オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ カルネ村・夜
蝋燭の明かりに照らされた集会場の片隅で、ジョンとぐりもあが小声で言葉を交わしていた。
「ぐりもあさん、擬態を解除して魔導書モードになれば……ニニャの荷物に紛れても、誰にも気づかれずに調査できるんじゃないか?」
ジョンが真顔で尋ねると、黒髪の少女の姿をしたぐりもあは、ぱちりと瞬きをして首を傾げた。
「……できるとおもうけど。暇な時間が長くて、寝ちゃいそう」
「寝る?」
「だって本だよ? ページを閉じられたら、ただ棚に並べられてるのと同じ。退屈で死ぬほどじゃないけど……起きてる意味もない」
ジョンは苦笑して頭をかいた。
「飽きるんじゃないのか?」
「んー……」ぐりもあは、少しだけ遠くを見つめるようにして答えた。
「本棚に何十年も仕舞われてたことを思えば、数週間なんてなんでもないんだよ。むしろ、誰かに持ち歩かれて、たまに開かれて、ページをめくられるなら……それだけでちょっと楽しい」
その声には、不思議な響きがあった。人のようでいて、どこか“物”としての感覚を否めない。
ジョンは腕を組み、しばらく考え込む。
「……なるほどな。本であることを武器にできるわけか」
ぐりもあはふわりと笑い、膝の上で指をからめる。
「そう。僕は“書架の守り人”だからね。文字と紙の間に隠れるなんて、呼吸みたいなもの」
蝋燭の炎が揺らぎ、彼女の髪の先に広がるインク色のグラデーションを照らした。
その背には、見えない羽の代わりに、数冊の本の影がふわふわと漂っているように感じられた。
ジョンは思わず息を吐き、ぽつりと呟く。
「便利なんだか、不気味なんだか……」
「ふふ、両方だよ」
ぐりもあはイタズラめいた笑みを浮かべた。
ジョンは腕を組んだまま、ぐりもあをじっと見つめる。
「……で、実際にニニャの荷物に紛れ込むとして、問題はどうやって調査するかだな。ページをめくるふりで情報を探るのか?」
ぐりもあは小さく首を傾げ、指先で膝の上の本の影をなぞるようにして答えた。
「うーん……ページをめくる動作は必要ないかな。僕が魔導書モードになれば、情報は自然に頭に入ってくる。人間が本を読むのと同じ速度で、でも一度に何冊分も」
ジョンは目を丸くする。
「何冊分も……!? そ、それって本当に“自然に”って言えるのか?」
ぐりもあはにっこり笑った。
「うん。本の中にある文字やページの隙間に、魔法が僕を呼んでくれるんだ。人が読むよりずっと効率的。だけど……」
その言葉の後で、彼女は小さくため息をつく。
「だけどね、読むのはいいんだけど、覚えたことをどう使うかは別問題。誰かに見つかれば、ただの暴露になる」
ジョンは少し肩をすくめて笑った。
「なるほどな……情報を得ること自体は簡単でも、運用には慎重さがいるわけか」
ぐりもあは、蝋燭の揺れる炎を見つめながら、ふわりと手を伸ばした。
「そう、僕は“書架の守り人”であって、探偵じゃない。だから、静かに情報を集めるだけ……あとは君たちに任せる」
ジョンはその言葉に、少し胸が熱くなるのを感じた。
「なるほど……じゃあ、俺が動く番か。安心しろ、ぐりもあ。お前の情報、無駄にはしない」
ぐりもあは小さく笑い、目を細めた。
「ふふ……頼もしいね、ジョン。でも、ほどほどにしてね。疲れすぎると、魔導書モードでも居眠りしちゃうから」
二人の間に、静かな笑いと信頼の空気が流れる。蝋燭の炎が揺れるたび、影もまた柔らかく揺れた。
/*/ カルネ村・夜
蝋燭の揺れる集会場の片隅で、ジョンはぐりもあに小声で語りかけた。
「……俺が人狼になって、ルプスレギナ一筋になったり、群れの仲間を強く守りたいと思うようになったのと同じ変化か。モモンガさんも、アンデッドになって人への帰属意識とか三大欲求がなくなったって言ってたのと同じか」
ぐりもあは目を大きく見開き、指先で膝の上の本をそっと触れながら、驚きと戸惑いが入り混じった声で問いかけた。
「ちょ、ちょっと待って……モモンガさん、三大欲求なくなっちゃったの?」
ジョンは肩をすくめ、少し困ったように笑った。
「うん。でもそのまま放置すると精神に悪いだろうから、人化の指輪で人間形態にさせて、週に一度は食事を摂らせたり、アルベドに添い寝させたりして、無理やり外部から欲求を刺激してるんだ。そうしないと二十四時間、何かしてても擦り切れそうで……」
ぐりもあはしばらく黙り込み、蝋燭の炎の揺らめきに映る自分の影を見つめる。指先が本のページの隙間を滑るたびに、微かに震えた。
「……なるほど。人間としての形を保たせることで、精神のバランスを維持してるわけね」
ジョンはゆっくり頷き、少し柔らかい声で続けた。
「そう。俺たちの変化は自然な進化だけど、モモンガさんの場合は無理やりの維持。だけど、やらないと心が崩れちゃうんだ」
ぐりもあは息をつき、目を細めて考え込む。
「ふーん……じゃあ、僕も同じように“外部刺激”が必要になるかもしれないわね。ページをめくられたり、誰かに読まれたり……それだけで精神が保てるなら」
ジョンは軽く笑みを浮かべ、ぐりもあの目をまっすぐに見つめる。
「うん。ぐりもあさんの場合は“本であること”自体が刺激になる。俺たちとは違って、守る対象や欲求の方向性が変わるけど……結局、変化するってことには違いない」
ぐりもあは少し首を傾げ、ふわりと笑った。
「ふふ……じゃあ、僕も、ちょっとだけ楽しみにしておこうかな」
その言葉に、ジョンはほんのわずかに頬を緩める。
「楽しみ……か。まぁ、俺もぐりもあさんの変化を見てるの、ちょっと興味あるかもな」
ぐりもあは目を細め、膝の上の影の本を軽く握りしめる。
「……僕がどんなふうに変わるか、ってこと?」
「そう。お前がどこまで“本のまま”でいられるか、そしてどこで“人としての刺激”を受け入れるか……それを見届けたい」
蝋燭の炎が揺れるたび、二人の影も揺らぐ。
互いの距離は近くないけれど、言葉と沈黙の間には、確かな信頼と奇妙な安心感が流れていた。
ぐりもあはゆっくりと息を吐き、肩の力を抜く。
「じゃあ、しばらくは僕も“守られる側”として、協力するね」
ジョンは微かに笑みをこぼす。
「ああ。頼むぞ、ぐりもあさん。お前の力、無駄にはしない」
その夜、蝋燭の小さな光の中で、二人は互いの変化と、未来に潜む可能性を静かに思い描いた。
/*/ ナザリック・帰還の夜
カルネ・ダーシュ村での任務を終え、ジョンとぐりもあはナザリックへと戻ってきた。暗い大地を踏みしめた足音の先には、整列した捜索隊のアンデッドたちが待っていた。
二人を待っていたモモンガが静かにその隊列を見渡す。鋭い眼光は彼らの疲労を確かめ、同時にその忠誠心を誇らしげに受け止める。ジョンは少し離れた位置からその様子を見て、肩をすくめる。
「モモンガさん、やっぱり隊列整備には目を光らせるんですね」
「当たり前です。任務の後も緩んではいけない」モモンガの声は低く、だが安心感を伴っていた。
アンデッドたちは整列の確認を終えると、無言でそれぞれの指定された場所に散らばる。彼らの動きには、無機質でありながらも確固たる秩序があった。
ジョンが微笑みながら、ぐりもあに目を向ける。
「さて、ぐりもあさん。任務は無事終わったし、今夜は――」
ぐりもあは首をかしげ、黒髪の髪先を揺らした。
「今夜は――?」
ジョンはくすりと笑い、ルプスレギナの手を軽く握るようにぐりもあの光を撫でる。
「うん、晩さん会だ。モモンガさんと守護者たちの為の、ね」
ぐりもあはふわりと光を揺らし、驚きと喜びの入り混じった声を漏らした。
「晩さん会……? 皆で食卓を囲むのかい?」
モモンガは隣で静かに頷く。
「そうだ。任務を終えた後は、皆で心を落ち着け、共に食事を楽しむ時間を持つようにしている」
ぐりもあの目は輝きを増す。
「なるほど……ナザリックの守護者たちと、ジョンさん、モモンガさんと共に……晩さん会……」
ジョンは微笑んで肩をすくめた。
「ぐりもあさん、今日は君も特別参加だ。ナザリックの晩餐、体験してみるか?」
ぐりもあは光を軽く揺らし、嬉しそうに頷いた。
「ええ、楽しみです。どんな料理が出るのか、わくわくしますね」
モモンガは隊列を見回す目を、ふと柔らかく変えた。
「皆、今夜は安心して食事を楽しむといい。任務は終わったのだから」
こうして、カルネ・ダーシュ村からの帰還後、整列したアンデッドと共に安心した空気が広がるナザリックで、晩餐会の夜への準備が静かに整えられた。
/*/ ナザリック・晩餐の夜
広間には真紅の絨毯が敷かれ、壁際には整列したメイドたちが控えている。前列にはプレアデスとセバスが整然と立ち、長テーブルには守護者たちがずらりと座していた。
ジョンはルプスレギナと肩を並べ、モモンガはアルベドの隣に座している。そしてぐりもあも、精霊形態で黒髪の少女の姿をとり、テーブルの一角に浮かんでいた。
ぐりもあは最初に料理の香りを嗅ぐと、目を大きく見開き、思わず小さく声を漏らした。
「……これは……こんなに香りが豊かで、味も多彩で……」
彼女は光のフォークでステーキを口に運び、驚きの声をあげる。味は完璧で、ナザリックの料理の奥深さに、心の底から感動していた。まるで、一口ごとに魔力が舌先に広がるようだ。
モモンガは微笑みながらアルベドを見つめる。
「ぐりもあさんも楽しんでいるようだな。共に食事できるのは、やはり不思議な感覚だ」
アルベドは誇らしげに胸を張り、声を弾ませる。
「モモンガ様、ぐりもあ様もご一緒に食事されること、私にとって至上の喜びです」
ジョンはルプスレギナに目を向け、くすりと笑った。
「見ろよ、ルプー。ぐりもあさんまでこんなに喜んでる。料理の魔力で、皆の表情も柔らかくなるな」
ルプスレギナも微笑み、少し恥ずかしそうに頷く。
「ええ、本当に。ナザリックの晩餐は、想像以上です」
ぐりもあは光を揺らしながら、周囲の守護者たちを観察する。
「守護者たちの表情も柔らかくなっています。ジョンさん、モモンガさんと同席することで、精神的な安心感が広がっているようです」
セバスが低い声で囁く。
「至高の御方が一緒に食卓を囲まれるのは、やはり特別なものですね」
ぐりもあは微笑み、光をふわりと揺らして応える。
「ええ、皆さんがこんなに和むのを見ると、僕まで嬉しくなります」
ジョンはルプスレギナの肩に手を置き、頷いた。
「ふむ。じゃあ、ぐりもあさん。今夜はお前も監視役だ。暴走は許さないぞ」
ぐりもあは微笑み、光をほんの少し揺らす。
「了解です。でも……皆さん楽しそうなので、少し羨ましいですね」
モモンガはアルベドの手をそっと握り、静かに微笑む。
「アルベド、今夜はゆっくり楽しもう」
「はい、モモンガ様。全力でお仕えいたします」
ぐりもあは料理を口に運ぶたびに小さく感嘆する。
「これ、魔法で再現されているのではなく、ちゃんと作られた料理……? 肉の焼き加減も完璧ですし、ソースの香りと味のバランスも素晴らしい……」
ジョンが茶目っ気を込めて声をかける。
「ぐりもあさん、本当に感動してるな」
ぐりもあは恥ずかしそうに光を揺らす。
「ええ……想像以上です。ナザリックの食事は、ただの晩餐ではなく、ひとつの芸術作品ですね」
広間に運ばれた料理の中でも、とりわけ目を引いたのは、料理長が丁寧に盛りつけたポイニクス・ロードの刺身だった。赤身の魚を思わせる美しい色合いで、皿の上に並ぶもも肉は皮付きのまま。部位ごとの特徴も添えられており、すね肉は赤身が濃く、むね肉は色が淡く柔らかいと説明されていた。
ぐりもあは光を揺らしながら一切れを手に取り、目を大きく見開く。小さく声を漏らした。
「ねっとり……でも旨味が濃い……魚とは違う、深い味わいですね」
むね肉は口の中でほろりとほどけ、あっさりとした柔らかさを楽しめる。すね肉は噛むほどに肉の力強さが伝わり、もも肉は皮の部分の香りと旨味が濃厚で、舌の上に深い味の余韻を残した。
アルベドは隣で笑みを浮かべる。
「もも肉の皮は本当に香り豊かで、見た目以上に味わい深いですね」
ジョンはルプスレギナに目を向けて囁く。
「ぐりもあさん、刺身の食べ比べを楽しんでるな」
ルプスレギナも微笑みながら頷く。
「ふふ……ぐりもあ様、本当に喜んでいらっしゃる」
ぐりもあは光をふわりと揺らし、守護者たちにも目を向けた。シャルティアが少し盛りすぎた料理に目を丸くしているのを見て、軽く笑みを漏らす。
「シャルティア、その盛り付け……少し迫力がありすぎますね。でも豪華で素敵です」
守護者たちは笑い、場の雰囲気はさらに和やかになる。セバスが低い声で囁く。
「至高の御方と共に食卓を囲むとは、やはり特別なものですね」
ぐりもあは光を揺らして応える。
「ええ。皆さんが和む様子を見ているだけで、私も嬉しくなります」
モモンガはアルベドの手をそっと握り、静かに微笑む。
「アルベド、今夜はゆっくり楽しもう」
「はい、モモンガ様。全力でお仕えいたします」
ぐりもあは料理を口に運ぶたびに小さく感嘆する。
シャルティアが隣で笑いながらコメントする。
「ぐりもあ様、食レポのご趣味もあるのですか?」
ぐりもあは光を揺らしながら答える。
「ええ、少し。美味しいものを前にすると、思わず分析してしまいます」
アルベドも囁いた。
「ジョンさん、ぐりもあ様も満足されているようですね」
ジョンはにやりと笑う。
「そうだな。これで守護者たちも、少しは和むだろう」
フォークやナイフの軽やかな音、笑い声、会話が弾む中、ぐりもあは守護者たちの食べ方や反応を観察しつつ、軽くツッコミや感想を漏らす。
「シャルティア、その食べ方……少し大胆すぎませんか? でも見ていて楽しいです」
蝋燭の炎とぐりもあの柔らかな光が揺れる晩餐の夜。ナザリックにおける穏やかな奇跡の時間――守護者たち、特別なパートナーたち、そして至高の御方であるぐりもあと共に過ごす、笑顔と歓声に満ちた、ほんのひとときの幸福が、この広間に満ちていた。
ぐりもあの中の人はちゃんとした職業についてたので、ごはんの味が分かる人(多分
次回!
第136話:シティアドベンチャー!
諸君!プレイヤーの知能は想定できる最下限を想定しろ。
全部知ってる運営と違うんだ。奴らはその斜め下を行く。