オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第111話:雨、降ってないけど逃げ出した後

 

 

/*/ 帝国闘技場・控室の裏 /*/

 

 

闘技場の外では、なおも歓声が大地を震わせていた。

「皇帝陛下ばんざい!」「天位!天位!」と熱狂の渦が押し寄せる。

 

その一方で――控室に運び込まれた漆黒の剣の面々は、ようやく意識を取り戻し始めていた。

 

「……う、うぅ……頭が割れそう……」

最初に目を開けたのはルクルットだった。顎に触れ、呻く。

「なんだこれ……まるでデコピンされたみたいな……」

 

「……デコピン、じゃなくて本当にデコピンだったのである」

隣で起き上がった私――ダインが呻きながら言った。

「私など、胸を蹴られただけで数十メートルも吹っ飛ばされたのである。あれは……どう考えても、師匠の蹴りである」

 

「え? ちょっと待って……」

布団から身を起こしたニニャが不安そうに仲間を見回す。

「でも……皇帝陛下と戦ってたんじゃ……?」

 

三人の視線が、まだ膝をついたまま天井を見つめているペテルに集まった。

彼はしばらく黙っていたが、やがて苦笑を浮かべて口を開いた。

 

「……うん。剣を交えればわかるさ。あれは……どう考えても、俺たちの"師匠"だった」

 

「「「だよな!!!」」」

 

三人の声が揃い、控室の壁が揺れるほどの勢いだった。

 

「っていうか! 峰打ちで一撃昏倒とか、師匠の仕業以外にあり得ないし!」

「デコピンで脳震盪とか、もう確定だろ!」

「私の胸など、いまだにへこんでいる気がするのである!」

 

一斉にまくし立てる仲間たちに、ペテルは溜め息を吐きつつ肩をすくめた。

「……でも、観客は全員"皇帝陛下が勝った"と信じてる。つまり……俺たちは口を噤むしかない」

 

「うっ……それはそうだけど」

「でも納得いかねぇ!」

「師匠、ぜったい楽しんでいたのである……」

 

控室の天井を見上げたニニャが、小声で呟いた。

「……どうして師匠って、ああいうところだけは妙に張り切るんだろう……」

 

仲間たちは沈黙し――次の瞬間、同時に肩を落として笑った。

 

「ほんと、あの人は……」

 

その笑い声を掻き消すように、闘技場の外からは再び轟音のような歓声が響き渡った。

「皇帝陛下ばんざーい!」「天位!天位!」

 

――その舞台裏で、漆黒の剣はただひたすらに頭を抱えていた。

 

 

/*/ 帝国闘技場・控室 /*/

 

 

重い扉が「ギィィ……」と音を立てて開いた。

歓声の余韻がまだ壁を震わせている中、漆黒の剣は一斉に顔を上げる。

 

「おう、お疲れ!」

 

そこに現れたのは――剣を片手に、汗ひとつかいていないジョンだった。

人狼の耳をぴくぴくさせながら、まるで狩りから戻った猟犬のような顔で笑っている。

 

「いやぁ、久々に楽しかったな! 舞台映えもしたし、民衆も大盛り上がりだったろ?」

 

「……やっぱり……師匠だったんだな」

ペテルが深い溜め息を吐く。

 

「なんで、なんでなんだよ師匠!」

ルクルットが叫ぶ。

「デコピンで落とすとか! 蹴り飛ばすとか! やりすぎだろ!」

 

「私の胸はまだ痛いのである! あれは絶対、帝国医師団に診せても『健康です』と言われるに違いないのである!」

ダインが胸を押さえて呻く。

 

「私は……」

ベッドに腰かけたニニャが、涙目で杖を握りしめる。

「……なんで女の子を真っ先に気絶させるんですか……!」

 

「ははは、悪かった悪かった」

ジョンは両手をひらひらさせ、悪びれるどころか楽しげに笑う。

「だってお前ら、本気で戦ったら死人が出るだろ? だから加減して、派手に"負けたふり"をしただけじゃん」

 

「……"負けたふり"って……」

ペテルが頭を抱える。

 

「陛下ばんざい! 天位!って……! あれ、どうするんですか!?」

ルクルットが叫ぶ。

 

「どうもしねぇよ」

ジョンは肩をすくめ、椅子にどかりと腰を下ろす。

「帝国民は満足した。皇帝の威信は守られた。お前らは生き残った。全部丸く収まっただろ?」

 

「……いや、丸くは収まってないのである」

ダインがじと目で睨む。

「私たちが"天位に挑んだ者"として扱われてしまうのは避けられんのである」

 

「そうそう! 師匠がやらかした分、俺たちが尻拭いするんだぞ!?」

ルクルットが叫ぶ。

 

だが、ジョンは笑みを崩さず、銀の瞳を細めて言った。

「……でもよ、お前ら。今日の試合で"天位に挑む資格がある"って、民衆が思っちまった。

 その事実は消せねぇ。――だったら、背負うしかねぇんだよ」

 

その言葉に、控室は静まり返った。

 

師匠の無責任さに呆れながらも、その背中の大きさに抗えない。

漆黒の剣は顔を見合わせ、ただ深いため息を吐くしかなかった。

 

 

/*/ 帝国闘技場・控室 /*/

 

 

扉がノックもなく勢いよく開いた。

現れたのは、玉座の衣をまとった皇帝ジルクニフと、その背後に控える秘書官ロウネ・ヴァミリオネン。

 

「……はぁぁぁぁ……! 何という茶番だ!」

ジルクニフが頭を抱えて入ってくる。

「観客は熱狂の坩堝、街ではすでに"皇帝陛下は天位を超越した"と酒場で騒ぎが起きている!

 漆黒の剣、お前たちはもう"天位に挑んだ者"として歴史に刻まれたのだぞ!」

 

「いやいや、あの……」

ペテルが両手を振る。

「俺たち、天位なんて望んでないんですよ! そんな大それたものは……」

 

「である!」

ダインが強く頷く。

「我らはただ、冒険者として依頼を果たすのみである! 天位など恐れ多い!」

 

「そうそう!」

ルクルットも食い下がる。

「なのに、あの人が余計な事するから……!」と横目でジョンを睨む。

 

ジョンは涼しい顔で茶をすすっている。

「ん? 俺は全部丸く収めただけだろ? 帝国も威信を保てたし、民衆も喜んでたし」

 

「……"丸く収めた"?」

ジルクニフの額に青筋が浮かぶ。

「どこがだ! 暴動寸前だぞ!」

 

そこでロウネが静かに前へ進み出る。

「陛下、まずは落ち着きを。――漆黒の剣の皆様」

冷ややかだが丁寧な声で続ける。

「先ほどの一戦で、皆様が"天位を望んでいない"と証言したこと、これは確かに好材料でございます。

 民衆の熱狂を逸らすには、"挑んだが受け入れられなかった"という筋書きを強調すべきでしょう」

 

「……なるほど」

ペテルが息を呑む。

 

ロウネはさらに淡々と告げた。

「よってしばらくは、皆様を"帝国の客人"として宮廷に匿います。外出や面会は謝絶といたします。

 ――熱狂が落ち着くまで、どうか大人しくお過ごしください」

 

「つまり……軟禁、であるな」

ダインが小声で呟く。

 

「ご安心を」

ロウネはわずかに微笑む。

「豪華な料理、柔らかな寝台、帝国随一の快適な暮らしをご用意いたします。……ただし、自由はございませんが」

 

「いや、それ、逆に困るんだけど……!」

ルクルットが叫び、ニニャは真っ青になった。

「ひぃ……またあの宮廷料理……胃が爆発しますぅ……」

 

ジルクニフは両手を広げ、強引に締めくくった。

「そういうわけだ。お前たちは客人だ! 決して囚人ではない! ……だから頼む、しばらくおとなしくしていてくれ!」

 

漆黒の剣は顔を見合わせ、深いため息をついた。

――こうして、彼らは望まぬまま再び帝国宮廷に囲い込まれることとなった。

 

 

/*/ 帝都・帝国宮廷 /*/

 

 

数日が過ぎた。

漆黒の剣は、帝国宮廷の客人として迎えられていたが――その日々は決して快適ではなかった。

 

「……今日もまた、七皿コースであるか」

ダインは銀食器に囲まれた卓上を見て、渋面を作る。

 

「うう……もう胃が悲鳴をあげてます……」

ニニャはスープを前に、涙目で匙を握っていた。

 

「しかも今日は"鹿の血のゼリー寄せ"とか……誰が食べるんだよこれ!」

ルクルットは思わず声を荒げる。

 

「贅沢をさせてもらっているのは分かってますけど……これは修行より辛いです」

ペテルも苦笑して箸を置いた。

 

彼らは一流の料理と柔らかな寝台、煌びやかな服を与えられた。

だが自由は一切なく、街に出ることも、冒険者として活動することもできない。

 

「……耐えられない……」

ニニャがとうとう匙を置いて呟いた。

「もう限界です……」

 

その一言に、皆が顔を上げた。

 

「そうだ!」ルクルットが手を叩いた。

「そもそも、今回の修行の目的はニニャが"転移"を使えるようになることだっただろ!」

 

「――!」

ダインの瞳が光る。

「なるほど! であるならば、今ここで使えばよいのだ! エ・ランテルへ帰還できるではないか!」

 

「うん……やってみます!」

ニニャは震える声で立ち上がった。

 

詠唱が紡がれる。

大気が震え、魔力が奔流となって渦を巻く。

次の瞬間――眩い光が部屋を満たした。

 

「――転移!」

 

光が収束したとき、そこには誰もいなかった。

 

漆黒の剣は全員、帝国宮廷から姿を消していた。

 

 

/*/ 同刻・皇帝執務室 /*/

 

 

「……逃げた、だと!?」

報告を聞いたジルクニフは、机を叩いて立ち上がった。

 

「転移魔法でございます」

淡々と伝えるロウネの声。

 

ジルクニフは蒼白になり、呻いた。

「転移……第5位階の魔法……! 帝国では"じい"――フールーダくらいしか使えぬ術を……!

 まさかジョンめ……魔導国は、既にそこまで弟子を育て上げていたというのか!」

 

頭を抱え、玉座に沈み込む皇帝。

「……どうして、なぜ我が治世はこうも次々と災厄に見舞われるのだ……」

 

ロウネは冷ややかに答えた。

「陛下。これが"魔導国の現実"にございます」

 

重苦しい沈黙が帝国の中枢を覆った。

 

 

/*/ エ・ランテル 漆黒の剣の拠点 /*/

 

 

「……帰ってきた……」

転移の光が収まり、目に飛び込んできたのは見慣れた街並みだった。

冒険者ギルドの屋根、石畳、行き交う人々。

 

「本当に……エ・ランテルだ!」

ルクルットが歓声を上げる。

 

「転移に成功した……やったぞ、ニニャ!」

ダインが誇らしげに声を張る。

 

「は、はい……でも、まだ少し怖かったです」

杖を胸に抱き、ニニャは汗を拭った。

 

ペテルは安堵のため息をつく。

「……やっと、帰れたな」

 

人々の目がすぐに集まった。

漆黒の剣の帰還を見て、冒険者仲間や商人たちが駆け寄ってくる。

 

「おい! 無事だったのか!」

「帝国に呼ばれたって聞いて心配してたんだぞ!」

「戻ってきてくれてよかった……!」

 

声が重なり、拍手と歓声が彼らを包む。

その温かさに、漆黒の剣の面々は思わず顔を見合わせ、笑みを零した。

 

「……やっぱり、俺たちはこの街が好きだな」

ルクルットがぽつりと言う。

 

「帝国の宮廷は……もうこりごりである」

ダインは大げさに肩をすくめた。

 

「そうですね……私も、ここでみんなと生きていきたいです」

ニニャの言葉に、ペテルは力強く頷いた。

「そうだな。俺たちは漆黒の剣。ここで冒険者を続けるのが一番だ」

 

街の仲間と抱き合い、笑い合う――そのひとときは、何ものにも代えがたい安堵だった。

 

 

/*/ 同刻・帝都 皇帝執務室 /*/

 

 

「……エ・ランテルに戻ったと?」

ジルクニフは苦々しく報告を受けた。

 

「はい。転移にて、忽然と姿を消したとのこと」

ロウネ・ヴァミリオネンの報告は淡々としていた。

 

「……漆黒の剣の帰還は、この帝国への"拒絶"と取られても仕方あるまい」

ジルクニフは眉間を押さえ、呻くように言った。

 

「帝国民の熱狂は一時的に収まりましたが……陛下を上回る英雄たちが"隣国に帰ってしまった"と広まれば、再び火がつく可能性が高うございます」

「…………」

 

ジルクニフの胸を苛むのは焦燥だった。

彼らは確かに帝国の天位を揺るがした。

だが今や、その力を誇示するかのように魔導国側の都市に戻ってしまったのだ。

 

「……フールーダを超える者が、既に育っているというのか……」

低く漏らした声は、帝国皇帝の威厳よりも、敗北を悟った一人の男の呻きに近かった。

 

ロウネは冷ややかに結んだ。

「――魔導国の影は、ますます大きくございます」

 

帝国の空気は、重く沈んでいった。

 

 

/*/ 帝都 宮廷謁見の間 /*/

 

 

「……漆黒の剣は、冒険者としての未知を求めて、エ・ランテルへ向かった――」

透き通るような声が、静まり返った謁見の間に響いた。

 

吟遊詩人が竪琴を奏で、歌を紡ぐ。

英雄譚として飾られた旋律は、真実を覆い隠す幕となり、人々の耳に甘美に届いた。

 

「未知の大地を求めるのは冒険者の本懐。

 彼らは帝国を去ったのではない。

 ただ、新たなる挑戦へ歩みを進めただけなのだ――」

 

歌に合わせ、廷臣たちが頷き、兵たちが胸を張る。

物語が「帝国からの逃亡」を「冒険者としての旅立ち」へと塗り替えていく。

 

その光景を玉座から見下ろし、ジルクニフは小さく吐息を漏らした。

 

「……望む者の流出は避けられぬ。だが、何もしないよりはましだ」

低く呟く声に、傍らのロウネ・ヴァミリオネンが冷ややかに応じる。

 

「真実を抑えきれぬ以上、民衆の心を逸らすことこそ肝要。

 吟遊詩人の歌は、帝国の潤滑油となりましょう」

 

ジルクニフの目には、複雑な光が揺れていた。

英雄を失った痛みと、国を保たねばならぬ責務。

その狭間に立つ彼は、己の決断を噛みしめるしかなかった。

 

――こうして、漆黒の剣の"帰還"は、帝国民の間で美しい冒険譚として謳われ広がっていく。

真実を知る者が、どれほど少なかろうとも。

 

 

/*/ エ・ランテル 冒険者組合の酒場 /*/

 

 

夕刻。酒場の扉を押し開けると、吟遊詩人の歌声が響いていた。

琥珀色の酒を掲げる冒険者たちが、その歌に合わせて拳を振り上げる。

 

「――帝国をも凌ぐ力を示し、なお未知を求める!

 彼らは真なる冒険者、漆黒の剣!

 エ・ランテルに帰還せり!」

 

竪琴の音色と共に、拍手喝采が沸き起こる。

 

四人はその場で硬直した。

ペテルは頭をかきむしり、呻くように言う。

「……なんだよこれ……俺たち、ただ逃げ帰ってきただけだろ……?」

 

ルクルットは苦い顔で周囲を見渡す。

「だが見ろよ。皆、完全に信じてるぜ。俺たちが"未知を求める英雄"だってさ」

 

ニニャは頬を赤らめ、肩をすくめた。

「わ、わたしたち……そんな格好いいものじゃないのに……。

 転移で帰ってきただけ……」

 

ダインは腕を組み、重々しく頷いた。

「民衆が望む"物語"と、我らが歩んだ"現実"は往々にして乖離するものである。

 しかし……これもまた冒険者の宿命なのかもしれぬ」

 

「宿命なんて大げさだよ……」

ペテルは酒場の片隅に腰を下ろし、ため息をついた。

 

だが、周囲の冒険者や町人は皆、憧れと敬意の眼差しを向けている。

それは偽りであろうと、確かに人々を勇気づける"物語"となっていた。

 

――こうして、漆黒の剣は知らぬ間に、また一つ伝説を背負わされていくのであった。

 

 

/*/ 魔導国・ナザリック大墳墓 執務室 /*/

 

 

漆黒の玉座の間ではなく、書類が積み上げられた執務室。

アインズ・ウール・ゴウンは帳簿を確認していたが、デミウルゴスの報告に思わず身を乗り出した。

 

「……なに? 漆黒の剣が……"未知を求めて帝国を去った英雄"として吟遊詩人に歌われているだと?」

 

思わずつけもしないため息をつき、アインズの内心は大混乱に陥る。

 

(彼らはジルクニフとジョンさんに巻き込まれて、ドタバタしてただけなんだが

 だが、世間的には"自ら冒険を選んだ英雄"扱いか。

 これは……利用できるのか? いや、でも調子に乗って祭り上げられるのも困るし……くそぅ!)

 

そんな主の心中をよそに、傍らに控えるナーベラル・ガンマは冷ややかに言い放った。

「……あの程度の者たちが"英雄"と呼ばれるのですか。

 愚かな人間どもは、実力も見抜けぬのでしょう」

 

「ナ、ナーベラル! そういうことを軽々しく言ってはいけない!」

モモンガは慌てて威厳ある声を作り直し、背筋を伸ばした。

「……英雄とは、民衆が望む心が形にしたものだ。

 実力の如何ではなく、民の信仰によってこそ成立するのだ」

 

ナーベラルは微かに眉をひそめた。

「……であれば、そのような"偶像"が魔導国にとって脅威となる可能性もあるのでは?」

 

モモンガは手を振り、大げさに否定する。

「いやいや! むしろ逆だ。彼らが冒険者として名声を得れば、魔導国の威光を背にした存在となる。

 つまり……我が国にとって都合の良い宣伝塔となるのだ!」

 

(……多分、これで合ってる……はず……!)

 

内心で冷や汗を流すモモンガ。

一方、ナーベラルは変わらぬ無表情で小さく呟いた。

 

「……愚かではありますが、操り人形としては役に立つでしょう」

 

モモンガはまたも心の中で頭を抱えるのだった。

 

 

/*/ ナザリック大墳墓・来賓区画 /*/

 

 

深奥の白亜の回廊。

竜王国の姫アウレリア・オーリウクルスは、魔導国から"研究対象"として迎えられたとは思えぬほど、客人のように丁重な部屋を与えられていた。

 

ある日、控えのアンデッド従者が差し出したのは、一冊の詩集。

「……これは?」

 

低い声で従者が答える。

「最近、人間社会で広まっている吟遊詩人の歌をまとめたものです」

 

アウレリアが開いた頁に記されていたのは、竪琴と共に語られる冒険譚だった。

 

――帝国での戦いを経て、"漆黒の剣"は未知を求めて旅立った。

――どこまでも自由で、誰よりも果敢な冒険者。

――人間の未来を切り拓く者。

 

「……ペテル、ルクルット、ニニャ、ダイン……」

懐かしい仲間たちの名が、詩の中に刻まれていた。

 

アウレリアは小さく微笑む。

「……英雄、ですか」

 

ナザリックの冷ややかな石壁に囲まれながらも、その歌を目にした瞬間、彼女の胸には確かに温かい光が宿った。

 

「――彼らが"冒険者"である限り。

 きっと……どんな暗闇でも、道を切り拓いてくれるのでしょう」

 

その瞳には、ナザリックに囚われてなお消えぬ希望が輝いていた。

 

アウレリアは気づかぬまま、再び詩集に目を落とした。

そこに刻まれた"漆黒の剣の歌"は、彼女にとって遠く離れた友の無事を知る唯一の手掛かりとなるのだった。

 





第12部:諸国漫遊 完
思われたら、背負うしかねぇ。それが英雄級に手をかけた者の責務だ。
マッチポンプじゃないよ。

次回!
第13部:ささやかな冒険!

第112話:小さな逃亡者!

こいつらが一番良い空気吸ってる気がしてきた。
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