オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第149話:猫の情報

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・執務室 /*/

 

 

ジョンが書類と調査報告を置き、ぐりもあとモモンガに向かって勢いよく報告する。

 

「おい、聞け!あの幻猫の迷宮のことだが、最後の生き残り――『ねこさま大王国』の猫、ミリヤがジルクニフのところで飼い猫やってたんだ!」

 

モモンガが目を見開く。

「な、なんだと……?あの大王国の猫が、あの皇帝の執務室に!?」

 

ぐりもあはしばし口を閉じ、考え込むように首をかしげる。

「……ジョンさん、それ本当に事実なの?そんなことが……信じられない」

 

ジョンは肩をすくめ、少し誇らしげに続ける。

「事実だ。あいつは、20年くらい平和に過ごしたいって、膨らんだ毛並みで俺に話したんだ。金の瞳と紫がかかった黒の毛並みが印象的でな、昔の姿そのままだ」

 

モモンガは書類を手に取りながら、目を輝かせる。

「なるほど……だからあの迷宮はほとんど機能が生きていたのか」

 

ぐりもあはジョンの肩越しに、興味深そうに膨らんだ金の瞳を思い浮かべる。

「……やっぱり、ナザリックの外でも、小さな秩序や友情は残ってるのね」

 

ジョンは軽く笑い、ぐりもあとモモンガを見渡す。

「そうだ、俺たちが守るべきは、ただの遺跡や宝じゃない。過去の痕跡と生き残りの命そのものだ」

 

モモンガもぐりもあも、静かに頷く。ナザリックの地下だけでなく、外の世界にも守るべき「小さな秩序」があることを、三人は改めて感じていた。

 

 

/*/ バハルス帝国・皇帝執務室 /*/

 

夜も更け、宮中は静寂に包まれる。

膨らんだ毛並みを整え、金の瞳をキラリと光らせたミリヤは、慎重に扉の隙間から執務室に戻る。

ジョンと短い別れを告げた後、彼女の心は少し落ち着きを取り戻していた。

 

机の上では、ジルクニフが書類に目を通している。

ミリヤは静かに足音を忍ばせ、膝の上や椅子の脇を歩きながら、普段通りの猫としての姿勢をとる。

金の瞳は鋭くとも、声を出すことはなく、ひとまず顔を擦りつける仕草だけで愛らしさを演出する。

 

「……無事に戻ったようだな」

ジルクニフは何気なく呟くが、その目には、猫がそこにいることに対する淡い懐かしさと安堵が垣間見える。

 

ミリヤはそっとジルクニフの膝に飛び乗り、喉を鳴らす。

まるで何事もなかったかのように、日常の一部としての存在を装うその姿に、皇帝は微かに笑みを浮かべた。

 

窓の外の月明かりに照らされ、静かな執務室は、外の世界の騒ぎとは無縁の穏やかな時間を取り戻していた。

ミリヤの膨らんだ毛並みが光を反射し、まるで王国の記憶そのものを抱えているかのように見える。

 

金の瞳がじっと書類に視線を投げるが、声を出すことなく、ただそこに「普通の猫」としている――かつての王国の生き残りは、静かに日常に溶け込んでいた。

 

 

/*/ バハルス帝国・皇帝執務室 /*/

 

 

ミリヤはそっと膝に飛び乗り、ふわりと毛を膨らませて丸くなる。金の瞳だけが鋭く光り、部屋の中のわずかな動きも見逃さない。

 

ジルクニフは書類をめくりながらも、無意識に膝の上の猫を撫でる手を止めない。

「……妙に落ち着いているな」

彼は呟き、膝の上で器用に体を丸めるミリヤを観察する。

 

その仕草――ただの飼い猫の動きにしては、目線や反応が鋭く、どこか人間的な知性を感じさせる。

ジルクニフは眉をひそめ、書類に目を落としつつも心の中で考える。

「……いや、気のせいか。いや、違う……この瞳、動き……」

 

ミリヤは静かに、ジルクニフの手のひらに頭を擦り付ける。

その仕草に、ジルクニフは淡い懐かしさを覚える。目の奥に、遠い過去の記憶――かつての猫の王国を思わせる光景がちらつく。

「……これは、この猫が……」

 

しかし言葉には出さず、ただそっと撫でる手を動かす。

ミリヤもまた、金の瞳でジルクニフをじっと見つめるが、声を出すことなく「普通の猫」として振る舞う。

 

外の世界の騒ぎや、ジョンとの秘密のやり取りの痕跡は消え、静かな執務室には、猫と皇帝だけの穏やかな時間が流れる。

膨らんだ毛並みと金の瞳が、まるで王国の記憶を抱えたまま、静かに日常に溶け込んでいるかのようだった。

 

ジルクニフは書類に目を落としつつも、心の奥底で密かに思う。

「……この猫、ただ者ではないな」

 

 

/*/ バハルス帝国・皇帝執務室 /*/

 

 

ミリヤは膝の上で丸くなりながら、時折小さく尻尾を揺らす。まるで何かを考えているかのような動きだ。

金の瞳は書類や書棚を横目で見つつ、わずかにジルクニフの手元を追う。その動きは、普通の猫の無邪気な好奇心というよりも、意図を持った観察のようだった。

 

ジルクニフは手を止め、膝の上の猫を見下ろす。

「……お前、ただの猫じゃないな」

静かに呟き、微かに笑みを浮かべる。手のひらで撫でる動きも、少し柔らかくなる。

 

ミリヤは、軽く頭を傾け、瞳だけでジルクニフを見上げる。

その視線はまるで「秘密を守るつもりだよ」と語りかけるようで、ジルクニフは書類から目を離し、膝の上の猫をじっと見つめる。

「……なるほど、あの『ねこさま大王国』の最後の生き残りか」

低く、誰にも聞こえぬ声でつぶやく。膝の上の小さな存在に、かつての友を思い出す温かさと、少しの畏怖が混ざる。

 

ミリヤは再び丸くなり、毛を膨らませて安心したように目を細める。

ジルクニフはその仕草を見つめながら、心の中で静かに笑う。

「……まあ、今日も平和に過ごせそうだな」

 

執務室には書類の香りと、静かな猫の毛並みの温もりだけが残る。

金の瞳が光る膝の上で、ミリヤは完全に「普通の猫」として振る舞いながらも、心の奥に王国の記憶を抱えていることを、ジルクニフだけがひそかに知っていた。

 

 

/*/ バハルス帝国・皇帝執務室 /*/

 

 

ミリヤは膝の上で丸くなり、金の瞳を細めて穏やかに居座る。膝にかかる重みも、ジルクニフにとっては日常の一部になっていた。

しかし、そのしなやかな耳の動きや、時折ふっと膨らむ毛並みには、猫以上の知性と意志が潜んでいることを、ジルクニフだけが知っていた。

 

書類に目を通しつつも、ジルクニフは膝の上の小さな存在に話しかける。

「……そろそろ、昼食か」

ミリヤはかすかに小さく鳴き、耳をひくひくさせるだけで答える。

それだけで、ジルクニフには「了解した」という合図として通じた。

 

金の瞳は時折、窓の外に視線を投げる。光の加減で瞳が輝き、まるで王国の遺構を思い出しているかのようだ。

ジルクニフはそっと手を伸ばし、ミリヤの頭を撫でる。毛の感触が柔らかく、指先に伝わる体温にはどこか懐かしい安堵があった。

 

「……今日は何も荒らされていないな」

ジルクニフのつぶやきに、ミリヤは小さく伸びをして膝の上で背中を丸め、まるで「心配しなくていいよ」と告げるように毛を膨らませた。

 

その静かな時間の中で、ジルクニフは書類と猫の存在の間に、ほのかな安心を見出していた。

膝の上で丸くなった小さな猫は、もう王国の最後の生き残りとしての使命を胸に、静かに皇帝の日常に溶け込んでいた。

 

そして、金の瞳は時折、ジルクニフの手元や部屋の隅々を観察し、必要があれば静かに知らせる準備をしている。

それは誰にも知られぬ、猫と皇帝だけの信頼の証だった。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・モモンガの執務室 /*/

 

 

重厚な書棚に囲まれた部屋で、モモンガは山のような書類を片付けていた。ジョンは椅子にどっかり腰を下ろし、腕を組んでぼやく。

 

「……結局さ、ジルのところで飼い猫やってるから、ミリヤとまともに会話する隙がねぇんだよな。ずっと"にゃー"で通してるから、こっちから話しかけるわけにもいかん」

 

ぐりもあがページをぱたんと閉じて、首をかしげる。

「なるほど……猫のフリを貫いてるわけか。そりゃ大変だね。いきなりしゃべったら、皇帝が腰抜かすよ」

 

「だろ?あいつは最後の"ねこさま大王国"の生き残りだ。大事にしたいのに、まともに言葉を交わせねぇんじゃ意味がねぇ」

ジョンは額を押さえ、深いため息を吐いた。

 

モモンガは黙って聞いていたが、しばらく顎に手を添えて考え込む。

「……直接声を出せない、か。ふむ……」

 

「うーん……」ぐりもあも腕を組んでモモンガを見上げる。

 

やがて、モモンガの頭蓋骨がわずかにカチリと動き、ぽんと手を打った。

「そうだ!〈伝言〉を使えばいいじゃないか」

 

「……あ?」ジョンが瞬きする。

 

「そうだよ、ジョンさん」ぐりもあもぱっと顔を明るくする。

「相手が猫のフリしてても、言葉じゃなくて頭に直接伝えれば、誰にもバレずに会話できるよ」

 

モモンガは頷きながら説明を補足する。

「〈伝言〉なら、たとえ皇帝の膝の上でも周囲に悟られることはない。ミリヤと連絡を取りたいなら、それが一番安全だろう」

 

ジョンは目を丸くしたあと、がしがしと頭を掻きむしる。

「……なんだよ、それ。もっと早く言ってくれりゃよかったのに」

 

「考える時間が必要だったんだ」モモンガは真面目に返す。

 

ぐりもあがくすくす笑いながら、手をひらひらさせる。

「これで、皇帝の前で"にゃー"って鳴きながら、頭の中では"やぁジョンさん、久しぶり"って会話ができるわけだ。便利だねぇ」

 

ジョンはふっと吹き出し、肩をすくめる。

「……まぁ、それなら安心して連絡取れるな。さすが大魔法使い様だ」

 

モモンガは少し照れくさそうに背筋を伸ばす。

「役に立てて良かったよ」

 

 

/*/ 帝城・ジルクニフの私室 深夜 /*/

 

 

月明かりがガラス越しに差し込み、静まり返った執務室の片隅で、皇帝の膝に乗って眠っていた金の瞳の猫が、ぴくりと耳を立てた。

 

――ミリヤ。聞こえるか?

 

頭の奥に直接響いた声に、ミリヤは毛を逆立てるように跳ね起きた。

「(……な、なに……!?)」

 

――俺だ、ジョンだ。声は出すな、安心しろ。〈伝言〉を使ってる。

 

ミリヤは尻尾を膨らませたまま、目をぱちぱちと瞬かせた。

「(ジョン!? ……マジで、こんな魔法できんの!?)」

 

――驚かせたな。すまん。眠ってたか?

 

「(そりゃ寝てたに決まってんでしょ。皇帝の膝で寝返り打てるわけないじゃん)」

 

くすっと笑う気配が伝わってくる。

 

――悪い。けどな、ずっとお前とゆっくり話したかった。今なら誰にもバレねぇだろ。

 

ミリヤは胸の奥がじんと熱くなり、小さく尾を揺らす。

「(……わかった。じゃ、聞いてくれる? あーしの話)」

 

――ああ。一晩中でも聞いてやる。

 

ミリヤは言葉を選ぶように、少しずつ過去を語り出した。

ねこさま大王国での日々。小さな畑での穏やかな暮らし。仲間と笑い合い、歌い、工夫して作った罠や仕掛けに誇りを持っていたこと。

そして終わりの日。仲間が次々と散り、気づけばこの世界にいて自分だけが取り残されたこと。

 

「(……それからずっと、“猫”として生きてきたんだよ。人の言葉は忘れたフリして、ただ撫でられてりゃ平和に過ごせんじゃねぇかって、そう思ってさ)」

 

ジョンは静かに耳を傾け、余計な言葉を挟まない。ただ時折、低く響く声で応じた。

 

――よく生き延びたな。……辛かったろうに。

――その選択は間違っちゃいねぇ。二十年、いや、それ以上だって生き抜けるさ。

 

ミリヤは語るうちに、長年胸に押し込めていた思いがほどけていくのを感じた。

笑いも、涙も、言葉にならなかった想いも、〈伝言〉の回線を通じて夜の中に流れていく。

 

気づけば夜は白み始め、鳥の声がかすかに聞こえ始めていた。

 

「(……ジョン、ありがと。こんなに話したの、マジでひさしぶりだわ)」

 

――礼を言うのは俺の方だ。お前の声を聞けてよかった。……また続きは、次の夜にでもな。

 

「(……うん)」

 

ミリヤは静かに目を閉じ、再び“ただの猫”の寝息を立てた。

だが心の奥では、何百年ぶりに「仲間」と語り合えた余韻が、温かく残っていた。

 

 

/*/ 帝城・深夜 〈伝言〉回線 /*/

 

 

ミリヤは寝床のクッションの上で丸まりながら、金の瞳をぱちりと開けた。

耳に直接響く声――それは、もうお馴染みとなったジョンからの〈伝言〉だ。

 

――よぉ、起きてるか?

 

「(また夜更かし呼び出しかよ……でも、楽しみにしてた)」

尻尾を小さく揺らしながら応じる。

「(今日はジョンの番でしょ。あんたの話、聞かせなよ)」

 

ジョンは少し間を置き、低い声で語り出した。

 

――ああ。……俺たち、アインズ・ウール・ゴウンが転移してからのことだ。

最初は訳がわからなかった。けど、モモン――いや、アインズ様がすぐに腹を決めたんだ。

守るべきは仲間と、ナザリックそのものだってな。

 

ジョンの声は、当時を思い返すように落ち着いていた。

帝国との接触。戦争で力を示し、他国に恐怖と敬意を植え付けたこと。

そして――

 

――……結果から言うと、帝国を除いて周辺の国は全部、属国になった。

 

「(はぁ!?)」

ミリヤの体が小さく跳ねた。

「(全っ然気づかなかった! あーし猫やってたから情報入らんけど……そんな大事件いつの間に!?)」

 

ジョンは苦笑まじりに続ける。

 

――まあ、気づかれないようにやったからな。ほとんどは平和的(?)に、だ。

大きな戦争にはならず、戦わずして支配が広がったってわけだ。

 

ミリヤは尾を丸め、耳をぴくぴく動かす。

「(……そんなことが、こんな短期間で起きてたとか……マジで世界変わってんじゃん)」

 

ジョンの声が少し柔らかくなる。

 

――でも安心しろ。帝国は属国にしない。

……俺の新婚旅行で海外旅行したかったからな。

 

「(……ちょ、待って!)」

ミリヤは耳をぴんと立て、瞳をぎらりと光らせた。

「(“したかった”って……もう旅行したの!?)」

 

ジョンは少し間を置いて、咳払い混じりに答える。

――ああ。魔導国の大使としてバハルス帝国に赴任したんだぜ。

それが旅行代わりみたいなもんで……そのときジルとも会話した。

 

「(えっ……! それよりさぁ……今さらっと流したけど……)」

金の瞳がさらに丸くなる。

「(結婚したって!? あんたが!? 相手誰よ!? あーしの知ってるやつ!?)」

 

――……食いつくな。

 

「(そりゃ食いつくでしょ!! そんなニュース、猫も跳ね起きるわ!!)」

 

ジョンは小さく笑って、少し間を置いた。

〈伝言〉越しの沈黙に、ミリヤの胸がどきどきと高鳴る。

 

――……相手は、プレアデスのルプスレギナだよ。

 

「(……はぁ!?)」

ミリヤの金の瞳がまん丸になる。

 

――しばらく前に、大陸中でオーロラが見えたことあったろ。

あのオーロラを起こしたのが俺で、その上でプロポーズしたのさ。

 

「(……えぇぇぇーーっ!? 駄犬のくせにやたらロマンチックで……ムカつくぅ!!)」

尻尾をぶわっと膨らませ、地団駄を踏むようにクッションの上で前足をばたつかせた。

 

ジョンの声は楽しげに響いた。

――はっはっは! 良かろう、褒めていいんだぞ!

 

「(褒めてねぇよ! 全然褒めてねぇし! ……でも、ちょい羨ましい)」

ミリヤは顔をそむけるように毛繕いを始めたが、耳先はほんのり赤かった。

 

――……まあ、実際のところ、あのオーロラってのは綺麗なだけじゃなかったんだ。

 

ジョンの声が少し低くなる。

 

――シャッガイからの昆虫どもに襲われてな。レイドボスみたいな、樹っぽい宇宙船生物――ザイクロトルとかいう怪物に取り込まれたんだ。

そこで……アザトースの種子を植え付けられた。

 

「(……種子って……なにソレ、ヤバいやつじゃん)」

ミリヤの毛が逆立つ。

 

――マイクロブラックホールだ。小型の重力井戸みたいなもんだ。

あれに飲み込まれて、どうにか脱出したんだが……最後はそのブラックホールが蒸発して爆発した。

 

ジョンは肩をすくめるような声音で続ける。

 

――そん時に発生したガンマ線放射で、大陸中にオーロラが走ったってわけさ。

……デミウルゴスの説明を聞いても、いまだによくわからんがな。

 

ミリヤは瞳をまん丸にしたまま、口を開けて固まっていた。

「(……そんな死ぬか生きるかみたいな話の“ついで”でプロポーズすんの!? 頭おかしいでしょ!?)」

 

ジョンは大笑いした。

――はっはっは! ロマンチックだったろ?

 

「(ロマンチックっていうか、命懸けすぎて……もうギャグの域だわ!)」

 

ミリヤはしばらく尻尾をばたつかせ、呆れたようにため息を吐いた。

「(……でも、なんか、あんたらしいわ。無茶して、馬鹿みたいに派手で、でも筋は通ってる感じ)」

 

ジョンは満足げに笑った。

――だろ? だから褒めていいんだぞ。

 

ミリヤは顔をそむけ、金の瞳を細める。

「(褒めねぇっての……)」

 

ジョンの笑い声が落ち着くと、ミリヤが鋭い視線を送る。

「(……で、ルプスレギナはどう反応したんだよ? まさか『へー』で済ませたとか言うなよ?)」

 

ジョンは喉を鳴らして笑う。

――いやぁ、あいつも最初はぽかんとしてたな。

俺がオーロラの下で『結婚してくれ』って言ったら、涙目で笑いながら拳で胸を殴ってきた。

 

ミリヤはくすっと笑って、前足で顔を隠した。

「(あー、目に浮かぶ。“駄犬、何死ぬ気でキメてんすか”って顔ね)」

 

――そうそう。

ジョンも思い出して声を揺らす。

――でも最後は耳まで真っ赤にして、素直に『はいっす』って答えたんだ。

……あれは俺の人生でも、一番眩しい瞬間だったな。

 

「(……むかつくほど絵になるじゃん)」

ミリヤはぷいと横を向いたが、金の瞳はどこか柔らかく光っていた。

 

ジョンは少し真面目な声になる。

――あの時思ったんだ。ナザリックも、モモンガさんも、仲間も全部大事だ。けど……ルプと一緒に生きて、守りたいものを守っていくのも悪くねぇってな。

 

ミリヤはしばし黙り、丸くなった尻尾をそっと揺らす。

「(……あんた、ほんっと変わったね)」

 

――まあな。

ジョンは軽く息を吐く。

――戦ってばかりだった俺が、まさか『結婚』なんて言葉を口にするとはな。

 

ミリヤはふっと笑みをこぼす。

「(……駄犬にしては、立派じゃん)」

 

ジョンは照れ隠しに咳払いした。

――よし、そこまで褒められたら充分だな。

 

ミリヤは少し小さく、でも確かに響く声でつぶやく。

「(……羨ましいな)」

 

ジョンは肩をすくめて、くすりと笑う。

――ふん、そうか。羨ましいのはお前だけじゃないぜ、ミリヤ。

 

深夜の静けさに二人の〈伝言〉が漂う。

金の瞳が揺れ、ジョンの声が柔らかく夜を包む。

そして互いに、ただ話を聞き合うだけで心が温まる時間が流れていった。

 

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