オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第203話:見ちゃダメ―!

 

 

/*/ 魔導国・ナザリック地下大墳墓・会議室 /*/

 

 

静かな部屋だった。

氷結の空気が肌に刺さるほどに澄んでいるのに、

その中心だけはどこか濃密で、重く、冷たい。

 

長卓を挟んで座るのは、アインズ・ウール・ゴウン魔導王。

その傍らにデミウルゴス、アルベド、そしてカルバイン――ジョンの姿。

 

卓上には帝国から転送された封印記録が置かれていた。

羊皮紙は波打ち、乾いた黒いインクがまるで血のように沈んでいる。

 

「……つまり、帝国の封印庫で“星導師ルメナ・クレア・ナイ”が現れた、と」

アインズが低く呟いた。

その声が空気を震わせる。

 

「はい、陛下」デミウルゴスが頷く。

「同一人物が、大陸の複数箇所で同時に目撃されております。

 儀式のたびに、星の数がひとつずつ増えている。

 ――帝国では“観測を禁ず”との布告が出されたようです。」

 

ジョンは無言で書類をめくる。

墨がにじんだ箇所に、かすかに“星型”の痕があった。

紙の上で乾いたはずのその印が、微かに動いた気がして、彼は眉を寄せる。

 

「ナザリック上空でも、同波長の星素反応を検知しました。」

デミウルゴスは淡々と報告を続ける。

「光ではなく、情報です。

 見上げた者の意識に入り込み、“像”を形成します。」

 

「つまり、見た者の脳が、ルメナを作り出す……?」

ジョンの声は低く、静かだった。

 

デミウルゴスは僅かに笑みを浮かべた。

「あるいは、我々が“見させられている”のかもしれません。」

 

沈黙。

氷のような静寂が長く続いた。

 

やがて、アインズが立ち上がる。

その眼窩の中の紅光がわずかに揺れた。

 

「封じろ。すべての観測をだ。」

 

「了解いたしました。通信塔も閉鎖します。」

デミウルゴスが一礼し、命令を即座に記録に移す。

 

アルベドが控えめに口を開いた。

「陛下、帝国では既に精神汚染者が複数確認されております。

 星導師の“声”が、通信網を通じて拡散している可能性が……」

 

「……この世界の外の情報に、我々は干渉すべきではない。」

アインズの言葉は冷たく、そしてどこか悲しげだった。

「知る者は見る。見る者は繋がる。――知らぬままで良い。」

 

ジョンはその言葉を聞きながら、ゆっくりと天井を見上げた。

氷の板越しに見える夜空。

ひとつ、見慣れぬ星がある。

白ではなく、青黒く、脈打つように瞬いていた。

 

その光の中に、影が立っていた。

黒い肌、長身の男。

胸に、ねじれた星。

 

一瞬だけ視線が合った――気がした。

心臓が冷えるような感覚。

 

ジョンは目をそらし、深く息を吐いた。

「……ジルクニフの奴、いいタイミングで燃料を投げ込んでくれたもんだ。」

 

「どうかなさいましたか?」

アルベドが首をかしげる。

 

「いや……帝国が開けた“穴”を塞ぐのは、こっちの役目ってだけさ。」

 

遠く、氷の壁を通して微かな振動が響いた。

まるで、誰かがナザリックの外壁を叩いているような、低く柔らかな音だった。

 

デミウルゴスが耳を傾ける。

「……下層の封印核からの共鳴です。反応波長は、星素域――」

 

「報告は後でいい。」

アインズの声が遮る。

その声音は穏やかだが、どこか祈るようでもあった。

「――今夜は、空を見るな。」

 

誰も答えなかった。

部屋を包むのは、氷の静けさと、外から忍び寄る光の脈動だけだった。

 

 

/*/

 

 

星の智慧は沈黙しながら、ゆっくりと魔導国の空を蝕み始めていた。

それを“知っている”者たちだけが、目を逸らし、息を潜めた。

 

 

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