オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第195話:あーかーいトラクター

 

 

/*/ エ・ランテル・黄金の輝き亭 夕刻 /*/

 

 

ランプの灯りがゆらめき、木製の天井に柔らかな橙色の光を落としていた。

冒険者たちの笑い声が遠くに響く中、ジョンとイビルアイは窓際の席に向かい合って座っていた。

 

イビルアイがカップを置き、仮面越しに問いかける。

「魔導国北部直轄領ではアンデッドで耕作してるって聞いてるが、カルネ・ダーシュ村とかは畑が増えた分はどうするんだ? アンデッド使うのか?」

 

ジョンは苦笑し、カップの中のコーヒーを軽く回した。

「使ってるところもあるが……効率化を進めるのにゴーレムを使う予定なんだ。

帝国や竜王国に輸出してる“鉄の騎士”で、ゴーレムの自立行動をオミットして、人が操る事でコストダウンしたモデルが出来た。

今、それを農耕用に再設計してるところだ。」

 

イビルアイが眉を動かした。

「……ゴーレムで耕作? まさか戦闘用の外殻をそのまま流用するのか?」

 

「いや、もっと実用的だ。」

ジョンは腰の魔導端末を軽く叩き、空中に投影魔法で映像を浮かべた。

そこに現れたのは、土色の鋼板で覆われた、大型トラクターのような機械。

前面には回転する鋼鉄の犂(すき)と、後部には穀物を刈り取るための複合機構が取り付けられていた。

全体は低重心で、車輪は魔法陣の刻まれた黒鉄製。

車体の側面にはナザリック工務局の紋章が光っている。

 

「――これが試作一号だ。名称は《農耕ゴーレム・タイプN1》。

見た目は昔の世界で言う“コンバイン”や“トラクター”だな。

操作は座席型の魔導インターフェース。魔力を流せば走る。」

 

イビルアイは仮面の下で目を細めた。

「……これはもはや“ゴーレム”じゃない。“機械文明”の領域だ。」

 

ジョンは片手を上げ、苦笑を返す。

「まあ、こっちの世界だと“ゴーレム”って言った方が早いからな。

このタイプは魔力核を一段階下げて、思考演算を削除。

その代わりに、人が魔力操縦する半自律式。

これなら整備も簡単で、村の鍛冶屋でも修理できる。」

 

「なるほど……つまり、ゴーレムというより“農業用車両”ね。」

 

ジョンは頷き、映像の中で回転する車輪を指さした。

「そう。ロータリーの部分は魔法で土の硬さを自動判定して深さを変える。

刈り取り装置は魔力の振動刃で、刃こぼれもない。

アンデッドだとただ掘るだけだが、これなら“耕す”“植える”“刈る”まで全部こなせる。」

 

イビルアイは感嘆の声を漏らす。

「まるで魔導工学の革命だな……。でも、そんな大がかりなものを村単位で運用できるのか?」

 

「そこも考えてる。」

ジョンはコーヒーを飲み干し、カップをテーブルに置く。

「帝国の“鉄の騎士”工廠で量産ラインを流用してる。

農業向けは戦闘用より軽装だし、素材は青銅合金で十分。

魔力核も下位互換品に替えれば、製造コストは五分の一になる。

村ごとに二、三台導入できれば、数百ヘクタール規模の畑を人手なしで維持できる。」

 

「……村単位でゴーレムが畑を耕す時代、ね。」

イビルアイは呟き、少しだけ微笑んだ。

「戦争より、そっちの方が人を救う“革命”だと思うわ。」

 

ジョンはその言葉に小さく笑った。

「だろ? 飯が安定すれば、争いの火種はひとつ消える。

神獣の仕事ってのは、派手な破壊より――地味な“建設”の方が多いんだ。」

 

イビルアイは黙って頷き、浮かぶ映像の中で土を耕す農耕ゴーレムを見つめた。

その背後には、風に揺れるカルネ・ダーシュの畑が、ゆっくりと夕陽に染まっていった。

 

 

/*/ スレイン法国・大神殿・技術評議室 午前 /*/

 

 

陽光が白い大理石の壁を照らし、会議机の上に図面が何枚も広げられている。

部屋の隅には、魔導通信機と解析用の水晶盤。

ジョン、ケネウス、そして土塵聖典のメンバーたちが顔をそろえていた。

 

最初に報告書を手にした聖典の女官が、どこか申し訳なさそうに口を開く。

「本日は……土神官長らは“悪阻”のため、お休みでございます」

 

ジョンは肩をすくめ、深いため息をついた。

「だから“一斉にするな”と言ったのに……。

まあいい、仕事は進めよう。――これが農耕用ゴーレムの最終設計図だ」

 

彼が広げた図面には、鋼鉄の機体が細密に描かれていた。

幅広の前輪と魔法陣の刻まれた後輪、犂(すき)ユニット、種まき装置、収穫用の刃。

まるで巨大なコンバインを思わせるが、魔導炉を動力源にした純魔導機構だった。

 

「これを使えば、農夫の耕作能力は別次元になる。

一年のうちに三作は可能だ。食料生産が劇的に増えて、人口増加にも耐えられるようになる。」

 

土塵聖典の若い聖職者たちはどよめいた。

「まさに神の御業……これがあれば、飢饉もなくなりますね!」

 

ジョンは指先で図面をとんとんと叩き、静かに言葉を継いだ。

「ただ――」

 

空気が引き締まる。

 

「肥料そのものは魔導国から提供可能だ。魔力抽出スライムの副産物で、

安定した窒素とリン、カリウムを含んでいる。

だが、現状の“排泄物を堆肥にする農業”にはもう一つの側面がある。」

 

ケネウスが横から補足するように頷く。

「生命の循環、ですね。」

 

ジョンは頷き、指で円を描く。

「そう。人が食べ、排泄し、それを土に返す。

それによって“生命力”が微細に還元され、

その土地で採れる作物には、ほんの僅かだが“生命の気”が宿る。

それを食べた人間の活力が上がりやすくなる――小規模農業の強みだ。」

 

土塵聖典の一人が神妙に問う。

「では、大規模農業ではそれが失われると?」

 

ジョンは顎に手を当て、淡々と答えた。

「完全ではないが、失われやすい。

効率だけを追えば、土地は栄えるが、人は鈍る。

だから、“生命の循環”を維持しつつ量産できる体系――

そこをどう設計するかが課題だ。」

 

ケネウスが新しい書類を差し出した。

「ジョン様の提案では、“分散堆肥循環炉”の導入を考えています。

村ごとにスライムと微生物を共棲させ、生命エネルギーを保持したまま分解。

魔導国製肥料と混ぜて使えば、従来より豊かで安全な土が再生される仕組みです。」

 

聖典のメンバーたちは顔を見合わせた。

「……生命の循環と効率の両立、ですか。

それが成り立てば、法国の農地も救えますな。」

 

ジョンは小さく笑った。

「“命を生かす農業”ってやつだ。

アンデッドでも、ゴーレムでも、土地の“息”は奪っちゃいけねぇ。

人が生きてるなら、土も生かさなきゃならん。」

 

ケネウスが静かに頷いた。

「神の奇跡ではなく、人の知恵で神に並ぶ――まさに再鍛造計画の理想形ですね。」

 

ジョンは腕を組み、薄く笑みを浮かべた。

「理想ってのはな、腹が減ってる奴に飯を食わせてから語るもんだ。

――それが分かるまでは、俺たちはまだ神の真似事だよ。」

 

外の鐘が鳴り、会議室の窓から風が流れ込む。

白い図面がふわりと舞い上がり、まるで未来の豊穣を告げるように光を反射した。

 

 

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