オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
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カルネ村の宿。
夜。
人化した姿のヘジンマールが帳面を繰っている。
ランプの灯に銀髪が揺れる。
背後で控える三人娘のひとり、アイクが静かに口を開いた。
「……姫様が、冒険者を志すそうです」
帳面を閉じ、ヘジンマールは少年めいた笑みを浮かべた。
「君たち、本当に耳が早いね」
セルデーナが小声で続ける。
「早き備えは、姫様のため。……ヘジンマール様は、動かれないのですか?」
クアイアが穏やかに微笑む。
「姫様は人の輪に入る方。漆黒の剣と歩まれれば、やがて彼らの色に染まるでしょう」
ヘジンマールは爪先で帳面をとんとんと叩いた。
「……つまり、僕が誘うべきだと?」
三人娘は視線を交わし、静かに頷いた。
アイク「姫を迎えることは、守ることに繋がります」
セルデーナ「帝国へ誘えば、学院にも通える。学びは姫様を強くするでしょう」
クアイア「……そして、魔導国の庇護の下に」
静かな声に、否応なく重みが宿る。
ヘジンマールは椅子に深く腰掛け、天井を仰いだ。
「……共鳴したあの瞬間から、彼女は僕の“庇護すべき存在”になった。
竜血がそう告げている……」
その声は少年のものとは思えぬほど低く響く。
三人娘は微かに頷き、薄い笑みを浮かべた。
アイク「ならば、動かれるべきです」
セルデーナ「遅れれば、姫様の行く道は他者に奪われる」
クアイア「……けれど選ばれるのは、ヘジンマール様であるべきです」
ランプの灯りが小さく揺れた。
銀の瞳が細まり、ヘジンマールは小さく笑う。
「まったく……君たちに諭されると、逃げ場がなくなるね。
でも、いいか……姫を庇護するのは僕の務めだ」
三人娘は同時に膝を折り、静かに頭を垂れた。
その姿は、忠実な侍女のごとく動かず、ただひたすら主の決意を受け止めていた。
カルネ村の広場。
夕暮れ。
人化したエルフの姿のヘジンマールが、アウレリアに向かって静かに言葉を紡いでいた。
「姫。竜血はあなたと共鳴した。
それは――僕に、あなたを庇護せよと告げている。
帝国の学院に通えば、学びも仲間も得られる。危険に身を投じる必要はないのです」
背後には、控える三人の侍女エルフ。
その言葉にアウレリアが戸惑いを見せたその時、別の声が割って入った。
「――庇護、か。けど、俺たちは違うな」
姿を現したのは、漆黒の剣。
先頭に立つペテルが、まっすぐな視線でヘジンマールを見据える。
「冒険者は、守られるだけじゃ務まらない。
危険に挑み、自分の力で乗り越えてこそ……仲間として肩を並べられるんだ」
ルクルットが肩をすくめ、軽口を叩く。
「学院で机に向かうのも悪くないけどよ。
本当に楽しいのは、仲間と笑いながら飯食って、命がけで戦って……それを生き延びた時だろ?」
ニニャが一歩前に出て、まだ幼さの残る声で必死に言う。
「わ、わたしも……姫様と一緒に魔法を練習したいです!
仲間として……友達として!」
最後に、ダインが落ち着いた声で言葉を添えた。
「確かにヘジンマール殿の考えは理に適っているである。
だが……姫が望むのは、庇護の中での安寧ではなく、
挑戦の中で芽生える友情と自立であると、考える」
広場に緊張が走る。
庇護を約束する白竜の青年と、肩を並べようとする冒険者たち。
アウレリアは両者の間で言葉を失った。
心の奥で――
「守られる安心も欲しい。けど……仲間と笑い合える強さも欲しい」
その二つが、せめぎ合っていた。
ヘジンマールは目を細め、静かに告げる。
「……姫が選ぶこと。僕は待とう」
漆黒の剣の面々もまた、ただ姫を見守る。
夕暮れの風が吹き抜け、アウレリアの髪を揺らした。
答えはまだ出せない。だが確かに、彼女はその狭間に立っていた。
シーン例:カルネ村・広場 「庇護 vs 仲間」
夕暮れの広場。
アウレリアは両者の間で困惑していた。
ヘジンマール(人化の姿)は静かに告げる。
「……君たちの気持ちは分かる。けれど――姫を戦いの渦に巻き込むのは、無責任だ」
ペテルが即座に反論する。
「違うな! アウレリア様は守られるだけの存在じゃない。
俺たちと肩を並べる“仲間”なんだ!」
ルクルットが槍をくるりと回し、挑発的に笑う。
「庇護庇護ってしつこいな。……要は、俺たちが姫様を奪うのが気に入らねぇんだろ?」
三人娘の一人、アイクが一歩前に出る。
「……軽率なお言葉。姫様は玩具ではありません」
セルデーナは淡々と呟きながら指先に術式を組む。
「必要ならば――論より証拠、です」
クアイアは微笑を崩さぬまま。
「互いの“力”を示せば、姫様もおのずとお選びになるでしょう」
その言葉に、広場の空気が一変した。
ダインが腕を組み、低く呟く。
「む……どうやら避けられぬであるな」
ニニャは慌てて両手を振る。
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってください! 姫様の前で戦うなんて――」
だがもう遅い。
ペテルが剣を抜き、ヘジンマールもすっと立ち上がる。
背後の三人娘は左右に散開し、漆黒の剣の四人と向き合った。
アウレリア「ま、待ってください! わたしは――」
誰もその声を聞かなかった。
次の瞬間。
剣と槍が閃き、呪文が編まれ、風が広場を駆け抜ける。
漆黒の剣 vs 霜の白竜と三人の侍女エルフ。
姫を前に、矜持と信念を賭けたパーティ戦が始まった――!
/*/ カルネ村・広場
武器が構えられ、夕暮れの広場が緊張で満ちる。
最初に動いたのはセルデーナ。
弓弦を鳴らし、三本の矢を素早く放つ。
狙いは、ニニャとペテル、そしてアウレリアへ――。
「っ……!」
ペテルが剣で一本を弾き、ニニャは慌てて詠唱で火花を散らし、アウレリアの目前に飛んだ矢だけはルクルットが体を張って弾き落とした。
「危ねぇな! 姫様狙いかよ!」
セルデーナは無表情に答える。
「……守る力を試しているだけです」
その陰で、アイクが杖を掲げた。
「――フロスト・スピア」
氷の槍がペテルを狙う。
「くっ……!」
ペテルは踏み込み、斬撃で氷槍を両断する。
しかし砕けた氷片が頬をかすめた。
一方、クアイアは戦場を見渡し、穏やかな声で詠唱する。
「――女神よ、我が仲間を守りたまえ」
淡い光の障壁が侍女三人を包み、彼女たちの耐久を一気に底上げする。
「チッ、厄介な後衛だ!」
ルクルットが槍を構え直すが、クアイアは微笑むだけで動じない。
その隙に――。
ダインが地に両手をつき、低く呟く。
「大地よ応えよ……エントングル!」
蔦が地面から伸び上がり、ヘジンマールとアイクの足を縛ろうとする。
「ふむ……!」
ヘジンマールは人の姿のまま、力強く蔦を引きちぎる。
アイクは冷静に詠唱を重ね、蔦を氷の刃で切断した。
その様子を見て、ニニャが勇気を振り絞る。
「負けませんっ! ――フレイム・アロー!」
火の矢が放たれるが、クアイアの光の盾に遮られる。
「……可憐な炎。けれど、もっと強くなれるでしょう」
柔らかな声が逆に圧迫感を与えた。
剣と氷槍、槍と弓矢、火矢と光盾、蔦と竜の力。
模擬戦のはずが、誰も手を抜いていない。
アウレリアはただ戦場の中心で、涙声で叫んだ。
「お願いです、やめてください! わたしのために争わないで!」
その声に――ほんの刹那、両陣営の動きが止まる。
ペテルとヘジンマールが剣と杖を交えたまま視線をぶつけ合う。
セルデーナは弓を引き絞ったまま、ダインの眼差しを受け止める。
ニニャは必死に呪文を唱えながら、クアイアと睨み合う。
次の一撃を放つか――それとも、ここで引くか。
広場の空気は、張り詰めた弦のように危うく震えていた。
/*/カルネ村・広場
夕暮れのカルネ村。
村の広場に、剣と杖、弓矢と呪文が交錯する寸前の空気が張り詰めていた。
漆黒の剣と、ヘジンマールの三人の侍女。
互いに睨み合い、一歩でも踏み出せば火花が散りそうな瞬間――。
「やめて! 私のために争わないで!」
突如、張り詰めた空気を切り裂く声が響いた。
全員が動きを止め、顔を上げる。
ペテルも、ルクルットも、ニニャも、ダインも。
ヘジンマールも、三人娘も。
一様に声の主を見つめ、ぎょっと目を見開いた。
そこに立っていたのは――アウレリア姫ではない。
玉座の間でもおなじみの、悪戯好きの男、ジョンだった。
両腕を胸に当て、陶酔したように微笑むジョン。
「……げっ」
ヘジンマールが低く呻き、ペテルは額を押さえた。
ルクルットが「マジかよ……」と呟き、ニニャは青ざめる。
ダインは腕を組んだまま、「最悪の場面を見られたである」とぼやいた。
ただひとり、アウレリアだけは目を輝かせた。
「よかった……! 止めてくださる方が来てくれた……!」
心底安堵し、胸に手を当てる。
だが次の瞬間。
ジョンはうっとりとした顔を崩し、にやりと口角を吊り上げた。
「いやぁ、初めて生で聞けたな! 『私のために争わないで』ってやつ! ずっと言ってみたかったんだよ!」
「えっ……」とアウレリアが声を失う。
ペテルが「おい遊んでんのか!」と怒鳴り、ルクルットが「やっぱりネタかよ!」と槍を振り上げた。
ヘジンマールは深いため息をつき、「……君は本当に悪趣味だ」と呟く。
ジョンはさらに目を輝かせ、両手を広げて宣言した。
「でさ――やるならさ! 中途半端じゃなくて、本気でやれよ!」
沈黙。
漆黒の剣も、ヘジンマールも、同時に「げぇ……」と顔を引きつらせた。
「じょ、ジョン様!? 止めてくださるのではなかったのですか!」
アウレリアは半ば泣きそうな顔で叫ぶ。
しかしジョンはケロリとしていた。
「止める? まさか! こんな最高の舞台、止めるなんて野暮だろ!」
「お前なぁぁぁ!」とルクルットが叫び、
「火に油ですら生ぬるいである」とダインが唸り、
「わ、私……胃が痛い……」とニニャが青ざめる。
三人娘は互いに一瞥を交わし、淡々と頷いた。
「……では、本気を」アイクが呟き、
「示すまで」セルデーナが弓を構え、
「姫様に選んでいただきましょう」クアイアが柔らかく微笑む。
「ええええええっ!?!?」
アウレリアの悲鳴が、夕暮れの広場に虚しく響いた。
しかし戦場の気配は止まらない。
剣と杖、槍と弓矢、呪文と神聖光。
模擬戦のはずの小競り合いは、ジョンの無責任な煽りによって、さらに本気の戦いへと傾きつつあった。
広場の片隅で、ジョンはご機嫌に腰を下ろす。
「よーし! さぁ、開幕だ!」
彼だけが無邪気に観客席を気取る中、
アウレリアはついに悟った――
「保護者どころか、煽り屋だった……」と。
ジョンは腕を組み、戦意を漲らせる両陣営を見渡した。
にやりと笑いながらも、その瞳には確かな光が宿る。
「とは言え――お前たちもだいぶ強くなった。
カルネ・ダーシュ村の中で本気を出せば、周りの被害がデカい」
その一言に、漆黒の剣とヘジンマール陣営は、はっとして視線を交わす。
広場の家々、軒先に怯え顔で覗く村人たち。
確かに、ここでやればただでは済まない。
ジョンは立ち上がり、両腕を広げるように宣言した。
「だから、この場は俺が預かる。
相応しい場所を――用意してやるよ」
ヘジンマールは目を細め、息を吐く。
「……舞台を用意する、か。まったく、君らしい」
ペテルは苦笑して剣を収めた。
「ふん……村を巻き込むわけにはいかねぇしな」
ダインは頷きながらも、腕を組んで唸る。
「む……その口ぶり、何か考えがあるのであるな」
アウレリアはほっとした表情を浮かべつつも、不安げに問いかける。
「じょ、ジョン様……“相応しい場所”とは?」
ジョンはわざとらしく口元を吊り上げ、彼女を見下ろした。
「決まってるだろ。血が滾って仕方ない奴らのために――最高の闘技場を用意してやるんだよ」
夕暮れの光に照らされたジョンの笑みは、いつになく愉快そうで、そして底知れないものだった。
それは永遠の安寧。
ドロドロに甘やかして眠りに誘いましょう。
次回!
第116話:少年マンガ的展開!
そうだね、筋肉だね!