オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第187話:漆黒聖典、帰還せよ

 

 

/*/ 第十七章 『漆黒聖典、帰還せよ(オペレーション・カーディナル)』 /*/

 

 

夜明けの光が差し込む法国の法都――シクルサンテクス。

鐘楼が低く鳴り、街の石畳には金の光が溶けていく。

神都の中心、大聖堂〈セント・カーディナル〉の尖塔では、

朝の祈りの鐘がすでに五度鳴り終わっていた。

 

その鐘音の下、重厚な扉が開かれる。

漆黒聖典、帰還。

 

――六人の影が、静かに堂内に入る。

 

その先頭を歩くのは、白銀の鎧をまとった男。

第一席次“漆黒聖典”ケネウス・レクス・ヴァロール。

その背後には、傷を負いながらも毅然とした第五席次クアイエッセ、

第十席次“人間最強”、第十一席次“無限魔力”らが並んでいた。

 

大理石の床を踏みしめ、彼らはひざまずく。

その中央に立つ大神官は、杖を地に突き、

静かに言葉を紡いだ。

 

「神敵、ヤルダバオト。完全消滅を確認。

 漆黒聖典、よくぞ帰還した。」

 

「……ありがとうございます。」

ケネウスは頭を垂れた。

その顔には疲労の色が濃い。

戦いの余波、そして――血の契約《ブラッド・オース》の影響。

 

ミリア・デ=カストルが一歩前に進み出て、

天穹の水晶盤を掲げる。

 

「観測報告によれば、

 神敵の消滅と同時に“星の配列”が変化しました。

 南天の第七星群〈カトラスの鎖〉――

 それが今、白と紅の光を放っています。」

 

「……白と紅。」

大神官が小さく呟く。

「神の光と、吸血鬼の夜。

 交わるはずのないものが、今や一つの星を成したというのか。」

 

ミリアは目を伏せる。

「はい。――それが、“彼ら”です。」

 

大神官は沈黙した。

堂内の空気が重くなる。

神官たちの間に、わずかなざわめきが走る。

 

やがて、大神官が口を開いた。

 

「ケネウス・レクス・ヴァロール。」

「……は。」

 

「貴公の行いは、神々の法を越えた。

 人ならぬ者と血を交わし、力を結び、

 神敵を討ったという――これは、光の教義からすれば背徳だ。」

 

その言葉に、聖典兵たちの空気が凍る。

イビルアイのことを――知っている。

 

しかし大神官は続けた。

 

「だが、その“背徳”こそが、世界を救った。

 ゆえに、我らは貴公を裁かぬ。

 この奇跡を、神の沈黙の中の啓示として受け入れる。」

 

ケネウスは頭を下げ、短く答えた。

「……御意。」

 

大神官は杖を掲げた。

「汝、光の名をもって、新たな誓いを立てよ。

 その槍を掲げ、再び神々の座へ捧げよ。」

 

ケネウスはゆっくりと立ち上がる。

ルクス・ブリューナク――今やブリューナク・ノクティス。

その槍を掲げると、刃先が淡く光を帯びた。

 

紅と白の光が、天井のステンドグラスを照らす。

それは聖と夜を繋ぐ新しい祈り。

 

「我が名において、誓う。

 光が闇を裁かぬように、闇もまた光を恐れぬ世界を――」

 

静寂。

神官たちが祈りの姿勢を取り、

聖堂の鐘が再び鳴り響いた。

 

 

/*/

 

 

同刻。

 

ナザリック地下第9層。

モモンガは、アインズ・アイズの最新記録をスクロールしていた。

 

「ふむ……なるほど。

 “神の啓示として裁かれず”か。

 さすがはスレイン法国、政治の香りがする。」

 

後方でジョン・カルバインがにやにやと笑う。

「いいねぇ、宗教国家の“落とし所”。

 燃やすだけ燃やして、最後は感動の大団円。」

 

モモンガは肩をすくめた。

「感動と言えば――あの槍の変化。

 あれは神造兵装の進化例として実に興味深い。

 光属性と吸血鬼の魔力の共鳴。

 物理的には相反するはずだが……」

 

ジョンは笑いながら割り込む。

「愛だよ、愛。物理法則を越えるのは、いつだって人の情熱さ。」

 

モモンガは無言で顎に手を当てた。

「愛、ね。……ふむ。ならば――」

 

彼はゆっくりと視線を上げた。

「――次は、我々が“神敵”と呼ばれる番かもしれんな。」

 

ジョンは唇の端を上げた。

「だったら、面白い劇が見られそうだ。

 あの神槍と吸血姫が、今度はこっちを見据えるかもな。」

 

 

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夜が再び訪れる。

スレイン法国の空には、紅と白の星が寄り添い、

世界の新たな均衡を照らしていた。

 

そして、その光を見上げる者たちは、

皆、無言のうちに感じていた。

 

――神々はまだ、この地を見放してはいない。

 

 

/*/ 第十八章 『双星交響(シンフォニア・ディ・ルーメン)』 /*/

 

 

夜の帳が降りた法都シクルサンテクス。

白大理石の尖塔に紅と白、二つの星が輝いていた。

それは世界の新たな象徴――光と闇の共鳴、〈双星〉である。

 

大聖堂の鐘が静かに鳴る。

その響きの下、漆黒聖典の宿舎に灯がともり、

クアイエッセ、ニグン、ほかの席次たちが集まっていた。

 

「……第1席次が帰ってきたというのに、誰も笑っていないな」

第十席次“人間最強”が低く呟く。

「笑える状況じゃないでしょう。」クアイエッセが答える。

「彼が連れ帰ったのは、吸血姫。しかも――神槍の共鳴者。」

 

沈黙。

その言葉は重い。

だが誰も、ケネウスの功績を疑うことはできなかった。

あのヤルダバオトを討ったのだ。

 

扉が開く音。

白銀の鎧の男が、静かに部屋に入ってきた。

 

「ケネウス様!」

兵たちが立ち上がる。

だが、彼の顔には微笑みも威圧もなかった。

ただ穏やかで、人間的な疲労と静けさがあった。

 

「皆、無事で何よりだ。

 ……長い戦いだった。」

 

クアイエッセが一歩前に出る。

「第1席次殿。あの“夜の契約”は、まだ続いているのですか。」

 

「続いている。」ケネウスは答える。

「だがそれは呪いではない。

 血ではなく、意思で繋がる絆だ。」

 

部屋の空気が少し揺れた。

彼の声には力があった。

クアイエッセはゆっくりと頷き、敬礼した。

「……ならば、我らも貴方に続きましょう。

 光と闇の均衡を保つために。」

 

ケネウスは小さく微笑む。

「ありがとう、第五席次。

 ――お前の獣たちの咆哮が、まだ耳に残っている。」

 

クアイエッセは目を細めた。

「次は、もう少し静かな戦場にしましょう。」

 

 

/*/

 

 

同じ頃。

法都の外れ、法都墓苑の片隅。

イビルアイが月光の下で一人佇んでいた。

彼女の周囲に、淡い光が集まる。

亡骸ではない。――それは祈りの残響。

 

「あなたたちの犠牲で、世界は少しだけ長生きした。

 でも、私たちはまた戦うわ。

 光が闇を拒まない日まで。」

 

その声は夜風に溶け、月に届く。

その背後に、足音がした。

 

「……また墓場か。らしくない。」

ケネウスだった。

彼は鎧を外し、黒の外套を羽織っていた。

 

イビルアイは振り返らずに答えた。

「貴方が“生きて帰れ”と言ったから。

 でも、あれだけの死を見たら、立ち止まらずにはいられないわ。」

 

ケネウスは彼女の隣に立ち、夜空を仰いだ。

「双星が綺麗だな。」

「ええ。……ねえ、あれはどっちが貴方で、どっちが私?」

 

ケネウスは少し考え、答えた。

「私が白。貴女が紅。」

「理由は?」

「白は空を照らす。だが、紅がなければ輝かない。」

 

イビルアイは小さく笑った。

「詩人ね。――でも、悪くない。」

 

二人は静かに並び、星を見上げた。

その光が、二人の影をひとつに重ねる。

 

 

/*/

 

 

その上空。

《アインズ・アイズ》の観測ログに、

またひとつ新しい文が刻まれた。

 

【観測補遺】

神槍保持者ケネウスおよび吸血姫イビルアイ、

共に法国中枢にて安定。

星位共鳴現象、継続中。

コードネーム更新:《シンフォニア・ディ・ルーメン》。

 

 

/*/

 

 

ナザリック・第9階層。

ジョンが机の上のプリントを片手に、にやりと笑う。

「“双星交響”か。詩的でいいじゃねぇか。

 おい、ぐりもあ、ポスター案つくっとけ。」

 

モモンガが頭を抱える。

「……また宣伝する気か?」

「当然。英雄譚は広めてナンボだ。

 神も悪魔も惚れるような恋と戦いだぜ?」

 

モモンガは苦笑し、肩をすくめる。

「やれやれ。だが、あの二人のことだ。

 次に動くときは――もう“人と神”の戦いでは済まんだろうな。」

 

「なら、俺たちも観客じゃいられねぇな。」

ジョンの声が、愉快に響く。

 

 

/*/

 

 

夜空に二つの星が瞬く。

その光は互いを拒まず、混じり合い、

やがて天の川を横切るように一筋の光跡を描いた。

 

それは、光と闇の交響――

“世界の調律”が、静かに始まる前触れだった。

 

 

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