一般人は毒を吐く。   作:百日紅 菫

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情報があれば推理は出来ます。

楯無side

 

織斑君と澵井君の試合は最悪の形で幕を閉じた。

織斑君は気絶し、今は保健室に連れて行かれたそうだ。付添人は山田先生。姉ではあるが、2人の担任である織斑先生は織斑君が運び込まれたピットとは逆のピットへ向かったらしい。全部虚ちゃんからの情報だ。

ピットへ続く廊下を早足で歩く私は虚ちゃんからのメールを閉じ、携帯もポケットに仕舞う。アリーナにおいて来たティナちゃんには悪いがこっちも生徒会長と更識の長としての仕事がある。大目に見てもらおう。お土産も置いてきたしね。

それより澵井君が最後に使ったレールガン。あれは見るからに規定違反の威力を出していた。それが澵井君の意思によるものなのかは分からないけれど、問題は何故あれが装備の検閲を通過したのか、ということだ。

今回の試合の装備の検閲は全て織斑先生と山田先生が行っている。山田先生の検閲を通ったら織斑先生、という風に二段構えの検閲だ。

織斑君の零落白夜は最大出力を出すと相手ごと斬ってしまう恐れがあるため、ストッパーが設けられている。もし試合中にストッパーが外れれば、管制室に警報が入り強制停止させられる。

それは澵井君も同じだった筈だ。故に不思議で仕様がない。あの織斑先生の検閲を通過し、警報すら鳴らなかったらしい武器をどうやって試合で使用できたのか。

考えを纏めていると、ピット前に到着し、躊躇い無く部屋へ入る。

 

「貴様、何故あんな武器を使った?それ以前にどうやって私たちの審査を通過した。数値は全て安全であることを示していたが?」

「…………」

 

部屋の中は修羅場と化していた。

織斑先生が澵井君の胸ぐらを掴みあげ、文字通り鬼の形相をしている。当たり前だ。実の弟を危うく殺されそうになったのだから。私も、今は喧嘩しているが簪ちゃんを殺されかけたら相手を殺してしまうかもしれない。

逆に澵井君は虚ろな目で、首に力も入っておらず、まるで死体のようだった。その表情からは絶望の色が伺える。あの表情から察するに、武器の威力の誤報告は彼の意図する所ではなかったのだろう。

なんにせよ、まずはこの場をどうにかしなければ。止められる人間は私しかいないのだから。

 

「織斑先生。とりあえず彼を離してください。そんな状態じゃ、聞ける話も聞けませんよ」

 

澵井君の胸ぐらを掴んでいる腕に手を置き、2人の仲裁に入る。やっぱ怖いわね、織斑先生。

 

「…そうだな。だが何故お前がここにいる」

「一応生徒会長として来たんですけど…更識の方が良かったですか?」

「いや、この件に関してはどちらでも良い」

 

それはどっちも必要って言っているのでは……。どうやら面倒くさいことになりそうね。

虚ちゃん達は今別件で動いているけれど、人員を割かなければならなくなりそう。

 

「正直、今の彼からは何も聞き出せないと思います。更に言えば、この状態ではまともに授業も受けられないでしょう」

「ふむ。一理あるな」

「あと、彼の状態から察するに、虚偽報告は彼の仕業では無いと思います。そちらの方も更識で調べ上げます」

「ああ、頼む」

 

あと聞いておかなければならないことは、と。

 

「織斑君の様子は?」

「軽い打撲程度で済んだ。零落白夜の使用が極端に少なかった為に、絶対防御にまわすシールドエネルギーの量が多かったのが幸いした」

 

澵井君を見ると、さっきよりは落ち着いた表情をしているように見える。織斑君の無事を知ったからかな。

どうやら彼の情報をもう一度洗い直した方がよさそうだ。ハーレムを創るなんて以ての外だ。

 

「なら安心しました。では、失礼します」

 

ピットから出て虚ちゃんに電話する。今彼女には佐倉君の情報捜査の統括もやってもらっている。そろそろそれも終わるだろうから続けてやってもらおう。

数回のコール音の後、電話の向こうに虚ちゃんが出た。

 

『どうしました?お嬢様』

「少し頼みたい事があってね。佐倉君の件はどうなったかしら?」

『たった今書類に纏め終わりました。今すぐにでも渡せますが、どうします?』

「そうね……今何処にいるの?」

『生徒会室ですが…』

「じゃあ今から行くわ。頼み事もその時に」

『わかりました。紅茶を淹れてお待ちしております』

「よろしくね」

 

これでよし。とりあえず今出来る事はやった。後は生徒会室に向かって、それからね。

生徒会室へと足を向けながら、私は考える。

澵井君の情報に間違いは無い。例え日本一の企業だとしても、それが日本の中にある限り、更識の情報網から逃れる術は無い。なら、何故あんなにも情報とは違う性格が現れたのか。

二重人格なのか。ありえない想像に頭を振る。

親の七光りで甘えた生活を送っていた彼が、そんな精神状態になる筈が無い。

情報の間違いも精神状態の異常も無いとすれば、一体彼の内側では何が起こっているのか。私には想像出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室では既に虚ちゃんが紅茶を淹れていた。席についてカップを啜ると丁度いい温度となっていた。相変わらず紅茶を淹れるのが上手な従者だ。

静かに紅茶を飲んでいると、虚ちゃんが厚めの書類を持って来た。

 

「こちらが佐倉君の情報を纏めたものになります」

「ん、ありがと」

 

ぺらぺらと紙をめくっていくと、佐倉君が研究所に売られたときの記録が出て来た。

 

「!これは……」

 

ある意味、洗脳と同じ事をしている。それも、女性権利団体の地位を確立するために、中学を卒業したばかりの人間の人生を捩じ曲げて。

人を恐怖で縛り、自らの邪魔になるようなら即殺せるように、人の内面を変える。

最低だ。

 

「………虚ちゃん」

「はい」

 

書類を読み終え、研究所と佐倉君の母親と女尊男卑のこの世界に吐き気を覚えながら、虚ちゃんにもう一つの頼み事をする。

 

「澵井君の情報をもう一度洗い直して。特に、彼の母親について」

「?わかりました。しかし何故…?」

 

佐倉君に関する書類を読んで確信した。

澵井君の精神異常にも、恐らく女尊男卑が関わっている。彼の場合も、裏に女性権利団体が絡んでいる筈だ。

 

「2人の人間の捩じ狂った人生を、正すためよ」

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巫山戯た話だ。騙された自分が酷く阿呆に見える。

確かに、あいつ等が話していた内容を盗み聞いて、勝手に思い込んでいた。確かな確証も無く、実際に躊躇が無くなった検証もせずに信じ込んでいた。誰かを傷つけてはいけないと思って。

いや、それも言い訳か。誰に対するものでも無い。しいて言うなら自分に対する言い訳だ。

 

「…これは、俺の母親、というか、女性権利団体の仕業、ですよね?」

「!…まぁ、それだけの情報があれば、辿り着くのは容易よね」

 

チッ…本当に腹が立つ。

待てよ…。世界最強を姉に持つ織斑はともかく、世界一のISシェア企業程度の後ろ盾しか無い澵井も、女性権利団体の圧力なら潰せるんじゃ無いか…?

 

「澵井の謹慎にも、女性権利団体って絡んでたりします?」

「!!」

 

ビンゴだ。

しかし、それを知ってどうする。自分が生きていくだけで精一杯、しかもなんの後ろ盾も待たず、ましてや世界最大とも言える団体に、俺如きが復讐できる訳も無い。そもそも復讐するつもりも無い。

大体俺を戦力に数える段階で既に間違っている。女性と敵対?するわけねぇだろ。

 

「澵井は今何処に?」

「…懲罰室よ。ドア越しでも声は聞こえるわ」

「別に行きませんよ。アイツの人生、どうなろうと俺の知ったこっちゃ無いですから」

「……そう。ちなみに澵井君の事情について、どのくらいの想像が出来てるの?差し支えなければ、聞けるかしら?」

 

確か、レールガンの威力の虚偽報告、だったか。

 

「今の澵井の心理状態って分かります?」

「呆然としていて、言葉が通じているのかすら分からないわ。ただ、織斑君の安否を聞いて、軽い打撲って知ったときは安心しているように見えたわね」

 

織斑は無事なのか。で、それを聞いて安堵した、と。

レールガンの威力は澵井にとって想定外だったって事だ。

 

「澵井の母親は女性権利団体の人間ですね。どういう手を使ったかは知りませんが、澵井のISに乗っけてるレールガンの威力の情報をすり替えた上で、レールガンを撃たせる。撃たせる手段は、文字通り洗脳したんでしょうね。長い時間をかけて」

「洗脳?」

「思い込み、と言い換えても良いです。澵井のあの性格から察するに、余程裕福な生活をしてたんでしょう。親から全てを与えられて。そしていつの間にか、親の力を自分の力だと思い込んだ。しかし、今年の二月、想定外の事が起こった」

「織斑君のことね」

「はい。ですが、この時既に、澵井は自身にIS適性があることを知っていたんです」

「そんなの更識の情報網でも出てこなかったわよ?」

「……………更識の情報網はどういったものなんですか?」

「?ハッキングも人的手段も使うけれど」

 

ハッキングや人海戦術も使うということか。その更識でも見つからないということは………。

男のIS適性。女性権利団体。洗脳。ハッキングに人海戦術。

織斑のIS適性が見つかる前に澵井のIS適性が見つかっていたのは、恐らく正解だろう。その時既に、澵井は女性権利団体に目を付けられていた。

 

「………電子的記録に残さない方法は簡単です。搭乗したISを破壊してしまえばいい。勿論、コアは壊さず、ISに付属している部品を一つ残らず破壊すれば、データは漏れずに済む。幸か不幸か、ISは通信機能系を完全にシャットダウンした状態でも動きますからね。その状態で起動させ、そのまま破壊すれば、男がISに乗れる事を確認しつつ、その事実を隠蔽できる。どうですか?」

「…………そうね。確かにその方法なら電子上の情報網には掛からないわ。でも人的情報の方は?」

 

これは完全に俺の想像だ。根拠もクソも無い。大体、なんで俺が澵井の事情を推理しなきゃならんのだ。

ま、人の口に戸は立てられないからな。しかし、絶対に口封じできる方法がある。それは、

 

「…消したんじゃないですか?社会的にも、物理的にも」

「………」

 

見た人間全てを消してしまえば、情報もクソも無い。死人に口無し、ってやつだ。

それでも、一部の人間は生きてるんだろうな。

 

「じゃあ、目的は?」

「俺が出来損ないにされそうになったように、澵井も消されそうになったんですね。織斑も巻き込んで」

 

そう。要するにこれは。

 

「全て女性権利団体の地位確立の為に、男性IS操縦者を消す為の策略。それも自分たちの手を汚さずに」

 

ま、全て俺の妄想だ。物理的根拠も証拠も無い。痛い中二病のように思えて来た。うわ、きっつ。黒歴史確定やんけ、これ。

 

「……やっぱり貴方、生徒会に入りなさい」

「はぁ…え?なんで急に」

 

まだあの鬼教師になんの相談もしてないんだけど。

 

「佐倉君の考えは私とほぼ一緒。その思考力だけでも十分危険よ。後はまぁ、頭がいいって分かったからね。他の部活でその才能を腐らせるわけにはいかないわ」

 

才能、か。そんなものは無いのに。

それに、織斑先生にいくら相談してもこればっかりは校則だからな。回避不可能なら早々に諦めるべきだ。

 

「分かりました。生徒会に入ります」

「!ホント!?」

「ええ。無駄な労力は使いたくないんです」

「無駄って何よ、無駄って!」

 

更識先輩は表情をころころ変える。だって無駄なんだもん。それより頭を使いすぎた気がする。甘いもんでも食べよう。

バッグの中からのど飴を取り出し、口に放り込む。うん、甘い。

話は終わりみたいだし、シャワーでも浴びるか。

寝間着やバスタオルなんかを用意していると、さっきまで騒いでいた更識先輩が急に静かになった。振り返って表情を伺うと、どこか影が差している。

 

「どうしたんです?」

「佐倉君は今まで騙されてたのよ?なぜそんなに普通でいられるのか、それどころか澵井君の事まであっさり推理できた。動揺とか怒ったりとかしてないのかなって思って」

 

あー、別に動揺してない訳じゃないんだけどな。

 

「動揺はしましたけど、そもそも怒る理由がありませんよ」

「そう?」

「ええ。だって俺の体も脳も正常だってことが分かったんですから。これが逆に、異常でもあったんならそりゃ怒りますけど」

「……そっか」

「それに、自分の意思が介入できない事は『全部運だ』って思うようにしてるんです」

 

あの母親から産まれて来たのも運。世界が女尊男卑なのも運。

騙されたのは、まぁ微妙な所だな。

 

「割り切っているのね」

「そうでもしないと生きてらんなかったんで」

 

その言葉に更識先輩はまた悲しそうな顔をする。いや別にね?もう気にしてないんだけどね?どうせ、二度とあの人達とは一生会わないんだから。

とりあえず風呂だ。食欲もないし、フランス語の和訳も今日で終わりそうだし、ようやくゆっくり寝れるぜ。

 

「じゃあ、シャワー先に使わせて貰いますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、朝のSHRでクラス代表が織斑に決まった事が発表された。クラス代表決定戦の戦績は、俺が一勝二敗、澵井が二勝一敗、織斑が二勝一敗、オルコットが一勝二敗だ。俺の二敗は織斑と澵井に対しての不戦敗。織斑の二勝は俺への不戦勝と澵井の反則負け。

結果、織斑がクラス代表の座に就く事になった。まぁ澵井はともかく、織斑に惚れているオルコットが戦績トップになっていたとしても、織斑にお鉢が回って来ただろうな。

 

で、放課後に織斑の就任祝いのパーティをやるそうだ。俺?最初っから誘われてないよ。織斑について来てくれって頼まれたが、「気が向いたらな」って言っといた。ああ、行く気は無い。

フランス語の和訳も終わり、日課の槍術も終えた今、俺は時間を持て余していた。

ハミルトン?ああ、撒いたよ。練習場所を知られようが、時間をずらせば何て事は無い。というわけで今日は一回も会ってないのだ。

そしてシャワー後から晩飯までの間、暇そうに本を読んでいたら、生徒会から帰って来た更識先輩が言った。

 

「そんなに暇なら澵井君の所に行って上げたら?」

 

なんでだよ。友達じゃねぇって言っただろ。

それが顔に出てたのか、それとも察したのかは分からないが、面倒くさそうな、それでいて悲しそうな表情をして話し始めた。

 

「彼、昨日から何も喋らないのよ。それだけじゃなくて、ご飯を用意しても口にしないし、あの様子だと動いてすらないんじゃないかしら」

 

へー。で?

 

「同じ男子で、彼が唯一仲良くしようとした君の声なら届くかなって思ってさ」

「嫌です。なんで俺がアイツの為に行動しなきゃいけないんですか」

「……生徒会長命令よ。なんでもいいから澵井君と話して来なさい」

 

どんだけ行かせたいんだよ。

とはいえ、口約束でも生徒会に入ると言った以上、今後はこの人の下につくんだ。上司の命令には従わなければ組織は成り立たない。

 

「はぁ、わかりましたよ。懲罰室でしたっけ?」

「ええ、ありがとう♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更識先輩との話の後、すぐに部屋を出て懲罰室へ向かった。確か、一階にあったはずだ。

階段を降りていくと、二階が騒がしい事に気がついた。どうやらパーティの準備で忙しいようだ。織斑が篠ノ之と特訓中のこの時間帯に終わらせなくてはならないのだろう。

心の中で大変だな、なんて他人事のように、いや、他人事だったわ。と呟く。

騒がしい階を通り過ぎて、そのまま一階へと降り、いくつかの部屋を通り過ぎて懲罰室の前に辿り着く。

さて、もしかしたら更識先輩が聞いているかもしれないので下手な事は言えない。かといって澵井に対して言う事なんて無いしなぁ。

 

「………よぉ澵井」

 

扉の向こう側がどうなっているかは分からないが、何かが動いた音がした。廊下に俺以外誰もいないから聞こえたような、本当に小さな音。少なくとも俺の言葉に反応しているのが分かる。

 

「災難だったな。織斑を殺しかけたんだって?」

 

最初の音以降、何かが動いている気配も音もしない。だがまぁ、別にいいだろう。俺が受けた命令は『何でも良いから澵井と話してこい』だ。こっちから勝手に話しときゃ、命令は完遂できる筈。

 

「お前の事情なんか知らねぇけど、騙されたみたいだなぁ。状況から察するにお前を騙したのはお前の両親ないし、母親だぜ?まぁそのくらい、お前も理解できてるんだろうけどな。だから更識先輩達の問いに答えられなかったんだろ?自分の口から言っちまったら、認める事になるもんな。親に利用されてたって」

 

理解する事と認める事は違う。頭で理解していても、認める事は出来ないなんて、小説や漫画では間間ある事だ。

口に出して、言葉を紡ぐという行為は、自らの思想や考察を認識させるという意味を持つ。取り戻せない状態にして、後戻りすることを不可能にする。だからこそ、澵井は答えなかった。愛されていると思っていた人間から裏切られたという事実を認めたくなかったから。

 

「今どんな顔してんのか知らねぇけど、最低な顔してんだろうな。お前みたいに、勝ち組だったやつが最底辺まで堕ちた時の表情は見た事あるからよ」

 

扉の向こう側がどうなってるのかは分からない。それに、更識先輩の命令は十分果たせただろう。

 

「ま、お前がどうなろうと知ったこっちゃねぇからもう帰るわ。でも、最後にこれだけは言っとくぞ」

 

そう。只一つ、気に食わない事がある。それは_____

 

「被害者面してんじゃねぇよ。テメェだけが被害者じゃねぇんだ。テメェも加害者だって事を忘れんな。そんで理解しろ。お前は一人じゃ何もできない、お前が今まで見下して来た人間と同列の人間だってことをな」

 

何も反応は無かった。別にいいけど、更識先輩は満足してくれただろうか。どっかで見ているんだろう。あ、いた。

廊下の角に、見覚えのある青い髪を見つけた。早足で近づくと、何故か俺の物干竿を持っていた。

 

「これでいいですか?ていうかなんで俺の物干竿もってるんですか?」

「ええ、十分よ、ありがとう。で、はいこれ」

「?」

 

言われるがままに物干竿を受け取る。なんだ、試合でもするのか?嫌だなぁ、更識先輩強いし。

 

「今から私たちの部屋に澵井君の情報を持った娘がくるのよ。だから外に出てる間、暇にならないように」

 

俺は今、初めてこの先輩に感謝している。いや、マジで。

 

「ありがとうございます。初めて先輩に感謝しました」

「うんう…初めて!?」

「いやぁ、俺が裏に関わりたくないって言ってたの覚えてくれてたんですね。じゃ、終わったら連絡ください」

「いや待ちなさい!初めてってどーいうことよ!?」

 

後ろで何か叫んでいるが、無視無視。久々に清々しい気分で振るえそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やりすぎた。

集中して練習しすぎたせいで、いつも使っている広場の地面が抉れまくってしまった。

グラウンドから整備用具を借りて、地面の整備をしてから部屋に戻る。三十分程前に更識先輩からメールを貰っていたのだが、どうやら部屋で澵井の事情を聞かせてもらえるようだ。

いいのか?個人情報だろ?そう思ったが、あの人には無意味だった事を思い出し諦めた。まぁ心の隅っこであの推理があっていたのか気になっていたので、答え合わせが出来るのは少し嬉しく思う。

で、今寮の入り口にいるのだが…

 

「あ、そこのアンタ、ちょっといい?」

「あ?」

「本校舎一階総合事務受付ってところに行きたいんだけど、案内してくれない?」

 

うわ、面倒くせぇ。つーか何処だよそれ、俺も知らねぇよ。ていうか誰?

大きなボストンバッグを肩にかけたツインテールの少女に出会った。少女というより『小女』だな。制服着てるし。

 

「悪いな、俺も分からん。他を当たってくれ」

「そっか。……アンタの知り合いに分かる人いないの?ちょっと連絡してよ」

 

うわ、面倒くせぇ。そもそも知り合いが少なすぎる。ここだけ聞くとコミュ障みたいだ。あ、コミュ障だった。

 

「はぁ、ちょっと待ってろ」

「話が分かるわね」

 

とりあえず更識先輩でいいか。生徒会長だし。

携帯で電話を掛けると2コールで出た。暇人か。

 

『あら、佐倉君からの電話なんて初めてね。どうしたの?』

「そもそも貴女と電話する事自体初めてです。迷子を見つけまして」

「誰が迷子よ!」

「うるさい」

 

小女が隣で叫ぶ。電話中は静かにしろ。常識だろうが。

 

『今のが迷子?』

「ええ。本校舎一階総合事務受付?に行きたいらしいです」

『総合事務受付ね。今何処にいるのかしら?』

「寮の入り口です」

 

電話越しに説明を受け、記憶していく。ああ、意外と近そうで良かった。説明が楽だ。

お礼を言って電話を切る。そこで、ある事に気づくと同時に背筋を寒気が襲った。

…なんの疑問も無く電話したけど、なんで俺の携帯に更識先輩の連絡先が入ってるんだ…?

 

「…どうしたのよ?」

「いや、なんでもない。それより受付の場所は____」

 

手早く説明する。俺自身も場所を知らないから更識先輩からの説明をそのまま伝えた。

 

「なるほどね。分かったわ、ありがとう」

「ああ、次からはその図々しい態度を改めてから道を訊ねろ」

「なっ!…まぁ、悪かったわね」

 

なんだ、図々しい割には謝罪は出来るのか。大分素直な性格らしい。悪い事をしたな。

 

「……なによ?」

「いや、悪かったな。軽い女尊男卑かと思ってたから」

「違うわよ。むしろ大っ嫌いね、あんな奴ら。…ねぇ、アンタ名前は?」

「佐倉真理だ。そういうお前は?」

「凰鈴音よ。鈴でいいわ」

「わかった、凰」

「なんでよ!?…まぁいいわ。なんか真理とは仲良くなれそうな気がするし」

「それはお前次第だな」

「てかなんで浴衣?」

 

軽口を叩き合いながら、それでも俺は友達にはなれないだろうと思う。

凰を見送り、俺自身も寮に戻る。その途中で懲罰室の前を通ったが、気にしない。故意にとかではなく、本当に意識もしない。

階段を上がる途中で女子特有の高い声がたくさん聞こえた。この時間になってもやってるのか。もう九時過ぎてるぞ。

興味の欠片も湧かないパーティ会場の目の前を通ったとき、俺にとって悪魔とも呼べるやつが出て来た。

 

「あ!真理!何処行ってたんだよ!?」

 

お前に教える義理は無いし、教える気もない。いいから主賓は戻れ。そして俺を帰らせろ。

 

「色々な。それより戻らなくていいのか?皆待ってるみたいだぞ」

「いやぁ、なんかこういうのは肌に合わなくて…あ、そういえばお前の事を取材したいって人がいるんだ!ついて来てくれよ!」

「いや、俺はもう帰る。悪いがその人には会えんな」

「少しだけだから!頼むよ!」

 

浴衣の袖を掴まれ引っ張られる。巫山戯るな。取材とか絶対嫌。

そんなことを思っていても織斑の力はいっこうに弱まらず、織斑に引かれる形で女子たちの間をすり抜けていく。その途中で「うわ」とか「あれ誰?」とか「織斑君は攻めね!」とか色々聞こえた。最後マジでやばそうだから関わりたくないな、絶対に。

チッ、仕様がない、最後の手段だ。

 

「おい織斑」

「なんだ、真理」

「今の時間、わかるか?」

「え?え……っと…」

 

今は九時四十五分。寮の規則では十時には部屋にいなくてはならない。それに加え、この大量の料理達。ぱっと見、片付けには三十分は掛かるだろう。その事に気づいたのか織斑は顔を真っ青にした。

 

「いいのか?一年の寮監は織斑先生だぞ」

「皆ぁ!片付けろー!織斑先生が来るぞー!」

 

ははは、残念だったな織斑。もう遅い。

 

「残念だったな織斑」

 

うーわ。ドス効き過ぎだろ。俺は全く関係無いんで解放してもらってもいいですか?

 

「今すぐに片付けろ」

「俺は参加してないし、織斑に無理矢理連れ込まれたので帰っていいですか?」

「駄目だ。今この場にいる者全員で片付けろ」

 

クッソ、何か良い案は…。

 

「更識先輩に呼ばれてるんですよ。それでも駄目ですか」

「更識か……」

 

織斑先生思案中。

 

「……仕様がないな、早く行け」

「ありがとうございまーす」

 

神は俺に味方した。ふはは、残念だったなぁ織斑。俺は先に帰る。

結果、片付けは十時までには終わらず、そこにいたメンバー全員が織斑先生からの罰を受けたそうだ。

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