オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第172話:人間は人間のままでいたい

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層・実験棟 /*/

 

 

魂錬成炉の灯がゆらゆらと揺れ、赤い光が壁に反射していた。

湯気のような魔力の粒子が宙を漂い、研究卓の上では無数の魔法陣が重なり合っている。

 

ジョンは腕を組み、炉の前で考え込むように呟いた。

「でもさー。亜人とかウマ娘とかネコ娘とか、効率悪くない?

 人狼みたいに二足歩行する獣の姿のほうが、単純に利点を生かせると思うんだよねー」

 

ぐりもあは振り向かず、杖の先で魔力式を微調整しながら微笑んだ。

「それは"獣"側からの視点ですね」

 

「ふむ?」

 

「人間は、人間のままでいたいんですよ。

 他の動物のパワーを取り込みたいけれど、

 外見までは"完全に獣"になりたくない。

 だからこそ――頭だけ犬、耳だけネコ、尻尾だけウマ、

 そんな"半端な変化"に憧れるんです。

 自分が人間以上になったと思い込みたい、でも人間でありたい。

 それが彼らの本質です」

 

炉の光が、ぐりもあの横顔を照らした。

その瞳には、魔術師特有の冷静さと観察者の好奇が混ざり合っている。

 

ジョンは感心したように口笛を吹いた。

「おお、学者っぽい。

 やっぱり君、ちょっと怖いけど頭いいよね」

 

「ちょっと?」ぐりもあが肩をすくめる。

「たいてい"すごく怖い"って言われますけど?」

 

ジョンは笑いながら魂錬成炉の横に腰を下ろした。

「いや、褒めてるよ。

 ……でもまあ、そう考えると、人間って面倒だな。

 力が欲しいのに形は保ちたいなんて」

 

「ええ。でもその"矛盾"こそが、進化の原動力です。

 そして、それを利用できるのが――私たち、です」

 

ジョンは軽く片眉を上げ、ぐりもあの笑みに応じるように口元を歪めた。

「じゃあ、進化の方向をちょっとばかりナザリック式に導いてやるか」

 

「ふふっ、それはきっと、"至高の実験"になりますね」

 

炉の奥で、淡い光がまたひとつ脈動した。

その音は、まるで新しい生命が目を覚ます鼓動のようでもあった。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層・実験棟 /*/

 

 

炉の赤い光が研究室の天井に反射し、魔力の粒子が宙に舞う中、ジョンは眉をひそめながら書類をめくる。

 

「ところで、実験体、罪人ばっかだからムサイ男が多いけど……」

 

ぐりもあは肩をすくめ、淡々と答えた。

「どうせ初期実験は失敗しますから、それで良いですよ」

 

ジョンは机に肘をつき、少し笑いながら目を細める。

「なるほどな……。じゃあ、何と混ぜてみる? 犬と猫からかな」

 

ぐりもあは魔力の結晶を弄びながら、わずかに顔を上げる。

「ええ。でも、最初は“あくまで人間のままパワーだけ借りる”程度で十分でしょう。

 犬耳、猫耳、尻尾くらいの変化で。過剰改造は、魂の安定度を著しく下げますから」

 

ジョンはうなずき、楽しげに手をこすった。

「よし、じゃあちょっと実験開始だな。失敗しても、笑える程度で済むやつから」

 

ぐりもあは小さく笑い、炉のスイッチを押す。

「ふふ、はい。では“ムサイ男の犬耳化計画”……始動です」

 

炉の光が一瞬にして強まり、魔法陣が微かに振動する。

宙に漂う魔力がざわめき、研究室に緊張と期待の空気が広がった。

 

ジョンは軽く杖を振って魔力場を安定させながら、にやりと笑う。

「さて、どんな“初期失敗”が飛び出すかな……」

 

ぐりもあは目を細め、淡い光の中で静かに頷いた。

「楽しみですね。モモンガさんにバレない程度に……」

 

魔力の粒子が渦を描き、実験は静かに、しかし確実に動き出した。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層・実験棟 初期実験 /*/

 

 

魂錬成炉の赤い光がゆらめき、魔法陣が微かに振動する。

ジョンは机に肘をつき、ぐりもあは杖を握りしめて、慎重に魔力を炉に注ぎ込む。

 

「よし、まずはムサイ男×犬耳で行こう」

ジョンが冗談めかして言うと、ぐりもあが小さく頷く。

 

魔力の流れが炉内の水晶球に吸い込まれ、光の渦が渦巻く。

数秒後、球の中で小さな実験体――ムサイ男の姿が揺らめき、耳だけが犬耳に変化して現れた。

 

「……おお、成功……か?」

ジョンが覗き込むと、耳をぴくぴく動かしながら、実験体は戸惑ったように後ずさり。

 

だが次の瞬間、魔法陣の一部が小さく弾け、煙と共に焦げた匂いが漂う。

犬耳は無理やり伸ばされたように不自然で、耳の先端が少し燃えてしまったらしい。

 

「はは、初期実験だからね、予想通りだ」

ぐりもあは淡々と言いながらも、目の端に楽しげな光が揺れる。

 

ジョンは笑いをこらえつつ、次の実験体を手に取った。

「じゃあ、次はムサイ男×猫耳か。今度は焦げないように慎重にな」

 

炉に再び魔力が注がれ、水晶球が輝き始める。

すると、猫耳の実験体は小さく「にゃ……」と声を上げ、耳を動かして周囲をキョロキョロ。

 

「……可愛いな」ジョンが呟くと、ぐりもあが鋭く首をかしげる。

「ジョンさん、研究に感情を挟まないでください」

 

だがその直後、実験体が勢いよく跳ね、台の上の魔力結晶を蹴飛ばす。

「……予想通り、初期実験は暴れる」ぐりもあが小さく笑った。

 

煙が落ち着き、二人は深呼吸する。

「うん、まずは耳だけ変化の段階は確認完了」

「次は尾とちょっとした筋力補正だな」

 

炉の中で揺れる光は、まるで生まれたばかりの命のように、ひそかに脈動していた。

初期実験は、失敗と笑いと少しの成功を伴い、静かに、しかし確実に進んでいた。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層・実験棟 高融合度試験 /*/

 

 

ジョンは再び魂錬成炉の前に立ち、腕を組む。

「よし、次は融合度の上限に挑戦だな。耳だけじゃ面白くない」

 

ぐりもあは薄く笑みを浮かべ、魔力結晶を慎重に炉に注ぐ。

「ええ。でも、上限付近まで融合度を上げると――精神の安定性が崩れますから、覚悟してください」

 

炉の水晶球が強く脈動し、赤と青の光が渦巻く。

実験体――今度はムサイ男×犬猫耳の改良型――が光の中で揺れる。

 

「……おお、こいつ、少し目が猫っぽくなってきたぞ」

ジョンが笑った瞬間、実験体の瞳が緑色に光り、手足の動きが素早くなる。

 

「ふふ、やはり上限付近。精神が動物化し始めましたね」

 

実験体は突然、机の上の魔力結晶に飛びかかり、前足のように手を伸ばして掴む。

「うわっ、やめろ!」ジョンが駆け寄るも、実験体は嬉々として跳ね回る。

 

ぐりもあは淡々と観察する。

「上限融合では、人間の理性より動物的本能が優先されます。今の状態だと、知能の半分は“犬か猫”です」

 

実験体は喉を鳴らし、尾を振り、周囲を駆け回る。

ジョンは頭を抱え、呟いた。

「……なるほど、これじゃ戦力にならんわ。ちょっと可愛いけど」

 

ぐりもあは杖を軽く振り、魔力を制御して光を落ち着かせる。

「初期段階で精神を完全に安定化させるのは無理です。ここから調整を重ねて、理性と動物的特性のバランスを探るしかありません」

 

実験体は床に転がりながらも、耳と尾を嬉しそうに揺らしている。

ジョンは深く息をつき、笑い混じりに言った。

「……うん、これでいい。初期失敗は予定通りだ」

 

ぐりもあは微かに笑みを崩さず、静かに頷く。

「ふふ、次はもう少し制御を入れて、精神の暴走を抑えつつ、動物的能力だけを取り込む段階ですね」

 

炉の中の光はまだ小さく脈動し、今も実験体の動物化した本能を反映して揺れていた。

ナザリックの地下で、新たな“人間改良実験”の幕が静かに上がった瞬間だった。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層・実験棟 高融合度試験 /*/

 

 

炉の光がゆらめき、実験体の犬耳・猫耳が微かに震えている。

床に転がる魔力結晶の光を見ながら、ジョンが眉をひそめた。

 

「これ、職業レベルの構成ってどうなってるのかな」

 

ぐりもあは杖をくるくると回しながら、炉の反応を見つつ答える。

「改造体5Lvとかじゃないですかね。完成したら獣人にでもなるかもしれませんが」

 

ジョンは床の実験体を眺め、軽く笑った。

「なるほど……まだ初期段階だから、人間としての理性も残ってるってわけか」

 

ぐりもあは水晶球の光を指でなぞるようにして言った。

「ええ。Lvが上がるごとに、融合度も上昇し、動物的能力や本能が強化されます。

 でも上げすぎると、理性が動物化してしまう……さっきのように」

 

ジョンは腕を組み、考え込むように唸った。

「じゃあ、理性を残しつつ、能力だけ強化……うーん、難しいな」

 

ぐりもあは笑みを絶やさず、魔力を微調整する。

「そこが私たちの腕の見せ所です、ジョンさん。失敗を重ねて、初めて完成に近づく」

 

ジョンは深く息をつき、炉の前で小さく拳を握った。

「よし……やるしかないな。改造体5Lv、ここからが本番だ」

 

炉の奥で、実験体の耳と尾がぴくぴくと動き、まるで“次の段階を待っている”かのように光に反応していた。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層・実験棟 /*/

 

 

魂錬成炉の光が静かに揺れ、実験体たちはまだ小さく興奮した様子で動き回っていた。

ジョンは腕を組み、ぐりもあと共に、炉から離れてその様子を眺めている。

 

「……さて、問題はこの実験体の処分だな」

ジョンが眉をひそめる。

「初期実験だから、もう使い道ないし、このまま放置するわけにもいかん」

 

ぐりもあは微笑みを浮かべ、手元の魔力結晶を弄びながら答える。

「ふふ、ジョンさん、ご安心を。処分と言っても無駄に消すわけではありませんよ」

 

その瞬間、実験棟の扉が静かに開き、冷たい足音が響いた。

影の中から現れたのは、冷徹な瞳を光らせたデミウルゴス。

「……これらが実験体ですか」

 

ジョンは軽く頭を振り、ぐりもあはすぐに説明する。

「うん。初期実験なので、理性がまだ不安定です。精神が動物化する傾向もあります」

 

デミウルゴスは水晶球の中の実験体たちを一瞥し、低く頷いた。

「……承知しました。人間牧場での交配実験に使いましょう。成長させ、能力を観察します」

 

ジョン軽く息をつき、少し安心したように笑う。

「流石……廃棄する必要はないわけだ」

 

ぐりもあも肩をすくめ、実験体たちを見つめながら呟く。

「じゃあ、この実験体の後始末……デミウルゴス、よろしくね」

 

デミウルゴスは静かに実験体を指差すと、魔力の束を使い、一体ずつ慎重に移送する。

「精神の暴走は制御しておきます」

 

ぐりもあは小さくうなずき、ジョンも笑みを浮かべた。

「よし、これで実験棟の後片付けも含めて一安心だな」

 

炉の光はまだゆらゆらと揺れている。

しかし、地下深くで新たな研究の種が、人間牧場という別の場で静かに芽吹こうとしていた。

 

 

 

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