一般人は毒を吐く。   作:百日紅 菫

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未成年の炭酸飲酒は禁止です。

翌日からクラスや学園での雰囲気が激変した。

今までは休み時間のたびにウザいくらい周りに集まっていたのに、織斑と澵井が俺に近づいてこないからか、誰も俺に近寄らなくなっていた。まあ入学初日あたりに考えていた事が現実となったわけだが。

そんな中でも俺に話しかけてくるのがティナだ。相も変わらず昼休みになれば俺について来て一緒に昼飯を食い、放課後も、どこで習って来たのか徒手空拳の稽古を俺の隣でやっている。

 

「なあ、別に俺に付き合わなくていいんだぞ?」

「別に嫌々付き合っている訳じゃないよ?真理の噂も聞いたけど、私は真理がそんなに嫌な人だとは思ってないから」

 

だそうだ。まあ、有り難い事だ。

そういえば、澵井は俺のヒントにまだ気がついていないようだった。気づけばあっちから接触してくるだろうし、ヘタに触れないようにしておこうと思う。

一番の問題は織斑だ。あいつが俺を負かすとなれば、もうすぐ始まる学年別トーナメントがうってつけだ。まだ公表されていないが、タッグマッチになる予定だし、多分デュノアか澵井と組むだろう。俺も負けたくないけど、IS乗ったら勝てないしなぁ。強い奴と組めればいいんだけど、そうそういないし…。

あ、いた。強くて、織斑に敵対心抱いてて、俺の事をそこまで嫌ってない奴。

 

「真理ー、そろそろ終わりにしない?」

「ああ、そうだな」

 

六時になり、お互い稽古を終えた俺たちは部屋に戻る。これも最近の習慣だ。ティナと一緒に部屋まで戻り、晩飯も一緒に食う。放課後はほとんどティナと一緒に過ごしている。まあ、悪くない。

 

「ねぇねぇ、もうすぐ学年別トーナメントってあるじゃん」

「あるな」

「誰が勝つと思う?」

 

晩飯の最中、ティナがそんな事を聞いて来る。でも、そうだな。普通に考えてみれば…。

 

「ボーデヴィッヒ、デュノア、澵井の誰か、だな」

「なんで?セシリアとか鈴は?一夏とかも」

「代表候補生として考えればその二人はそこまで強い訳じゃない。ビットも衝撃砲も、研究すれば避けられるし。織斑は論外だ。一撃必殺を持ってても、代表候補生には当たらない。で、そうなると、ボーデヴィッヒとデュノアは情報がほとんど無い状態だからその時点で有利だし、澵井も第三世代兵器を見せてない。情報ってのは初心者でも勝てるためのツールだからな。それの有無で勝率はかなり変わる」

「へー。まあ、今の私たちじゃ専用機持ちには勝てないけどねー」

「そらそうだ」

 

まあ今回に限っては、単純な戦闘力だけで勝敗が決まったりはしないがな。

それより、どうすっかな。タッグマッチ公表は明日だし、それ以降に接触するか?そもそも俺と組んでくれっかな…。まあなるようになるか。

 

「どうしたの?」

「いや、何でもない。そろそろ戻ろうぜ」

「うん」

 

食器を返し、食堂を出ようとすると、前から織斑と篠ノ之、オルコット、凰の四人が歩いて来た。そして、織斑があからさまに睨んで来る。…うぜぇ。

あっちの女子三人にティナも雰囲気を察したのか、急に黙ってしまう。ま、俺は気にせず通り過ぎたが。しかし振り返らなくても分かる。後ろで織斑が未だに睨んで来ている事に。いやいや、そんなにやってたら流れでデュノアの正体バレそうなんだけど。バカじゃねぇの。

後からついて来たティナが小声で聞いて来る。

 

「ねぇねぇ、一夏と喧嘩でもしたの?」

「俺とあいつじゃ喧嘩は起きねぇよ」

 

友達じゃないし。

 

「もう。またそういうこと言う。友達は大事にしないと駄目だよ?」

「いやだから、俺とあいつは友達じゃないんだって。ティナと楯無先輩がいれば十分だし」

「えっ!?」

 

顔を赤くしているティナを放置して歩き続ける。

とにもかくにもボーデヴィッヒに頼むのは明日でいい。恐らく今日の行為でボーデヴィッヒに話しかける奴はそうそういないだろうし、ボーデヴィッヒ自身も基本的に周りの生徒は無視だろう。あいつが興味を持っているのは今の所、男子三人と、かろうじて専用機持ちの代表候補生。そしてアイツにとって絶対の存在、織斑先生くらいだろう。まったく、アイツは親離れできない子供か。いや、あながち間違いではないか…。

 

「あれ?巧じゃーん。一人?」

「…あ、ティナ、と真理か…」

 

なんで立て続けに来るんだよ…。お前等ワンセットで来いや。お前等のせいでティナに色々言われんのは俺なんだぞ。

 

「一夏ならさっき食堂に入ってったよ」

「ああ、知ってる。シャルルが体調悪くてな。俺も飯食ったらすぐ戻るんだ」

「転校したばっかだしね〜。お大事にって言っといてね」

「ああ、伝えとく」

 

そう言って澵井は食堂に向かったが、俺はというと、横からの批難の視線をできるだけ気にしないようにするので精一杯だった。

 

「真理、巧とも喧嘩したの?」

 

やっぱり。

 

「だから喧嘩する程の仲じゃないんだよ。それに俺は悪くないし」

「も〜。まあ、あんまり私が言う事でもないけどさ。男子は三人しかいない訳だし、仲が悪いままってのは良くないと思うよ?」

 

一理あるとは思う。しかし、俺とあいつ等は本当に相性が悪い。まさに水と油。犬と猿。きのこたけのこ。紫さんと恭助さんなみに相性が悪い。

自分の力で誰かを守りたいと考えるあいつらと、自分のために力をつける俺とではそもそも相容れないのだ。逆にボーデヴィッヒとは悪くない相性だとは思う。あいつは力を戦闘力と考えるタイプだが、俺はその考えが嫌いではないからだ。

 

「ん、まあ、考えとくよ」

「うん!」

 

その後ティナと別れ、部屋に戻ると楯無先輩が神妙な顔つきで書類を読んでいた。前にもあったな、なんて思いながらベッドに腰掛けると、音もなく楯無先輩が隣に座る。てか近っ。俺と先輩の間に隙間が無いんだけど。

くだらない考えは置いといて、先輩の持っている書類に目を落とす。そこにはドイツ、VTシステム、といった、どう考えても良い方に考えられない単語が並んでいた。

VTシステムについては前に布仏先輩に聞いた。裏に関わる事を決めた際に、ISに関する、普通の生徒なら関わらないような内容を教えてもらったのだ。

その内の一つがVTシステム。正式名称『Valkyrie Trace System』IS世界大会、モンド・グロッソの優勝者のデータを再現するシステムで、要するにほぼ織斑千冬のコピーだ。大会の回数が増えるにつれて、ISの世代も代わり、性能も上がってはいるが、操縦者の性能だけで言えば織斑千冬が最強だからな。

 

「それ、俺嫌ですからね」

「まだ何も言ってないじゃない」

「てか無理ですよ?IS初心者にはきっついです」

「まあ、そうよね〜。これどうしようかしら」

 

楯無先輩は学年が違うし、俺はIS初心者。条件からして、恐らく学年別トーナメント中に発動する。逆に言えば、トーナメントさえ乗り切れば発動する確率はガクンと下がる。それでもゼロになるとは言えないが、おそらくほぼ発動する事はない。

一番いいのはトーナメントに参加せずに、ISを一度分解してVTシステムを取り除く事だが、あいつの性格上それはあり得ない。次善の策としては発動条件を満たさないようにトーナメントを勝ち抜く事。その場合一番注意しなくてはならないのは織斑戦だ。タッグマッチになる事から、織斑はデュノアか澵井のどちらかと組む筈。オルコットや凰もあり得るが、勝つ為に組むなら前者のどちらかだろう。

となると、澵井やデュノアレベルを抑えられる人物と組んでもらい、織斑に圧勝してもらう。だがそんな人物はこの学年にはいない。

俺も組もうとは思っていたが、正直これに関わるのなら組まない方がいい。

 

「ドイツの方からは何か言われてるんですか?」

 

立ち上がって備え付きの冷蔵庫からお茶が入っている筈のペットボトルを取り出す。ふたを開けるとプシュッと空気の抜ける音。

 

「んーん。なーんにも言われてないわ」

「へぇ」

 

何も、ということはどうなっても良いということだろう。嫌になるね。

そう思いつつお茶を飲むと、喉に刺激が。

 

これ、お茶じゃないわ…。

 

その後の記憶は、俺にはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無side

 

いつまでも書類とにらめっこしていたって何かが変わる訳じゃない。気分転換に私も飲み物を飲もうと思い、立ち上がる。すると、寝間着の裾を引っ張られる。この部屋には私と真理くんしかいないから、必然的に裾を掴んでいるのは真理くんになる。VTシステムについて何か考えがあるのかと思い、振り返るとそこには。

 

「…せんぱい…どこいくんですか」

 

顔を赤くし、どこか潤んだ瞳で、上目遣いで私の裾を掴む真理くんの姿。

え?なにこれ?てか誰?なにこの可愛い子?

普段の真理くんとはかけ離れた、むしろ別人にしか見えない彼の姿にVTシステムの事など脳内から吹き飛び、鼻からは愛が溢れそうになる。心無しか真理くんの目が垂れ目になっているように見えるし、長くなった髪のせいで中性的どころか女子に見える。

 

「いっしょにいてくれないんですか…?」

 

可愛過ぎっ!

 

「い、いるいる!一緒にいるわ!」

「ん」

 

もう一度隣に座り直すと、私の肩に頭を預けて来る。何これ。何これ!?こんな恋人みたいな!あれ、私たちって付き合ってたっけ?いやいや、現実を見なさい更識楯無!

真理くんが甘えてくれるのは嬉しいけど、なんでいきなりこうなったのかを確かめないと。といってもさっきまでは普通だったし…。そういえばさっき何か飲んでたわね。

真理くんの向こう側に置いてあるペットボトルへ手を伸ばし、ラベルを確認。

 

「緑茶?でも中身違うわね」

 

そういえば真理くんって、元一般人だからか作った麦茶を空いたペットボトルに入れて冷やしてたわね。あ、そういえば、いたずらしてやろうと思って私がコーラ入れた奴もあったわね。

ふたを開けるとプシュッという音。匂いを嗅いで見ると炭酸と甘ったるいコーラの香り。

 

「もしかして、炭酸で酔ってる…?」

 

いやいや、まさかね。ビールとかならともかく炭酸は無いでしょ。

…………………でもねぇ。

 

「せんぱい、ねむい」

「え?」

 

ど、どうすればいいの?とりあえず、私がどいて、ベッドで寝かせてあげればいいのかしら。てかやっぱり酔ってるわね。炭酸で酔うなんて、真理くん唯一の弱点じゃないかしら。

 

「もうねる…」

「え、ちょ、まっ…」

 

デジャヴー!

抱きしめられて真理くんが上で私が下で真理くんの顔が胸にでもやっぱり可愛くて!!

ヤバいヤバい。でもほら、二回目だし。もう慣れたっていうかね?もう抱き返す余裕すらあるし。前回と違ってまだ眠くならないしね。

 

「…やっぱり、可愛いなぁ」

 

私の胸で小さく寝息を立てている真理くんの頭を撫でながら、VTシステムの事を考える。正直無理矢理にでも外さなければならないモノだけれど、今年の一年生に任せてみようかとも思う。専用機持ちもいるし、なにより真理くんがいる。好きな人とか、そういう偏見を除いても、真理くんには期待してしまう。そういう何かがある。

まあ、きっと大丈夫でしょう。

それより今の状況の方が大丈夫じゃない。可愛過ぎでしょ。

 

「えへへ。よしよし」

 

にへらーと緩んでしまう顔を気にする事無く、私の上で寝ている真理くんと自撮りのツーショットを量産し、パソコンに送る。

真理くんが寝てから一時間程経ち、真理くんも私の上から横にずれ落ちている。

静かに、丁寧に真理くんの拘束を外しベッドを整えて、自分のベッドに戻、らずに真理くんのベッドに潜り込む。うんうん。良い匂い。暖かい。幸せ。

私は未だかつて無い幸福感で満たされながら、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やってしまった…。

翌朝、五時。朝練に行くこと無く、ベッドの縁に腰掛けて頭を抱えていた。

まさかお茶ではなく炭酸を飲んでしまうとは。学園生活に慣れて来て気が抜けていたか。炭酸だけに。いや、くだらないこと言ってる場合じゃねぇよ。

俺にとって炭酸とはアルコール度数の高い酒と一緒だ。恭助さんも炭酸で酔うが、俺の場合は退行というか、いわゆる甘え上戸になる、らしい。らしいというのは、俺にその時の記憶が無いからだ。以前炭酸で酔った時は、ことはさんに抱きついたまま寝ていた。まあ中学上がる前だったからギリセーフかと言われればそうなのかもしれないが、当事者としては恥ずかしくて死ねるレベルだった。

それは置いといて。入学初日辺りにも楯無先輩と一緒に寝た事があったが、その時はお互い様で事は済んだ。しかし、今回は完全に俺の落ち度だ。土下座で済めば良いんだけど。

 

「…んん……」

 

ああ、起きちゃった…。しょうがない。腹を括ろう。

 

「おはようございます、楯無先輩」

「…おはよー、真理くぅん」

 

まだ寝ぼけているが、目が覚めたらすぐに思い出すんだろうなぁ。とりあえず先に謝っとこう。

 

「昨日はすみませんでした。俺炭酸でも酔っちゃう体質で、なんか甘え上戸になるらしくて…。俺に出来る事ならある程度何でもするので通報だけは勘弁してくれませんか?」

 

ベッドの上で土下座する。かなり覚悟しての土下座だったが、返って来た言葉は以外にも柔らかい言葉だった。

 

「んー…じゃあ三つお願い聞いてくれる?」

「はい」

「一つは、今日公表されるタッグマッチの相方はラウラちゃんにしてくれる?」

「まあ、元々そうするつもりだったんで別にいいですけど、VTシステムはどうにも出来ませんよ?」

「それは別にいいわ。発動してもすぐに逃げていいし」

「じゃあ、了解です」

 

ふむ、中々の好条件だった。一つ目は。

 

「二つ目は今度一緒に買い物行きましょ」

「そんなことならいくらでも」

 

そういや髪留めのお礼もしてなかったな。しっかり返さないといけないし、このお願いも俺にとっては願ったり叶ったりだ。

 

「三つ目は、…………ぃ」

「え?すいません、もう一回言ってもらってもいいですか?」

 

もにょもにょと口ごもる先輩に再度問い直す。さすがに俺でも聞こえなかった。織斑なら何かを言った事すら分からなかっただろうな。

 

「だから!また一緒に寝て欲しいって言ってるの!」

「は?」

 

なんだそれ。意味分からん。

 

「なんかね?真理くんと一緒に寝ると熟睡できるのよ。今までは更識として仕事で一杯一杯だったし…。たまにで良いのよ!お願い!」

 

いや、俺は別にいいんだけど。中学の時もヒメさんとかことはさんとかアオさんとかと一緒に寝た事あるし。

 

「まあ、先輩がそれでいいならいいですけど」

 

それを聞いた楯無先輩の顔がパアァっと明るくなる。今までどんだけ熟睡できてなかったんだ。

まあそれはそれとして、まだ時間あるし朝練してくるか。先輩も許してくれたし。あー良かった良かった。今後はもっと気をつけないとなぁ。良い教訓になった。

 

「じゃあちょっと朝練行ってきます。多分今日も窓から入るんで鍵開けたままで良いですよ」

「あ、私も行っていい?」

「俺に決定権はありませんよ」

「じゃあ行こっか!」

 

その後、グラウンドでいつものようにランニング、雑木林のような場所でパルクールの練習、最後にもはやクライミングと化した壁登りをしていたら、楯無先輩に驚かれたが、なんだかんだ楯無先輩もこなしていた。まあ肩で息をしていたけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。織斑に睨まれたりしながら授業を終えた俺は、生徒会室に行くついでにボーデヴィッヒを探していた。無論、タッグマッチのパートナーを頼む為だ。

もう既に公表はされている。ティナには前もって組めない事は伝えてあるし、もしボーデヴィッヒと組めなかったら当日の抽選になる。そうなったら一回戦負け、良くても二三回戦出場が限界だろう。そもそも相手方が俺に対していい印象をもっているとは限らないし。むしろ最近の織斑達との険悪な雰囲気を読んでか、悪い印象を持っている人の方が多い。そうならない為にもボーデヴィッヒとは確実に組みたい。

で、今何処に向かっているかというと。

 

「第三アリーナで代表候補生三人が模擬戦してるらしいよ!」

 

とのこと。まあ俺に言って来た訳じゃないが。

廊下で騒ぎながら第三アリーナに向かう生徒達の流れに乗って、俺も第三アリーナへと向かっているのだ。代表候補生三人ならオルコット、凰、ボーデヴィッヒで間違いないだろうし。デュノアなら男子が、って言われる筈だし、四組にもいるらしいが専用機を持ってないらしいし。

問題の第三アリーナに来てみれば、ボーデヴィッヒ一人にボコボコにされる凰とオルコットの姿。そして、怒りの形相で今にも飛び出そうとしている織斑。

やっべ、この後どうなるか分かっちゃった。デュノア、止めろ!俺の仕事が増える!

 

「やめろぉぉお!」

 

ああ、駄目だった。終わった。

織斑がISを展開し、単一能力を使って客席のシールドバリアを切り裂いて飛び出す。ふざけんなよマジで。脳内に現れた楯無先輩がにっこり笑顔で始末書を押し付けて来る。布仏もいないし、確実に止められなかったとか言って俺の責任になるやつだよ。

これから来るであろう始末書に頭を抱えながらもアリーナ内を見ていると、ボーデヴィッヒが手を突き出し、その目前で停止している織斑の姿があった。ああ、あれがドイツの第三世代兵器『AIC』ってやつか。

アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略で、簡単に言うと相手の動きを空間ごと停止させるものだ。

いやいや、そんなことより。とりあえずこの周辺から人払いをしないと。シールドバリアは自動復旧とかしないから流れ弾が来たら危ないし。

 

「あー、流れ弾の危険があるので、死にたくない人は破壊されたシールドバリアから離れてくださーい。流れ弾で怪我をした場合は撃った本人と織斑一夏に責任がいきまーす。治療費も学園が払いまーす。ただ怪我でなく即死した場合はその他諸々に消えない心の傷を負わせる事になりまーす。その責任は当局では負い着れませんのでご了承下さーい」

 

この時避難しながらこれを聞いた生徒が「この人、自分の責任にする気ないな…」等と思っていた事を俺は知らない。だって言ってる俺も避難させる気ないし、実際俺の責任じゃないし。

そんなこんなで斬られたシールドバリア周辺から人気が無くなると、アリーナ内で織斑先生が生身でIS用ブレードを持ち、ボーデヴィッヒのプラズマブレードを受け止めていた。ありゃあ俺じゃ無理だな。てか生身で受け止めるってどんだけだよ。マジの化けもんだな、ありゃ。

織斑先生の一喝で両者が引き、ピットへと戻って行く。オルコットと凰は思いの外重傷なのか、織斑とデュノアに運ばれていた。

さて、俺も目的を果たしに行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Bピットへ行くと、タイミング良くボーデヴィッヒが制服姿で出て来た。

 

「よう」

 

軽く声を掛けると、俺に気づいたボーデヴィッヒが振り向く。ふむ、あれだけ動いた後なのに涼しい顔して汗一つかかないとは。流石軍人。よく鍛えられてる。

 

「何か用か、佐倉真理」

「ああ。今度の学年別トーナメントは知ってるか?」

「当然だ。先程教官もおっしゃっていたしな」

「じゃあそれがタッグマッチになったことは?」

「いや、それは初耳だ」

 

じゃあまだ誰とも組んでないな。ていうか織斑先生が言ってたの?さっき?絶対さっきの続きはそこでやれとか言っただろ。

 

「なら俺と組んでくれ」

 

ボーデヴィッヒは少しの間顎に手を当てて思案すると、考えが纏まったのか顔を上げた。転校初日から変わらない無表情で。

 

「私は確かに貴様が強いと言ったが、それは心と生身の戦闘においての強さだ。軍でも調べたが貴様のIS適正値はD。ISの搭乗経験は一時間にも満たないだろう。そんな貴様と組んで私にどんなメリットがある?」

 

ふむ。実に正しい。織斑の一見筋が通ったような話とは違って、しっかり問題の芯を捉えている。それはあいつがバカなだけか。

にしてもメリットね。VTシステムの事言っても俺にはどうする事も出来ないからメリットにはならないしなぁ。

 

「…そうだな。織斑と一対一の勝負をさせてやる」

「どういう意味だ」

「タッグマッチである以上、織斑が組むのはデュノアかそれ以外。澵井は事情があって織斑と組めないし、それ以外の方も篠ノ之が最有力候補だ。オルコットや凰の可能性もあるが、さっきの勝負を見た感じ、ダメージレベルが高くて出れるかどうか怪しい」

「確かにな」

「でだ。もしデュノアが出れば俺の一言で一対一にしてやれるし、篠ノ之の場合はもっと長い時間一対一にしてやれる。二人じゃなくても、もしお前が組んでくれて、一回だけ俺にISの稽古をつけてくれればどうにでもなる」

 

これでどうだ。織斑を叩きのめしたいボーデヴィッヒには魅力的な話だろ。

 

「ふむ。確かに魅力的だが、相手が二人でも私は勝てる。その内の一人が織斑一夏なら尚更だ。よって貴様の提示した条件ではあまりメリットとは言えんな」

 

チッ。中々良い提案だったと思うんだがなぁ。じゃあ第二案だ。

 

「じゃあ今の提案にもう一つ情報を足そう」

「ほう?」

「もし俺と組まず、別の奴ないし当日の抽選で相方を決めた場合、味方に裏切られる可能性がある」

 

黙って先を促すボーデヴィッヒ。これともう一つで乗ってこなかったらお手上げだ。その場合は俺が当日の抽選に賭ける事になる。

 

「そうなった時に一番最悪なのは、お前の相方が澵井で織斑の相方がデュノアの場合だ。三対一になれば流石にお前でも勝つのは厳しいだろ。お前の第三世代兵器の特性的にも多数を相手にするのはあまり得策じゃない。それ以外の場合でも常に背後から狙われる可能性がある限り、俺以外と組むのは得策じゃない。その点俺はお前に織斑を叩き潰して欲しいし、痛いのは嫌いだ。ISに乗って本気になったお前を止められる訳ないし、裏切る要素が他の奴より低いと思うんだが」

 

まあ正直この話は机上の空論だ。ここの生徒は普通に真面目だし、誰と組もうと勝つ意欲を持っている。しかし、その生徒を見下しているボーデヴィッヒからしてみれば納得できる話でもあると思うのだ。

そして、俺の思惑はギリギリ成功した。

 

「…仕方があるまい。貴様の穴だらけの空論に乗ってやろう。そもそもメリットが有ろうと無かろうと、貴様よりマシな生徒なぞいないだろうしな」

 

なんだよ、俺の考え損かよ。最初から俺と組む気だったならそう言えよ。無駄に頭使ったじゃねぇか。腹立つぅ。

まあもう一つの方じゃ乗って来るかどうか分からないし、良かった良かった。ちなみにもう一つは、ボーデヴィッヒの第三世代兵器の特性とその弱点を知ってるから俺を敵に回さない方がいいよ、的な話をするつもりだった。その場合、情報を手に入れたルートは織斑先生から聞いたとでも言っておくつもりだった。男子の中で俺だけ専用機を持っていないから公平を期す為に周りより情報を持つ、というハンデの為に。とでも言って。

 

「んじゃあ、まあ、トーナメントではよろしく」

「ああ。訓練はいつやるのだ?」

 

そうだなぁ。感覚忘れないためにできるだけトーナメント近くがいいし。多分楯無先輩が生徒会長権限使って訓練機貸し出してくれると思うし。

 

「トーナメント二日前がいいな。訓練機の貸し出しも出来るようにしておく」

「了解した。時刻はまた連絡してくれ」

「ああ、わかった」

 

こうして、俺とボーデヴィッヒのタッグは完成した。

 

 

 

 

 

この時から決まっていたのだろう。いや、俺がボーデヴィッヒと組もうとした時から決まっていたのかもしれない。

俺が、あの力を手にすることは。

 

 

 

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