オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第146話:猫の城塞

 

 

/*/ カッツェ平原 /*/

 

 

風が砂を巻き上げ、乾いた大地を削る。

かつて数十万の兵が死に絶え、今では不毛の地と化したカッツェ平原。

その荒涼たる中を、一行の冒険者パーティが慎重に進んでいた。

 

先頭を歩く戦士が、ふいに足を止めて指を伸ばす。

「……あれ、見えますか?」

 

全員が顔を上げた。

砂嵐の向こう――半ば埋もれながらも確かに立つ、巨大な影。

それは城塞だった。

 

「……なんだ、ありゃ」

後衛の弓使いが息を呑む。

近づくほどに、その異様な造形が明らかになっていく。

 

壁面には無数の猫の彫刻。塔は猫耳のように尖り、門は巨大な猫の顔を模している。

石畳には肉球の模様が浮き彫りにされ、風が吹くたびに、どこからか「にゃあ」とも取れる音が響くような錯覚すら覚えた。

 

「……伝説の“猫の王国”……?」

魔法使いの少女が息を呑む。

「まさか、実在したっての……?」

 

レンジャーが膝をつき、崩れた壁の破片を指でなぞる。

「魔力残滓が濃い……生きてる、まだ動いてるみたいだ」

 

一行は互いに顔を見合わせる。

誰もが、この発見がただの遺跡ではないと悟った。

 

「組合に報告しよう。今の我々では、深入りは危険だ」

僧侶が静かに言い、全員が頷く。

 

地図を描き、魔力計の数値を記録し、崩れた猫の門のスケッチを残す。

やがて一行は、砂嵐の中へ消えていった。

 

だがその背後で、城塞の奥深く――

無数の猫の彫刻が、風もないのに微かに首を傾げた。

 

まるで、来訪者を見下ろして笑うように。

 

 

/*/ 冒険者組合・会議室 /*/

 

 

組合長アインザックは、報告書に目を通す指を止めた。

「……カッツェ平原北東部、猫を模した城塞。地下に広がる構造あり、魔力残滓極めて強い、か」

 

重厚な会議室の中がざわめきに包まれる。

「猫の王国って……子供の寝物語じゃなかったのか」

「いや、伝承だ。古い記録に“ねこさま大王国”の名がある」

 

アインザックは眉をひそめ、長年の経験が刻まれた顔に緊張の色を浮かべた。

「……猫の王国、か。

 もし本当に存在していたのなら――人間の手では造れぬ魔力構造体の可能性がある」

 

部下たちは息を呑む。

「……探索は?」

「すぐには出せん。危険すぎる。まずは金級以上の探索許可を申請し、魔導国にも報告する」

 

そう言って、アインザックは報告書をそっと閉じた。

「カッツェ平原は……また“動き出した”のかもしれんな」

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第九階層・円卓の間 /*/

 

 

光を受けて淡く輝く円卓の間。

直径数十メートルの黒曜石の円卓に、三人の影が座していた。

 

モモンガ。骸骨の支配者。

ぐりもあ。黒髪の叡智を司る魔女。

ジョン。青白き毛並みを持つ戦士にして獣王。

 

彼らの前には、冒険者組合が提出した報告書と、詳細なスケッチが整然と並べられている。

 

ジョンは分厚い手で紙を押さえ、低く唸る。

「……なるほど。猫の顔した門、肉球模様の床、猫耳塔……。

 完全に“意図されたデザイン”だな」

 

ぐりもあは長い指で魔力感知の数値をなぞる。

「魔力の偏在が不自然です。まるで生体の神経網のように分布している……。

 つまり、城塞そのものが“眠る生き物”のような構造なのかもしれません」

 

モモンガは静かに頷き、骸骨の手を机に置く。

「ふむ。構造、魔力残滓、守護者の存在……。

 これは確かに、我々が軽率に触れていい遺構ではないな」

 

ジョンは腕を組み、鋭い目を細める。

「……とはいえ、面白ぇ。猫の王国だぞ? 伝説級の遺跡がこの世に残ってる。

 放っとく手はねえ」

 

ぐりもあがくすりと笑う。

「またそういう顔をして。……好奇心だけで突っ込んだら、命がいくつあっても足りませんよ」

 

「おれが死ぬわけないだろ。モモンガさん、行こうぜ!」

ジョンが椅子を軋ませながら立ち上がる。

「こんな面白そうな迷宮、他にねぇよ!」

 

モモンガは冷静な声で応じた。

「……私たちが行くのは構わない。ただし、準備は入念に行う。

 罠の可能性、干渉魔法、未知の存在――軽く踏み込めば全滅もあり得る」

 

「はいはい、分かってるって」

ジョンはにやりと笑い、ぐりもあを見やる。

「ぐりもあさんも楽しみなんだろ? 顔に出てるぞ」

 

ぐりもあは頬に手を当てて微笑む。

「……否定はしません。

 未知の魔力構造、失われた文明、そして猫の形をした城塞……。

 それが何を意味するのか、分析できると思うと……少し、胸が高鳴りますね」

 

「ほら、やっぱり!」

ジョンの声に、モモンガの笑いが静かに重なった。

「ふふ……まったく。お前たちは相変わらずだな」

 

やがて、三者は視線を交わす。

その場に流れるのは、抑えきれない探究心と、計り知れぬ危険への予感。

 

モモンガが立ち上がり、重々しく言った。

「よし――ナザリック探索隊を編成する。目的は“ねこさま大王国”の遺構調査。

 まずは地上の封印と地下へのアクセスルートを確保する」

 

ジョンは拳を握り、尾を小さく振る。

「決まりだな。あー、胸が躍るぜ!」

 

ぐりもあは報告書を閉じ、魔法陣を浮かべながら立ち上がる。

「……では、準備を始めましょう。

 未知の遺跡が、私たちをどんな“歓迎”で迎えるか――確かめに行かなくては」

 

モモンガの赤い眼光が円卓を照らす。

「……面白いことになりそうだ」

 

そして、

円卓の間に満ちる静寂の中で――

ナザリックの三者だけが、新たなる探索の幕開けを悟っていた。

 

地下深くに眠る「ねこさま大王国」。

その扉は、静かに、しかし確実に開かれようとしていた。

 

 

/*/ カッツェ平原・幽霊船上 /*/

 

 

薄霧の立ち込めるカッツェ平原を、幽霊船が静かに滑るように進む。

船体には魔導国の旗が風もないのにふわりと揺れ、幽かな光を反射する。霧に包まれた平原の地表は一面の荒地に見えるが、その下にはかつての「ねこさま大王国」の痕跡が眠っている。

 

ジョンは船の舷側に立ち、青白い毛並みを光らせながら前方を見据える。

「おお……あれが……猫の城塞か!」

胸に纏った神話級《ゴッズ》装備『狼王の胴着』が、幽霊船の薄明かりにわずかに反射する。

巨大な狼紋の胸当てが、戦闘態勢の緊張感を漂わせる。

 

ぐりもあは魔法陣の紋様が刻まれたマントを静かに揺らしながら、報告書と地図を広げる。

「本当に、報告書通りですね……表面は瓦礫に埋もれていますが、地下迷宮の入り口が確認できます」

バッファー・デバッファー型の神話級《ゴッズ》装備『アーク・オブ・エクリプス』を着用し、魔力増幅と支援呪文の準備を整える。

 

モモンガは舷側に寄り、骨の手で船の甲板を軽く叩く。

「幽霊船での移動は安全だが、周囲の魔力残滓や怨念化したエネルギーには注意が必要だな」

ロールプレイ重視の死霊術師型神話級《ゴッズ》装備により、召喚死霊が薄霧の中で微かに揺らめく。

「ここで奇襲される可能性もある。探索隊は慎重に行動する必要がある」

 

霧の向こう、瓦礫の中から巨大な猫の顔を模した城塞が、漆黒の影として姿を現す。

その存在感に、ジョンも思わず身を乗り出す。

「すげぇ……でけぇ……!」

巨大な城塞の入口は、まるで牙をむいた猫の口のように開いており、地下迷宮への入口を示していた。

 

ぐりもあは手を胸の前で組み、指先で魔力の流れを探る。

「……慎重に、まずは入口周辺の安全確認を行いましょう。罠や守護モンスターの反応も予測しておく必要があります」

 

モモンガは低く笑い、指先で甲板を軽く叩く。

「ふむ……面白い。生き残ったギルドの痕跡と、残滓化した魔力……これはナザリックの私たちにとって、絶好の実地調査になる」

 

ジョンは拳を握り、船の揺れに合わせて微かに身を乗り出す。

「さあ、幽霊船も着いたし、地下迷宮への扉も目の前だ! この探索、絶対に面白くなるぞ!」

 

幽霊船がゆっくりと城塞の前に停泊し、霧に包まれた瓦礫を踏み越える準備が整った。

三者それぞれの神話級装備が揺らめき、微かな光を放つ中、未知なる「キャット・シタデル」への挑戦の幕が上がろうとしていた。

 

 

/*/ カッツェ平原・キャット・シタデル地上遺構 /*/

 

 

幽霊船から上陸したジョン、ぐりもあ、モモンガは、瓦礫に埋もれた巨大な城塞の前に立つ。

猫の顔を模した外壁や、朽ちた肉球の装飾、割れた石畳――すべてが、長い時を経てなお不気味な存在感を放っていた。

 

ジョンは胸の狼紋が輝く神話級《ゴッズ》装備『狼王の胴着』の胸を押さえ、瓦礫の間を歩きながら壁面の猫像をじっと見つめる。

「……あ……」

唇を動かし、小声でつぶやいた。

「ユグドラシル時代に何度か訪れたことのある、あの『ねこさま大王』のギルド拠点にそっくりだ……やっぱりここはユグドラシルのギルド拠点なのか……」

 

ぐりもあは黒髪を肩に垂らし、指先で魔力残滓をなぞる。

「魔力のパターンも、報告書の情報と一致していますね。地下に迷宮がある可能性が高いです」

 

モモンガは骨の手で瓦礫を押しながら低く笑った。

「……なるほど。完全に残滓化したギルド遺構か。地上だけでも魔力が生きている」

 

ジョンは瓦礫の間を進み、壁の装飾を指先でなぞる。

「細かい装飾まで、昔とまったく同じだ……これは手間がかかったギルドだよ」

 

ぐりもあは微かに笑みを浮かべ、魔力の反応を確認する。

「慎重に進めば、地上の遺構からも有用な情報が得られそうです」

 

モモンガは骨の指で瓦礫を軽く叩き、低い声で言った。

「地下に潜る前に、できる限り安全を確認しておこう」

 

ジョンは地面に手を置き、瓦礫の感触を確かめながら空を見上げる。

「……さあ、準備は整った。次は地下迷宮だ」

 

三者は瓦礫の間を抜け、猫の口の奥に伸びる地下階段に向かう。

地上遺構で確認した魔力残滓や守護の痕跡を意識しつつ、ナザリック三者は未知の地下迷宮へと第一歩を踏み出した。

 

 

/*/ カッツェ平原・キャット・シタデル地上遺構調査 /*/

 

 

瓦礫と風化した壁の間を進むナザリック三者。

ジョンは青白い毛並みを光らせ、胸の狼紋が輝く神話級《ゴッズ》装備『狼王の胴着』の感触を確かめながら、瓦礫の破片を手で押さえる。

「……これ、風化だけじゃないな……」

 

ぐりもあは指先で壁面のひび割れや魔力残滓をなぞり、分析を始める。

「自然に崩れた痕跡と、明らかに人為的に破壊された痕跡が混在しています。瓦礫の配置や魔力の焼け方から、意図的な攻撃の可能性が高い」

 

モモンガは骨の手で瓦礫の一部を押し、低く呟く。

「……なるほど。残滓の形状や魔力の焼け方からして、八欲王のような存在の仕業かもしれん」

周囲に漂う残滓を死霊で感知させると、焦げた魔力の痕跡が小さな波として返ってきた。

 

ジョンは瓦礫を踏み分けながら、割れた石像の顔を指でなぞる。

「ここまで計画的に破壊するとは……やはり八欲王の襲撃だな。かつてのギルドメンバーも、逃げるしかなかっただろう」

 

ぐりもあは黒髪を揺らしながら、微細な魔力の残滓を観察する。

「魔力の焦げ跡や爆散の痕から、破壊行為の規模も相当です。地上の遺構だけでも、ギルド拠点の一部は完全に破壊されていることが分かります」

 

モモンガは低い声で分析をまとめた。

「地下も同様の影響を受けているだろう。慎重に進める必要がある。安易に飛び込めば、封印や罠が暴走するかもしれん」

 

ジョンは瓦礫の中を進み、昔の記憶と照らし合わせながらつぶやいた。

「……それにしても、やっぱりここはかつての『ねこさま大王』のギルド拠点……八欲王の襲撃でこれほどまでに破壊されたのか」

 

ぐりもあは指先で魔力波を追い、冷静に言った。

「地上遺構だけでも、かなりの情報が得られますね。破壊痕の分布から、地下迷宮の安全ルートも予測できそうです」

 

モモンガは骨の手で瓦礫を軽く叩き、低く笑った。

「……さて、地上の安全は確認できた。次は地下迷宮に進む番だな」

 

瓦礫と焦げた魔力残滓の間を抜け、ナザリック三者は猫の口の奥に伸びる階段へ向かう。

八欲王の襲撃による痕跡を目の当たりにしつつ、地下迷宮への慎重な一歩を踏み出すのだった。

 

 

/*/ カッツェ平原・キャット・シタデル地上遺構調査 /*/

 

 

瓦礫と焦げた魔力残滓の間を、ナザリック三者は慎重に進む。

青白い毛並みが風に揺れるジョンは、胸の狼紋が輝く神話級《ゴッズ》装備『狼王の胴着』を軽く押さえ、立ち止まった。

 

「……なんだって、八欲王はこんなに破壊したんだ……」

彼の声は低く、震えるように漏れた。瓦礫の向こうにそびえる猫城塞の姿を見上げ、心の中で続ける。

「ねこさま大王国は、戦闘よりも生活系のギルドだったはずだ。攻撃的でも、侵略的でもない……なのに、どうして……」

 

ぐりもあは黒髪を肩に垂らし、指先で壁面のひび割れや焦げた魔力残滓をなぞりながら冷静に分析する。

「地上遺構だけでも、破壊のパターンが明確です。自然崩壊ではなく、意図的に要所を破壊していますね。八欲王の攻撃である可能性が高い」

 

モモンガは骨の手を瓦礫に置き、低く笑った。

「……計画的だ。単なる暴力ではない。力の誇示もあるだろうが、ギルドの拠点機能を完全に潰すことが目的だったようだ」

 

ジョンは瓦礫を踏み分けながら、猫の顔を模した城塞の装飾を指でなぞる。

「……信じられない。ここまで徹底的に潰す必要があったのか……ギルドメンバーの生活、遊び、文化までも消し去ろうとしたのか……」

胸中に怒りと悲しみ、そして少しの苛立ちが混ざり合う。

 

ぐりもあは魔力波の反応を観察し、低く息を吐いた。

「生き残った者がいるかもしれません。地下深くに潜ったままか、あるいは他の土地に逃げ延びたか……」

 

モモンガは瓦礫を指先で軽く押し、低い声で続けた。

「……我々がここでできることは、過去の記憶を確認し、遺構を安全に調査することだけだ。かつてのギルドの痕跡を無駄にしないために」

 

ジョンは瓦礫の先に広がる地下への階段を見つめ、青白い毛並みを逆立てながら唇を引き結ぶ。

「……よし。地下に進む前に、地上の痕跡をすべて確認しておく。八欲王の残した爪痕を見逃さないように……」

 

ぐりもあは静かに頷き、魔力残滓の分布を分析しながら、慎重に足を運ぶ。

「地下迷宮に入る前に、ここで得られる情報をすべて活かしましょう。破壊された痕跡の規模や分布から、安全ルートや危険箇所もある程度予測できます」

 

モモンガは骨の手で瓦礫を軽く叩き、低く笑った。

「……さて、地上の安全は確認できた。次は地下迷宮に進む番だな」

 

瓦礫と焦げた魔力残滓に囲まれた空間で、三者は静かに息を整える。

八欲王の狂気による破壊の跡を目の当たりにしながら、ナザリック三者は地下迷宮への慎重な一歩を踏み出す。

かつて平和で愛されていたギルドの遺構が、目の前に静かに眠っていた。

 

 

/*/ カッツェ平原・キャット・シタデル地上遺構調査 /*/

 

 

瓦礫と焦げた魔力残滓の間を慎重に進むナザリック三者。

ジョンは胸の狼紋が刻まれた胴着を押さえながら、視線を前方の低い塀に向けた。

 

「……あれは……?」

 

目の前には、小さな畑がぽつんと残されていた。雑草が少し生えているものの、かつては人が手入れしていた形跡がはっきり見て取れる。

 

ぐりもあは畑の土を指で軽く触れ、魔力の残滓を感じ取る。

「……最近は使われていないようですね。でも、ここで誰かが生活していたことは間違いありません。魔力の濃淡から、畑も小規模ながら管理されていた時期があったことが分かります」

 

モモンガは骨の指先で畑の脇にある小屋の入り口を指さした。

「……あそこも生活跡だな。家具や棚の跡、簡単な調理道具の残骸……最近は誰も使っていないようだが」

 

瓦礫と焦げた魔力残滓の間に立ち、ジョンは小さな畑と生活跡を見下ろす。胸の狼紋が刻まれた胴着に手を当て、眉をひそめた。風に舞う砂埃が青白い毛並みに絡む。

 

「……ここで生活していたのは、いったい誰なんだ……」

青白い毛並みを逆立てながら、ジョンは低くつぶやく。

「冒険者じゃないだろう。こんなアンデッド発生地帯のど真ん中で……まさか、ねこさま大王国の生き残り……? いや、最近まで使われていた跡があるぞ」

 

ぐりもあは黒髪を肩に垂らし、畑や小屋の魔力残滓を指先でなぞる。

「……魔力の濃淡を見る限り、ここは数十年前から完全に放置されたわけではないですね。つい最近まで生活の形跡があった……長命種が潜伏していたのか、それともギルドマスター権限を持つ者か……」

 

モモンガは骨の手を瓦礫に置き、低く唸った。

「……可能性としては否定できん。八欲王の襲撃から生き延び、地下や地上で潜んでいた者……ギルドマスター権限を持つ者が、ここで最後の生活をしていたのかもしれん」

 

ジョンは瓦礫の上に手を置き、畑の向こうをじっと見つめる。目の奥に、かつての平穏な時代を想う色が差した。

「……平和な生活系のギルドだったのに、どうしてこんなふうに……それに、ここで最近まで暮らしていたとは……」

小さく息を吐き、ジョンはさらに独り言めいた声を漏らした。

「この足跡……小さな…猫? いや、人の足跡も……いや、これは、この痕跡はギルドの最後の生き残り……。おれがユグドラシル時代に知っているあの猫と同じ……」

 

ぐりもあは静かに頷き、魔力残滓の波を追いながら言った。

「地下迷宮の構造や残滓を分析すれば、誰がここに潜んでいたか、ある程度の推測はできるでしょう……。生活の痕跡が残っている以上、無視はできません」

 

モモンガは骨の顎を少し突き出し、低く笑った。

「……なるほど、地下だけでなく地上にも生きていた痕跡があるとなれば、慎重に進む必要があるな。潜伏者がいるなら、我々の調査は簡単にはいかんだろう」

 

ジョンは瓦礫の上に手を置き、畑と小屋跡をもう一度見渡す。

「……ここに潜んでいたのは、間違いなくあの猫だ。生き延びたのか『ねこさま大王国』のギルドマスター……ミリヤ……」

 

三者は小さな畑と生活跡を後にして、瓦礫の奥に伸びる階段へと足を進める。風に混じる微かな植物の匂いや、つい最近まで人の手が入っていた気配が周囲に漂う。

八欲王の破壊痕と、かつて平和に暮らしていたギルドメンバーの生活の気配が交錯する中、地下迷宮への一歩を踏み出した。

 

 

 

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