オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第116話:少年マンガ的展開

/*/ 帝都闘技場 /*/

 

/*/ 帝都闘技場 試合開始直前 /*/

 

夕陽が沈み、闘技場の天蓋に無数の魔導灯が灯る。

光の粒が舞うようにアリーナを照らし、砂塵の舞う地面が黄金色に染め上げられていた。

 

観客席を埋め尽くす人波。

子供から老人まで、帝都に集まった数万の人々が声を揃えて叫ぶ。

その熱気はまるで巨大な生き物の咆哮のように、闘技場全体を震わせていた。

 

「さぁ皆の者! 待ちに待った刻が来たぁぁぁっ!」

拡声魔法を通した実況の声が、雷鳴のごとく轟く。

「片や――幾度も死地を越えてきた冒険者たち! 《漆黒の剣》!」

「おおおおおおっ!!!」

観客席が総立ちになり、旗や布が翻る。

 

「そして対するは――この帝国闘技場の守護者にして、伝説の竜の化身! 《霜の白竜》ヘジンマール!」

「さらに! その傍らに立つは森の加護を受けし三人の侍女――弓のセルデーナ! 神官クアイア! 魔術師アイク!」

「うおおおおおおっっっ!!!」

地鳴りのような歓声が湧き上がり、アリーナの砂が震えた。

 

/*/帝国闘技場

 

「……なぁ」

ペテルが剣を肩に担ぎながら、隣のルクルットに呟いた。

「"相応しい場所"って、これか?」

「……らしいな」

ルクルットは苦笑いを浮かべ、槍の柄を握り直す。

「観客、完全に血戦モードじゃねぇか。これ、マジで手加減できんのか?」

 

「全く……」

ダインは髭を撫でながら、深いため息をついた。

「村人に迷惑をかけぬよう配慮した結果が、この有様であるとは……皮肉にも程がある」

 

ニニャは小声で震えた。

「わ、私……胃が……」

だが、観客の声にかき消される。

 

一方――対岸に並ぶヘジンマールたち。

エルフの少年の姿をした竜は、静かに息を吐いた。

「……観客の熱狂を前にすれば、もはや手加減は許されない。そういう舞台だ」

 

アイクは無表情に頷き、杖の宝珠を撫でる。

セルデーナは弓弦に軽く指をかけ、観客席に目もくれず前だけを見据える。

クアイアは静かに十字を切り、柔らかな微笑を浮かべた。

「……姫様の御心に沿う答えを、ここで示すだけ」

 

/*/

 

その頃、貴賓席。

アウレリア姫は、押し寄せる歓声に耳を押さえ、顔を真っ青にしていた。

「こ、こんな……こんな大勢の前で……」

「姫様、大丈夫ですか」

ルプスレギナが微笑みながら布で耳を覆い、レイナースは人波の視線を遮るように立つ。

しかし――肝心のジョンは。

 

「はいはーい! 漆黒に三倍! 竜に五倍! どっちに賭ける!? 今しかないぞー!」

胴元の札を掲げ、客席の金貨を根こそぎ吸い上げていた。

 

「……っ」

アウレリアは口を開け、声にならない呻きを漏らす。

守ってくれると思った保護者は、よりにもよって胴元として一番はしゃいでいた。

 

「……ジョン様……」

彼女の呟きは、熱狂の渦に飲み込まれた。

 

/*/

 

実況の声が再び轟く。

「剣と槍! 魔術と祈り! 竜と人! 夢の激突が、今ここに始まるぅぅぅっ!!!」

 

観客が総立ちとなり、割れんばかりの拍手と歓声が闘技場を揺るがした。

漆黒の剣とヘジンマールたちは、互いに武器を構える。

 

夕陽は沈み、夜の闘技場に光が満ちる。

その中心で――二つの力が、今まさに衝突しようとしていた。

「姫様、安心してください。これは――お祭りです」

 

レイナースの囁きは、妙に重みがあった。

だが、その祭りが血の匂いを孕んでいることを、姫はまだ知らない。

 

/*/ 帝都闘技場 戦闘開始の瞬間 /*/

 

「始めぇぇぇっ!」

 

拡声魔法で響いた審判の声と同時に、アリーナの空気が爆ぜた。

 

最初に動いたのは――アイク。

無表情のまま杖を振り下ろし、冷徹な詠唱を紡ぐ。

 

「――ライトニング」

 

青白い稲光が迸り、一直線にペテルへ。

鋼の鎧をも貫通する雷撃が閃光となり、観客席からどよめきが走る。

 

「くっ!」

ペテルは咄嗟に盾を掲げるが、雷はその表面を焼き破り、身体にまで衝撃が走る。

筋肉が痺れ、膝がわずかに沈んだ。

 

「ペテルさん!」

ニニャが慌てて呪文を放つ。

「――スパイダー・ウェブ!」

 

白い糸の束が一気に広がり、アイク・セルデーナ・クアイアを絡め取ろうと降りかかる。

 

だが、背後から竜気が爆ぜた。

 

「甘い!」

ヘジンマールの人の姿が霧散し、純白の鱗に覆われた巨体が闘技場に現れる。

翼を広げた瞬間、風圧が嵐のように吹き荒れ、蜘蛛糸は一斉に粉砕された。

観客席が割れんばかりの歓声を上げる。

 

「ぬぅん!」

ダインも負けじと両手を地に押し当て、詠唱を叩きつける。

「――エンタングル!」

 

地面の砂を割り、無数の蔦が三人娘の足元から噴き上がった。

しかし。

 

「……遅い」

セルデーナの弓から光る矢が放たれる。

矢は地に突き刺さり、魔力を込めた震動で蔦を一瞬にして枯らし消し去った。

 

「なっ……!」

ダインが目を見開く。

観客席からは驚嘆のどよめき。

 

「お返しだ!」

ルクルットが踏み込み、槍を振りかざした。

「――フラウ・ボウ、氷結の矢!」

 

槍先から放たれた青白い魔矢が、地面を走る。

霜が広がり、三人娘の足元を凍りつかせた。

だが――。

 

/*/ 帝都闘技場 空と地の攻防 /*/

 

闘技場の砂を巻き上げながら、巨体が天を翔ける。

純白の翼が一度羽ばたくたび、突風が観客席を揺らし、悲鳴と歓声が入り混じった。

 

「……くそっ、上空から来るぞ!」

ペテルが盾を構えた瞬間、霜の白竜――ヘジンマールの口が蒼白に光る。

 

「ブレスだ! 避けろ!」

ルクルットの叫び。

 

次の瞬間、凍てつく暴風がアリーナ全体を薙ぎ払った。

砂が瞬時に凍り、氷の大地へと変わる。

その直撃を受けた漆黒の剣は――。

 

「ぬううっ!」

ダインの叫びと共に、大地から土の壁が伸び上がり、仲間を包み込む。

その表面には銀色の光沢――まるで金属布を裏打ちしたかのように硬質な輝きが走った。

 

「助かった……っ!」

ペテルは盾を下ろし、冷気に覆われた鎧を叩く。

その鎧は、通常のアダマンタイト以上の輝きを放ち、氷をものともしていなかった。

 

「――ジョン様・フェルト繊維強化型アダマンタイト合金」

セルデーナが弓を引き絞りながら呟き、わずかに眉をひそめる。

「……敵に回すとやっかいですね」

 

三人娘も同様に、その奇怪な超素材を仕込んだ服や鎧を身につけている。

互いの攻撃は直撃しても致命には至らず、観客席からは驚きと失笑が入り混じった声が響いた。

 

「だが……」

ヘジンマールは翼を広げ、空中を旋回しながら吠える。

「防御が高かろうと、上からの力は覆せまい!」

 

全身を魔法陣が覆い、竜の巨体にさらなる光が降り注ぐ。

侍女三人による魔力のブースト。

雷速の飛翔、氷の刃の矢雨、癒しと障壁の重ねがけ――。

そのすべてを受けて、白竜は上空から絶え間なく襲いかかった。

 

「くっ……! あれを受け続けるのは無理だ!」

ペテルが叫び、足を滑らせながらも剣を振り上げる。

氷に覆われた大地で動きは鈍い。

 

「耐えろ、ペテル!」

ニニャの詠唱が迸り、半透明の盾が仲間を覆う。

次いでダインが両手を掲げ、深い声で吠える。

「精霊よ、我らを守れ!」

 

漆黒の剣の身体を銀色の輝きが覆い、鎧の光沢と重なってさらに硬質さを増す。

観客席からは「鉄の巨人か!?」と驚きの声。

 

「ぬぅぅ……! 押し込まれるである!」

ダインの額から汗が噴き出す。

 

「だ、大丈夫です……! まだ、まだ耐えられます……!」

ニニャは震える声で必死に詠唱を重ねる。

 

バフにバフを積み重ね、辛うじて耐える漆黒の剣。

その姿は観客の目には、竜に挑みなおも退かぬ英雄譚そのものに映っていた。

 

だが、当人たちは違った。

 

(くそ……攻めに転じる余裕がねぇ……!)

(耐えるだけで精一杯か……!)

 

上空で吠える竜と、地上で踏ん張る冒険者たち。

闘技場は、空と地を隔てる死闘の舞台と化していた。

「ふむ……」

氷に閉ざされる直前、クアイアの光が三人娘を包み込む。

「――女神の御手よ」

 

淡い光が氷を砕き、彼女たちは再び自由を得る。

 

一撃必殺の魔法と技が交錯し、誰一人として退かない。

観客席は立ち上がり、耳をつんざく歓声がアリーナを揺らした。

 

「これが……本気の戦い……!」

貴賓席のアウレリア姫は蒼ざめ、思わず椅子にしがみついた。

その隣でジョンだけが、口角を吊り上げていた。

 

「いいぞ……いいぞ! 最高だ!!」

 

その叫びは、歓声の海に紛れて誰の耳にも届かなかった。

 

 

/*/ 必殺の衝突 /*/

 

竜の翼が糸に絡み、飛行は乱れ、巨躯はわずかに高度を落とす。

観客席に轟く歓声が、戦況の変化を告げていた。

 

「――今だ!」

ダインがメイスを突き出し、大地に詠唱を叩きつける。

 

「〈エンタングル〉――大地よ、我が敵を縛れ!」

 

石畳を割って伸び出した緑の蔦が、白竜の足を絡め取る。

強靭な鱗をも穿ち、地面へと引きずり落とす。

 

「ぐっ……!」

咆哮を上げながら、ヘジンマールの巨体が闘技場に叩き落とされた。

砂煙が舞い上がり、場内の空気が一変する。

 

「いまだ、ペテル!」

ルクルットの声が飛ぶ。

 

「――応ッ!」

ペテルが剣を構え、全身に炎の魔力を集める。

刹那、剣身が紅蓮に包まれ、低い姿勢へと沈み込む。

 

観客が息を呑む。

 

「必殺――〈火の串刺し〉ッ!」

 

獣のように大地を蹴り、炎を纏った剣が閃光となって走る。

一直線に竜の巨体へ突撃し、剣先は地を掻きながら勢いを溜め――

――次の瞬間、閃烈の突き上げが白竜の胸元を狙った!

 

だが。

 

「……面白い!」

人の姿へと戻ったヘジンマールが、杖を高く掲げる。

冷気が奔流のごとく収束し、少年の声が大地を震わせた。

 

「凍てつけ――〈氷星爆破(グレイシャル・ノヴァ)〉ッ!」

 

炎の突撃と、氷の星の爆発。

二つの必殺技が激突する。

 

轟音。

衝撃波。

閃光。

 

観客席の誰もが声を失った。

 

灼熱と極寒がぶつかり合い、結界を震わせ、闘技場全体が一瞬にして昼のように明るく染まる。

その中心で、ペテルとヘジンマールの叫びが重なった。

 

「「うおおおおおおおおッッ!!!」」

 

赤と青の光がせめぎ合い、観客の瞳に焼き付けられる。

 

「――すご……っ!」

アウレリア姫は椅子の縁を握りしめ、震える声を漏らす。

 

その横で、ジョンは腕を組み、にやりと笑った。

「やっぱりこうでなくちゃな」

 

/*/ 必殺の衝突と余波 /*/

 

紅蓮の突撃と、蒼白の爆破。

二つの必殺技が激突した瞬間――

轟音が天を裂き、眩い光が闘技場を呑み込んだ。

 

「ぐ……ぬおおおおッ!」

「押し通すッ!!」

 

ペテルの喉が裂けるような雄叫びと、ヘジンマールの決死の声が交錯する。

剣に纏った炎が竜の氷壁を灼き、氷星の破片が逆に炎を打ち砕く。

 

灼熱と極寒、相反する力が拮抗した刹那――

 

――爆ぜた。

 

「うわああああッ!」

「ぐっ――!」

 

余波は結界を揺らし、砂塵と氷片、炎の残滓を撒き散らす。

観客席にまで届く衝撃風が吹き荒れ、熱と冷気が交じり合って視界を奪った。

 

そして。

 

砂煙の中から、二つの人影が同時に吹き飛んだ。

炎に焼かれた鎧の跡、氷に凍りついた外套。

どちらも立ち上がることはできず、地面に大の字に倒れ込む。

 

「――ッ……」

ペテルが呻き声を漏らす。

ヘジンマールも、少年の姿に戻ったまま、苦笑を浮かべていた。

 

「……これは……ドローだな」

 

実況の声が熱狂を裂いた。

 

『勝敗つかず! 《火の串刺し》と《氷星爆破》の激突は――相打ちッ!

両雄、ここに倒れる! 闘技場は今、歴史的瞬間を迎えたぁぁッ!』

 

観客席が割れんばかりの歓声に包まれる。

旗が振られ、足踏みが鳴り、帝都の夜空が轟き渡った。

 

アウレリア姫は呆然とその光景を見つめていた。

熱狂の渦に飲まれ、心臓の鼓動すら追いつかない。

 

その隣で、ジョンはにやりと口元を歪め、手を打ち鳴らした。

 

「……いい勝負だ。どっちが勝っても不思議じゃなかった。これで引き分けってのが、最高に盛り上がるんだよなぁ」

 

ルプスレギナとレイナースは黙して姫を守りながら、観客席の熱狂を一歩引いた目で見つめていた。

 

アウレリアは震える声で呟いた。

「……これが、戦い……」

 

だがその声は、万の喚声にかき消された。

 

/*/ 熱狂と胴元の笑み /*/

 

爆発の余韻が収まり、闘技場の砂塵が晴れていく。

そこに残ったのは――立ち上がれぬまま倒れるペテルと、力尽きて横たわるヘジンマール。

 

どちらも譲らず。

どちらも倒れず。

結果は、引き分け。

 

『両者――相打ちッ!! 勝敗はつかず! 史上稀に見る激戦ッ! 歴史に刻まれる名勝負であるッ!』

 

拡声魔法の実況が轟いた瞬間、観客席は爆発したように沸き上がった。

雄叫び、拍手、足踏み。

帝都の夜空を震わせる熱狂の波。

 

「うおおおおおおおッ!」

「やっぱり引き分けか! すげぇ……!」

「どっちも応援してよかった!」

 

涙を流す者すらいる。

勝ち負けではなく、この瞬間を目撃した興奮が人々を震わせていた。

 

――だが。

 

その熱狂の渦を、もっとも愉快そうに眺めていたのはただ一人。

 

「はーい! はいはい! ドロー決着、約定成立ぅ! 両者勝ち扱い、倍率二倍で払い戻しだよー!」

 

ジョンだった。

 

広げた布袋に、金貨がじゃらじゃらと吸い込まれていく。

観客たちが列をなし、歓喜と共に賭け金を受け取っていく。

だがジョンは、配当以上に「手数料」をしっかり抜き取っていた。

 

「……ふっふっふ、これだよこれ。引き分けこそ最高の商売になる。どっちの客も満足するし、俺は丸儲けだ」

 

満面の笑みで指を弾き、金貨の山を袋へ放り込む。

その姿は、戦場の熱狂を糧にする悪魔のようですらあった。

 

アウレリア姫は、青ざめた顔で彼を見上げる。

「じょ、ジョン様……皆が熱狂して……お金まで……」

 

「いいじゃねぇか、姫様!」

ジョンは笑いながらウインクした。

「これが戦いのもう一つの姿さ。血も汗も涙も、こうして金に変わる。なぁ、最高だろ?」

 

「さ、最高……」

姫は言葉を失い、視線を逸らした。

 

そんな彼女の背後で、ルプスレギナがにやにやと口元を隠し、レイナースは優雅な笑みの奥で深くため息をついていた。

 

闘技場はまだ歓声に揺れている。

だがその陰で――ジョンの金貨袋だけが、ひときわ重く膨らんでいた。

 

/*/ 試合後の熱狂と退場 /*/

 

闘技場の砂塵がようやく収まると、結界の中に担架を担いだ係員たちが駆け込んできた。

倒れたままのペテルとヘジンマールに駆け寄り、丁寧に担ぎ上げて運び出す。

 

「おおっ……! 英雄たちを大事にしろ!」

「よく戦った! 両者に惜しみない拍手を!」

 

観客席は割れんばかりの拍手と歓声。

勝ち負けのない結末にも、人々は大いに満足していた。

それどころか、伝説を見たという熱に浮かされていた。

 

ルクルットは肩を貸されながらも、担架のペテルを心配そうに覗き込み、

ダインはいつもの落ち着いた顔で「……次は勝つである」と呟いていた。

ニニャは涙ぐみながらも、戦い抜いた仲間たちを誇らしげに見つめていた。

 

一方のヘジンマールも、意識を取り戻すと苦笑を浮かべた。

「……やれやれ、君たちも強くなったな」

侍女三人娘は静かに頷き、彼の担架を守るように付き従った。

 

その光景を――貴賓席から、アウレリア姫は目を潤ませて見つめていた。

 

「みんな……無事で……よかった……」

安堵と同時に、胸の奥に重たいものが残る。

命を削るほどの戦いが、こんなに軽やかに歓声で飲み込まれてしまう。

そして、その歓声の渦の中で――。

 

/*/ 胴元の高笑い /*/

 

「はーい! 払い戻し忘れるなよ! 外れなし! ドロー決着で両者的中! 倍率は二倍! おめでとうございまーす!」

 

ジョンの声が再び観客席に響く。

布袋から金貨を配りながら、観客ひとりひとりと気さくに肩を組み、冗談を飛ばし、時に握手まで交わす。

 

「ほらよ、兄ちゃん。二倍返しだ。ついでに次の試合も張っとけ!」

「嬢ちゃん、儲かったな? 顔がニヤけてるぞ!」

 

観客たちは笑い、さらにジョンの元に集まってくる。

配当を受け取った金貨はすぐ別の勝負に投じられ、熱狂は冷めるどころか膨らむばかり。

 

ジョンの金貨袋は空になるどころか、手数料でますます膨れ上がっていた。

彼は満面の笑みを浮かべながら、まるで戦いの勝者が自分であるかのように両腕を広げていた。

 

「見ただろ、姫様! これが戦いの醍醐味だ! 勝ち負けだけじゃねぇ、観る者も巻き込んで皆が勝者になるんだ!」

 

/*/ 姫の不安 /*/

 

「……皆が、勝者……」

アウレリアはかすれた声で繰り返す。

確かに観客は熱狂し、笑顔で帰っていく。

だが、その陰で倒れて運ばれていく仲間たちの姿が脳裏に焼きついて離れなかった。

 

――これが当たり前になってしまうのだろうか。

――命のやり取りが、見世物として笑い声に変わるのだろうか。

 

胸の奥に、冷たい不安が広がっていく。

 

ルプスレギナはそんな姫の表情を見て、にやりと口元を歪めた。

「おや……姫様は、こういうのに慣れておられませんか?」

 

レイナースは横目でジョンの金貨袋を一瞥し、静かに肩をすくめた。

「……あれもまた一つの力です。人の心を動かすという意味で、最も恐ろしい力かもしれませんね」

 

姫は答えられず、ただ俯いた。

闘技場に響く歓声が、やけに遠く聞こえた。

 

 





話の展開的にも、ジョンの懐的にも、美味しい。

次回!
第117話:帝国魔法学院入試

い、いや!入試とかテストとか聞きたくない!
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