オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

218 / 218
第207話:ナザリックでも勝てない時がある

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓第9層モモンガの執務室。 /*/

 

 

水晶の灯がひとつだけ灯る。

壁の陰に刻まれた魔法陣が、静かに青白く脈打っていた。

その中央で、ぐりもあが報告書を手にして立っていた。

厚い羊皮紙の束――その一枚一枚に、星の印が刻まれている。

 

モモンガがゆっくりと口を開いた。

「……それが、結論なのか?」

 

ぐりもあは頷く。

「はい。外なる神は“目的”を持ちません。

 人間を滅ぼそうとも、導こうともしていません。

 ただ――観測されることで現象する。

 強いて言えば、“運命”そのものです。」

 

デミウルゴスが眼鏡の奥で目を光らせた。

「しかし、現実には被害が出ています。

 オーガの群れが武装し、トロールが村を襲い、

 ゴブリンが魔術を使うようになっていますが、それは?。」

 

「ええ。それは“副作用”です。」

ぐりもあは報告書の一枚を捲る。

ページには、星形の模様を持つオーガ・メイジの図が描かれていた。

「外なる神の一柱――“観測者”が、

 無意識に彼らへ魔力を投下しています。

 それは攻撃ではなく、観測の反応。

 観測した瞬間に、観測者自身の情報構造が流れ込み、

 亜人たちの魔力構造を変質させているんです。」

 

「つまり……奴は“見ただけ”で、世界を変えてしまうということか。」

ジョンが呆れたように息を吐いた。

 

ぐりもあは軽く頷き、手元の魔導書を撫でた。

「はい。意志ではなく、反射です。

 だから、あれに敵意はない。

 でも――こちらが敵意を示せば、その反射も返ってくる。」

 

モモンガは沈黙した。

骨の指が、ゆっくりと机を叩く。

カン、カン、と乾いた音が室内に響く。

 

「……では、対処は?」

 

ぐりもあは静かに口を開いた。

「――放置、です。」

 

室内の空気が、一瞬、凍りついた。

 

「放置?」とアルベド。

「それが最善なのですか?」

 

「はい。星の智慧派を攻撃すれば、

 その行為自体が“観測行為”となり、

 外なる神のアクセス・ポイントを増やします。

 儀式を止めるほど、あの存在は世界に深く侵入してしまう。」

 

デミウルゴスが眉をひそめる。

「つまり、見ても、触れても、語ってもいけない……と。」

 

「そうです。干渉は感染です。」

ぐりもあの声は、珍しく低かった。

「この現象は信仰でも呪いでもなく、情報的な災害。

 だから、“沈黙”が最良の防衛策なんです。」

 

アインズは報告書を取ると、無言でページをめくった。

記された文は淡々としている。

 

――〈観測は侵食〉

――〈干渉は感染〉

――〈沈黙は防衛〉

 

ゆっくりと閉じて、彼は呟いた。

「……愚かしくも理性的だな。」

 

「外なる神は理性を否定しません。

 理性すら“素材”のひとつですから。」

ぐりもあはわずかに笑った。

「それでも、僕は理性の側に立ちます。

 見ることを選ばない勇気――それが、この世界を守る鍵です。」

 

ジョンが椅子の背に寄りかかり、煙を吐くようにため息を漏らす。

「……皮肉な話だな。

 俺たちは世界を観測するために生まれた。

 なのに、見るなって言われるなんてな。」

 

「見るな、ではありませんよー」

ぐりもあは軽く首を振る。

「“覗くな”。――その違いです。」

 

ジョンが目を細めた。

「ふむ。確かに“覗く”のは傲慢の始まりだ。」

 

アインズは椅子の背に身を預け、長い沈黙を置いた後、

重々しく言った。

「……ぐりもあさん。各国に通達を。

 “星の智慧派には干渉するな”。

 ただし、監視は続けろ。見ずに感じろ。

 見たがる者を止めろ。」

 

「了解です、モモンガさん。」

ぐりもあは笑みを浮かべた。

だがその笑顔は、以前より少しだけ冷たく、どこか遠かった。

 

彼女の魔導書がぱらりと開く。

封印されたはずのページが、ひとりでに風を受けるように揺れた。

中から微かな囁きが漏れる。

 

――〈見るな。けれど、星は見ている。〉

 

その言葉を、誰も聞き取れなかった。

 

 

/*/

 

 

夜。

魔導国の空に、ひとつの星が消え、

かわりに、誰にも見えない“眼”がひらいた。

 

それでも誰も、見ようとはしなかった。

それが、魔導国の勝利であり――敗北でもあった。

 

 

/*/

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

オーバーロード 傾国狐の異世界日記(作者:破戒僧)(原作:オーバーロード)

ユグドラシル最終日。『傾国の悪女』(ロールプレイ)として知られる1人のプレイヤーが、ギルドホームと共に異世界に転移した。ナザリックが転移して来るよりも、400年も前の時間に。▼これは、わけのわからん状況にパニック寸前になりつつも、頼れるNPC達に手伝ってもらいつつ、なんだかんだで割と欲望のままに異世界生活を楽しんでいく、一人の『狐』がしたためた、なんてことは…


総合評価:4832/評価:8.16/連載:121話/更新日時:2026年05月04日(月) 21:40 小説情報

オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ(作者:ぶーく・ぶくぶく)(原作:オーバーロード)

こちらは「オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~https://syosetu.org/novel/61986/」の小話、パラレルetcのまとめとなります。▼かつて〈ユグドラシル〉のプレイヤーであり、今は青と白の毛並みを持つ人狼として異世界に存在するジョン。▼戦場や陰謀、そして強者の権謀渦巻く魔導国で、彼が目指すのは意外にも「のんびり、ほ…


総合評価:562/評価:7.33/短編:405話/更新日時:2026年06月07日(日) 00:00 小説情報

オーバーロード <物語の分岐が確認されました>(作者:ヒツジ2号)(原作:オーバーロード)

DMMO RPG『ユグドラシル<Yggdrasil>』のサービスが終了する2年前、ある男がもたらした情報により、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンのとあるギルドメンバーは、わずかに行動を変更した。▼これにより、物語は大きく分岐を迎えることとなる。▼モモンガさんや、その他の至高の御方々がもう少し幸せになってもいいと思い、素人ながら書かせていただきます。▼現地人も…


総合評価:7476/評価:8.97/連載:143話/更新日時:2026年06月04日(木) 20:08 小説情報

眠る前にも夢を見て(作者:ジッキンゲン男爵)(原作:オーバーロード)

御身がオリ主女子と共に順調に世界征服をして行くお話です。▼アインズは転移して数日、法国を神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国と改名し、見事その神の座についた。▼スルシャーナ達が齎したギルド武器の破壊に成功したアインズはワールドチャンピオンを超える力を手に入れ、世界に大きく影響を与え始める。▼事態を重く見た白金の竜王は、ナザリックに戦いを挑むが――。▼オリジナル…


総合評価:4315/評価:7.41/完結:426話/更新日時:2023年12月16日(土) 00:00 小説情報

オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた(作者:連載として再構築)(原作:オーバーロード)

▼鈴木亜理紗はアーコロジーの下級階層の民として、鈴木悟の妹として生まれた。▼▼人の命が非常に軽いアーコロジーにおいて、必死に生きて、今を、自分の周りを少しでも良くしようと奮闘する亜理紗だったが、その運命は容赦なく彼女を襲う。▼▼アリサは、定められた運命を変えることができるのだろうか。▼▼過去投稿したTS転生者物です。見切り発車だったのでプロットなど組みなおし…


総合評価:3821/評価:8.01/連載:57話/更新日時:2026年02月10日(火) 08:55 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>