オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
ジョンはワーウルフ10Lvあるので、人間、狼、人狼の3つの形態を持っている。
以前の話にあった子狼形態は、料理効果で子供になった上で狼形態を取ったと言う事で考えています。
2015.10.25 11:30頃 4行目の「数秒後~」からのジョンの人間形態の描写を差し替え。
ぶーくがイメージしてたのはジョジョとかの身体で、戦士としての意味で均整のとれた肢体と描写したつもりでした。
が、一般的には「均整のとれた~」だと細マッチョ(原作8巻417項挿絵デミウルゴス)みたいな感じのイメージだと指摘を受けて、ぶーくのイメージが伝わるよう強調修正。
ジョジョとか、ネギまのジャック・ラカン見たいな身体かっこいいと思うんだけど、筋肉嫌いって人が意外と多くて残念。
「……俺も人間形態をとる」
その言葉と共にジョンの身体が蠢き出す。青と白の毛並みは小波の様に震えながら短くなっていき、鼻筋の長い狼の顔は短く小さくなっていく。
数秒後、身長2m前後あった大柄なワーウルフの姿は一回り小さい身長190cm前後の青年の姿となった。野性味溢れる褐色の肌、逞しく筋肉のついた肢体、ぶっとい上腕二頭筋、見事に割れた腹筋に分厚い大胸筋。見事な戦士の肉体の上では、鋭い金の瞳が輝き、銀の髪はトップ部分をオオカミのたてがみのように立たせた所謂ウルフカットと呼ばれるスタイルだった。
セバス達も初めて見るジョンの人間形態だった。
初めて見るその姿に、気がつかない内に不躾な視線を送ってしまったのだろうか。眉をひそめたジョンへ、セバスは即座に3名を代表して謝罪をする。
「失礼致しました」
プレアデスの、特にルプスレギナがいつもより浮ついている気配をセバスは感じ取っていた。
(ジョン様の人間形態! 初めて見たっす!! ぐぎゃ!?)
(ルプー。御前よ)
鈍い音がし、ルプスレギナの目に涙が滲む。ナーベラルが浮ついたルプスレギナのつま先を、踵で踏みつけたのだ。
セバスもジョンもそれに気がついていたが、セバスは『出発前に一つ釘を刺さねばなるまい』と考え、ジョンは『TPOに応じて、しっかり出来る娘じゃなかったっけ?』と考えていた。
ジョンは更に、或いはアルベドやシャルティアのように設定が何か化学反応を起こしているのかもしれず、それが予期せぬ危機を招く可能性まで考えたが、ルプスレギナが可愛いので、『ま、良いか』とそれ以上考えるのを止めた。
「なんでもない。モモンガさんにメッセージで人間形態をからかわれただけだ。
俺にとって人間形態は未熟さの象徴だからな。自分の未熟さをまだ気にしているのかとからかわれた。あまり取りたくなかったが、確かにその通りだ。
ジョンはセバスに、お前達に眉をひそめたのではないと手を振ってみせると、次いで自分の足元を見て一つ重要な事に気がついた。
「おっと、裸足だったな」
「何か、お持ちしますか?」
「大丈夫だ。予備の装備がある」
ジョンの人狼形態の足はイヌ科の動物と同様の踵が地面から離れて指先だけで立つ構造になっている為、靴が装備できない。
その為、人狼から人間形態へ移行したジョンの脚は裸足になっていた。
「2番セット」
キーワードに反応し《準備の腕輪》がジョンの装備を格納され、登録されている2番目のものと一瞬で入れ替えた。
その姿は草色のクロークを纏って、その下には深緑色を主体とし金糸の刺繍の入った前合わせの服。その上から黒い帯と胸当て、足元はブーツ。
アメリカのスペースオペラの宇宙騎士の衣装をモチーフに、ホワイトブリムにデザインして貰った装備だった。
武器もナックルの雷神拳から、穂先が光で出来ている
「お似合いでございます」
「お世辞でも嬉しいぞ。これはホワイトブリムさんにデザインして貰ったものだからな。ただ、性能としては聖遺物級だから今回は使わない。自分のセンスの無さに悲しくなるが、足りない所は仲間やお前達に支えて貰えば良いだけだ。俺もお前達の足りない所を支えよう」
そう言いながら、ブーツと靴下を脱いで脇に置き登録解除。もう一度《準備の腕輪》を起動させ、武道家装備に戻ると靴下とブーツを履く。
(ホワイトブリムさんにデザインして貰った外装を主武装にして置けば良かった。武道着に『天』『狼』ってなんだよ。作った当時はカッコイイと思ってたんだけどさぁ。ああ、フル装備になる度に凹む。フル装備になりたくない)
履き替えたブーツは防具としては聖遺物級だが、足音を無くし、足跡を無くす能力を持っている。ユグドラシルではレンジャーなどの追跡スキルにペナルティを与える効果を持っていたが、現実となった今では自分の足跡で他の足跡を荒らさずに済むのではないかと期待しての装備だった。
靴を履きながら、第五階層から見ているモモンガ達へも伝わるようブーツの性能を説明し、続けてセバス達へその意図も説明した。
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「さて、今回の調査チームに於いて現地指揮者は俺が務める。次席としてセバスを指名する。調査中に俺が不在の場合、また不測の事態によって俺が指揮を取れなくなった場合はセバスの指揮に従え。セバスも倒れた場合はルプスレギナ、ナーベラルの順とする。現地調査班は俺、セバス、ルプスレギナ、ナーベラルの他にシャドウデーモンとバイアクヘーだ。第五階層氷結牢獄よりニグレドとモモンガさんが魔法により監視とバックアップを行う」
跪く3人を前にジョンは説明を開始していた。
ジョンとしては霊廟入口で跪いていられると自分の段取りの悪さに泣きたくなるので、立ってほしいのだが、この状況でセバス達が『楽な姿勢で話を聞け』と言っても聞く筈も無く、止むを得ずそのまま説明を続けていた。
(次からは会議室つくって説明しよう)
会議室なんて何の役に立つんだよと思っていたジョンだったが、こうも上下関係をびしっとされると、打ち合わせの為に本当に必要なものだったと心底納得できた。
失って気づく大切さよ。
「目的はこの世界の情報を少しでも多く、生きて持ち帰る事だ。決して生命を粗末にするな。3名それぞれの役割と全体の流れを説明する」
そして、繰り返し、生命を粗末にするな。勝手に死ぬなと繰り返す。
一般メイドですら、下手をすれば自害する勢いだったのだ。
況や第九階層で最後の盾となって散る為に作られたセバスとプレアデスならば、もっと簡単に生命を投げ出すのではないかとジョンは危惧していた。
こんな事になるのなら『プレアデスとセバスの役割はあくまでも時間稼ぎ』などと考えもしなかったのに、と思っても後の祭りである。
これでルプスレギナが自分の盾になって死のうものなら、後先を考えずに暴れまわる自信がある。
「セバスにはルプスレギナとナーベラルの盾となる事。現地人間種と接触があった場合、年配の男という外見と、物腰から勝ち得る信頼を期待している。万一戦闘が発生した場合、盾となる優先はナーベラル、次いでルプスレギナだ。
俺が盾を必要とする場合は、お前たち全員を捨て駒にしなければ離脱できない窮地だ。
その場合のみ先の命令を無視し、独自に行動する事を許す。だが、これだけは覚えておけ。俺はお前たちを失うのは耐えられない。勝手に死ぬ事は許さん」
作戦『生命を大事に』を繰り返す。
ルプスレギナやナーベラルに自分の盾になられても困るのだ。パーティで行動する以上は、ジョンとセバスで盾役と前衛にならないとパーティが機能しない。
特に自分とセバスは戦闘用クラスの構成が近い事もあり、装備の分だけ自分の方がステータス上は勝るだろうとジョンは考えていた。
だが、ユグドラシルでは近接戦を主とする戦士職は、実は特に対人戦に於いて人気が低かった(注:この話ではです)。
これはユグドラシルは『ダイブ』してプレイする関係上、現実で強い人はユグドラシル世界でも強かった。
事実、世界ナンバーワンプレイヤー「ワールドチャンピオン・ヨトゥンヘイム」は総合格闘技の現役チャンピオンであったし、ギルド最強であったワールド・チャンピオンたっち・みーとて、現実では警察官であり、警察官である以上、柔道、剣道の有段者であった。
つまり、現実から離れ、現実の自分以上の存在となる事を楽しみたくとも、戦士職を選べば現実の柵から逃れる事は出来なかったからである。
レベルを上げても、CPU戦なら兎も角、現実での努力が、才能の差が、見せ付けられるクラスで対人戦を楽しめる人間がどれほどいるだろうか。
話が逸れた。
ジョンとしては能力を発揮できる設定で創られたセバスよりも、こうなったばかりの自分の方が能力を活かしきれないのではないかとの不安。
そして、不安を解消する為にこそ戦闘経験を望んでいたのである。
その為には自ら前線に立ち敵対者とぶつかり合う必要があった。故に自分を大事に扱われては困る事から、自分が窮地に陥るまでは手を出すなと命令していたのである。
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「セバス、モモンガさんからワールドアイテムは受け取ってきたか?」
「はッ、こちらに」
そう言って、世界アイテム真なる無(ギンヌンガガプ)を見せたセバスにジョンは一つ頷く。
「良し。モモンガさんから説明があったと思うが、確認の為、俺からも説明する。今回の任務中それはお前に預ける。万一ワールドアイテムを持たなければ対抗し得ない直接攻撃、間接攻撃があった場合に備え、ナザリック外部で活動する守護者級の者達には、活動に際してワールドアイテムを預ける事とした。無論、それだけの危機が発生した場合はワールドアイテムの使用を許す。躊躇わず使用しろ」
セバスの返答に頷き、ジョンは次にルプスレギナへ指示を出した。
「ルプスレギナ。今回の調査においてお前の役割は重要なものだ。心して聞け。
現地到着後、《死者との会話》を使用し、死者から情報を収集する。お前の能力であれば1人あたり5つ前後の問いが取れるだろう。数十人の犠牲者から何を聞きだすかはバックアップについているモモンガさんがその都度メッセージで指示を出す。その後、《レイズデッド/死者復活》《リザレクション/蘇生》《ワンド・オブ・リザレクション/蘇生の短杖》による死者の蘇生実験を行う。蘇生した場合は『手当てをしたら意識が戻った。今はまだ眠っておけ』とでも言って眠らせておけ。蘇生させた事は伏せろ。回復魔法に関しても、どれほど普及しているかが情報不足だ。これについても伏せろ。手当てをしたとだけ言っておけ。蘇生した者は後々の人間種勢力との交渉で役に立つと期待されるので、良き隣人として振舞え。蘇生の短杖を渡しておく」
厳しい表情を作ってルプスレギナに蘇生の短杖を手渡すと、最後にナーベラルに向い口を開く。
「ナーベラル。お前の役割は現地で俺たちの安全を確保する目であり耳だ。
現地到着後、《パーフェクト・アンノウアブル/完全不可知化》をアイテムで使用。《フライ/飛行》で上空から《ラビッツ・イヤー/兎の耳》を使用の上で、周囲の警戒にあたれ。何かあればメッセージで連絡をしろ。上空から魔法攻撃がし易いよう、この任務中、俺の《飛行のネックレス(フライ/飛行)》と《姿隠しの兜(パーフェクト・アンノウアブル/完全不可知化)》を預けておく」
各自への重要事項を説明し、どの程度の理解しているか見回すが、全員が跪いてるので今ひとつ分り難い。
やはり会議室は必須のようだと、ジョンは内心で溜息をつく。
「現地到着後は、先ず村の周囲にシャドウ・デーモンとバイアクヘーで警戒網を敷く。セバスとルプスレギナはその場で待機し、ナーベラルは上空からの監視を開始しろ。その際、バイアクヘーは音を立てずに行動できないので、ルプスレギナとナーベラルで《消音》と《透明化》の魔法をかけてやれ。
ルプスレギナ、《完全不可視化》は俺達だけで良い。場合によってはバイアクヘー、シャドウデーモンをわざと発見させ、その指揮官として傭兵モンスターを召喚。彼らを捨て駒とし、俺達は《転移門》で撤収する」
これは、ぷにっと萌えさんの教え『僕はやっていない』だ。
そして、最後にジョンは彼らから反対意見も出るだろうが、この調査の肝である自分の為すべき事を説明し始める。
「村へは異論もあると思うが、最初は俺が一人で入る」――手をあげ、何か言いかけたセバスを遮る――「言いたい事はわかる。だが、既に生命反応は無い事が確認されている。罠や強力なアンデッドなどの可能性も低いだろう。
現状、村は襲撃された時の状態を保っていると予想される。そこで襲撃者の足跡、村人の足跡や戦闘の痕跡から襲撃者、村人の人数、可能ならば戦闘能力の推測なども行いたい。その為、技能のある俺一人で村に入り、出来る限り痕跡を損なわずに調査したい。時間経過によるリスクはこの――腕輪を示す――《ヨグ=ソトースの腕輪》で固有時間制御を行い出来る限り短時間で済ませる」
守るべき存在であるジョンが一人未知の領域へ踏み出す事を良しとしなかった彼等であるが、事前調査で最低限の安全は確認してある事、レンジャーの追跡で痕跡を調査する事を説明されては納得せざるを得ない。
戦闘痕からの戦闘の推測であるならば《リアルシャドー》――ユグドラシルでは戦士系クラスが対戦相手やモンスターのデータを呼び出し、安全に仮想空間で仮想的に戦闘訓練を行う為のスキルだった――で、セバスも行えたかもしれない。
だが、レンジャー技能との併用で精度を高める事、全体のリスクを低減する為に固有時間制御まで使って短時間で済ませるとなると、装備とクラスの関係でジョンしか行う事が出来ない。
「その後に死体を集め、《死者との会話》での情報収集と蘇生検証を行い死体は埋葬する。死体を集める際に成人、老人、子供、男女のそれぞれの数をセバスが集計しろ。
俺はその段階で周辺の畑と家畜を調査し、この辺りの気候、農業生産力や技術力に関して調査を行う。生きた人間と接触する前にある程度はこの世界の情報を手に入れたい」
この辺りになるとスキルによるものより、開拓RPの為に現実で調べ身につけた知識――ブルー・プラネットと語り合った自然のあれこれ。古代から現代に至るまでの農業、狩猟、人間の自然との関わりを語り合った事――が生きてくるだろう。どんなものが作られているのか、どんな農具を使っているのか。殲滅された村を調査に行くのだが、ジョンには犠牲となった村人を悼む気持ちはまったく無かった。
人間が自然とどう向き合い、どう生きているのかを知る事が出来る喜びで胸が一杯だった。
「移動は飛行で行う。シャドウデーモンは影移動でついて来い。
行きは飛行を使って周囲の地形を視認し、帰りは《転移門》を使用する予定だ。
ここまでで何か質問はあるか?」
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質問はあるかと3人へ問いかけたが、自分の経験と照らし合わせ、自分から言い出すのは難しいだろうなとジョンは考えた。
だからと言って、こちらから質問するのもパワハラのようだなと思ったが、何も無いままにも出来ず自分からジョンは彼らへ問い掛けた。
「ルプスレギナ、何か疑問に思った事はあるか?」
「どうしてわざわざ埋葬するのですか?」
今度はきちんとTPOを弁えた口調と姿勢で語るルプスレギナ。その姿を微笑ましく思いながらジョンは答える。
「人間種の姿しか見えないと言う事は、人間種が強力で異形種を駆逐したと推測しておくべきだ。そうであるならば死体から情報を抜くと言う行為は人間種の倫理観に触れ、敵対的な行動を選択される可能性が高い。人間種がどの程度の力を持つか分らない以上、情報を抜いた後でも埋葬し、彼らの良き隣人を装う事で無駄な争いを避ける。もしくは心理的に手出しを抑制させる効果を期待しての判断だ。
付け加えるなら、他者を踏み躙るならば、己も踏み躙られる覚悟は持っているべきだ。その覚悟も無く弱者を踏み躙る者は、滅ぼしたくなるほど不快であるし、その犠牲者は弔ってやっても良い程度の哀れみを感じるからだな」
「至高の御方のご賢察に感服致しました」/(私はジョン様に玩具にされても全然OKっすから、人間を玩具にしてもOKっすね♪)
ジョンが知れば『違う(問題は)そうじゃない』と言ったかも知れないが、現在の彼はルプスレギナがきちんとTPOを弁えた所作に安堵し、後で褒めてやらなくてはと考えていた。
(今度は村を開拓する時、連れて行って貰えるっすかねぇ。一生懸命に開拓した村が襲われ、全てが炎の中に消える時の村人を特等席で見たいっすよ。
その炎の中で人間達を叩き潰しながら遠吠えを上げるジョン様。うー、ゾクゾクしてきたっす。
自分で集めて開拓した村を、敢えて襲わせて、人間を蹂躙しながら、村人の縋る様な眼が絶望に染まっていくのを同時に見る。
流石はジョン様、素晴らしいご趣味っす)
ジョンとルプスレギナの認識はこれだけ大きく外れていたわけだが。
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「ナーベラル」
「申し訳ございません。カルバイン様、私は《転移門》を取得しておりません」
恐縮したような涼やかな声と共に、跪き、低い位置にある黒いポニーテールが更に低い位置へ下がった。
「ああ、お前達のスキルは把握している。帰りの《転移門》は俺が用意する」
(アイテムでね。タブラさん達には『だからお前はダメなのだ』と言われたネーミング《大魔術師の魔除け/アミュレット・オブ・○ードナ》で。……結局、ネーミングセンスも、モモンガさん程のオリジナリティ持てなかったな、俺)
ナーベラルはルプスレギナと違い裏表なくクールビューティーであるけれど、やはり何がしかのギャップは欲しかったなと、ジョンは考えていたが。
(魔法職で無いにも拘らず、《転移門》まで当然のようにお使いになられる。流石は偉大なる至高の御方です)
ナーベラルからの評価も鰻上りだった。
ジョンからするとアイテムの力はアイテムであって、自分の力では無いのだが、ナーベラルからすれば、それがアイテムの力であろうとも、それを蒐集し、貴重な素材を集め、作り出したのは至高の御方であり、その過程も含めての評価である。
だから、それがアイテムによるものでも彼女の評価が上がっても下がる事はないのだ。
まして、自分達も至高の御方の手足となって働く為に生み出された道具なのだとナーベラルは思っている。至高の御方の安全を確保する為の眼となり、耳となる。
道具として存在する自分達を道具として使って頂ける。これに勝る喜びはない。
好みとしては殺すとか壊すとかの任務が良いのだが、その内それも頂けると思っている。
その時こそ、ぱーっと殺せば良い。
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「セバスは何かあるか」
「ございません。ご配慮、ありがたく。慈悲深き至高の御方へ、心よりお礼申し上げます」
セバスはそっと頭を下げた。
二人の質疑応答の間にセバスも彼なりに考えていたのだ。
犠牲となっている人間達から情報を取るだけではなく、埋葬を許すジョンの慈悲深さに尊敬の念を強めた。
自分の知恵ではデミウルゴスには及ばないだろうが、それでも至高の御方のお考えを自分なりに噛み砕き理解に努める。
戦闘が発生した場合、後衛である(前衛寄りだが)ルプスレギナとナーベラルの盾が必要となる。ジョンが盾となった場合、至高の御方の盾となって散る為に存在する自分達はそれを良しとせず、ジョンとの連携が取れなくなる可能性がある。そうならないよう二人の盾として自分を用意し、現地で調査を行う際の指揮者不在に自分を充てる。
至高の御方々の中で、ジョンは勢子や囮となっていた。その御方が盾を必要とする場面では、自分達は役に立てないだろう。
それでも、自分達の気持ちを汲んでその場合は全ての命令に優先し、盾となる事をお許し下さる。
それで尚、死ぬなと言って下さる慈悲深き御方。
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《ルプスレギナは《死者との会話》なんてもってたんですね》
《プレアデスに関しては、メイド属性の無いモモンガさんより詳しいですよ》
ゲームではPCとは《死者との会話》を使わずとも
だが、ギルメンの誰かが言ったのだ。ナザリック地下大墳墓において死人に口無しは許されないと。
だからといってペストーニャに取得せるのも違う。
ならば、ルプスレギナに取得させ、『死人に口無しと思ったっすか? ざーんねんでした』と言わせよう。
モモンガも知らないプレアデスの取得スキルのエピソードである。
余り使い出の無かった魔法の話題に思い出したのだろう。そう言えばとモモンガが別の魔法を話題にする。
《死にスキルと言えば魔力系第一階梯《小さな願い》ってどうなったんでしょう》
指先に火を出したり、本を取ったり、靴紐を結んだりするような魔法使いっぽい演出用の魔法だが、ユグドラシルではコンソールから装備の切替も出来たので死にスキルの一つだった。大錬金術師タブラ・スマラグディナは取っていたように思う。
使用時間も長く、現実で持っていれば便利な魔法だったろう。
《俺、メッセージを取ったときに取得しました。さっき試したら、指先に火が出せましたよ》
《どうしてそんなの取ってたんですか?》
《最初にメッセージ取った時、残り2つ埋めるのに取ったんですよ》
魔法職になるつもりはなかったので、生活、開拓に便利そうな低レベルの魔法を取得したというRPの一環だった。
実際、おまけ程度に攻撃魔法をとっても高レベルの戦闘では牽制にすらならない。
クリスタル・モニターでこちらを見ているであろうモモンガへ、ジョンは《小さな願い》を使ってみせる。
指先に種火を作り出し、ふっと吹き消し「ふっ、燃えたろ?」と、ドヤ顔をして見せた。
モモンガとの会話で調子に乗った彼は、今の状況を完全に失念していた。
「カルバイン様? 今のは?」
訝しげなセバスの声に「はッ!?」と正気に帰るが、時すでに遅し。
《うぎゃー ! 氏ね記憶よ死ねー!! も、モモンガさん、セバス達の記憶操作を!!!》
《そのぐらい自分で頑張って下さい。あと、アルベドとニグレドにも見られてますよ》
「こ、これはそう、これは……(もう無理だ。俺にはモモンガさんほどのアドリブ能力がない。くッ)……恥ずかしいところを見せたな。昔見た武道家(?)の台詞だ。敵を炎で焼き尽した後に、こんな事を言っていたのを思い出して、な」
やけくそでそれらしく誤魔化し、後は分かるだろう的な微妙な表情をセバス達に向ける。
アルベドとニグレドの方は後で考えよう。どちらにしてもニグレドは氷結牢獄から出られないのだから、アルベドさえなんとか出来ればなんとかなるだろう。多分。
その表情をどう受け取ったのか、ルプスレギナは元気良く、「はい! 敵がいたら炎で焼き尽くせって事っすね!!」と笑顔で応えてくれた。
ナーベラルは何を感激したのか「ご配慮ありがとうございます。接近する愚かな下等生物は至高の御方の安全の為、速やかに焼き尽くします」との事。
「あ、う、うん……ありがとう」
「「勿体無いお言葉です」」
なんだろう。『ぷークスクス』とかされた訳ではないのに、凄く居た堪れない。
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モモンガ:「ジョンさん人間形態だとセリフ長いですね」
ジョン:Σ(゚д゚lll)ガーン
ユグドラシルは「ダイブ」してプレイする関係上、現実で強い人はユグドラシル世界でも強いと言う点を自分なりに解釈して見ました。