一般人は毒を吐く。   作:百日紅 菫

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結局俺は普通の人だったようです。

眠い。

ハミルトンに会った日から一週間が経過した。今日は放課後に織斑と澵井の試合があるからか、教室が色めき立っていた。何でも、織斑に専用機が渡されるらしい。良かったね。

で、なんで眠いかと言うと、あの日から読んでいるフランス語の本を和訳しているのだが、更識先輩は五月蝿いわ、フランス語は結構難しいわで寝不足なのだ。最近の睡眠時間は一日2、3時間だし、授業はあの鬼がいるから寝れないし、最早地獄だ。

しかしあの本は面白いから早く読破したい。ならばどうする。答えは一つ。

早く帰って読む。それだけだ。

 

「おい、何処行くんだよ?」

「帰るんだよ。お前等の試合なんか興味ないし」

「おう、辛辣だなぁ、真理は」

 

事実を言っただけだろ。大体俺は一戦しかしてないんだからクラス代表には絶対ならないし、もう関係無いんだよ。

 

「なぁ、ティナ連れて来てくれよ」

 

下心丸出しか。

 

「自分で誘え」

 

バカか?バカなのか?バカさ加減が織斑と同等だぞ、お前。ハミルトンの目の前でやったら確実に引かれるぞ、それ。ついでに、連れて来たとして、もし負けたらどーすんだ?

 

「あ、真理ー!」

「………」

 

なんで毎日毎日くるんだよ、お前。隣のクラスでしょ?来なくて良いじゃん。

 

「今日巧の試合でしょ。一緒に行こうよ!」

「一人で行け。今日からサポーターも取れるし、練習しにいくんだよ」

「練習って槍の?」

「そう。一週間やってないからな」

 

一日サボった分を取り戻すには三日掛かるって言われたからな。一週間分取り戻すには、単純計算にして三週間かかる。二十一日か…長いな。

まぁ一週間やそこらで腕が鈍るような鍛え方はしてないけどな。

 

「まぁまぁ、2人で見に来てくれよ、な?治りたてでいきなり肩動かすのもキツいだろうしな」

「そうだよ。友達の試合なんだしさー」

「友達じゃねぇよ」

 

なんでこんな人を利用する気満々のやつと友達にされなきゃいけないんだ。人と関わらないようにしてる俺が言えたことじゃないけど。

 

「しょうがねぇな。行ってやるが、5分で終わらせろ。それを過ぎたら帰るからな」

「5分か、ギリギリだな」

「無理って言わないんだね…」

「まぁ会社で訓練受けてたからな。日本の代表候補生ともやってたんだぜ」

 

へー、そりゃすごいな。だからってイギリスの代表候補生に勝てる理由にはならないがな。つーか行かなくていいのか?織斑は早々に教室出たけど。

俺の顔を見て、何を考えているのかを察したらしい澵井は口の端を少しだけ上げて答える。

その顔ムカつくから今すぐやめろ。

 

「俺の試合は織斑とオルコットさんの後にやるんだ。全員が同じ条件で試合する為に俺は2人の試合を見れないんだ」

「んなの平等でも何でもねぇだろ…」

 

その呟きは誰に言ったものでも無かったが、ハミルトンには聞こえたようで。

 

「平等じゃないってどうゆこと?」

「……玄人二人に素人一人の何処が平等なんだよ。姉貴が強けりゃ弟も強いのか?ちげぇだろ」

「あ、そっか」

「オルコットさんはどうだか知らないけど、俺は容赦しないよ。試合だからね」

 

オルコットが織斑をどうしようが知らないが、俺は徹底的に織斑を潰す。試合という免罪符があるからな。

に聞こえるのは俺の妄想か?

 

「あっそ。好きにしろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合終了のブザーが鳴る。初戦のオルコット対織斑はオルコットが勝ったようだった。見てないから分からないが、結構善戦していたらしい。さっきの言葉は撤回した方がいいかもしれんな。やっぱり血の繋がりってのはあるかもしれない。

 

「次だね、巧の試合」

「ああ」

 

にしても、IS、ね。試合で使ってる武器もスポーツと謳ってはいるけど、どれもこれも確実に人を殺せる『兵器』だ。そんなもんをよく人に向けられるな。物干竿で人を殺しかけた俺が言えた事じゃないけど。

 

「あ。出て来た」

 

俺たちから見て、向かって左側から蒼いISを纏ったオルコットが、右側から前面が白、背面が黒の、鷹をイメージするISを纏った澵井が出て来た。アンロック・ユニットだっけ?のウイングも鳥をイメージしてるっぽいな、あれは。

 

『よろしくお願いしますわ、澵井さん』

『こちらこそ、よろしく』

 

オープンチャネルで2人が会話を始める。そんなのどうでもいいから始めてくんない?帰って良いの?つか澵井はハミルトンに見て欲しいから俺を呼んだのであって、俺がここにいる必要はもう無いよね。約束した5分で絶対に帰る。

どーでもいい会話をぼーっと聞いていると、オルコットの謝罪の言葉が聞こえて来た。先週の男に対する侮辱に対する謝罪のようだ。織斑と戦って男にもいろんな人がいる事に気づいたらしい。

 

『いいよ。元から俺は気にしてないし。多分、真理も気にしてないよ』

 

なんでお前が俺の事を言うんだよ。……気にしてないけど。

 

『ありがとうございます。ではそろそろ始めましょうか』

『ああ。容赦はしないよ』

『こちらこそ』

 

そして、織斑先生のかけ声で試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルコットは女尊男卑の人間だ。女は男よりも優れているという腐った考えを持っている。別に俺自身が男尊女卑という訳じゃない。かといって男女平等を掲げる訳でもない。人間一人一人に優劣は存在し、今はその優劣の優れている方に女が多いだけだ。

そして、さっきの試合で負けた織斑はオルコットに劣っていたから負けた。

何が言いたいかというと、

 

「巧、強かったんだね」

「みたいだな」

 

オルコットと澵井の試合が始まって二分足らず。大型モニターに映されたシールドエネルギーの残量は、澵井が550でオルコットが200。澵井がオルコットを押している状況だ。今もオルコットの操る四つのビットから発射されるビームを危なげなく躱し、澵井が持つ二つの大型ライフルで反撃している。しかもそのほとんどが直撃している。

しかも、はったりか知らんが、四つのビットを動かしているとき、オルコット自身が持つライフルでは攻撃していない。出来ない、のだろう。

 

「第三世代兵器っていうのはね、イメージインタフェースを使った兵器なのよ」

「つまり?」

「すっごい集中力が必要」

 

使えねーな。

 

「俺はもう行くわ」

「え?まだ5分経ってないよ?」

「澵井の勝ち確定してんだろ。オルコットがどんな奥の手持ってようが、攻撃を与えらんなきゃ意味ねーよ。主兵装の第三世代兵器も当てらんないんじゃ、勝てる見込みは無い」

「一夏と巧の試合は見ていかないの?」

「教室に行きゃぁ、勝手に耳に入る」

 

俺が出入り口へと向かうと、ハミルトンがおろおろし始める。ああ、こいつは2組だから今見逃すと結果が分からなくなるのか。誰かに教えてもらえば良いんだろうけど、まだ入学して一ヶ月も経ってない状態で他クラスに知り合いが出来るとは思えない。いや、最近は帰る時にいつも俺の所に来るから知り合いはいるのか?今のこいつを見てると、知り合いなんぞいなさそうだが。

 

「はぁ。ハミルトンは見てれば良い。何も俺の練習に付き合う必要なんか無いんだから。一人がいやならあの辺の奴らに話しかけてみろ。教室で見てる限りじゃ、多分気のいい奴らだから」

「……そういうことじゃないんだけど……」

 

あの、織斑と違って難聴とかないんで。この距離で呟いたら丸聞こえだからね?

 

「………後で結果教えてくれ」

「………うん」

 

うわぁ、行きづれぇ…。どれもこれも澵井のせいだ。今から形勢逆転されてボコボコにされてしまえ。

後ろ髪を引かれつつも、その場を離れようと振り向いたら、

 

「どーこ行くのかな?佐倉君」

「!?」

 

ビビった。マジで心臓止まるかと思った。なんで気配消してんの?なんで後ろに立つの?なんでそんなに近いの?

言葉通り、目と鼻の先に更識先輩がいた。いつからいたんだ、あんた。

 

「女の子を置いてくなんて、モテないゾー?」

「元からモテないんで大丈夫です。………ちょうど良かった。ハミルトンと一緒にいて上げてください。俺は用事あるんで」

「女の子をほったらかしにする程大切な用事なの?」

「……少なくとも、俺の中では最重要事項です」

「ふーん…」

 

俺の中から母親という道標が消え、残ったものを探してみた。

がらんどうの心の中に残っていたものは二つ。

一つは父親の存在。

どうしようもない母親とそれに感化された妹がいる家族の中で唯一、俺の味方で、俺が味方だった人。

もう一つは、槍。

親父が母親に土下座してまで頼み込んで、道場に入れてもらった。師範しかいない小さな道場だったけど、師範は鬼のように強く、師範の友人達も最早人間じゃねぇだろってくらい強かった。今でも勝てないけど。

親父の優しさと師範やその友人達への感謝が、今の俺の槍術を形作っている。それをサボる事は彼らに対する冒涜だ。

昨日まではドクターストップが掛かっていたから仕方が無かったが、今は関係無い。

ならば一刻も早く習慣に戻さなくてはならない。

 

「わかったわ。じゃ、よろしくね、ティナちゃん」

「え?あ、はい」

「じゃ、さいなら」

 

2人に背を向け、俺はアリーナの観客席を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティナside

 

真理がアリーナから出て行く。その背中を私は見つめていた。

 

「佐倉君はね、あんなんでも結構辛い事受けて来てるのよ」

「え?」

 

試合を見ながら先輩が語り始めた。そういえば、私この人の名前知らないな。

 

「詳しくは本人から聞いてね。で、数少ない大切なものを、大事に、大事にしてるのよ」

「………なんでそんなに詳しいんですか?」

 

少し、ムッとしてしまった。何故かはわからないけれど、真理の事情に詳しいこの人に嫉妬してしまった。

 

「あはは、安心してちょうだい。別に彼と付き合ってるとかはないから」

「なっ!?」

「これでも生徒会長だからね。貴女達を守る為にも、彼らを守る為にも、色々知っていなきゃやってらんないのよ。彼らは事情が事情だけに、家庭の事情とかも調べなきゃいけなかったのよ」

「………貴女、生徒会長だったんですか!?」

「えっ?驚くトコそこ?」

 

いやまぁ、この学園の生徒会長って言ったら学園最強だし。真理の事情もほんの少しなら知ってる。女尊男卑の家族に生まれた男の末路は知っている。自分の父親がそうだったから。

家事から買い物からこき使われるだけ使われて、休息も貰えず、体調を崩し、それでも尚使われ続ける。

そんな父親を不憫に思いながらも、母親が怖くて何も出来なかった。

そんな両親が離婚した時、内心ほっとしていた。これでもう父親が傷つく事はないと思ったから。

でも、そんな安堵は自分の勝手な感情だと、思い知らされた。

父親の全てに絶望したような眼を見てしまった時から。

 

「ま、なんにせよ、佐倉君とは仲良くしてあげてね。彼は人嫌いの気があるからね」

「頼まれなくても仲良くしたいと思ってますから。日本に来てから初めてできた友達ですし」

「あら、お姉さんも仲良くして欲しいなぁ」

 

………正直、嫌だ。この人と仲良く出来るイメージを、全く浮かべられない。

将来的にライバルというか、何かを巡って争うような、そんなイメージばかりが浮かぶ。

 

「まぁ、よろしくお願いします…?」

「あはは、よろしくね、ティナちゃん。お、そろそろ決着かな?」

 

アリーナへと目を向けると、刀を持つ一夏を、巧が大型の重火器で一方的に撃ち続けていた。弾切れになった瞬間、一夏が近づこうと加速するが、巧の手には既に手榴弾のような形状をしたものが二つ、握られていた。その内の一つを2人の中間に投げると、それは閃光を放った。『スタングレネード』とか言うやつだろう。通常の対人間用ではなく、IS用に造られたそれは、アリーナを巨大な閃光と爆音で包み込んだ。

視界を奪われた一夏に巧がトドメを刺そうと、巨大なバズーカのようなものを両手で抱えていた。

 

「なに、あれ?」

 

不意に出た言葉に、生徒会長さんが答えてくれた。

 

「あれは…レールガンね。しかもあの砲身の長さからすると、最大威力で撃てば織斑君のシールドエネルギーどころか装甲まで貫くでしょうね」

「ええっ!?」

 

生徒会長の説明だと、レールガンというものは理論上、レールが長く加速が長時間維持できれば威力をあげることができるらしいが、様々な摩擦が存在し発射速度は入力した電流の量に正比例しない。が、摩擦や損失が無視できる間は、加速度は電流の大きさに比例するらしい。

ISが出るまでは摩擦を消す方法が存在しなかったが、ISの出現と共に世界の技術力も上がり、ISに使われている技術と併用し摩擦を消す事に成功した会社が存在するって。

 

「そ、それじゃあ、一夏が危ないんじゃ…!?」

「そうね」

「そうね、って……止めなくていいんですか!?さっき生徒を守るとかなんとか言ってませんでした!?」

「あはは、痛いとこ突くわね。大丈夫よ。流石に威力は落とされてるでしょうし、試合の規定に装備の検閲があるから、織斑先生の安全確認も取れてるから大丈夫よ」

「それなら……」

 

そして、先程のスタングレネード程ではないけれど、眩い閃光を放ち、文字通り光速の弾丸が発射された。光の軌跡を残したそれは一夏へと吸い込まれ、一夏が吹き飛ばされた。

 

「……あれ、装甲に罅入ってません?」

「…………」

 

遠目にも、一夏の白いISに罅が入っているのが確認できた。

 

「…先輩?」

 

無言になった生徒会長を見ようと、隣へ視線を向けると、そこにはある地点に赤い丸が書かれた地図が置いてあった。

 

「なんだろ、これ?」

 

試合も終わった事だし、ちょっと行ってみようかな。

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そろそろ決着はついたかな。部屋に戻って物干竿とタオルを取り、先週見つけたベンチのある小さな広場に来てから、いつも通り(・・・・・)槍を振るった。一から九十九の段を一通り振るい汗を拭っていた。

 

「…織斑に勝ち目は無いしなぁ」

 

日本の代表候補生と戦りあってたってのが、互角だったのなら、織斑には勝ち目が無い。ISに触ったのは二、三回だろうし、織斑が貰うっていう専用機にチート武器でも搭載されてりゃ話は変わるけど。

 

「あれ?真理?」

 

…………………

 

「…………何しに来た?」

「いや、生徒会長さんが急にいなくなっちゃって、そしたらこの地図が落ちててさ。暇だしちょっと来てみたんだ」

 

お前か更識先輩。つーかなんで知ってんだ。

 

「いつもここで練習してるの?」

 

ベンチに腰掛けたハミルトンが丁寧に地図を折りながら聞いて来た。

居座るんかい。

 

「…ああ。学園に来て、ここを見つけてからはな。一週間くらいしか使ってないけど」

「ふーん。まぁいいや。練習は終わったの?」

「一通りはな。もう帰るけど」

「そっか。じゃあ帰ろっか」

 

何?一緒に帰るの?視線が凄くなるから嫌なんだけど。

 

「……そんなに嫌そうな顔しなくたっていいじゃん。友達なんだし」

「……………友達、ねぇ」

「何?嫌なの?」

「いや、友達ってのはどっから何処までが『友達』なんだろうな」

 

人間の関係性程難しいものは無いと思う。

赤の他人から始まり、知り合い、クラスメイト、友達、親友、恋人、家族。様々な関係があるが、その関係性定義は何処から始まり、何処で終わるのか。もうほんと謎。

 

「そんなの、お互いが友達だと思ってたら友達なんじゃないの?」

「あー、うん、まぁいいや」

 

こんなこと考えても時間の無駄だ。こいつとの関係も、知り合いでいいや。断じて友達じゃない。

そんなことより早く帰って本の続きを翻訳する事の方が大事だわ。日も傾いて来たし、早々に寮に戻ってシャワー浴びて飯食って本読もう。大浴場ってのがあるらしいけど、女子と男子の比率を考えて男子は使用禁止。その内澵井が覗きに行かないか心配だ。主に俺に被せられる濡れ衣が。

 

「そういえば、巧が勝ったよ、試合」

「だろうな」

 

当たり障りの無い会話をしながら寮へと入る。数人の生徒とすれ違い、その度に睨まれながら部屋へと戻る。

もうそろそろ慣れてもいいんじゃないの?俺に。毎回睨むのも疲れるだろ。

さっさとシャワー浴びて和訳の続きやろう。と思っていたのだが。

 

「あら。もう帰って来たのね」

「速いですね。ハミルトンからは試合後に急に消えたって聞きましたけど」

「生徒会長には色々あるのよ。聞く?」

「遠慮しときます。巻き込まれ体質は織斑だけで十分です」

「あっはは、そうね。それとは別に貴方に話があるのよ」

 

?なんだ?つーかさっきから何をやってるんだ?この人。

 

「話?とゆーか、さっきから何してるんですか?」

「ん〜、ちょ〜っと待ってね」

 

部屋中をがさごそと探り続けて数分。ようやく止めたと思えば、机の上にあった箱の中身をぶちまけた。

 

「これは?」

「盗聴器と監視カメラ。まぁ元々機能してなかったけどね」

「え。…なんでですか」

「もっちろん、私が全部潰したからよ。まぁそれも置いといて、とりあえず座りなさい」

「?」

 

言われた通りに、自分のベッドに座る。なんだかんだ慣れて来たな、ここの生活も。

隣のベッドに更識先輩が座るが、その手にはホッチキスで止められた数枚の紙がある。

 

「話したい事は二つ。両方とも貴方に関係する話だけど、片方は間接的に関係ある話ね。どっちから聞く?」

「じゃあ、間接的な方からで」

 

そう言うと、更識先輩は手に持っている紙を脇へと置いた。とすると、あれは直接的に関係ある話の資料か。

 

「じゃ、簡潔に」

 

区切って、言葉を紡いだ。

 

「澵井君が謹慎一週間になったわ。理由は織斑君への過剰攻撃。試合で使ったレールガンの威力の虚偽の報告によるものよ」

 

………それ、俺に関係あるか?

いやマジどうでもいいんだけど。あるとすれば、織斑が入院した場合、俺が教室で唯一の男子になる事ぐらいだが、視線さえ無視できればどうという事は無い。

てか、バカだなぁ、あいつ。戦闘能力の差を見せつけるにしたって、再起不能のぼっこぼこにしなくても、被弾無しにすれば簡単に見せる事が出来るだろうに。

 

「それだけですか?」

「……澵井君に関しての話は、これだけね。友達として心配するとか無いの?」

「友達じゃないんでなんも無いです」

「……………そう。じゃあ、貴方に直接関係のある話よ」

 

俺に直接関係のある話とは一体。今の話と更識先輩の珍しく真剣な顔を見る限り、全く良い話では無いのだろう。母親と妹関連の話か?親父の話か?それとも師範達の話か?後者の二つだったら、場合によってはこの学園を辞める事になる。

更識先輩は脇に置いた資料を手に取り、俺に渡して来た。

俺は資料の一番上に書かれている、タイトルのように大きめの文字で書かれた一行を初め、理解できなかった。

 

「『佐倉真理の人体実験による報告書』…?」

「貴方が研究所から保護されてから昨日まで、更識の総力を上げて研究所にいた人間を全員拘束し、研究内容を調べ上げたわ。そして今日。全ての調査が終わり、私の元へ報告書が来た。それと全く同じものがね」

「…………」

 

更識先輩の言葉を聞き流し、俺は資料をめくった。

二枚目からはびっしりと文字が並べられており、いっそ読みづらい程であった。そんな中でもスルッと目に入って来たものがあった。

 

「『被験者に脳の異常は見られなかった。しかし、被験者の元所持者の意向により、被験者の前では脳に何かしらの異常があるよう話し、被験者に恐怖を与えるようにする』」

「つまり、貴方の言っていたようなストッパーや躊躇が無くなった、という脳の異常は存在しない」

「…!?いや、でも、オルコットに反論も出来たし、事実、オルコットを殺しかけたんですよ?」

「反論できたのは君の元々の性格で、殺しかけたのは、女尊男卑に染まるセシリアちゃんが君の母親の面影と被っちゃったから。殺したい程母親が憎いんでしょう?」

「じゃ、じゃあ、脳に異常があるよう錯覚させたのはなんの為なんですか?まるでメリットが無いような気がするんですけど…」

「次のページを見てご覧なさい」

 

言われた通りに紙をめくる。

 

『被験者は女尊男卑の女性に恨みがある様子。さらに幼い頃から隣町の道場に通い、戦闘術はかなり高い。しかし倫理観は正常で常識もわきまえている。故に、倫理観を扇情し、元所有者の意向とともに被験者には『ストッパー・躊躇の欠落』を錯覚させ女性と相対した時の恐怖心を底上げさせる。そうすることにより、ISを使えるが女性と敵対できない、出来損ないを生み出す』

 

ああ、要するに、この女尊男卑の社会を覆す三人の反逆者となりうる者の内の一人を使い物にならなくする為か。

…………くだらねぇ。こんなものに数ヶ月も振り回されてたのか。

 

 

俺の手の中で、ぐしゃりと資料が潰された。

 

 

 

 

 




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