オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層・ぐりもあの私室 /*/
棚の奥から取り出された古びた羊皮紙は、長い年月を経たにもかかわらず、魔力の封印によって損なわれてはいなかった。
淡い金色のインクで記された紋章と、見慣れぬ文様。
ジョンはそのページに手をかけ、低く呟いた。
「――金の黄昏錬金術師団?」
隣に立つぐりもあが頷く。
彼女の指先には、淡い魔光を宿した検知魔法が揺れていた。
「ええ。あの地下迷宮から回収した資料の中に記されていました。どうやら、あの主――あの迷宮の支配者は、その“金の黄昏錬金術師団”に所属していた魔術師兼技術者だったようです」
ジョンは眉を寄せる。
「錬金術師団……つまり、個人ではなく組織。魔術師の秘密結社の一つってわけか」
「その可能性が高いです。文献によると、この団体は“人間という種の上位化”を目的にしていた模様です。生体錬金、魂転写、魂錬成、記憶融合――禁忌とされた術式の集大成」
ぐりもあは淡々と説明しながらも、どこかで興奮を抑えきれないように微笑む。
ジョンは腕を組み、書物に視線を落とした。
「人間を、上位種へ……。神人(デミゴッド)を目指していたということか」
「はい。そして、その過程で“人間という種族レベルを万能にする”という理念を掲げていました。つまり、“スキル〈天才〉を基礎能力に組み込んだ人間”を創ろうとしていたようです」
ジョンの表情が静かに変わる。
「……〈天才〉を人の種族レベルに組み込む、か。おもしろいな。成功したら確かに人間は亜人に負けない力を持つかもしれない」
「しかし、もしそれが実現していたなら――」
ぐりもあの声がわずかに熱を帯びる。
「今の魔導国の研究にも応用できるかもしれません。人間の進化の方向性として」
ジョンは小さく息をつく。
「……その言葉、モモンガさんが聞いたら胃を痛くするぞ」
ぐりもあは、くすりと笑った。
「ふふ、だからこそ私たちが調べる価値があるんです。〈金の黄昏〉の理念は、ただの狂気ではなく、理論として成立していました。これは、完全に失われた“人間製神格技術”の一端です」
ジョンは再びページをめくる。
そこには、〈太陽炉〉、〈魂錬成炉〉、〈黄金の坩堝〉などの設計図が細かく描かれていた。
「……こいつは、本物だな」
彼の瞳に、久しぶりに研究者としての光が宿った。
「ぐりもあ、これを解析する。錬金術ではなく、魂工学として。もしこの“金の黄昏錬金術師団”が到達した境地が再現できれば――」
「ナザリックの技術体系そのものを、さらに上位層へ進化させられる……ですね」
二人の声が静かに重なった。
冷たい光に照らされる古文書の金文字が、まるで眠りから覚めたように微かに輝いていた。
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