オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

206 / 206
第195話:あーかーいトラクター

 

 

/*/ エ・ランテル・黄金の輝き亭 夕刻 /*/

 

 

ランプの灯りがゆらめき、木製の天井に柔らかな橙色の光を落としていた。

冒険者たちの笑い声が遠くに響く中、ジョンとイビルアイは窓際の席に向かい合って座っていた。

 

イビルアイがカップを置き、仮面越しに問いかける。

「魔導国北部直轄領ではアンデッドで耕作してるって聞いてるが、カルネ・ダーシュ村とかは畑が増えた分はどうするんだ? アンデッド使うのか?」

 

ジョンは苦笑し、カップの中のコーヒーを軽く回した。

「使ってるところもあるが……効率化を進めるのにゴーレムを使う予定なんだ。

帝国や竜王国に輸出してる“鉄の騎士”で、ゴーレムの自立行動をオミットして、人が操る事でコストダウンしたモデルが出来た。

今、それを農耕用に再設計してるところだ。」

 

イビルアイが眉を動かした。

「……ゴーレムで耕作? まさか戦闘用の外殻をそのまま流用するのか?」

 

「いや、もっと実用的だ。」

ジョンは腰の魔導端末を軽く叩き、空中に投影魔法で映像を浮かべた。

そこに現れたのは、土色の鋼板で覆われた、大型トラクターのような機械。

前面には回転する鋼鉄の犂(すき)と、後部には穀物を刈り取るための複合機構が取り付けられていた。

全体は低重心で、車輪は魔法陣の刻まれた黒鉄製。

車体の側面にはナザリック工務局の紋章が光っている。

 

「――これが試作一号だ。名称は《農耕ゴーレム・タイプN1》。

見た目は昔の世界で言う“コンバイン”や“トラクター”だな。

操作は座席型の魔導インターフェース。魔力を流せば走る。」

 

イビルアイは仮面の下で目を細めた。

「……これはもはや“ゴーレム”じゃない。“機械文明”の領域だ。」

 

ジョンは片手を上げ、苦笑を返す。

「まあ、こっちの世界だと“ゴーレム”って言った方が早いからな。

このタイプは魔力核を一段階下げて、思考演算を削除。

その代わりに、人が魔力操縦する半自律式。

これなら整備も簡単で、村の鍛冶屋でも修理できる。」

 

「なるほど……つまり、ゴーレムというより“農業用車両”ね。」

 

ジョンは頷き、映像の中で回転する車輪を指さした。

「そう。ロータリーの部分は魔法で土の硬さを自動判定して深さを変える。

刈り取り装置は魔力の振動刃で、刃こぼれもない。

アンデッドだとただ掘るだけだが、これなら“耕す”“植える”“刈る”まで全部こなせる。」

 

イビルアイは感嘆の声を漏らす。

「まるで魔導工学の革命だな……。でも、そんな大がかりなものを村単位で運用できるのか?」

 

「そこも考えてる。」

ジョンはコーヒーを飲み干し、カップをテーブルに置く。

「帝国の“鉄の騎士”工廠で量産ラインを流用してる。

農業向けは戦闘用より軽装だし、素材は青銅合金で十分。

魔力核も下位互換品に替えれば、製造コストは五分の一になる。

村ごとに二、三台導入できれば、数百ヘクタール規模の畑を人手なしで維持できる。」

 

「……村単位でゴーレムが畑を耕す時代、ね。」

イビルアイは呟き、少しだけ微笑んだ。

「戦争より、そっちの方が人を救う“革命”だと思うわ。」

 

ジョンはその言葉に小さく笑った。

「だろ? 飯が安定すれば、争いの火種はひとつ消える。

神獣の仕事ってのは、派手な破壊より――地味な“建設”の方が多いんだ。」

 

イビルアイは黙って頷き、浮かぶ映像の中で土を耕す農耕ゴーレムを見つめた。

その背後には、風に揺れるカルネ・ダーシュの畑が、ゆっくりと夕陽に染まっていった。

 

 

/*/ スレイン法国・大神殿・技術評議室 午前 /*/

 

 

陽光が白い大理石の壁を照らし、会議机の上に図面が何枚も広げられている。

部屋の隅には、魔導通信機と解析用の水晶盤。

ジョン、ケネウス、そして土塵聖典のメンバーたちが顔をそろえていた。

 

最初に報告書を手にした聖典の女官が、どこか申し訳なさそうに口を開く。

「本日は……土神官長らは“悪阻”のため、お休みでございます」

 

ジョンは肩をすくめ、深いため息をついた。

「だから“一斉にするな”と言ったのに……。

まあいい、仕事は進めよう。――これが農耕用ゴーレムの最終設計図だ」

 

彼が広げた図面には、鋼鉄の機体が細密に描かれていた。

幅広の前輪と魔法陣の刻まれた後輪、犂(すき)ユニット、種まき装置、収穫用の刃。

まるで巨大なコンバインを思わせるが、魔導炉を動力源にした純魔導機構だった。

 

「これを使えば、農夫の耕作能力は別次元になる。

一年のうちに三作は可能だ。食料生産が劇的に増えて、人口増加にも耐えられるようになる。」

 

土塵聖典の若い聖職者たちはどよめいた。

「まさに神の御業……これがあれば、飢饉もなくなりますね!」

 

ジョンは指先で図面をとんとんと叩き、静かに言葉を継いだ。

「ただ――」

 

空気が引き締まる。

 

「肥料そのものは魔導国から提供可能だ。魔力抽出スライムの副産物で、

安定した窒素とリン、カリウムを含んでいる。

だが、現状の“排泄物を堆肥にする農業”にはもう一つの側面がある。」

 

ケネウスが横から補足するように頷く。

「生命の循環、ですね。」

 

ジョンは頷き、指で円を描く。

「そう。人が食べ、排泄し、それを土に返す。

それによって“生命力”が微細に還元され、

その土地で採れる作物には、ほんの僅かだが“生命の気”が宿る。

それを食べた人間の活力が上がりやすくなる――小規模農業の強みだ。」

 

土塵聖典の一人が神妙に問う。

「では、大規模農業ではそれが失われると?」

 

ジョンは顎に手を当て、淡々と答えた。

「完全ではないが、失われやすい。

効率だけを追えば、土地は栄えるが、人は鈍る。

だから、“生命の循環”を維持しつつ量産できる体系――

そこをどう設計するかが課題だ。」

 

ケネウスが新しい書類を差し出した。

「ジョン様の提案では、“分散堆肥循環炉”の導入を考えています。

村ごとにスライムと微生物を共棲させ、生命エネルギーを保持したまま分解。

魔導国製肥料と混ぜて使えば、従来より豊かで安全な土が再生される仕組みです。」

 

聖典のメンバーたちは顔を見合わせた。

「……生命の循環と効率の両立、ですか。

それが成り立てば、法国の農地も救えますな。」

 

ジョンは小さく笑った。

「“命を生かす農業”ってやつだ。

アンデッドでも、ゴーレムでも、土地の“息”は奪っちゃいけねぇ。

人が生きてるなら、土も生かさなきゃならん。」

 

ケネウスが静かに頷いた。

「神の奇跡ではなく、人の知恵で神に並ぶ――まさに再鍛造計画の理想形ですね。」

 

ジョンは腕を組み、薄く笑みを浮かべた。

「理想ってのはな、腹が減ってる奴に飯を食わせてから語るもんだ。

――それが分かるまでは、俺たちはまだ神の真似事だよ。」

 

外の鐘が鳴り、会議室の窓から風が流れ込む。

白い図面がふわりと舞い上がり、まるで未来の豊穣を告げるように光を反射した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ(作者:ぶーく・ぶくぶく)(原作:オーバーロード)

こちらは「オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~https://syosetu.org/novel/61986/」の小話、パラレルetcのまとめとなります。▼かつて〈ユグドラシル〉のプレイヤーであり、今は青と白の毛並みを持つ人狼として異世界に存在するジョン。▼戦場や陰謀、そして強者の権謀渦巻く魔導国で、彼が目指すのは意外にも「のんびり、ほ…


総合評価:558/評価:7.33/短編:392話/更新日時:2026年05月15日(金) 00:00 小説情報

オーバーロード 傾国狐の異世界日記(作者:破戒僧)(原作:オーバーロード)

ユグドラシル最終日。『傾国の悪女』(ロールプレイ)として知られる1人のプレイヤーが、ギルドホームと共に異世界に転移した。ナザリックが転移して来るよりも、400年も前の時間に。▼これは、わけのわからん状況にパニック寸前になりつつも、頼れるNPC達に手伝ってもらいつつ、なんだかんだで割と欲望のままに異世界生活を楽しんでいく、一人の『狐』がしたためた、なんてことは…


総合評価:4794/評価:8.22/連載:121話/更新日時:2026年05月04日(月) 21:40 小説情報

【一区切り】レメディオスソード(作者:傀儡兵C)(原作:オーバーロード)

聖王国編何度も読み直してたら、哀れになってきました。需要があるなら続くオリ主もの。


総合評価:12598/評価:8.54/連載:153話/更新日時:2026年05月13日(水) 12:25 小説情報

ソロプレイヤー、ナザリックに挑む(作者:No_46)(原作:オーバーロード)

目が覚めたとおもったらとんでもないディストピア!▼糞みたいな業務を今日も終わらせた私は目についたゲームの広告で気付いた。▼ここ、オーバーロードの世界では!?と▼見切り発車で行きます。▼敵対が明確になるのは中盤からの予定です。▼甘口列様からファンアート頂きました!▼かっこいいナヅキちゃん!▼本当にありがとうございます!▼【挿絵表示】▼


総合評価:14347/評価:8.69/連載:103話/更新日時:2026年04月27日(月) 02:10 小説情報

オーバーロード ~集う至高の御方~(作者:辰の巣はせが)(原作:オーバーロード)

ユグドラシル最終日、モモンガと別れてログアウトしたヘロヘロが、システム混乱の最中、ある行動に出る。その結果、事態は史実と乖離していくのだった……。▼(↓★は注意事項)▼初投稿です。▼基本的にモモンガ中心で話が進み、原作ギルメンが増えていく系の話になります。▼★オリ主なし、原作ギルメン多数登場、モモンガが楽しく過ごす……が苦手な方には不向きではないかと思います…


総合評価:13581/評価:8.5/連載:133話/更新日時:2025年12月31日(水) 19:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>