オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ バハルス帝国 帝都アーウィンタール 技術研究局・魔導工廠棟 /*/
天井の高い整備棟には、魔導機関の低い唸りが響いていた。
金属板の床には、油と香草混合潤滑液の匂いが混ざり合い、どこか焦げたような甘い匂いが漂う。
巨大な帆布に覆われた車両の列の前で、皇帝ジルクニフは腕を組み、隣に立つジョンへと視線を向けた。
「――これが、我が帝国版の“野外機動支援ユニット”だ。
魔導国のものに比べれば見劣りするが、民間工廠の力を結集した。
性能は六割程度だが、兵の胃袋と衛生を支えるには十分だと判断している」
帆布が外され、三輌の魔導牽引車が姿を現した。
どの車体にも、帝国紋章の双頭鷲が鋳込まれ、銀色の車輪が鈍く光る。
ジョンは無言で一輌ずつ眺めた。
一台目、野外炊事車《バハルス式試作壱号》。
魔導国製のように〈無限の水差し〉や全自動魔法釜は備えていない。
だが、『湧水の蛇口(模倣品)』と、火属性魔石による燃焼炉を組み合わせ、
60分で最大300名分の炊事能力を実現していた。
調理は焼き・煮る・炒め・汁物の4系統が限界――だが、現地改良用の魔導接続口が備わっている。
「無限供給がない分、燃料の確保は課題だな」
ジョンが静かに言う。
「そこは帝国輸送部隊が補う。
“竜車輸送隊”を再編し、魔導水槽と燃料瓶を定期巡回させる仕組みだ」
ジルクニフが即座に答える。
「“ありんす便”の真似はできんが、自国で回す方法はある」
二台目、野外食料運搬車《冷蔵拡張車・乙型》。
冷却魔法陣の出力が低く、保冷時間は魔導国製の半分――およそ二日。
だがジルクニフは胸を張った。
「食料は“帝国輸送隊”が三交代制で補給する。
竜騎兵が飛んで運ぶのはまだ贅沢だが、地上路線なら問題ない。
それに、こうした仕組みを整えれば――帝国の職人が仕事を得る」
ジョンは小さく頷き、無言で最後の一台へと歩いた。
野外入浴車《衛生支援車・皇式試作弐号》。
風呂釜は魔導国のものに比べれば小さい。
湯沸かしは魔石式ボイラー、入浴可能人員は一日700名。
だが、男女分離用の幕舎展開機構と、簡易消毒結界は見事に再現されていた。
「……十分だな」
ジョンが呟く。
ジルクニフは振り返る。
「十分、だと?」
「清潔と温食を確保できる軍は、それだけで崩れにくい。
性能が六割でも、“現地で整備できる”なら戦場で止まらない。
あとは、兵がこの装備を信じるかどうかだ」
その言葉に、ジルクニフは短く笑った。
「なるほど――魔導国の影を追うのではなく、自分の足で立てというわけか」
ジョンは手袋越しに車体を叩く。
「お前の帝国は、模倣から学び、実用で追いつく。
悪くない。……ただし、魔石炉は換装できるようにしておけ。
戦場で燃料が切れた時、俺のところの〈魔導炉心〉を載せられるようにな」
ジルクニフの目が光った。
「それは――技術協力とみていいのか?」
「協力じゃない、整合性の確保だ。
俺のユニットとお前のが同じ戦線に出た時、接続できなきゃ意味がない」
「……ふっ、そういう言い方をするか」
ジルクニフは笑いながらも、目の奥は真剣だった。
外では、帝国兵たちが新型車の試運転を始め、低く唸る魔導エンジン音が夜気を震わせていた。
「ジョン。
この機械が完成したら、帝国は次に“移動整備工廠”を造る。
戦場で故障した竜や車両を即座に修理できる、動く工房だ」
「いいな。それがあれば“負けても立ち直れる軍”になる」
二人の視線が交わる。
夜の整備棟に灯るランプが、金属の影を揺らした。
――帝国の機械化は、今、静かにその第一歩を踏み出した。
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