンが扉を開けた。

あのですね、お前は自分の容姿を適切に評価した方がいい。今ハミルトンはホットパンツみたいな短パンにタンクトップの上からパーカーを着ている。俺みたいに平均以下みたいな奴はどんな恰好しててもダサいけど、容姿がいい奴は変にダサい服を着ると、それはもう目も当てられないくらいダサくなる。いや、別に今はダサいとか言いたいんじゃなくて、何が言いたいかと言いますと、眼福状態なんですよね、はい。多分更識先輩よりもある。

 

「…な、なに?」

「あ、わり」

 

僅かに頬を赤く染めたハミルトンが上目遣いで聞いて来る。それ、俺とか織斑以外にやったらすぐ惚れられるぞ。ちなみに俺は、誰かに好きになってもらうという事が無いという事を知っているから、織斑はクソボケ鈍感野郎だからだ。多分、寒くないのかな、くらいの感想しか出ないと思う。

 

「それより、俺の部屋っつっても何も無いぞ。更識先輩は今シャワー浴びてるし」

「まあまあ。あれ、これは?」

「今さっき読み始めたやつ。あと明日の朝は早いから、十時には寝る。だからそれまでの暇つぶし」

「へぇ〜。え、十時ってもうすぐじゃん。なんかごめんね?」

「別にいい。俺は寝るけど、更識先輩ももうすぐ出るだろうから、もう少しいてもいいぞ」

「え!?ほんと!?」

「騒がない限りはな」

 

赤の他人である女子と一ヶ月も同室で過ごせばそのくらい気にならなくなる。とはいえ、同じベッドで寝るという失態はもうしないがな。

 

「あら?ティナちゃんじゃない。どうしたの?」

「あ、こんばんは」

 

見慣れた寝間着に着替えた更識先輩が脱衣所から出て来る。さて、お互い話し相手が出来た所で、俺はそろそろ寝るかな。本当に明日の朝は早いし、多分町中を歩き回った上で試合もやんなきゃだし、ガチ目にそろそろ寝ないと明日一日辛くなる。

 

「じゃあ俺はそろそろ寝るんで、後はお二人でどうぞ」

「ああ、うん。お休み真理君」

「お、おやすみ、真理」

 

部屋の電気を消して俺はベッドに、2人は扉の方へと移動してくれる。あ、そうか。十時には部屋にいなきゃだもんな。

彼女達が二言三言話しているのを遠くで聞きながら、夢の中へと入り込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

枕元で鳴り響く目覚まし時計を手探りで叩いて音を止めながら目を覚ます。時刻は五時。軽く背を伸ばして、ジャージに着替える。

これから六時まで体を動かし、六時半までに汗を流し洗濯を済ませる。その後朝食を摂って出発だ。いやぁ、ほんとに久しぶりだなぁ。

とりあえず軽くランニングしてから、型やって終わりかな。

鼻歌交じりに廊下を歩いてグラウンドに出る。休日の、それも早朝では誰も起きてないようで、グラウンドには俺以外誰もいなかった。いえーい。さて、走るか。

寝起きの体をほぐす意味でも、準備運動を念入りにしてから走り出す。てかやっぱり広いなぁ。一周なんメートルあるんだ、これ?

 

そうして数十分走った後、誰もいないのをいい事にグラウンドで型を始め、端に設置されている大きな時計で六時になったのを確認し、寮へと戻る。その際、髪を二つ結びにした、教室で見た事あるような無いような女子とすれ違った。まぁ何も話してないし、目も合わせて無いけどな!

部屋に戻ると更識先輩はまだ寝てるようで、小さな寝息が聞こえる。

先日脱衣所の扉につけた入浴中の札を掛けて、脱衣所に入り、ジャージを洗濯機に入れてスタートのボタンを押してから、シャワーを浴びる。ゆっくり浴びてる暇は無いから汗を流して、軽く頭、体を洗ってからさっさと着替える。ちなみに着替えはなんちゃって袴だ。町の人たちはいつも変な恰好しているから、個性を出す為とか言って着せられていたもの。つまりはあの人達の趣味だ。まあ楽だしいいけどね。

洗濯機からジャージを取り出し、ハンガーに掛けて俺が使っているクローゼットの取手に引っ掛けて干す。

その後も、ぱぱっと朝飯を食い、ベッドを整え、と出かける準備を進めて行く。

 

「あ」

 

やべ。前髪どうしよ。

正直師範と試合するとなると超邪魔なんだよな。かといって切るとなると、師範以外の試合でも『あれ』使いたくなっちゃうしなぁ。

俺が軽く悩んでいると、ごそごそと更識先輩がベッドを降りて来た。

 

「…ふぁあ…おはよぉ真理君…」

「おはよーございます。寝起きで悪いんですけど、前髪ってどうにかできますかね?」

「前髪…?」

「はい」

「んー…あ!ちょっと待ってね」

 

更識先輩寝起きいいなぁ。寝惚けてたと思ったら、もう意識ハッキリしてるっぽい。今洗面台まで行ったのは顔を洗う為かな?

 

「真理君、ちょっと座ってね」

「?はい」

 

戻って来た更識先輩は手に何かを持っていた。多分髪留めの類いだろうと思い指示に従う。いやぁ、すみません。

更識先輩は俺の前髪を手櫛で軽く解いてから、前髪を分けて何かで止める。

 

「はい。これでいい?」

「ありがとうございます。只これ、落ちませんよね?」

「うん、その辺は大丈夫。まっすぐ抜けば簡単に取れるけど、それ以外ではどんな激しい動きをしても取れないようになってるから」

 

説明を聞いてから鏡で確認する。

丁度耳の上当たりに、桜の花びらのような形をしたアクセントがつけられたヘアピンが刺さっている。

 

「こんな奇麗なもの使わせてもらっていいんですか?」

「いいのよ。ていうか、あげるわ、それ」

「え、でも…」

「その代わり、今度一緒に新しい奴探すの手伝ってね」

「まあ、そのくらいなら別にいいっすけど」

 

何はともあれ助かった。明日も試合するようだったらアオさんとかにやってもらおう。あの人女子力高いし。

薄手のパーカーを羽織りボストンバッグを肩に掛け、扉に手をかける。

 

「じゃあ俺、そろそろ行きますね」

「ええ、楽しんできなさい」

「はい。じゃ、行ってきます」

「ふふ、いってらっしゃい」

 

扉を閉じる。これで明日まで更識先輩の顔を見る事は無い。まぁその後腐る程見るんだろうけど。

誰一人すれ違う事も無く寮の廊下を歩いて、外に出る。ここから本島行きのモノレールに乗って、電車に乗り換えて桜新町だ。

が、その前に倒さねばならない敵がいるようだ。

 

「真理」

「早ぇな。何してんの?」

 

寮の出入り口にいたのはハミルトン。あの、君等たかだか一泊二日してくる男子に対して大げさじゃない?今生の別れじゃあるまいし。

 

「真理に行ってらっしゃいって言おうと思って」

 

そう言ってハミルトンははにかんだ。おおう、そうですか。

 

「そうか。んじゃ、行ってきます」

「!うん!行ってらっしゃい!楽しんで来てね」

「ん、お前は友達作れよ」

「な、失礼な!」

「はは、じゃあな」

「ほい」

 

歩き出そうとしたら、ハミルトンが手を肩の高さまであげた。ハイタッチ、ということなのだろう。まぁそのくらい、いいか。

パンとその手を叩くと嬉しそうな表情を浮かべる。その顔を見てからモノレールの駅まで歩き出す。後ろでハミルトンが手を振っているのが何となく分かるが、流石にしつこいので放っておく。

 

駅までなんとか辿り着き、本島行きのモノレールに乗り込む。早い時間、且つIS学園のある人工島発だからか、乗客が俺以外いない。しかも自動運転だから運転手までいない。ははは、このモノレールは俺のものだ!

なんてバカな事を考えているうちに本島に着く。

ここからは電車に乗り換えて数駅で桜新町だ。一昨日連絡したときに、出迎えに獅堂さんと水奈さんと火奈さんが来てくれるらしい。獅堂さんには朝早くから迷惑を掛けて申し訳ないと思ってる。ちなみに水奈さんと火奈さんは俺の二つ年上だ。

と、そこである事を思い出す。

 

「和訳持ってくれば良かった…」

 

うわ、失敗したなぁ。ことはさんに答えあわせしてもらえたのに…。まぁ過ぎた事はしょうがない。今度来るときに持って来る約束でもしよう。

そんなこんなでやっと桜新町駅に辿り着きホームを出る。

いやぁ、懐かしいな。たった二、三ヶ月来ないだけでも結構懐かしく感じる。三ヶ月前は週の半分以上通ってたからなぁ。

駅周辺の雰囲気を感じながら辺りを見回していると、肩をちょんちょんとつつかれる。

 

「よう真理。遅かったなぁ」

「おはよう、真理君」

「毎度です、水奈さん、火奈さん。獅堂さんも、朝早くからありがとうございます」

「気にしなくていいよ。撫子さんや本部長からも迎えに行ってやれって言われてたしね」

 

振り向いた先にいたのは師範の母校の制服の上に白と赤のパーカーを着た水奈さんと火奈さん。パトカーに乗って窓から顔を出している獅堂さんだった。ちなみに、白いのが水奈さんで赤いの火奈さんだ。

 

「じゃあとりあえず乗っちゃって。ヒメちゃんの道場でいいんだよね?」

「いえ、事務所でお願いします。そこから歩いて行くそうなんで」

「そっか、わかった。じゃあ水奈ちゃんと火奈ちゃんも早く乗って」

「わかっとるわ!」

 

俺がパトカーの助手席に乗り込み、水奈さん火奈さんが後部座席に乗る。なんていうか、パトカーをこんな人一人を送り迎えする事に使っていいんだろうか。いや、小さい頃からやってもらってるから今更すぎる疑問ではあるんだが。

 

「それにしても久しぶりだね。以前は毎日のように来てたから、たった二ヶ月来ないだけでも寂しく感じたよ」

「俺もですよ。まさかあんな地獄に監禁されるとは思いもしませんでしたし」

「おっ、なんや真理。女ばっかの高校行っとんのに彼女も出来てへんのか?」

「水奈ちゃんも彼氏なんて出来た事無いでしょ?」

 

運転席と助手席の間から顔を出した水奈さんがニヤニヤしながら聞いて来る。が、火奈さんに速攻で論破されている。相も変わらず、姉妹仲は良好なようだ。

 

「火奈さんはモテそうですよね」

「皆騙されとんのや。この前も火奈に告白した奴がおったけど、また振りおったんやで」

「う〜!水奈ちゃん、やっぱり見てたんだ!」

「当たり前やろ。秋名達も知っとるで」

「言いふらさないでよ〜!」

 

獅堂さん、心中お察しします。

隣で苦笑いしながら運転する獅堂さんに同情の念を抱きながら、水奈さん達の会話から、師範たちが元気でいる事を確信する。まああの人達が元気じゃない姿なんて想像できないしな。

車内から見える景色も見慣れたものへと変化して来ている。あと数分もしない内に、『比泉生活相談事務所』に着くだろう。

 

「真理君は今日泊まって行くんだよね?」

「はい。道場に泊まらせてもらえる事になってます」

「じゃあ、夜は宴会だね。僕も仕事が終わり次第、撫子さんや本部長と一緒にヒメちゃん家に行くよ」

「俺なんかの為に態々すみません」

「はは、いいんだよ。真理君は住んでこそ無いけど、町民みたいなものなんだから」

「せやせや。それに、真理の為だけやないで。こういう時でもないと、宴会なんて開けへんからな」

 

これだから、この町の人たちは。

そうこうしている内に、目的の場所に辿り着く。

公園のような広場に建てられた、プレハブのような小屋。出入り口の脇の壁には、木の板に『比泉生活相談事務所』と書かれている。

 

「さて、僕はこの2人を学校に送り届けてから仕事に行くから。また夜にね」

「はい。ありがとうございました」

「また後でな。いい日本酒持ってったる」

「未成年ですよ?」

「ヒメちゃんと試合するんでしょう?怪我、しないようにね」

「心配してくれて、ありがとうございます。皆さんも事故とか、気をつけてください。じゃあ、また後で」

 

三人とそれぞれ一言ずつ交わし、パトカーは去って行った。ほんと、パトカーをタクシーのように使うよな、あの人達は。それも町民性みたいなものか。町長があれだしね。

さて、なんかちょっと緊張してきたな。三ヶ月も顔を合わせてないと、相手に顔を覚えられているかどうかすら不安になって来る。いやまあそんな事はあり得ないだろうけど。だって、十年近く通ってるんだよ?そんな奴の顔を三ヶ月で忘れるとか、それはもう鳥頭とかそう言うレベルではない。あの人達は軒並み頭良いからそんな心配はいらない。

よし、いける………!

ノックを三回してから、返事を待って中へと入る。

 

「毎度です」

「おう、来たな」

「久しぶり〜!真理ちゃん元気にしてた?」

 

中にいたのは黒いポロシャツにジーンズを穿いて、所長椅子に座ったままコーヒーを飲んでいる比泉秋名さんと、水色の髪に黒いカチューシャをつけて、裾の長いワンピースのようなシャツを着た七海アオさんだ。

というか、あれ?

 

「はい。お二人だけですか?ことはさんは?」

 

俺が来た時は大体いつも秋名さん、アオさん、ことはさんの三人が出迎えてくれたんだけど。

 

「あ〜、ことはちゃんはね、図書館。真理ちゃんが連絡して来たのが一昨日でしょ?その時にもう仕事が入っちゃってたみたいで…」

「えっと、それは、すみません」

「いーよいーよ。それよか、これからヒメんとこ行くんだろ?」

「はい」

「とーかちゃんも恭助さんも今日は何も無いって言ってたから道場にいると思うよ」

 

まああの三人は同じ家に住んでるしね。

それにしても、何回来てもこの事務所は変わんないなぁ。所員もこの2人にことはさんを入れた三人だけだし。増員しないのかな?

いや、俺が心配することじゃないか。所員の三人は師範達の中でも最も頭が切れる三人だ。事務所の今後もしっかり考えてるんだろう。

 

「お?どした?」

「…いえ。お二人も道場に行かれるんですよね?」

「うん!ことはちゃんにも道場集合って言っておいたからね!」

「真理ももう行くべ?」

「はい。師範が待ってると思うんで」

「ヒメちゃん、気合い入ってたよねぇ〜」

「そうだな。いるかや恭助もいるけど、槍同士で対等に戦えるのは真理くらいだもんな」

「そんな…。師範達にはまだ全然敵いませんよ」

 

謙遜なんかじゃあ無い。事実、俺は一度も師範やいるかさん、恭助さんに勝ったことが無い。師範とまともに戦えているのも、俺が持つたった一つの才能のおかげだし、最初はそれを使うなって言われて鍛錬してたのに今では使わなきゃ戦えやしないし。

 

「「いやいやいや。ヒメ(ちゃん)とまともに戦えてる時点で真理(ちゃん)も十分規格外だからな(ね)?」」

 

えー…。

ま、まあそれは置いといて。

 

「さて、そろそろ行くか」

「仕事はいいんですか?」

「ん、昼頃戻って来るからな。その時に終わらせるから大丈夫だろ。ことはは夜まで仕事だから来ないけど」

「んじゃあ、行こっか。道中、真理ちゃんの学園生活も聞かなきゃだしね〜?」

「それは、お手柔らかにお願いします…」

 

事務所の鍵を掛け、秋名さん、俺、アオさんの順で横並びになって歩く。うん、この感じも久しぶりだな。

その後、道場に到着するまでの間、アオさんと秋名さんによる質問攻撃が続いた。

 

 




結構駆け足で物語を進めたので箇条書きみたいになってしまいました…。
桜新町の話はもう一話か二話で終わりますが、その間の男子2人の話と楯無、ティナ組の話もやりますので、金の貴公子と銀のウサギが出てくるのはまだ先になります。
桜新町の人は原作通りなので妖怪と神がいます。主人公もそのことは知っています。
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