オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 魔導国・ナザリック地下大墳墓・会議室 /*/
静かな部屋だった。
氷結の空気が肌に刺さるほどに澄んでいるのに、
その中心だけはどこか濃密で、重く、冷たい。
長卓を挟んで座るのは、アインズ・ウール・ゴウン魔導王。
その傍らにデミウルゴス、アルベド、そしてカルバイン――ジョンの姿。
卓上には帝国から転送された封印記録が置かれていた。
羊皮紙は波打ち、乾いた黒いインクがまるで血のように沈んでいる。
「……つまり、帝国の封印庫で“星導師ルメナ・クレア・ナイ”が現れた、と」
アインズが低く呟いた。
その声が空気を震わせる。
「はい、陛下」デミウルゴスが頷く。
「同一人物が、大陸の複数箇所で同時に目撃されております。
儀式のたびに、星の数がひとつずつ増えている。
――帝国では“観測を禁ず”との布告が出されたようです。」
ジョンは無言で書類をめくる。
墨がにじんだ箇所に、かすかに“星型”の痕があった。
紙の上で乾いたはずのその印が、微かに動いた気がして、彼は眉を寄せる。
「ナザリック上空でも、同波長の星素反応を検知しました。」
デミウルゴスは淡々と報告を続ける。
「光ではなく、情報です。
見上げた者の意識に入り込み、“像”を形成します。」
「つまり、見た者の脳が、ルメナを作り出す……?」
ジョンの声は低く、静かだった。
デミウルゴスは僅かに笑みを浮かべた。
「あるいは、我々が“見させられている”のかもしれません。」
沈黙。
氷のような静寂が長く続いた。
やがて、アインズが立ち上がる。
その眼窩の中の紅光がわずかに揺れた。
「封じろ。すべての観測をだ。」
「了解いたしました。通信塔も閉鎖します。」
デミウルゴスが一礼し、命令を即座に記録に移す。
アルベドが控えめに口を開いた。
「陛下、帝国では既に精神汚染者が複数確認されております。
星導師の“声”が、通信網を通じて拡散している可能性が……」
「……この世界の外の情報に、我々は干渉すべきではない。」
アインズの言葉は冷たく、そしてどこか悲しげだった。
「知る者は見る。見る者は繋がる。――知らぬままで良い。」
ジョンはその言葉を聞きながら、ゆっくりと天井を見上げた。
氷の板越しに見える夜空。
ひとつ、見慣れぬ星がある。
白ではなく、青黒く、脈打つように瞬いていた。
その光の中に、影が立っていた。
黒い肌、長身の男。
胸に、ねじれた星。
一瞬だけ視線が合った――気がした。
心臓が冷えるような感覚。
ジョンは目をそらし、深く息を吐いた。
「……ジルクニフの奴、いいタイミングで燃料を投げ込んでくれたもんだ。」
「どうかなさいましたか?」
アルベドが首をかしげる。
「いや……帝国が開けた“穴”を塞ぐのは、こっちの役目ってだけさ。」
遠く、氷の壁を通して微かな振動が響いた。
まるで、誰かがナザリックの外壁を叩いているような、低く柔らかな音だった。
デミウルゴスが耳を傾ける。
「……下層の封印核からの共鳴です。反応波長は、星素域――」
「報告は後でいい。」
アインズの声が遮る。
その声音は穏やかだが、どこか祈るようでもあった。
「――今夜は、空を見るな。」
誰も答えなかった。
部屋を包むのは、氷の静けさと、外から忍び寄る光の脈動だけだった。
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星の智慧は沈黙しながら、ゆっくりと魔導国の空を蝕み始めていた。
それを“知っている”者たちだけが、目を逸らし、息を潜めた。