オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第177話:出撃準備

 

 

/*/ ナザリック地下第9階層・準備と出発 /*/

 

 

指示は速やかに伝わり、執務室の空気が即座に戦時に切り替わった。ハンゾウは報告書を携え、ぐりもあは机に散らばった魔力結晶と設計図を手早くまとめる。ジョンは地図に目を落とし、出撃部隊の編成を確認する。モモンガは静かに頷き、赤光を抑えて指示を出す。

 

「情報統制――外部への通信は全て遮断。流出経路を封鎖する。ナザリック外部の通信を断つだけでなく、影響が疑われる経路は全て潰す」

ハンゾウは短く「了解しました」と応え、影のように執務室を出た。既に彼の中で次の行動が始まっている。

 

ぐりもあは魂格拘束具の原型を床に並べ、補強用の結晶を一つずつはめ込んでいく。小さな結晶は黒曜石の枠に嵌り、その内部で青白い符文が静かに回る。彼の指先は震えず、目は好奇と冷徹が差していた。

 

「感応域を狭める。学習アルゴリズムの速度ログを取るために多点プローブを配置する。母体がどの程度で適応するかを逐次記録するんだ」

「監視用プローブの通信は断続的にダミーデータを吐かせる。母体が応答を模索するなら、餌を撒いて反応を誘発する」とジョンが続ける。彼の口調には冗談が混ざるが、目の奥は戦場の冷酷さで満ちていた。

 

モモンガは最後の条件を付け加える。

「拘束具の使用時には必ず遠隔フィールドを張り、同時に封印陣を展開する。脱出経路は常時確保する。最悪の場合は私の号令で“最後の手段”を起動する」

誰もが頷く。万全の準備を整えることが彼らの信条だ。

 

準備は短時間で整った。シャドウデーモンの影が静かに壁伝いに集まり、ハンゾウは報告を受けた位置の絞り込みを終えていた。バイアクヘー部隊は待機位置に配され、遠隔爆発と転移門の起動鍵はジョンの手元にある。

 

出発前、ぐりもあは拘束具を手に取り、ふと呟いた。

「できれば捕まえて解析したい――しかし、あいつは賢い。学習の速度が上がれば、こちらの術式もすぐに読まれる」

 

ジョンは短く笑って答える。

「だからこそ、先手を取る。プローブで挟み打ち、学習の“瞬間”を切り取るんだ。奴が反応する“最初の波”を見逃すな」

 

部隊は静かに迷宮へと降りた。影と光の往来、古い魔術陣の残滓が石壁に浮かび、空気は冷たい。遠隔観測ユニットは、小さな鏡状のプローブを地下の隙間に差し込み、魔力の流れを吸い上げては暗号化された経路で執務室へ送る。プローブは自律して位置微調整を行い、母体の学習パターンを捕まえる任務を負う。

 

最初のプローブが差し込まれた瞬間、スクリーンに細い波形が浮かんだ。ぐりもあの指が即座に動き、ログの粒度を上げる。波形は微小だが規則性を孕んでいる。母体の断片が反応を始めた証拠だ。

 

「反応あり。学習速度は思ったより早い」

ぐりもあの声に緊張が走る。母体は既にプローブを模擬対象として学習を始め、通信パターンの解析を試みる。だが、それこそが彼らの狙いだった。母体の学習“瞬間”をログに収めることで、以後の拘束手順を精密に組み上げるのだ。

 

影が揺れ、遠隔監視の映像に薄い霧のような粒子が漂う。そこへ、母体の断片が触れた。プローブのログは一瞬、ノイズに覆われたが、瞬時に保存された。ぐりもあの顔に興奮が灯る。彼はデータの中に糸口を見た──封印の隙間を縫う母体の“呼吸”を捉えたのだ。

 

しかし、同時に警告音が鳴る。監視網の一部が瞬間的に死角を生じさせた。モモンガが端末を叩き、低く言った。

「生物的脅威は常に反撃してくる。準備は万端に――」

 

ジョンが短く返す。

「了解。全部隊、距離を詰める。拘束具、投入準備。ハンゾウ、君の目で居場所を示せ」

 

ナザリックの一手は、静かに、しかし迅速だった。外へ漏れないように幕を下ろし、同時に遠隔で母体の呼吸を“切り取る”作業が始まる。だが地下の暗闇の向うで、母体は学習し、適応し、次の局面を準備している――それは彼らの想定の一歩先を行くものかもしれない。

 

 

/*/ ナザリック地下第9階層・母体捕獲作戦/*/

 

 

遠隔監視網に母体の存在が映る。暗い洞窟の奥で、光を帯びた断片が微かに揺れ、まるで周囲の空間を飲み込むかのように広がっていた。ぐりもあは手元の端末を操作し、魂格拘束具の起動準備を整える。ジョンは目を細め、バイアクヘー部隊の配置を最終確認していた。

 

「拘束具、投入。プローブで位置を固定。接触は最小限に」

ぐりもあの声に緊張がにじむ。母体は学習しており、無防備に接触すれば即座に反応する。

 

最初の拘束具が投下される。青白い光が母体に触れ、断片の一部が静止する。しかし、母体は黙って従わない。微細な振動が空間に広がり、プローブの映像は波紋のように揺れた。

 

ジョンは短く指示する。

「補助プローブ、同時に三方向から展開。逃げ道を封じろ」

 

母体は反応し、光の粒子が自在に変形して拘束具の光をねじ曲げる。ぐりもあは瞬時に補正回路を作動させ、拘束域を再編成する。しかし、その間にも母体は学習を重ね、抵抗力を増していた。

 

「……まだ動く。制御域が不安定だ」

ぐりもあの声に焦りが混ざる。母体は学習の速度でこちらの術式を先読みし、拘束域に隙間を生み出す。わずかな光の裂け目から、母体の断片がゆらりと逃げる。

 

ジョンは拳を握り、低く呟いた。

「ダメか……一発で決められないのか」

 

「補助プローブ、再展開。封印陣の出力を上げろ」

ぐりもあは必死に操作するが、母体は逃げる。光の粒子が空間を裂き、拘束域の境界を歪ませる。接触はわずかに成功したが、完全捕獲には至らない。

 

モモンガは端末を押さえ、冷静に指示する。

「危険性が高い。これ以上接触すると全体が暴走する可能性がある。最後の手段を用意しろ」

 

ジョンは短くうなずき、バイアクヘーの配置を確認する。

「わかった。最後の手段は準備通りだ」

 

冷たい闇の力が瞬時に母体の揺らぎを包み込み、空間内で渦を巻く。破壊と拘束が同時に行われ、母体の反応は徐々に鈍る。

 

だが母体は最後の瞬間に再び隙間を縫い、拘束域を突破しようとする。光と闇の攻撃が交錯する中、母体は空間を裂き、断片の一部が消滅した。接触は成功したが、完全捕獲には至らない。

 

ぐりもあは息をつき、手元の端末を握りしめた。

「……捕まえられませんでした。接触は成功したが、母体の学習速度が予想以上です」

 

ジョンは肩をすくめ、短く笑う。

「なら、最終手段だな」

 

モモンガは赤光をゆらりと揺らし、冷静に言った。

「安全圏からの制圧。破壊だ」

 

立体魔法陣を展開していたルプスレギナが前に進み、片手を掲げる。

「――天上の剣、発動!」

鋭い詠唱とともに光の剣が洞窟内に降り注ぎ、母体の断片に切り込む。空間が震え、光が暴走しそうになる母体の粒子を強制的に押さえ込む。

 

同時にアルベドが一歩前に出る。

「真なる無、発動!」

 

そして最後にモモンガが出た。

『The goal of all life is death』と組み合わせた「黒き豊穣への貢」が発動。死を呼ぶ黒い息吹が吹き抜けた。

 

光と闇の剣の連携が洞窟を裂き、母体の断片は圧倒的な力の前に抗えず、消滅した。残されたのは微かな魂の残滓のみ。プローブは捕捉データを全て記録し、ナザリックへ送信された。

 

「仔山羊が1体か。少し取りこぼしがあったようだな」

 

ジョンは地図に指を落とし、短く言った。

「捕まえようとしたが、無理だったな。でも、データは取れた」

 

ぐりもあは端末を握ったまま静かにうなずく。

「母体の反応速度と学習アルゴリズム、封印の隙間の性質……すべて記録できました。次の研究に役立ちます」

 

モモンガは赤光を弱め、少し微笑む。

「捕獲は失敗したが、情報は得た。リスクは高かったが、価値は十分だ」

 

ナザリックの静寂が戻る。洞窟は再び暗闇に包まれ、学習した母体の断片は消え去った。しかし三人の目には、次なる対策を練る知識と冷静な覚悟が宿っていた。

 

 

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