オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

230 / 230
第23部:インシマウの影
第219話:水の巫女姫。新たな額冠


 

 

/*/ スレイン法国・神都 水神殿最奥聖域『ティナゥ・アル・リアネス』 /*/

 

 

水音が静かに響いていた。

神殿の奥にある、聖なる円形の間――かつて“消失の儀”が行われた場所。

その時に一度枯れかけたといわれる水面は、今や再び澄み切り、青い光を宿していた。

 

月明かりの下、

白銀の衣を纏った少女が、静かにその水面を見つめている。

 

――新たな“水の巫女姫”。

 

彼女はまだ十代半ばほどの年頃だろう。

だがその瞳は、年齢にそぐわぬほど冷静で深い。

何より特筆すべきは――その瞳が、隠されていないということだった。

 

以前の巫女たちは、聖なる視力を封じるため布で目を覆っていた。

しかし、彼女の眼差しは“封じられた神秘”を超えてなお、己の意志で開かれている。

 

その双眸――水底のように透き通る碧が、

まるでこの世ならぬ景色を映していた。

 

彼女は両手を胸の前に組み、囁く。

 

「〈第八位階魔法・プレイナーアイ/次元の眼〉――発動」

 

水面が静かに揺れた。

やがて波紋が広がり、

光の筋が天へ、そして横へと伸びる。

 

水面に映し出されたのは――空を翔ける巨大な船。

帝国の風脈ガレオン船《フラウ・アーヴィス》。

 

その甲板には、四機の鉄の巨人。

“鉄の翼”――ベベネ・バイセン隊だ。

 

「……これが、帝国の辺境の守護者……」

巫女の唇がわずかに動く。

 

背後に控える高位神官たちが、祈りの声を潜めて問う。

「巫女姫様……彼らが本当に“魔導国の技術”を用いた者たちで?」

 

「ええ」

巫女は静かに頷いた。

「けれど――彼らは〈死の国〉の道具ではありません。

 あの操縦士たちの魂は、生きている。

 ……とても、眩しいほどに」

 

水面が拡大し、視界が下方へ。

そこには《鉄の騎士・改》が滑るように着地し、トロールの群れを焼き払う光景が映る。

炎が走り、爆音が轟き、夜空が朱に染まる。

 

それを見ながら巫女は、

まるで祈るように両手を握り締めた。

 

「戦いの炎を“護りの火”に変えられる者……

 彼――ベベネ・バイセン。

 この世界の“意思”が選んだ人です」

 

神官長の老人が息を呑む。

「巫女姫……では、彼を“神の代行者”と?」

 

「……いいえ」

巫女はゆっくりと首を振る。

月光が髪を撫で、その碧い瞳が水面の火を映す。

 

「彼は神ではなく、“人間”です。

 けれど――その魂は、神よりもまっすぐ。

 見えます。

 彼の周囲には、鉄と風の精霊が集っている……」

 

映像の中で、ベベネの機体が地を駆け、仲間の《鉄の騎士》と共に陣形を組む。

背後ではガレオン船の魔導炉が風脈を捕まえ、蒼い光を放つ。

 

巫女の頬を一筋の涙が伝う。

 

「……あれは、戦場ではありません。

 ――祈りの形です」

 

静寂。

周囲の神官たちは誰も言葉を発せなかった。

神聖魔法の観測が、これほど“美しい”と感じたことはなかったのだ。

 

老婆――前代から生き残った長老神官が、震える声で尋ねる。

「巫女姫……貴女はその瞳で、何を見るのですか……?」

 

巫女は答えた。

 

「……“世界が揺らぐ”未来です。

 ですが、彼ら――鉄の翼がいる限り、

 この地はまだ崩れません」

 

そして、水面が静かに閉じた。

映像が消え、ただ青い光だけが残る。

 

巫女姫は静かに立ち上がり、

手を合わせて祈った。

 

「どうか……鉄の翼に、水の加護を」

 

その声は、神殿の天井を越え、

遠く、風脈を渡って空の果てへと届いていった。

 

――まるで、

祈りそのものが彼らの翼を押し上げるかのように。

 

 

/*/

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

オーバーロード 傾国狐の異世界日記(作者:破戒僧)(原作:オーバーロード)

ユグドラシル最終日。『傾国の悪女』(ロールプレイ)として知られる1人のプレイヤーが、ギルドホームと共に異世界に転移した。ナザリックが転移して来るよりも、400年も前の時間に。▼これは、わけのわからん状況にパニック寸前になりつつも、頼れるNPC達に手伝ってもらいつつ、なんだかんだで割と欲望のままに異世界生活を楽しんでいく、一人の『狐』がしたためた、なんてことは…


総合評価:5124/評価:8.23/完結:122話/更新日時:2026年06月28日(日) 10:18 小説情報

オーバーロード <物語の分岐が確認されました>(作者:ヒツジ2号)(原作:オーバーロード)

DMMO RPG『ユグドラシル<Yggdrasil>』のサービスが終了する2年前、ある男がもたらした情報により、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンのとあるギルドメンバーは、わずかに行動を変更した。▼これにより、物語は大きく分岐を迎えることとなる。▼モモンガさんや、その他の至高の御方々がもう少し幸せになってもいいと思い、素人ながら書かせていただきます。▼現地人も…


総合評価:7700/評価:8.97/連載:151話/更新日時:2026年06月30日(火) 20:42 小説情報

オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた(作者:連載として再構築)(原作:オーバーロード)

▼鈴木亜理紗はアーコロジーの下級階層の民として、鈴木悟の妹として生まれた。▼▼人の命が非常に軽いアーコロジーにおいて、必死に生きて、今を、自分の周りを少しでも良くしようと奮闘する亜理紗だったが、その運命は容赦なく彼女を襲う。▼▼アリサは、定められた運命を変えることができるのだろうか。▼▼過去投稿したTS転生者物です。見切り発車だったのでプロットなど組みなおし…


総合評価:3863/評価:8.02/連載:57話/更新日時:2026年02月10日(火) 08:55 小説情報

Moon Light(作者:イカーナ)(原作:オーバーロード)

YGGDRASILサービス終了の日、陰鬱なヘルヘイムの地で悲嘆に暮れていたもう一人の孤独者がいた。彼は葛藤と覚悟の中、性別すら違う姿のまま、見知らぬ異世界へと転移してしまう――▼※原作開始より100年ほど前の世界が舞台となり、物語が進行します。主にスレイン法国中心の視点となります。(世界IF)▼これらの都合上、原作の要素は少なめで、穴埋め等による多くの捏造設…


総合評価:6743/評価:8.48/連載:63話/更新日時:2026年06月26日(金) 19:00 小説情報

シャルティアの中身が一般人だったら(作者:ロリ子)(原作:オーバーロード)

シャルティア推せるてかシャルティアになりたい!▼モモンガ様支えたい!▼ムカつくやつを消したい▼その願い叶えます


総合評価:4307/評価:8.11/連載:25話/更新日時:2026年03月27日(金) 11:26 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>