オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第136話:シティアドベンチャー

/*/ 模擬戦:ペテル vs クレマンティーヌ

 

カルネ・ダーシュ村の運動場の中、模擬戦用の空間が用意されていた。ペテルは剣と盾を構え、対するクレマンティーヌは低い姿勢、まるでクラウチングスタートの陸上選手のように身を沈めていた。

 

「さあ、行っくよ~!」クレマンティーヌの声と同時に、彼女の身体が鋭く前方に跳んだ。

 

クレマンティーヌは低い姿勢から、再び前方に飛び込む。スティレットを左右に振り回し、ペテルの盾の隙間を狙った攻撃が連続で襲いかかる。

 

〈不落要塞〉――ペテルの防御魔法が盾に宿り、刃先や蹴りを吸収するかのように衝撃を和らげる。しかし、受け止めるたびに全身の筋肉が悲鳴を上げ、腕には振動が走る。

 

「まだまだだな……!」クレマンティーヌの声に含まれる挑発の響きが、ペテルの鼓動を高鳴らせる。

 

次の瞬間、彼女の足が鋭く回転し、ペテルの盾をかすめながら肩に一撃を加える。振動が鎧を通して骨に伝わり、思わず「ぐっ」と唸るペテル。普通の冒険者ならこの蹴りで意識を失ってもおかしくない。

 

しかし、ペテルは盾と剣を巧みに連動させ、反撃に転じる。剣を振り上げ、肩口に向かって斬撃を放つが、クレマンティーヌは素早く身を翻し、身をかわす。

 

「ははっ、まだまだだね!」クレマンティーヌの笑みは余裕たっぷりだ。だが、その目の奥には研ぎ澄まされた殺意が光る。

 

ペテルは息を整えつつ、次の一撃の軌道を読む。〈即応反射〉と〈不落要塞〉をフル稼働させ、彼女の刃と蹴りをすべて受け止める。だが、全力防御の反動で膝に痛みが走る。

 

「……くっ、しかし……普通の相手なら最初の一撃で沈んでるはずだ……」ペテルは内心で自らを鼓舞する。

 

クレマンティーヌは一歩下がり、微かに息を整える。金色の瞳がペテルを睨みつけ、再び低い構えに沈む。

 

「……なるほど、貴方……本当に……気持ち悪いほど頑丈だわ……!」彼女は小さく息を漏らしながらも、次の突撃の準備を整える。

 

周囲の仲間たちも息を呑み、この模擬戦の一瞬一瞬に視線を釘付けにされる。ペテルとクレマンティーヌ、二人の力のぶつかり合いは、まさに現実と戦技の極限を映し出すかのようだった。

 

クレマンティーヌが再び低い姿勢から跳躍する。スティレットの刃先がペテルの喉元をかすめるかの勢いで振るわれる。

だがペテルは〈即応反射〉で身を捻り、刃先を盾で受け止めつつ、その動きの反動を利用して自らの足を踏み込み、地面を蹴る。

 

「ここで決める……!」

 

その瞬間、ペテルの剣が光を帯び、鋭く振り下ろされる。クレマンティーヌは回し蹴りで反撃しようとするが、ペテルは盾を巧みに角度を変えて蹴りを受け流し、距離を詰めた。

 

「避ける……! そして……!」

 

ペテルの剣が素早く左から右へ、クレマンティーヌのスティレットを狙う手を斬り裂くように振るわれる。刃先が腕に触れ、鋭い金属音が響くと同時に、反射的に彼女の体勢が崩れる。

 

「ぐっ……!?」クレマンティーヌは思わず声を漏らし、バランスを崩して一歩後退する。

 

ペテルは一瞬の隙も逃さず、盾を横に傾けて腕にかかる衝撃を受け止めつつ、逆にスティレットの柄に剣を沿わせるようにして取り込み、力を逸らす。続けざまに剣を振り抜き、クレマンティーヌの側面に鋭い一撃を突きつけた。

 

「これで……終わりだ!」

 

回し蹴りを狙った脚も巧みに避け、胸元の鎧に沿って剣が滑る。クレマンティーヌはその反動でさらに後退し、ようやく模擬戦用の空間の端まで押し返された。

 

ペテルは息を整え、剣と盾を構え直す。金属音がまだ耳に残るほど緊迫した場面。クレマンティーヌも深呼吸し、鋭い目でペテルを見つめ返す。

 

「……なるほど、……本当に……気持ち悪いほど強くなった……」彼女の声に驚きと敬意が混じる。

 

ペテルは静かに頷く。

「もうあの頃の俺と違う。師匠のおかげで強くなったんだ」

 

焚き火の揺らめく光の中、周囲の仲間たちも息を整え、模擬戦を通じてペテルの実力を改めて実感していた。戦いの緊張と興奮がまだ場に残り、都市国家連合での任務に向けて、彼らの決意はさらに固まったのだった。

 

 

/*/ 模擬戦後の談笑

 

模擬戦用の空間で汗を拭い、剣と盾を片付けるペテルの周りに、クレマンティーヌが軽やかに歩み寄った。

 

「ふっつうは才能の限界で、こんなに強くなれないんだけど……何回も死んで神獣様に蘇生させられてるからかな?」

彼女の言葉に、ペテルの顔は青を通り越して白くなる。

 

「死ぬというか、ホントに死ぬまで特訓させられたからなー」

ペテルは肩をすくめ、苦笑まじりに答える。

 

クレマンティーヌは目を丸くして続ける。

「まさか、楽勝だった坊やたちに1本とられるようになるなんて、お姉さん思わなかったわ」

 

「お姉さんといっても、今は俺たちより年下だけどな」

ルクルットが息を整えつつ、軽くツッコミを入れる。

 

「神様のリンゴのせいだねー」

クレマンティーヌは肩をすくめてにやりと笑った。

 

ニニャも巻物を抱えつつ笑いながら口を開く。

「皆さん、本当に死ぬまで戦っているんですか……それでここまで強くなるとは、驚きです」

 

ダインは静かにメイスを床に置き、低い声で付け加える。

「それもまた、研鑽の賜物であるであるな」

 

アウレリア姫は軽く微笑み、手を胸に置きながら言う。

「皆さん、本当に無事で良かったです。こうして笑顔で話せるのが何よりです」

 

ペテルは肩の力を抜き、皆に向けて微笑む。

「まあ、今日のところは俺が勝ったってことで。次はもっと気を抜けねぇぞ、クレマンティーヌ」

 

クレマンティーヌは片手を腰に当て、軽く肩をすくめる。

「ええ、もちろん。次は本気で行くわよ、坊や」

 

ルクルットは笑いながら剣を振り、ニニャとダインも頷く。

アウレリア姫は微笑を崩さず、仲間たちの士気を静かに見守っていた。

 

模擬戦後、焚き火の周囲で皆が談笑していると、クレマンティーヌが不意に声を上げた。

 

「え?私も行くのー?」

 

ジョンが手元の装備と路銀を差し出しながら答える。

「おう、今回は裏社会との繋がりも必要になるからな。経験豊富なお前も、ついて行ってくれ」

 

クレマンティーヌは装備を受け取り、目を大きく見開いた。

「またガーターベルトぉ!?」

 

ジョンは涼しい顔で答える。

「ビキニアーマーが趣味なんだから、いいだろ」

 

クレマンティーヌは肩を竦め、少し照れくさそうに微笑む。

「ま、良いけどね。強力な装備だし……でも、恥ずかしいわよね、やっぱり」

 

ルクルットが横で笑いを漏らす。

「お前が恥ずかしがる姿も久しぶりに見たな。お姉さんといっても、今は俺たちより年下だけどな」

 

クレマンティーヌは舌を軽く出して、ふふっと笑う。

「神様のリンゴのせいだねー」

 

ニニャは巻物を抱えながら小さく首を傾げる。

「その装備、機能的には申し分ないのですか……?」

 

「もちろんさ。防御力も機動力も文句なしだ」ジョンは胸を張る。

「この装備なら、戦闘時もクレマンティーヌの実力を最大限に発揮できる」

 

クレマンティーヌは軽く息を吐き、装備を体に合わせながら微笑んだ。

「ま、いいわね……強力なら我慢するわ」

 

アウレリア姫もにっこりと微笑み、皆の準備を見守った。

「無事に帰ってきましょうね、皆さん」

 

火の明かりが揺れる中、出発前の士気と期待、仲間たちの軽い笑い、そして互いへの信頼感が、森の夜に温かく満ちていた。

 

 

/*/ 都市国家連合の情報共有と作戦会議

 

焚き火の明かりに照らされながら、漆黒の剣の4人とアウレリア姫、そしてクレマンティーヌは森の中で作戦を練っていた。

 

ルクルットが地図を広げ、指を動かす。

「この都市国家連合ってのは、12の都市で構成された共同体らしいな。バハルス帝国の北東にあって、亜人も住んでる都市があるとか……冒険者組合もちゃんとあるらしい」

 

ニニャは眉をひそめ、巻物をめくりながら言う。

「情報によると、過去に巨大国家が崩壊して、その後14の小国家が乱立……併合と分裂を繰り返した結果、現在の12都市が運命を共にして連合を形成したそうです」

 

ダインは静かにうなずく。

「なるほど。議論によって連合を形成してきたのか……外交的には安定している可能性が高いであるな」

 

クレマンティーヌが片肘をつき、軽口をたたく。

「ふむ、都市の名前も覚えとかないとね。カルクサーナス、ペポ・アロ、東ガイツ、西ガイツ……って、もう12個あるじゃん。長い名前ばっかで覚えられるかしら」

 

ルクルットは笑いながら突っ込む。

「お前、どれも見慣れない名前だろ。ま、俺も全部覚えてるわけじゃないけどな」

 

ジョンが手元の資料を見つつ、皆に言う。

「都市ごとの特色も把握しとく必要がある。例えば、ベバードにはジルクニフの好みの女性らしいカベリア都市長がいて、街の政治も独特らしい」

 

アウレリア姫は神妙にうなずく。

「それだけでなく、人口や種族構成も重要ですわね。各都市で平均40万人ほどで、種族の偏りも少ない……ベバードだけは特別だそうですが」

 

クレマンティーヌが手を広げ、笑みを浮かべる。

「ふーん、なるほどね。裏社会との接触は私に任せな。競技大会や都市の騒ぎも含めて、情報はちゃんと集められるから」

 

ペテルは剣を軽く振り、焚き火の火を見つめながら答える。

「頼もしい。お前の勘と経験があれば、連合の闇も怖くないだろう」

 

ルクルットは笑みを漏らす。

「お前、やる気満々だな。でも競技大会とか関係者の動きも把握できるんだろ? コネリエのフィールドや平和の戦旗のことも頭に入れておけよ」

 

クレマンティーヌは肩をすくめて、楽しそうに言う。

「もちろんさ。派手な競技も裏情報の宝庫よ。暴動や騒ぎの裏に潜む奴らも見逃さないから」

 

アウレリア姫もにっこりと微笑み、焚き火の揺れる光を受けながら、皆の士気を見守った。

「無事に帰ってきましょうね、皆さん」

 

森の夜に、火の明かりと笑い声が混ざり合う。漆黒の剣とクレマンティーヌは、都市国家連合への作戦の第一歩を確実に踏み出していた。

 

/*/ 帝国から都市国家連合への転移

 

広がる帝国の空の下、漆黒の剣の面々は静かに準備を整えていた。ペテルが剣と盾を握り、ルクルットが弓を肩にかける。ニニャは巻物を抱え、アウレリア姫はヒーラーズ・ローブの裾を整えた。クレマンティーヌは肩に軽くマントをかけ、転移の準備を待っている。

 

「やっぱり『転移』は便利だわー」クレマンティーヌが軽やかに笑う。

 

ニニャは目を大きく見開き、首をかしげる。

「クレマンティーヌさん、転移したことがあるんですか?」

 

クレマンティーヌは肩をすくめ、少し懐かしげに視線を遠くに向ける。

「昔の職場でねー。色々あったのよ。ちょっとした冒険も、面倒な会議も、全部転移で片付けられちゃった」

 

ルクルットは地面を踏み、眉をひそめながら呟く。

「社会の闇こわい。俺たちの知らないところに、英雄級がごろごろいるじゃん」

 

クレマンティーヌはくすっと笑い、片手を腰にあてて言う。

「ごろごろってほどじゃないけどね。でも昔の職場は、普通の人間じゃ耐えられないような変人や奇人を集めた場所だったから……ちょっと特殊だったのよ」

 

ルクルットは軽く肩をすくめ、挑発気味に言う。

「それって……自分が奇人変人に入るのは良いのか?」

 

クレマンティーヌは片目を細め、にやりと笑う。

「拷問が好きな女が普通でよいなら、それで良いよー。でもね、意外と普通の人間は平凡すぎて退屈なのよ」

 

ニニャが少し首をかしげ、眉を寄せる。

「拷問……ですか?」

 

クレマンティーヌは肩を軽く揺らして笑い、軽口を叩くように言う。

「ふふ、怖がらなくていいわ。昔は仕事だったけど、今は趣味じゃないから。今はこうして、面白いことや新しい発見を楽しむのが私の生きがいよ」

 

ルクルットは苦笑しつつも、目の奥で少し興味を示す。

「なるほど……じゃあ、その面白いことっていうのは、俺たちと同じなのかもな」

 

クレマンティーヌは少し首をかしげ、頷く。

「そうね、きっとそう。あなたたちも、私にとっては十分に奇人よ」

 

ニニャは少し赤面し、口元を押さえながら小さく笑う。

「……そういう見方もあるんですね」

 

クレマンティーヌは肩をすくめ、冗談めかして手を振る。

「ふふ、人生は楽しむものよ。転移ができるかどうかは関係ないわ。ただ、日常をちょっとだけ特別にする勇気を持つかどうか――それだけのこと」

 

ルクルットは少し間を置いて笑い、軽く拳を握る。

「なるほどな……俺も、少しはその勇気を学ばないとな」

 

クレマンティーヌは軽く笑い、ニニャの方に視線を向ける。

「あなたも、意外と面白い目を持ってるわね。これからもっと楽しませてもらおうかしら」

 

ニニャは小さく息を飲み込み、目を輝かせる。

「……覚悟はできています!」

 

三人の間に、軽やかな笑いと好奇心が交錯する空気が漂った。

過去の暗い影も、今の彼女たちの明るさの前では、ほんの遠い記憶のように霞んでいく。

焚き火の炎に揺れる影のように、彼女の言葉に少しだけ戦慄しつつも、仲間たちは微笑んで頷く。転移の魔法陣がゆらりと光を放ち、次の目的地――都市国家連合近くの帝国領――への道が開かれた。

 

 

/*/ 都市国家連合・情報収集の開始

 

漆黒の剣とアウレリア姫、そしてクレマンティーヌは、帝国からの転移を終え、カルサナス都市国家連合の一角に降り立った。街の石畳は整然としつつも、種族の混ざり合う賑やかな都市らしい活気があった。市場には亜人も混ざり、冒険者組合の旗がはためく。

 

ルクルットは地図を取り出し、周囲を見渡す。

「ここから情報収集を開始だ。主要都市や、怪しい動きのありそうな地区を押さえつつ……まずは都市の人間関係を把握するのが先決だな」

 

ニニャは薄紫色の巻物を大事そうに抱え、慎重に街角を見回した。小道に入り込む影や、遠くで交わされる商人たちの言葉に耳を澄ませる。

「噂や情報は、商人や冒険者から得られることが多いです。特に連合内の交易ルートや組合の動きには注目ですね」

 

クレマンティーヌは片手を腰に置き、商店街の喧騒を鼻で笑うように楽しげに歩く。道行く人々のざわめき、かすかな視線のやり取りまで、彼女の目にはすべてが情報として映っている。

「ふん、こういう街は面白いわね……噂は絶えない。最近は『影の王』なる存在の話が広まってるらしいわ。誰も正体は知らないけど、その名前だけで街がざわつくのが面白い」

 

ペテルは剣と盾を手に、周囲を警戒しながら慎重に頷いた。

「影の王か……ただの噂かもしれない。だが、油断は禁物だ。奴らの手がどこまで伸びているか分からん。特に情報網や商人の顔役にまで浸透している可能性がある」

 

ルクルットは眉をひそめ、街角の看板や荷馬車を観察しながら呟く。

「都市国家連合全体に広まってるってことは、ただの噂じゃないな。情報網がしっかりしてる奴の仕業だろう……噂だけで動く奴は、簡単に失敗する」

 

アウレリア姫は少し肩をすくめ、不安げに言った。

「『影の王』……聞くだけで恐ろしい名前です。無闇に動けば、巻き込まれそうです。街の民も怯えているのでしょうか……」

 

クレマンティーヌは軽く肩を揺らし、ニヤリと笑う。

「そうね。でも、こういう街の裏側を知るには、噂を辿るしかないのよ。影の王がいるとされる地域、怪しい商人、交易路……まずはそこを押さえてから行動するのが安全策」

 

ニニャは巻物に手を置き、目を細める。

「交易路や商人の動きから、影の王の手がどこまで伸びているか、少しずつ輪郭を掴めそうです。あとは街の情報屋や冒険者ギルドにも目を配る必要があります」

 

ルクルットは街の雑踏に目を走らせ、薄く笑う。

「こういう噂の裏には、必ず何か動いている奴がいる。面白いことになりそうだな……」

 

ペテルは剣の先を少し地面に突き、警戒を緩めず言った。

「興味本位で飛び込むのは危険だ。だが情報を集め、計画的に動くなら……やる価値はある」

 

クレマンティーヌはニヤリと笑い、手を広げる。

「そう、楽しむかどうかは、準備次第よ。噂は足が速いけど、私たちの足はもっと速い――これから面白くなりそうね」

 

ニニャは巻物を抱き直し、決意を秘めた眼差しで街を見つめる。

「……情報を集めれば、影の王の正体に近づけるはずです。無駄にせず、慎重に動きましょう」

 

都市の喧騒の中、四人の影がゆっくりと街の奥へ伸びていく。噂と陰謀が交錯する中、影の王の輪郭を掴むための、静かだが熱を帯びた探索が始まろうとしていた。

五人はそれぞれの役割を確認しながら、都市国家連合の街中に散って情報収集を開始した。

 

市場や酒場、冒険者組合の広間。人々の笑い声とざわめきの陰で、「影の王」の名前は静かに広がり、都市国家連合の平穏をほんの少しだけ揺らしていた。

 

 

/*/ 都市国家連合・影の王の噂と情報収集

 

都市国家連合の石畳を踏みしめながら、漆黒の剣とクレマンティーヌたちは街の中心部へ向かっていた。市場の喧騒、商人の呼び声、亜人や冒険者たちの混在する街の雑踏――その中で、クレマンティーヌの目は自然と人々の反応を探るように鋭く光った。

 

ルクルットが小声で呟く。

「お前、さっきから何か違う目つきだな……」

 

クレマンティーヌは肩をすくめ、唇の端をわずかに上げてにやりと笑った。

「私の昔の職場のこと、覚えてる?ズーラーノーンの十二高弟だった頃のことよ……あの頃、情報網を張り巡らせるのは私の得意技だったの」

 

ニニャは目を大きく開き、驚きと興味を混ぜて訊く。

「十二高弟……その経験が、ここで役に立つということですか?」

 

クレマンティーヌは商店街をゆっくり歩きながら、低く囁く。

「もちろん。人の動きや噂の流れ、ちょっとした言葉の端々から本当の情報を見抜く……それが私の得意技よ。情報は金より価値があるんだから」

彼女の目は鋭く光り、街を行き交う商人や旅人、冒険者たちの仕草や会話を一瞬で捉えていく。手に持った巻物にメモを取り、瞬時に頭の中で情報を整理するその様子は、まるで空間全体を掌握しているかのようだ。

 

ペテルも頷きながら、慎重に周囲を見回す。

「十二高弟……それなら、影の王の動きも、ただの噂で終わらせずに辿れるかもしれん。奴の手がどこまで伸びているか、少しでも痕跡を見つけられるな」

 

クレマンティーヌは市場の隅に腰を下ろし、商人に近づいた。

「最近、『影の王』ってやつの噂、聞いたことある?」

商人は最初、警戒した表情で目を泳がせる。しかし、クレマンティーヌの放つ鋭い視線と、わずかに漂う威圧感に圧され、口を開かざるを得なくなる。

 

「え……あ、ああ、噂なら……どうも連合の北の方で、人知れず影響力を広げているらしい、と……でも、誰も正体は知らないって話です」

 

ルクルットは肩越しに横から小声でツッコミを入れる。

「お前、そんな調子で市民相手に情報引き出してんのか……すげぇな」

 

クレマンティーヌは軽く笑い、巻物に得た情報を素早く書き込む。

「お姉さんのやり方を見せてあげるわよ。さあ、次は酒場……ここでの噂は確実だから」

 

二人は細い路地を抜け、薄暗い木製の看板が揺れる酒場へと歩を進める。内部には酒の香りとざわめきが混ざり合い、客たちの会話は絶え間なく流れていた。クレマンティーヌは一歩踏み込むと、瞬時に部屋全体を視界に収め、話題や目立つ人物、動きの怪しい客に注意を向ける。

 

「この場所は生の情報が一番多く集まる。酒に酔った人間は、つい本音を漏らすもの……さあ、誰がどんなことを話しているか聞き出すかしら」

 

ニニャは彼女の横で少し緊張しながらも、その巧みな立ち回りに感嘆の色を隠せない。

「クレマンティーヌさん……その目で、何が見えているんですか……?」

 

クレマンティーヌは片目を細め、薄笑みを浮かべる。

「街の裏も表も、すべて見えているわよ。これで、影の王の輪郭に少しずつ近づける――あとは慎重に、でも確実に情報を拾い集めるだけ」

 

その瞬間、酒場の奥の席から微かな視線がクレマンティーヌに注がれ、彼女の心に軽い警告が走った。

「ふふ……奴もここにいるのかもしれないわね。面白くなってきた」

 

四人の影が、夜の街を駆け巡るように情報を求めて動き始めた。噂、影、そして謎の存在――影の王への探索は、静かだが確実に、その輪郭を露わにし始めていた。

 

 

/*/ 都市国家連合・裏情報屋との接触

 

漆黒の剣の一行は、夜の街の薄暗い路地を慎重に進んでいた。街灯の明かりはところどころ途切れ、影が濃く落ちる。クレマンティーヌは静かに歩きながら、目を細めて路地の奥にある小さな扉を見つめた。

 

「ここ……裏の情報屋がいる場所よ」クレマンティーヌは低く囁く。

 

ルクルットが横で眉をひそめる。

「まじかよ、こんな場所に……」

 

扉を軽くノックすると、中から物音がして、すぐに半開きになった扉の隙間から男の顔が覗く。

「……誰だ、こんな時間に」

 

クレマンティーヌは柔らかく微笑み、手を軽く差し出す。

「こんばんは、ちょっとお話を聞きたくて。噂に敏感な方だと聞きました」

 

男は警戒したまま目を細める。だがクレマンティーヌは静かに呪文を唱え、手に光を宿す。

 

――人間魅了《チャームパーソン》。

 

一瞬にして、男の表情が和らぎ、目の奥に吸い込まれるような柔らかさが現れる。

 

「……お、おう……話してもいいかな。君、なんだか信頼できそうだ」

 

クレマンティーヌは微笑み、軽く頷く。

「ありがとう。まずは影の王について知っていることを教えてくれる?」

 

男は小声で情報を漏らす。

「影の王……北の都市で密かに支持者を増やしてるらしい。表向きは慈善や貿易をしているけど、裏では冒険者や亜人の組織に手を回してるって話だ。十二高弟の手先ともつながってるって噂もある」

 

クレマンティーヌは商人の言葉にうなずき、さらに相槌を打ちながら、鋭い眼光で問いを重ねる。

「どの都市で活動しているか、手掛かりはあるの?」

 

商人は少し息を呑み、視線を周囲に走らせた後、慎重に答える。

「北東のカルクサーナスとペポ・アロの間にある小都市……連合の目にはほとんど触れず、闇の中で動いているらしいです」

 

クレマンティーヌはその情報をメモに書き留めながら、低く含み笑いを浮かべる。

「ふむ……北東に照準を絞るわね。なるほど、奴も動きやすい場所を選んでいる」

 

ペテルは横でうなずき、眉をひそめながら慎重に確認する。

「なるほど……これで北東方面に狙いを定めることができるな。警戒もそこに集中させられる」

 

クレマンティーヌは手を軽く振り、街灯の光を避けるようにして影に紛れながら言う。

「ふふ、あとは慎重に行動すればいいだけ。噂や情報は金よりも価値があるって教わったからね。これを使えば、影の王の輪郭も見えてくるはず」

 

ニニャは巻物を抱えたまま、小さく感心の声を漏らす。

「やはり……十二高弟の経験が頼りになりますね。普通の冒険者じゃ、ここまで情報を引き出すことは難しいです」

 

ルクルットは少し苦笑混じりに、クレマンティーヌを見やる。

「お前、本当に裏社会で鍛えられてるな……俺たちが冒険者としてやってることとは、次元が違う」

 

クレマンティーヌは肩をすくめ、軽く笑みを浮かべる。

「まあ、昔の職場は変人や奇人の集まりだったからね。情報を引き出すくらい、朝飯前よ」

その笑みには、過去の苦労と腕に覚えのある自信が滲んでいた。

 

周囲の雑踏やざわめきの中でも、クレマンティーヌの目は鋭く、街角の人々の表情、商人の手元、酒場の奥の動きまでを捉えていた。

「この街にはまだ、影の王の手が伸びているかもしれない……でも、私が追えば、その痕跡は必ず掴める」

彼女の声には、軽い揶揄の響きとともに確信があった。

 

ニニャは横で静かにメモを整理し、クレマンティーヌの行動を補佐する。

「こうして情報を整理すれば、影の王の次の一手もある程度予測できそうです」

 

ルクルットも視線を巡らせ、警戒の目を緩めない。

「俺たちが戦闘だけでなく、こうして情報戦でも戦えるとは……本当に驚きだ」

 

クレマンティーヌはふっと笑みを浮かべ、影に溶け込むように立ち上がる。

「さて、次は酒場ね。酔った客ほど、真実を口にしやすいものだから」

 

その言葉に、ニニャとルクルットは少し緊張しつつも、クレマンティーヌの後に続く。

夜の街に漂う灯りと影の中で、影の王の痕跡を追う三人の影が、静かに街を駆け抜けていった。

 

火の明かりが揺れる街の一角で、漆黒の剣たちは影の王への最初の手掛かりを得ることができた――それは、クレマンティーヌの能力と経験による、影の中の勝利だった。

 

 





今更、僕のイメージと違うぞ!は受け付けません。
しゃべりはちょっと受け付けるかもw

次回!
第137話:迷宮を行く

迷宮を行くってBGMあったなー
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