オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第192話:真の竜王

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層・モモンガの執務室 /*/

 

 

静寂の中で、燭台の炎が揺らめいていた。

重厚な黒檀の机の上には、蒸気を立てる三つのカップ。

 

ジョン・カルバインは深煎りの珈琲を、

ぐりもあは香り高い紅茶を、

そして玉座の主モモンガは、ゆったりと水タバコの煙を吐いていた。

 

紫煙が渦を巻き、魔力の光が淡く部屋を照らす。

 

ジョンが資料束を机の上に置いた。

「――才能判別研究所のタレント鑑別エルダーリッチがついに見つけたってよ。

 “始原の魔法(ワイルド・マジック)を使えるようになるタレント”だ。」

 

モモンガの赤い眼光が、ゆっくりと光を強める。

「……ほう。それは確か、竜王国のドラウディロン女王が持っているという、あの類のものか。」

 

ジョンは頷き、淡々と続ける。

「恐らく同じものだな。

 ただし今回の保有者には竜の血がない。ゆえに発動条件を満たせず、

 才能だけが“眠ったまま”になっている。

 つまり――買い取って、発動可能な個体に移植すべきだ。」

 

ぐりもあは紅茶のカップを指先で回しながら、

興味深げに問いかけた。

「発動できる個体……候補は?」

 

モモンガは淡く煙を吐きながら答える。

「ふむ。魔導的、もしくは生体的な親和性を持つ者が望ましい。

 つまり――竜種の血か、あるいは近似の魂構造を持つ存在。」

 

ぐりもあが軽く指を鳴らす。

「だったら、アウレリア姫かブレインかですね。

 アウレリア姫は竜王国の血筋、ブレインは“人間にして人外”の域に踏み込んでいる。」

 

ジョンは腕を組み、首を横に振る。

「ブレインは“精神構造”が強すぎる。

 魂が純粋すぎて、才能の方が弾かれる可能性がある。

 アウレリアは確かに適正があるが、政治的に使いづらい。」

 

ぐりもあが目を細める。

「となると――」

 

ジョンは静かに言葉を継いだ。

「マーレのところにいるドラゴンだな。

 あるいは、うちのリンドウ。忠誠心的にも扱いやすい。

 能力的にはヘジンマールに移植したいところだが……

 あいつは魂の位階が高すぎる。発動どころか、才能そのものを“喰う”危険がある。」

 

モモンガはゆるりと顎に手を当てる。

「……確かに。ヘジンマールは研究体としても優秀だが、まだ制御の確証がない。

 となれば、まずはリンドウが無難ですか。」

 

ジョンは頷き、口元に笑みを浮かべる。

「忠誠心、適応力、そして生体的安定性。

 “生きた兵器”として最も信頼できる。

 ワイルド・マジックの回路を解析できれば、ナザリック側でも応用可能になる。

 新しい神格魔法体系の礎にもなり得る。」

 

ぐりもあは頬杖をつきながら微笑む。

「でも、これをスレイン法国や竜王国が知ったら、卒倒するでしょうね。」

 

ジョンは肩をすくめた。

「知られなければいい。

 知られた時は、もう“既に完成している”頃だ。」

 

モモンガは静かに煙を吐き、

「……それが、“神の力”を人に落とすということですか。」と呟いた。

 

ジョンは笑う。

「違うさ、モモンガ。

 “神の力を理解する”ってのは、

 神を超える準備を始めるってことだ。」

 

部屋の光が一段と強くなり、

その中心で、三人の影が静かに重なった。

 

《アインズ・アイズ》の光球が、天井から降下し、記録を始める。

――“タレント移植実験計画”、第零号。

対象:リンドウ。

監督責任者:ジョン・カルバイン。

 

夜のナザリックに、新たな禁断の研究が芽吹こうとしていた。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層・モモンガ執務室 /*/

 

 

静かな魔灯の光が揺れる。

机の上には魔導金属の筆記具と、淡く光を帯びた水晶ファイル――

そこには《タレント移植実験計画》の進捗記録が並んでいた。

 

ぐりもあが紅茶を一口すすり、軽く首を傾げる。

「そう言えば、ジョンさんとモモンガさんはタレント移植しないんですか?」

 

ジョンは珈琲のカップを回しながら答える。

「気功を強化するようなタレントなら移植しても良いんだが、

 いまのところ、そういうのが無いからな。

 “筋力増強”とか“疲労耐性”は気で代用できるし、

 “再生”ならもうできる。タレントで上積みするほどの余地があんまりない。」

 

ぐりもあは笑いながら茶匙をくるくる回す。

「贅沢な悩みですね。

 普通の人間なら“才能を欲しい”って言うところを、

 ジョンさんは“自分の仕組みに合う才能がない”で困ってる。」

 

ジョンは苦笑して肩をすくめる。

「俺の方が珍種なんだから仕方ないだろ。

 『人狼+モンク+半神+ブルーカラーの現場精神』なんて、タレントの方が引くわ。」

 

モモンガが静かに水タバコの煙を吐き出し、低く笑った。

「私としては――ンフィーレアくんが持っている“アイテム使用適性”のタレントを

 ジョンさんたちに持ってもらいたいですね。

 ギルド武器の使い手が増えるのは心強い。

 ただ、私自身は特に“欲しいタレント”が思いつきません。

 すでに魔法詠唱の極致に達してますし……必要なら、創ればいい。」

 

ぐりもあが軽く眉を上げた。

「“創ればいい”ってさらっと言えるの、モモンガさんくらいですよ。

 でも――もし、強いて言うなら?」

 

モモンガは少しだけ考える仕草を見せた。

「……そうですね。

 “部下の暴走を止めるタレント”があれば、欲しいですね。」

 

ジョンが噴き出しかけた。

「おいおい、それは才能というより、諦観の域だろ。」

 

ぐりもあが吹き出して笑う。

「確かに、アルベドさんやデミウルゴスさんを止めるのにタレントが必要そうです!」

 

モモンガは静かに頷き、煙を吐く。

「ええ。〈止める〉というより“止まってくれるタレント”を配下が持ってくれたら……

 それこそ真の平和が訪れるでしょう。」

 

ジョンは肩をすくめ、机の上の資料を指で叩いた。

「そっちの方がワイルド・マジックより希少だな。

 世界を救う才能ってのは、案外“空気を読む能力”なのかもな。」

 

ぐりもあは笑いながら立ち上がり、ティーカップを片付けた。

「じゃあ、次は“空気を読めるアンデッド”でも探してきましょうか。」

 

モモンガとジョンが同時に顔を見合わせる。

 

「――それはもう奇跡の域だな。」

 

三人の笑い声が静かに響き、魔灯の光が柔らかく揺らめいた。

机の上の水晶が淡く光を放ち、《アインズ・アイズ》が会話を記録する。

 

【観測記録:タレント移植議論 第12会合】

内容:各守護者および幹部への適性配分検討

備考:新規提案――“空気読解能力を持つアンデッド”候補、調査開始。

 

夜の第9層に、静かな笑いが残った。

 

 

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