オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第113話:もし私の願い事が

 

 

/*/ ナザリック大墳墓・来賓区画 応接間 /*/

 

 

アウレリアが小さな決意を胸に口を開いた。

「……もし許されるなら、私も"冒険者"として歩みたいのです」

 

その言葉に、同席していたジョンは思わず噴き出した。

「……え? アウレリア姫、冒険者やりたいの?」

 

アウレリアは少しだけ頬を染め、視線を逸らしながら小さく頷く。

「はい。漆黒の剣の皆と……あの人たちのように、未知を求めて挑みたいのです」

 

「……ダメだぞ」

ジョンは即答した。

 

「えー」

アウレリアは思わず子供のような声を漏らす。

 

「いやいやいや!」

ジョンは両手を振り回しながら立ち上がった。

「よそ様から預かった姫を、冒険者なんて危険な職業につけさせられるわけないだろ!

 ダンジョンに潜って罠で吹き飛ばされるとか、魔獣に食いちぎられるとか、普通にあるんだぞ!?」

 

「……私は竜王国の民を救うためにここにいるのです。危険を恐れてばかりでは……」

アウレリアは反論するが、ジョンは腕を組んで首を振る。

「だーめ。冒険者ってのは"死ぬ覚悟"がある連中がやる仕事なんだ。姫さんはそれ以前に、国の宝だろ」

 

そのやりとりを玉座に座ったまま静かに聞いていたモモンガが、小さくため息を漏らす。

「……ジョンの言うことも尤もだ。

 竜王国から預かった者を勝手に危険に晒すのは、魔導国の立場としても問題だ」

 

「ほらな、モモンガ様も言ってるだろ!」

ジョンは胸を張ってアウレリアに言い放つ。

 

アウレリアは肩を落としながらも、唇を噛んで呟いた。

「……けれど……漆黒の剣は、あの方々は……それでも冒険者として立っているのです」

 

モモンガはその言葉に一瞬だけ沈黙し、玉座の肘掛けを軽く叩いた。

「……ふむ。"冒険者になりたい"という願いを、頭ごなしに否定するべきではないかもしれない」

 

「モモンガさん!?」

ジョンが目を剥く。

 

「安心して下さい、ジョンさん。今すぐ彼女を冒険に送り出すわけではない。

 ただ……"冒険者としての志"を持つことまで否定するのは、あまりに酷だろう」

 

ジョンはがしがしと頭を掻きむしった。

「うわー、やっぱりそうなるかぁ……。……モモンガさん、責任取ってくださいよ」

 

玉座の主は小さく肩をすくめ、表情の変わらぬ顔で苦笑するのだった。

 

/*/ ナザリック大墳墓・来賓区画 応接間 /*/

 

アウレリアの「冒険者になりたい」という言葉に、ジョンとモモンガが応酬していたその時――。

静かに歩み出たのは、アルベドだった。

 

「……姫の望みを、完全に否定する必要はないのではありませんか」

 

「……アルベド?」

ジョンが目を丸くする。いつもなら「囚われの姫など処分を」と言いかねない彼女が、まるで真逆のことを言ったのだ。

 

アルベドは柔らかな微笑みを浮かべ、アウレリアの肩に手を置く。

「最近、研究部門からは"進展が鈍ってきている"という報告もあります。

 姫自身が何か変化を求めるのは、むしろ良い刺激になるかもしれません」

 

その声音は、普段の鋭い苛烈さを隠し、まるで慈母のように優しい。

アウレリアは戸惑いながらも、小さく「……アルベド様……」と呟いた。

 

だが、ジョンはじっとアルベドを見つめて眉をひそめる。

「……何か企んでる?」

 

アルベドは顔をジョンに向け、ゆっくりと首を横に振った。

「いえ。ただ――何があっても、ジョン様は私のすべてをお許しになる、と」

 

「……あー……うん。確かに言った」

ジョンは頭を掻き、目を逸らすしかなかった。

 

アルベドはその様子を見て、まるで勝ち誇るように、けれども優雅な笑みを浮かべた。

モモンガは小さく息を吐き、沈黙を守る。

 

――姫の「冒険者になる夢」を巡り、思わぬ均衡が生まれつつあった。

 

 

/*/

 

 

アウレリアは胸に手を当て、深く頭を下げた。

「……ありがとうございます、アルベド様。

 私のような立場の者の望みを、聞き入れてくださるとは……」

 

その礼は心からのものだった。

アルベドは微笑を絶やさず、その仕草を優雅に受け止める。

「礼など無用ですわ、アウレリア姫。

 貴女がどう歩むのか――それを見届けるのも、我らの務めですから」

 

アウレリアの顔にわずかな紅が差し、長く閉ざされていた心に光が差す。

 

その横でジョンは腕を組み、ひそひそ声でモモンガにぼやいた。

「いや絶対裏あるだろ、これ……」

 

モモンガは「……まあ、アルベドだからな」とだけ返し、空気を濁さぬように沈黙を保った。

 

ジョンは勢いよく立ち上がり、両手をばっと広げた。

「よーし!じゃあ俺の奥義を伝授してやろう!その名も――」

 

彼は咳払いを一つ。

 

「《一週間で勇者になれるスペシャルハードコース》!」

「さらにオプションで、《達人への崖にダイブ死んで元々人生冒険化大作戦》!!」

「修行の疲れを修行で癒し、冒険あっての自分と知らしめ、修行の修行による修行のための生活!」

「二者択一! 冒険か死かを選ぶ、俺の弟子入り生活だ!!!」

 

あまりの勢いに部屋の空気が固まる。

 

アウレリアはきょとんと目を丸くし――やがて、くすりと笑った。

「……死ぬかもしれない修行、なのですか?」

 

「そう! でも一週間で勇者になれる!」

ジョンは胸をどん、と叩き、親指をぐっと立てる。

「俺が保証する! 多分、死ぬ前にはめっちゃ強くなる!」

 

「……"死ぬ前"に、ですか」

アウレリアは苦笑を浮かべつつも、どこか興味深そうに首を傾げた。

 

その横で、モモンガがこめかみに手を当てる。

「……お前は本当に、どうしてそう極端なんだ」

 

アルベドがすかさず口を挟む。

「ですが、アウレリア姫がそれに耐えられるのであれば――確かに大きな成長が見込めますね」

その声音には、奇妙な優しさと毒が入り混じっていた。

 

「……なあ、アルベド。お前、なんか企んでるだろ?」

ジョンがじろりと睨むと、アルベドは首を傾げ、天使のように微笑む。

「いえ。ただ――何があっても、ジョン様は私のすべてをお許しくださる、と」

 

「……あー、うん。確かに言った」

ジョンが観念したように頭をかく。

 

アウレリアはそんなやり取りを見て、小さく頭を下げた。

「ありがとうございます。……私自身、試されるのならば、挑んでみたいと思います」

 

その瞳は、恐れよりも決意を宿していた。

 

「お、おい! 本当にやる気か!?」

モモンガが青ざめる中、ジョンはにやりと笑う。

「よーし、決まり! じゃあ明日から崖ダイブ特訓だ!」

 

「やめろ! 本当に死ぬだろうが!」

モモンガが慌てて制止する声が響き、場は一転して大混乱となるのだった。

 

 

/*/

 

 

ジョンはモモンガの制止をひらりとかわし、両手を大きく振った。

「大丈夫だよ、モモンガさん!」

 

「……どこをどう見れば"大丈夫"なんだ」

モモンガが半眼で睨むと、ジョンはすかさず指を一本立てる。

 

「研究の結果、アウレリア姫は見た目よりずっと頑丈だってわかってるんだ。

 それに俺の特訓だって、ちゃんと加減を掴んでる。ブレインとかクレマンティーヌとか、漆黒の剣のみんなとやった経験でな!」

 

「……いや、比較対象がどいつもこいつも常識外れなのだが」

モモンガの呟きを無視して、ジョンはさらに畳みかける。

 

「しかもドラゴン相手の実地訓練だって、ヘジンマールでやったし!

 崖ダイブだって、水深と角度をちゃんと測ってある! 安全第一、スリル第二! 俺はそこまで考えてるんだ!」

 

「"安全第一、スリル第二"って何だ……」

モモンガは深くため息を吐いた。

 

一方で、アウレリアは静かにそのやり取りを聞き、ゆっくりと頷いた。

「……つまり、私のための道は、すでに整えられているのですね」

 

「おうとも!」

ジョンは胸を張る。

「姫さんが勇者になれるかどうかは、あとは根性次第! 保証する、死ぬほど強くなる!」

 

「だからその"死ぬ"を保証するな!」

モモンガが思わず声を荒げる。

 

それでも、アウレリアの目には迷いはなかった。

「……ならば、挑ませていただきます。

 竜王国の姫としてではなく、一人の冒険者として」

 

ジョンは満面の笑みを浮かべ、親指をぐっと立てた。

「よっしゃ、決まりだな!」

 

アルベドは横でくすくすと笑みを浮かべ、囁いた。

「――やはり、ジョン様の導きに勝るものはありませんね」

 

モモンガは椅子の背に沈み込み、骨の顎を押さえた。

「……やはり止めるべきだったかもしれんな」

 

 

/*/ カルネ・ダーシュ村・修行場 /*/

 

 

「アウレリア姫、本気でやるつもりですか……?」

ペテルが額を押さえ、重苦しい声で尋ねた。

 

「一朝一夕に強くなんてなれないんだぞ!」

ルクルットも慌てたように続ける。

 

「である。並の冒険者でも数年はかかるのだ」

ダインは深くうなずき、渋面を浮かべた。

 

「でも……どうしても挑みたいのです」

アウレリアは神妙に頷いた。

 

ジョンは満面の笑みを浮かべ、拳を打ち鳴らす。

「よし、覚悟は決まったな?頭の中で思い浮かぶ限りのツライ特訓を考えろ――」

 

一拍置いて、彼は大声で宣言する。

「そんなものは! 天国だッ!!」

 

漆黒の剣の四人が一斉に凍りついた。

 

 

/*/

 

 

まずルプスレギナに命じ、信仰系第四位階《高速自然治癒》をアウレリアに付与する。

「筋トレしてる間にも超回復! 治癒チート付き筋トレだ! 最高だろ!」

 

「……最高かどうかは怪しいですが……」

ペテルが小声で突っ込む。

 

さらにジョンは課金アイテムを惜しげもなく砕き、アウレリアに経験値を注入する。

「1Lvのままじゃ殺しちゃうからな! よし、10Lvぐらいは上げとくぞ!」

「……殺す気まんまんじゃん」

 

光がアウレリアを包み、その身体に冒険者の素地が刻まれる。

 

「……来なさい」

 

 

/*/

 

 

修行は苛烈そのものだった。

 

腕立て、腹筋、背筋、スクワット、懸垂、走り込み。

限界が来るたびにジョンの声が飛ぶ。

 

「限界? 越えろ! まだ行ける!」

鞭が鳴る。痛みが意識を覚醒させる。

 

限界を越えるたびにルプスレギナの治癒魔法が身体を癒し、再び限界を叩きつける。

回復し続ける肉体に休息は許されない。

それはチートでありながら、精神を削り取る果てしない試練だった。

 

その声には確かな決意が宿っていた。

 

汗に濡れ、呼吸を荒げながらアウレリアは地面に手をついた。

何度も腕立て伏せとスクワットを繰り返し、全身が悲鳴をあげている。

 

その背に、ジョンの声が飛ぶ。

「まだだ! 限界を越えろ!」

 

しかし体は言うことをきかず、力尽きて崩れ落ちた。

肩で息をしながら、アウレリアはかすれた声を絞り出す。

 

「……もう……立て……ない……」

 

その瞬間、胸の奥で小さな光が灯る。

彼女は無意識に言葉を紡いだ。

 

「――《軽傷治癒》」

 

手のひらから淡い光が溢れ、背中に残る鞭の跡が癒えていく。

痛みが和らぎ、呼吸も少し整った。

 

驚きの声をあげたのはペテルだった。

「まさか……自力で魔法を……!」

 

ルクルットが半ば呆れたように口笛を鳴らす。

「こりゃ本物だな……信仰系詠唱者として目覚めたってわけか」

 

「である。奇跡の現出……見事である」

ダインが低く唸る。

 

アウレリアは光の余韻に包まれながら、震える声で呟いた。

「……私が……癒した……?」

 

ジョンは顎に手を当て、にやりと笑った。

「そうだ。ただし――筋トレで削った分にそれ使うなよ」

 

「えっ……?」

 

「治癒魔法で回復したら筋肉が育たねぇ。使うのは鞭打ちで裂けた傷だけにしとけ。

 筋肉の悲鳴は財産だ、癒しちゃダメだぞ」

 

「……そんな理屈、聞いたことありません!」

アウレリアが抗議すると、ルクルットがすかさず叫んだ。

 

「本人に望まれたからって! だからって竜王国の姫を鞭打ちする!? おかしいだろ!」

 

「言うな、師匠だぞ……」

ペテルは顔を覆った。

 

「であるが……やはり常軌を逸している」

ダインも低く付け足す。

 

だがアウレリアは小さく息を吐き、微笑んだ。

「……それでも……私、冒険者になりたいのです」

 

その決意を前に、漆黒の剣は誰も言葉を返せなかった。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第九階層 玉座の間 /*/

 

 

シズはカルネ村から戻ると、無機質な声で報告を始めた。

 

「――アウレリア姫は、ジョン様の特訓により《軽傷治癒》を発現。

 信仰系詠唱者として目覚めました」

 

玉座に座るモモンガが小さく頷く。

「……なるほど。やはり潜在能力は高かったか」

 

隣のアルベドが、残念そうに首を振った。

「ですが、始原の魔法には目覚めませんでしたか……。

 やはり、姫の血筋では限界があるのかもしれませんね」

 

「……」

モモンガはジト目でアルベドを見た。

「お前……そんなことまで期待していたのか」

 

アルベドは無邪気に微笑む。

「ええ。ジョン様の無茶な修行なら、もしかしてと……」

 

(……いや、そこに期待するのはどうなんだ……)

モモンガは内心で頭を抱える。

 

だがすぐに別の悩みが襲ってきた。

(……これ、ドラウディロンになんて報告すればいいんだ……。

 "竜王国の姫は冒険者志望で、しかもジョンに鞭打ちされて目覚めました"……?

 ……無理だろ。黙っておこうかな……いやでも……)

 

玉座の上でスケルトンの頭を抱え、モモンガは現実から目を背けるのだった。

 

 

 





そうだね!ムチムチだね!
割とじゃなくて大問題だぞ、どうすんだよ!

次回!
第114話:コイツ、マジでやりやがった!

怒られろ!
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