オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第212話:バハルス帝国軍近代化

 

 

/*/ バハルス帝国 帝都アーウィンタール 技術研究局・魔導工廠棟 /*/

 

 

天井の高い整備棟には、魔導機関の低い唸りが響いていた。

金属板の床には、油と香草混合潤滑液の匂いが混ざり合い、どこか焦げたような甘い匂いが漂う。

 

巨大な帆布に覆われた車両の列の前で、皇帝ジルクニフは腕を組み、隣に立つジョンへと視線を向けた。

 

「――これが、我が帝国版の“野外機動支援ユニット”だ。

魔導国のものに比べれば見劣りするが、民間工廠の力を結集した。

性能は六割程度だが、兵の胃袋と衛生を支えるには十分だと判断している」

 

帆布が外され、三輌の魔導牽引車が姿を現した。

どの車体にも、帝国紋章の双頭鷲が鋳込まれ、銀色の車輪が鈍く光る。

 

ジョンは無言で一輌ずつ眺めた。

 

一台目、野外炊事車《バハルス式試作壱号》。

魔導国製のように〈無限の水差し〉や全自動魔法釜は備えていない。

だが、『湧水の蛇口(模倣品)』と、火属性魔石による燃焼炉を組み合わせ、

60分で最大300名分の炊事能力を実現していた。

調理は焼き・煮る・炒め・汁物の4系統が限界――だが、現地改良用の魔導接続口が備わっている。

 

「無限供給がない分、燃料の確保は課題だな」

ジョンが静かに言う。

 

「そこは帝国輸送部隊が補う。

“竜車輸送隊”を再編し、魔導水槽と燃料瓶を定期巡回させる仕組みだ」

ジルクニフが即座に答える。

「“ありんす便”の真似はできんが、自国で回す方法はある」

 

二台目、野外食料運搬車《冷蔵拡張車・乙型》。

冷却魔法陣の出力が低く、保冷時間は魔導国製の半分――およそ二日。

だがジルクニフは胸を張った。

 

「食料は“帝国輸送隊”が三交代制で補給する。

竜騎兵が飛んで運ぶのはまだ贅沢だが、地上路線なら問題ない。

それに、こうした仕組みを整えれば――帝国の職人が仕事を得る」

 

ジョンは小さく頷き、無言で最後の一台へと歩いた。

 

野外入浴車《衛生支援車・皇式試作弐号》。

風呂釜は魔導国のものに比べれば小さい。

湯沸かしは魔石式ボイラー、入浴可能人員は一日700名。

だが、男女分離用の幕舎展開機構と、簡易消毒結界は見事に再現されていた。

 

「……十分だな」

ジョンが呟く。

 

ジルクニフは振り返る。

「十分、だと?」

 

「清潔と温食を確保できる軍は、それだけで崩れにくい。

性能が六割でも、“現地で整備できる”なら戦場で止まらない。

あとは、兵がこの装備を信じるかどうかだ」

 

その言葉に、ジルクニフは短く笑った。

「なるほど――魔導国の影を追うのではなく、自分の足で立てというわけか」

 

ジョンは手袋越しに車体を叩く。

「お前の帝国は、模倣から学び、実用で追いつく。

悪くない。……ただし、魔石炉は換装できるようにしておけ。

戦場で燃料が切れた時、俺のところの〈魔導炉心〉を載せられるようにな」

 

ジルクニフの目が光った。

「それは――技術協力とみていいのか?」

 

「協力じゃない、整合性の確保だ。

俺のユニットとお前のが同じ戦線に出た時、接続できなきゃ意味がない」

 

「……ふっ、そういう言い方をするか」

ジルクニフは笑いながらも、目の奥は真剣だった。

 

外では、帝国兵たちが新型車の試運転を始め、低く唸る魔導エンジン音が夜気を震わせていた。

 

「ジョン。

この機械が完成したら、帝国は次に“移動整備工廠”を造る。

戦場で故障した竜や車両を即座に修理できる、動く工房だ」

 

「いいな。それがあれば“負けても立ち直れる軍”になる」

 

二人の視線が交わる。

夜の整備棟に灯るランプが、金属の影を揺らした。

 

――帝国の機械化は、今、静かにその第一歩を踏み出した。

 

 

/*/

 

 

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