一般人は毒を吐く。   作:百日紅 菫

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サブタイトル変えました。


青春とは一体なんなんでしょうか。

「今日は助かったわ。ありがとう」

 

保健室からの帰り道、ハミルトンからお礼を言われた。ちなみに俺の肩にはサポーターがつけられている。脱臼を治した後はつけるらしい。ただ医療技術が上がったらしく一週間もつけていれば良いらしい。その間は過度な運動は避けなければいけないらしいが。

 

「別に気にしなくていい、って無理か」

「ん、まぁね」

「まあ、見返りを求めてやった訳じゃないから、詫びもいらないんだけどな」

「そう言われてもね。助けてもらったのは事実だし。わかった、今日の晩ご飯奢るわ。それでチャラ。どう?」

「それでそっちの気が済むなら何でも良いよ」

 

そんな会話をしている内にハミルトンの部屋についたらしく、また後でと言って部屋の中に消えて行った。

連絡先も聞いたし、ある意味この学園に来て初めて自ら創った関係性だ。だからと言って、心を開く訳ではない。完全に信用できる相手なんかこの世に存在しないし、今日の晩飯を奢ってもらったらそこで関係も終わりだ。連絡先は消すかデータの奥深くに眠る事だろう。

 

「さて、シャワーでも浴びますか」

 

部屋に戻って寝間着に着替える。本を読んで、連絡が来たらハミルトンと飯を食い、帰って来て歯を磨いて眠くなるまで本を読む。

うん。ニートだ。

ヤベェな。何がやばいって、このままだと将来が危うい。

高校一年生で将来の事を真面目に考えている奴なんてそうそういないとは思うが、俺の場合は状況が違う。

そもそも俺が行こうとした高校は商業高校だ。高卒、しかも男でも公務員になれる確率が高い高校だったから選んだ高校だ。そして高卒とともに親父には離婚してもらい、親父と2人暮らしするつもりだったのだ。

IS学園は確かに偏差値は高いが、基本はISの専門学校だ。そんな所にいて、公務員になる為の勉強を普通の人間が出来るか?専門学校まで来て、全く別の勉強をやる人間がいるか?というか、公務員になるという目標自体を捩じ曲げた方が良いかもしれない。親父は重要人物保護プログラムだっけ?で守られてるし、母親も妹も逮捕された今、高卒で就職する必要は無い訳だし。

じゃあ俺は一体何を目指すべきなのか?

それを考えた時、頭が真っ白になった。

 

「………あれ?」

 

高卒で公務員になりたいと思ったのは、あの家庭環境から抜け出す為だ。

だが、それを達成した今。

俺に残っているものは何も無かった。

自らの空虚さを知ってしまった。

こんななんの変哲も無い寮の廊下で。

 

「……せめて、屋上とか青春っぽいところで気づきゃ良かったのになぁ」

 

部屋に到着し着替えを持って脱衣所に入る。更識先輩がいないのは確認済みだ。

服を脱いで自身の体を見て、正確には体に残る大量の痣を見て、理解した。

俺は母親から暴力だけじゃなく、将来のレールを貰っていたのだと。

無論、あの女がそれを理解してた訳じゃないだろう。ただ、あの女の憂さ晴らしから逃げる事が俺の目標だっただけだ。

皮肉にも俺の中身はあの女で出来ていた訳だ。だから、あの女が消えて、俺の中身も消えた。

小説の主人公ならここで苦悩して、その苦悩から逃げるために問題でも起こして、友情なんかを再確認して、友達やら恋人やらと成長するんだろう。

何度目かになる否定をしよう。

俺は主人公じゃない。

だから、苦悩はするけど問題は起こさないし巻き込まれない。友情の再確認もしない。

じゃあ今何をすべきなのか。

俺に出来る事を探そう。これから先は俺一人で生きて行くんだ。少なくとも一年以内に目処をつけて行動しなければ、選択の幅が減る。

 

「俺ってホントつまんない人間だなぁ」

 

浴室に、ため息が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ティナ

 

「ふぅ〜」

 

部屋に入って大きく息を吐く。

さっきまではどうにか顔に出ないようにしてたけど、部屋に入ってからは顔が緩みっぱなしなのだ。

原因は分かってる。佐倉真理だ。

私はアメリカからの留学生だけど、代表候補生じゃない。だからこの学園に入学したのも知り合いからの紹介と整備科志望だからだ。

ただ私が入学する年に男性操縦者が見つかるとは思ってなかったけど。

ニュースを見たときはびっくりした。十数年も女しか乗れないって言われてたのに、ISに乗れる男が現れたこともだけど、男性操縦者が全員私と同い年で全員IS学園に入学するっていうんだから、本当に驚いた。

ニュースには顔写真も映っていて、三人の個人情報まで報道されていた。

その中で最も気になったのが、佐倉真理だった。

周りの皆は織斑一夏と結婚すればブリュンヒルデの織斑千冬がお姉様になるとか、澵井巧と結婚すれば玉の輿とか、イケメン2人の事ばかり話していたけど、私は佐倉真理の家庭事情を知った時、親近感を覚えたのだ。

私の両親も女尊男卑の風潮に流されて離婚した。

だから一家離散した彼に、皮肉にも親近感を覚えてしまった。

でもアメリカにいたときはそれだけだった。この人、私に似てるなーとか、向こうで会えたらいいなー、友達になれるかなー。そんな程度の事しか思ってなかった。

あんな出会い方をするまでは。

友達とお菓子パーティをしようとグラウンドの前を通った時だった。

お菓子を腕いっぱいに抱えていた私は周りが見えていなかった。だから、いきなり人が覆い被って来た事には驚いた。でもその人の呻き声と地面を転がるソフトボールを見て、私は彼に庇われた事に気づいた。

心配して駆け寄った私に彼は痛みに耐えながら応え、私が一年生であると分かるといきなりため口になり、それどころか大量の荷物を運ぶならバッグを使えだなんて文句までつけてくる始末。まぁその通りだけど。

この学園に来て一日二日だけど、クラスのほとんどが日本人。アメリカ人ということがネックなのか、友達という友達はいない。今日も行こうとしていたのはクラスメイトと仲良くなるためだ。集まりたい人で集まって仲良くなろう!みたいな会だったはず。まぁ彼と会った事で行けなくなったが。

友達がいない私は会に参加できない旨をメールでクラスメイトに伝え、保健室まで彼に同伴した。クラスメイトには申し訳ないが、彼とは話がしてみたかったのだ。アメリカにいた頃から気になっていたし。

日本はISの発信地ということもあり男も女も女尊男卑の風潮にかなり感化されていると知り合いに言われた事があったので、一応そこらへんにも気をつけて喋ろうとしたのだが、彼はそんなことも気にもせずため口で、ぶっきらぼうに応えた。

そして、保健室に向かう途中、呼び名やらで揉めたりしたが、終始私は笑顔だっただろう。

きっとあれが、あの会話こそが、私が友達に求めたものだ。

つまり私は、彼と友達になったと思っている。同年代の、異性の、初めての、友達。

長々と語ったが、そろそろ晩ご飯の時間だ。彼にメールを送り、着替えてご飯を食べに行こう。

初めての友達と。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『佐倉君の部屋って何号室?迎えに行くから教えてー(^v^)』

 

ハミルトンからメールが来た。と同時に右肩が重くなる。

 

「誰からのメール?女子?」

「邪魔です」

「いいじゃなーい。で、誰からなの?」

「削ぎ落として真っ平らにしますよ」

 

そう言ったら肩が軽くなった。後ろを見ると、赤いんだか青いんだか、微妙な顔をしている更識先輩がいた。さっきまではいなかったのにいつの間に部屋に入ってたんだ。流石は暗部の人間と言えば良いのか?

 

「セクハラと同時に恐ろしい事言うわね…!」

 

更識先輩が戦慄している間に手早く返信する。

 

「『談話室に行くからそこで待ってて』っと。じゃあ更識先輩、俺飯食いに行くんで」

「むぅ〜……まぁ、同学年の友達は大事だし、楽しんで来なさいな」

 

いきなり先輩ぶってどうしたんだ。まあ口に出すことじゃないし、素直に頷いてさっさと行ってこよう。

 

「じゃ、行ってきます」

「うん。いってらっしゃい」

 

寝間着の浴衣のまま、談話室へと向かう。言っても寮の中だし、大した距離も歩かず談話室へと到着した。

そこにはラフな恰好をしたハミルトンがいた。

 

「遅れてすまん」

「別にいいよ。てゆーか、何その恰好?」

「寝間着」

「へぇ〜。こっち来てから浴衣見たの初めてかも」

「ふ〜ん。とりあえず行こうぜ。何でも好きなだけ奢ってくれんだっけ」

「好きなだけは言ってないわよ!」

 

保健室からの帰り道の様に、テンポの良い会話を続け、食堂へと向かう。

その道中、すれ違う女子生徒からは奇異の視線を向けられた。主に俺では無く、終始笑顔のハミルトンにだろう。織斑や澵井ならともかく、男子の中で最も冴えない男と楽しそうに笑いながら歩いているのだから当然だろう。

それにしても、何故こいつはこんなに笑っているんだろうか。そんなに楽しいか?まぁ、ハミルトンの為にも俺の為にも、これっきりの関係にしよう。幸い、ハミルトンは一組じゃないし関わる事も少ないだろうから、そのうち記憶の奥底に仕舞われるだろ。

 

「ん?どうしたの?」

「…いや、何食おうかなぁ、と。とりあえず一番高いものとは決まってるんだが」

「高い奴って…まぁここの学食は安いから別に良いけどね」

「おお、太っ腹だな。流石アメリカ人」

「アメリカ人関係ないし!」

 

そんなこんなで食堂に着き、俺は親子丼、ハミルトンは洋食セットBを注文した。ハミルトンのお金で。

 

「つーか結構混んでるな。空いてる席は…」

 

と、俺が辺りを見回し空席を探すと、思いの他近くから声がかけられた。

 

「おい真理。ここ空いてるぜ」

 

既に食べ終えたのか、爪楊枝を咥えた澵井が手招きしていた。ちなみに俺が辺りを見回したとき、食堂にいる女子生徒からの射殺さんばかりの視線が向けられていた事を明記しておく。

 

「あー……ハミルトン、こいつと同席でも大丈夫か?」

「うん。佐倉君の友達でしょ?なら私も仲良くなりたいし」

「友達じゃねぇよ」

「おいおい、俺たち友達だろ?まぁいいや。俺は澵井巧。よろしくな、ハミルトンさん」

「ティナでいいよ、澵井君」

「なら俺も巧でいいぜ」

 

おい澵井。ハミルトンは気づいてないみたいだが、目が若干ハミルトンの顔から下に行ってるぞ。

ハミルトンはラフな恰好をしているが故に、体のラインが浮き出ている。高校生とは思えない抜群スタイルの良さが目に見えているのだ。

澵井は女が好きみたいだし、ハミルトンは顔良し、スタイル良しで澵井のお眼鏡には適ったようだ。

別に澵井がハミルトンを口説こうがどうでも良いが、こんな人がたくさんいる場所で、セクハラまがいのことはやめて欲しい。

飯を食い始め、俺が食べ終わったところで、ハミルトンが聞いて来た。

 

「ところで、佐倉君はなんで物干竿なんか持ってたの?洗濯?」

「違う。槍術の練習してたんだ。日課だし。継続は力なり、ってな」

「へぇ。槍使うんだ」

「昨日の試合もそれで勝ってたしな。代表候補生相手に」

 

澵井、お前ぺらぺら喋り過ぎだ。知ってしまった事を知らない事には出来ないって漫画で言ってたぞ。

 

「代表候補生に勝ったの!?」

「ISじゃなくて生身だけどな」

「それでもすごいよ!クラスの子が言ってたのは佐倉君の事だったのかぁ。巧は試合してないの?」

「俺は来週の月曜にやるんだ。良かったら見に来てくれ」

「行く行く!あーでも佐倉君の試合も見たかったなぁ」

 

残念そうにしているが、ハミルトン。あの試合は織斑先生がいたから死傷者が出なかったんであって、あの場に織斑先生がいなかったらオルコットの頭はスクラップだったんだぞ。まぁ俺のせいだけど。

 

「じゃあそろそろ俺は戻るわ。1人部屋だからいつでも来てくれ」

「え?お前1人部屋なの?」

 

あ、しまった。墓穴掘った。

 

「ああ。お前は違うのか?…ああ、一夏と同室なのか。大変そうだな」

「あ、ああ」

 

助かった…と、思った次の瞬間。俺を絶望させるバカの声が響いた。

 

「お!巧に真理じゃないか。一緒に食ってたなら俺も誘ってくれよ!ん?その娘は?真理か巧のルームメイトか?」

 

厄介なことしかしないのかお前は。

 

「真理…お前のルームメイトって誰だ?」

「はぁ、悪かった。女子の先輩だよ。織斑も多分女子、ってか、織斑先生か篠ノ之だろうな」

「まぁいいや。じゃ俺は先に戻る。またね、ハミルトンさん」

「もぐ…んぐっ…またね、巧」

 

澵井は織斑と入れ違いに去って行った。そして、さっきまで澵井が座っていた席に織斑が、その隣に篠ノ之が座った。

 

「巧もゆっくりしてけばいいのになー」

「俺等が来る前からいたんだ。長居させるのも悪いだろ」

 

まああいつが帰ったのは、多分織斑が来たからだろうな。教室でも、澵井から織斑に声を掛けている所は見た事がない。

 

「そうか。それよりその娘は誰なんだ?真理のルームメイトなのか?」

「違ぇよ」

「グラウンドの前で佐倉君に助けてもらったんだ。私、ティナ・ハミルトン。ティナでいいよ」

「へぇ、そうなのか。俺は織斑一夏。こっちは篠ノ之箒」

「よろしく頼む」

「うん。よろしくねー箒に織斑くん」

「一夏でいいよ、ティナ」

「おっけー」

 

さてと、後の面倒は織斑に任せて帰るか。篠ノ之もいるし、ハミルトンもそっちの方がいいだろ。

 

「じゃあ俺も戻るわ」

「え!?ちょっと待ってよ!まだ食べ終わってないのに!」

「俺もちょっと相談したい事があるから残ってくれないか?」

 

んだよ。相談なら実姉か篠ノ之にしろよ。仲いいんだろ。

仕様がなく、立ち上がりかけた腰を、もう一度席に降ろし、話を聞く体勢になる。

 

「で、なに?相談ってのは」

「いやぁ、俺って巧に嫌われてるのかなぁ、って思ってさ」

 

気づいてたのかよ。それを女子に対してもやれよ、バカじゃねぇの。

つーかこれ、なんて答えりゃいいんだ。俺は中立なんだっつの。蚊帳の外とも言う。

 

「……知らねーよ。そういうのは当事者同士の問題だ。俺がここで『嫌われてる』って言ったらお前は澵井と距離を取るのか?その時、もし澵井が嫌ってなかったら?逆もまた然りだ。そうなった時に俺の責任にされたら困るし、その質問には答えられねーな」

 

まぁ、実際は嫌われてるけどな。逆になぜか俺は好かれてるっぽい。なんでだ。いっそ嫌ってくれた方がやりやすいんだがなぁ。

 

「そっかぁ、そうだよな。サンキューな、真理!」

「俺は何もしてねーよ。ハミルトンも食い終わったみたいだし、ほんとに帰るわ」

「ああ、また明日な。ハミルトンさんも!」

「うん。またね、一夏、箒」

「ああ」

 

食堂を出る際、後ろから篠ノ之の怒鳴り声が聞こえたがスルーした。ハミルトンは振り返ったようだが、直ぐに察したのか、タタッと小走りで追いついて来た。

 

「ねぇ、佐倉君」

「………なんだよ」

「……………あのさ」

「なんだよ?」

 

二度目の返答で少し語気を荒げてしまった。だって間が長いんだもん。

 

「私も……真理って…呼んで良い?」

 

は?んなことどうでも良いわ。そんな事の為にこんな、微妙にシリアスな雰囲気創ったの?

そんな俺の感情が表情に出ていたのか、ハミルトンが、照れなのか怒っているからなのか分からないが、顔を赤くし、わたわたと手を振りながら弁明をはかってきた。

 

「だって、男子は皆真理って呼んでるじゃん!なのに私は佐倉君なんて他人行儀だし…」

「別になんて呼ばれようがかまわねぇよ」

「!ほんとに?」

「うん。大体、あいつ等だって勝手に呼んでるだけだしな」

「やった!じゃ、改めてよろしくね。真理」

 

そう言って手を差し出して来るハミルトン。え?これ握らなきゃいけないの?恥ずかしいんだけど。ほら、手を差し出して来てるハミルトンの顔が見るからに赤くなって来たよ。

 

「…早くしてよ。恥ずかしいじゃん」

「恥ずかしいならやるなよ…」

 

ため息を吐きながらハミルトンの手を取る。周りに人がいないのが幸い、と思っていたのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハミルトンと別れ、自室に戻って来た。中にいたのは何故かにやにやしている更識先輩だった。

食後のコーヒーでも飲もうとキッチンでお湯を沸かしていると、更識先輩が何の脈絡も無く言い放った。

 

「今度少年漫画でも読んでみようかなぁ。友情、努力、勝利!良いわよねぇ」

 

突然の事に、マジで何を言っているのか分からなかった。正直、ぶっ壊れたのかとも思った。

しかしその後も、何故か少年漫画の話題を頻りに振って来る事に違和感を覚えた。例え、今日少年漫画にハマったからって、わざわざ俺に振ってくるような事はしなくてもいい。

そして、彼女は人を弄るのが大好きだ。それに加えて、友情、努力、勝利を連呼する。

そこで俺は察したのだ。ハミルトンとの握手の現場を見られたという事に。

この人以外にだったら見られても大した案件にはならなかっただろうが、見られたのがこの人というだけで、事は重大案件にまで発展する。

 

「…何がお望みですか?」

「ふふっ。そうね…」

 

やはり何か条件を出して来るか。なんだ?裸エプロンをちゃっかり盗撮していたのがばれたのか?まぁばれてもバックアップは取ってあるから、いくらでも消せるがな。更識先輩が俺を脅して来たとき用に取っておいたものだが、今日使うかもしれん。

 

 

 

 

「あなた、生徒会に入りなさい」

 

 

は?

 

「嫌です」

「ええぇぇぇえええ!?なんでよ!?」

 

一々五月蝿いなぁ、この人。

友情ごっこを目撃、盗撮された程度で俺が下手に出ると思ったら大間違いだ。こっちには更識先輩の『裸エプロン写真&その時の録音データ』があるのだ。これがある限り俺たちは牽制し合うことまでしか出来ない。

大体、その写真をばらまいても困るのは俺じゃなくハミルトンだ。更識先輩は確かに性格が悪いが、いたずらなりなんなりを仕掛ける時まで他人に迷惑を掛けるような人じゃないだろう。

それに、俺自身、生徒会に入りたくないし。

 

「生徒会って更識先輩がいるんですよね?」

「ええ、そうよ」

「だからです」

「意味分かんないわよっ!えっ、私が嫌だから入りたくないってこと?」

「う〜ん、まぁ、先輩が嫌いとかではなく、先輩って仕事とかサボりそうですし」

「うっ!」

「その仕事って他の生徒会役員がやるんですよね?今生徒会役員って何人いるんですか?」

「えっと、三人?」

 

えへっ、と可愛らしく笑うが、生徒会が三人って…。更識先輩がサボるから、実質2人じゃん。

すると更識先輩はにやにやとした笑顔を張り付けたまま、話を続けた。

 

「まぁ真面目な話、この学園の生徒は部活に強制参加なのよ。でも、男子は三人しかいない。頭の回転が速い佐倉君ならこの意味、分かると思うんだけどなぁ?」

 

部活に強制参加、だと?なんだそれは。そんなの聞いてねぇよ。

更識先輩の言ったことに驚愕しつつ、理解した。

男子が三人しかいないということは、つまり、数多ある部活動に一人づつ入部するということだ。三人が全員、同じ部活に入るのはまずありえない。澵井は織斑が嫌いだから別の部活を選ぶだろうし、逆に俺は澵井と織斑に友人として気に入られている、と思う。組み合わせとしては織斑と俺、もしくは澵井と俺の二つしかない。

しかし、三人にも趣味嗜好がある。例えば俺なら、槍術部とか長刀部に入りたいが、澵井や織斑はそうはいかないだろう。

男子がもっといれば、趣味が被る生徒もいただろう。だが今いる三人は、全員が真逆の方向を向いている。

故に全員が同じ部活に入ることは無い。

だがそうなると、俺にだけ問題が出て来る。

他2人は盛大に歓迎されるだろうが、俺はむしろ、非難されるだろう。それはもう織斑達が歓迎されるのと同じくらい盛大に。

そうなると入部できる部活そのものが、ほぼ無くなってしまう。

 

「チッ…生徒会に入れば、その義務とやらが達成できる訳ですか」

「今舌打ちしたわね?…まぁそうよ。勉強はどうか分からないけど、佐倉君頭良さそうだし、うってつけだと思うわよ。仕事が終わり次第自由だし、何より美人な先輩がついてくるわ!」

「最後の情報は死ぬ程いらないです。とりあえず今週中は待ってくれませんか?考えるんで」

「ええ、全然いいわよ。どうせ生徒会に入らざるを得ないんだから。あ〜これで仕事が減るわ!」

 

俺の逃げ道が無いと分かっているからか、最早、俺が生徒会に加入することが決まったかのように伸びをする更識先輩。まぁ正直、この件に関しては、あの鬼教官を味方に付けることは難しそうだ。それは明日から追々考えよう。

 

時刻はまだ九時だ。昨日早く寝たからか、全然眠くない。ベッドに入っても良いが、昨日のように更識先輩がいたずらしに来る恐れもある。かといって、勉強をする気にはならない。そもそも俺は勉強が嫌いだ。しなくても平均点くらい取れるし。それじゃ、何すっかな……あ。

そういや、積ん読が大量にあったんだった。少しだけ持って来てたはず……………あった。でも、あれ?これフランス語だ。親父の本も一緒に持って来ちまったのか。電子辞書もあるし翻訳しながら読もう。

 

俺は本のページ数を確認し、そのページ数と同じだけのルーズリーフを用意して、ペンを片手に、フランス語の本を翻訳しながら読み進めて行った。

 

 

 

 

 

ちなみに、本のタイトルは『レ・ミゼラブル』

俺が翻訳している間、更識先輩の妨害があったのは、言うまでもないだろう。

 

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