オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第139話:最終決戦

 

 

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アーグランド評議国の西、ケイテニアス山麓の国境付近。

濃い霧と煙が立ち込める荒野には、無数の亡者が徘徊していた。ゾンビ――人々は皆、死に、そしてただ徘徊しているだけだ。生存者の声はどこにもなく、建物も車両も破壊され、広範囲が戦場のように荒れ果てていた。

 

ジョンは双眼鏡越しに荒野を見下ろし、肩をすくめる。

「なぁ……ここ、ケイテニアス山の近くだよな。まさか、あの竜王が消費した外装ゾンビを補充するために、こんな広範囲で……」

 

ぐりもあは、魔力視覚で地表を覆う黒い波動を透かして観察していた。

「……魔力の痕跡を見る限り、自然現象じゃない。膨大なエネルギーが、一気にここを覆った感じです」

 

ジョンはうなずき、荒れ地を指差す。

「この災害……誰も生き残っていない。原因不明で処理されているけど、戦闘の結果、こうなったとしか思えないな」

 

ぐりもあは少し眉を寄せ、地形を確認する。

「ケイテニアス山の奥で何が起こったのか……魔法の解析ではっきりとはわからないけど、これだけの規模の犠牲が、偶然起きるはずがない」

 

ジョンは目を細め、荒野に視線を戻す。

「……なるほどな。キュアイーリムが滅魂の吐息で使った力の反動か、あるいは失われたゾンビの補充のために何かをやったんだろうな。でも、誰もそのことには気づいていない……だから、評議会も魔導国も、原因不明の災害として処理してる」

 

ぐりもあは深く息をつき、空を見上げる。

「原因がわからないまま、こうして膨大な犠牲者が出るなんて……恐ろしいことです」

 

ジョンは淡々と答える。

「でも、これで俺たちは次の作戦の目安ができた。どこで力を使い、どう観察するか……奴の行動パターンも、ある程度読める」

 

荒れ果てた平原に沈む夕陽。ゾンビの群れはなお蠢き、影は長く伸びる。原因不明の災害――その真実は知る者のみに委ねられ、世界は再び静寂に包まれた。

 

 

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ジョンは荒野をじっと見つめ、手元の携帯用魔導具を取り出した。ぐりもあが魔力視覚を起動し、地形と魔力の残滓を精密に解析する。解析結果は瞬時にジョンの魔導具にリンクされ、広範囲の状況が視覚化された。

 

「ぐりもあさん、被害の範囲はどれくらい?」ジョンが低く問いかける。

 

ぐりもあは解析データを拡大して示す。

「……山麓からおよそ250km四方にわたって、異常な魔力の痕跡があります……全ての生物が死に絶え、ゾンビ化して蠢く範囲です」

 

視界に映るのは、かつて豊かな森や草原であった場所の荒廃した光景。無数のゾンビが暗く絡み合い、地面には光を失った魂の残滓が漂う。かつて清らかに流れていた川も干上がり、鳥や獣の声は一切なく、死の静寂だけが広がっていた。

 

ぐりもあは肩を落とし、目を伏せる。

「……美しかった自然が、全部、奪われてしまった……」声は小さく、震えていた。ジョンも言葉を探すように沈黙する。

 

ジョンは広域マップに目を落とし、被害範囲を慎重にマーキングした。

「なるほど……中心はケイテニアス山の洞窟周辺か。やはり、あの竜王の行動が直接の原因だな」

 

ぐりもあは解析を続けながら、視界に広がる破壊の跡に胸を押さえる。唇を噛み、微かに震える手で魔力波動の流れを確認する。

「魂の抜けたゾンビが蠢く光景……こんな広範囲で自然と命が奪われるなんて……」

 

ジョンは頷き、次の行動を頭の中で整理する。

「よし、これで次の作戦が立てやすくなった。被害範囲は把握できたし、奴の行動パターンも大体読める」

 

ぐりもあは涙をこらえ、深呼吸して気持ちを落ち着けた。

「……こんな惨状を目にするのは、本当に辛いです……」

 

ジョンは魔導具をしまい、遠くの山脈をじっと睨む。

「まだキュアイーリムのところに向かうのは早い。周辺の被害状況を観察し、アーグランド評議国の竜王とも連絡を取って、今後の行動を決めよう」

 

夕陽が荒野を赤く染め、二人の影が長く伸びる。被害の原因は世界に知られず、静かな絶望だけが広がる。しかしジョンとぐりもあは、失われた自然の美しさを胸に刻み、次なる作戦へと静かに歩みを進めた。

 

 

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ジョンとぐりもあは、荒野の被害状況を一通り確認した後、アーグランド評議国の竜王たちに報告するため、通信魔法で連絡を取った。空間を満たす微かな光の波動の中で、二人の声は竜王たちの広大な巣窟に届く。

 

「被害の範囲はおよそ250km四方、全ての生物が死に絶え、原因不明のゾンビ化が発生しています」ジョンが解析データを添えて報告する。「状況から察するに、ケイテニアス山洞窟に潜むキュアイーリムの仕業の可能性が高いです」

 

遠く離れた巣窟の中、五柱の竜王たちが互いに視線を交わす。年長の白竜は深く唸り、翡翠色の竜は尾を振って苛立ちを示す。

 

「なるほど……原因不明の災害とは、この竜王か」白金竜が低く響く声で呟く。「しかし、我々竜王同士で戦闘することは、評議国の掟で禁じられている……」

 

「禁忌ではあるが、被害は人間側にも及んでいる」青竜が尾を揺らしながら指摘する。「これを放置するわけにはいかない。直接介入するか、別の方法を考えるべきだ」

 

「問題は戦闘方法だ。我々が竜王同士で戦えば、その衝撃で周囲の人間や土地も巻き込まれる」赤竜が慎重に言葉を選ぶ。「我々にできることは、戦力を整えつつ状況を観察することに限られるだろう」

 

ジョンは通信を通して頷く。

「了解です……ぐりもあの解析結果を送ります。被害範囲やゾンビの挙動も詳細に表示されています。これを参考にして、竜王たちの作戦と調整してください」

 

ぐりもあも声を添える。

「……自然が破壊され、生き物が無残に消え去った痕跡です。観察するだけでも胸が痛みます。被害を拡大させないために、行動は慎重にお願いします」

 

評議国の竜王たちは互いに目を合わせ、慎重に意見を交換する。

「まずは被害範囲を封鎖し、被害の拡大を防ぐ」

「次にキュアイーリムの洞窟周辺を監視し、行動パターンを解析する」

「直接戦闘は最終手段、竜王同士での衝突は避ける」

 

ジョンはその決定を聞き、心の中で次の手を計画する。

「よし……まずは観察と情報収集、そしてナザリックとの連携を優先だな。安易な接触は危険すぎる」

 

ぐりもあは深呼吸し、荒れ果てた土地を再び魔力視覚で確認する。

「……自然も命も、失われたままです。でも、無駄にはしません。次の作戦に活かしましょう」

 

夕暮れの空が赤く染まり、荒野に静かな風が吹き抜ける。人の姿はなくとも、二人はこの世界を守るため、次の行動への決意を固めた。

 

 

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アーグランド評議国の竜王たちは、荒廃した大地の報告に眉をひそめた。

「これだけの範囲を破壊した竜王を、見過ごすわけにはいかない……」白金竜が低く唸る。しかし、隣の青竜が尾を振りながら答える。

「だが、我々竜王同士で殺し合うわけにはいかない。禁忌を犯せば、国や民が巻き添えになる」

 

そのため、竜王たちは魔導国に対して対応、すなわち討伐の依頼を送ることを決定した。ジョンとぐりもあ、モモンガの元に、竜王たちからの報告と依頼が届く。

 

ジョンは荒野を見渡し、被害状況の地図を広げながら呟く。

「仲間のやらかしに、自分の手を汚さないのか……」一拍置いて、拳を握りしめる。「いいだろう。俺は禁忌に手を染める悪でも、誇り高い悪だ。いつか自分も同じ悪に滅ぼされることを覚悟している。やってやる!」

 

ぐりもあはその言葉に目を見開き、静かに口を開く。

「それは……」

 

ジョンは軽く笑みを浮かべ、肩をすくめる。

「うん、ウルベルトさんの言葉だ」

 

モモンガは小さく息をつき、頷く。

「……みんな、ジョンさんの中にいるんですね」

 

円卓の間に三人の声だけが響く。被害の爪痕は大きく、自然は奪われたままだ。しかし、ジョンの言葉は決意を宿し、ぐりもあの胸に深く響く。

 

「討伐は俺たちに任された……情報収集と支援は怠らない。奴の動きは逐一監視する」ジョンは地図を閉じ、視線を遠くの山脈に向ける。

 

ぐりもあは魔力視覚を閉じ、深く息を整える。

「……犠牲になった自然も、生き物も、無駄にはしません。次の手を必ず成功させましょう」

 

円卓の間の光が三人の影を長く伸ばす。荒野に残された被害の爪痕は、地図上に赤く塗られた範囲で明確に示されていた。

 

「この状況、ただ監視しているだけじゃ済まない……」モモンガが低く呟く。

「うん。キュアイーリムの行動パターンも、被害範囲も、次にどこへ動くかも、全部押さえとかないと」ジョンは指で地図上のケイテニアス山の洞窟付近を指し示す。

 

ぐりもあは微かに眉を寄せ、目に浮かぶ悲しみを押し殺すように息を整える。

「自然や命が失われるのを目の当たりにすると……やはり辛いです。でも、私たちにできることは、次の被害を防ぐことです」

 

モモンガは頷き、二人を見つめる。

「ナザリックの力と情報網を駆使すれば、キュアイーリムの行動を把握し、最小限の被害で対処できるはずです」

 

ジョンは少し微笑み、地図を丸めて腰に下げる。

「よし。まずは周辺地域の偵察、被害状況の継続的な監視。そして魔導国として連携して、討伐計画を練ろう」

 

ぐりもあは目を閉じ、深呼吸する。

「……犠牲を無駄にせず、自然を取り戻すためにも、僕たち全員で全力を尽くしましょう」

 

窓の外、ケイテニアス山の影が赤く染まり、夕陽が最後の光を落としていく。三人は静かに、しかし確固たる決意を胸に、次の戦いへの準備を始めた。

 

その夜、ナザリックの偵察部隊が静かに動き出した。シャドウデーモンとバイアクヘーがケイテニアス山の上空を覆う霧のように飛翔し、荒廃した山麓と洞窟の位置を確認する。

 

「外装ゾンビの配置は変化なし。キュアイーリムの巨体を守る構造は依然として複雑だ」シャドウデーモンが思念で報告する。

 

バイアクヘーは周囲の魔力の残滓を解析し、ナザリックのモモンガに送信する。

「滅魂の吐息は使われていないが、物理攻撃と死霊魔法での押し込みが続いている。巨体の尾や翼の動きに注意」

 

モモンガは画面越しに観察し、指を走らせる。

「よし、次は遠隔からでも情報を増やす。接触前に弱点を特定し、被害を最小化する作戦だ」

 

ジョンとぐりもあは、ナザリックの偵察結果をもとに、魔導国の協力を得ながら討伐準備を進める。荒廃した山麓を前に、ぐりもあは再び目を伏せる。

「……あのゾンビの海を前にすると、胸が締め付けられる……でも、ここで立ち止まってはいけません」

 

ジョンは黙って頷き、夕暮れの山脈を見据える。

「犠牲になった自然も命も、必ず取り戻す。ナザリックと魔導国の力を結集すれば、奴を討てる」

 

その時、ぐりもあの魔力視覚に小さな異変が映る。洞窟の奥、普段なら安定しているはずの魔力波動が微かに揺れ、光の粒子が蠢く。

 

「……洞窟内の魔力に不自然な揺れがあります。何か動き始めたかもしれません」

 

ジョンは眉をひそめ、ぐりもあの指し示す方向を凝視する。

「ならば、こちらも動き出す時だな。まずは情報を最大限に集めて、被害を最小化しつつ接触ルートを確保する」

 

夜の帳が山を包み込む中、三人は決意を胸に、次の行動に向けて静かに準備を整えた。荒廃の爪痕と不穏な洞窟の気配が、今後の戦いの緊張を予感させる。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・第九階層 モモンガの執務室 /*/

 

 

 重苦しい沈黙が執務室を支配していた。

 眼前に控えるは、ナザリックを護る最高の眷属たち。彼らの瞳には揺るぎない決意と、しかし同時に不安と期待が混じっている。

 

「至高の御方……どうか我らも共にお連れください」

 最初に声を上げたのはデミウルゴスだった。普段は沈着冷静な悪魔が、いまは額を床に擦りつける勢いでひれ伏している。

「我らが存在理由は、ただ貴方様の勝利のためにあります。至高の御方を失っては、我らに意味はない。どうか、この身を使い潰して下さい」

 

 アルベドがゆっくりと顔を上げる。金色の瞳は揺るがず、言葉は燃えるように熱い。

「モモンガ様。私は貴方様の盾として創造されました。いま立たずしていつ立つと申しますか。願わくは、御身の直衛として命を捧げさせて下さい」

 

 シャルティアは馴染みの口調で前へ踏み出す。その声音はいつにも増して凄味を帯びている。

「わっちは、どこまでも付いて行くでありんす。あの竜王が相手でも、血を吸い尽くして御身の勝利を捧げるでありんすよ。命じてくだされ──」

 

 眷属たちの申し出は一斉で、執務室を震わせるほどの熱量を帯びていた。モモンガはその姿を一つひとつ見渡し、胸に複雑な感情が波打つ。――嬉しい。だが、その忠誠が意味する重さを知っている。自分の決断一つで、彼らの命運が左右されるのだ。

 

 モモンガは玉座のような椅子から静かに立ち上がった。声は抑えられているが、言葉の重みは誰よりも深い。

 

「……気持ちは嬉しい。だが全員を連れていくわけにはいかない」

 

 守護者たちの顔に一瞬の戸惑いが走る。叫びにも似た反応が部屋に満ちる。

「なぜでありんす!?」

「至高の御方……!」

 

 モモンガはゆるやかに首を振った。

「我らが討ち死にした後を託す者が必要だ。ナザリックは我らだけの城ではない。ここには後を託す者がいなければならない。全員が戦場で散れば、誰がこの大墳墓を守る? 誰が我らの遺産を残す?」

 

 短い沈黙の後、彼は一人ずつに命を下すように告げた。

 

「アルベド。お前には私の直衛を頼む。最後まで共に在れ」

 アルベドの瞳が燃え、声は鉄のように堅く返る。

「はっ──この身命に代え、必ずや御身をお守りいたします」

 

「シャルティア。お前には別働隊を率いさせる。戦局は一つではない。お前の牙で戦線を切り拓け」

 シャルティアは大きく頷き、白い牙を覗かせる。

「御意にござりまする。血の海を築いて御身の勝利を献上してみせるでありんす」

 

「デミウルゴス。お前にはナザリックの守護を任せる。我らが戻るまで、この大墳墓を守り抜け」

 悪魔は深く頭を垂れ、背の黒翼を震わせた。

「必ずや。至高の御方の御帰還のため、この身を焦がし尽くしてでも守り抜きましょう」

 

 モモンガの声は静かだったが厳粛であった。それは命の使い方を決する言の葉でもあり、信頼の確認でもある。守護者たちの胸に、鋼のような覚悟が刻まれていく。

 

 その重々しい空気を、ふいに飄々とした声が破った。

「なに、ワールドエネミーに比べりゃ軽い相手さ。心配するなって」

 ジョンが腕を組み、淡い笑みを浮かべる。場の張りつめた空気が、わずかに和む。

 

「……油断はするなよ、ジョンさん」

「分かってるさ。俺もお前も、負けるつもりなんてないんだからな」

 

 ぐりもあが、掠れた声で呟く。

「みんな……本当に、すごい人たちだな……」

 

 モモンガは一瞬だけ視線を落とし、深く息を吸った。彼は自らの牙を噛み締めるようにして、最後の命令を続ける。

 

「デミウルゴス、コキュートス。お前たちはナザリックの防衛を任せる。外殻を固め、地下の結界と守りを全力で強化するのだ。アウラ、マーレ。お前たちは補給線の確保と医療、並びに退避経路の構築を監督せよ。万一、我らが戦線に留められる事態になった場合でも、残された者たちが生き延びられるように手配するのだ」

 

 彼の語る一つひとつは、死線をくぐる者のための配慮と計略に満ちていた。守護者たちは各々の任務を受け、身を低くして答える。

 

 そして、ジョンが淡々と最後の一条を付け加えた。声音は冷たくも、揺るがぬ強さを宿している。

 

「――もし評議国の竜王たちが、我らの不在を突いて干渉してくるつもりならば、迷いは無用だ。世界級《ワールド》アイテムを含めた、全ての武装の使用を許可する。お前らが持てる最大の力で、ナザリックを護り抜け。残る者のために、そして我々が戻るその日まで」

 

 その言葉は重く、暗い灯火を灯すように室内を満たした。世界級アイテム──それらは禁忌にも等しい力である。モモンガは瞬間、胸の奥で何かが締め付けられるのを感じたが、迷いはなかった。守護者たちの顔に決意が刻まれる。

 

 アルベドは静かに剣を抜き、刃の先を床に突き立てた。

「御命、承りました。至高の御方の命ずるままに、我が身命を賭して守り抜きます」

 

 デミウルゴスは冷ややかに微笑むように見せ、だがその瞳は燃えていた。

「ナザリックは我らのものである。至高の御方よ、帰還の折には必ずやその栄光を共にするでしょう」

 

 シャルティアは跳ねるように笑い、白い牙を光らせる。

「わっちは存分に暴れてみせるでありんす! 血を啜る楽しみが止まらないでありんすよ!」

 

 モモンガは彼らを見渡し、深いところから出る低い声で締めくくった。

「よい。では行け。お前たちの力を信ずる。だが忘れるな──我らは帰る。生きて、帰るのだ」

 

 守護者たちの声が重なり、ナザリックの闇は希望と覚悟の光を宿した。決戦の時は近い。だが、その裏には、帰還するという至高の誓いが確かに刻まれていた。

 

 

/*/ ケイテニアス山・地下洞窟 突入 /*/

 

 

 シャドウデーモンとバイアクヘーによって収集された情報を基に、ナザリックは慎重に突入部隊を編成した。

 主力は全身を神話級装備で固めたモモンガ、ジョン、ぐりもあ。さらに別動隊としてオーバーロード3体とペイルライダー12体が編成され、その指揮にはシャルティアが任じられた。モモンガの直衛にはアルベドが加わり、主の身を守る盾として同行する。

 

 洞窟の入り口で、ジョンが短く告げる。

「行くぞ。外装ゾンビの動きは完全に把握済みだ。接触地点まで、最短ルートを通る」

 

 ぐりもあは魔力視覚を起動し、洞窟内の魔力の波を読み解く。

「尾と翼の振動は一定周期……巨体の隙間も確認済み。突入は可能です」

 そう言いながら、飛翔して両者に補助魔法を展開する。防御強化、攻撃増幅、速度補正――あらゆる支援を惜しみなく重ねた。

 

 モモンガは杖を握り、静かに頷く。

「前回の戦闘で外装ゾンビの挙動は解析済み。冷静に、そして確実に。事前準備は万全だ」

 

 三人は互いに視線を交わし、言葉少なに頷き合った。神話級装備の光が、洞窟の闇を淡く照らす。重厚な金属音が足元に響くたび、緊張感が研ぎ澄まされていく。

 

「慎重にな……でも、行くぞ」

 ジョンが低く呟き、武器を構えた。

 

 奥へ進むごとに、外装ゾンビの巨体が擦れる音が地響きとなって伝わってくる。尾や翼が岩壁を叩きつけ、破片が飛び散った。だが、ナザリックが掴んだ情報通り、巨体の挙動は規則的で、確実に読み取れるものだった。

 

 ぐりもあは魔力視覚の映像をジョンの魔導具にリンクさせる。

「この隙間からなら、直接攻撃が届きます。タイミングは――」

 

 ジョンは頷き、モモンガに視線を送った。

「よし、行くぞ……!」

 

 三人が一斉に跳躍した瞬間、洞窟内に轟音が走る。地響きとゾンビの唸り声、そして赤く光るキュアイーリムの瞳が彼らを捉えた。その視線には怒りと警戒が入り混じり、侵入者を迎え撃つ意思をはっきりと示している。

 

「外装の挙動は想定通り……」

 ぐりもあが低く呟き、視界を走る魔力の流れを追った。

 

 ジョンは荒野を俯瞰する狩人の目で状況を整理する。

「奴の動きは重い。尾も翼も周期で振れる。見極めれば、確実に隙がある」

 

 モモンガは杖を握り、静かに宣言した。

「準備は整った……あとは我らの連携次第だ」

 

 

/*/

 

 

 背後で控えていたアルベドが、一歩前へ進み出る。漆黒の鎧を纏い、双角をわずかに震わせながら、真っ直ぐにモモンガを見据える。

「――この命、いかなる災禍にも代えてお守りいたします。我が主よ。たとえ竜王であろうとも、アルベドは決して退きません」

 

 その声音は氷のように冷たく、それでいて灼けるような熱情に満ちていた。

 

 続いて、別動隊を率いるシャルティアが、嬉々とした笑みを浮かべて声を響かせる。

「くふふ……愉快でしてよ。百万のゾンビだろうが竜王だろうが、主を愚弄する輩は、わたくしの槍で串刺しにして差し上げますわ!」

 紅い瞳は闘争の歓喜に輝き、その槍先は戦場を待ち焦がれるかのように震えていた。

 

 モモンガは二人を見渡し、深く頷いた。

「アルベド、シャルティア……お前たちの忠義、しかと受け取った」

 

 

/*/

 

 

 三人の主力と二人の守護者、そして別動隊。

 全ての布陣が整い、ケイテニアス山地下洞窟での戦いは、決戦の幕開けを迎えようとしていた。

 

 

/*/ ケイテニアス山・地下洞窟 決戦 /*/

 

 

 洞窟は呻き声のような地鳴りに満ちていた。壁を震わせるのは、百二十万体ものゾンビが一つの肉塊となって形作った竜王キュアイーリムの巨躯。赤黒い瞳は血に飢えた獣のように輝き、挑む者たちを睨み据える。尾が振り下ろされるたび空気は裂け、翼がはためくたびに空間が歪む。

 

 その圧倒的な存在感に、ジョンは己を鼓舞するように咆哮した。神器《大地を揺るがすもの》が共鳴し、赤黒い輝きとともに姿を膨張させていく。瞬く間に二百メートルを超える巨狼へと変じ、振り下ろされた竜王の尾を真正面から受け止めた。洞窟全体が軋み、天井から岩片が崩落する。だが、ジョンの四肢は揺るがなかった。

 

(退いたら……誰も生き残れねぇ。やるしかねぇんだ!)

 

 その背後で、モモンガが静かに魔力を収束する。骨の指先から溢れる黒の奔流が虚空を絡め取るように広がっていく。

《The goal of all life is death》――あらゆる生ある者の目指すところは死。

 

 超位魔法〈黒き豊穣への貢〉。発動まで十二秒。その短さは永遠にも等しく、仲間を守るための地獄の時間だった。

 

(頼んだぞ、ジョン。この一撃を通すために……)

 冷徹な意思を内心に刻みつけ、モモンガは魔力を練り続ける。

 

 竜王の尾が再び振り下ろされる。巨体を軋ませる衝撃に、ジョンは血を吐きながらも踏みとどまった。

「ぬぅぅぅぅ……ッ!」

 全身を引き裂く痛みと、心臓を締め付ける恐怖。だが彼は足を退けない。

(勝てるのか? 本当に……だが退けねぇ! 仲間を守る、それが俺の役目だ!)

 

 

/*/

 

 

 十二秒が満ちた瞬間、暗黒の砂嵐が洞窟を呑み込んだ。百二十万のゾンビは一斉に砂と化し、竜王の外殻が消し飛ぶ。赤い瞳が動揺に揺らめいた。同じく範囲内にいたジョンは課金アイテムの自動蘇生で即死効果を無効化する。

 

(……魂の供給源が……断たれた?)

 

 喉奥には〈滅魂の吐息〉が収束していた。撃てば敵を滅ぼせる。しかし、それは己の魂を削る選択。竜王の誇りが、初めて揺らいだ。

 

 その隙を逃さず、巨狼が咆哮をあげる。

「これが……俺の全力だッ!」

 二百メートルを超す巨体が竜王を押し返し、吐き出されかけたブレスを逸らす。黒い仔山羊が悲鳴を上げて呑まれ消え失せた。

(まともに受ければ……俺だって一瞬で灰だ……!)

 ゾクゾクする。

 死ぬかもしれない恐怖。手足がきゅっとしまり血が逆流するような寒気。

 

 死を感じる局面でこそ感じる生の実感!

 

 生きてる!俺は今、生きて、戦っている!

 

 

/*/

 

 

 追撃の手は緩まない。

 モモンガの三重強化《現断》が竜鱗を裂き、ぐりもあのバフマシマシの《朱の新星》3重強化が紅蓮を爆ぜさせる。さらに背後からオーバーロード部隊の《核爆発》が一斉に放たれ、赤白の閃光が巨体を焼いた。

 

 シャルティアが笑い声とともに跳躍する。12体のペイルライダーと共に突撃し無数の槍がキュアイーリムの肉を喰らう。

「お戯れはここまででしてよ!」

 《スポイトランス》が閃き、竜王の肉を抉る。紅い瞳が狂喜に輝いた。

「主を愚弄するなど百万年早いのですわ!」

 

 掲げられたシャルティアの《赤い月の盾》が夜の加護を呼び込み、ジョンの巨体をさらに強化する。全身を駆け巡る力に思考は獣じみ、理性の枷が軋む。

(考えるな……噛み砕け……引き裂け……!)

 

 竜王はなおも誇りに縋る。喉奥に再び〈滅魂の吐息〉を集め――

 

「……我が主に牙を向けること、それ自体が罪」

 アルベドの声が冷たく響いた。展開された《真なる無》が空間を歪め、破滅の光は虚空に吸い込まれて消えた。

「許されるはずもありません」

 

 竜王の眼に、初めて恐怖が宿る。

 

 

/*/

 

 

 その刹那、巨狼が牙を剥いた。神器と魔法が共鳴し、雷と暴風が渦を巻く。

「――終ワリダ!」

 

 2つの三重に展開された魔法が凝縮され、洞窟全体が軋む。

 

「静マレ……! 俺ノ内デ轟ケェェェ!」

 

 鍛え上げた力、仲間たち共に築き上げた装備の力で強大な敵を圧倒する。

 ゾクゾクする高揚感、万能感。どんな美酒よりも己を酔わせるこの瞬間。

 

 〈静動轟一〉で3倍――暴走しかけた奔流を己の肉体に押し込み、最後の咆哮とともに解き放つ。

 

雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)*”大地をゆるがすもの”により100倍

 

 雷鳴と暴風が竜王の胸を貫き、心臓を焼き切る。赤黒い血潮が噴き散り、巨体が大きく揺らいだ。

 

「な、に……これが……我が……」

 誇り高き竜王の声が驚愕に染まり、やがて絶望に呑まれていく。

 

 ジョンは朦朧とする意識の中でそれを見届けた。

(……ヤッタ……本当ニ……)

 

 轟音とともに竜王は崩れ落ちた。誇りを掲げ続けた存在が絶叫を残し、虚空へ消えていく。

 

 

/*/

 

 

 静寂が訪れた洞窟に、荒れ果てた大地と、なお立つ仲間たちだけが残された。

 モモンガは息を整え、静かに言葉を紡ぐ。

「……終わったか」

 

 アルベドは深々と跪き、声を震わせる。

「モモンガ様のお導きにより、この勝利を得られました」

 

 シャルティアも槍を掲げ、血に濡れた顔で笑う。

「ですわ! 見ましたか、この竜王の無様な最期を!」

 

 巨狼の姿は次第に収まり、ジョンは人狼へと戻っていく。荒い息を吐きながらも、その瞳はまだ戦いの熱を失っていなかった。

 

(まだ終わりじゃねぇ。……だが、少なくとも――この戦いは、俺たちが勝った)

 

 

/*/ 竜王との決戦・戦後 /*/

 

 

 戦場に、しばし沈黙が訪れた。

 

 雷鳴と轟音が去った後の大地は黒焦げに抉られ、瓦礫と灰が風に舞っていた。あれほど世界を覆うかのような威容を誇っていた竜王の影は、もはやそこにはない。残されているのは、巨大な骸の一部と、なお燻る残滓の魔力のみだった。

 

 ジョンは大きく息を吐き出す。己の胸が上下するたび、さきほどまで張り詰めていた緊張の糸が切れていくのが分かった。――勝ったのだ、と頭では理解している。だが心はまだ信じ切れず、竜王の咆哮が耳奥に残響のようにこびりついて離れない。

 

「ふう……やれやれ、ワールドエネミーに比べれば軽い相手だって言ったのに、危うく骨が折れるところだったな」

 軽口を叩いてみせる。声はかすかに震えていたが、それでも仲間に心配をかけまいと口角を上げた。

 

 その横で、モモンガは静かに骸を見つめていた。彼の赤い瞳に揺れる光は、勝利の喜びというよりも、より深い思索の色に近い。

「……終わった、か。しかし、代償は小さくはなかったな」

 視線の先には、砕け散った魔法陣の残滓。彼は己が放った一撃の重さを知っている。それは勝利をもたらすと同時に、確実に己の魔力を削ぎ落としていた。

 

 アルベドは、そんな主の横顔を見つめながら胸の奥が熱くなるのを覚えていた。戦いの最中、盾として在るべき己は一度も揺らがなかった。だが今、安堵と共に湧き上がるのは、主の無事を確かめられた歓喜だ。

「……モモンガ様。お怪我は……ありませんか?」

 問う声は堅く、けれど震えも混じっていた。

「心配には及ばない。私は無事だ、アルベド」

 その答えを受けた瞬間、彼女は抑えきれぬほどの幸福に包まれる。――自分はこの御方の盾なのだ。命を捧げてでも護り抜く、その役割を果たせた。今はただ、それだけが誇りだった。

 

 一方、シャルティアは戦場の名残に舌なめずりをした。全身を駆け巡る血の昂ぶりはまだ冷めきっていない。だが主の命が守られたと知った今、その激情は安堵へと転じていく。

「ふふ、まだまだ暴れ足りないでありんすが……でも、勝利の美酒には十分でありんすな」

 冗談めかした声音の裏に、彼女なりの忠誠と安堵が込められていた。

 

 そしてデミウルゴスは、冷静に戦場を観察していた。至高の御方がこの局面を制したことは疑いようもなく偉業であり、同時に彼にとっては重責を意味する。主が背を預け、ナザリックの命運を託したのは自分なのだ。

「……この勝利を決して無にしてはならない。必ずや、後の布石へと繋げなくては」

 その瞳は既に次の一手を見据えていた。

 

 ジョンは振り返り、仲間たちの顔を一人ずつ確かめた。アルベドは誇らしげに、シャルティアは血気盛んに、デミウルゴスは冷徹に。そして、モモンガは静かな威厳を湛えている。

 ――ああ、俺は一人じゃない。

 胸の奥に、ようやく確かな実感が宿る。竜王という絶対的な脅威に立ち向かえたのは、自分の力ではなく、この仲間と共にあったからだ。

 

「さて……帰るとするか」

 モモンガの低い声が響く。

 誰も異を唱えなかった。ただその背を追い、それぞれの胸に誇りと決意を抱きながら、ナザリックへと歩を進める。

 

 戦場に吹く風は冷たくも、彼らの心は熱かった。勝利の余韻は甘く、しかし同時に未来への重責を突きつける。それぞれの胸に去来する思いは違えど――彼らを束ねる主への忠誠と、共に歩む覚悟だけは、ひとつに結ばれていた。

 





威力偵察までして相手を丸裸にしてたら、3+2+15対1だし、割とあっさり終わるよね。


次回!
第140話:大団円

えー終わっちゃうの?
マジ―?
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