オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第216話:鉄の騎士・改

 

 

/*/ 帝国中央工廠・試験ドック No.3 /*/

 

 

鈍色の光が工廠を満たしていた。

金槌の音も火花の音も、今日は止まっている。

代わりに響くのは、魔導炉の低い脈動音――

まるで巨人が息をしているかのような、静かな鼓動。

 

その中央に、《鉄の騎士・改》が立っていた。

 

旧型の黒鉄の装甲は一新され、

全身のラインはより鋭角に、そして洗練されている。

左肩には八連装の〈魔法の矢〉発射筒、

右肩には〈煙幕弾〉ポッド。

左腕の盾にはパイルバンカーが内蔵され、

右手の剣は新素材のルーン鋼で再鍛造されていた。

 

機体全体を支えるフレームは新設計の“第Ⅱ世代魔導骨格”。

反応速度を2割向上させ、出力も安定化。

その姿は、かつての“鉄の兵器”ではなく、

もはや“意志ある戦士”のようだった。

 

整備士が端末を見ながら呟く。

「……出力安定。魔導炉温度、正常。

 全系統リンク、良好です」

 

通話機から技術主任の声が響く。

「ベベネ・バイセン、テスト任務開始を許可する。

 この改良機は、君のデータがなければ完成しなかった。

 どうか、もう一度“目を覚まさせて”やってくれ」

 

上層デッキのベベネが短く返した。

「了解。……起こしてやるよ、相棒」

 

彼は操縦服の袖をまくり上げ、

無骨な掌で機体の外装を叩いた。

その一撃が合図のように、装甲の内側から

赤い光がじわりと滲む。

 

「……いい顔だな。やる気か」

 

機体の胸部が開く。

油の匂いと熱気が流れ出る中、

ベベネはコクピットへ滑り込んだ。

 

スイッチオン。

制御系統が再接続され、光のラインが全身を走る。

メインモニターが起動し、

機体の視界と彼の視界が重なる。

 

「鉄の騎士・改、起動確認。

 フレーム反応率98パーセント。

 神経接続、良好――」

 

ベベネの脳裏に、かすかな共鳴音が響いた。

“おかえり”――そんな気がした。

 

「行くぞ、相棒」

 

操縦桿が握られる。

その瞬間、重機のような駆動音がドック全体に響き渡った。

鉄の騎士が、ゆっくりと首を上げる。

赤いセンサーが点灯し、

工廠の空気がわずかに震えた。

 

 

/*/ 試験場・第三区域 /*/

 

 

乾いた大地と、訓練用の残骸群。

かつての戦場を模した広域演習場。

 

「テスト項目:複合戦闘行動。

 射撃、回避、接近戦、全系統チェック開始」

 

ベベネが短く息を吐く。

「了解。……やってみようか」

 

まずは左肩の八連装〈魔法の矢〉。

スイッチを弾くと、

装填口が回転し、ルーン光が迸る。

 

「ロックオン――8、全照準」

 

放たれた魔法弾が空を裂き、

擬似標的を次々と貫いていく。

爆光と砂煙。

 

「……命中率、百パーセント。

 悪くないな」

 

続いて右肩の〈煙幕弾〉。

弾頭が飛び出し、辺りを白煙が覆う。

モニターが曇るが、

ベベネは構わず視界拡張を起動。

赤外線と魔力反応で敵影を補足。

 

「視界奪いの中でも動ける。いいぞ」

 

ベベネはスラスターを噴かし、突撃態勢。

左腕の盾を前に構え、

パイルバンカーを展開――。

 

金属の咆哮。

鉄杭が標的に突き刺さり、

粉砕音が大地を揺らす。

 

「これが……新しい“拳”か」

 

最後に右手の剣を構える。

白金の刃に魔力が流れ、稲妻のような軌跡を描く。

一閃。

砂煙が割れ、残骸が真っ二つに裂けた。

 

通信が入る。

「ベベネ・バイセン、テスト結果――

 すべて基準値を大幅に超過。

 これで正式運用に入れる。

 君のデータは第8軍にも転送されるだろう」

 

ベベネは笑い、

軽くコクピットの計器を叩いた。

 

「だとよ、相棒。……まだ現役だってさ」

 

センサーが一瞬だけ点滅した。

それは、まるで返事のようだった。

 

彼はその後、報告書に短くこう記した。

 

《鉄の騎士・改》――問題なし。

応答良好。

まるで“生きてる”。

……俺の相棒は、まだ戦える。

 

ベベネ・バイセン。

辺境を守る“鉄の騎士”は、

再び歩き出した。

 

 

/*/ 辺境防衛線・灰の丘南方 /*/

 

 

夕陽が傾き、赤く染まる丘陵。

その向こうから、地鳴りのような唸りが押し寄せた。

大地を震わせる、無数の足音。

 

「……あれ全部、オーガかよ」

 

ベベネ・バイセンはコクピットの中で呟いた。

視界に映るのは、灰色の肌と鉄骨を振り回す巨躯。

十体、二十体――いや、数え切れない。

 

帝国の防衛線など存在しない。

ここは地図の外側、

守る者がいなければ、滅ぶだけの場所。

 

だが、今この丘の上には一騎。

 

《鉄の騎士・改》。

 

金と黒の装甲が夕焼けに輝き、

魔導炉の鼓動が静かに唸りを上げていた。

 

「――これ以上、村に行かせねぇ」

 

ベベネは操縦桿を握り、

機体の脚部スラスターを起動する。

地面が砕け、黒鉄の巨体が前に滑り出す。

 

通信が入る。

「こちら監視隊! ベベネ少尉、退避を! 数が多すぎる!」

 

「退く気はねぇ。俺の村の方が近ぇんだ」

 

応答を切り、加速。

左肩の八連装〈魔法の矢〉を起動。

ルーン光が閃き、上空に魔法陣が展開される。

 

「……撃ち抜け」

 

八本の光の矢が空を裂き、オーガの群れを貫いた。

爆光が走り、巨体が吹き飛ぶ。

だが、まだ止まらない。

 

煙の中から次の群れが突進してくる。

岩を投げ、咆哮を上げ、血の匂いが風に乗った。

 

「数で押す気か……上等だ」

 

ベベネはスラスターを全開。

黒鉄の脚が唸り、前線へ飛び込む。

 

右肩から〈煙幕弾〉を発射。

白い霧が広がり、視界を奪う。

 

「煙幕展開――“見えなくても当てられる”んだよ」

 

センサーが赤外線反応を捉える。

左盾のパイルバンカーが展開し、

金属杭が魔力を帯びてうなりを上げる。

 

――ズドォンッ!!

 

衝撃。

正面のオーガの胸を貫き、背骨ごと吹き飛ばす。

鉄と肉が混じった匂いがモニター越しに伝わってくるようだった。

 

「次――!」

 

右手の剣が閃く。

刃に魔導火が走り、

横薙ぎ一閃、三体の首が同時に飛んだ。

 

オーガの血が夕陽に照らされて黒く輝く。

機体の装甲に当たり、煙を上げた。

 

「――ふざけんな。お前らの牙じゃ、鉄は喰えねぇよ」

 

ベベネは一気に前進。

足元を滑らせながら、盾を構えて突撃。

二体目をパイルで吹き飛ばし、

三体目の腹を蹴り上げ、回転しながら斬り裂く。

 

オーガの群れが後退する。

その間隙を逃さず、左肩の八連装が再装填される。

 

「ラストだ……全部持ってけ!」

 

――発射。

連続する八つの光が夜を照らし、

轟音が丘を越えた。

 

爆発の波が大地を揺らし、

オーガの群れは四散した。

 

土煙の中、鉄の騎士は片膝をつく。

装甲の一部が焼け、左腕が煙を上げている。

 

ベベネは息を吐き、ヘルメットを叩いた。

「……あーあ、また修理行きか」

 

モニターの向こうには、

煙の向こうで灯り始める村の明かりが見えた。

 

彼は微笑んだ。

「でもまあ、間に合ったな」

 

通信が再び入る。

「こちら監視隊、敵勢反応消失を確認! ベベネ少尉、応答願います!」

 

「こっちは問題なし。

 村も無事だ。……報告はそれで十分だろ?」

 

その声は、疲れていたが、

確かな誇りを宿していた。

 

《鉄の騎士・改》がゆっくりと立ち上がる。

燃え残る煙の中、赤いセンサーがかすかに光った。

 

まるで、“まだ戦えるぞ”と言っているように。

 

ベベネは笑った。

「……ああ。お前はほんと、タフだな。

 頼りにしてるぜ、相棒」

 

そして彼は、

夜空に浮かぶ満月の下、ゆっくりと背を向けた。

 

辺境の村を守る“無冠の騎士”。

鉄と魂が一つになった戦士は、

再び静寂の中に溶けていった。

 

 

/*/

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