一般人は毒を吐く。   作:百日紅 菫

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故に私は助けません。

巧side

 

真理が保健室から出ていった後、シャルルが一夏達の特訓について行くと言うので俺もついて行く事にした。同じ部屋になる訳だし、言いたくないがあんな劇物を食った後に運動して倒れでもしたら大変だからだ。多分俺も参加するんだろうけどな。

第三アリーナに着き、箒が訓練機、一夏とセシリアと鈴、シャルルと俺が専用機を身につけ、早速特訓を開始したのだが、いかんせん説明の仕方が独特すぎる。箒は擬音のみ、鈴は感覚を連呼、セシリアは俺でも注意しないレベルのミリ単位で口頭説明。箒や鈴は当然として、セシリアの説明でも分かる人間は少ないと思う。

そこで救世主のように現れたのがシャルルだ。一夏の駄目な点を分かるように、懇切丁寧に伝え、どう改善すればいいのかを教えている。俺はというと、一夏の説明担当を外された三人に国語の授業中だ。

 

「まず箒。擬音だけじゃ細かい説明が出来ていないだろ?一夏だって専用機を持っているんだし、もう少し細かく分かり易く説明してやれ。鈴もどんな感覚かくらいは言ってやってくれ。感覚感覚だけじゃ身に付くもんも身つかない。セシリアは逆に細か過ぎだ。何度とかより、どういう動きをすれば効果的かとか色々あるだろ?」

 

全員俯いてしまっている。しかし、突然鈴が顔を上げた。

 

「だったらアンタはどうなのよ!アタシ達にそれだけ言うってことは、それだけの実力があるって事よね!?」

 

うーむ。それを言われると弱いな。正直機体に頼っている所は大きいし、訓練機でやれと言われたら弱くなるだろうし。家で作っている機体なら別だけど、あれはこの学園に設備されてないしな。元々軍用に作られたものだったからなぁ。

 

「鈴さん。悔しいですが、巧さんの実力は本物ですわ。あのような第三世代兵器を使えている時点で、実力は代表候補生と同等かそれ以上でしょう」

「くっ、セシリアの言う通りだ、鈴。しかし!一夏に特訓を頼まれたのは私なのだ!何故こんなにも増えている!?」

 

それは知らない。俺はシャルルについて来ただけだし。

 

「あ、それが巧のIS?へー、かっこいいね!」

「そうか?…まぁ、そのうち没収されるけどな…」

「え?何か言った?」

「いいや、何も」

 

はは、と笑って話を逸らす。

真理の話を聞いたり、自分で調べたりしているうちに、俺の母親が女権団の人間であることが分かった。そして先日、ついに会社から呼び出しがかかった。今度の学年別トーナメントが終わり次第、会社に一度ISを提出しろと連絡が来たのだ。恐らくそのタイミングで没収されるのだろう。かなり気に入ってたのになぁ。

 

「それより、一夏はどんな感じだ?」

「とりあえず僕のアサルトライフルを貸してるよ。遠距離武装の特徴を掴んでもらうには、自分で使うのが一番だからね」

 

一夏の方を見ると、ターゲットに向かってアサルトライフルを撃っているが、どれも中心からかなり外れた所に着弾している。多分近接武器しか無いから、自動照準機能とかセンサー・リンクとか無いんだろうな。俺じゃああの機体は使えそうにないや。

 

「そういえば巧って、あの澵井コーポレーションの御曹司なんでしょ?」

「ん、ああ、そうだな。でもシャルルだってデュノア社の御曹司、だろ」

「まあ、ね。そのIS、第三世代だよね?主武装は遠距離?」

「いいや、違うよ。俺の主武装は…」

 

言う直前で、砲撃音が聞こえる。音の方へ視線を向けると、ピットの射出口にもう一人の転校生、ラウラ・ボーデヴィッヒがISを纏って立っていた。

 

「織斑一夏。貴様、専用機を持っているらしいな。ならば話が早い。私と戦え」

 

俺たちを見下しながら言う彼女が一夏に強い憎悪を抱いているのは一目瞭然だった。まあHRの時点で明らかではあったが、どうやらかなり一夏に執着しているらしい。過去にあの二人の間に何かあったのか、それとも彼女の一方的な憎しみか、一番ありえないのは一夏が何かをして忘れていることだが、それは無いと思う。鈴との約束も、その真意が伝わってこそいなかったものの、しっかりと憶えてはいたし。

 

「嫌だ。理由がねぇよ」

「貴様になくても私にはある」

 

ボーデヴィッヒは手を握りしめながら言った。

 

「貴様さえいなければ、教官が大会二連覇の偉業を果たしていた事は容易に予想できる。だから、私は貴様を許さない」

 

あいつが執着しているのは織斑先生か。

織斑先生___織斑千冬はISの世界大会『モンド・グロッソ』の第一回優勝者だ。その圧倒的な実力から第二回大会でも優勝することは間違いないと言われていた。事実、決勝まで危なげなく勝ち進んだ彼女は、しかし決勝の舞台に現れなかった。

その事に一夏が関係しているのか?

 

「……また、今度な」

「ふん。ならば、戦わざるをえないようにしてやろう」

 

直後、ボーデヴィッヒの肩部についているレールキャノンが火を噴いた。

しかし、慌てる事無く俺とシャルルが動く。

シャルルは物理シールドを展開して一夏の前へ。そして俺は、一瞬で展開した肩から生えた二本の機械腕と本来の腕の合計四本の腕で、俺自身が三人は入りそうな超巨大シールドを展開して一夏、シャルルの更に前へと出る。大した反動も無く、レールキャノンから放たれた砲弾を防ぐ。

 

「…朝にも言ったようにさ、転校初日に問題起こすのは良くないぜ?ラウラ・ボーデヴィッヒ」

「ドイツの人は随分沸点が低いんだね。ビールだけじゃなく、頭もホットなのかな?」

 

シールドを量子変換し、今度はアサルトカノン『ガルム』を展開したシャルルが俺の隣に並ぶ。こういう所はしっかり男なんだな。窓から蹴落とされたときは女子みたいな叫び声上げてたけど。いや、あの高さから落ちれば誰だって甲高い叫び声になるよな。

 

「貴様等…。フランスの第二世代型と親に頼らねば生きられない雑魚が私の前に立ちふさがるとは」

 

ボーデヴィッヒの目が細められ、俺と一夏に向く。

 

「織斑一夏、澵井巧。貴様等如きが専用機を持っているのが私には不思議でならない。貴様等より佐倉真理の方がよっぽど強く、有意義に使えるだろう」

 

そんなこと、俺たちが一番良く分かってる。アイツは俺等なんかよりも強く、賢い。専用機を貰うのなら俺たちなんかより真理の方が相応しい。それでも俺たちの手に専用機が渡ったのは、真理よりも立場が良かったからだ。世界一位の弟と世界一位の企業の息子。メディアからすれば一般人だった真理よりも注目がいくのは当然だった。

でも、だからこそ、与えられた力を自分のものにして、誰かを守れるくらい強くなろうとしてるんだ。

 

「そんな事、分かってるさ。でもな、その力で復讐しようとしてるお前に何かを言われる筋合いはねぇよ!」

 

俺たちに向けられる視線が更に鋭くなる。しかし、今度は俺も睨み返す。

だがその睨み合いはすぐに中断された。ボーデヴィッヒが何かを見つけ、視線とともに肩のレールキャノンの砲口の向きを変えたからだ。

 

「ならば、貴様達にあの行動が取れるか?」

「あ?…!」

 

視線の先には、ボーデヴィッヒのレールキャノンに対抗する為だろうか。IS用の剣を両手で重そうに持ち、そのISと共に並び立つ真理の姿があった。

確かに真理の力があれば一度くらいなら砲弾を弾けるだろうが、その一度で恐らく腕や足の骨は折れるだろう。

だが、真理の目に迷いは無かった。背後に生身の生徒が二人いるのもあるのだろうが、確実に砲弾を跳ね返すつもりでいるのが分かる。

 

「織斑一夏。貴様、人を守りたいらしいな。そんなもの、貴様ごときに出来る訳がない。何故か分かるか?弱いからだ。誰よりも弱く、誰かの経歴を汚し、強くなる努力している振りをしているだけだからだ」

「っ!」

 

一夏が飛びかかろうとするが、シャルルに抑えられる。しかし、今のは俺も腹が立った。

そのタイミングで放送が入る。

 

『そこの生徒!何をしている!学園とクラス、出席番号を言え!』

 

この騒ぎを聞きつけた教師なのか、アリーナの担当の教師なのか。俺には分からないが、少なくとも教師が来るくらいには危険な状態である事は理解した。

 

「…ふん。今日は引こう」

 

ISを解除したボーデヴィッヒがピットへと消える。俺たちを包んでいた緊張感も消え、微妙な空気が流れる。

そんな空気を変えてくれたのはシャルルだった。

 

「そ、そういえば、それが巧の主武装?」

「あ、ああ。俺のISの名前は鷹修羅。まあ、名前の通りだな。この二つの複腕をイメージインタフェースで動かしてる。もう一つあるんだけど、まだ完成してないらしいんだよね」

「へー。巧の銃の腕があれば、かなり強いんじゃないか?」

 

剣呑な空気だった一夏も、普段通りに戻って話しかけて来る。箒達もいつも通りだ。

 

「いや、俺が使えるのはこのニ本が限界だ。本来ならあと二本腕がつくし、左右の視界が二つの画面になって見れるようになる『ホークアイ』って機能がつく」

 

だがそれをやれるだけの能力が俺にはない。ISはハイパーセンサーによって目を瞑っていても360度見えるようになっていて、俺のISはそれを二つの画面として前面に映せるようになっている。要するに、広がった視界を画面にすることが出来るのだが、複腕をイメージインタフェースで動かす上に、画面を見ながら戦闘するとなると脳の負担が多すぎるのだ。故にホークアイもあと二本の複腕も俺では使えないのだ。

 

「へー。とりあえず今日はおしまいにしよっか。慣れないことして疲れただろうし」

「そうだな。俺は剣一本で頑張るよ」

「そ、そうだ!一夏は剣だけあればいいんだ!」

 

その後、箒と鈴とセシリアと別れ、男子更衣室で着替えていると一夏がシャルルに詰め寄った。上裸で。いやそれはヤバい。変態というかホモっぽくて怖い。

 

「なあ、巧もそう思うだろ?シャルルってなーんか俺等と一緒に着替えたがらないよな。シャワーも浴びないし」

 

別にそんくらいいいだろ。なんだお前。お前の脳内じゃ男は裸を見せ合わせなきゃいけないのか?何処の阿部さんだよ。

 

「別にいいじゃん。大浴場が使えるならともかく、男同士で裸を見せなきゃいけないわけじゃないし」

「でもさあ、あるだろ?こう、裸の付き合い的なやつがさ」

「だからそれは温泉とかの話だろ。それともなんだ、お前はシャルルの裸が見たいのか?」

「ええ!?や、やめてよ一夏!」

「そんな事は言ってねぇだろ!?」

 

いや、言ったよ。それと同じ意味の事をお前は言ってる。

 

「とりあえずシャルルは先戻ってて。これ部屋の鍵。俺と同じ部屋だから、安心していいぞ」

「うん、ありがとっ!」

 

シャルルは上着を羽織りながら出て行った。

そして今度は俺が一夏に詰め寄る。

 

「一夏、お前はもっと行動する前に考えろ」

「え?」

「相手と仲良くなりたかったら何をしても良い訳じゃないだろ?シャルルには体を隠したい理由があるのかもしれないし、それ以前に人前で着替えるのが恥ずかしいのかもしれないだろ」

「俺は気にしないぜ?」

「お前や俺が気にしなくても、シャルルが気にするって言ってんだ。せっかく男子が四人に増えたんだ。仲が悪くなるのはお前も望まないだろ?」

「…分かった、気をつける。あとでシャルルにも謝りに行くよ」

「ああ、そうしてくれ」

 

俺たちは着替え終え、それぞれの部屋へと戻った。未だに一夏が箒と同室であることに腹を立てたセシリアと鈴達とで一悶着あったが先に帰らせて頂いた。関わっても碌な事にならなそうだったからな。

部屋に入るとシャワー音が聞こえる。シャルルが入っているのだろう。その内出て来るだろうし、その後俺も使おう。流石に一緒に入るには狭いし、男同士で入るとか気持ち悪いし。シャルルはちょっと女子っぽいけど。

さて、出て来るまで暇だし、必要な事をやっておこうかな。

真理の部屋は女子と同室らしく、シャワールームの扉に『シャワー中』という札を掛けているらしい。男子同士とはいえ、シャルルは裸を見られたくないみたいだし必要だろう。本当なら板とかがいいんだけど今は無いし、紙に『シャワー中』と書く。扉にクリアフィアルをテープで貼付け、中に紙を入れる。よし、即席だが掛け札代わりの完成だ。

その時、シャワーを終えたシャルルが扉を開けた。幸い、俺は扉から離れていたから良かったが、問題はそこではなかった。

 

「はあ〜、コルセット忘れちゃっ…た、巧!?」

「えと、ただいま。シャル、る?」

 

バスタオル姿で出て来たシャルルには、胸があった。胸というより、あの、女性の象徴的な、母性の象徴的なアレがあったのだ。

 

「き…」

「き?」

「きゃあぁああああああ!!」

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ということです」

 

くだらなっ。

澵井にメールで呼び出され部屋に到着すると、中には既に織斑がいた。そして、シャルル・デュノアが女であること、それに気づいた経緯を聞かされた。

初日で気づかれる事にも驚きだが、バスタオル一枚で出るデュノアにも呆れを通り越して驚いた。ちなみに俺は楯無先輩から聞いていたため、デュノアが女であることは知っていた。その目的も聞かされてはいるが、本人から聞かされるまでは泳がせるようにとも言われていた。

 

「それで、結局シャルルは何が目的で男装してたんだ?」

「それは…」

 

こいつから自供とれないと楯無先輩も動けないし、軽く揺さぶりかけるか。なんで俺がこんな事しなきゃいけないんだ、まったく。

 

「わざわざ性別を偽って転入してきたんだ。それなりの理由があんだろ」

「………うん」

 

さて、場は整った。後はこいつが何を話すか、そしてその話を聞いてこいつ等がどうするか、だな。

 

「僕の父親はデュノア社の社長なんだ。男装して君たちに近づくように、あの人に命令されてんだよ」

「命令って…父親なのにか?」

「僕はね、愛人の子なんだ」

 

俺は知っていたが、今初めて知る二人はかなり驚いている。でもま、探せばありそうな話だ。今時日本にもストリートチルドレンがいる時代だし。

 

「二年前に母が他界した時に初めて知ったんだけどね。それで、色々検査しているうちにIS適性が高いと分かって、非公式だけど社のテストパイロットをしてたんだ」

 

あ、楯無先輩から連絡来てる。壁に寄りかかって、三人に見られないようにメールの内容を確認する。内容は『部屋の前に到着したわ。今どうなってるのかしら?』とのこと。これは、なんと言ったらいいんだろう。

 

「父に会ったのは2回くらいで、最初は本邸に呼ばれた時…あの時は酷かったよ。いきなり本妻の人に殴られたんだ。『この泥棒猫の娘が!』って。参るよね……母さんもちょっとくらい教えてくれてたら、あんなに戸惑ったりしなかったのに」

 

駄目だ。まだ必要な事を聞いてない。デュノアの身の上話は楯無先輩に聞いたし、目的も知っている。だが、本人からの自供が無いと意味が無いのだ。

つーか同じ話を二度も繰り返されるとかだる過ぎ。校長の話を聞いてる気分だ。

 

「それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったの」

「…イグニッション・プラン。第三世代ISの開発に手間取ってるからか?」

「巧にはわかっちゃうか…」

「何だよ、そのイグニッションなんたらって」

 

イグニッション・プランとは、EUの統合防衛計画の名前だ。現在は第三次イグニッション・プランの次期主力機を選定中で、トライアルに参加しているのはイタリアのテンペスタⅡ型、イギリスのティアーズ型、ドイツのレーゲン型の三つだ。

フランスのデュノア社は確かに世界ISシェア第三位という地位を確立してはいるものの、所詮は第二世代。ここで第三世代を開発できるだけの技術力がある事を知らしめないとならない。

IS開発には莫大な資金が必要だ。それこそ、国からの援助が無ければ開発など到底無理だ。

しかし、デュノア社は第三世代を形にすることが出来なかった。元々第二世代最後発のため、データも時間も不足していたらしい。そのせいで、既に政府から予算を半分カットされ、トライアルで選ばれなかった場合は援助を全額カット。ISの開発許可も剥奪されるそうだ。

 

「で、でも、それがどうして男装に繋がるんだ?」

「会社の広告塔、か?」

「鋭いね。でも、それだけじゃないんだ。…同じ男同士なら、君たちに接触し易いでしょ?」

 

そうだ。それが聞きたかった。

 

「つまりね、君たちのISのデータを盗むように、あの人に言われているんだ」

 

俺はボイスレコーダーを停止して、楯無先輩にメールを送る。『自供取れました。でも、まだいてもらって良いですか?』と。生徒会としての仕事は終わったが、俺個人が聞きたい事がある。

 

「…それで、シャルルはどうするんだ?」

「皆にはバレちゃったし、本国に戻されるんじゃないかな。デュノア社は、潰れるか他企業の傘下になるか。でも、僕にはどうでもいいことかな」

 

諦めたように話すデュノアを見て、俺は聞きたい事を飲み込んだ。これがこいつの選択ならば、尊重しようじゃないか。所詮、出会って一日の知り合いにも満たない関係だ。切り捨てるのなら早い方がいい。

 

「そうか。話は終わりだな?」

「うん。話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、嘘をついててゴメン」

 

話を聞き終えた澵井が口を開く。

 

「…それで、シャルルはどうするんだ?」

「どう、って。時間の問題じゃないかな。フランス政府も真相を知ったら黙ってないだろうし、僕は代表候補生を降ろされて、良くて牢屋、かな」

 

それを聞いた織斑と澵井が初めて怒りを見せる。デュノアが、自分の人生を諦めている事に。

それに関しては俺も腹が立ってはいるが、助けようなんて気は起きない。

 

「それでいいのか?」

「いいも何も、僕には選ぶ権利が無いから、仕方ないよ」

 

同じ経験をした者は、他者に同じ経験をさせまいとする者がいる。この二人がまさにそうだ。

 

「親がいなけりゃ子供は生まれない。だからって、親が子供に何をしてもいいなんて、そんなバカな事があるか!」

「そうだ。生き方を選ぶ権利は誰にだってあるんだぜ?」

「そう、かな」

 

今、こいつ等の言葉でデュノアは変わるんだろう。だが、それは甘えだ。他者に言われた救いなんて、脆いものだ。あの時助けるなんて言っといて、いざ助けられなかったらすぐさま切り捨てる。責任なんてものはそこに発生しないのだから。

 

「親が子供に何をしてもいい訳がない?そんなバカな事があるんだよ。生き方を選ぶ権利は誰にでもある?そんな訳ねぇだろ。生き方を選べない奴だっている」

 

笑顔になりかけていたデュノアの顔が止まる。澵井も織斑も、自分の言った事を否定されて、止まっている。

 

「…な、何が言いたいんだよ?」

「そうやって無責任に救いを差し伸べるな。お前みたいに、自分の力で誰かを救えるなんて勘違いしてるバカは見ていて腹が立つ」

「何だと!?」

 

織斑が怒鳴る。

 

「じゃあ聞いてやるよ。お前に一体何が出来る?」

「そ、それは…あ」

 

何かに気づいたように織斑は生徒手帳をだし、ぺらぺらとめくっていく。そして、目当ての項目が見つかったのか、手を止め、それを読み始める。

 

「特記事項第21、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意が無い場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。つまり、この学園にいる限り、三年間は安全だろ?その間になんとかすればいいんだ!」

 

ふむ。一見話が通ってるように聞こえるが…。

 

「その三年間でお前はどんな力を身につけるんだ?世界三位の企業相手に勝てるだけの力をお前が身につけられるのか?いや、それ以前に三年間ここが安全なんて言い切れないだろ。男装した程度で簡単に入れる学園ならいくらでも潜入できる。あいつの問題は、今すぐにでもどうにかしなければならない問題だ。それが無理なら諦めろ。大体、デュノア本人が諦めてんだ。お前等がどうこう言うものじゃない」

 

この間のように、謎のISが侵入してくるかもしれないしな。

それ以前に、俺は許せないのだ。助かる努力もしていない奴が、他者の力を借りて助かる事が。助かる努力をしていた奴が助からなかったのに、悲劇のヒロインぶって助けてもらうことを望んでいる奴が。

そんな俺の気持ちとは裏腹に、織斑が俺の胸ぐらを掴んで壁に押し付ける。

 

「…離せ」

「お前は!友達が苦しんでるのに助けないのか!?」

「ああ、助けない。そもそもお前等を友達なんて思った事は一度も無い」

「っ!だとしても!助けを求められてんだぞ!?」

「デュノアがいつお前に助けを求めた?俺にはアイツが助かる事を諦めて捕まる覚悟をしていたように見えたがな」

「それでも!あの話を聞いてたんだろ!?助けないなんて、何考えてんだ!?」

 

保身のことしか考えてねーよ。でもそれ言ったら殴られそうだな。

 

「さっきも言ったけどよ。今時子供を子供と思わねー親だって一杯いるんだよ。それでもいつか助かるって頑張ってる奴がいる。俺の知り合いにもいたよ。けどな、そいつは中学一年の頃に死んだ」

「…っ」

 

デュノアが息を飲み込む音が静かな部屋に響く。

小学生の頃、女尊男卑の風潮が強くなりだした頃の話だ。

母親から奴隷のような扱いを受け始めた頃。そんな時に出会ったのが、同じ境遇の男子だった。次第に学校にも絶望してく俺が、唯一学校で話していた男子だった。小学校を卒業し、それでも女尊男卑の影響に晒され続けるだろうと覚悟して中学校に進学したが、そこで待っていたのは絶望だけだった。

その男子は両親からの虐待に加え、学校でいじめに遭い、教師にすら暴行を加えられていた。

そこからの話は簡単だ。過酷な毎日に、それでも未来に希望を持っていた彼はとうとう折れ、ある日の下校時刻に校舎の屋上から飛び降り自殺をした。

 

「なら、なおさら助けたいと思わねーのかよ!?」

 

はあ。もう、いいや。

胸ぐらを掴んでいる織斑の手首を握り、捻って外す。そしてその手を押し返す。澵井とデュノアの前で尻餅をつく織斑。その三人に向かって、言い放つ。

 

「助ける力も無いのに、無意味な目標を掲げるのはやめろ。お前みたいに現実を見ずに高すぎる理想を掲げるやつは、いつか必ず周りを巻き込む」

 

この学園で、俺が信頼したい人物は二人しかいない。それ以外にならどう思われようがどうでもいい。その二人に嫌われたら、所詮そこまでだったって事だろう。

 

「ま、真理。落ち着けよ、な?シャルルの事は俺も頑張るから」

「お前ごときに何ができる?親に見限られる程のクズだったお前が、人を助ける?調子に乗るなよ。所詮親の権力にしか頼れないお前が何を頑張るってんだ」

 

だから、大丈夫。嫌われるくらい、慣れたものだ。そもそもこいつ等に好かれたいなんて思ってないしな。

 

「…僕は……頑張るよ。今からでも、自分を助ける為に頑張るよ…!」

「…シャルル…」

「だから何だ?他人に言われたから頑張る?巫山戯るな。未遂とはいえ親の命令で犯罪を犯したお前に、救いなんてもうねーんだよ。大人しく法の裁きを受けろ」

 

そろそろ消灯時間が迫ってる。この辺で俺は帰るか。

 

「俺はもう部屋に戻る。お前等、つっても織斑だけか。さっさと部屋に戻るんだな」

 

部屋から出ようと扉に手をかけると、織斑に声をかけられる。振り返ってみると、織斑が拳を振りかぶっていた。でも、遅い。

拳を左手で去なして、腹を蹴りとばす。何すんだよ、危ねーな。

 

「ぐっ…」

「一夏!大丈夫か!?」

「あ、ああ。…真理」

「あんだよ」

「お前は絶対に倒す。お前が間違ってるって、認めさせてやる!」

 

それじゃ、駄目だ。分かっているのか、織斑。お前のそれは、正義では無い事に。他者を他者と認めない故の行為である事に。

だがそれを言ってやる程、俺は優しくないんだよ。

 

「ああ、期待してるよ」

 

扉を開いて廊下に出る。階段への曲がり角を曲がると、壁に寄りかかって口元を扇子で隠す楯無先輩がいた。この人ここで聞いてたの?聞こえるもんなの?

 

「ここで聞いてたんですか?」

「あはは、流石に聞こえないわよ。さっきまで扉の前にいたわ」

「そっすか」

 

どちらともなく二人で歩き出す。まあ、同じ部屋だしな。

その道中、楯無先輩が苦笑じみた笑顔を浮かべながら言った。

 

「あの話、よく出来てたと思うわ」

 

あの話、というのは、俺の友人が死んだという話だろう。俺の事を調べていた楯無先輩には分かったようだ。あの話が嘘だと。

 

「あの話のモデルは貴方でしょう?」

「…俺はそんなに被害妄想酷くないですよ」

 

まあでも、当たりではある。あの話は俺の経験にある程度の脚色をしたものだ。事実、俺が虐待じみた事をされていたのは両親ではなく母親と妹からだし。死んでないし。

 

「これからどうするの?私が言った事はしてくれたし、織斑君達と敵対することはないのよ?」

 

その言葉でボイスレコーダーの存在を思い出し、楯無先輩に手渡す。

 

「どうぞ。別に、敵対なんかしてませんよ。そもそも仲良くした覚えはないですし。俺がこの学園で信頼してるのは楯無先輩とティナだけですし」

「なっ!」

 

顔を赤くしている楯無先輩に気づかず歩いて行く。

信頼する人間は少ない方がいい。だが、アイツは気づいただろうか。俺が残したヒントに。

気づかなければデュノアの人生に汚点がつく。俺はそれでも構わないが、本当に助けようと思っていたのなら、気づけよ、澵井。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真理君、君は本当に優しいね…」

 

 

 

 

 

楯無先輩の呟きは、俺の耳には入らなかった。

 




いやぁ、前々から書きたいと思っていた所が書けました。
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