オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ ナザリック地下大墳墓第9層モモンガの執務室。 /*/
水晶の灯がひとつだけ灯る。
壁の陰に刻まれた魔法陣が、静かに青白く脈打っていた。
その中央で、ぐりもあが報告書を手にして立っていた。
厚い羊皮紙の束――その一枚一枚に、星の印が刻まれている。
モモンガがゆっくりと口を開いた。
「……それが、結論なのか?」
ぐりもあは頷く。
「はい。外なる神は“目的”を持ちません。
人間を滅ぼそうとも、導こうともしていません。
ただ――観測されることで現象する。
強いて言えば、“運命”そのものです。」
デミウルゴスが眼鏡の奥で目を光らせた。
「しかし、現実には被害が出ています。
オーガの群れが武装し、トロールが村を襲い、
ゴブリンが魔術を使うようになっていますが、それは?。」
「ええ。それは“副作用”です。」
ぐりもあは報告書の一枚を捲る。
ページには、星形の模様を持つオーガ・メイジの図が描かれていた。
「外なる神の一柱――“観測者”が、
無意識に彼らへ魔力を投下しています。
それは攻撃ではなく、観測の反応。
観測した瞬間に、観測者自身の情報構造が流れ込み、
亜人たちの魔力構造を変質させているんです。」
「つまり……奴は“見ただけ”で、世界を変えてしまうということか。」
ジョンが呆れたように息を吐いた。
ぐりもあは軽く頷き、手元の魔導書を撫でた。
「はい。意志ではなく、反射です。
だから、あれに敵意はない。
でも――こちらが敵意を示せば、その反射も返ってくる。」
モモンガは沈黙した。
骨の指が、ゆっくりと机を叩く。
カン、カン、と乾いた音が室内に響く。
「……では、対処は?」
ぐりもあは静かに口を開いた。
「――放置、です。」
室内の空気が、一瞬、凍りついた。
「放置?」とアルベド。
「それが最善なのですか?」
「はい。星の智慧派を攻撃すれば、
その行為自体が“観測行為”となり、
外なる神のアクセス・ポイントを増やします。
儀式を止めるほど、あの存在は世界に深く侵入してしまう。」
デミウルゴスが眉をひそめる。
「つまり、見ても、触れても、語ってもいけない……と。」
「そうです。干渉は感染です。」
ぐりもあの声は、珍しく低かった。
「この現象は信仰でも呪いでもなく、情報的な災害。
だから、“沈黙”が最良の防衛策なんです。」
アインズは報告書を取ると、無言でページをめくった。
記された文は淡々としている。
――〈観測は侵食〉
――〈干渉は感染〉
――〈沈黙は防衛〉
ゆっくりと閉じて、彼は呟いた。
「……愚かしくも理性的だな。」
「外なる神は理性を否定しません。
理性すら“素材”のひとつですから。」
ぐりもあはわずかに笑った。
「それでも、僕は理性の側に立ちます。
見ることを選ばない勇気――それが、この世界を守る鍵です。」
ジョンが椅子の背に寄りかかり、煙を吐くようにため息を漏らす。
「……皮肉な話だな。
俺たちは世界を観測するために生まれた。
なのに、見るなって言われるなんてな。」
「見るな、ではありませんよー」
ぐりもあは軽く首を振る。
「“覗くな”。――その違いです。」
ジョンが目を細めた。
「ふむ。確かに“覗く”のは傲慢の始まりだ。」
アインズは椅子の背に身を預け、長い沈黙を置いた後、
重々しく言った。
「……ぐりもあさん。各国に通達を。
“星の智慧派には干渉するな”。
ただし、監視は続けろ。見ずに感じろ。
見たがる者を止めろ。」
「了解です、モモンガさん。」
ぐりもあは笑みを浮かべた。
だがその笑顔は、以前より少しだけ冷たく、どこか遠かった。
彼女の魔導書がぱらりと開く。
封印されたはずのページが、ひとりでに風を受けるように揺れた。
中から微かな囁きが漏れる。
――〈見るな。けれど、星は見ている。〉
その言葉を、誰も聞き取れなかった。
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夜。
魔導国の空に、ひとつの星が消え、
かわりに、誰にも見えない“眼”がひらいた。
それでも誰も、見ようとはしなかった。
それが、魔導国の勝利であり――敗北でもあった。
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