第二グラウンドには既に織斑先生の指示の元、女子全員が整列し終えていた。どうやら組別出席番号順に並んでいるようだ。俺たちが入る場所も開けてくれている。
「男子共も来たな。これより格闘及び射撃を含む実戦訓練を行う」
一二組全員が大きな返事を返す。
正直俺はISが好きではない。最初の自己紹介の時に嫌いと言ったが、恨む程嫌いという訳じゃないのだ。しかし、好んで乗りたいとも思わない。
俺のIS適性はD。IS学園の入試では落とされても可笑しくない適正値だ。それなのに俺が何故ここにいるかと言われれば、男子だから。それ以外には無い。で、なんでISが嫌いかと言うと。
遅いのだ。
一応、形式上の入試として一度ISでの戦闘をしたが、ハイパーセンサーのおかげで反応速度は早いのに、体が付いてこない。それどころか、飛べないし走れない。唯一早かったのは武装の展開くらいで、それ以外はてんで駄目。乗っているのが無駄に感じるくらいだった。
そもそも自分に必要な力は自分で身につけるという事が、桜新町に通っていたせいか体に染み付いている。ISなんていう身につけるだけで強くなれるものは性に合わないのだ。
「今日は戦闘を実演してもらおう。凰!オルコット!前に出ろ」
ぶつくさ文句を言いながら前に出る代表候補生2人。うーん、この授業超休みたい。あそこに見える林みたいなところでパルクールの練習したい。
「お前ら少しはやる気を出せ」
あ、小声でなんか言ってる。アイツにいいところを見せられるぞ?ああ、織斑か。凄いな、言ってる事と表情が全くかみ合ってない。良い所を織斑に見させるつもりが皆無だ。ブラコンの闇ってやつか。
「まあ実力を見せる良い機会よね!専用機持ちの!」
「それで?わたくしのお相手はどちらに?鈴さんでも構いませんが」
「言ってなさい!返り討ちにしてやるわ!」
「慌てるなバカ共。お前等の相手は…」
言葉を区切って空を見上げる織斑先生。つられて見上げると、雲一つ無い青空に、不自然な黒い点が出来ていた。
だんだんと近づいて来る黒い点は、キィィンという高い機械音と甲高い叫び声を伴っている。
「ああああ!?ど、どいてください〜!!」
なんでこっちに突っ込んで来るかな。仮にも教師でしょう。
ISを纏った山田先生が生徒の群れに突っ込んで来る。というかこのままだと俺のとこに直進コースだ。流石に生身でISに突撃されたら死ぬわ。
だが、山田先生はもう目の前まで来ている。ISというものは無駄にでかいため、最早前後左右に避ける事は不可能だろう。ならば。
「ほっ」
「うわぁあああ!?」
「きゃああああ!!」
山田先生を真上に跳んで回避。隣にいた織斑に被害が行ったが知った事ではない。てか皆避難するの早くない?いつのまにか周りに人がいなくなってるんだけど。
「真理、お前やっぱおかしいわ」
「こんな一般的な小市民に向かってなんて事言うんだテメェ」
「語尾がヤンキーだよ、真理。それに一般人は高速で飛んで来るISを跳んで避けるなんてできないよ?」
「四階から飛び降りたのにも驚いたけど、本当に凄いんだね、真理」
だから俺に出来る事は時間をかければ誰にでも出来るんだって。
それより、試合が始まったみたいだ。
「さて、デュノア」
「はいっ」
「山田先生が使っているISについて説明してみろ」
うわ、ざっくりしたリクエストだな、おい。
「はい。あれはデュノア社製の第二世代機、ラファール・リヴァイヴです。第二世代後期の機体で,
第三世代機にも劣らないスペックを持ちます。現在配備されている量産型では世界シェア第三位を誇り、7カ国でライセンス生産され、12カ国で正式採用されています。特筆すべきは操縦の簡易性と汎用性で、それによって操縦者を選ばない事と多様性役割切り替えを両立しています。装備によって格闘・射撃・防御・といった全タイプに切り替えが可能で、参加サードパーティーが多い事でも知られています」
すげっ。
何が凄いって説明と一緒に試合を終わらせる山田先生が凄い。何あれ、聞こえてるの?いや、聞こえててもぴったり終わらせるって凄くね?普通に答えてるデュノアも気持ち悪いけど。
「くっ…まさかこの私が…」
「アンタねぇ…射撃専門なのに、なに面白いように誘導されてんのよ!」
「五月蝿い黙れ。これでIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」
うん、まあ、流石にあれ見てバカにするような奴はいないだろう。
「さて、この後は八人グループになって実習を行う。各グループのリーダーは専用機持ちがやるように」
指示が出ると同時に、織斑、澵井、デュノアの元に生徒が殺到する。そりゃそうだろうな。イケメンに指導される方が、あんな醜態を晒した代表候補生より一万倍くらいマシだろうしな。
人がいないのは凰、オルコット、ボーデヴィッヒの三人か。しょうがない。
「…………」
こいつやる気ないみたいだし、俺もやる気無いからWIN-WINの関係だね。
「……貴様、佐倉真理だな?」
「…そうだけど?」
「生身で代表候補生を破ったというのは本当か?」
どっから仕入れてんだ、その情報。でもまあ事実だし…いや、あの状態での勝利を勝ちといっていいのか?でもなあ、今やっても勝てると思うしぃ。
「おい、どうなんだ?」
「んー、まあ勝ったよ?」
「ふむ。貴様にとってISとは何だ?」
なんだこいつ、グイグイ来んな。
俺にとってのISか…。
「過剰戦力、いや、偽物…?」
「どういう意味だ。はっきり言え」
一々腹に立つ喋り方だな、このチビ。
「はあ。俺はまだまだ強くない。未だに一つの力を追いかけて、その力に指すら掛けられていない。そんな俺がISとかいうチートを使ってその力に追いつくのは、卑怯だ。それに、俺が使うにはISの力はでかすぎる。器が無いのに中身だけあっても意味が無い。ま、他にもあるけど主な理由はこんなとこかな」
「ふむ……。貴様は強い。特に心の強さは教官に匹敵するだろう」
目を細める。なんでこいつこんな偉そうなの?織斑先生リスペクトなのは知ってたけど、そこまで真似すると最早苛立ちしか湧いてこないんだけど。
「だが、織斑一夏。あいつは駄目だ。教官の栄光に泥を塗ったばかりか、それを自覚しながらのうのうと生きている」
「いや、あのさ、それを俺に言われても困るんだよ。そんな事言ってる暇があったら俺の後ろの人達をISに乗せてやってくんない?」
なんかいつの間にか後ろに列が出来てるんだけど。織斑とか澵井とかデュノアの所から人が減ってるのを見るに、織斑先生に叱られたんだろうな。
さて、俺は一番後ろに並ぶかな。時間的にもギリギリ回って来るかどうかだし。
「ふんっ。早く乗れ」
その後ISに乗って歩いて戻って来るという作業を全員無言で淡々とこなしていった。俺の前の人が降りる際にしゃがみ忘れるという事故があったが、跳んで乗れたから問題は無かった。
「真理、昼飯行こうぜ。今日は皆屋上で食うんだって」
そうか。なら俺は外に行こう。だって、あれでしょ?親睦会的なノリでデュノアも連れてくんでしょ?関わりの少ない連中に新参者を含めた昼食なんて地獄以外の何ものでもない。
「真理ー。お昼ご飯鈴に誘われたんだけど、一緒に行かない?」
「おーティナ。丁度いいや。一夏ーそろそろ行こうぜー」
「おう!」
「ほら、シャルルも」
「いいのかな、僕までついて行っちゃって」
「いいんだよ。数少ない男子同士、仲良くしようぜ」
おい。俺の机の周りに集まるな。クソ、今日は購買に行かなくていいからって教室に長居し過ぎた。それでも昼休み始まって一、二分でこんなに集まるって何?いっそ気持ち悪いんだけど。
「ほら行くわよ!」
もう諦めよう。そうだ、あの場所をこいつ等に知られるより百倍マシじゃないか。
諦めて、昨日の内に買っておいたコンビニのおにぎりやパン、飲み物が入った袋を持って大所帯の最後尾につく。
そして、屋上に到着したが、その後も地獄だった。
「い、一夏。弁当を作って来たのだが…」
「マジで?サンキュー!」
篠ノ之が顔を赤らめて弁当を渡す。その様子を見ていると、ティナが弁当の具を箸で掴んで聞いて来た。
「真理、いる?」
「いやいらん。…いてっ」
「いいから貰っとけよ」
なんだこいつ。うわ、ティナの顔がめっちゃ沈んでる。なにこれ、俺のせい?
なんか澵井が顎をクイクイやってるけど、これ俺のせいなのか。
「やっぱ貰うわ。どれくれんの?」
うわ、今度はめっちゃ笑顔になった。そうだよな、友達に味見して欲しい時もあるよな、うん。
「えっとね、これ!」
「どーも」
そう言って箸で掴んで差し出された出し巻き卵にパクつく。ふむ、中々美味しいな。そういやお菓子研究会に入ってるって言ってたな。卵を使うのは得意なのかな。
出し巻き卵を味わっているとティナが凄い見て来る。あ、感想か。
「美味いよ」
「!へへへ、ありがとう!」
さて、五月蝿いぞ、お前等。
「なんか、僕たち邪魔者みたいだね」
「そうだな。一夏はハーレム、真理は甘い空間を無意識に作り出して。あ、シャルル昼飯持ってないよな。これやるよ」
「え、いいの?」
「ああ」
お前が誘って来たんだろうが。
まあいいや。さっさと食って休もう。俺の昼休みは飯に三分の一、休憩に三分の二を当てるのが基本だ。朝練してるし、放課後も稽古があるからな。今日の放課後は生徒会に顔出すけど。
「皆さんもいかがですか?」
俺とティナ、澵井とデュノアの前にいきなり差し出された箱の中にはサンドウィッチが入っていた。オルコットが作ったのだろうそれは見た目は綺麗にできているし、匂いも美味しそうではあるんだが…なんだろう。冷や汗が止まらないんだが。不幸中の幸いというか、差し出されているのは俺だけではない。誰かが食って大丈夫だったら食べよう。
「うわあ、美味しそうだね!セシリア料理できたんだ〜」
「ええまあ。初めて作ったんですのよ」
「初めて!?凄いな…」
ちょっと待て。不安要素が増えたぞ。
「真理はどれ食べる?」
「え、いや、俺はいいや。腹一杯だし」
うん、ほら、卵焼き食ったし俺。だから、睨むな澵井。お前女たらし止めたんじゃねぇのかよ。女子を泣かせるな的な視線を向けるな。
「でもほら美味しそうだよ?」
「…わかった、食うよ」
お前等が食った後にな。
「澵井、お前どれ食う?」
「俺?うーん、じゃあ卵サンドで」
「僕はツナを貰おうかな」
「じゃあ私はこのサラダのやつ貰うね」
「…俺はお前等が食って一番美味そうだったやつにするわ」
これで食わずに危険かどうか分かる。そもそも料理に危険もクソも無いんだけど、本当に怖いんだよ。なんか禍々しく見えて来たし。
さて、どうなるか…。
「いただきまーす……っ!?」
駄目なやつだったっぽいな。堪えてるけど涙目になってるし、デュノアとティナに至っては顔真っ青にして今にも倒れそうだ。
それより、ここまで人に害のある食い物を作るオルコットに聞きたい事がある。
「オルコット」
「はい、何でしょうか?」
「このサンドウィッチを作る時に味見はしたか?」
「いえ、していませんが…」
「……ちなみにこれには何が入ってる?」
ティナの手から奪った食いかけのサンドウィッチを見せながら聞く。いや、味見をしてない時点で大概頭おかしいんだけどね。
「確か、レタスにハム、チーズと香りが悪かったので香水を少々と、色がお料理本と違っていましたので、からしとマヨネーズと油と…」
「ああ、もういい。ちょっとこいつ等と保健室行って来る。お前等行くぞ、歩けるか?」
「お、おう…悪い」
澵井は立てるが、ティナとデュノアは顔を俯かせたまま動けそうにない。どんだけ破壊力あるんだ、このサンドウィッチ。それに香水は調味料じゃない。
しょうがない、ティナとデュノアは担いで行こう。と、その前に。
「オルコット、口を開けろ」
「え?」
「いいから。早く口を開けろ」
「こ、こうですか?」
小さく開けた口に、ティナのサンドウィッチをねじ込む。うむ、中々上手く決まったな。
そして、自分の作ったサンドウィッチの絶望的なまでの味を舌で感じているオルコットに一言。
「今度からは味見をして人間の食えるものを作れ。それと…」
「っ…?」
「今度俺の前で食い物を祖末にしたら、代表候補生だろうと女だろうと容赦はしねぇ。お前がこの世で一番苦痛だと思う事を一週間続けて二度と料理なんて出来ないようにしてやるからな」
「ひっ…!」
怯えてるけど、俺の言ってる事はまともだからな?アオさんだったら相手の頭ん中で考えてる事をひたすら暴露し続けるとかその位はやるからね?
「澵井、デュノアを担げるか?」
「う、おう…ごめん、やっぱむり…うっ」
駄目だこりゃ。こいつも歩けそうにないな。しょうがない、全員担ぐか。背中に一人、脇に二人かな。
「ティナ、背中乗れ」
「う、うん…」
で、後は澵井とデュノアを抱えてっと。
「真理、俺も手伝おうか?」
「いや、それよりお前はその兵器をどうにか処理してくれ。お前等、急ぐけど、吐くなよ?」
屋上から出て階段を駆け下りる。出る間際に後ろで凰と篠ノ之が慰めるようにオルコットと料理を教える約束を交わしていたが、例え美味くなっても食べたくないな。
一階にある保健室を目指し、階段を飛び降りつつ三人の状況を見るが、かなりヤバい。顔色が真っ青を通り越して白くなってる。確実に人に害のあるものが含まれていたんだろうな。
二分足らずで保健室に辿り着き、足で扉を開ける。
「すいません、急患です」
「はいはー…って、凄い状況ね。とりあえずこのソファに座らせてあげてから事情を聞きましょうか」
その後事情を話すと、薬を飲んで寝かせておけば午後の授業は出られないが放課後には治るらしい。担任の先生に伝えてね、と言われ保健室を後にした。
あと一分もしない内に午後の授業は始まるが、事情を話せば出席簿による脳細胞破壊落としを回避できるだろう。あ、ティナは二組だっけか…。凰に伝え、らんねぇな。連絡先知らねぇや。チッ、直接行くか。
チャイムを無視して階段を歩いて登り、先に二組の教室へ寄る。
「失礼します」
一応ノックはしたが、俺が入ると同時に教室がざわつく。すみませんねぇ、織斑とか澵井じゃなくて。ていうか澵井は今保健室で寝込んでます。
「あら、佐倉君?どうしたの?」
「あーっと、ティナ・ハミルトンが昼休みに劇物を食ったので保健室で休んでます。先生が言うには午後の授業は全部出れないそうなんで」
「あらまあ。分かったわ。伝えてくれてありがとう」
「んじゃ、失礼しました」
さて、次が一番の難関だぞぉっと。あの鬼教師に言い訳が通じるのか。
よし、いざ勝負っ!
「遅れてすいません」
「事情は織斑に聞いた。早く席につけ」
おっと、少しだけ織斑の好感度が上がったぞ。毛一本分くらい。
席に座る前にオルコットをちらっと見ると、かなり暗い顔をしていた。まああんだけまずい食いもんを好きな人に食わせてたんだから、そりゃ落ち込むよな。
しかし、俺は悪くない。この学園で信用してみようと思った二人の内の一人を殺されかけりゃ、流石に慌てるし少しは怒る。これが桜新町の人だったら問答無用でひも無しバンジーだったけどな。
それは置いといて、授業の準備を済ませて座る。俺はIS関連の授業だけは割と真面目に受けているのだ。最初はそれはもう完全に聞き流して板書しかしてなかったけど、実習で乗るって楯無先輩に聞いてからはしっかり授業を受けている。だって危ないじゃん。授業を受けている時の心境は取扱説明書を呼んでる時と近い。危険物を取り扱うから、あながち間違いでもないんだけどね。
本日の授業が全て終わり、俺は織斑、篠ノ之、オルコットを引き連れて保健室に来ていた。いや、俺が連れて来たんじゃないのよ?勝手について来たんだよ。
で、何をするかと言えば。
「皆様、申し訳ございませんでした!」
オルコットが謝罪をした。いや、本当だよ。無駄にしたのが米だったら土下座させてからノーパラグライダースカイダイビングだったよ。
さて、こいつ等も回復したみたいだし、俺は生徒会室に行くかな。今回のアホ共のせいでやる事が増えたのだ。しかも、楯無先輩のせいでちょろっと暗部関係の話も聞いちゃったし、最悪だよ。って思ってたら、どうやら紫さんが働いている元老院が暗部関係らしく、割と見知った話だった。楯無先輩も危険性の低いものを選んでくれてるらしいが、晴れて俺も世の裏側を知る住人になってしまったようだ。ちなみに紫さんは暗部の調査等で使用される機器の開発部門の主任をしているらしい。椎名さんは元老院のトップだし、思いのほか身近に暗部の人間が多くて驚いた。
「じゃあ俺はそろそろ行くわ」
「どこ行くの?」
「生徒会」
それだけ言って保健室を後にする。
生徒会室までそこまで遠くないので、桜新町の町歌を鼻歌混じりに歌っているうちについてしまった。
「ツンデレツンツンっと。失礼しまーす」
「お、来たわね。どうだった?彼女達の様子は」
楯無先輩が扇子を開くと、そこには『延頸挙踵』の文字。それ読める人中々いないと思うんだけど。
「ボーデヴィッヒは資料通りでしたよ。デュノアは、あれもう隠す気ないっすよ。多分フランスも駄目元か、ハニートラップで寄越してるでしょ」
「だよねぇ。でも駄目だよー?窓から突き落としちゃ」
「いいじゃないっすか。あいつ等は皆IS持ってるんだし。それより、どうするんですか?あの調子じゃあ女子にもバレますよ?」
「大丈夫よ。多少女の子みたいでも男子って言い張ってればある程度騙せるのよ。女子校なら尚更ね」
どんだけ男に飢えてんだよ。その内織斑とか澵井襲われるんじゃねぇの。ていうかなんで窓から突き落とした事知ってんだ。あれか、あの女子の集団に混ざってたのか?人に頼んでおいて自分は楽しんでたのか。腹立つ〜。
「じゃあ引き続き監視よろしくね」
「了解です」
ん?良い匂い。
「佐倉君、どうぞ」
「あ、ありがとうございます。そういや布仏は?」
布仏先輩から紅茶を貰いながら聞いてみる。午後の授業が終わってからすぐに教室を出たから見てないんだよな。多分いたと思うけど。
「ああ、本音ならアリーナへ行っていますよ。織斑くんや代表候補生、転校生と澵井君が特訓するので監視に行ってもらっています」
うげぇ、あいつらあんなモン食ってんのに特訓してるの?
「真理君ちょっと見て来てくれる?ちらっとで良いから。で、それ報告したら今日は終わりでいいわ」
「メールかなんかで言ってくれりゃそのままアリーナ行きましたよ…?」
「べ、別にいいじゃない!」
「二つも報告事項があると混ざってしまう可能性がありますから」
「そ、そうよ」
ああ、そういう。始めからそう言ってくれりゃあいいのに。なんで態々不審がられるような態度をとるんだこの人は。てか布仏先輩の紅茶美味過ぎだろ。何これ、本場のやつより美味いんじゃないの?そういやことはさんも紅茶淹れられるらしいけど飲んだ事無いな。ルーシーおばあちゃん直伝っていうから結構期待値高いし。
「了解しました。じゃあ、行ってきます」
生徒会室を出て、アリーナへ向かう。どこのアリーナかは知らないが、多分第二アリーナかな。
で、実際第二アリーナにいたんだけど、何だこれ。
何故かISの射出口で専用機と思われるISを展開して、アリーナの地面に突っ立ってる織斑、デュノア、澵井、オルコット、凰、篠ノ之に肩に乗っかった砲台みたいなものを向けているボーデヴィッヒ。一応皆ISをつけているが、アリーナの端っこには、監視をするためだろうがISの訓練をしている布仏と、恐らくISを交代で使うためなのかISスーツのままの生徒が二人。
うーん、とりあえず布仏に事情を聞いて来るか。
アリーナの中へと入り、織斑達に気づかれないように布仏に近づく。
「布仏、どういう状況?」
「え、佐倉君!?」
「おー、さくらーん。なんかねぇ、らうらうが喧嘩を仕掛けて来たみたい〜」
「本音、どういう関係!?」
「生徒会の関係だよ」
にしても、行動起こすの早過ぎだろ。転入初日だぞ。澵井も言ってたじゃん。バカなのか、アイツは。
「ふむ…。じゃあ俺は客席で見てるかな。こっちはよろしく」
「りょ〜かい!」
そう言ってアリーナから出ようとした時だった。視界の端に写ったボーデヴィッヒのISの肩部についている銃口がこちらを向いた。
「っ!?布仏!剣出せ!」
「え?う、うん!」
最悪でも布仏はISを着けているから助かるが、俺や他の二人がまずい。撃ってこないとは思うが、撃って来た場合はマジで死にかねない。最近俺こんなんばっかだな。
ISを着けていない二人を布仏の後ろに移動させ、俺は布仏の横に立つ。できれば俺が乗って壁になった方が被害は少なくて済むが、布仏が降りたタイミングで撃たれれば全滅だ。
「それ以外に剣は?」
「もう一本入ってるよ?」
「じゃあそれ出せ。そんで貸せ」
「う、うん」
出してもらった剣を両手で持つ。重くて細かく振るのは無理そうだが、大振りならいけそうだ。てか軍人なら生身の人間にあんな巨大な兵器向けんなよ。
『そこの生徒!何をしている!学年とクラス、出席番号を言え!』
おせぇよ、何してたんだ担当の教師は。
さて、ボーデヴィッヒも消えたし俺も生徒会室に戻るかな。
「あ、これ戻しといて。悪かったな、無駄に緊張させて」
「いやいや!本当に撃って来てたら危なかったし、ありがとう!」
「本当だよ!助けてくれてありがと!」
「たっちゃんかいちょーにも伝えとくね〜」
何故?
まあとりあえず迷惑がられてないらしいのでさっさと帰る事にする。あと無駄に緊張させたあの銀髪は絶対に許さん。その内なんかあったら速攻で織斑先生にチクってやる。チクるのがダサい?そんなん知るか。やられたらやり返す。相手が一番嫌がる事で!
とまぁアリーナでの出来事を報告し終え、いつもの広場でいつものように物干竿を振るっていると、いつものようにティナが来た。
「真理〜今日はありがと〜」
「ああ、気にすんな。俺も腹立ったし」
「それって、なんで?」
何顔赤らめてんの?普通に目の前に食材の無駄を詰め込んだ食べ物が出たら腹立つだろ。
「あ〜…そうだよね…。それより!明日から私もここ使って良い?」
「は?もう使ってんじゃん」
「そうじゃなくて!ここで私も特訓していい?ってこと!」
特訓?てか、別に俺のものじゃないから許可はいらないけどな。
「別にいいけど?俺のじゃないし」
「そっか。えへへ」
「明日から特訓するにしろ、今日はもう休んどけ。口直しに美味いもん食って寝ろ」
「あはは、セシリアには悪いけど、ちょっと刺激的過ぎたからなぁ。真理はどうするの?そろそろ食堂も空くと思うけど」
「俺も汗流してから食いに行く。一緒に行くか?」
「うん!」
その後、毎度の如く、浴衣の俺とラフな恰好のティナが飯を食っていると、織斑一行が現れ、ぎゃいぎゃい騒ぐ一行を見ながら食事を終えた。
そして、事は起こった。
晩飯を食べ終え、ティナと別れて部屋で本を読んでいると、一通のメールが届いた。
「…澵井?」
嫌な予感しかしない。むしろ良い方に考える方が無理だ。
内容は、『今すぐ俺の部屋に来て欲しい』
しかも一斉送信で織斑にも送っているようだ。
とりあえず、まだ生徒会室にいるであろう楯無先輩に連絡しなくては。
『デュノアの正体がバレました。澵井の部屋へ向かうので、その後はよろしくお願いします』
さて、話を聞きに行くか。
既に知っているデュノアの身の上話を。
そして、その決断を。