オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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一寸長いまえがきです。

今回から開拓が始まるのですが、開拓とか内政を主にやってる作品と比較するとなんちゃってのご都合主義です。魔法ってすごいッ!
原作の時間が9巻終了時点で1年も経っていないので、リアルに開拓すると何も作れません。
なので、開拓に役立ちそうな魔法がユグドラシル時代、生産用に実装されていたと捏造。
壁とか家とか数日で作ってしまったり、木を切り倒してからの乾燥を魔法でやった事にして、即日で製材。板にします。
リアルに乾燥に半年かかりますとか言い出すと、ストーリーが9巻まで進まないと製材すら出来ない事になってしまいますので。
原作でも、その辺りはさくっと(ストーンゴーレムいても木を乾燥させて製材するのは別だよねとか。壁を作るのにも指示して監督する技術者がいないよねとか)流してましたので、二次であるこちらでも、その辺りはさくっと軽く楽しんで頂きたいと思います。
あと、そもそも、そんなリアルにやるならオーバーロード二次である必要もないですし。
9巻から10巻で1年とか時間経過しないですかねぇ。

荒唐無稽が変換できませんでした。わけはあとがきでw

2015.10.26 12:30頃誤字修正 弟→第
2015.10.26 23:30頃誤字修正 プルスレギナ→ルプスレギナ
2015.11.30 誤字修正


第18話:お願い、モモンガさん!(上位物品作成

 

神の御業に触れ、真なる信仰にニグンは目覚めた。

 

自らの行いを悔いた彼は、ジョンの真空斬りで死亡した部下とガゼフの部下の蘇生を試みる。触媒、儀式による底上げ無しによる単独詠唱であったが、半数が復活。残りは灰化した。それは死する前の彼には出来なかった事。どれほど望み、努力しても届かぬ高みにあると諦めていた力。

 

だが、神(モモンガの課金アイテム)の力により死より蘇ったニグンは、第5位階魔法《死者復活》を単独行使できる存在となっていた。その力は王国が誇る最高位冒険者、蒼の薔薇のラキュースに並ぶほどであり、陽光聖典の隊長どころか漆黒聖典入りしてもおかしくないだけの領域だ。

 

ニグンの部下達も、復活させられたロンデスも、目の前で繰り広げられた一大スペクタクルに魂までも奪われ、信仰心厚い彼らは完全に目覚めさせられていた。

彼等は自分達の隊長であるニグンの実力を知っていた。自分達の知るニグンが第5位階魔法《死者復活》を扱えない事を知っていたのだ。

そのニグンが第5位階魔法《死者復活》をもって部下達を復活させるなど、ありえない光景だ。このありえない光景を生み出した存在。このありえない力を与えた存在を、神と呼ばずにいられようか。

 

自らの目の前にある。この強き存在こそ、至高にして偉大なる死の神であると陽光聖典の者達は心の底から認め、彼らの前に姿を現した神に平伏した。

 

 

酷いマッチポンプを見たと思っているのはジョンだけである。

 

だが、そのジョンにしても息をするように村人を絶望に突き落としてから救い上げているのだから、モモンガの事は言えない。マッチポンプはナザリックが世界に誇るお家芸だ。

 

 

彼ら陽光聖典は今後、彼らの信じる新たな教義を背負い、亜人ではなく古い教義を掲げる者達と戦っていくのだろう。

 

 

それらを特等席で見せ付けられたガゼフとその部下達は、夏だと言うのに身体の震えが止まらないようだった。

彼らの負傷もジョンの手によって全て治療(気功治療)され、この戦闘で帰らぬ人となったのはモモンガのデスナイト召喚に巻き込まれて触媒となった数名(王国、法国)だけだ。

死体を触媒にしてしまったデスナイトは召喚時間が過ぎても消えないので、この犠牲は不幸な召喚事故として諦めてもらうしかない。

 

治療中、ガゼフの部下達の様子を窺っていたが、歴戦の戦士達は村人以上に憔悴していた。

 

それも仕方ないかとジョンは思う。

 

王国最精鋭の部隊。それを率いる王国最強の戦士長。周辺国で危険視される武力を持つ、その戦士長を抹殺に来た法国の特殊部隊。

それらは自分達(ナザリック)の予想よりも数段以上に低いレベルだったのだ。

その王国最精鋭の彼ら(戦士達)は、自分達を抹殺できる法国の特殊部隊が平伏し、信仰を新たにするほどの存在と対面を目撃したのだ。おかげで昨夜は悪夢にうなされ眠れないものもいたようだ。

 

六大神から生と死の神を除いた四大神を信仰している彼らも、死の神スルシャーナを知らないわけではなかったのだ。

目の前で法国の信仰心厚い陽光聖典が、モモンガを死の神と認め、崇め始めた事に『この骸骨、本当に神様かもしれない』との思い込みが始まり。

自分達の信仰も間違っていたのか?と、疑い出しても仕方ないだろう。

 

彼ら戦士達が王都に戻り、国王に報告した時に何が起こるのか? それとも荒唐無稽すぎて信じてもらえないか?

ジョンには分らなかった。

分からないが、村長も討伐隊が来ると覚悟していたし、取り合えず、壁と堀は本気出して作ろうとまでは考える。

 

来たら来たで、あの程度のレベルなら一人で全部まとめて踏み潰してしまえるのだが。

 

モモンガにデミウルゴスも呼ばれていたようであるし、ノリノリのモモンガが何か考えてやってくれるだろう。

純粋戦闘系のシャルティア、コキュートスには、しばらく我慢してもらうしかない。

 

 

それにしても、とジョンは思う。

人間の領域で危険となりうるのは、法国の漆黒聖典と六大神と八欲王の残したアイテムぐらいだろう。

 

 

ニグンから得られた情報はとても有益だった。

 

人間の10倍のレベルを持つと言うビーストマン。人間を奴隷にしているミノタウロス。最強の種族ドラゴンとその王。

そして、それら直接的な危険の他、足元で増えるゴブリンを見逃すだけで数の暴力に押し負ける人間種。

 

これらの情報は今後の活動に役立つだろう。

そのニグンをより一層ナザリックに傾倒させる為に、モモンガは目の前でロンデスを復活させ、ニグンへ帰してしまった。ジョンが見たところ、真面目な苦労人のようだったので洗脳もとい説得して、現地協力員にしようと考えていたが、モモンガがより上手く使ってくれたので問題はない。

 

(漆黒聖典がどのぐらい強いのか。ネタ技にちゃんと『足元がお留守だぜ』って突っ込んでくれると良いんだけどな)

 

カルネ=ダーシュ村の外で繰り広げられた奇跡の一夜が明け、王国と法国の勢力は対照的な様子で帰路についていく。

目に見える危険が去った事で、エンリもようやく帝国陣地へ向けて出発する事が出来た。前日にサペトンが魔法で作った馬車に帝国騎士の鎧を乗せ、村長に書いてもらったスクロールを持ち、神()より賜った小鬼将軍の角笛から呼び出されたゴブリンを従え、ジョンから野営に役立ちそうな道具を幾つか渡され、涙の村人達に見送られながら出発していく。

 

エンリは帝国陣地にメッセージを伝えた後、エ・ランテルによって友人の薬師に赤いポーションの鑑定を依頼してくる予定でもある。カルネ=ダーシュ村の現状をガゼフ達しか知らない現在、エンリがいきなり反逆者として捕らえられる事は無いだろうが、ジョンは念の為、モモンガに頼み、影の悪魔を2体エンリの護衛につけてもらい、持たせたマジックアイテムも《ノーマルオーラ》で、低レベルの情報魔法に探知されないよう隠蔽しておく。

村長はエンリに神殿に移住者募集の知らせを出してもらうよう頼んでいた。ジョンの感覚ではダメなような気もするが、村の方針なので口を出さなかった。大丈夫なのだろうか?

 

 

どちらにしても、涙で見送る村人と姉妹の別れにガゼフとニグンには欠片も感じなかった罪悪感を感じてしまうジョンであった。

 

 

/*/

 

 

ガゼフとニグンとエンリを送り出し、ジョンは先ず村人達の健康状態の確認を行った。

行ったが、今回の負傷よりも寄生虫や古傷、栄養不良に骨格の歪みなどが多く(面倒になって)まとめてルプスレギナの第六位階魔法《大治癒》で一発解決する力業に出た。

《大治癒》には混乱などの状態異常回復効果もあるので、PTSDが和らげばとのジョンの慈悲深い配慮である。良いね?

 

決して、るし★ふぁーさんのゴーレムのように途中で飽きた訳ではないのです。

 

本来であれば、片付けや埋葬などが続くのであるが《チーム時王》によって昨日の内に終っているので、先ずは村人達が何をしたいのか? ジョンは何をしたいのか? カルネ村では何が出来て、何が出来ないのかを互いに確認する事にした。

 

ジョンとチーム時王が全力を出せば、一週間もあれば結構な規模で開発が出来る。伊達に毎週村を作り直していた訳ではないのだ。災害(?)復興はお手の物である。

が、せっかくの異世界、せっかくのリアル自然なのだ。

出来る限り、現地で現地の者と協力し、楽しく開拓したいとジョンは思っている。

 

だが、村人達は安心が欲しいようだった。

特に柵、出来れば街のような石壁が出来る限り早急に欲しい。それ以外はきちんと収穫が出来て、食うに困らない事だ。

別に開拓しなくても生きていけるジョンとの意識の差が、そこにはっきりと出ていた。

 

 

ところで、ジョンは開拓用に魔力系魔法詠唱者、吟遊詩人、料理人などを取っている。

 

 

その中でも生産、開拓系PC用に追加された魔法《建築作業員の手》と言う幽体の建築作業員の手を作り出すものがある。この手は大工、石工、鉱夫、土木工などの能力を有し、道具も持っていると見なされる。総合レベル毎に1組作り出す事が可能で、ジョンならば100人。サペトンなら50人分の仕事が出来る計算だ。

 

ユグドラシルではこれを使い(マ○ンクラフトのように)巨大で壮麗な城や街、庭を造る事に全力を傾ける建築系廃人も存在した。

彼らの作品は完成後、運営に召し上げられて新たなギルド拠点になったものもある。コンテストも有り、幾つもの壮麗な城や街を作り上げた伝説の職人もいたが、残念ながら、ジョンはそこまで外装を仕上げるセンスはなかった。

 

それでも、これが実装されてから毎週ダーシュ村を作り直すのが捗ったものだ。

 

チーム時王で畑を作ったりしたいが、召喚時間制限もあるし、他にも問題はある。

先ずは村人の不安の解消から手をつける事にした。《建築作業員の手》もチーム時王も使って、柵、壁の建設、家の修繕から始めよう。

 

 

取り敢えず、先ずは夜が怖いと言うので、幾つかに長さを揃えた木の棒へ《永続光》をかける事から始めよう。

 

 

/*/

 

 

いつもなら静謐との言葉が似合うモモンガの執務室は、今日はざわついていた。

応接セットのソファーにはモモンガとジョンが向き合い。モモンガの背後にはアルベドが控え、ルプスレギナはモモンガとジョンへ紅茶を用意している。

扉の側にはデスナイトが4体ほど立っているが、元々広いモモンガの執務室なら特に圧迫感を感じるようなものでもない。

 

問題は、ジョンの《建築作業員の手》で呼び出された半透明の幽体の手が数十組。同じく半透明の幽体と思しき工具をつかって、木を切り板をつくり、何かを作っているのが問題だった。

 

「ジョンさん。人の部屋で工作する事はないでしょう」

「いやー、ユグドラシルと違って工作すると木屑が出るのね。びっくりだ」

「俺は躊躇わずに人の部屋で工作を始める駄犬(お前)にびっくりだよ」

 

現実になると生産系が生き生きしてくるなーと、この惨状を眺めながらモモンガは思う。

ここにギルメンが入れば、たっち・みーやウルベルトでは戦闘特化し過ぎで出来る事が無いと困り、るし★ふぁーやホワイトブリムなどはせっせと何かを作り始めていたのでは無いかと思う。ブルー・プラネットは嬉々として北に見える山脈を登りに行き、我を忘れて自然を堪能し、音信不通になって自分達を心配させたりしそうだ。

 

ジョンは《建築作業員の手》に作業をやらせながら、自分はテーブルの上に並べた小さな水晶球に魔法をかけている。

第三位階《環境防御結界》をかけたものを20個ほど。同じく《毒ガス防御結界》をかけたものを5個ほどだ。

 

《環境防御結界》は一般フィールドでキャンプ時に使用すると回復量が増える魔法で、フレーバーテキストに『外気温-18~38℃の時、結界内部を21℃に保つ。適用温度を外れた分だけ内部の温度は変化する(外気温が-21℃なら内部18℃。41℃なら内部24℃となる)。雨、ちり、砂嵐や、虫の侵入を防ぎ、風速32m/sまで耐える』とあったものだ。一見、必須に見えるがアイテムでも代用が利くので習得しているのは、今モモンガの目の前にいるようなRPに拘った一部のPCではないだろうか。

 

《毒ガス防御結界》は結界を通過する空気を清浄化し、毒ガス魔法などによる毒、異臭、盲目化、呼吸異常などのステータス異常を防ぐ、割と地味な魔法だ。

第1~3階層に設置した毒ガスを充満させて、アンデッドを突っ込ませるようなトラップ内では有効な魔法だ。こちらも使用状況が制限されているので、余り取得しているものはいなかったように思う。

 

ジョンは魔法をかけ終ると、お盆にひいたハンカチの上に並べたそれらをモモンガへ差し出す。

 

 

「それでジョンさん。これを《永続化》させれば良いんですか?」

「お願いします」

「これは便利ではありますが、どうしてまた、村人の家全てに?」

 

 

モモンガの問いにジョンは腕を組んで、どう説明しようか考え込み。少し長くなるけれど、と前置きし、頭を掻きながら話始めた。

 

 

「古代から問題になっているんですが、人間の生活によって環境が破壊されますよね。ナザリックみたいに魔法で自己完結できない以上は、外部の自然を資源として利用しなければ……カルネ村は、冬に凍死しないよう暖を取る為にですら、木々を切り倒さなくては生きていけません。

 

俺が開拓を始め、農業生産力が上がると生活に余裕が出るでしょう。

そうして、開拓が進み。10年先、20年先には人口爆発で冬に必要とされる燃料が増加し、40~50年先には周囲の森がなくなるかもしれません。人口増加に伴う耕作地の増加と合せれば、一見都合が良いのですが、森が減れば必ず人間以外の種族と衝突します。保水力の低下、生態系の変化もあるでしょう。

 

でも、一番の理由は、リアルみたいな環境破壊を避けたいからです。

 

俺達が見ていたあの破壊されまくった世界は農業革命、産業革命から500年も経っていないんですよ、モモンガさん?

この美しい自然、世界をあんな風に破壊するのは御免です。魔法なんかで抑えられる部分は抑え、ゆくゆくは村人への教育なんかもしたいですね。早急にやっときたいのは衛生レベルを上げて死亡率を下げ、食料事情を解決し、夜を明るくし、娯楽を与え、やること無いからヤるってのをしないようにしつつ、避妊具を開発し、普及させる事です」

 

 

「ひ、避妊具?」

 

 

聞き違いか? こいつ(駄犬が)また何か言い出したぞ?

ジョンの不穏な発言にモモンガは内心で冷や汗を流し。同時に側に控える美女二人の耳がぴんと立った。

 

 

「20世紀ぐらいまでは生活環境が一気に改善すると人口爆発が起こっていたんですよ。娯楽が無いからヤりまくって、増えてしまう。特に人間は年間を通して生殖できますからね。その結果、食料増産の為に森を切り開き、環境への負荷が増え、貧富の差が拡大し、貧しさを解消する為に働き、また環境が破壊される。それが廻り廻って、22世紀ですから。人口抑制する事を最初から考えておきたいです」

 

あんな世界はごめんだと、がっくりと肩を落とすジョンだった。

だからと言って、NPC達と違って増えたら間引きすれば良いとの考えはジョンには無い。それぐらいなら死に難く増え難いようにすれば良い。

 

「モモンガさんだって、一つぐらい持ってたでしょう、ゴム? 物品作成だとゴムの塊しかつくれませんが、モモンガさんの上位物品作成なら……」

「うーん……《上位物品作成》――おお、作れた!?」

 

死の支配者(オーバーロード)は、しぶしぶと魔法を発動させる。

この世界には扱えるものがいるかどうかも怪しい高レベル魔法である《上位物品作成》により、テーブルの上、人狼と骸骨の前には、リアルの彼らに縁の無かった物品が出現していた。

 

「未だかつて、こんな事にこの魔法が使われた事があるのだろうか。……ちゃんとパッケに入ってるんだけど、モモンガさん」

「こんな事に《上位物品作成》を使わせた本人が、何を言ってやがりますか」

 

厚さが百分の一ミリ単位のゴム製品は物品作成では作れない高度な物品らしいと言うジョンに、もう《物品作成》は試したのかと、モモンガの顎がぱかっと落ちる。

ジョンは続けて、これは紀元前3000年頃はヤギやブタの盲腸、膀胱が使用され、身分や地位を示すものだったとの説もある。避妊具としては割と近代に入ってから開発されたと話を続けている。

それは面白い豆知識かもしれないが、美女(アルベド)が背後にいる状況で、その話題は空気読んで止めてくれないかな、と切に願うモモンガだった。

 

 

「……それでですね。モモンガさんが、黒曜石の家畜小屋を作ってくれた時、家畜小屋の全てがイメージできたわけではないのに必要な設備が作れていました。普通に物を作るのと違い。それが存在する事を知っていて、漠然とでもイメージできれば、クリエイト系の魔法は何処かのデーターベースにアクセスして、その物品を創造するんじゃないかと俺は思ったんですが……どうも当りっぽいですね」

 

 

やっと話が逸れそうだと、ほっとして話に乗るモモンガ。

背後で爛々と輝く金の双眸が怖いのだ。

 

「世界のデータベース。タブラさんが好きそうなアカシックレコードとか?」

「クトゥルフ神話生物もいましたし、沸騰する混沌の核に接続って線も捨てがたいかと」

 

避妊具を摘み上げ、これがアカシックレコードや沸騰する混沌の核から情報を組み上げた結果なのかと、しげしげと観察する人狼(駄犬)と骸骨。

実にシュールな光景である。ギルメンに見られたら何を言われるだろう。

 

「これパッケージ込みだし、物品作成では無理だな。中位物品作成では?」

「パッケージ無しならいけるんじゃないでしょうか? でも、パッケージ無しでは、すぐ使うしかないですね」

 

「私! 準備はいつでも……」

 

隣から聞こえてきた喜色溢れる声を華麗にスルーする二人。人狼と骸骨の対守護者統括スルースキルも大分上がってきてるようだ。

アルベドは二人の視界の外でがっくりと肩と翼を落とした。

 

「素材としては通常の物質でしかないから、《複製》で……無理か。いや、触媒に天然ゴムとアルミあたりを《物品作成》で用意すれば《複製》……出来た。これならモモンガさんに量産してもらわなくても俺とサペトンで《複製》すれば済みますね」

 

低レベルの魔法でゼロからは無理でも複製を作れないか、あれこれ試すジョン。複製に成功し、これならモモンガさんに手伝ってもらわなくても大丈夫そうだと安堵の息をついて、紅茶を飲んだ。

 

「ところでジョンさん」

「なんでしょう?」

 

 

モモンガはこれだけは駄犬(ジョン)へ言わねばなるまいと、きりっと顔を引き締めてジョンに向き直る。

 

 

「ダンジョンの最奥で、せっせと避妊具を量産する死の支配者(オーバーロード)ってどうなのよ?」

 

 

……ジョンは、そっと目を逸らした。

 

 

/*/

 

 

話も作業も一段落したところで、《中位物品作成》で創造した。この生命創造の神秘に関るアイテムをどう処分しようかと、人狼と骸骨が対処に困り会話が止まった時。

ルプスレギナが、ジョンの背中の毛を、洋服の裾をつまむように軽くつまんで引っ張りながら尋ねてきた。

 

「ジョン様、それはどうやって使うものっすか?」

「え?」

 

ジョンの視界に映るのは、その髪のように顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうにもじもじとしているルプスレギナだ。

 

「ジョン様に教えていただきたいっすね」

 

もじもじと両手を摺り合わせ、上目遣いでこちらを見るルプスレギナは控えめに言っても可愛い。

くらっ、とジョンの頭が酒に酔ったように揺れる。

 

「……う」

「う?」

「生まれる前から好きでしたーッッ!!」

 

くるりとルプスレギナに振り返ると、ジョンはよこしまなオーラを纏ってルパンダイブを敢行する。

元よりズボンしか穿いてないので、まさしくルパンダイブである。

 

「きゃーーー♪」

「ぶへらぁ!!」

 

ルプスレギナの黄色い悲鳴とジョンの潰れるカエルのような奇声と爆音が重なる。

モモンガが最高位スタッフ(スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)駄犬(ジョン)を火球で爆撃。

宙に舞った駄犬(ジョン)は、火球連打の対空迎撃で天井まで打ち上げられ、天井にしばらく張り付けにされた後、ずごしゃぁあぁッ! と床へ落下した。

 

 

「人の部屋でなにをする気だ! この駄犬どもがぁぁッ!!」

 

 

火球の絨毯爆撃で執務室に朱の花が狂い咲く。

 

「や、やめろ。せっかく作ったのが焼けるだろうがッ」

「モモンガ様マジぱねぇっす!」

 

上半身を起こしながら、文句を言う駄犬(ジョン)。それとセットで怒られたのに目をきらきらさせて、モモンガを見ている駄犬(ルプー)

あ、こいつ(ルプスレギナ)怒られても何で怒られたのか理解できないタイプだと、モモンガは理解した。

 

そして、その時、アルベドに電流が走った。

 

 

「お待ちなさい、ルプスレギナ」

 

 

不意に凛々しい守護者統括としての顔で告げるアルベドに、ルプスレギナは表情(かお)に疑問符を浮かべる。

 

「アルベド様?」

「その生命創造に関る神秘のアイテムの使い方は、守護者統括として、()がシモベを代表し、()()()()()()()()()()()()()()()()。ルプスレギナには後で私から説明しましょう!( ー`дー´)キリッ」

 

「え?」とモモンガ。

 

「ええー!? アルベド様。それはないっすよ!!!」

 

 

/*/

 

 

「あーそう言えばジョンさん。死体を巻き込んだ奴。死体を触媒にして召喚したデスナイトが消えないんですよねー」

 

ぎゃあぎゃあ言い合う二人を努めて視界の外に置き、話題を変えるモモンガ。指差した先には昨日召喚したデスナイト4体が消えずに残っていた。

ジョンは360度の視界を持つので、どう頑張っても視界の中に楽しそうにきゃんきゃんやり合う二人の姿が入ってしまうのだが、見えない振りをして話に乗った。

 

「ジョンさんのサポートキャラクター(チーム時王)は生物ですが、召喚した時に近くにいた姉妹(人間)を巻き込みませんでした。異形種のベースになってる狼とかの近くで召喚して見ませんか?」

 

「上手くすれば、呼び出しっぱなしに出来る、と?」

 

「恐らく」

「ちょっと、森まで(狼捕まえに)行ってくる!」

 

がたっと立ち上がったジョンを見ながら、モモンガは(俺もアルベドとルプスレギナに気づかれる前にどっかいこうかな)と、現実逃避気味に考えていた。

二人が向き合っていたテーブルの上では、先ほどの爆撃による不幸な事故で、生命創造に関る神秘のアイテムは焼失してしまっていた。

 

 

()()()()()()()()(棒読み

 

 

額の汗を拭い、爽やかな笑顔を浮かべる人狼と骸骨だった。

 

 




次回「恋する乙女は無敵です」

A.衝撃の事実でした。
【こっけいむとう】は存在しない言葉。
正しくは荒唐無稽【こうとうむけい】でした。

ずっと、【こっけいむとう】だと思ってた。orz
どこから【こっけいむとう】は出てきたんだろう?

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