オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

237 / 244
第24部:MASS FOR THE DEAD
第226話:竜王狩り計画


 

 

/*/ 魔導国・第九層 戦略司令区画 /*/

 

 

卓上に立体映像の地図が浮かんでいた。

雪を被った山脈の奥深く、龍王国旧都。その上空に、人工衛星ゴーレムが軌道を描く。

 

「……対竜王戦を想定するなら、“単独で勝てる”かどうかの議論じゃねぇ。問題は――どれだけ残ってるか、だ。」

 

ジョンが低く言い放つ。

青白い毛並みの獣腕が、山岳地帯に赤い光点を落とす。

 

「八欲王が狩り尽くしたとは言われてますけど、情報が五百年前の話です。

仮に百体中二十体でも生き残ってたら、戦力比でこちらが不利になりますね」と、ぐりもあが指を滑らせる。

 

「でも、なんでそんなに戦う方向で考えてるんです? 一応、国交あるんですよね?」

ぐりもあの問いはもっともだった。

 

ジョンは腕を組んで、静かに答えた。

「だからこそだ。――“こっちの力”を測ってる。奴らは様子を窺ってる。

平和交渉の裏で、いつでも“試し撃ち”できる構えを崩してねぇ。」

 

モモンガが沈黙を破った。

「始原の魔法を使える竜王が複数確認されている。特に“滅魂の吐息”。

あれを複数体が同時に放てば、即死級。……先手を取られたら終わりだ。」

 

「衛星軌道からの《柱状タングステンゴーレム落下》ならどうだ?

一体を狙い撃ちすれば……命中すれば倒せる可能性はある。」

 

ぐりもあが即座に首を振る。

「精密誘導に失敗すれば、ただの岩石雨です。

竜王の鱗は〈強化魔法無効化層〉を持つ。質量兵器だけで押し切れる保証はない。」

 

ジョンは顎に手をやった。

「……なら、潜水艦の魚雷で牽制。地上の“気配”を断ち、衛星攻撃で同時多発。

奴らが空に逃げるなら、タングステン。潜れば、魔力魚雷。

俺たちは“空と海”の三次元で狩る。」

 

「問題は――始原級が他にどれだけいるか、ですね」

ぐりもあが呟く。

 

モモンガは腕を組んだまま、淡々と結論を下す。

「先制を取る。それだけが唯一の生存条件です。」

 

 

 

静寂の中、ジョンが口角を上げた。

「じゃあ――始めようぜ、“竜王狩り計画《ドラゴン・スレイヤー・オペレーション》”。」

 

 

/*/ 魔導国・戦略司令室 /*/

 

 

静まり返った作戦室に、ジョンの低い声が響く。

立体映像に映るのは、白金の竜王――“正義の化身”を名乗る存在。

その神々しい光が、まるで嘲笑うように照り返っていた。

 

「……結局、俺たちも我儘なんだよ。」

 

モモンガとぐりもあが目を向ける。

 

ジョンはゆっくりと、牙を見せずに笑った。

「“我こそ最強”だの、“世界の守護者”だの――そう言って、他者の自由を奪う。

あいつらは“正義”の名を盾にして、力を正当化してやがる。」

 

沈黙。

壁の水晶板に映る竜王の残骸写真が、無言の証拠のように沈む。

 

「でもな……俺たちも同じだ。」

 

ジョンの声は静かに、しかしどこか哀しげに落ちた。

「俺たちは“俺たちの世界”を守るために戦ってる。

けど――その“守る”って言葉が、どこかの誰かにとっての“押し付け”になるんだ。」

 

モモンガが眼窩の光を細める。

「……それでも、守らねばならないものがある。」

 

「そうだな。」

ジョンは立ち上がり、窓の外――星々を映す衛星軌道を見上げた。

「だから俺は止まらねぇ。ドラゴンでも神でも、“押し付けの正義”はぶち壊す。

それが――俺の我儘だ。」

 

 

 

その背を見て、ぐりもあは苦笑した。

「……あなたの“我儘”が世界を救うなら、悪くありませんね。」

 

ジョンは振り返らずに答えた。

「救う気なんてねぇ。ただ、ムカつく奴を殴るだけだ。」

 

 

 

──青い光が、彼の背を照らした。

人工衛星ゴーレムが、静かに軌道を回り始める。

 

 

ジョンはしばらく星を見上げたまま、低く続けた。

 

「結局な……“世界の痛み”がどうこう言ったって、現実はどうだ?」

 

ぐりもあが顔を上げる。

 

ジョンは指先で空間の地図を弾いた。

ホログラムの地図が変わり、海岸線の都市が浮かび上がる。

魚のような紋章が赤く点滅していた。

 

「インスマウスみたいな浸食は、今も起きてる。

深きものどもは増え続けてる。人間の街を少しずつ食ってる。」

 

モモンガが静かに頷く。

 

「竜王たちもそれを知らぬわけではないはずだ。」

 

「知ってるさ。」

ジョンは肩をすくめた。

 

「でもな、あいつらは“世界の均衡”とか“理”とか言って、基本は放置だ。

理由は簡単だよ。」

 

ジョンは振り返る。

瞳の奥に、冷たい光が宿っていた。

 

「自分たちの支配が及ばない場所だからだ。」

 

室内の空気が静かに凍る。

 

「深海も、辺境も、地下も。

あいつらの秩序の外で何が起きても、“世界の循環”で済ませる。

でも――」

 

彼は衛星軌道を指さした。

 

「俺たちが動くと、“世界が悲鳴を上げる”とか言って止めに来る。」

 

ぐりもあが苦笑した。

 

「……つまり、“世界のため”じゃなくて?」

 

ジョンは鼻で笑った。

 

「縄張りの問題だ。」

 

モモンガが腕を組む。

 

「竜王たちは“管理者”。

そして我々は“侵入者”。

ゆえに衝突は避けられぬ、というわけか。」

 

ジョンは頷いた。

 

「そういうことだ。」

 

少しだけ間を置いてから、続ける。

 

「俺はな、ツアーのこと嫌いじゃない。

あいつは本気で“世界”を守ろうとしてる。」

 

ぐりもあが静かに言う。

 

「でも、あなたは?」

 

ジョンは窓の外の星を見た。

 

「俺は、“世界の中の奴ら”を守る。」

 

その言葉は静かだったが、重かった。

 

「世界そのものがどうこうより、

今ここで生きてる奴が食われてるなら、そっちをどうにかする。」

 

衛星ゴーレムの光が、ゆっくりと動く。

 

「……だから竜王と喧嘩になる。」

 

モモンガが小さく笑った。

 

「なるほど。

“世界を守る者”と、“世界の住人を守る者”の違いか。」

 

ジョンは肩を回しながら言った。

 

「どっちが正しいかは知らねぇよ。」

 

そして最後に、静かに付け加えた。

 

「でも、放っておくのは性に合わねぇ。」

 

 

 

衛星軌道上。

人工ゴーレムがひとつ、またひとつと位置を変える。

 

 

 

――竜王とナザリック。

その戦いは、もう避けられない。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。