オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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お待たせしました!
今回も下ネタありです。苦手な人は注意して下さい。

2015.10.30 12:15頃誤字修正「ドブ」→「トブ」
2015.12.01 誤字修正


第19話:恋する乙女は無敵です。

 

 

生命創造に関る神秘のアイテム騒動の後、トブの大森林を捜索し、ジョンは狼の群を見つけると4匹を生け捕り、サポートキャラクターの召喚実験をしていた。

結果として、エンリを送り出した翌日から、ヤーマ、コークス、マッシュ、ナーガンはモモンガのデスナイトと同様、時間無制限に顕現し続ける事が出来るようになっていた。

猫が野生でいる環境ではなかったので、残念ながらサペトンだけは時間制限有りのままだったが、50Lvのワーウルフ4人がカルネ=ダーシュ村に合流した事で作業が大きく捗るようになった。

 

ただ、村人への先の説明をすっかり忘れていたジョンは、村人から「うちの人も蘇生できませんか」と乞われ、大いに困るのだが、全ては駄犬の自業自得である。

 

 

《モ、モモンガさん! 助けて!!》

《はぁ、村人には何と説明したんですか?》

 

《えーと、確か、こんな感じ……『さっき何度も村を滅ぼされたって言ったろ? あいつらは今、実体が無い幽霊みたいなもんさ。俺の力で現世に引き止めているけど、そんな長い時間は実体を保てないんだ』……だったかな?》

 

モモンガの骸骨顔が、にっこり微笑んでいるイメージがメッセージ越しに伝わってくる。

 

《バ・カ・め》

 

《な、何でも聞くから、何でも言う事聞くから、モモンガさん。助けて!!》

《ほう? 何でも? 今、何でもと言ったか?》

《え? あ、う、うん》

 

(あれ? 俺ヤバイ事言った?)

 

取り敢えず『何でも』の内容は後で考えるとして、とモモンガは数秒考え込む。

 

《魔力系魔法詠唱者の取得リストに《使い魔召喚》がありましたよね?》

 

この人なんでwikiも無いのに魔法がすらすら出てくるんだ。

自分の取得魔法700以上を暗記してるのは知ってるけど、実はデータが公開されている魔法全種を覚えてるんじゃないだろうか?

 

《ええ、使い魔なにそれカッコイイで取りましたけど、小動物が多少強くなるだけで、使い魔が死ぬとこっちまでダメージ受けるわ、使い魔の視点が使えても自分は動けなくなるわで、AI弄るにしても何にしても、ゲームで使うなら異形種の眷属召喚とか、騎乗生物召喚、ペット召喚の方が使えましたけど……》

 

《ペットかぁ。ジョンさん、ペットガチャ回してましたね》

《俺もドラゴンが欲しかったんですぅ!》

 

マーレだって2体もドラゴン持ってるのに、俺はあれだけ回して1体とか……過去を思い出し、ジョンは精神的に膝をつく。

そんなジョンをまあまあと宥めながら、俺もボーナスぶち込んでやっと当てたレアアイテムが、目の前で1回で出された時はどうしようかと思いましたよ。と、少し遠い目をしながら、モモンガの精神も膝をつきそうになった。

しかも、やっと引き当てたアイテムは勿体無くて使えない、とか。

 

本当にユグドラシルの物欲センサーは優秀でしたね。閑話休題。

 

 

ジョンは村人達へ、チーム時王とは予め魔法の契約で生命の結びつきをつくって引き止めているので、契約の無い者はどうしようもない。契約がしたいなら、魔法を覚えて人間用に契約魔法を修正して自分で契約すると良い。但し、契約先が死ぬと自分も死ぬかもしれない。

どっちにしても、蘇生はある程度の生命力が無いと灰になるから、死ぬ前に身体を鍛えろ。死んでしまってからでは、もう遅い。死ぬ前にやるだけやって、それでも駄目な時もある。全ては生きてこそ、生きてる内に本人が頑張っておかないと助ける事も何も出来ない。

そう言った。

 

 

全ては生きてこそ、生きてる内に自分が頑張っておかないと助ける事も何も出来ない。

 

 

ジョンのその言葉が村人達の胸にすとんと落ちた。

そうだった。この方は何度となく村を滅ぼされても、群を滅ぼされても、それでも諦めず生き、泥を啜ってでも力を蓄え、何度も立ち上がってきた。

 

死んでしまった者達はもう助けられないとしても、この方は「この手を取るなら、生きる術を教えてやる。生きる力を鍛えてやる」と言って下さった。

生命力がないと蘇生も出来ないなら、子供たちはそうなれるように育ててやろう。自分達で無理ならこの方に教えを乞えば良い。魔法の契約があれば、家族が助かるかもしれないなら、子供達か、その子供達は魔法が学べるよう村を復興させよう。

 

きっと、それが、生き残った自分達に出来る事なのだ。

 

「わかりました」「カルバイン様、ありがとうございます」「生きている内に頑張ります」「どうか、子供達を宜しくお願いします」

 

ジョンの説明に何かに気がついたように、村人達は表情を輝かせ、口々に礼を言って作業に戻って行った。

村人達が納得してくれたのは良いのだが、気がついた『何か』に心当たりの無いジョンは「モモンガさん、すげー」と感心しきりだった。

モモンガはモモンガで理屈で感情を宥めようと考えていたのに、村人達の反応が想定と違う事に首を傾げていた。

 

 

/*/

 

 

村の周囲の木々を、ジョンが雑草でも抜くように引っこ抜き、ヤーマ、コークス、マッシュ、ナーガンがそれを村まで運んでいく。

 

開拓では伐採の後に抜根するが、抜根は大きな力を必要とする為、重機を使うか、重機が無い時代は火薬を使うなどしていた作業だ。

前衛職100Lvの筋力は重機を優に上回り、燃料も通常の食事で良いと、えエコとずくめだ。

 

「うちは重機いらないなッ!」

「よッ! リーダー100人力」

「おーし、どんどん抜いてくぜー」

 

((ちょろ))

 

「ん? なんか言った?」

「「いやーなんにもー」」

 

本来、木を切り出すだけではなく、埋めるための穴を掘ったり、木を運んだりと、膨大な作業力が当然必要になる筈だった。

だが、人狼達は村人達が傷心から立ち直るのを待つ事無く、1日で森を切り開き、抜根まで済ませると、サペトンの魔法で丸太を乾燥させ、ロープなどを用意し、2日目には村の周囲を囲む壁と見張り台を完成させてしまった。

 

 

/*/

 

 

「いやー、美味しくてとまらないっすね」

「そうだな」

 

ルプスレギナとジョンの手がテーブルに置かれた木の皿に伸ばされる。

そこから摘み上げられたのはポテトを薄くスライスして、油で揚げたものに塩を振りかけた食べ物だ。それが口に放り込まれ、ポリポリと音を立てる。

 

2日目の休憩時、ジョンとルプスレギナの二人がテーブルを囲むのはカルネ=ダーシュ村に建てられたアインズ・ウール・ゴウン教会の中だ。

休憩といっても、《建築作業員の手》はある程度までは遠隔自動で作業を続けるので、こうしている間も魔法で作り出された手は休まずに壁と見張り台の建築を進めている。

ジョンとしては村で皆と休憩を取りたかったのだが、ペストーニャに呼ばれて教会に戻ってきていた。

 

もっとも、この教会はモモンガが特に聖と俗をわけるとか考えないで作ったので、現実のそれと違って聖堂の左右スペースに居住区やら厨房が追加されている。

村人もジョン達も誰も気にしていない事ではあるが、日本の神社や寺に例えると本堂に居住区が含まれていると言えば、作りの歪さが分かり易いだろうか。

 

「来年は、村で取れたジャガイモで俺も作るぞ」

「……ジョン様は料理ができる方がお好みっすか?」

「出来るに越した事はないかな」

 

ゴールデン芋のスライス揚げを、もっしゃもっしゃと食べながら、ジョンはルプスレギナへ返答する。

美味そうに食べるジョンを見ながら、ルプスレギナは思う。

この料理を持ってきたのはメイド長のペストーニャだ。恐らく、手ずから作って至高の御方であるジョンに届けに来たのだろう。

 

自分達プレアデスは、ペストーニャや他のホムンクルスのメイド達とは異なり、家事のスキルは一切持たない代わりに侵入者が第9階層まで突破してきた際、セバスの指揮の下で戦い『至高の御方の盾となって散る』為に創造されていた。だから、これまでは家事能力が無い事を残念に思う事はなかった。

 

だが、こうしてペストーニャが作った料理を美味しそうに食べているジョンの姿を見ていると、以前のように胸に正体不明の痛みが走った。

 

 

自分も頑張って何か作ればジョンは――美味しい、と笑顔になってくれるだろうか?

 

 

もし、それが出来れば、なんと素晴らしい事なのだろう。

来年はカルネ=ダーシュ村で収穫した芋でスライス揚げを作りたいとジョンは言っている。もしも、来年までにスキルを身につける事が出来たのなら、カルネ=ダーシュ村に限れば、ジョンと共に料理を作り、共に食べる事も出来るのだろうか?

 

 

ルプスレギナは自分の知識と想像力を総動員して、その状況を想像してみる。

 

 

こんな感じだろうか?

 

収穫の時期を迎えたカルネ=ダーシュ村。その教会の厨房でジョンが鼻歌を歌いながら、料理をしていた。

熱々に熱せられたフライパンの上では挽肉と玉葱とパン粉で捏ね上げたもの――ハンバーグがじゅうじゅうと音を立て、香ばしい匂いを放っている。

火が芯まで通っているか串を刺して確認し、ジョンは声を掛ける。

 

「ルプー、ソースは出来てるか?」

「はい! もちろんです。ジョン様!」

 

その言葉に答え、フライパンを持って、足取りも軽く近寄ってくるのは太陽のように明るい笑みを浮かべたルプスレギナ(自分の姿)だ。

 

「良おしッ! それじゃ、後はこれを盛り付けて」

 

皿に取り分けられたハンバーグの上に、ルプスレギナの作ったソースがかけられていく。

そこに揚げた芋。皮付きナチュラルカットを添えて出来上がりだ。

 

皿も芋も、この1年でカルネ=ダーシュ村で自分達で作ったものだ。そう思って見れば、料理長の使う最高級のものとは比べ物にならない粗末なものでも、至高の輝きを放っているように思えてくるから不思議だ。

 

「ルプーの作るソースは、いつも美味いな」

「ありがとうございます、ジョン様。――って、摘み食いはズルイっすよ。ん~!おいし~!」

 

添え物の揚げた芋にソースを絡め、摘み食いをするジョンを見咎め、ルプスレギナも負けじと芋を一つ摘んで口に放り込む。

同じ芋でもジョンと共同作業するだけで、どうしてこんなにも美味しくなるのだろうか。思わず片手で口元を押さえてぱたぱたしてしまう。

 

「……ルプーも美味しそうだな」

「え? ジョン様――はい、お召し上がりになりますか」

 

ルプスレギナは上気した顔でジョンを見上げ……

 

…………

 

……

 

 

「…ー……プー……。どうした、ルプー?」

「はっ!? も、申し訳ありません!! ジョン様、至高の御身になんと言う不敬を。この命で謝罪を!!」

「やめい!!!」

 

なんでそんな大事になるんだよ!? えーっと、こんな時、モモンガさんはどうしてたっけ?

 

「――あー、誰にでもミスはある。まして、この場では気の置けない態度で俺に接しろと命令している。不敬にはあたらない。ルプスレギナ・ベータ、お前の全てを俺は許そう」

「ありがとうございます! このような失敗、二度と繰り返さないようにいたします!!」

 

己の成した失敗に対し、命を以て謝罪したいと言う真摯なルプスレギナの姿。これをモモンガが見れば、俺が叱った時と随分態度が違うなこの駄犬(ルプスレギナ)。と、こめかみを揉んだ事だろう。

対してジョンは、なんで一寸ぼーっとしただけで、命を以て謝罪する話になるんだと冷や汗を流していた。

 

 

……ペストーニャは、ジョンとルプスレギナを応援するつもりで料理長にゴールデン芋のスライス揚げを用意させ、差し入れに来ただけであったのだが。

 

 

/*/

 

 

3日目からは残った丸太を割り、板材をマッシュ、ナーガン。コークスが作り出す。

ジョンは《建築作業員の手》を使い、ヤーマの指示の元、生き残った村人達の家をリフォームし始める。

 

先ず、一部の家に併設されていた家畜小屋は解体する。

面倒を見る男手が減りすぎているので、事前の村人達との打ち合わせに従い、大型の家畜小屋を作って一箇所にまとめて面倒を見るようにしてしまう。

 

村人の家は基本的に居間と寝室しかなく、かまどを兼ねる暖炉の排煙も不十分であった。

その為に煤だらけの屋内は先にサペトンが魔法で煤を取り除いて歩き、ジョンとヤーマで室内に基礎を作って土間の室内を板張りの床にしてしまう。湿気を避けるなどの理由は後からつけられるが、一番の理由はジョンが(自分が住むのでもないが)家の中では靴を脱げるようにしたいとの拘りからだ。

 

天井高が不足気味になるなどの問題もあるが、取り敢えずはこれで生活環境を改善し、追々、村の建物も全てスクラップ&ビルドしてしまうつもりだった。

排煙が不十分で屋内を煤だらけにしていたかまどを兼ねる暖炉も改造し、煙突を追加する。ちなみに地球で煙突がヨーロッパの農村で普及したのは16世紀以降らしい。

 

最初の一軒はジョンとヤーマで作業を行うが、残りの家屋はヤーマに監督されながら作業するジョンが《建築作業員の手》で同時に作業をしてしまう。

20軒に満たない家のリフォームに、サペトンの《建築作業員の手》も含めると156人の作業員がいる計算になる。

 

おかげで、朝、畑に出て行った村人達が一日の作業を終えて帰ってくる頃には村中のリフォームが終わっている。そんな、ありえない速度で作業は進んでいった。

 

 

リフォームの最後に、モモンガの部屋でつくった細長い逆三角形の器具を天井に取り付け、《永続光》を付与した細長い棒を取り付けると。

なんと言う事でしょう! 蛍光灯ちっくな魔法照明器具が天井に現れました!!

これはアイディアだけはユグドラシル時代からあったが、美しくないという理由でナザリック内には設置されていない。

 

 

(るし★ふぁーさん達みたいに、かっこいいデザインに出来なかったんだよなー)

 

 

当時を思い出し、ジョンは凹む。

ユグドラシルのダーシュ村では必要ない器具だったが、魔法を使えない村人達には夜を明るくする器具は必要だろう。

 

家ごとにきちんとしたトイレも無かったので、おまるを置く小部屋も追加し、家の中心にはモモンガに《永続化》を掛けてもらった《環境防御結界》を付与した水晶球を埋め込む。

これさえあれば、極端な話。家の壁も天井も無くても用は足りる。流石に壁も天井も無いのは落ち着かないが。

ついでに作りの悪い椅子やテーブルなども、分解して作り直し、ガタを取っておく。

家の窓にはガラスなど嵌っていない。ただの枠のついた四角い穴だが、《環境防御結界》を組み込まれた家であれば結界の効果で虫が入ってくる心配は無い。一応、鎧戸はついている。

 

ナザリックと比べれば、比べる必要も無い質素で粗末な家だが、この世界の基準で行けばどうだろう?

 

都市の住人よりも遥かに清潔で快適な生活が出来るのではないかと、ジョンはリフォームに感激している村人を見ながら満足を覚えていた。

 

ただ、おまるからは意外と臭いが漏れるので、後でおまるに《フィルター》をかけて回らねばなるまい。

夜の村、家々を回り、おまるに《永続化》をかけて歩く死の支配者(オーバーロード)を想像し、流石に止めてやった方が良いかなとジョンは考えたが、だからと言って大量のおまるを抱えてナザリックに入るのもなーと、鼻を鳴らして悩んだ。

 

 

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3日目の昼間、ルプスレギナがアルベドの元を訪ねた時、アルベドは引越しの真っ最中だった。

 

守護者統括でありながら、今まで私室が与えられていなかったアルベドであったが、それに気づいたモモンガがジョンに詰め寄ったところ「モモンガさんの嫁の部屋はモモンガさんの部屋。モモンガさんの寝室はアルベドの寝室。残念ですが、賛成37です。多数決によりギルマスの反対は認められません。……火球は八つ当たりだからな」と、スタッフを持ち上げたモモンガへ、腕を×に交差させながら答え、アルベドを狂喜させた。

 

アルベドの為にとギルメンが持ち寄っていた衣装だけは、予備部屋のドレスルームに仕舞ってあったので、それをプレアデスと一般メイド達が手分けしてモモンガのドレスルームへ移動させ、この(モモンガ)部屋に女主人として君臨する事になったアルベドが(モモンガの許可を取り)、雑多なモモンガのドレスルームを嬉々として整理しながら自身の衣装を並べていく。

 

ギルメンがアルベドに用意していた衣装も多岐に亘った。

 

何時もの白いドレスだけでも色違いに、デザイン違いがあった。

ホワイトブリム製作のメイド服各種も揃っており、アルベドが首を傾げながら整理していると、その中からホワイトブリム渾身のウェディングドレスが現れ、至高の御方からの贈り物に、アルベドは思わずドレスを抱え、膝から崩れ落ちて歓喜の涙を流した。

 

他にはペロロンチーノからと思しきスク水には、ひらがなで「あるべど」とゼッケンがあり、バニーなどの各種コスプレ衣装もあれば、普通にエプロンもあり、更には武器防具、アクセサリーまでおよそ考えられる一揃えが揃っていた。

 

これら至高の御方々がアルベドの為に用意していた(アルベドは至高の御方々からのモモンガへの嫁入り道具と認識した)衣装などは多岐に亘ったが、恐るべき事に階層守護者には、このアルベドを上回る衣装持ちが数名存在していた。

 

 

シャルティア、アウラ、マーレである。

 

 

アウラとマーレは2人で共用しているので、単独での衣装持ちはシャルティアがぶっちぎりでトップだ。

シャルティアはウェディングドレスだけでも白にカラードレス。ミニにロング。Aラインからプリンセスラインと30着は下らない数を保有している。その他、初心者向けスク水から始まる見○き装備も万全だ。流石はペロロンチーノ。

 

 

その引越しも一段落つき、アルベドに与えられた客用寝室のテーブルを囲んで、しばしおしゃべりに興じる。アルベドとプレアデアス達。

 

「「「「「「アルベド様、引越しおめでとうございます」」」」」」

「ありがとう」

 

いつに無く甘い声で礼を言うアルベドの微笑みは、常に浮かべるものよりも、柔らかく優しいものだった。

 

そのままお茶の話題は、モモンガのドレスルームを整理する際に発見してしまった死蔵されていた女性ものの服から、モモンガ様って女性経験豊富なんじゃない的な話となり、アルベドが『元カノなんて出てきたら殺す』とかなんとか言い出し、物騒な話になっていく。

 

モモンガが聞けば、精神作用無効を毎秒発動させながら、頭を抱え、パンドラの時よりも酷く悶える事は間違い無い。

 

だが、死の支配者(オーバーロード)の心の平穏の為にも、ガールズトークはその辺りにしてはくれないだろうかと懇願する者もおらず、紅茶の香りが漂う中、楽しげな女性の笑い声が部屋に響いていた。

そして、更なる衝撃が彼女達を襲った。

 

 

「ア、アルベド様、ジョン様は番に家事能力をお求めになるでしょうか?」

 

 

恥ずかしそうにもじもじと切り出すルプスレギナの姿に、妹達は「誰だこいつ!?」と驚愕の視線を――シズですら――向けてしまう。

ただ、アルベドだけが動じる事無く豊かな胸を張ってルプスレギナへ答えた。

 

「私はモモンガ様の嫁として相応しいように至高の御方々に創造されたけれど。その私が家事全般プロ級としての能力を与えられている事から考えると、至高の御方々は家事全般に長けている事を望まれているのではないかしら」

「料理はどうっすか?」

 

アルベドはルプスレギナの問いに小首を傾げ、ユリへ目線で確認して続ける。

 

「料理は専用のスキルが必要ね。プレアデスではユリ・アルファだけが取得していたかしら。どうしたの?」

「ジョン様と……ジョン様に、私、自分で作った料理を食べていただきたいです!」

 

常に無く緊張しているのか、ユリに良く注意される蓮っ葉で明るい口調すらも鳴りを潜めたルプスレギナに、姉妹達は息を呑んだ。

 

料理には一時的な能力向上等のボーナスがあるので、家事関係では唯一料理は専用のスキルを必要としていた。

逆に言えば裁縫、日曜大工など、能力のある装備を作成しないのであれば、スキルが無くてもNPC達はそうあれと設定されているだけで作成する事ができていた。これはスキルを必要としないクリエイトツールによる外装変更によるところも関係しているのだろうか。

 

膝に手を置き、俯いたルプスレギナへ、アルベドは静かに問う。

 

 

「ルプスレギナ。それは……至高の御方が定められていない事を行いたいという事なのかしら?」

 

 

「ふ、不敬かもしれないですけど、私も、私が作った料理をジョン様に美味しいと食べていただきたいのです」

「「「ルプー!?」」」

 

妹達はルプスレギナのセリフに仰天し、ユリはルプスレギナに他意は無いのだとアルベドへ訴える。

ある意味、阿鼻叫喚となったお茶会の場をアルベドは手で制する。そして、静かに、天使のように慈悲深い微笑をルプスレギナへ向けた。

 

 

「――いえ、ルプスレギナ。愛する御方に手料理を食べていただきたいと思わない女などいないでしょう」

 

 

「あ、愛する…」

 

単語の意味に思い至り、あうあうと顔を朱に染めるルプスレギナ。その姿を微笑ましく思いながら、アルベドは出来る限り、静かに、優しく言葉を紡ぎ続ける。

自分がこれほど優しく手を差し伸べられるなど、ほんの数日前までは思いもしなかった。

 

ナザリック地下大墳墓の支配者たるモモンガの孤独が、悲しみが、ナザリックを覆い尽くし、自分達もいつか置いていかれると不安を抱え、不安を覆い隠す為に、捨てられない為に、微笑みを浮かべていた。

 

その自分が、同じ仲間(NPC)の為に微笑む事が出来る。

不安、不信を覆い隠すのではなく、不安を吹き飛ばして下さった。あの至高の御方のように笑えていれば良いと願いながら、アルベドは微笑む。

 

 

「ルプスレギナ・ベータ。貴女にカルネ=ダーシュ村の教会の厨房を使う許可を与えましょう。そちらで使うのに必要な食材も、ナザリックの厨房から持ち出す許可も併せて与えます。セバスとペストーニャには伝えておきましょう。モモンガ様の許可も私が頂いておきます」

 

「アルベド様…」

 

迷い子のように弱々しく顔を上げたルプスレギナへ、アルベドは安心させるよう一つ頷いて見せた。

 

「至高の御方々は困難、不可能へ挑み、その事如くを粉砕し、ナザリックの威を世界に示してきました。その至高の御方々に創造された私達が、スキルが無い。たったそれだけで愛する方への奉仕を諦めるなど、どうして出来ましょう。

 

まして、ルプスレギナ・ベータ。

 

貴女の愛するジョン・カルバイン様は至高の御方々の誇りを背負い、私達を守る為に幾度死すとも、力及ばずとも、望んでいたぞと笑って戦いに赴ける御方。

頑張りなさい、ルプスレギナ。至高の御方を愛する女として、私は貴女を応援します」

 

 

至高の御方が、愛するモモンガの心を、自分達を守ってくれたように、今日からは私も仲間達を、モモンガを守ろう。

 

(近くで、遠くで、ずっとモモンガ様を含むナザリック全てを守って下さった御方の望まれる女が、限界の一つも超えられないなどあってはならない。いえ、きっと、カルバイン様は、それすらもお考えの上で……)

 

「アルベド様」

「何かしら、ユリ?」

 

何処か固い調子のユリの声にアルベドは首を傾げる。

ユリは緊張に一つ息を呑み、守護者統括へ至高の御方の深遠なる計画を打ち明ける。

 

「カルバイン様はルプーを光源氏計画に……。ぶくぶく茶釜様が『幼子を自分好みに育て上げる光源氏計画は、千年を超えて受け継がれる至高の伝統』と仰られた光源氏計画の対象にしております。私達は至高の御方に失礼が無いよう見守るべきでは?」

 

ジョンが自分の好みにルプスレギナを育ててあげているなら、余計な干渉は不敬にあたるのでは無いかとユリは恐れたのだ。

だが、そんなユリへ、アルベドは笑って言葉を返した。

 

「いいえ、ユリ。カルバイン様はそこまでお考えの上で、ルプスレギナにスキルを与えなかったのよ」

 

「ど、どう言う事ですか?」

「つまり、カルバイン様は『自分に相応しい女ならば、定められた役割、決められた能力を打ち破り、限界を超えて自分の元まで来い』と仰っているのよ」

 

 

この世界線においては、モモンガがNPC達の成長の可能性を模索する前に、NPC(彼女)達は自らの意志で持って定められた能力。決められた性能を超えようと挑戦を開始していた。彼女達の挑戦がどうなるか。

 

それにはこう答えるべきであろう。『恋する乙女は無敵です』と。

 

 

「ああ、そうだ。ルプスレギナ。至高の御方々には新妻が言うべき三択があるそうよ」

「に、新妻っすか!?」

 

 

/*/

 

 

4日目、ヤーマ達は村の広場に面して、家人がいなくなってしまった家を何軒か解体し、大き目の家を作る。

水不足を補う為、補助的に《無限の水差し》を配置したそこは村人達の共同浴場。過去において共同浴場が男女混浴だった時代もあるが、ジョンにとって共同浴場とは男女別のものであるから、当然ここも男女別になっている。

 

風呂に必須の石鹸であるが、村人達の匂いが割合薄いと思っていたが、村人等は石鹸を自分達で作れるようだった。

もっとも、石鹸といっても灰汁と獣脂から作られたものであり、石鹸を作りたい時に獣脂(牛や狩りの獲物)が手に入らない時は、灰汁の水で洗濯物を直接洗うなどしていたようだ。

城塞都市まで行けば、錬金術師が固形の良い香りのする石鹸を作って販売したりしているそうだが、高級品で農村では普通は手に入らない。

 

この村は薬師や錬金術師が使う薬草の群生地に近く、昔から村人が薬草を採取して都市まで売りに行ったり、薬師が採取に来たりしているので、馴染みの薬師(エンリの友人)が安く石鹸を分けてくれる事もあるらしい。

 

そう言った石鹸であれば環境負荷は低い筈だが、ジョンは村長に石鹸を使う洗濯などは、これまでの場所を止め、ここで行ってくれるよう頼む。

風呂屋の排水は一旦、地中に埋めたタンクに溜め、魔法で処理してから柵の外に作った溜池に流れるようにしてあった。

 

石鹸も魔法で作る事は可能だが、どうせなら菜種を探してきて村の周囲に植えて、油を絞ったりするのも良いかもしれない。

 

それが終わると、ジョンとサペトンは村の外れに幾つか穴を掘り、素焼きの大きな瓶(サペトンの中位物品作成により創造)を埋め込み、つっかえ棒で支えるフタをつける。

近くには水瓶と柄杓を用意し、《フィルター》をかけた水晶球を埋め込むと、村人達にこれからはおまるの中身をここに捨てるように教えた。

 

おまるの中身を地中の瓶へ捨てたら、おまるを洗った水で地中瓶へ捨てた屎尿を水で薄め、地中瓶が一杯になったら次の瓶に捨てさせる。

 

これは屎尿処理施設。所謂、肥溜めだった。

肥料を確保する目的もあるが、屎尿を有効活用する事で衛生レベルを高める事も重要な目的だった。

 

中世において、日本の江戸が人口百万都市であっても、ヨーロッパのように疫病に悩まされなかったのは屎尿の有効活用による都市の衛生レベルの高さがあったからだ。

実際に異世界開拓などする機会があれば、屎尿処理は最初にやっておきたいと常々ジョンは思っていた。

 

(ただ、実際にやると発酵した時に酷い臭いがするって話だったからなー)

 

屎尿は水で薄めながら、十分に発酵させないと発酵熱で寄生虫のタマゴが死滅しない。また、未発酵では窒素飢餓によって作物が根腐れなどを起こす等の問題があったが、何よりも最大の問題は人糞という汚物を使う事に対する村人達の理解と発酵させる際に発生する公害レベルの臭い対策であった。

 

村人達の理解。これは《チーム時王》の活動による信頼が、彼らの常識を捻じ伏せてくれていた。

 

発酵させた際の臭いは、毒ガス攻撃などを防御する為の低レベル魔法《フィルター》で肥溜めを囲む事で解決させる。

呼吸困難を引き起こす異臭ガス、致死性ガスを無毒化する魔法《フィルター》であれば、肥溜めの臭いを無効化するなど造作も無いだろう。

 

 

ジョンは異世界開拓をしようと思ってから、ずっと肥溜めの匂いの解決方法を考えていたらしい。

 

 

その為かどうかは分からないが、舟屋ではなく風呂屋の二階に用意したチーム時王の居住スペースに床板を張っていたジョンは床を張り終え、達成感に浸っているところで怒られる事となった。

 

「ちょッッッ!? リーダー階段は!?」

「あーー! ここ階段つけるって言ったろッ!?」

 

階下から聞こえる。マッシュ、ヤーマの声に綺麗に床が張られた二階を見回した。

 

「え?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……良しッ! 窓から出入しようぜ!! 秘密基地みたいでカッコイイじゃないか!!!」

 

「ふざけんなッ! なんで自分ちで窓から出入するんだ。不審者じゃねぇかッ!!」

「村の人が呼びに来た時、どうするんだよ!?」

 

誤魔化しは失敗のようだった。

諦めて穴を開けよう。階段は何処だったかなと二階をうろうろし始めると、今度は。

 

「リーダー! 今、道具持って行くからな!! 何もするなよ!!!」

「間違っても手で開けるなよッ!!」

 

「なんでだッ! 床ぐらい俺の手 刀(エクスカリバー)でッ!!」

 

 

「「建物ごと吹き飛ぶから止めろッ!!!」」

 

 

怒られてしまった。

お約束で吹き飛ばそうとしたのが、なんでわかったんだ……。

 

結局、ヤーマとマッシュが階段をつけました。

 

「見てくれよ。このリーダーのドジった跡」

「……かなり、まな板です」

 

 




なぜか、恋バナで千尋の谷に突き落とし~にナザリック。
次回「むぎむぎ様で世界がピンチ」

―――コピペ用、感想にお使い下さい―――

「糞がぁぁあああぁッ!! 糞、糞!!」


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