オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第114話:コイツ、マジでやりやがった

/*/ 竜王国王城・謁見の間 /*/

 

ゲートが開き、ジョンが現れる。

玉座に座る竜王ドラウディロンと重臣たちが、鋭い視線を彼に注いだ。

 

ジョンはいつもの調子で進み出る。

 

「いやぁ、お久しぶりです! アウレリア姫の特訓を担当していたジョンです!」

 

「……特訓?」

ドラウディロンの低い声が、謁見の間を震わせる。

 

ジョンは胸を張って答える。

「ええ、みんな止めたんですけどね! アウレリア姫はどうしても冒険者になりたいって聞かなくて。地獄特訓を受けてでも冒険者になるって言うものですから! 仕方なく鞭打ち修行を――」

 

「鞭打ち……?」

 

ドラウディロンの黄金の瞳が怒りに燃え上がった。

「姫は――賓客としてナザリックに迎えられたはずではなかったのか!」

 

その咆哮に、重臣たちが一斉に声を荒げる。

 

「賓客に鞭を振るうなど、狂気の沙汰!」

「竜王国の姫を何だと思っている!」

 

しかしジョンは慌てずに手を振る。

 

「いやいやいや! 結果オーライですよ! その特訓でアウレリア姫は信仰系詠唱者として覚醒したんです! 姫ご自身も大満足で!」

 

「満足……だと……」

ドラウディロンの牙が軋みを上げるほど噛み締められた。

 

重苦しい沈黙の中、ジョンだけが妙に明るい調子で結んだ。

「――ですから、冒険者姫としても、竜王国の希望としても、もうバッチリです!」

 

謁見の間に再び怒号が響き渡る。

「誰がそんなものを望んだ!」

 

/*/ 竜王国王城・謁見の間 /*/

 

怒声と憤怒に包まれる玉座の間。

重臣たちが声を揃えて糾弾する。

 

「姫を鞭打つとは正気か!」

「冒険者など卑しい職業に――!」

「竜王国の誇りを辱める気か!」

 

玉座から響くドラウディロンの咆哮が、全てを圧した。

「賓客として迎えられたはずの姫を――なぜ辱める真似をした!」

 

ジョンはいつもの調子で手を振ろうとした。

「いやいや、みんな誤解してますって! 本人が望んだんですよ、本人が!」

 

しかし怒りの奔流は止まらない。

その時――ジョンの表情が、不意に引き締まった。

 

「……姫が望んだんだ」

 

静かな声。

だが謁見の間にいた誰もが、その言葉に押し黙った。

 

「自分自身の意志で、冒険者になる道を選んだ。地獄特訓を受けてでも強くなりたいと、はっきり口にした。……それを否定することは、私にはできない」

 

ジョンの瞳には、ふざけた色は微塵もなかった。

冒険者として数多の修羅場をくぐり抜けた者の、確固たる信念が宿っていた。

 

「誰であろうと、その意志を踏みにじることはできない。……何者にもだ」

 

その一言に、重臣たちは息を呑んだ。

ドラウディロンもまた、怒りの炎を宿した瞳を細め、ジョンを見据える。

 

やがて、低い声が返された。

「……ならば、その選択の果てに何が待つか……貴様も姫も、よく理解しているのだろうな」

 

ジョンはゆっくりと頷いた。

「ええ。だからこそ、俺が責任を持って鍛えます」

 

重苦しい空気の中、ただ一点、揺るぎない誓いだけが響いていた。

 

/*/ 竜王国王城・謁見の間 /*/

 

玉座の前。

アウレリアはゆっくりと一歩を踏み出し、静かに膝をついた。

 

「お姉さま……そして竜王国の皆さま」

 

震えはなかった。

そこには決意を秘めた清らかな響きがあった。

 

「私は……“冒険者”として生きてゆきたいのです」

 

謁見の間にざわめきが走る。

重臣たちは顔を見合わせ、信じられぬという表情を浮かべた。

 

「姫……なぜそこまで……!」

 

アウレリアは胸に手を当て、真っ直ぐに言葉を続ける。

 

「竜王国の姫として、国のために尽くす道は幾つもあります。

 ですが私は……冒険者として未知に挑み、困難に立ち向かうことでしか、己の存在を証せません。

 それこそが、私に与えられた生の意味だと信じております」

 

沈黙が訪れた。

玉座に座す女王ドラウディロンが目を閉じ、長い息を吐く。

 

その時、ジョンが一歩前に進み出る。

 

「……ただ、それはそれとして。

 今回、魔導国は姫殿下を賓客として預かると約しながら、冒険者への道を認めてしまった」

 

重臣たちの視線が一斉に彼へ注がれる。

 

ジョンは両手を広げ、肩を竦めると、飄々とした笑みを浮かべた。

「だから、その“詫び”として。魔導国から竜王国へ――無償の食料援助を行わせていただきます」

 

「……なんと……!」

「無償の……食料……!」

 

驚愕のざわめきは、やがて感激の声へと変わっていった。

 

「姫様は……ご自身の身を痛めてまで祖国に尽くしてくださったのだ!」

「なんと尊い……!」

「竜王国に、再び光が差す!」

 

アウレリアは驚いたようにジョンを見つめたが、すぐにその意図を悟った。

――自分の選択が、祖国をも救うことになる。

 

胸の奥に込み上げる熱いものを堪えきれず、彼女は小さく微笑んだ。

 

玉座に座すドラウディロンは、静かに妹を見つめる。

その瞳の奥に宿った光は――叱責でも絶望でもなく、深い誇りの色だった。

 

やがて、その場にいた誰もがアウレリアの決断を“姫の自己犠牲”として受け止める。

その噂は王城を越え、瞬く間に竜王国全土へと広がった。

 

「姫は自らの身を賭して祖国に食料をもたらした」と。

涙ながらにその話を語り合う民草の姿は、確かに竜王国の未来に新たな希望を灯していた。

 

……そんな荘厳な空気の中、場の片隅でジョンは小声でぼそりと呟く。

「――いやぁ、これ、帰ったらモモンガさんにどう言い訳しよっかなぁ……」

 

/*/ 魔導国・玉座の間 /*/

 

ジョンの報告を聞き終えた瞬間――

「はぁん、無償の食料援助だとぉッ!?」

玉座のモモンガの叫びが広間に響き渡った。

 

横で控えるアルベドは、うっとりとした笑みを浮かべる。

「素晴らしい判断でございます、モモンガ様。

 姫の自己犠牲を旗印に、竜王国の国民感情は完全にこちらへと傾きました。

 さらに無償援助などと……流石は至高の御方。

 これで竜王国は魔導国への依存を深め、ずるずると沼にハマっていくことでしょう」

 

「い、いや……」モモンガは慌てて手を振る。

「私はそんな……無償援助で感激させるなんて考えてなかったぞ!? ただの……ジョンの暴走では……」

 

「いえ、至高の御方の叡智を前に“暴走”などあり得ません」

アルベドは断固たる声で断言する。

 

そこへデミウルゴスが口を挟んだ。

「……なるほど、姫の選択と“無償”という一点を組み合わせ、国全体に“感謝と負債”を植え付ける……。

 いやはや、私の浅知恵では到底及びません。

 竜王国は今後、魔導国の施しなしには立ち行かぬ構造へと確実に傾斜するでしょう。

 まさに盤石なる御方の計略……!」

 

「ちょ、ちょっと待て!」

ジョンが慌てて両手を振った。

「いやいやいや! あれは俺が勝手に“やっちゃった”だけで、計略とかじゃ……!

 姫が冒険者やりたいって言い出して、それの責任とる感じで……あの……」

 

モモンガは椅子に背を預け、骨の顔を覆った。

「……ジョン。お前な……また面倒なことを……」

 

「えぇ、面倒などではありませんよ」

アルベドは恍惚とした笑みを浮かべる。

「至高の御方の深謀遠慮を“偶然のように見せかける”――これこそが真の偉大さなのです」

 

「むしろ感服いたしました」

デミウルゴスが深々と頭を垂れる。

 

「……」

ジョンは天井を見上げ、ぼそりと呟いた。

「――俺、また要らん伝説作っちゃったのかなぁ……」

 

モモンガは深い溜息をつく。

その音が、玉座の間に長く響き渡った。

 

/*/ 竜王国・街と村――民草の反応 /*/

 

冬を前に、飢えでやせ細った人々の前に馬車の列が到着した。

積まれていたのは袋に詰められた小麦、干し肉、保存魚、さらには乾燥果実や豆。

 

「す、すげぇ量だ……!」

「これ、本当に……タダで配ってもらえるのか!?」

 

役人が高らかに告げる。

「すべて、魔導国より姫アウレリア殿下が祖国のために引き出された無償の援助である!」

 

途端に人々の目が潤む。

「姫様が……! 身を削ってここまでしてくださったのか!」

「ありがてぇ……! これで子どもたちを飢えさせずに済む!」

老女が膝をつき、天を仰いで嗚咽した。

「アウレリア様は……聖女様じゃ……!」

 

集落ごとに祭りのような空気が生まれ、姫の名を称える歌や祈りが即興で紡がれた。

やがてその熱狂は王都へも届き、人々の間で「竜王国の聖姫」という呼び名が自然に広まっていく。

 

/*/ 竜王国・王城会議――重臣たちの議論 /*/

 

広間の長机を囲むのは、老練な宰相、軍を率いる将軍、各地を治める諸侯。

机上には援助物資の目録が並べられていた。

 

「小麦、干し肉、塩、保存魚……どれも質は高い。これを“無償”で寄越すなど……考えられぬ」

宰相が眼鏡を直しながら唸る。

 

「民は姫殿下を讃えておる。我らが反対の声を上げれば、かえって民心を失うぞ」

将軍が重々しく言った。

 

「しかし、これは魔導国への依存を招く。食料供給を握られれば、いずれ首根っこを抑えられるのでは?」

「それでも、今この瞬間、竜王国は救われている。……姫殿下のおかげでな」

 

やがて議論は収束し、ひとつの結論に至る。

「魔導国の真意を測りかねる。だが、姫殿下の選択を讃えねば国は纏まらぬ。――これより、姫殿下を“聖姫”と称え、国の顔として押し出すべきである」

 

誰もがうなずき、決定は下された。

しかし彼らの胸中には、感謝と警戒が渦巻いていた。

「……果たしてこの光が救いとなるか、それとも鎖となるか」

 

/*/ 竜王国王城・謁見の間――女王ドラウディロンの想い /*/

 

夜更け。

玉座にひとり残ったドラウディロンは、窓の外に灯る篝火を眺めていた。

外では、民が姫の名を唱えながら夜通し踊り歌っている。

 

「……アウレリア」

 

囁くように妹の名を呼び、彼女は目を閉じた。

 

「民はおまえを聖女と呼び、未来を託そうとしている。

 だが、姉である私は知っている……。おまえはただ、己の意志で歩みたかっただけだとな」

 

唇に微かな笑みが浮かぶ。

「それでも……いい。たとえ選択の意味が違えど、結果として国が救われるのなら」

 

だが次の瞬間、瞳に影が落ちた。

「……問題は、その代償だ。魔導国は無償で恩を与えるような国ではない。

 この先、竜王国はその影から逃れられまい」

 

それでも彼女は最後に、誇り高き女王の顔で呟いた。

「妹よ。おまえの選んだ道を、私は誇りに思う。……どうかその輝きが、この国を照らし続けてくれるように」

 

王城の高窓から差す月光に、女王の横顔は静かに照らされていた。

 

/*/ 竜王国・田舎村の広場 /*/

 

焚き火の周りで村人たちが集まり、年寄りが子どもに語っていた。

 

「姫様はな、魔導国に囚われても決して竜王国を忘れなんだ」

「ほんとに?」と子どもたちが目を輝かせる。

 

「そうとも。ご自身の身を傷つけてまで祖国のために祈り、神に選ばれたんだ。だから魔導国から、あんなにたくさんの食料を授かったのさ」

 

話は尾ひれをつけられ、焚き火の炎のように熱を帯びる。

「姫様は空の竜と心を通わせ、天の加護を得ておられる」

「その祈りは大地を潤し、畑を実らせるんだ」

 

子どもたちはうっとりと聞き入り、大人たちは涙を流しながら手を合わせた。

――こうして村ごとに「聖姫伝説」は語られ、次の村へ、次の町へと伝わっていく。

 

/*/ 王都の酒場 /*/

 

酒に酔った男たちが、木のテーブルを叩きながら声を張り上げる。

 

「聞いたか! 姫様は魔導国の悪魔どもに“冒険者になる”と宣言なさったんだ!」

「冒険者だと!? 国のために危険に身を投じられるなんて……」

「我らの姫様こそ、真の勇者よ!」

 

誰かが竪琴を持ち出し、即興で歌を紡ぐ。

やがて店全体が合唱の場と化した。

 

――姫は剣を手に、闇を払う。

――姫は祈りを胸に、民を救う。

 

その歌は翌日には街角で吟遊詩人に歌われ、王都の広場を賑わせる。

 

/*/ 竜王国・大神殿 /*/

 

白い石造りの大聖堂に、人々が押し寄せていた。

 

「聖姫様の御加護を……!」

「どうか家族を守ってください!」

 

祭壇前に立つ司祭は群衆を見渡し、深くうなずいた。

「姫殿下は己の身を削り、祖国に糧をもたらされた。

 そのお姿は、まさしく神が遣わした御方に他ならぬ!」

 

人々は一斉に跪き、祈りの声を高らかに上げた。

その瞬間、「聖姫教団」と呼ばれる新しい信仰の芽が生まれた。

 

/*/ 竜王国・王城――重臣の囁き /*/

 

廊下を歩きながら、二人の重臣が小声で語り合う。

 

「……聖姫伝説の広がり方は尋常ではないな」

「ああ、民心が一気に結集している。国は救われたと皆が信じている」

「だが同時に、姫殿下は“竜王国の象徴”として、もはや後戻りできまい」

 

彼らは視線を交わし、低く吐き捨てる。

「これを導いたのは魔導国か……それとも姫自身の意志か……」

 

だが答えは誰にも分からない。

ただ一つ確かなのは、“聖姫”という存在が今や国を動かす力となりつつあるということだった。

 

/*/ 竜王国全土 /*/

 

やがて伝説は国境を越え、旅商人や詩人の口から他国へも広がっていく。

 

――竜王国に聖姫あり。

――その祈りは大地を潤し、民を飢えから救った。

――その身を痛めてなお、祖国を想う慈愛の化身。

 

吟遊詩人が歌えば、聴衆は涙を流し、旅の商人はそれを他国の市で語り草とした。

 

「聖姫が祈れば荒野に花が咲く」

「聖姫が涙を流せば、その雫は黄金の麦となる」

「聖姫が笑えば、空に虹がかかり、竜さえ頭を垂れる」

 

尾ひれは次々と付け加えられ、やがてアウレリアは現実の姫を超えた“神話的存在”として描かれるようになっていった。

 

農民は畑に種をまくとき、空を仰いで祈る。

「どうか聖姫様の微笑みが、この苗を守ってくださいますように」

 

兵士は剣を掲げ、戦友と共に誓う。

「聖姫様の勇気を胸に、祖国を守らん!」

 

母は幼子に乳を含ませながら囁く。

「泣かないで……聖姫様があなたを見守ってくださっているわ」

 

そして祈りの輪は拡大し、祭りの日には各地で「聖姫祭」と呼ばれる集まりが自然発生的に行われるまでになった。

そこでは麦と水が象徴として捧げられ、人々は聖姫の名を唱えながら踊り、歌い、涙を流す。

 

竜王国の人々にとってアウレリアは、もはや王族の一人ではない。

――彼らの未来そのもの、祈りの象徴、「聖姫伝説」の中心そのものへと昇華していった。

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・玉座の間 /*/

 

「……どうすんだよ、これ」

 

玉座に座るモモンガは、思わず頭を抱えた。

目の前には各地から集められた情報。竜王国全土に広がる“聖姫伝説”の断片――詩、歌、祈り、祭礼、絵姿に至るまで。

 

「聖姫が祈れば雨が降る? 笑えば虹が出る? いつの間に神話生物に……」

モモンガの骨の指が額を押さえる仕草をする。

 

アルベドが恍惚とした表情で進み出る。

「素晴らしいことではありませんか! 至高の御方が選ばれ、鍛え上げられた存在だからこそ、人々はその真実に触れ、奇跡として伝承しているのです」

 

デミウルゴスは眼鏡を押し上げ、含み笑いをする。

「ええ。まさに“物語”は国を支配する力の一つ。聖姫伝説の拡散は、竜王国を魔導国の精神的従属下に置く絶好の機会です」

 

「……いやいやいや! だからってその姫本人に会ったときどうするんだ!?

 “あなた、もう神話の人ですよ”って伝えるのか!? 俺の胃が死ぬ!」

 

モモンガが叫ぶと、ジョンが肩を竦めながら笑った。

「いやぁ、でも本人は多分喜ぶと思いますよ。“冒険者”と“聖姫”両方やれるなんて、夢広がりまくりでしょうし」

 

「……もういい。考えても仕方ない」

モモンガは溜息をつき、玉座の肘掛けを軽く叩いた。

「とりあえず司書の一体に命じろ。聖姫伝説を編纂した本をまとめ、アウレリア姫に渡してやれ」

 

「かしこまりました、モモンガ様」

アルベドが深く頭を垂れる。

 

こうして“聖姫伝説”は、ただの口承から一冊の装丁本へと姿を変え、正式に「物語」として姫自身の手に届けられることになるのだった。

 

/*/ カルネ・ダーシュ村 /*/

 

夕暮れ。

アウレリアの前に、ナザリックの司書が恭しく両手で捧げ持つ一冊の本が差し出された。

 

「……これは?」

首を傾げながら表紙を撫でると、豪奢な装丁に金の箔押しでこう刻まれていた。

 

――《聖姫伝説》

 

「っ……!」

ページを開いた瞬間、アウレリアは息を呑んだ。

 

そこには竜王国で囁かれる自分の物語が詩や挿絵と共に記されていた。

「祈りを捧げた姫の声が雨を呼び、荒れ果てた大地を潤した」

「自らの身を痛め、民の飢えを救う“聖姫”」

 

あまりに美化された言葉の数々に、顔がかぁっと熱くなる。

「ち、違う……私は、そんな大層な存在じゃ……!」

 

しかし、読み進めるにつれて胸の奥がじんわりと温かくなった。

――この本を読んだ人々は、どれほど勇気づけられるだろう。

――どれほどの希望を見出すだろう。

 

「……こんな私でも……」

ぽろりと涙が零れる。

 

「こんな私でも、祖国に……光を与えられたのですね」

 

本を胸に抱きしめ、アウレリアは深く息を吸い込んだ。

涙に濡れた瞳の奥には、揺るぎない決意の光が宿っていた。

 

「ならば――この名に恥じぬよう、私は歩みます。

 冒険者として。竜王国の“聖姫”として」

 

そう呟いた彼女の横顔は、夕陽を受けて黄金に輝いていた。

 

/*/ カルネ・ダーシュ村・集会所 /*/

 

夜。

ランプの灯が小さく揺れる中、アウレリアはこっそり《聖姫伝説》の本を読み返していた。

 

「……うぅ、こんなふうに書かれるなんて……」

耳まで赤く染め、ページを閉じようとした瞬間――背後から声がした。

 

「アウレリア様? それは……」

ニニャが覗き込み、きらきらと目を輝かせる。

 

「ちょっ、だめです!これは――!」

慌てる彼女をよそに、ニニャは数行読み上げただけで感嘆の声を上げた。

「……すごい! 自らの身を鞭打たれる苦行を受け入れ、祖国に無償の食料援助をもたらすなんて……! やっぱり姫は、王族の責務を深く理解しておられるんですね!」

 

「え、えええ!? ち、違います、そんなつもりは……!」

アウレリアはあわあわと否定するが、その声はうまく届かない。

 

ペテル、ルクルット、ダインが集まってきて本を覗き込み、顔を見合わせる。

 

「……なるほどな」

ペテルは深く頷いた。

「表向きは“冒険者になりたい”という個人の願いに見えて、その実、国を救うために自ら苦行を選んだ……。さすが王族、考えが深い」

 

「うへぇ……王族ってのはすげえな」

ルクルットが頭をかきながら呟く。

「俺だったら絶対逃げ出してるぜ。自分の痛みを国の糧に変えるなんて、普通じゃできねぇ」

 

「であるな」

ダインは重々しく頷いた。

「己の肉体を削り、祖国に恩恵をもたらす……その覚悟は並大抵ではない。敬服に値する」

 

「ち、ちが……本当に違いますから!」

アウレリアは机に突っ伏してジタバタと否定した。

 

しかし漆黒の剣の面々は、まるで確信したかのように真剣な眼差しを彼女へ向ける。

「姫様、俺たちも手伝いますよ」

「そりゃ当然だろ!」

「仲間として、全力で支えねばならんな」

 

「~~っ!!」

アウレリアの心臓は爆発しそうなほど跳ね上がり、顔は真っ赤。

――否定すればするほど、逆に“奥ゆかしい自己犠牲”に見えてしまうのだった。

 

 





そりゃ激おこですよ。ぷんぷん丸ですね。
そこまで計算していたとはこの海の……。

次回!
第115話:「庇護 vs 仲間」

庇護もっこすー!!(違う
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