オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第97話:友達100人できるかな?

 

 

/*/ モモンガの執務室 /*/

 

 

第9階層の執務室。豪華なシャンデリアの魔法の光に書架に整然と並ぶ文書の背は淡く照らされていた。

 

大きな机の向こうで、漆黒の玉座に腰かけるモモンガ。

その対面に置かれた椅子に、湯気を立てるカップを手にしたジョンが座る。

 

――珈琲を飲みながら、各種報告書に目を通す。

それは二人の日課となりつつある、朝の静かなひとときだった。

 

ジョンは一枚の報告書をめくり、眉をひそめた。

「そういえば……スレイン法国、エルフの王国と戦争してたんだな」

 

モモンガの赤い瞳が僅かに揺らぐ。

「……ああ――“落ちた黒い涙”(第30話)の件だな」

 

ジョンは軽く頷き、報告書の行間を指先で叩く。

「《イア・シュブニグラス/黒き豊穣への貢》で蹂躙した影響もあって、戦線は一時停滞してたらしい。

だが……漆黒聖典や陽光聖典まで前線に投入して、早期決着を目指してるとある」

 

モモンガは顎に手をやり、深く考え込むように目を閉じた。

「……法国の動きが早いな。あの二つの聖典が戦場に揃えば、確かに均衡は崩れるだろう」

 

ジョンは苦笑しながらカップを置いた。

「俺たちにとっちゃどうでもいい戦争だが……エルフの国はアベリオン丘陵とも繋がってる。

下手に影響が及べば、こっちにも波風が立つかもしれねぇな」

 

「……無視はできん、か」

 

モモンガは腕を組んだまま、しばし沈黙した。

赤い瞳の光が、報告書から少し逸れて宙をさまよう。

 

「……エルフ、か」

 

独り言のように零した言葉に、ジョンが首を傾げる。

「モモンガさん?」

 

不意に、不死者の口から出たのは意外な心配だった。

「アウラとマーレ……向こうで、友達ができるだろうか?」

 

ジョンは思わず固まった。

報告書の上に置いた指が止まり、次の瞬間、吹き出すように笑みを浮かべる。

「ははっ……そこかよ」

 

「な、何がおかしい?」

モモンガは少しだけ声を尖らせる。

 

「いや、いや……だって戦略の話してたと思ったら、急に親心が出るんだもんな」

ジョンはカップを掲げて小さく乾杯のように振る。

「けど、そうだな。アウラとマーレなら、きっと友達くらいできるさ。……それに、エルフ相手なら余計にな」

 

「……そうだろうか」

モモンガはわずかに肩を落としながらも、声には微かな安堵が混じっていた。

 

ジョンは心の中で――この不死者が、どこまでいっても“守護者たちの父”なのだと再確認した。

 

 

/*/ カルネ・ダーシュ村の外れ /*/

 

 

朝の光が差し込む森の奥で、緑の髪を風に揺らしたドライアード――ピニスンは、今日も忙しそうに立ち働いていた。

 

足元では、どんぐりを夢中で食べる豚たちがぐうぐうと鼻を鳴らす。

「ほら、そっちの実はまだ熟してないんだから! ちゃんと落ちたやつだけ食べるのよ!

……まったくもう、贅沢なんだからこの子たち!」

 

枝を払うために森へ入ってきた村人が腰をかがめると、すかさずピニスンが駆け寄った。

「ちょっとあなた! そこは鹿の通り道だから枝を落とすならあっち、そうそうそこよ!

それから昨日の雨で下草が一気に伸びたの、見た? あれ放っておくと蛇が増えるから大変なのよ、ほんとに!」

 

「は、はいはい……」

村人は苦笑しつつ枝を切りながら、横から止まらぬマシンガントークを浴びる。

 

「それと、この辺りの苔! ほら見て、きれいでしょ? これは薬師のところに持っていけばいい値になるのよ?

村の子たちに教えといたらいいわ、あの子たち元気だけどお小遣い稼ぎくらいさせないと!」

 

「ええと……は、はい……」

 

豚たちがどんぐりを食べ終えて、ごろりと寝転ぶ。

ピニスンは腰に手を当て、満足げに頷いた。

「ふふ、今日も森は平和ね! さあ、次はあっちの倒木を片付けましょう!」

 

村人は内心「休ませてくれよ……」とぼやきつつも、心のどこかでこの森がいつも清らかなのはピニスンのおかげだと分かっていた。

 

 

/*/ カルネ・ダーシュ村を囲む水路 /*/

 

 

夏の陽射しを受けてきらめく水面では、子供たちが歓声を上げていた。

 

「いっけー!」

「魚捕まえるぞー!」

 

着ていた服を脱ぎ捨てて、裸のまま水に飛び込み、ばしゃばしゃと水を蹴立てながら魚を追う。

岸からそれを眺めていたジョンは、腰を下ろして腕を組み、のんびりと目を細めた。

 

「……平和だなぁ」

 

戦争も策謀も遠く、この村の子らにとって世界はただ青く澄んだ水路と笑い声だけ。

ジョンは深く息を吸い込み、静かな時間を味わっていた。

 

――その時だった。

 

「きゃっ……!」

一人の小さな子供が足を滑らせ、深みに引き込まれた。

歓声が悲鳴に変わり、水面がばしゃばしゃと激しく揺れる。

 

ジョンはすっと立ち上がった。

靴底が水面に触れた瞬間――沈まない。

彼はそのまま水の上を歩き出した。

 

「安心しろ、今行く」

 

ざわつく子供たちの目の前で、ジョンは水面を踏みしめ、まるで大地を渡るように沈みかけた子のもとへ。

片手を差し伸べ、すぐさま抱き上げると、子供の小さな身体からごぽりと水が吐き出された。

 

「ぶはっ……!」

「だ、大丈夫か?」

 

ジョンが背を軽く叩くと、子供は咳き込みながらも次第に呼吸を取り戻す。

岸からは仲間の子供たちが駆け寄ってきた。

 

「すげぇ! 水の上歩いた!」

「ジョン様、ありがとう!」

 

ジョンは子供を岸に降ろし、濡れた髪をわしゃっと撫でた。

「水遊びもいいが、無茶はすんなよ。魚は逃げないんだからな」

 

子供たちは目を輝かせ、頷いた。そして…

 

「ジョン様! どうやるの!? 俺にもできる!?」

「水の上歩きたい!」

 

子供たちが目を輝かせて群がってくる。

ジョンは少しだけ考えてから、片手を頭に当てて笑った。

 

「内気と外気を均衡させて……って説明すると難しいか?」

「む、むずかしい……」

 

「だよな。じゃあ簡単なやつだ」

ジョンは指を一本立てて、子供たちに向けた。

 

「左脚が沈む前に、右足を出して――水面を走るんだ」

 

「えっ!? それでいいの!?」

「お前らならペテルくらい鍛えれば出来るぞ」

 

「ぺ、ペテルにーちゃんくらい!?」

「じゃあダメだ、あれだと仕事できないから、かーちゃんに怒られるよ!」

「ほんとだー!」

 

子供たちがどっと笑い出す。

 

ジョンは肩を竦めながらも、楽しそうに笑って言った。

「……ま、数年後くらいかな。鍛えれば5メートルくらいは水の上を走れるかもしれないぞ」

 

「ほんとに!?」

「すげー! 俺、絶対やる!」

子供たちの声が水路に響く。

ジョンが「数年後には5メートルくらい」と笑っていたところへ――。

 

「……あの、勝手に人を基準にするの止めてもらえますか?」

 

日焼けした顔に疲労の色を浮かべ、ペテルが歩いてきた。

訓練着の袖をまくり、首元には汗が滲んでいる。

どうやら基礎訓練を終えて戻ってきたところらしい。

 

「お、噂をすれば。ペテル、ちょうどいいところに来たな」

ジョンが笑顔で手を上げる。

 

だがペテルは額を押さえて小さくため息をついた。

「俺……ブレイン殿の弟子入り希望者の選別窓口みたいにされて、ぐったりしてるんです。そこにさらに“水の上走れる基準”にされたら……体がいくつあっても足りませんよ」

 

「ははっ、まあそう言うな」

ジョンは立ち上がって、彼を頭の先からつま先まで見やった。

「今のお前なら、装備込みで15メートルくらいは走れる筈だ」

 

「じゅ、十五!?」

子供たちが一斉にペテルを見る。

「すげー!」「ペテルにーちゃん、やってみて!」

 

ペテルは「やれやれ」と肩を竦めるしかなかった。

 

そんな彼にジョンは軽く顎をしゃくって言った。

「ま、後で挑戦してみるのもいいだろう。――さて、どうした?」

 

ペテルは一呼吸置いて姿勢を正し、真剣な声で答えた。

「あ、はい。ンフィーレアさんとエンリさんの護衛、それとポーションの運搬だ。エ・ランテルへ行ってきます」

 

ジョンは目を細め、軽く頷いた。

「……そうか。なら気をつけて行ってこい」

 

子供たちの「いってらっしゃーい!」の声を背に受けながら、ペテルは足取りを正し、静かに村を後にした。

 

 

/*/ カルネ・ダーシュ村の外れの森 /*/

 

 

どんぐりを食べて寝転ぶ豚を見守りながら、ピニスンは手際よく伸びた下草を刈り取っていた。

 

そこへ、馬車の車輪が森の脇を通り抜ける音が響く。

振り向けば、荷を積んだ漆黒の剣の四人と、ンフィーレア、さらに赤いリボンを結んだエンリの姿。

 

「おや! みんな揃ってどこへ行くの?」

ピニスンが勢いよく駆け寄ると、全員が一瞬「やばい、捕まった」という顔をする。

 

案の定――。

 

「今日は森の様子ね? あら、この子たち(豚)、よく食べてるでしょ? どんぐりで育った豚は肉に旨味が出るの!

あ、それから見て! あそこの白い花! あれは薬草の仲間で、今がちょうど摘み頃なのよ!

でもね、根っこを掘りすぎると翌年生えなくなるから加減が大事で――」

 

ンフィーレアが慌てて相槌を打つ。

「は、はい! あの、ええと……ピニスンさん、森の知識、本当に助かります……」

 

しかしピニスンは止まらない。

「そうでしょうそうでしょう! あとね、最近は森に妙な足跡が増えててね、あれはおそらく――」

 

ルクルットが思わず小声で漏らす。

「(……やっぱり長ぇ……)」

 

ペテルは真面目に頷きながらも、視線だけで仲間に「我慢だ」と訴える。

 

エンリが苦笑しながら助け舟を出した。

「ピニスン、そろそろ出発しないと遅くなっちゃうから……」

 

「あら、そうなの? じゃあ最後に一つだけ! この森はね、夜になると木々が歌うのよ!

今度、みんなで夜に来てみるといいわ! ほんと、すっごいから!」

 

「「「「は、はい!!!」」」」

 

元気よく返事をした漆黒の剣たちは、急いで馬車を進めた。

その背を見送りながら、ピニスンは満足そうに呟く。

「ふふっ、ちゃんと聞いてくれてよかった。森のことを知るのは、大事なことなんだから!」

 

森の奥では、豚たちがぐうぐうと寝息を立てていた。

 

 

/*/ バレアレ工房エ・ランテル出張所 /*/

 

 

荷台の蓋を開け、ポーションの詰まった木箱を降ろす。

ペテルが持ち上げた箱をダインとルクルットが受け取り、倉庫の奥へと運んでいく。

ニニャは帳簿を手に、数と納品票を突き合わせながら確認に余念がない。

 

「今日はわざわざありがとうございます」

柔らかな声と共に、工房の白衣姿のアルシェが深々と頭を下げた。

 

「工房の様子も見たかったし」

ンフィーレアが苦笑を浮かべながら、腰に手を当てる。

「それに、アルシェさんにポーションの調合を少し教えておかなきゃってのもあってね」

 

アルシェの目がぱっと輝く。

「……本当ですか! ぜひお願いします!」

 

エンリが横で頷き、にこやかに付け加える。

「それが終わったら、私とンフィーは街で買い物をするの。あ、宿は取ってあるから心配しないで」

 

「なるほど。なら今日はここで解散、というわけですね」

ペテルが汗を拭いながら、子供のような笑顔を見せる。

 

「ええ、みんなも無理しないで。しっかり休んでちょうだい」

エンリの声はどこか母のような温かさを帯びていた。

 

木箱がすべて収まり、倉庫の扉が音を立てて閉じられる。

漆黒の剣の4人は互いに視線を交わし、仕事をやり遂げた充実感を胸に小さく頷き合った。

 

 

/*/

 

 

工房での納品と確認を終え、皆がそれぞれの予定を話し始める。

 

ンフィーレアはアルシェへの調合指導を済ませると、エンリと共に街へ買い物へ向かう。

その背後――誰も気づかぬ影の中には、モモンガが差し向けた シャドーデーモン が潜み、屋根の上や石畳の影に姿を忍ばせていた。

さらに空には、完全不可知化を施されたバイアクヘーが音もなく旋回し、二人の動向を監視している。

しかしその存在に気づいた者は、その場に一人としていなかった。

 

村との行き帰りについては、従来どおり漆黒の剣が護衛にあたることが決まっている。

 

「さて……俺は組合に顔出さねぇとな」

ペテルが肩を回しながら言う。

冒険者組合の訓練場――彼にとってそこは、訓練という名の ブレイン弟子入り志願者の選別模擬戦 を繰り返す場となっていた。

自分を頼って来る若者たちを無下にできず、今日もまた汗を流すことになるだろう。

 

「じゃあ、私は魔術師組合に行ってくるよ」

ニニャは帳簿をカバンに収め、少し緊張した顔で言った。

魔術師組合の長から、直々に魔術の授業を受けることになっていたのだ。

 

ルクルットは大きく伸びをして、手を後頭部で組む。

「じゃ、俺は適当に武具屋でも覗いてみるかな」

 

「私は……まずは飯であるな」

ダインは笑って腹を叩く。

「自由行動、最高である」

 

それぞれが別々の道を歩み出し、エ・ランテルの雑踏に姿を消していく。

――しかし、その背後には常に「見えざる警護」がついていることを、誰一人として知らなかった。

 

 





子供うざいですか?可愛いですか?
クソガキはぐりぐりしてやりたくなりますよね。

次回!
第98話:そうぱぁわぁー!

痛いよね。痛みには慣れてないとね
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