オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第196話:大型ランチャー製作秘話

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 工場エリア /*/

 

 

空気が鈍い鉄の匂いで満ちていた。

高天井の工場には、リズミカルな魔導炉の唸りと、エルダーリッチたちの詠唱が重なって響く。

一面の魔法陣。無数の鉄の部品。組み上げられていく巨大なリボルバー弾倉――。

 

それは鉄の騎士専用の大型魔導ランチャー、通称《MAW-2 火球式》。

直径四十センチの弾倉には、〈火球〉魔法を魔化・固定した弾丸が六発装填される。

外装はオリハルコン合金で、装填と冷却の両方を兼ねる回転式の機構を持っていた。

 

エルダーリッチたちは整然と列を成し、詠唱を繰り返す。

「――フレイム・インプリント、第一層固定……成功」

「第二層安定、魔力拡散率4%以下、良好」

「次、弾倉No.118へ」

 

その中で、ジョンとモモンガだけが、どこか魂の抜けたような表情で作業していた。

 

ジョンは鉄製の治具に弾倉を固定し、右手で〈火球〉を形成。

それを押し込むように詠唱と共に叩き込む。

「――よし、一基完了」

 

隣では、モモンガが黙々と同じ動作を繰り返していた。

〈高位固定化〉の魔法陣が瞬き、火球が安定する。

通常なら十段階工程を要する“魔化定着”を、一発の高位魔法で完結させているのだ。

 

モモンガが無表情のまま呟く。

「……これで、一時間あたり百二十丁。

 帝国の注文、千丁分だから……九時間ですね。」

 

ジョンは目の下のクマを隠しもしないまま、手を止めずに答えた。

「まーこれが一番早いからな。自動化より確実だし。

 なんだかなぁ……“至高の御方”の浪漫ビルドに頼り切りだ。」

 

モモンガの眼窩の赤光が一瞬だけ明滅する。

「そうですね……。しかし、こうも生産ラインが安定してしまうと、

 我々、もはや“ブラック労働者”では?」

 

ジョンが乾いた笑いを漏らした。

「ははっ……俺たちブラック気質だよなぁ。

 いや、俺はまだコーヒー飲めるけど……モモンガさん、骨だしな。」

 

「ふふ……大丈夫ですよ。精神的には慣れました。」

 

二人の背後では、無数のエルダーリッチが、完璧なリズムで詠唱を繰り返す。

“死してなお働く”彼らの姿は、ナザリック式生産体制の象徴だった。

 

やがて、魔導ラインの奥からぐりもあが現れ、図面を片手に眉をひそめた。

「まだやってるんですか? もう四十八時間経ってますよ!」

 

ジョンは手を止めずに、死んだ目のまま答えた。

「……あと二百丁で終わるから。人狼に休憩はいらねぇ。」

 

モモンガも淡々と続ける。

「アンデッドにも休憩はいりませんからね。効率的です。」

 

ぐりもあは頭を抱えた。

「計算間違えてますよ!?ぶっとうしで2日じゃなくて、8時間労働で足掛け2日でしょ!

 なんで通しでやってるんです!?

 なんかもう、“勤勉の神”を超えて“社畜の神”になってません?」

 

ジョンは弾倉をひとつ完成させ、手を止めた。

「ま、それでも世界が回るならいいじゃねぇか。

 俺たちがやってんのは、戦争のための武器じゃなく――

 “人間が死なずに済むための数合わせ”だ。」

 

モモンガが静かに頷く。

「……同感です。誰も、死なないで済む戦い。

 そのためなら、私は何度でも火球を詰めますよ。」

 

二人は再び無言で作業を再開した。

魔法陣の赤光が彼らの影を照らし、

無数の鉄の騎士用ランチャーが、冷たく整然と並んでいく。

 

その光景は、まるで死者の工場に宿る“生の理想”そのもののようだった。

 

 

/*/ 後日談:バハルス帝国戦線記録 /*/

 

 

バハルス帝国第八軍団がカルサナス都市連合の東方戦線に投入した新兵装――

その名は《MAW-2 火球式大型魔導ランチャー》。

 

全長一・八メートル、弾倉六連。

一発ごとに高位〈火球〉魔法を固定化した“魔化弾”を撃ち出す。

発射後は自動冷却と回転装填を行うことで、六発をおよそ十秒で撃ち尽くすという脅威の兵器であった。

 

その炎弾が描く弧は、まさに流星の雨――

竜人族と獣人族を併せ持つ戦闘種〈セントール〉の重装騎兵を、数十単位でまとめて焼き尽くす。

炎の爆風は地を割り、衝撃波だけで軽装歩兵を吹き飛ばした。

戦場を見た将兵の記録にはこうある。

 

「神の怒りとはあのことだ。

炎の神ではない、あれは“魔導国の技術”そのものがもたらす審判だった」

 

しかし――

その“神の審判”を支えていたのは、ナザリック地下深くの暗闇で、

死んだ目をした神獣ジョンと、疲弊しきった死の支配者モモンガが黙々と魔法を詰めていた光景である。

 

数百体のエルダーリッチたちが、黙々と詠唱を繰り返す。

〈火球〉の魔力を封じ込める赤い輝きが、無限の夜を照らす。

そのリズムはまるで祈りのようで――だが祈りの先にあるのは戦場。

 

ジョンが鉄の治具に弾倉を固定しながら呟いた言葉は、

やがてナザリック内で“生産班の信条”と呼ばれるようになる。

 

「俺たちは破壊のために作ってるんじゃない。

 戦いを短くするために作ってるんだ」

 

こうして生まれた《MAW-2 火球式ランチャー》は、

第八軍団がカルサナス東方戦線でセントール連合を撃退する決定打となり、

その後、帝国・魔導国連合の象徴的兵器として名を刻む。

 

だが誰も知らない。

その一本一本の弾倉には、

“至高の御方”たちが死んだ目で詰め込んだ〈火球〉の魔力が宿っているということを。

 

それは神々の手ではなく――

“働き過ぎた神々”の手で鍛えられた、地獄の労働の果実だった。

 

 

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