オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第176話:潜入部隊全滅

 

 

/*/ 金の黄昏錬金術師団本部 潜入部隊の惨劇/*/

 

 

本部の地下深く、暗黒の魂の渦が広がる中、潜入させられたシャドウデーモンたちは、まだ何が起きているのか理解できずにいた。闇の空間に反射する光は、無数の瞳のように瞬き、母体の断片の意思が彼らの意識を試す。

 

「……異常だ……」

一体のシャドウデーモンが低く唸る。周囲の空間が歪み、壁や天井の亀裂から無数の光の粒子が流れ込む。それは単なる光ではなく、魂の断片そのものだった。粒子は潜入者たちの影に絡みつき、意識を侵食し始める。

 

最初に、異変を察したシャドウデーモンが警戒行動を取った。しかし、母体は学習した封印の隙間を巧みに利用し、結界の脆弱点から断片を侵入させる。僅かな精神の揺らぎが致命的となり、光の粒子が魂に触れた瞬間、恐怖と絶望が渦巻く。

 

「ぐ……ぐぁああっ!」

悲鳴も、叫びも、空間に消える。シャドウデーモンたちは次々に光の粒子に包まれ、その意識を引き裂かれ、母体の一部として取り込まれる。身体は形を保つものの、内側から魂が侵され、存在が消滅していった。

 

一方、ハンゾウだけは直感で母体の異常を察知していた。魔力を駆使し、潜入経路を振り返るように脱出路を模索する。光の粒子が壁や床を這い回り、意識を揺さぶろうとするが、ハンゾウは己の意志の力で微細な隙間を見つけ出す。

 

「ここしかない……!」

ハンゾウは光の渦の間隙を縫うように走る。母体の意識は追跡を試みるが、結界と構造の複雑さに阻まれ、完全な捕縛には至らない。潜入部隊がすべて取り込まれた後、ハンゾウは影のように静かに地下を抜け、脱出口へと辿り着く。

 

外界の光が見えた瞬間、ハンゾウの胸に安堵が走る。身体は疲弊し、魂の一部は微細に揺らいでいたが、彼は意識を保っていた。潜入に失敗したシャドウデーモンたちの残滓を思い、深い悲哀が胸を締め付ける。だが、情報を持ち帰る使命は失われていない。

 

ナザリックへと帰還したハンゾウは、廊下に入ると静かに報告書と魔力結晶に触れ、母体の状況、赤子の存在、そして団員たちが完全に侵食された事実を忠実に記録する。彼の言葉は簡潔だが、緊迫した事実が隅々にまで伝わる。

 

「……潜入部隊は全滅。母体の侵食が本部全域に及び、団員はすべて取り込まれた。シャドウデーモンも同様。脱出はハンゾウのみ」

 

ジョンとぐりもあ、モモンガの前で、ハンゾウの瞳には戦慄と緊張が残る。言葉にしなくても、三人は状況を理解した。金の黄昏錬金術師団本部は、もはや人間の管理下にはなく、母体の意思により完全に掌握されている。

 

机に広げられた報告書の文字が、赤光の揺らぎに照らされる。ナザリックの執務室に、未知なる恐怖の情報が静かに、しかし確実に届いたのだった。

 

 

/*/ ナザリック地下第9階層・執務室 会議続行 /*/

 

 

ハンゾウの報告書が机に置かれ、三人の顔に冷たい光が差す。静寂がほんの一瞬、重くなる。

 

ぐりもあが鼻で笑った。

「暴走した実験体に飲み込まれて全滅、ってのはお約束すぎますよねぇ。芸がない」

 

ジョンは肘をつき、薄く笑いながら口を開いた。

「どうする? ソード・オブ・ダモクレス/天上の剣とか、真なる無(ギンヌンガガプ)でまとめて吹き飛ばす?」

 

ぐりもあは即座に首を振る。

「できれば捕まえて研究したいですね。ソレを丸ごと破壊したら、再現性も何もあったもんじゃない」

 

モモンガは書類を押さえ、赤光をちらりと揺らして低く言った。

「……物事は簡単ではないですよ。破壊すれば危険性は減るが、情報も失われる。捕獲すれば解析で多くを得られるかもしれない。ただし、捕獲に伴うリスクは非常に高い」

 

ぐりもあはぐっと前のめりになり、研究者然とした熱を帯びる。

「封印を学習した――という点が最も気になります。完全な“個体”としての保存ができれば、封印メカニズムや侵食のアルゴリズムを解析できます。対抗策も作れます」

 

ジョンは肩をすくめ、現実的に続ける。

「分かってるよ。だけど、ゼロ距離で丸ごと捕まえるってのは賭けが過ぎる。あいつは“意識で孔を縫う”タイプだ。向こうから触れる前にこちらが牽制しなきゃ」

 

モモンガは短く息をつき、静かに言う。

「折衷案を提案する。第一段階は情報統制と監視強化。外部には一切漏らさないこと。第二段階は遠隔観測ユニットの投下。具合を見て、捕獲可能と判断した段階で限定的に接触する。第三段階は万全の封印陣と魂格拘束具を用意し、捕獲し難ければ破壊する」

 

ぐりもあは目を輝かせた。

「魂格拘束具……? あれを改良すれば、母体の断片を個別に固定できるはずです。解析中の“擬態再現”も抑えられる」

 

ジョンはうなずきながら、付け加える。

「ついでに俺は“最後の手段”を用意する。バイアクヘーによる遠隔監視網。いざとなれば〈転移門〉で飛んでソード・オブ・ダモクレス/天上の剣とか、真なる無(ギンヌンガガプ)で吹き飛ばす。ぶっちゃけ、引導を渡す用の刃も一本必要だ」

 

モモンガは赤光を強め、短く肯いた。

「準備しよう。ハンゾウ、君が持ち帰った情報で位置の絞り込みを急いで。発見次第、逐次報告して」

 

ハンゾウはぴんと直立して答える。

「了解しました」

 

ぐりもあはすぐに必要な装置のリストを手際よく並べる。

「魂格拘束具の原型はある。ここに補強用の結晶を入れて、感応域を狭めれば、母体の断片を“切り取る”ように固定できます。さらに監視プローブは多点配置して、学習の速度をログで追えるように」

 

ジョンは短く笑って言った。

「つまり、捕まえるつもりで準備して、ダメなら吹き飛ばす、と」

 

モモンガは重く肯き、付け加える。

「正確な表現だ。生物的脅威を保存することは有益だが、リスクは常に存在する。最悪は破壊する。ただし、私の胃は余計に痛むけどね」

 

ぐりもあが眉を上げ、小首を傾げる。

「胃痛は相変わらずですね、モモンガさん。でも、実験としては……たまらなく魅力的です」

 

ジョンは地図に指を落とし、最後の一言を零す。

「よし。じゃあ動こう。情報統制、観測ユニット、拘束具、最後の一撃。全部揃えたら、俺たちで行く」

 

外側ではナザリックの静かな歯車が回り始める。だがその歯車の先──本部の暗闇の中で、学習した母体はすでに次の手を考えているかもしれない。三人はそれを知りつつ、しかし引き返さない。計画は決まった。実行の時が迫る。

 

 

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