オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第144話:猫の勘違い

 

 

/*/ 魔導国大使館・応接室 /*/

 

 

重厚な扉の向こう、やたら明るい部屋。

ジルクニフがソファに沈み、正面の若造――大使ジョンを射抜くみたいに見据えてる。

あーしは紫がかった黒猫の姿で、陛下の足元で丸まって様子見。耳は全開。

 

「……やはり、お前たちの目的が分からん。

 鉄の騎士に続き、今度は“へびーましんがん”。

 与えられるものは、いつも我が帝国の限界を越えている」

 

ジョンは肩をすくめてヘラッと笑う。

「逆に聞くけどさ、ジルクニフ。俺ら、そんなデカい算段を毎回やってるように見える?」

 

「……見えるとも。出来すぎだ」

陛下の声は低いけど、ちょっとだけ震えてる。そりゃそうだ、バランスブレイカーばっか投げ込まれてんだもん。

 

ジョンが身を乗り直して、にやっと笑う。

「お、今日は猫がお供か」

 

陛下、ちょい目を逸らして細める。

「……また馬車に紛れ込んできたのだ。私が連れ歩いているわけではない」

 

(はいバレたー。だって退屈だったんだもん。しょうがなくない?)

ジョンが肩を揺らして笑う。

「ふむ、可愛いじゃないか。猫まで掌握してるとは、さすがだな」

「……同行者である」

(“友達”って言っていいのに、素直じゃないんだよねぇ)

 

そこでジョンが、間を置いて真顔。

「友達だろ、お前」

 

(……は?)

陛下の心臓の鼓動、足元からでも分かるレベルで跳ねた。空気が一瞬止まる。

 

「……冗談にしては、質が悪い」

声は冷たいのに、膝の上の拳が微細に震えてるの、あーしは見逃さない。

 

ジョンは笑って、でも目だけ真っ直ぐ。

「じゃあ本気。俺も、モモンガさんも――お前のこと、友達だと思ってる」

 

(やるじゃん。そういう言葉、いちばん効くやつ)

陛下は黙って、ほんの少しだけ口元が緩む。

そして低く唸るみたいに言う。

 

「……では言わせてもらうが。

 お前(ジョン)が私に化けて闘技場で“天剣のエルヤー”を倒したせいで、

 剣士どもが次々と私に挑戦してくるようになった。どういうつもりだ?

 私の“偽物”を、いつでも送り込めるとでも?」

 

眼光は刃。けど、その奥に“揺れ”があるのも分かる。

 

ジョンは背もたれにふんぞり返って、指をひらひら。

「いやいや、気まぐれ。貶める気も混乱させる気も無し」

 

「結果として混乱した!」

陛下、肘掛を拳でコツン。

「……挑みを受ける皇帝など、威信が崩れる」

 

ジョンは口角を上げ、声の温度を少しだけ落とす。

「だから言ったろ。友達だって。困ってる友達の代役――俺がまたやる?」

 

(わぁ、正面から投げてきた。これは断れない言い方)

陛下は低く吐く。

「……ふざけるな」

言葉は拒絶、でも色は“頼もしさ”を滲ませる。器用な人だ。

 

ジョンは満足げ。

「困ったら言え。俺が化けりゃ、挑戦者は片っ端から片づける」

 

「……だからその“いつでも成り代われる”態度が恐ろしいのだ」

溜息ひとつ。赤い瞳の奥を射る。

「……本当に、お前は友か、それとも――」

 

「友達だろ」

即答。無駄のない直球。

 

(……効く。ほんと、効くやつ)

 

あーしの頭の中でもネタ回し。

(“へびーましんがん”って、やっぱヘビーマシンガン? 銃とか出すの、世界バランス壊れない?

 ……でもジョン、先まで見て配置してる匂い。

 あーしの知ってる“ノリと勢いで地獄まで行くジョン・カルバイン”とは別人級。別枝? 別周回?)

 

足元の尻尾が小さく揺れる。

(――ま、面白いから良し)

 

 

/*/ バハルス帝国 皇帝執務室・宵 /*/

 

 

宵。近習も護衛も下げて、部屋は蝋燭一本と影だけ。

ジルクニフは椅子に沈み、長い影を引きずってる。

 

「……友達、か」

自嘲気味に笑って、

「ふざけるな……」

 

(うん、分かるよ。玉座に“友達”なんて置くスペース、普通は無い)

あーしは静かに机の端へ跳び、蝋に揺れる炎を横目に、陛下の横顔を見上げる。

 

ペン先が机をトン、トン、トン。

「……くだらん」

と言いながら、脳内から追い出せないのは“くだらなくない”証拠。

 

“もし本当に、ただの言葉だったとしたら?”

その想像だけで、陛下は立ち上がる。心臓が早鐘。汗がにじむ。

 

(大丈夫、落ち着け)

あーしはそっと肩に鼻先を寄せ、指先をぺろ、と舐める。

柔らかな毛並みを頬に擦り付ける。

 

「……お前……」

驚き、戸惑い、でも胸の奥が少し緩む音がした。

 

(友達は、だいじ。ね?)

言葉の代わりに、手に頬をこすりつける。喉を小さく鳴らす。

 

ジルクニフは長く息を吐き、炎を見つめた。

「……友達か……」

 

蝋燭の灯が、孤独の角を少しだけ丸くする。

その夜、猫の温もりが皇帝の胸の穴を、針の先ほどでも埋めた。

 

(ま、あーしは“クッション兼センサー”だから。

 泣きたくなったら撫でな。課金は焼き肉一本)

 

 

/*/ バハルス帝国 皇帝執務室・宵 /*/

 

 

紫がかった黒の毛並みのあーしは、陛下の膝におさまってる。

ジルクニフはゆっくり息を吐いて、あーしの目を見下ろした。

 

「……お前に話すのも、馬鹿げているのだが」

陛下の声は低く、ちょっと震えてる。

「私は……一人で、長くやってきた。誰も信用できず、誰も近づけず……」

 

(知ってるよ。そういう顔、もう見飽きたっての)

あーしは爪を立てず、膝の上で丸くなるだけ。耳はちゃんと開いてる。

 

「だから……“友達”という言葉に、戸惑っている」

陛下の手が、あーしの頭を撫でる。

「友を持つということが、どういうことか……忘れてしまったのだ」

 

(ふーん。なら、思い出すまで一緒にいりゃいいだけ)

あーしは小さく喉を鳴らして、手に顔をすりっと押しつける。

 

「……だが、な」

目を閉じた陛下が静かに続ける。

「お前のような存在が、そばにいてくれるなら……少しは、救われるかもしれん」

 

(救済は有料、って言いたいとこだけど。今夜はツケでいいや)

ぺろ、と指先を舐め、もう一度頬を擦る。

 

「……友か」

さっきより柔らかい声。

「……なるほど、こういう気持ちも、悪くないな」

 

蝋燭の明かりが揺れて、影もいっしょに揺れる。

あーしはそのまま抱えられて、陛下の胸の鼓動がちょっと落ち着いていくのを感じた。

 

「……よし……明日も、帝国のために、私はやるしかない」

 

(そうそう。あーしがクッションしてやるから、折れんなよ)

あーしはひと鳴きして、そのまま膝の上で眠った。

 

 

/*/ バハルス帝国 皇帝執務室・深夜 /*/

 

 

翌晩。

そっと扉を押して、あーしはまた膝にぴょん、と飛び乗る。

 

「……お前は、どうしてこうも人を惑わせるか」

陛下は撫でながら、かすかに笑う。

「“友達だ”と言ったあの男も、な」

 

(ジョンね。あの言い方はズルい。効くの分かっててやってる)

 

「……なるほどな」

陛下が呟く。

「ただの言葉ではない。あいつは、街も闘技場も、俺の国も、全部使って守ろうとしている……」

 

(計算尽く、ってやつ。あーしの知ってる脳筋ジョンとは別物に見えるけど)

顔をこすりつけて喉を鳴らすと、陛下の肩が少し落ちる。

(ほら、甘えるって大事。やり方は教えるから)

 

廊下の官僚や近習が、陛下の表情の“柔らかさ”に気づいてざわつく。

(バレた? でもいいや。柔らかい皇帝も、悪くないっしょ)

 

朝日が差し、蝋燭の光と混ざって部屋が少し明るい。

陛下はあーしを抱えたまま書類を開く。

(よし、今日もやる気スイッチ入りました)

 

「……お前も、友かもしれん」

 

(“かも”じゃなくて友。ついでに専属もふもふ)

あーしはゴロゴロで返事した。

 

 

/*/ 帝国宮廷・執務室 /*/

 

 

「……私はそんなもの望んでいない……!

 なぜ、私が知らぬところで“英雄皇帝”に祭り上げられねばならんのだ……!」

 

(はいはい深呼吸)

机を叩いた陛下の膝に、あーしは無言で飛び乗る。

顔をすり寄せ、ゴロゴロを強める。

 

「……っ」

手が止まる。

(そう、それでいい。いったん止め)

 

「……お前は……わかっているのか……」

撫でる手に、困惑と、ちょっと安堵の温度。

 

脇でバジウッドたちがほっと息をつく。

「陛下、少し落ち着かれましたか」

 

(落ち着いた。というか落とした。落としてから考えろが鉄則)

陛下はあーしを抱き寄せて丸める。

「……せめて、お前くらいは……我を理解してくれておるな」

 

(理解どころか、取説書いてやろか? “撫でる→冷静化→意思決定”)

空気が少し軽くなる。人間って単純で助かる。

 

 

/*/ 小さな作戦会議(猫つき) /*/

 

 

陛下が息を吐く。

「……ふむ、こうしておれば、少しは冷静になれるか……」

 

(でしょ? では議題どうぞ)

あーしは指先にじゃれつきつつ、視線は書簡の端へ。

(そこ、優先度落として。こっちは並行化。で、闘技場の熱狂は“逃がし弁”に回す)

 

「……なるほど、確かに……」

陛下の目が細くなる。

「闘技場の熱狂を利用し、民衆を掌握する……ジョンめ、確かに計算しておるのかもしれぬ」

 

(うん、ジョンは“導線”を作ってる。だから乗るにしても、手綱は離すな)

 

陛下が頷き、指で机を二度、軽く叩く。

「……よし、こうする。地方の豪族には幻影を信じさせ、民衆には英雄皇帝の像を維持させる。

 だが、実際に剣を振るうのは“影”――ジョンの役割だ」

 

(正解。影は影、表は表。役割分担はっきり)

あーしは小さく身を丸め、目を細めてうなずく代わり。

 

「……ふむ、これなら帝国も、私も、無理をせずに済む」

陛下は計画の最終確認に戻り、ふと膝の上を見て微笑む。

「……ありがとう、友よ。いや、これは……助っ人か」

 

(友で助っ人でクッションで、時々ブレーキ。請求は焼き肉一本な)

あーしは尻尾で“了解”の一打ち。

作戦は回り始めた。猫つきで。

 

 

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