オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第95話:漆黒の剣

 

 

カルネ村。

やわらかな陽光の下、桜に似た花々が小径を彩り、畑には芽吹いたばかりの緑が広がっていた。

新しい季節の訪れに村は穏やかな活気を見せていた。

 

魔導国の使節としてセバスに従い、ツアレは清楚なメイド服姿で村を訪れていた。

村人へ礼を尽くしながら広場を歩いていると――。

 

「……っ!」

 

人混みの向こうで、一人の少女が立ち尽くした。

淡い春風に髪を揺らす冒険者、ニニャ。

忘れようとしても忘れられなかった面影が、目の前にあった。

 

「……お姉……ちゃん?」

 

震える声。

ツアレの心臓が跳ね、振り返る。

その瞳に映ったのは、確かに最愛の妹だった。

 

「……セリーシア……なのね……!」

 

次の瞬間、二人は駆け寄り、抱き合った。

頬を濡らす涙が互いの肩に落ちる。

 

「生きてた……! 本当に、生きててくれた……!」

 

「ごめんなさい……心配ばかりかけて……でも、こうしてまた会えたのね……」

 

春風が花びらを舞わせ、再会を祝福するかのように二人を包み込む。

 

セバスは少し離れた場所で静かに見守っていた。

ペテルは安堵の息をつき、ダインはそっと目を伏せる。

ルクルットは花粉を言い訳にして目を拭っていた。

 

村人たちは足を止め、温かい笑みを浮かべる。誰も二人を邪魔しなかった。

 

「もう……大丈夫。私は魔導国で生きてる。だからセリーも……胸を張って冒険者を続けて」

 

「うん……! お姉ちゃんがそう言うなら、私、もっと頑張る!」

 

抱き合う二人の上に、白い花びらがはらはらと降り積もった。

春の空はどこまでも澄み渡り、姉妹の未来を祝福していた。

 

村の広場には大きな花の木があり、枝いっぱいに白や淡紅色の花を咲かせていた。村人たちは敷物を広げ、素朴な料理や果実酒を持ち寄って花見を楽しんでいる。

 

ツアレとニニャは並んで座り、互いにまだ手を離せずにいた。

春風が舞い散る花びらを運び、二人の膝の上に静かに降り積もる。

 

「本当に……お姉ちゃんが無事でよかった。ずっと夢に見てたの」

「私も……セリーが強くなってくれたことが何より嬉しい。立派な冒険者なのね」

 

ニニャは少し照れながら仲間を見やる。ペテルは穏やかな笑みを浮かべ、ルクルットは果実酒をあおりながら「いやー、俺たちのおかげでもあるよな!」と胸を張り、ダインが呆れ気味に首を振った。

 

 

/*/ セバスと漆黒の剣 /*/

 

 

その様子を少し離れた場所から見守っていたセバスに、ペテルが歩み寄る。

礼儀正しく頭を下げて言った。

「あなたが……ツアレさんを救ってくださったのですね。私はペテル・モーク。カルバイン様の弟子でございます」

 

その名にツアレが驚いて顔を上げ、ニニャもはっとした。

セバスは静かに頷き、深い尊敬を込めた声音で答える。

 

「カルバイン様の……弟子でありましたか。あの御方は、強さと慈悲を併せ持つ稀有な御方」

 

ペテルの胸は熱くなった。

自分の師を敬う気持ちと同じ思いが、魔導国の使者からも語られたことに。

 

「師は決して弱きを見捨てぬ方でした。その教えを胸に、私たちはこうして冒険者を続けています」

「……その心が、ニニャ殿を支えたのでしょう。あなた方に感謝を」

 

二人は短く言葉を交わしただけだったが、互いの背後にある誠実さを理解するのに十分だった。

 

 

/*/ 姉妹の未来 /*/

 

 

花の下で、ニニャは少し不安そうに姉を見上げる。

「お姉ちゃんは……これからも魔導国で働くんだよね?」

「ええ。セバス様のおかげで、私は居場所を得ました。でも……」

 

ツアレはニニャの手を握りしめ、微笑んだ。

「これからは、もう二度と離れ離れにならない。たとえ道が違っても、私たちは姉妹だから」

 

ニニャの瞳に新しい光が宿る。

「うん……! 冒険者として、胸を張って生きていくよ」

 

風に揺れる花の下で、姉妹の声が春空へと溶けていった。

 

 

/*/ 春のカルネ村 ― 花見の宴 /*/

 

 

満開の花の下、カルネ村では春を祝う宴が開かれていた。

村人たちが持ち寄った料理が並び、子どもたちの笑い声が響く。

 

ツアレとニニャは敷布の上で肩を並べ、互いの温もりを感じながら語り合っていた。

セバスは少し離れて二人を見守り、漆黒の剣の仲間たちも交ざって穏やかな時を楽しんでいた。

 

「こうしてお姉ちゃんと一緒に花を見られるなんて……夢みたい」

「ええ、セリー。春は再会の季節なのかもしれないわね」

 

姉妹が微笑み合うと、花びらが舞い降りてその肩を飾った。

 

 

/*/ 薬師の小屋にて /*/

 

 

やがて宴がお開きとなり、漆黒の剣の四人は仕事へと向かった。

訪れたのは薬草小屋――窓から乾いた薬草の香りが漂ってくる。

 

「こちらが今回の品になります」

 

若き薬師 ンフィーレア・バレアレ が、木箱を指し示す。

その隣には村長にして彼の妻、かつて“真紅の戦乙女”と呼ばれた エンリ・エモット が堂々と立っていた。

 

「回復ポーション五十本、解毒ポーション三十本、耐寒用二十本、その他いくつか試作品も。合計で百を超えるわ」

エンリが淡々と告げると、ルクルットが思わず口笛を吹いた。

 

「すっげえ数だな! 馬車の荷台がいっぱいになっちまうぜ」

「俺が言うのもなんだが、きちんと重さを分散して積め。揺れで割れたら洒落にならん」

ダインが真面目に指示を出し、ペテルは頷きながら箱を運び始める。

 

ニニャも積み込みを手伝い、ふと姉を見やった。

ツアレはセバスと並び、静かに見守っている。

 

 

/*/ 出立 /*/

 

 

全ての木箱がきれいに積み込まれた。

ペテルが荷台を叩き、誇らしげに言う。

 

「これで準備は整った。エ・ランテルのバレアレ工房出張所に、責任を持って届けよう」

 

セバスが一歩前に出る。

「道中、魔獣や盗賊が出ぬとも限りません。ですが、あなた方なら問題はないでしょう」

 

「ええ、セバス様」

ペテルは深く頷く。「カルバイン様の教えを胸に、務めを果たします」

 

ツアレは馬車に乗り込む妹へと歩み寄り、手を握った。

「気をつけてね、セリー。帰ってきたら、また一緒に花を見ましょう」

「うん! 絶対に!」

 

姉妹は力強く微笑み合い、名残惜しくも手を放す。

 

春風が花びらを舞わせる中、村人たちの「いってらっしゃい!」という声に送られて、馬車はゆっくりと動き出した。

見送るセバスとツアレの姿が遠ざかるにつれ、ニニャの胸は再び希望で満たされていった。

 

 

/*/ エ・ランテル ― バレアレ工房出張所 /*/

 

 

春の陽光に包まれた街並みを抜け、漆黒の剣の馬車は石畳をゆっくりと進んでいった。

街の喧騒と香ばしい焼き菓子の匂いが漂う中、目指す先はバレアレ工房の出張所。

 

「ふぅ……何事もなく着いたな」

ペテルが胸を撫で下ろすと、ダインが小さく笑った。

「こういう時こそ気を緩めるな。最後まできちんと届けてこそ、仕事は終わりだ」

 

馬車を停めると、出張所の扉が開き、赤茶の髪を二つに結んだ少女が顔を出した。

アルシェ――バレアレ工房に所属する若き魔術師である。

 

「お疲れさまです、漆黒の剣の皆さん。ずいぶん大きな荷物ですね」

「ンフィーレアとエンリさんから託されたポーション一式だ。数は百本以上、割れや漏れはなし。すべて無事に届けた」

ペテルが簡潔に答えると、アルシェの瞳がぱっと明るくなった。

 

「……すごい、本当にありがとうございます! エ・ランテルでは需要が高まっていて、これでどれほど助かるか……」

 

彼女は丁寧に受領の確認を行い、帳簿に記録していく。

ルクルットが得意げに胸を張った。

「俺たちが運んだんだから当然さ! 割れた瓶なんて一つもないだろ?」

「はい、本当に綺麗な状態です。感謝します」

アルシェは笑みを浮かべて頭を下げた。

 

ダインは積み荷がきれいに受け渡されたのを確認し、安堵の息をついた。

 

 

/*/ 納品完了 /*/

 

 

全ての確認が終わり、アルシェは深々と頭を下げる。

「漆黒の剣の皆さん、本当にありがとうございました。これで街の冒険者や市民を守る備えが整います」

 

ペテルが仲間たちに目をやり、静かに頷く。

「任務完了だな。――カルバイン様の教え通り、俺たちも人の役に立てた」

 

春の風が窓から吹き込み、工房の中に薬草と花の香りを運んでくる。

漆黒の剣は顔を見合わせ、充実感と共に笑みを浮かべた。

 

 

/*/ バレアレ工房エ・ランテル出張所 ― 新たな依頼 /*/

 

 

「これで全て確認できました。本当にありがとうございます」

深々と頭を下げたアルシェだったが、その表情にどこか思案の影が差していた。

 

それを見逃さなかったのはペテルだった。

「……何か、まだあるのでは?」

 

アルシェは少し逡巡した後、彼らに向き直った。

「実は――追加でお願いしたいことがあるのです」

 

 

/*/ 新たな依頼 /*/

 

 

アルシェは帳簿を閉じ、小さな地図を広げて机に置く。

「最近、街道沿いの森で薬草採取に出た商人や採集者が、魔獣に襲われる事例が増えています。中には、私たち工房が必要とする薬草の産地も含まれていて……」

アルシェは地図を指で押さえながら、少し声を落とした。

 

「……実のところ、魔獣の討伐だけなら、魔導国に駐留しているデス・ナイトに依頼すれば一瞬で片付きます」

 

ルクルットが「そりゃそうだろうな」と肩をすくめる。

だが、アルシェは首を横に振った。

 

「ですが――彼らは力が強すぎるのです。薬草の群生地ごと森を踏み荒らし、土地が使い物にならなくなる恐れが高いのです」

 

ニニャがはっと息をのんだ。

「そ、それじゃ……薬草を守るためには、冒険者が細やかに動くしかないんだね」

 

「ええ。だからこそ、漆黒の剣の皆さんにお願いしたいのです。あなた方なら、ただ倒すだけでなく、土地や資源を守る目を持っているはずですから」

 

ペテルは真剣な表情で頷いた。

「……なるほど。力任せの討伐では意味がない、ということか。良し、俺たちで引き受けよう」

 

アルシェの顔に安堵と感謝が広がる。

「ありがとうございます……! 本当に心強いです」

 

ダインは地図を覗き込みながら呟いた。

「街道沿いの森か……魔獣の種類次第では、簡単にはいかないかもしれん」

 

ルクルットは拳を握り、にやりと笑う。

「でも、俺たちならやれるさ! なぁ?」

 

仲間たちの視線が交わり、力強く頷き合った。

こうして、薬草の産地を守るための新たな冒険が幕を開けるのだった。

 

 

/*/街道沿いの森 ― 現地調査 /*/

 

 

エ・ランテルを発ち、漆黒の剣は春の風に吹かれながら街道を進んでいた。

目的地は薬草の群生地。周囲は若葉に包まれ、小鳥の声が響いている。

だが、その穏やかな景色に似つかわしくない痕跡があった。

 

「……ここだな」

ルクルットがしゃがみ込み、湿った土に残された大きな足跡を指差した。

 

「獣人のような……いや、これは」

ダインが覗き込むと、ルクルットは拾い上げた黒褐色の毛を見せた。

 

「バグベアの毛だ。間違いねぇ」

 

ペテルの表情が引き締まる。

「バグベア……トブの大森林から流れてきたか」

 

ニニャが不安げに呟く。

「バグベアって……ただのゴブリンやクマとは違うんだよね?」

 

「そうだ。体格も腕力も段違いだ。並の冒険者なら数人まとめて相手にしても苦戦する」

ダインが答えると、ニニャは唇を噛みしめた。

 

ルクルットはさらに周囲を見回し、低く声を上げた。

「見ろ。木の幹に爪痕がある。最近縄張りを主張し始めてるな。こいつら、群生地を自分の寝ぐらにしようとしてやがる」

 

 

/*/ 対策会議 /*/

 

 

ペテルは地面に枝で簡単な図を描いた。

「相手は少なくとも一体、もしくは二体の可能性が高い。バグベアは集団行動もするが、この足跡の大きさからすると、親玉が一体いると見ていいだろう」

 

「俺が囮になって引きつける。その間にお前らが背後を取れ」

ルクルットが即座に提案する。

 

「いや、無茶はするな」

ペテルが首を振る。「正面は俺が受ける。師匠に鍛えられた身体で必ず耐えられる。ルクルットは周囲の動きを探れ」

 

「了解だ。俺は隠れるのが得意だからな」

ルクルットはにやりと笑い、毛を指先で弄んだ。

 

ニニャが胸に手を当てて言う。

「私は補助魔法でみんなを支える。……お姉ちゃんに心配させないためにも、絶対に役に立つ!」

 

ダインは短く頷いた。

「よし。薬草を荒らさせないことが第一だ。周囲に火は使うな。武器と魔法は的確に」

 

ペテルは最後に仲間たちを見回し、力強く言い切った。

「――我ら漆黒の剣、必ず任務を果たすぞ」

 

春風が木々を揺らし、戦いの始まりを告げるかのように花びらが舞い落ちた。

 

 

/*/ 森の交戦 ― 魔法の矢 /*/

 

 

バグベアーの咆哮が響き渡り、ペテルの盾に連撃が叩き込まれる。

だが、その揺るがぬ防御の背後で――ニニャの詠唱が完成していた。

 

「――我が願いに応えよ、魔力の矢よ!」

 

淡い光を帯びた三本の矢が、空中に浮かび上がる。

それぞれが生き物のように震え、標的を捉えた。

 

「放てッ!」

 

シュッ、シュッ、シュッ――!

 

三連射の魔法矢が光の軌跡を描き、バグベアーの胸と肩に突き刺さった。

「グルァァァッ!!」

巨体がのけぞり、怒りと苦痛の咆哮を上げる。

 

「ナイスだ、ニニャ!」

ルクルットが枝の上から声を上げ、すかさず次の矢をつがえる。

 

ダインは隙を逃さず、横合いから鋭い一撃を浴びせた。

「ここだ!」

刃が血を弾き、バグベアがよろめく。

 

だが、それでも奴はペテルに向かおうとする。

 

「なんの!」

 

ペテルが雄叫びと共に盾を打ち鳴らす。

鉄壁の防御が道を塞ぎ、バグベアの視線を再び自分へ釘付けにする。

 

「俺が壁だ! お前の相手は、この俺だッ!」

 

バグベアは爪を振るい、牙を剥き、何度も突進する。

だがペテルは一歩も退かない。

仲間の攻撃が積み重なり、確実に巨体を削っていく。

 

三本の魔法矢による痛撃で、バグベアの動きは明らかに鈍っていた。

ルクルットの矢が肩に、ダインの刃が脇腹に、そしてペテルの盾が真正面から押し返す。

 

「もうすぐだ……!」

ニニャは杖を握りしめ、震える声で叫んだ。

「みんな、あと一歩で勝てる!」

 

仲間の視線が交錯する。

勝利は目前だった。

 

巨体を揺らしながらも、バグベアーはなお暴れ続けていた。

胸にはニニャの魔法矢が深々と突き刺さり、肩や脇腹には矢と剣の傷が刻まれている。

それでも怯むことなく、最後の力を振り絞って突進してきた。

 

「グルルルァァアアアッ!!」

 

「来い――ッ!」

ペテルは盾を構え、雄叫びで応じる。

 

盾のぶつかり合い

 

ガァン――!

バグベアの爪とペテルの盾が激突し、火花が散った。

大地が震えるほどの衝撃。

 

だが、今回は違った。

矢と剣と魔法で削られたバグベアに、かつての力強さは残っていない。

 

「ぐっ……おおおおおッ!」

 

ペテルは大地を踏みしめ、押し返す。

盾の裏に伝わる重圧を歯を食いしばって受け止め、そして跳ね返した。

 

反撃の一閃

 

一瞬の隙――。

バグベアの体勢が崩れる。

 

「これで終わりだッ!!」

 

ペテルが盾を弾き飛ばすように押し上げ、右手の剣を振り抜いた。

鋭い刃が巨体の胸を貫き、咆哮が途絶える。

 

「――ッ!」

バグベアーは大きくのけぞり、そのまま地面に崩れ落ちた。

 

森を震わせた戦いの音が消え、静寂が戻る。

鳥の声すら、いまは戻ってこない。

 

ペテルは剣を引き抜き、血を振り払うと、仲間の方を振り返った。

「……討ち果たした」

 

ニニャが胸に手を当て、涙ぐみながら笑う。

「よかった……! みんな、無事で……!」

 

ルクルットは弓を下ろし、満足そうに口笛を吹く。

「やるじゃねぇか、大将。まさに鉄壁だ」

 

ダインも頷き、剣を収めた。

「これで薬草の群生地も守られたな」

 

春風が吹き抜け、花びらが戦場を舞う。

漆黒の剣は互いに視線を交わし、その勝利を噛み締めた。

 

沈黙が訪れた森に、春の風が吹き込んだ。

バグベアの巨体は動かず、倒れ伏したまま。

 

ペテルは盾を地面に突き、深く息を吐いた。

「……皆、よくやった。被害はないな?」

 

「ええ、かすり傷程度だ」

ダインが剣を収め、薬草の群生地を一瞥する。

「草は……踏み荒らされていない。火も使っていないから、被害は最小限だ」

 

「よし、俺たちの勝ちだな」

ルクルットが軽口を叩きつつ、矢を回収し始める。

 

ニニャは杖を胸に抱きしめ、小さく安堵の声を漏らした。

「……守れた。お姉ちゃんに、胸を張って報告できる」

 

 

/*/

 

 

「さて、この死骸をどうするかだ」

ペテルが視線を落とす。

 

ダインは腕を組んで考え、すぐに答えた。

「討伐証明のため、頭部と爪を切り取って持ち帰ろう。肉や毛皮は……残しておけば森の獣が片付けるだろう」

 

ルクルットが頷き、ナイフを抜いて手際よく作業を始めた。

「これも冒険者の仕事ってやつだな。匂いが残れば別の魔獣が寄ってくるかもしれんが、森の奥に戻っていくなら問題ねぇだろ」

 

ニニャは薬草を踏まぬよう気をつけながら周囲を見回し、ほっと微笑んだ。

「よかった……大切な場所、壊さずに済んだね」

 

 

/*/ エ・ランテル ― バレアレ工房出張所 /*/

 

 

数日後。

漆黒の剣は戦利品を持ち帰り、アルシェの前に立っていた。

 

「……バグベアだったのですか」

アルシェは驚きと安堵の入り混じった声を漏らす。

「よく討伐してくださいました。本当に感謝いたします。これで薬草の産地も守られました」

 

「デス・ナイトでは森が荒れる。だが俺たち冒険者なら、こうして守ることができる」

ペテルは胸を張り、仲間を振り返った。

 

アルシェは深々と頭を下げる。

「漆黒の剣の皆様に依頼して正解でした。報酬に加え、工房として特別に調合した回復薬もお渡しいたします」

 

「おおっ、そいつは助かる!」

ルクルットが顔をほころばせ、ダインも小さく微笑む。

 

ニニャは少し照れながら言った。

「……また必要になったら、呼んでくださいね。お姉ちゃんにも伝えたいし」

 

アルシェは穏やかに頷いた。

「ええ、きっとツアレさんも誇りに思うでしょう」

 

 

/*/ 春の余韻 /*/

 

 

工房を出た漆黒の剣の四人は、街道を歩きながら笑い合った。

春風に乗って舞う花びらが、彼らの肩に降り積もる。

 

ペテルは剣の柄に手を置き、静かに呟いた。

「――これからも俺たちは守り続ける。人々を、土地を、そして仲間を」

 

その言葉に、仲間たちは迷いなく頷いた。

新たな冒険の幕開けを予感させるように、春の空はどこまでも晴れ渡っていた。

 

 





規模が小さい!
やはり、至高の御方とは比べ物になりませんね。(眼鏡くぃ

次回!
第96話:慣らし運転は大事!

マンセーマンセーもういっちょマンセー
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