オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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今回は男性が全然出てきませんが、ハーレムではありません。私は癒されるなぁ。

・クリエイト系魔法に対する独自解釈があります。
・リング・オブ・サステナンスの効果に対する独自解釈があります。
・バイアクヘーは稀にものを食べる事もあるらしいです。まったく関係ありませんが、私はミ=ゴの方が好みです。

2015.10.1 7:00頃 ルプスレギナとナーベラルの方が → ナーベラルの方が へ修正。


第12話:ナザリック花の園(健全

最終的に村人の死体はほとんど残らなかった。

ルプスレギナによる蘇生実験とMP使いきりの確認で灰化(ロスト)してしまっていた。

結果、蘇生した村人は無く、ジョンの村人1Lv説の補強と、ユグドラシルにあったデスペナが5Lv以下でも設定通り存在している事が確認された。PC用の設定である特別な加護とやらがなければ、自分達も5Lvまで下がればロストするのかもしれない。敵対的なプレイヤーで実験しない限りは自身の死亡は避けるべきだろう。

 

残った村人の死体は蘇生実験中にセバスに掘らせた穴へ、灰と一緒に埋めてやり、墓標代わりに杭を立てる。

 

一応、人を埋めてやったのだから、これだけでは味気ないとジョンは考え、インベントリを開くと開拓時に使う種から花を中心に適当に選んで蒔いておく。

その際、セバスの視線がデミウルゴス並みに優しくなったのを感じ、ジョンは『男が花とかw』と笑われてるのかと見当違いの心配をしていた。

 

勿論、カルマが極善のセバスは、ジョンの行いを『弱き者達の痛みを思い、慰めの花を手向ける慈悲深き御方』と思って見ており、ナーベラルの方がジョンの行動の意図が掴めず疑問符を浮かべた後、自身の価値観に合わせ、ジョンの行動を『人間の死体を養分にする植物を植えているに違いない。これこそ人間の有効活用。至高の御方の真の開拓と言うものだ』と解釈し、納得。感心していた。

 

家畜は回収し、ナザリックに持ち帰った。ジョンはその内の牛4頭をバイアクヘーにくれてやった。

バイアクヘー達は牛を生きたままバラバラに解体しながら、夜明けの空を遠き星へ去っていく。大気圏を抜けたらフーン・ドライブで黒きハリ湖へ戻るのだろう。

この空の向こうにアルデバランがあるのなら、仲間達のいる星もあるのだろうか。

SANチェックもののバイアクヘーを見送りながら感傷に耽るジョンの認識はもう大分、地球と土星(サイクラノーシュ)ぐらいは正気から遠く離れているような気もするが、自分がおかしくなっているとジョンは感じていない。

 

それよりも家畜は第六階層に入れて貰えなかった。

 

帰還した時にはナザリック地上部分の片隅に、クリエイト系の魔法で作り出した家畜小屋が用意されていた。

モモンガが気を利かせて用意してくれたものだ。

第六階層では開拓関係を遣り過ぎない事と言う茶釜さん達との約束があったので、ほどほどのラインに自信が持てないジョンは、モモンガの気遣いをありがたく使わせて貰う事にする。

 

ただ、家畜小屋は全体的に黒い――黒曜石で出来ているのだから黒くて当たり前だ――いかにも死霊術師と言った感じの出来上がりだった。家畜小屋だが。

石造りの建物と言うのは昼間暑くて、夜寒くないだろうか、とか。環境が変わりすぎても良くない筈なので、数日は魔法で無理やり眠らせ、暴れないようにしないといけないだろうとか。心配になったが、ただの動物というのは初めての経験なのだ。どの程度のものなのか非常に興味がある。

 

中を覗くと必要な設備は最低限揃っていて、ジョンは首を傾げた。

 

ブルー・プラネットなら兎も角、モモンガであれば家畜小屋は知らない設備である筈だ。

メッセージでモモンガに確認してみても、家畜小屋として作った。詳細は魔法任せと言う事なので、クリエイト系魔法も今後細かく実験検証して貰って行く必要があるだろう。

自分の想像通りなら、かなり楽が出来る筈だ。

 

 

/*/

 

 

「……知らない天井っす」

 

ぱちりと目を開いたルプスレギナは、覚えの無い天井に首を傾げた。

至高の御方のご命令に従いMPが枯渇するまで魔法を使い気絶したのは覚えている。

MPを使い過ぎ、呼吸をしても、息を吸っても苦しくなる感覚と、がんがんと痛む頭。

 

張り詰めた糸が切れるよう、ぷつりと力尽き、闇に閉ざされていく視界と「良くやった」と言う至高の御方の賛辞と逞しい腕に抱えられる感触。

 

うん。覚えている。

それが何よりのご褒美だ。

 

思い出し緩んでいく頬を止められない。かっと熱くなる頬を両手で押えれば燃える様に熱く、その熱が更に自分を熱くする。

自分にだけ向けられた「良くやった」と言う声と腕を思い出せば

 

うひゃ~~っ!!

 

ルプスレギナはベッドの上をごろんごろん転がった。

転がりすぎて起き上がった時、ちょっと目眩でくらくらするほどだった。

 

「ルプー、落ち着いて」

「……!?」

 

効果はばつぐんだった。

ぴたっと凍りついた様に停止するルプスレギナ。そのまま油の切れたブリキ人形のように――聞き覚えのある声、ユリ・アルファの方へ――ギギギと顔を向けていく。

 

「ユ、ユリ姉、いつから……」

「最初からかな。それより気づいてる?」

「何がっすか?」

「自分のいる場所」

 

天蓋付きの馬鹿でかい寝台。永続光を間接照明に使った柔らかい光。落ち着いた雰囲気だが、贅を凝らした見慣れた第九階層の内装。

ぐるりと周囲を見回したルプスレギナの心臓が激しくタップダンスを踊りだす。

 

「あの、まさかと思うっすけど、ここって……」

「うん、カルバイン様の寝室だよ」

「やっぱりー!」

 

カルバイン様を呼んでくるから、そこで待ってるんだよ。そう言って出て行くユリへ――「ユリ姉、ちょっ、まっ」――待ってと手を伸ばすが、可愛い妹の懇願と至高の御方のご命令、どちらが優先されるかは言うまでも無い。

ルプスレギナはあうあうと毛布を顔まで引き上げてみるが、それで羞恥がおさまるわけもない。らしくなく、耳まで赤くなっている自覚があった。

 

 

「起きたか。無理をさせてすまなかったな」

 

 

人狼形態に戻ったジョンが、ユリと幾人かのメイドを引き連れて寝室に入ってくる。

そのジョンの姿はナザリックに戻った事で楽な姿に着替えたのだろう。昨日の闘技場で見た――見慣れた姿――武道着のズボンを穿いただけの姿に戻っていた。

青と白の毛並みが美しい。その逞しい上半身が視界に入ると、ルプスレギナは咄嗟に瞳を伏せ、自分の両の頬を手で覆ってしまっていた。

 

(え? あれ? なんでこんなドキドキするっすか!? 恥ずかしくてジョン様の方を見れないっすよ!?)

 

主人の寝台の上で恥らうルプスレギナの姿は、一般メイド達の眼にはどう映っただろうか。

しかし、メイド達の先頭に立つのは、艶やかな茶色と白色の毛並みのシェットランド・シープドッグの頭を持ったメイド長。つぶらかな瞳には英知と慈悲が宿り、ルプスレギナを見やるその顔には慈母の微笑みが浮かんでいた。彼女こそがアインズ・ウール・ゴウンの全メンバーに愛されたメイド長、ペストーニャ・S・ワンコである。

 

至高の御方にメイド長と、目上の存在を前に寝台の上とは余りに不敬。ルプスレギナは慌てて寝台から降りようとしたが、ジョンに手で制される。

それでも、なんとか精一杯かっこつけてジョンの労いの言葉に答えてみせた。

 

「そ、そんな事はございません。至高の御方のお役に立つ事こそが、私達の喜びです」

「そうか。ありがとう、ルプスレギナ。昨日はご苦労だった。今後は俺の私室と食事中は、昨日と同じように砕けた物言いとジョンと呼ぶ事を許す」

 

(え! えーっと。昨日は昨日の食事中だけだったすけど、今日はユリ姉もペストーニャ様もいるし、この場だけじゃないってことっすから、これからはずっとジョン様と呼んで良いって事で――)

 

目をぐるぐるさせながら、困った顔でジョンの背後にいるユリ・アルファとペストーニャの顔を見比べるルプスレギナ。

普段まず見る事の出来ないルプスレギナの困り顔を微笑ましく思いながら、ユリ・アルファは一つ頷いて見せる。

ペストーニャも一目で分かる慈母の微笑みで頷いた。

それを見て、ルプスレギナはようやく返事をする事ができた。

 

「はい、ジョン様。ご配慮頂き、ありがとうございます」

 

その返答にジョンは満足そうに頷くと、ペストーニャへ《魔力の精髄》の使用を命じる。

 

「畏まりました、わん。《魔力の精髄》……はい、ルプスレギナのMPは全快しております、わん」

 

ペストーニャの言葉にジョンは使い切ったMP回復にユグドラシル通り通常6時間必要で、リング・オブ・サステナンスの効果で90分に短縮されている事が確認できたと安堵の息をつく。その息をどう受け取ったのか、ペストーニャはジョンへ苦言を呈する。

 

「ジョン様、最初から力尽きるまでと言うのは……その、老婆心ながら、些かルプスレギナには刺激が強すぎるのではないでしょうか、わん」

 

「ん? そうか……そういったつもりはなかったんだが、心配をかけてすまないな、ペス。以後、気をつけるよ」

「お聞き届けいただき、感謝の言葉もございません。わん」

 

そう話す青と白の毛並みの勇猛な人狼と、茶色と白の毛並みの慈母の微笑みを浮かべるシェットランド・シープドッグの人犬の姿をしたメイド長。

並び立つ二人の姿が、絵に描いたような似合いのカップルにルプスレギナには見えてしまった。

 

 

(ペストーニャ様も、ジョン様と呼んでるっすか? ……胸がちくちくするっす。なんだろう、これ)

 

 

/*/

 

 

ルプスレギナは正体不明の胸の痛みは置いておき、取り合えずは食事を取る事にした。

本当であればジョンの朝食の世話もしたかったのだが、自分が寝ている間に食事はすませてしまっていた。今回はユリが担当したそうだ。

羨ましい。――いや、自分は昨日させて頂いたのだし、ご褒美まで頂いているのだから、羨む必要は無い筈だ。

 

「うーん、ちょーと浮かれすぎっすかね?」

 

ルプスレギナを知る者が聞けば驚愕するであろう自戒の言葉を漏らしながら、シモベ用の食堂に入っていく。普段の彼女からして有り得ない言葉が出てくる時点で、浮かれているとの自己分析は間違いない。

白を基調とした食堂の装飾は控えめであり、機能性が前面に出ている点が、至高の御方が住まう第九階層の他の場所と違うところだ。

 

守護者、領域守護者、メイド長、セバス、プレアデスと言った主要な面々は、モモンガとジョンから賜ったリング・オブ・サステナンスなどで疲労や飲食が不要となっている。

だから、本来の意味での食事は必要ないのだが、精神の楽しみの為に食事を楽しむ事があった。あのデミウルゴスやコキュートスでさえ、副料理長のバーを訪れる時があるのだから、食事の重要性が窺い知れる。

 

ちょうどお昼時であり、食堂は一般メイドのホムンクルス達で一杯だった。

彼女達は皆が容姿端麗だが、ホムンクルスの選択ペナルティの一つによって大変な大食漢になっているので、彼女達の食事量を考えてか、ビッフェスタイルが取られていた。

姦しいメイド達が楽しげに会話をしながら食事をとっている。ここはナザリック内部で唯一、騒がしく華やかな場であった。

 

だが、ルプスレギナが扉を開けた瞬間に、喧騒が止む。

 

何事かとルプスレギナは周囲を見回し、お昼時に有り得ない静寂に料理長も何事かと食堂に顔を覗かせた。

静寂の中、一般メイド達の中から何人かが立ち上がりルプスレギナに歩み寄ってくる。それは昨日から何度も顔を合せていた一般メイドの三人組、シクスス、フォアイル、リュミエールだ。

 

シクススがルプスレギナの手をとって食堂の中に招き入れ、フォアイルとリュミエールが後ろで扉をそっと閉める。

 

「なんか、あったっすか?」

 

訝しげな声を上げたルプスレギナを、3人はきらきらした瞳で見上げると。

 

 

「「「お話聞かせて((o(´∀`)o))ワクワク」」」

 

 

「え?」

 

 

「私、ルプスレギナがカルバイン様と一夜を(任務で)共にしたって聞いたんだけど」「アルベド様が羨ましいって、自分もモモンガ様の御寵愛を頂けていないのにって」「昨晩のお食事の際に一緒にいただかれてしまったとか」「泣くまで焦らされて御強請りさせられてから御褒美(ぬいぐるみ)を頂いたのよね」「シャルティア様が流石はペロロンチーノ様の御親友って」「カルバイン様が気絶するまで離して下さらなかったって聞いたわよ」「流石は至高の御方」「それでルプスレギナが倒れたから、気付け(MP賦活)にメイド長が呼ばれたって」

 

 

「「「本当なの?」」」

 

 

レベル差もあるのでそんな筈はないのだが、ぐいぐいと迫ってくる3人に気圧されながら答える。

と言うか、どこをどうしたらそんな話になるのだ。

 

「え? えーと、カルバイン様が凄いのと私が気絶したのは本当っすけど、それは……」

 

「「「きゃーーー!!!」」」

「シクスス、聞いた?」

「聞いたわ、フォアイル。リュミエールも聞いた?」

「聞いたわ!」

「「「きゃーーー!!!」」」

 

一般メイド達全員が息を呑んで聞き耳を立てていたのだろう。黄色い悲鳴が食堂全体から上がり、静謐を旨とする第九階層全体に響き渡りそうだ。

 

 

「え?」

 

 

なんだこれは? どうしてこんな話になっている?

 

(本当に御寵愛を受けたなら兎も角、このままじゃ変な噂を流したと私がユリ姉に粛清されるっす!? 昨日もセバス様に怒られて、ナーちゃんに足を踏まれたばっかりっすよ!?)

 

絶対に、自分じゃないと言っても信じて貰えない自信が、ルプスレギナにはあった。

誤解を解こうと一歩を踏み出した足が止まる。後ろから肩を非常に強い力で掴まれ、振り向かせられる。

そこには爛々と輝く金の双眸があった。

 

「ル・プ・ス・レ・ギ・ナ~」

 

(あ、一番やばい人きたっす)

 

そこにあるのは、自分よりも先に至高の御方に寵愛を受けたと嫉妬に燃える守護者統括の姿であった。

幸いなのはアルベドがモモンガ愛である事だろうか。

 

「私ですら玉座の間でモモンガ様に胸を揉まれただけなのに! 至高の御方に姫抱っこされて、そのままお持ち帰りとか……」

「「「きゃーーー!!!」」」

 

「違うっす! アルベド様、違うっすよ!! 私は魔法の使い過ぎで倒れただけで、ペストーニャ様は全快したか確認に呼ばれただけっすよ! てか、アルベド様も見てましたっすよねぇ!?」

「「「「えーー↓↓↓」」」

 

「こほん。そ、そうだったわね」

 

目を逸らすアルベド。

人の事は言えないが、この守護者統括様、狙ってやってるんじゃないだろうか。ルプスレギナは疑う。

 

しかし、そのルプスレギナの疑惑は姉妹達の手によって、追及する間も無く叩き潰された。

 

「でも、カルバイン様がルプーをご自分の寝室で休ませたのは本当よね」

「私室ではルプーは名前で呼んで良いってぇ」

 

「ソーちゃん、エンちゃん」

 

口元に手をあてて流し目で語るソリュシャンと、両手を高く挙げて楽しげな様子のエントマ。

この妹達がどこでそれを知ったのか。そして背後で上がる一般メイド達の黄色い悲鳴と歓声。

 

「ルプーが戻った後、ベッド直さなくて良いって。カルバイン様そのままお休みになられた。良い匂いがすると」

「シズちゃん!?」

 

無口なシズにまで、しかも自分の知らない事まで知られているとはどう言う事だ。

 

 

(と言うか、私が使ったベッドそのままでも良いって。良い匂いがするって、そんな――うきゃ~~っ!!)

 

 

「それだッ!!」

「アルベド様?」

 

「そうよ、それよ。私もモモンガ様がお休みになられる際に、私の匂いでモモンガ様を包んで差し上げれば……」

「あのモモンガ様はアンデッド……」

 

良い事を聞いたとアルベドは、ありがとうルプスレギナと両手をとってぶんぶん上下に振る。

ルプスレギナが突っ込みに回るとはどう言う事だ。誰か完全なる狂騒でも使ったのか。

そして、アルベドは不意に正気へ戻ると、食堂を覗いていた料理長へいつもの凛々しい守護者統括のアルベドとしての顔で告げる。

 

「料理長、後でセバスからあると思うけれど、今晩も至高の御方にお食事の用意を。カルバイン様が4名分をお望みよ」

 

そう至高の御方の言葉を伝えると、今度はアウラと打ち合わせがあると嵐のように食堂を去っていく。残された食堂では、ユリが不思議そうにルプスレギナへ訊ねていた。

 

「ルプー、自分でギンギンとか言ってるけど、自分が言われるのはダメなのかい?」

「ユリ姉ぇ。だって、ジョン様は特別なんですよぅ」

 

 




あらすじにペストーニャがライバル予定とか書いておいてやっと登場です。
ほのぼのすると話がまったく進まなくなります。他所様は1クールで書籍1巻終ってるのに、うちはまだ半分進んでないとか……

当初の投稿予定では5話以降、4日毎の投稿予定でしたが、そのまま行くと村が作中に登場するが10月末となり、投稿を始めて一ヶ月半も村が出てこないのは引っ張りすぎではないだろうかと自問自答しまして、現在、投稿速度を上げております。

来週中にはカルネ村が出て一区切りつく(?)予定です。

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