オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
第226話:竜王狩り計画
/*/ 魔導国・第九層 戦略司令区画 /*/
卓上に立体映像の地図が浮かんでいた。
雪を被った山脈の奥深く、龍王国旧都。その上空に、人工衛星ゴーレムが軌道を描く。
「……対竜王戦を想定するなら、“単独で勝てる”かどうかの議論じゃねぇ。問題は――どれだけ残ってるか、だ。」
ジョンが低く言い放つ。
青白い毛並みの獣腕が、山岳地帯に赤い光点を落とす。
「八欲王が狩り尽くしたとは言われてますけど、情報が五百年前の話です。
仮に百体中二十体でも生き残ってたら、戦力比でこちらが不利になりますね」と、ぐりもあが指を滑らせる。
「でも、なんでそんなに戦う方向で考えてるんです? 一応、国交あるんですよね?」
ぐりもあの問いはもっともだった。
ジョンは腕を組んで、静かに答えた。
「だからこそだ。――“こっちの力”を測ってる。奴らは様子を窺ってる。
平和交渉の裏で、いつでも“試し撃ち”できる構えを崩してねぇ。」
モモンガが沈黙を破った。
「始原の魔法を使える竜王が複数確認されている。特に“滅魂の吐息”。
あれを複数体が同時に放てば、即死級。……先手を取られたら終わりだ。」
「衛星軌道からの《柱状タングステンゴーレム落下》ならどうだ?
一体を狙い撃ちすれば……命中すれば倒せる可能性はある。」
ぐりもあが即座に首を振る。
「精密誘導に失敗すれば、ただの岩石雨です。
竜王の鱗は〈強化魔法無効化層〉を持つ。質量兵器だけで押し切れる保証はない。」
ジョンは顎に手をやった。
「……なら、潜水艦の魚雷で牽制。地上の“気配”を断ち、衛星攻撃で同時多発。
奴らが空に逃げるなら、タングステン。潜れば、魔力魚雷。
俺たちは“空と海”の三次元で狩る。」
「問題は――始原級が他にどれだけいるか、ですね」
ぐりもあが呟く。
モモンガは腕を組んだまま、淡々と結論を下す。
「先制を取る。それだけが唯一の生存条件です。」
静寂の中、ジョンが口角を上げた。
「じゃあ――始めようぜ、“竜王狩り計画《ドラゴン・スレイヤー・オペレーション》”。」
/*/ 魔導国・戦略司令室 /*/
静まり返った作戦室に、ジョンの低い声が響く。
立体映像に映るのは、白金の竜王――“正義の化身”を名乗る存在。
その神々しい光が、まるで嘲笑うように照り返っていた。
「……結局、俺たちも我儘なんだよ。」
モモンガとぐりもあが目を向ける。
ジョンはゆっくりと、牙を見せずに笑った。
「“我こそ最強”だの、“世界の守護者”だの――そう言って、他者の自由を奪う。
あいつらは“正義”の名を盾にして、力を正当化してやがる。」
沈黙。
壁の水晶板に映る竜王の残骸写真が、無言の証拠のように沈む。
「でもな……俺たちも同じだ。」
ジョンの声は静かに、しかしどこか哀しげに落ちた。
「俺たちは“俺たちの世界”を守るために戦ってる。
けど――その“守る”って言葉が、どこかの誰かにとっての“押し付け”になるんだ。」
モモンガが眼窩の光を細める。
「……それでも、守らねばならないものがある。」
「そうだな。」
ジョンは立ち上がり、窓の外――星々を映す衛星軌道を見上げた。
「だから俺は止まらねぇ。ドラゴンでも神でも、“押し付けの正義”はぶち壊す。
それが――俺の我儘だ。」
その背を見て、ぐりもあは苦笑した。
「……あなたの“我儘”が世界を救うなら、悪くありませんね。」
ジョンは振り返らずに答えた。
「救う気なんてねぇ。ただ、ムカつく奴を殴るだけだ。」
──青い光が、彼の背を照らした。
人工衛星ゴーレムが、静かに軌道を回り始める。
ジョンはしばらく星を見上げたまま、低く続けた。
「結局な……“世界の痛み”がどうこう言ったって、現実はどうだ?」
ぐりもあが顔を上げる。
ジョンは指先で空間の地図を弾いた。
ホログラムの地図が変わり、海岸線の都市が浮かび上がる。
魚のような紋章が赤く点滅していた。
「インスマウスみたいな浸食は、今も起きてる。
深きものどもは増え続けてる。人間の街を少しずつ食ってる。」
モモンガが静かに頷く。
「竜王たちもそれを知らぬわけではないはずだ。」
「知ってるさ。」
ジョンは肩をすくめた。
「でもな、あいつらは“世界の均衡”とか“理”とか言って、基本は放置だ。
理由は簡単だよ。」
ジョンは振り返る。
瞳の奥に、冷たい光が宿っていた。
「自分たちの支配が及ばない場所だからだ。」
室内の空気が静かに凍る。
「深海も、辺境も、地下も。
あいつらの秩序の外で何が起きても、“世界の循環”で済ませる。
でも――」
彼は衛星軌道を指さした。
「俺たちが動くと、“世界が悲鳴を上げる”とか言って止めに来る。」
ぐりもあが苦笑した。
「……つまり、“世界のため”じゃなくて?」
ジョンは鼻で笑った。
「縄張りの問題だ。」
モモンガが腕を組む。
「竜王たちは“管理者”。
そして我々は“侵入者”。
ゆえに衝突は避けられぬ、というわけか。」
ジョンは頷いた。
「そういうことだ。」
少しだけ間を置いてから、続ける。
「俺はな、ツアーのこと嫌いじゃない。
あいつは本気で“世界”を守ろうとしてる。」
ぐりもあが静かに言う。
「でも、あなたは?」
ジョンは窓の外の星を見た。
「俺は、“世界の中の奴ら”を守る。」
その言葉は静かだったが、重かった。
「世界そのものがどうこうより、
今ここで生きてる奴が食われてるなら、そっちをどうにかする。」
衛星ゴーレムの光が、ゆっくりと動く。
「……だから竜王と喧嘩になる。」
モモンガが小さく笑った。
「なるほど。
“世界を守る者”と、“世界の住人を守る者”の違いか。」
ジョンは肩を回しながら言った。
「どっちが正しいかは知らねぇよ。」
そして最後に、静かに付け加えた。
「でも、放っておくのは性に合わねぇ。」
衛星軌道上。
人工ゴーレムがひとつ、またひとつと位置を変える。
――竜王とナザリック。
その戦いは、もう避けられない。