オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第198話:一方その頃のナザリック

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・第9階層 モモンガの執務室 /*/

 

 

魔灯の光が穏やかにゆらめき、白骨の主の執務室には静謐な香りが漂っていた。

机の上には書類の山、封印された魔導文書、そして――水タバコの細い煙。

 

モモンガは椅子にもたれ、煙の泡が水の中でぷくりと弾ける音を聞きながら、ゆったりと一息ついた。

その向かいで、ぐりもあが優雅に紅茶のカップを傾ける。

 

「……で、モモンガさん。あれ?ジョンさんは今日は来ないんですか?」

 

モモンガは骨の指でパイプを軽く持ち上げ、泡をもうひとつ弾かせてから答えた。

「ええ、今は帝国軍で“ミリタリー生活”を満喫中です」

 

「……は?」

紅茶を口に含んだまま、ぐりもあがまじまじと彼を見る。

「なにしてるんですかあの人」

 

「鉄の騎士部隊に“変装”して潜り込んでますよ。名前は――ジョン・ドゥとかいう無難な偽名で」

 

「えぇ……」

 

モモンガは肩をすくめ、骨の頬の奥で微かに笑った。

「“軍隊ごっこがしたい”そうです。自分で開発した戦闘糧食を持ち込んで、実際に野営で食べて、整備兵たちと談笑しているそうですよ」

 

「……もう、なにしてるんですか本当に」

 

「この前も報告が来ました。“辺境防衛線の味覚革命”とかいう題名で。

帝国の整備兵たちにモカカプチーノを配って回ったら、全員砂糖漬けになって寝不足になったとか」

 

ぐりもあは額を押さえ、紅茶のカップを置いた。

「仕事熱心なのか、ただの遊び人なのか分かりませんね……」

 

「まあ、あのバイタリティは感心しますよ。

たしかに“あんなもの思いつくのはジョンだけだ”と、アルベドも呆れていました」

 

モモンガは再びパイプをくゆらせ、青白い煙をゆっくりと吐き出した。

煙は空気にほどけ、静かに天井へと昇っていく。

 

「……それにしても、“架空の人間の経歴をでっちあげてまで軍隊に入る”という発想は、常識ではなかなか出ませんね」

 

ぐりもあは半眼になりながら、淡々と紅茶を口に含む。

「……つまり、あれですよね。“至高の御方”のやるロールプレイはスケールが違う」

 

「まったくです」

 

二人はしばし沈黙した。

静かな水泡の音と、紅茶の香りだけが部屋を満たす。

 

やがてモモンガが、ふと遠くを見るように言った。

「でも……あいつのそういうところ、嫌いじゃないんですよ。

“この世界の人間として生きてみたい”って気持ちは、私にも理解できる」

 

ぐりもあは目を細め、カップを机に戻す。

「……確かに。ナザリックの中だけじゃ、息が詰まりますもんね」

 

モモンガは無言で頷いた。

煙の向こうで、彼の紅い光が静かに揺らめく。

 

「……まあ、次に帰ってきたら、“軍用飯のお土産”でも期待しておきましょうか」

 

「どうせまた、変なもの作ってきますよ。『帝国標準カレー・試験型』とか」

 

二人は同時に吹き出し、静かな笑いが執務室に広がった。

ナザリックの夜は、今日も穏やかに更けていく。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・第9階層 会議室 /*/

 

 

荘厳な魔導灯がゆらめく会議室。

円卓の上には帝国・王国・竜王国の地図が魔法投影され、薄く光の線が走っていた。

その中心――アインズ・ウール・ゴウン魔導王モモンガが静かに座している。

 

左右にはアルベド、デミウルゴス、コキュートス、シャルティアらが整列。

いつもの作戦会議――のはずだった。

 

「では――次の議題に移る。ジョン・カルバインの現況報告について」

モモンガが静かに告げた瞬間、会議室の空気がわずかに揺れた。

 

アルベドが片眉を寄せ、冷ややかな笑みを浮かべる。

「“現況報告”ですか……また何か、なさったのですね、あのお方」

 

「ええ。どうやら帝国軍の鉄の騎士部隊に“変装して潜入”しているようです」

 

デミウルゴスが眼鏡を押し上げ、信じられないという顔をする。

「……は? まさか、軍務を――ご自身で?」

 

「その通りだ」

モモンガは淡々と答える。

「偽名は“ジョン・ドゥ”。帝国の辺境防衛線第3軍第5121小隊所属。階級は少尉」

 

「勝手に階級まで捏造してるじゃありませんか……!」

アルベドの声がひときわ鋭く響く。

「なぜモモンガ様のご許可も得ず、そんな危険な真似を――!」

 

「……いえ、許可は求められましたよ。“軍隊ごっこしてきてもいいですか”って」

モモンガが少し申し訳なさそうに視線を逸らす。

 

「お許しになったんですか!?」

アルベドが机を叩いた。

「軍隊ごっこって……! あの御方の“ごっこ”は毎回、現実を変えるんですよ!」

 

デミウルゴスが小さくため息を漏らし、眼鏡を押さえた。

「……まったく。以前もそうでしたね。“ちょっと農村を手伝ってくる”と仰って、半年後には『帝国農政改革白書』が発行されていた」

 

「“気功の研究してくる”と言って戻ってきた時は、“帝国陸軍モンク部隊”が出来てたでありんす」

と、シャルティアが鼻で笑う。

 

「ム……ダガ、功績ハ確カデアル」

コキュートスが腕を組んで低く唸った。

「鉄ノ騎士ノ改良モ、カルバイン様ノ関与ガアッテコソ。帝国ノ防衛力ハ大キク上ガッタ」

 

「功績と問題は別よ!」

アルベドが苛立たしげに言い返す。

「あの方は毎回“遊び”で国家を動かすのです! 帝国軍に潜入なんて、洒落になりません!」

 

「……ま、でも、本人楽しそうなんですよ」

モモンガが小さく笑った。

「整備兵たちと一緒に食事して、テリヤキビーフスティックだの、モカカプチーノだの開発して。

“帝国辺境の食文化が貧しいのは国家の損失”とか言って、現地改善プロジェクトを始めたそうです」

 

「……はぁ……」

アルベドはこめかみを押さえ、深いため息をついた。

「“食文化改革”……またそんな方向に。モモンガ様、放置してよろしいのですか?」

 

「まあ、現時点で問題はありませんし、彼の行動で帝国の治安が上がっているのも事実です。

……それに、“遊んでいる”ようでいて、いつも結果を出すんですよね。困ったことに」

 

「……まったく、あの方らしいですな」

デミウルゴスが苦笑を浮かべる。

「計画性がないようで、気づけば帝国の制度を根本から変えている。実に――混沌の申し子です」

 

アルベドは腕を組んで憮然としたまま、低く呟いた。

「……せめて、次は出発前に報告してもらわないと。

このままではナザリックが“趣味人の秘密基地”と誤解されます」

 

「うん、それは否定できませんね……」

モモンガは水タバコのパイプを軽く叩き、静かに息を吐いた。

 

「――まあ、ジョンが飽きるまでは様子を見ましょう。

次はどうせ、“帝国標準野営コンロ”とか作って帰ってきますよ」

 

沈黙。

 

そして次の瞬間――デミウルゴスが眼鏡を光らせ、静かに呟いた。

「……それ、実用化したら魔導国軍にも導入しましょう」

 

「デミウルゴス!」

アルベドの怒号が響き、円卓会議室に珍しく笑い声が混じった。

 

ナザリックの夜は、今日も騒がしく、そして妙に楽しげに更けていくのだった。

 

 

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