言い訳ですね。
パソコンは新しく買いなおしましたし、今後はもっと早く更新できるよう精進します。
ではどうぞ。
正座って、時と場合によって辛くなったりするんだな…。
そんな馬鹿な事を考えている俺は、生徒会室にて、布仏先輩と並んで正座していた。この人が楯無先輩に怒られている構図はかなり珍しく、先ほど出ていった布仏妹も驚いていた。
そう、俺たちは今楯無先輩に怒られている。
何故かと言われれば、俺は危険な行動をとったからで、布仏先輩はどうやら楯無先輩の親とか上司みたいな人に頼まれて、澵井に関する偽の情報を楯無先輩に渡したらしい。
なんとも言えないが、その上司みたいな人はきっとイイ性格をしているに違いない。
「虚ちゃんは私の従者でしょ?いくら私のお母さんからの指示でも、本来仕えている私を騙すのはよろしくないんじゃないかしら?」
「仰る通りです」
正座し、目を瞑った布仏先輩は、いかなる処罰も受けるといった体で、その姿はいっそ格好良くすらある。やってることは反省の証の正座なのに。
「ただ、今回の件を提案なされたのは奥さまですが、最終的に決定を下したのは私です。澵井様方の事情をお聞きし、事情を知る人物は可能な限り少ないほうが良いと判断しました。また、本来の事情をお嬢様に話せば、澵井コーポレーションに潜む女権団の人間を排除する為にお嬢様の仕事が増えると思い、勝手ながら独断で行動させていただきました」
「仕事が増える?一企業のために、裏のトップが動くんですか?」
「確かにね。いくら世界一の企業といっても、所詮は企業。世界二位の企業も日本にあるし、私が動く必要はないわよね?指示くらいは出すけれど、実際に動くのは虚ちゃん達なわけだし」
つい口を挟んでしまった。だが、本当に疑問なのだ。楯無先輩が言ったように、実質的に楯無先輩がすることは指示を出すだけ。それに、口ぶりから察するに女権団の人間も割れている。ならあとは実力行使で捕まえるだけだ。さらに言うなら、今ここで話してしまっては、結局楯無先輩が動くことになってしまう。布仏先輩もそれをわかっているはずなのに、わざわざ自分の主を騙すようなことをし、今すべてを話している意味がわからない。
「いいえ。本来ならば、お嬢様が動く必要はありません」
「…本来なら?」
「はい。佐倉君、あれが見えますか?」
正座しながらある方向を指さす布仏先輩。そのしなやかな指先が示す方へと視線を向けると、そこには。
「………ああ…」
今にも崩れそうな程積み重なった書類の山が。
以前はもう少し高かったはずだ。俺や布仏先輩が協力して、あの高さまで減らしたんだが、そうか。あれが原因か。
「一昨日まで、昨日提出の書類が溜まりに溜まり、生徒会室からお嬢様を出すことすらできませんでした」
「うっ…!」
「そんな中、澵井様方の事情を聞き、女権団の人間を排除しなければならないことを知ったら、お嬢様は何をしてでも抜け出すでしょう」
「うぐっ!…だ、だったらそこだけ言わなければよかったじゃない!」
抜け出すことは否定しないのな。
「無理です。芋づる式にすべてを語らなければ説明はできません」
布仏先輩はそこで息を吐くと、楯無先輩を責めるような視線を納め、反省している姿勢を見せた。
「しかしながら、私が独断で行動し、お嬢様へ偽の情報を伝えたのもまた事実。更識家の従者にあるまじき行為をした事への罰は、いくらでもお受けいたします」
うわ、楯無先輩がちょっと可哀想になってきた。
確かに布仏先輩がしたことは裏の組織だろうと表の組織だろうと許されないことだけれど、今回はその原因が主人にある。楯無先輩の度重なる脱走とさぼりさえなければ、スケジュール的にあの書類の山は今より半分以上少なかったはずだ。そうなれば布仏先輩も嘘を吐く必要はなかっただろうし。
しかも事実がどうあれ、仕えている主に偽の情報を渡したのだ。当主で主の楯無先輩が、従者の布仏先輩に罰を与えなくてはならない場面だろう。
どーすんだろ、これ。
「………虚ちゃん」
「はい」
「一週間の自室謹慎よ。授業とご飯以外は部屋にいなさい」
「了解しました」
それってつまるところ、ただの休暇じゃない?楯無先輩が広げてる扇子にも有給休暇って書いてあるし。
楯無先輩から謹慎処分を言い渡された布仏先輩は、正座による痺れも無いのか、スッと立ち上がり「それでは失礼します。真理君も騙してしまう形になり申し訳ありません」と言い残して部屋を出て行った。確かに推理が間違っていたのは残念だが、結果的には予想より良い方向に進展しているし、そもそも俺にはあまり関係のない話だからな。
さて、じゃあ俺も帰るかな、っと。
「待ちなさい、真理君」
おっとっとぉ?やっぱりダメかぁ。
「真理君には聞きたいことと言いたいことがあるんだからね?」
「また今度じゃダメですかね」
「ダメに決まってるでしょ」
そらそうだわ。だって
「なんで織斑先生と戦うことになったのかな?それも明日に」
約一時間前。織斑を切り刻んだ俺がピットへと戻ると、そこには呆れ顔の織斑先生とひどく疲れた顔をした山田先生が待っていた。
「まったく。貴様はどれだけ無謀なことをしたかわかっているのか?」
「俺もまさか無傷で助かるとは思いませんでしたよ。それについては結果オーライってことでダメですかね」
あからさまにため息を吐くと、楯無先輩からもらった桜のヘアピンと並ぶようにつけられた黒い十字架のヘアピンを見る。
ピットにつくなり元VTシステムの『四音』はこの姿へと変わった。専用機なんかの待機形態と同じものなんだろう。
「それが…」
「はい。四音っていうらしいです。そんで多分、俺以外には使えないでしょうね」
言いながら十字架のヘアピンを外し、織斑先生に手渡す。元々はISと同じくらい凶悪な兵器だ。学園側としても、俺に渡すにしろ渡さないにしろ、十全な調査を行いたいところだろう。
「ああ。山田先生が軽く解析してくれていたが、おおよそ普通のISでは無いな」
だからこんなに疲れてんだ、山田先生。仕事増やしてすみません。
「さて、もう一つ聞きたいことがある」
「織斑のことですか」
「そうだ。あいつと何を話し、何故戦った?」
織斑先生の視線が鋭くなる。その中には織斑を叩き潰した怒りと生まれたばかりの兵器を簡単に扱った俺への怒りが含まれている。あれ?俺が怒られてるだけじゃん。
俺は睨まれながらアリーナでの出来事を語った。織斑の言動から俺がどう思ってああいう行動にでたか、事細かに。だって俺だけ怒られるのとか不公平だからね。
「偽物、か」
俺の話を聞き終えた織斑先生は、ポツリとつぶやいた。それは、俺が頭にきた原因でもある。
「あいつ、本当に剣道やってたんですか?自分がどうやって強くなったかも理解していないのに」
「まったくだな。だが」
頭に衝撃。次いでやってくる鈍痛。どうやら出席簿で叩かれたようだ。いってぇな、なにすんだこの鬼教師は。
「お前はもっと冷静だと思っていたぞ。自らの正義を否定され怒るのはいいが、もっと周りの状況を見ろ。おまえならできるだろう」
「………はい」
「罰として、織斑の更生を手伝え」
「は?更生?」
「偽物は悪じゃないことを証明するのに力を貸せ、という意味だ。私が言ったところで、お前に散々否定された後じゃ素直に聞き入れるとは思えん」
「はぁ。具体的に何をすればいいでしょう」
織斑先生は少しだけ口角を上げて、入学してから一度も聞いたことのない楽しそうな声で言った。
「明日、私と戦え」
「ということです」
「ということです、じゃないわよ!」
俺だって納得しているわけじゃない。俺と織斑先生が戦っているのを見た程度で織斑の考えが変わるなんて思えないし、織斑の考えを否定したからといって改めさせたいわけでもない。
でもまあ、罰だしな。うん、しょうがない。
「……真理君、ちょっと楽しみにしてる?」
いや、だってなぁ。
「相手は世界最強なんでしょう?俺の中で一番強いのはヒメさんですし、どのくらい強いのか気なるじゃないですか」
「はぁ…。確かに真理君は強いわ。生身なら私と同じか、それ以上よ。でもね、織斑先生は私でも歯が立たないくらい強いの。この世界で織斑先生と同等に戦えるのは二代目ブリュンヒルデだけとも言われてるくらいね」
楯無先輩が呆れたような顔で力説している。が、全て右耳から入って左耳から抜けていく。ついでにあくびをしたときに口からも抜けていった。
織斑先生が強いのは知ってる。俺が敵わないこともわかってる。だが、それがどうした?
昔から自分よりも圧倒的に強い人たちを相手に、ボコボコにされてきた。それでも、いつか勝ちたいと思って、力を磨き、研鑽し、挑んで、敗れて、また鍛錬を積む。
そうやって強くなる。そうやって、本物になる。
それに。
「前にも言ったじゃないですか。白黒はっきりさせたいタイプだって」
一瞬きょとんとした顔になる楯無先輩だが、瞬きしたあとにはすでにさっきの呆れた顔に戻っていた。
「はぁ、まったく。普通なら挑む前から勝敗がわかってる試合なんてしないとお姉さんは思うんだけど」
「急にお姉さんぶられても。それに、戦る前から勝敗が決まってる試合なんてこの世にありません」
「……わかったわ。もう止めない」
よかった。わかってもらえたようだ。まあわかってもらえなくても試合はするんだけど。
「でも!試合は私も見るし、何より怪我はしないこと。私だけじゃなくてティナちゃんにも心配かけることになるからね」
「了解です」
もとよりそのつもりだし、織斑先生も本気でやって生徒に怪我をさせるような人ではないしな。
「とは言ったものの、勝算はあるの?」
「無いですね。でも、楯無先輩とやった時よりは強くなってると思いますよ、俺」
「それは桜新町に行ったからかしら?」
「結果的にはそうですね。ヒメさんに負けてたらあまり変わらなかったでしょうけど」
「え、師範さんに勝ったの!?」
「言ってませんでしたっけ?」
「聞いてないわよ!」
「まあまあ、今言ったんだから許してくださいよ」
「……」
頬を膨らませてむすっとしている。大分前にもこんな顔をしていたことがあるが、その時は猫を被っているような感覚であまり好きじゃなかった。でも、今は楯無先輩の素の表情が出ているようで、普通にかわいいと思う。俺じゃなかったら好きになってただろうな。
「んで、ヒメさんに言われて、今まで使えなかったものが使えるようになったんです」
「使えなかったもの?なにそれ」
「それは明日のお楽しみですよ」
口に人差し指をあてると、渋々納得してくれたのか楯無先輩は頬を赤くしながら生徒会長席の椅子に座ってくれた。
「暑いなら窓開けましょうか?」
「違うわよ!」
「そうですか。あと、その書類は俺手伝いませんからね」
「えー手伝ってよー!」
「嫌です」
いつも通りの会話を経て、さっきまでの非日常が終わりを告げた。
巧side
「じゃあ、そういうことで」
「ああ、明日までに終わらせるから、そっちも頼んだぞ」
「………その、ありがとう」
「もうそれは聞き飽きたわ。アンタも上手くやるのよ?」
じゃーねー、と手を振って二人そろって待たせていたのであろう車へ乗っていく。
シャルルを助けるための計画を父さんと母さんと相談した後、学園であったことなどを軽く話していると、すでに夕食時になっていた。二人はレストランを取ってあるとかで、今帰ったところだ。
見送りが終わった俺は、夕食を摂るために食堂へと足を運んだ。そこには死屍累々といった風体の女子生徒が大量に発生しており、足を踏み入れるのを躊躇ってしまう。
そんな中、テーブルでご飯を食べている黒髪と金髪を見つける。
「なあ、これどうしたんだ?」
「巧か。さあ、俺にも分かんねぇ」
「トーナメントが中止になるからじゃないかな。データを取るために一回戦は全部やるみたいだけど」
「へぇ、そんなに試合したかったのかねぇ」
この時、俺たちは全く知らなかったのだ。このトーナメントで優勝すれば男子の誰かと付き合うことができるとされていたことを。
それよりも気になることが一つ。
「お前ら真理と戦ったんだろ?どうだった?」
シャルルのことで話し合っていたから試合を見れなかった。だから何の気なしに聞いてしまったのだが、どうやらミスチョイスだったようだ。
一夏の顔が強張り、シャルルも困ったような表情をしている。
「…なんかあったのか?」
「試合の途中でボーデヴィッヒさんが変なシステムに乗っ取られちゃったんだ」
「は?それ大丈夫だったのか?」
「うん。でも、真理がそのシステムを飼いならしちゃったみたいで、ISみたいになったそれで一夏と戦って勝っちゃったんだよ」
「は?」
意味が分からない。変なシステムとやらを飼いならした?真理が?てかシステムって飼いならせるものなのか?しかもそれで一夏に勝った?
「えっと、まあ、真理は相変わらず規格外だな…?」
「本当だよ」
「で、一夏が不機嫌なのは?」
「それは…」
シャルルが言い淀んでいると、問題の一夏が口を開いた。
「あいつが使ったのは千冬姉の偽物で、俺と戦ってる時も俺の剣を真似してたんだ」
「剣を?真理って槍使いじゃないのか?」
「分かんねぇ。けど、あんな偽物の剣に俺は負けたんだ…!」
「へ~…」
多分一夏は悔しさと真理への怒りで不機嫌になってるんだろうな。
俺は見ていないが、変なシステムとやらが織斑先生のデータを流用したもので、それを真理が使いこなした。そして、一夏の剣術を真似して、おそらく最後まで槍で戦うことはなかったんだろう。それが真理の意志なのか、システム上そうなっただけなのかはわからないが。
真理に本気で戦わせることもできず、あまつさえ姉のコピーを使う真理に自分の剣術を真似されたのだ。悔しいし、怒りもする。
「俺はその場にいなかったし試合も見てないからわかんないけどさ、真理にも考えがあったんじゃないか?」
「だとしても!試合なのに本気で戦わなかったんだぞ!?」
「それ以上に伝えたかったことがあったのかもしれないだろ?」
「伝えたかったことってなんだよ?」
「それは分かんねぇよ。俺は真理じゃない。そういう可能性もあるってことを言いたいんだよ。一度、真理と話してみたらどうだ?」
一夏は苦々しい顔をし、悩みの百面相をした後、呟くようにポツリと言った。
「……わかった」
そんな一夏を微笑ましくシャルルと見ていると、食堂の入り口から山田先生と真理が歩いてきた。噂をすればなんとやら、だな。
「佐倉君の言う通り、全員食堂にいましたね。凄いです!」
「いえ、そんな大したことじゃないです」
大したことあるだろ。なんでわかるんだよ。
それより、山田先生は何しに来たんだろう。どうやら真理も山田先生に連れてこられたみたいだし、男子全員に話があるのはわかるのだが。
「どうしたんですか、山田先生?」
「朗報です!」
朗報?というか山田先生が胸を張ると、主張がすごいな。何が、とは言わないけど。
「…巧のエッチ」
「え、なんで俺だけ?」
シャルルにジト目で見られてしまった。
「なんとですね!男子の大浴場使用が解禁になりました!」
そんな俺たちに目もくれず、山田先生は自分のことのように喜びながら話してくれる。
確かに俺たち男子は学園の男女比率的に大浴場を使えなかったし、使えたら嬉しいな、みたいな話はしていたけれど、タイミングが悪かった。それはもう、自宅で浮気現場を目撃してしまったくらいタイミングが悪かった。
「おぉー!本当ですか!?」
「ええ!元々ボイラー点検があって生徒は使えない日だったんですけど、点検自体は終わったので男子の皆さんに使ってもらおうって計らいなんですよ!」
「ありがとうございます!山田先生!」
さっきまで不機嫌だった一夏が山田先生の手を握ってぶんぶん振り回しているが、俺とシャルルは二人で目を合わせて固まっていた。
一夏は風呂が好きだから嬉しくて忘れているのだろうが、シャルルは女なのだ。
「さあ、皆さん着替えを持ってきてください!鍵は私が持っていますので、浴場前で待っていますね!」
走り去る山田先生を呆然と見ながら、一夏の肩を叩く。少し不思議そうな顔をして振り向く一夏に指でシャルルを指し示す。
あ、なんて言ってるが、本当にどうしよう…。
「と、とりあえず、着替え持ってくるか…」
その言葉に全員が頷いて、解散していった。
「あ、皆さん来ましたね!」
浴場前で山田先生が手を振っている。
さて、どうするか…。
「あれ?佐倉君、着替えはどうしたんですか?」
そういや、何も持ってないな。
「ああ、部屋に戻ったら楯無先輩から連絡が来まして。生徒会の仕事があるそうなので、今日は遠慮させていただきます」
「そうでしたか。では、また今度ですね」
「はい」
真理はマフラーを靡かせながら去ってしまった。あいつ、多分面倒ごとになると思って早々に逃げやがった…!
でも、正直助かった。いや、頭数が減ればいいって問題じゃないか。
「では、皆さんはどうぞ!出るまでは私がここにいますので」
三人で無言のまま脱衣所へと入る。
さて、どうするか。
「…一夏と巧で入ってきなよ。僕はいいからさ」
「いや、シャルルが入って来いよ。俺らは部屋のシャワーでいいし。な、一夏」
「え、お、おう」
断言しろよ。
「じゃ、じゃあ、交代で入ろっか。先に巧たちからで」
「んー、じゃあそうするか」
「おう!サンキューな、シャルル!」
「ううん、じゃあ僕向こうで待ってるね」
シャルルが俺たちから見えないところに移動したところで、服を脱ごうとしたら、扉の開く音がする。なんだ?山田先生か?山田先生だとするとまずいな。さすがに教師の前でほぼ裸はまず過ぎる。
しかし、それは杞憂だったようで、入ってきたのは真理だった。
「どうした?」
「織斑先生が織斑を呼んでる。今すぐ来いってよ」
「な、なんで」
「知るか。じゃあな」
それだけ言ってまた出て行ってしまった。
「な、なあ」
「行ったほうがいいだろうな。怒らせたら何があるかわかんないし」
「だよなぁ…。はぁ、久しぶりの風呂なのに…」
どんだけ風呂好きなんだよ。
愚痴りながらも脱ぎ掛けてた服を着なおして、脱衣所から出ていく一夏。かわいそうに。織斑先生からの呼び出しじゃあ無視できないもんな。
「ね、ねぇ。一夏出て行っちゃったけど、どうしたの?」
「織斑先生からの呼び出しだってさ。俺一人だから早めに上がれると思うから」
「う、うん。ご、ごゆっくり…?」
服を脱ぎ終えてから、タオルを持ってすぐに浴場へ。
「おお、でけぇな…」
少しつぶやくだけでも声が響く。さすがに大人数が入れるだけあって、そんじょそこらの大衆浴場なんかとは比べ物にならないくらいの広さだ。湯の種類も五種類はある。シャワーも大量にあるし、サウナやジャグジーもある。なんだこれ。ちょっと高級なスパくらいあるぞ。
とりあえずかけ湯をし、体や頭を洗ってから風呂に浸かる。
「っあぁ~……」
久しぶりの風呂だからか、すごい気持ちよく感じる。まるで自分の体が湯船と一体化しているような感覚だ。
そうして湯船に浸かってグダグダしていると、カラカラという音が聞こえてきた。真理は絶対来ないだろうし、一夏が用事を済ませて戻ってきたのかな。
そんな感じで、俺は完全に油断していた。
「お、お邪魔します」
入ってきたのは、シャルルだった。
「…………」
「…………」
なんだ、何をしに来たんだシャルルは。
今は背中合わせで風呂に浸かっているのだが、完全に出るタイミングを逃した。しかもこの状態で一夏が来たらさらにヤバい。倫理的にも風紀的にも問題だらけだ。
「…俺、上がるよ」
出来るだけ静かに、あまり深刻にならないような口調で言う。ここで俺が取り乱したりしたら、何のために入ってきたかわからないが、シャルルもパニックになってしまうだろう。
だからこその言葉と行動なのだが、それはシャルルに止められてしまった。
「待って!」
「はい!?」
驚いて声がひっくり返ってしまった。
「巧に、聞いてほしいことがあるんだ」
その真剣な声に、浮かしかけた腰を下ろして、背中を向けて座りなおす。さっきまでと違い、女子と風呂に入ってることによるドキドキはなくなり、いや、あるわ。だって後ろに裸、よくてもタオル一枚の同年代の女子がいるんだよ?しかも美人。この状態で無心になれる奴を俺は男と呼ばない。
「前に、部屋で話したことなんだけど…」
「…!」
「僕、真理に言われて気づいたんだ。あの人に巧たちのデータを盗むように言われたのは事実だし、その前もいろいろグレーなことに関わってきたんだ」
そういえば、父さんたちも言ってたな。デュノア社は色々薄暗いことや、時には暗部が出動するような事案までしているそうだ。ただ、シャルルが代表候補生であることからわかるように、国が関わってるためにそういった追及から逃れていたそうだ。
「でも、その全部があの人のせいってわけじゃないんだって。真理の友達の話を聞いて、僕には、助かる意志が無かったんだって。僕は心のどこかで悲劇のヒロインを演じてたんだよ」
「…………」
「あの時、一夏がかばってくれたけど、やっぱり努力していない人が助かるのは努力している人に失礼だからね。だから、僕、あの人と話してみようと思うんだ」
「…そう、か」
「うん。でもね、そう思ったのは、巧のおかげなんだよ?」
「俺の?」
俺、何かしたっけ。
「二人が帰った後、巧がああ言ってくれたから、僕は学園に残ろうと思ったんだ」
あの時の言葉か。今思うと、ちょっと恥ずかしいんだがな。いや、今は俺の羞恥心なんてどうでもいい。
シャルルが助かりたいと、助かる努力をしようと思うのなら、俺が話そうと思っていたことはまさに渡りに船だ。
「なあ、シャルル。俺も話したいことがあるんだけど、いいか?」
「?別にいいけど、その前にもう一つだけいい?」
「あ、ああ」
「シャルロット・デュノア。それがお母さんがつけてくれた僕の本当の名前」
「シャルロット…。うん、そっちのほうが似合うよ」
シャルル改め、シャルロットとは背中合わせのままなのに、微笑んでいることが分かった。
「シャルロット。俺さ、今日両親と話したんだよ。詳しいことは省くけど、俺のことを考えてくれててさ、いい人たちなんだ。だからさ、シャルロット」
チャポンと音を立てて、湯船が跳ねる。その音につられて、シャルロットも振り返ってくれる。
アメジストの瞳を見ながら、俺はこう言ったんだ。
「俺の会社に来ないか?」
『俺は、一夏や真理みたいに俺がシャルルをどうしたいかなんて言えない。シャルルの未来はシャルルにしか決められないから。でも、それでも俺の願望を言うのなら、シャルルにはここにいて欲しいと思う。折角知り合えたんだし、何より、俺はシャルルと一緒にいたいしさ』