オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第160話:人工衛星

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層・ぐりもあの執務室 /*/

 

 

 光魔法で照らされた執務机の上には、幾何学的な紋様と符文で埋め尽くされた大判の設計図が広がっていた。

 ペン先が走るたびに、淡い蒼光が紙の上で瞬き、複雑な魔法回路が立体的に浮かび上がる。

 

 その図面の中央には――球体のようでありながら、翼も脚もない不思議な構造物。

 

 ジョンは扉を開けて、その光景に思わず足を止めた。

 

「ぐりもあさん、何してるの?」

 

 声をかけながら近づき、図面を覗き込む。

 描かれているのは――どう見てもゴーレムだ。だが、手も足もない。動力部すら見当たらない。

 それでも、魔法陣群の中心には、強力な観測系魔法と飛行魔法の術式が絡み合っていた。

 

「……ゴーレム? でも手も足も無い。観測系の魔法と飛行魔法……?」

 

 ぐりもあは満面の笑みを浮かべ、椅子をくるりと回す。

 深い緑のローブがふわりと広がり、髪先に淡い魔力光が散った。

 

「ふふふ、ジョンさん。これは――人工衛星ゴーレムです!」

 

「……じんこう、えいせい?」

 

「ナザリックの“目”となる観測衛星ですよ!」

 声には自信と誇らしさが満ちていた。

 ぐりもあはペンを取り上げ、図面の一部を指し示す。

 

「キュアイーリム捜索の時も、結局は上空からの観測が一番有効でした。地上からの索敵では、魔力干渉や幻惑で限界があるんです。

 ですから、次は――天から覗くのです! この惑星そのものを!」

 

 ジョンは目を細める。

「……お前、本気で宇宙(そら)に上げる気か?」

 

「もちろん!」

 ぐりもあは胸を張る。

 机の端には、魔力炉の試作模型や、魔法式の姿勢制御装置らしき金属球が転がっていた。

 

「幸い、モモンガさんやジョンさんが軌道まで上昇した際に、〈飛行〉魔法が有効だったことは証明済みです。

 つまり、この惑星を中心にした“軌道”が存在する。

 飛行魔法はこの惑星に対して相対速度を維持しているようですから――直接、衛星軌道まで上昇可能なんですよ!」

 

「……待て待て、俺が上昇した時って、オーロラが発生した時の?」

 

「はい! なので、今度は静かにやりますよ!」

 

 ぐりもあの瞳は、まるで夜空の星のように輝いていた。

 その熱に押され、ジョンは苦笑を漏らす。

 

「……まったく。お前は“地上の神秘”だけじゃ飽き足らず、今度は“天”か」

 

「はいっ。ナザリックの名を、空の上にも刻むんです!」

 

 彼女の描く未来図の中――夜空の果て、星々の間に浮かぶ漆黒の球体。

 その表面には黄金のルーンが走り、ゆるやかに回転しながら地上を監視する“目”がひとつ。

 

 ぐりもあの筆先が、最後の線を引いた。

 

「名は……《アインズ・アイズ》。ナザリックの、星にして眼(まなこ)です」

 

 ジョンは小さくため息をつきながらも、どこか感心したように笑った。

 

「……ロマンってやつだな」

 

 ナザリックの空に、新たな“星”が昇る――

 その瞬間を、誰もまだ知らない。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第9層モモンガの執務室。 /*/

 

 

 豪奢な赤い絨毯の先にあるモモンガの執務机。

 その中央、モモンガ――今や魔導王アインズ・ウール・ゴウンとして玉座に腰かける支配者の前に、ぐりもあは図面を広げていた。

 

 彼女の背後には補助者としてジョンが立ち、やや苦笑気味の顔で見守っている。

 その視線の先で、ぐりもあは緊張と高揚の入り混じった声を張り上げた。

 

「――以上が、人工衛星ゴーレム《アインズ・アイズ》の開発計画です!」

 

 ホログラフィック投影のように展開された魔法図面が宙に浮かび、立体映像として“衛星”の形状を映し出す。

 それは漆黒の球体に近いフォルムをしており、表面にはナザリックの象徴である骸骨の紋章が刻まれていた。

 周囲には魔力の流動を制御するリング状の構造――推進兼姿勢制御装置。

 中心部には、黄金に輝く魔導炉〈深淵核(アビス・コア)〉が埋め込まれている。

 

 アウラとマーレがきらきらとした目で見つめ、アルベドは眉をわずかにひそめ、デミウルゴスは口元に手を当てて思考を深めていた。

 

「……衛星、ですか」

 モモンガの声は静かだった。

 だが、その眼窩の奥で紫の光がゆるやかに揺れる。

 

「はい! 地上からは観測できない範囲――雲海の上、あるいはそれより高みから、世界全体を見渡す目を設けるのです!」

 ぐりもあは胸を張る。

「魔力反射層の上限付近までは〈飛行〉魔法で直接上昇できます。

 その上層でこの衛星を展開し、〈自動魔力循環〉による長期稼働を実現します。

 観測魔法群には、索敵・地形把握・魔力波動分析を含めました。

 さらに、星の光を媒介とした通信術式により、ナザリック本体と常時接続も可能です!」

 

 デミウルゴスが口を開いた。

「ふむ……理論上は、実に魅力的な構想ですね。しかし、仮に高層大気――あるいはそれ以上に到達したとして、魔法干渉による制御の遅延はどうします?」

 

「そこはジョンさんが考えてくださいました!」

 ぐりもあの指先がジョンを示す。

 

 注目が集まり、ジョンは軽く肩を竦める。

「簡単に言うと、“遅延”じゃなくて“予測制御”を使う。

 ナザリックの座標系を基準に、衛星の未来位置を常時演算して、制御命令を先行的に送るって仕組みだ。

 観測データが返ってくる頃には、こっちも次の動作を送ってる。……ほぼ同時に動いて見える」

 

 モモンガは顎に手を当て、しばし考え込む。

 そして、静かにうなずいた。

 

「なるほど……ナザリックの観測範囲を“地上”から“天”へと広げる。確かに、情報収集の観点から見ればこれほどの利点はない。

 ……しかし、ぐりもあさんの提案はあまりにも大胆だ。安全面の確証はあるのか?」

 

「はい! 失敗しても、爆発します!」

 会議室に一瞬の沈黙。

 ジョンが額を押さえた。

「……その言い方どうにかならんのか」

 

「い、いえ、爆発しても“空の上”ですから! 地上に被害はありません!」

 

 アルベドがため息をつく。

「モモンガ様。技術的には興味深いですが、万一ナザリックの名を冠する物が地上に落下した場合、外部勢力に発見される危険がございます」

 

 ぐりもあは即座に反論した。

「そのために、外殻を“魔法的に蒸発”させる〈自己消滅術式〉を組み込んでいます!

 もし墜落しても、跡形も残りません!」

 

 アウラが小声で囁いた。

「……それ、めっちゃ危ないやつじゃない?」

 

 モモンガは深く息を吐いた。

「……ふむ。では、こうしよう。初号機――《アインズ・アイズ・プロトタイプ》の試験打ち上げを許可する。ただし、ジョンが監督だ」

 

「了解」

 ジョンが即答する。

 

「やったぁああああっ!!!」

 ぐりもあが思わず跳ね上がる。

 尻尾のように揺れるマントがふわりと広がり、机の上のペン立てが倒れた。

 

 モモンガは、骨の指でそっと頭を押さえるような仕草をした。

「……私の名を冠するものが空に昇る日が来るとはな。ロマンだ。だが、くれぐれも気をつけろ。空の上で爆発しても、ナザリックの恥になる」

 

「は、はいっ!」

 

 ジョンが横で苦笑する。

「……衛星打ち上げ計画、承認だな」

 

 

/*/

 

 

 その夜。

 第9階層の工房では、すでに魔力灯が眩しく光り始めていた。

 ぐりもあの手には新たな図面――《アインズ・アイズ・プロトタイプ0号》。

 その名のもとに、ナザリック初の“宇宙開発”が静かに動き出す。

 

 そして、漆黒の地下世界に生まれたその小さな光は――

 やがて夜空の果てで、ひとつの星となる。

 

 

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