オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第98話:そうぱぁわぁー

 

 

/*/ モモンガの執務室 /*/

 

 

ジョンが机に置いたのは、帝国製の魔銃――魔法の矢を撃ち出す試作品だった。

 

「モモンガさん、これだけどさ」

「はぁ、これがなにか」

モモンガは赤い瞳を細め、つまらなそうに銃身を見下ろす。

 

ジョンは指で銃口を叩きながら言った。

「帝国は1レベルの《魔法の矢》しかエンチャントできなかった。でも……ナザリックならどうだ? モモンガさんの“本物の魔法”を込めた弾を作れるんじゃないか?」

 

「……」

 

「たとえば、三重強化・最大化した《魔法の矢》を30発ぶち込めば――三十連射の砲火になる。俺は結構面白いと思うんだが」

 

モモンガは一瞬沈黙し、骨の指で額を押さえる。

「……面白いかどうかで言えば、確かに面白いです。ですが、誰がそんなものを使うんです?」

 

「うーん……シズかなぁ」

ジョンは軽く肩を竦めた。

「オートマタに火力ブーストの機関銃持たせたら、めちゃくちゃ似合うと思わない?」

 

モモンガは深い溜め息を漏らした。

「……貴方の“遊び心”は、時にナザリックを驚愕の境地へ導くのですね」

 

 

/*/

 

 

モモンガの執務室。机の上に帝国製の魔銃が置かれ、ジョンとモモンガが身を乗り出していた。

 

「デザインはこれだ」

ジョンが取り出した設計図には、見慣れぬ銃の姿――USCMC(連邦植民地海兵隊)制式採用M41Aパルスライフルと記されていた。

 

「本来はレーザーパルスを撃つやつだけど……モモンガさんの《魔法の矢》を詰め込むなら、いい感じに再現できると思う。装弾数は――百発だ」

 

「……三十連射じゃ足りないじゃないですか」

モモンガは赤い瞳を細め、顎に手を当てる。

「遅延化を掛けて三十連射を三つ。ローテーションを組めるようにした方が安定しますね」

 

ジョンがニヤリと笑う。

「お、その気になってきたね、モモンガさん」

 

「私も、こういうのは嫌いではありませんから」

モモンガは小さく頷いた。

「……ところで、下部のグレネードランチャーはどうするんです?」

 

「ルプスレギナに《炎の嵐(ファイヤ・ストーム)》をエンチャントさせようかと思う」

 

「良いですね。では、鍛冶長とも相談して作ってみますか」

 

――こうして試作が始まった。

 

帝国製の魔銃は木材や鉄、そして一部の貴金属で作られた簡素な代物だった。

だが、ナザリック製は違う。

込める魔法が高位階級であるがゆえ、銃身は希少金属で鍛えられ、内部構造も強化魔法によって補強されていた。

その仕上がりは、もはや「玩具」などではなく――一振りの遺産級に匹敵するほどの存在感を放つ魔導兵装へと昇華していた。

 

チャージを遅延化で撃ちながらチャージする事で、絶え間ない弾幕の形成が可能となっている。

またガンナーのクラスがなくても魔法の矢の特性で高い命中率を誇る。

 

これが技術の切磋琢磨かとモモンガは感心した。

 

 

/*/ 第4階層「地下湖」に作ったジョンの射撃場 /*/

 

 

新たに完成した「M41A魔導パルスライフル」が試射台に据えられ、ジョンが説明を添える。

 

「仕組みは単純だ。チャージを遅延化させて撃ちながら、次のチャージを準備する。こうすれば――」

 

ジョンがトリガーを引いた瞬間、

カンッ、と軽い発射音と共に《魔法の矢》が光条となって飛び、標的を貫く。

続けて次弾、その次の弾と、途切れぬ矢の雨が流星群のように連射された。

 

「――絶え間ない弾幕の形成が可能ってわけだ」

 

銃身は熱を帯びることなく、リズムよく光弾を吐き出し続ける。

そして着弾ごとに標的の木人形は小さな爆ぜ音と共に抉れ、やがて原形を留めなくなっていった。

 

ジョンが肩越しに振り返る。

「しかもガンナーのクラスがなくても、《魔法の矢》の自動補正が利く。誰が撃っても命中率は高い」

 

モモンガは赤い瞳を細め、深く感心したように頷いた。

「……これが“技術の切磋琢磨”か。ゲームの知識と、この世界の理を組み合わせれば……ここまでの成果になるのですね」

 

その声は冷静ながらも、どこか愉悦を滲ませていた。

 

 

試射を終えたジョンが、満足げに「M41A魔導パルスライフル」を台から下ろした。

彼は傍らで静かに控えていたシズの方へ向き直る。

 

「さて……こいつはお前のために作った。受け取ってくれ、シズ」

 

差し出された銃を、シズは無言で受け取った。

細い指が銃床とグリップを確かめ、軽く重量を測る。

表情はほとんど変わらない。だがその瞳の奥に、一瞬だけ淡い光が宿った。

 

「……悪くない」

 

低く抑えた声。

シズは肩付けをして、静かに狙いを定めた。

そして――トリガーを絞る。

 

カンッ。

淡い光矢が疾り、遠方の木人形を正確に貫いた。

続けざまに二発、三発。リズムは淀みなく、矢は寸分違わず標的の急所へ突き刺さる。

 

「……命中率、良好」

小さく呟き、銃身を眺める。

その声音には僅かな熱が混じっていた。

 

モモンガは椅子に腰掛けたまま、ゆっくりと頷く。

「気に入ってくれたようですね、シズ」

 

シズは表情を変えないまま、銃を抱き直す。

「……はい。これなら、もっと……役に立てます」

 

その言葉にジョンは口元を緩め、モモンガは赤い瞳を細めて愉悦を浮かべた。

ナザリックの武装体系に、新たな一頁が刻まれた瞬間だった。

 

 

 

/*/ スレイン法国 最高執行機関 /*/

 

 

円卓の間。

重厚な石造りの壁に、未だ修復の痕が残る。

「落ちた黒い涙」による惨禍の爪痕だ。

 

その中央に据えられた十二の席のうち、三分の二は空席のまま。

生き残った首脳はわずか数名。

それでも議事は始まらねばならない。

 

――そして、新設された十三番目の席に、青白の人狼ジョンの姿があった。

彼は魔導国の意向を受け、属国となった法国の最高機関に捻じ込まれた存在。

ハバルス帝国での実績、人を惹きつける資質を見込まれての抜擢だった。

 

「……では、次の議題に移る」

 

陽神官長ニグンの声が響く。

彼は唯一、新たな神――魔導王アインズ・ウール・ゴウンをスルシャーナと同一視し、信仰を揺るがせなかった者だ。

その揺るぎなき姿勢に、民草の一部も救われている。

 

「重要なのは、エルフ王国との戦争の帰趨だ」

土神官長レイモンが言葉を継いだ。

「奴らエルフが幾ら逃げ延びようと構わぬ。しかし――あの王だけは、決して生かしてはならぬ」

 

レイモンの瞳は怒りに燃え、円卓を叩く拳に力がこもる。

「絶死絶命に――必ず奴を追い詰め、滅する機会を与える」

 

ジョンが首を傾げる。

「……なぜそこまでエルフ王を目の敵に?」

 

一瞬、場に沈黙が落ちた。

やがてレイモンが噛みしめるように言う。

「あの大罪人……八欲王の穢れ子は――六大神の御子である娘を暴行し、孕み袋としたのだ」

 

重苦しい沈黙が広がる。

ジョンは目を細め、息を吐いた。

「……その子供がアンティリーネ、というわけか」

 

レイモンは憤怒を隠さずに頷く。

「ゆえに、決して許されぬ。奴にこの世のあらゆる苦痛を与え、その後に葬る。それが、我らの悲願だ」

 

ニグンは静かに目を閉じる。

「……だが、民の平穏と“あの子”の幸福が最優先だ。私情を挟むな。頼んだぞ、レイモン」

 

「畏まりました」

 

こうして、法国の最高執行機関は、歪んだ祈りと復讐を胸に、新たな道を模索していた――。

 

 

/*/ 絶死絶命アンティリーネの私室 /*/

 

 

まだ朝靄が窓辺に漂う時刻。

アンティリーネの部屋の扉を、ドンドンと軽くも乱暴な調子で叩く音が響いた。

 

「おーはよおー、くっそたれのあんちくしょー!」

 

鼻にかかった間延びした声。

返事をせずとも誰かは分かる。

 

「――今、起きたわ。朝からご挨拶ね。少し待ってくれる?」

 

「はーい」

気の抜けた返事が扉の外から返ってくる。

 

アンティリーネは肩をすくめ、近くの椅子に掛けてあった上着を羽織った。

同性の相手だ、髪の一房が乱れていようと構うものか。

 

(あの女……一度は叩きのめしたけれど。修行を積み直して、今や私と張り合えるまでになった。煽るような口は相変わらずだけど――嫌いじゃない)

 

扉を開けると、そこには両手を腰に当てたクレマンティーヌがにやにや笑って立っていた。

「やっと出た。お寝坊さんは困るねぇ」

 

「……用件は?」

 

クレマンティーヌは人差し指をぴしりと立て、わざとらしく声を張った。

「――出撃許可、降りたよ! エルフ王をぶっ殺しに行っていいってさ!」

 

アンティリーネの眉が僅かに動く。

「……本当?」

 

「ほんっとー!」

クレマンティーヌは両手をひらひらさせる。

「しかもね、露払いには私と――神獣(ジョン)様がついてくれるんだって!」

 

その名を聞き、アンティリーネは胸の奥で静かに炎が燃え上がるのを感じた。

宿敵を討つ機会。

そして、新たな神の力を背にした、正義の鉄槌。

 

「……そう。なら、準備を整えないとね」

 

「おっけー! じゃ、着替えたら下りてきなよ、あんちくしょー!」

クレマンティーヌは軽快に手を振り、踵を返した。

 

閉じた扉の前で、アンティリーネは小さく呟いた。

「――ようやく、か」

 

 

/*/ 出撃前 法国・外郭拠点 /*/

 

 

広場には、数百の神官兵と、陽光聖典の精鋭たちが整列していた。

その中央には、魔導国から派遣されたウルフ竜騎兵団――ゴブリン、オーガ、リザードマンなどの姿も並ぶ。

人間と魔獣が混ざり立ち並ぶ光景は、従来の法国にはあり得なかった威容である。

 

その最前列に立つのは、青白の毛並みを持つ巨体――人狼、ジョン。

両手には魔法的オーラを放つ神話級武具「風神拳」「雷神拳」、そして金の瞳が冷たく輝いていた。

ただそこに在るだけで、兵たちの背筋が粟立つ。

 

「おっそーい」

すでに到着していたクレマンティーヌが、ひらひらと手を振る。

「ほら見ろよ、神獣様がもう待ってんだぞ。あんちくしょー」

 

「……あなたの声で余計に遅れた気もするけど」

アンティリーネは鼻を鳴らし、真紅の外套を翻して広場に歩み出た。

 

ジョンは二人を見やり、口端をわずかに吊り上げる。

「賑やかで結構だな。さて――作戦を確認する。

目標はただ一つ、エルフ王の首。だが他のエルフどもは掌握し、魔導国の属国として組み込む。無駄な殺戮は避けろ」

 

兵列の奥で、陽光聖典の隊長ニグンが深く頷いた。

「了解しました。我らも新たなる神の御心に従い、無益な血を流さぬよう立ち回りましょう」

 

「……ふん、掌握だの属国だの、手間のかかる話ね」

クレマンティーヌは肩を竦め、だが口元に笑みを浮かべた。

「でもまあ、その首を狩るのは楽しそうだ」

 

アンティリーネは冷ややかに視線を逸らす。

「――首は、私が討ち取る」

 

互いの言葉が交錯する刹那、ウルフ竜騎兵団の甲冑がざわめき、兵たちの視線はただ一人へと集まった。

 

ジョンは静かに右腕を上げ、短く言い放つ。

「進軍開始だ」

 

その声が広場を満たした瞬間、法国軍と魔導国の連合部隊は一斉に動き出した。

宿敵――エルフ王を討ち果たすために。

 

 

/*/ エルフの森 前線 /*/

 

 

法国軍とウルフ竜騎兵団が進軍を開始して間もなく。

濃緑の森の奥から、細身の影が現れた。

 

弓を手にした少年――まだ十にも満たぬ顔立ち。

だが、その矢は稲妻のように閃き、神官兵の喉を射抜いた。

倒れる兵を追うように、次の矢が放たれ、三人目が崩れ落ちる。

 

「ちっ……!」

前列の兵たちが防御を固める間に、今度は槍を握った少女が突撃する。

十数歩で二十人を貫き倒すその動きは、まるで老練の兵士のそれだった。

しかし、その瞳には恐怖と虚ろさが同居していた。

 

「……なんだ、これは」

後方に控えていたニグンが、眉をひそめる。

「まだ子供が……軍を相手に戦っているだと?」

 

だが事実だった。

森の各所から現れるのは、弓、剣、槍を握りしめた幼きエルフたち。

ひとりひとりが異常な力を宿し、各個で千人以上を屠るだけの力を振るっている。

 

その異様な光景に、クレマンティーヌがくつくつと笑う。

「ははっ、なるほどねぇ。デケムの奴……子供を戦場に放り出して“狩り”させてんだ」

 

「……パワーレベリング、か」

ジョンが低く呟く。

金色の瞳に宿る光は、怒りか、それとも冷たい理解か。

 

「子供に血を吸わせ、死地を踏ませ、力を与える。

――だが、その果てに残るのは屍と憎悪だけだ」

 

アンティリーネは弓を引き絞り、迫る少年兵を一撃で射抜いた。

冷ややかな声音が続く。

「……これ以上、子供を利用する罪人を放置するわけにはいかない」

 

その瞬間、ウルフ竜騎兵団が前へ。

狼の咆哮と竜の唸りが森を震わせ、連合軍の反撃が始まった。

 

ジョンは拳を強く握りしめる。

彼は親の愛情を知らない捨て子だった。

だが、時折モモンガが語ってくれた両親の話――苦しい中で、愛情深く息子を育てた姿――それを知っている。

だからこそ、虚ろな目の子供を血で育てようとする親と、ジョンは決して解り合えない。

 

「――行くぞ。子供を盾にする親こそ、最も醜い怪物だ」

 

森に轟音が鳴り響き、決戦の幕開けを告げた。

 

 

/*/ エルフの森 前線 /*/

 

 

戦場に響いていた悲鳴と金属音が、徐々に途絶えていった。

斃れた子供たちの小さな体が、血に濡れた草の上に散らばっている。

武器を握ったまま力尽きた者、なお震える手を伸ばしながら息絶えた者――。

 

神官兵たちは肩で息をし、人狼兵たちは荒い呼吸を吐く。

だが、勝利の実感はどこにもなかった。

胸に広がるのは、得体の知れぬ重苦しさと後味の悪さだけだ。

 

「……子供を、相手に……」

一人の神官兵が剣を握りしめたまま、吐き捨てるように呟いた。

血に染まった刃先が震えている。

 

「これが戦いだと……誰が言えるんですか……」

別の兵は膝をつき、震える声を漏らした。

 

アンティリーネは弓を下ろし、冷ややかな目で死屍累々を見渡す。

「……全て、あの男の仕業。子供を“道具”にした結果よ」

 

クレマンティーヌは大きく息を吐き、わざと笑い声を混ぜる。

「ったく……胸くそ悪いわ。子供のくせに戦い方は大人以上だし、止めを刺すのに躊躇してりゃ逆に刺されそうになるし……。

――でもさ、全部“仕込み”なんでしょ? あの腐れ王の」

 

ジョンは無言のまま、倒れた少年の槍を拾い上げた。

小さな手の跡が残る木製の柄は、刃こぼれと血に塗れている。

彼は静かに槍を地に立て、少年の亡骸に瞼を閉じさせた。

 

「……二度と、こんなことを繰り返させはしない」

 

低く、噛み締めるような声。

その瞳に怒りと憐憫が混じる。

 

ニグンは黙したまま、掌を組んで祈りを捧げる。

「新たなる神よ……この子らに救済を」

 

その瞬間――森の奥から乾いた足音が響いた。

木々の間から歩み出る、長身の影。

その存在感だけで場の空気が一変する。

 

「――知っているか、人間」

 

冷ややかな声と共に、エルフ王デケムが姿を現した。

 

 

/*/ エルフの森 最前線 /*/

 

 

血の匂いが漂う戦場に、低く冷ややかな声が落ちた。

 

「――知っているか、人間。命を賭した極限状態で、強者と戦うこと。

それこそが最も早く、最も効率よく強くなる手段だ」

 

声の主は、長身の影。

絹のように輝く金髪を背に流し、玉座に座るかのような傲慢さを纏う。

エルフ王――デケム。

 

彼の足元には、ひとりの少女の亡骸が転がっていた。

まだ十にも満たぬ幼子。

血に濡れた槍を抱えたまま、虚ろな瞳を開いたまま絶命している。

 

デケムの声は一段低くなり、冷たい響きを帯びた。

「……もしかして成功例かと期待して母体から引き離し、送り込んだが――」

 

視線が、軽蔑に染まる。

死した少女を見下ろすその瞳に、哀れみの欠片もない。

 

「無能め。私に手間をかけさせただけ、他の失敗作にすら劣る。

やはり“王の相”を持たぬ者は、ゴミに過ぎぬな」

 

その顔を正面から見た瞬間、兵たちは息を呑んだ。

左右で色を異にする双眸。

その異様な光が、彼こそ法国が討つべき最終標的だと雄弁に物語っていた。

 

エルフ王デケム。

唾棄すべき大罪人。

人の尊厳を弄び、幼子すら駒とする絶対悪が、ついに姿を現したのだった。

 

 

/*/ エルフの森 前線 /*/

 

 

ジョンは金の瞳を細めた。

濃緑の木々の合間から悠然と姿を現したエルフ王デケム。

その左右で色の異なる瞳は、冷酷さと傲慢を隠そうともしていない。

 

(……馬鹿なのか? 俺やモモンガさんなら、絶対にこういう真似はしない)

ジョンは内心で吐き捨てた。

「未知の敵の前に、無防備に姿を現す」――それはナザリックにおいて最も戒められている愚行。

にも拘らず、この王は兵も護衛もつけず、ただ堂々と現れたのだ。

 

(……探知能力が低いのか、それとも慢心か。どっちにしても、情報を引き出すチャンスだな)

 

ジョンは一歩踏み出し、挑発するように口を開いた。

「お前が――エルフ王デケムか」

 

デケムは見下ろすように顎を上げ、冷笑を返す。

「ほう……名を知っているか。亜人風情が私の前に立つとは、随分と度胸があるな」

 

「度胸じゃねぇさ」

ジョンは肩を竦め、あえて軽薄な口調で返す。

「お前が無防備に姿を晒してくれたおかげで、ここに立ってるってだけだ。……普通はやらねぇよな? 敵の真ん中に、一人でのこのこ顔を出すなんて」

 

デケムの口端がわずかに吊り上がった。

「ふん……愚かな。私は王。誰もがひれ伏す存在。隠れる必要などない」

 

(……なるほど。慢心が半分、だがもう半分は自信……か)

ジョンは目を細め、探るように続ける。

 

「じゃあ訊くが――子供を戦場に放り出したのも王の自信ってわけか?

強者と戦わせれば早く強くなる、なんて聞きかじりの理屈を押しつけてよ」

 

その瞬間、デケムの瞳が冷ややかに光った。

声のトーンが一段落ち、軽蔑を込めて死体を見下ろす。

「命を賭した極限での戦いこそが、最も早く強者を生む……成功例かと思って母体から引き離し、送り込んだが……」

 

唇が歪む。

「無能め。私に手間をかけさせた分だけ、他の失敗作に劣るな。王の相を持たぬ者はゴミに過ぎん」

 

デケムの左右の異なる瞳が、まるで自らの歪んだ真理を肯定するように輝く。

 

ジョンはゆっくりと吐息を漏らし、拳を握った。

「なるほどな。モモンガさんならもっと巧妙に言葉を操り、魔術で探るんだろうが……俺は違う」

ジョンは一歩前へ出て、金の瞳を細めた。

 

「俺は肉体で、反応を見させてもらう」

 

次の瞬間、彼の姿が掻き消えた。

――縮地。

空間を跳ねるように距離を詰め、その刹那に放たれる超スキル。

 

无二打(にのうちいらず)

 

デケムの異色の瞳がかすかに揺れるよりも早く、ジョンの蹴りが炸裂する。

奥義――飛び蹴り(ライダー・キック)

 

轟音。

大地が揺れ、デケムの身体がぼきぼきぼきと砕けた。

木々をなぎ倒しながら、100メートル以上も吹き飛ぶ。

 

「が、あ、あぁ……ッ」

胸は陥没し、肋骨の軋む音が辺りに響く。

口からは血が滝のように吐き出され、赤黒い染みを地に刻む。

 

「いたぁ……痛い痛い痛い痛いいいいぃ!」

絶叫。

誇り高きはずの王の口から洩れるのは、惨めな悲鳴だけ。

 

ジョンは冷ややかに見下ろした。

「……なんだこいつ? 戦ったことが無いのか?」

 

金の瞳が細まり、冷笑が浮かぶ。

「強者だと? 王だと? 笑わせる……ただの、子供を弄んで肥え太っただけの臆病者じゃねぇか」

 

「神獣(ジョン)様――」

アンティリーネが戦鎌――カロンの導きを握りしめ、瞳を燃やす。

「あれを殺すのは、私が」

 

ジョンはわずかに頷いた。

「ああ、もちろんだ。……ただ、一寸予想より弱かったな」

 

その言葉に呼応するかのように、エルフ王デケムの瞳が大きく揺れる。

――殺される。

――殺される。

――殺される殺される殺される!

 

頭の中に恐怖が反響し、抑え切れずに叫びが漏れた。

「ひ、ひぃぃぃぃ!」

 

生まれて初めての恐怖。

誇りも威厳も投げ捨て、涙と鼻水をぐしゃぐしゃに垂らしながら、王は必死に背を向けて駆け出した。

 

「……あ、逃げた」

クレマンティーヌが片眉を上げ、口元を歪める。

 

「私が追う」

アンティリーネが短く告げ、即座に駆け出す。

 

ジョンは息を吐き、ちらりと背後に視線をやった。

「仕方ない。クレマンティーヌ、追うぞ」

 

振り返りざま、ウルフ竜騎兵団とニグンに命を下す。

「お前たちは残れ。子供たちを埋葬してやれ。息のある者は手当しろ」

 

「はっ!」

鋭い返答を背に、ジョンは巨躯をしならせ、森の奥へと駆け出した。

その先に待つのは、逃げ惑うエルフ王と、宿命を果たそうとするアンティリーネ。

 

アンティリーネが駆けるよりも早く、ジョンの巨体が狼へと変じた。

青白の毛並みが森影に溶け、光る金の瞳が獲物を射抜く。

 

「っ……!」

アンティリーネの目の前を黒い影が掠め、風圧で外套が大きくはためく。

 

「は、速い……!」

 

狼王――青白の人狼ジョン。

その脚から放たれる推進力は、いかなる強者とて追いつけぬ速さを誇る。

土を裂き、木々を蹴り折りながら、矢のようにエルフ王デケムを追い詰めていく。

 

同時に、影がうねりを上げた。

常に彼の護衛につく《シャドウデーモン》と《バイアクヘー》が、森の至る所に展開し、見えざる警戒網を張り巡らせる。

――王を救いに駆けつける者など、一人もいない。

 

「ひっ……ひ、ひっ……!」

デケムの喉から荒い息が漏れる。

身体能力に優れるエルフ王にとって、これしきの距離で息が上がるはずもない。

だが今、彼は恐怖に支配され、肺が勝手に過呼吸を起こしていた。

 

次の瞬間――

ガブッ、と音を立てて、鋭い牙が彼の脚を噛み砕いた。

 

「ぎゃああああああああ!」

血飛沫と共に地に転げ、木の根を必死に掴むも、膝から下はすでに原形を留めていない。

 

「ひっ、ひっふ、ひいいぃ……!」

王の面影などどこにもなく、ただの哀れな獲物。

恐怖に狂った呼吸音だけが、森に響き渡っていた。

 

 




至高の御方が手ずから作った品!最高のプレゼントじゃないですか!

次回!
第99話:ふみふみ

猫のふみふみって可愛いよね。
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