オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

242 / 244
第230話:各地の様子

 

 

/*/ リ・エスティーゼ王都・王城北区 /*/

 

 

白光が弾け、蒼の薔薇の五人が転移陣の中から姿を現した。

足元の石畳にはまだ魔法陣の残光が揺らめき、焦げた魔力の匂いが空気に残っている。

 

周囲には濃い紫の靄――罅から漏れ出した瘴気が漂い、空気が重く淀んでいた。

吸い込むだけで肺の奥が焼けるような感覚が走る。

 

遠くでは城壁の上の魔導灯がちらつき、悲鳴と怒号が夜空に響いていた。

王都はすでに戦場だった。

 

ラキュースは即座にキリネイラムを抜いた。

刃が鞘から離れた瞬間、淡い聖光が広がる。

 

金色の光が霧のように漂い、瘴気を押し返した。

 

「ティナ、ティアは先行して警戒! ガガーランは私の前に! イビルアイ、結界を展開!」

 

「了解!」

 

双子が影のように消え、瓦礫の上を跳んでいく。

崩れた屋根、砕けた塔の壁、崩落した街路――そのすべてを足場にして、二つの影が王城へと滑っていった。

 

イビルアイの周囲に水晶の輪が浮かび上がる。

青白い魔力が回転し、砕けた結晶片が光の粒となって広がる。

 

「〈水晶障壁(クリスタル・シールド)〉――完了。これで当面は瘴気を遮断できる!」

 

透明な結界が広がり、周囲の空気がわずかに軽くなった。

 

その時――

 

遠く、王城が燃えていた。

 

塔の先端から紫の罅が走り、魔法障壁が悲鳴を上げて砕ける。

石片と魔力の火花が空に散り、城壁の一部が崩れ落ちた。

 

「ガガーラン、行け!」

 

「おうともよッ!」

 

戦槌が地面を叩きつける。

石畳が砕け、破片が雨のように飛び散る。

 

瓦礫の影から現れたスケルトン兵が、衝撃で吹き飛んだ。

骨が粉砕され、闇色の霧となって消える。

 

かつて王国を守っていた兵士たち。

だが今は罅の狂気に侵され、ただ暴れ回るだけの存在だった。

 

ガガーランの戦槌が再び振り下ろされる。

 

一撃ごとに骨が爆散し、炎の中を聖光が貫いた。

 

ラキュースは剣を構えながら祈りを紡ぐ。

 

「〈聖なる加護〉――王に届きますように!」

 

黄金の光が彼女の身体を包み、仲間たちにも広がる。

 

その声と同時に、王城へと駆け出す彼女の背を、仲間たちの光が照らした。

 

ティナの声が影の中から響く。

 

「王城内、敵多数。だが理性のある兵はいない。全部罅に飲まれてる」

 

瓦礫の影からティアも短く言う。

 

「兵士だけじゃない。侍女や衛兵も混ざってる」

 

「了解」ラキュースはキリネイラムを握り直す。

 

聖剣の光が一瞬だけ強くなる。

 

「誰も殺すな。可能なら救う!」

 

イビルアイが冷静に言った。

 

「救えるなら、ね……」

 

彼女は魔法陣を展開する。

 

氷の紋様が地面に広がった。

 

「〈氷晶の牙〉!」

 

天井から氷柱が降り注ぎ、暴走した兵たちを地面に縫い止める。

鎧ごと凍り付き、動きを封じられた兵士たちが呻き声を上げる。

 

イビルアイの瞳に宿る光は、哀しみとも決意ともつかないものだった。

 

――王の間まであと少し。

 

ラキュースの胸に、灼けるような焦りが広がっていく。

 

 

/*/ 竜王国王都・空中庭園跡地 /*/

 

 

漆黒の剣の転移陣が青白く光り、五人とアウレリア姫が現れた。

 

魔力の風が吹き抜け、周囲の塵が舞い上がる。

 

かつて美しい花園だった空中庭園は、今や瓦礫の山と化していた。

崩れた柱、砕けた噴水、裂けた石畳。

 

空には紫の罅が走り、その奥から暗い光が漏れている。

 

ペテルが即座に燃える剣を抜き、周囲を見渡す。

 

「姫、私たちから離れないで。ダイン、周囲警戒!」

 

「了解だッ!」

 

ダインの身体が膨れ上がる。

 

骨が軋み、筋肉が膨張する。

毛皮が生え、背が大きく伸びた。

 

巨大なグリズリーへと変じる。

 

地面を踏みしめるたび、瓦礫が震えた。

 

ルクルットは崩れた塔の上に跳び、氷の弓を引き絞る。

 

空を見上げる。

 

罅の奥から黒い影が現れていた。

 

翼ある魔獣。

 

「上空、飛行魔獣多数! 弓兵ってより、狩人の出番だな!」

 

矢が放たれるたび、氷の尾が夜空に軌跡を描く。

鋭い光線のように空を走り、魔獣の翼を貫いた。

 

一体が空から落ち、瓦礫の上で砕け散る。

 

ニニャは両手を合わせ、詠唱を紡ぐ。

 

「〈光線(レイ・オブ・ルーメン)〉――!」

 

放たれた光が、瘴気に染まった魔獣を貫く。

光に触れた瞬間、魔獣の体が崩れ、灰のように散っていく。

 

その瞳に浮かぶのは、恐怖ではなく覚悟だった。

 

アウレリア姫が震える声で問う。

 

「……女王陛下は?」

 

ペテルは短く答える。

 

「この先の王宮だ。俺たちが行く」

 

巨大なグリズリーが一声吠え、瓦礫をなぎ払う。

その咆哮はまるで、大地の神の怒りのようだった。

 

ルクルットが矢を放ち続けながら叫ぶ。

 

「空のやつら、まだ湧く! 罅の奥から出てきてやがる!」

 

「なら――」ダインが唸る。

 

巨大な掌を空に向ける。

 

「雷よ、落ちろ!」

 

掌に雷光が集まり、轟音とともに稲妻が空を裂いた。

雷が魔獣を串刺しにし、焼け焦げた臭いが風に乗る。

 

ペテルが燃える剣を掲げる。

 

炎が剣から噴き上がり、周囲の闇を押し返す。

 

「――この炎は、希望のために!」

 

燃え立つ剣が一閃し、闇を押し返した。

 

その光景を見て、アウレリア姫は涙を流した。

 

だが、その瞳には確かな光があった。

 

――竜王国の空が赤く染まる中、彼らは進む。

たとえ罅が世界を裂こうとも、守るべきもののために。

 

 

/*/ ローブル聖王国・王都近郊・聖堂前広場 /*/

 

 

灰色の空が裂け、紫の罅が地平を走る。

崩れた聖堂の前では、百人余の修行僧が狼の咆哮を上げていた。

――「カルバイン様を称える会」戦闘教導官、ゼロ。

剃り上げた頭に幾重もの傷を刻んだ巨漢が、太い声で叫ぶ。

 

「息を合わせろォ! “狼の魂”を降ろせぇッ!!」

 

彼の号令とともに、僧兵たちの体に銀の紋が浮かぶ。

手の甲、胸、背中に刻まれた狼の紋章が淡く輝き、荒ぶる風が巻き起こる。

彼らは〈シャーマニック・アデプト〉――

気と霊を操り、獣の加護を身に宿す戦闘僧侶だ。

 

「〈狼走り〉、発動!」

地を蹴る音が一斉に響く。

狼のように低く身を沈めた彼らが、狂乱した魔獣群に突撃した。

拳が牙を砕き、脚が骨を折る。

そして倒れてもなお立ち上がる――まるで本物の群れのように。

 

「いいぞォ!! まだ吠え足りねぇだろッ!」

ゼロの豪声が雷鳴のように響き渡る。

だがその時、空が裂けた。

 

――ゴロォォォン……

 

雷雲が渦を巻き、蒼白い閃光が地を走る。

次の瞬間、天地が光に包まれた。

 

「う、おおおッ!?」

眩しさに目を覆う間もなく、敵の群れが吹き飛んだ。

爆風の中を、青白い稲妻を纏った狼がゆっくりと歩み出る。

 

「……お前ら、よく持ちこたえたな」

 

声の主はジョン・カルバイン。

焦げ跡の残る地面を踏みしめ、片手に稲光をまとった大剣を携えていた。

その背からは雷の尾のような魔力が揺らめき、周囲の空気を震わせる。

 

ゼロは驚きの笑みを浮かべ、片膝をついた。

「――カルバイン様!!」

ジョンは顎で戦場を指す。

「立て。ここはまだ終わっちゃいねぇ。狼ども、王を守り抜け!」

「応ッ!!」

僧兵たちが再び立ち上がり、叫びと共に突撃していった。

 

ジョンは天を仰ぎ、低く呟く。

「……さぁ、聖王カスポンドを守りきれ。

 この“雷”が――お前たちの道を照らす」

 

再び稲妻が閃き、彼の姿が雷光に包まれた。

 

 

 

/*/ バハルス帝国・王城 /*/

 

 

 

大理石の廊下が崩れ、瓦礫と血が散乱していた。

侍女たちが悲鳴を上げながら逃げ惑う中、

一人の男が立っていた。

 

バハルス帝国皇帝――ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。

 

彼の手に握られているのは、

黒い光を放つ魔剣《ウルフスベイン》。

ジョン・カルバインより贈られた、“黒き刃”だ。

 

「来るがいい……皇帝を、侮るなッ!」

 

黒刃が唸りを上げ、斬り込んできた魔獣の首を一閃で断ち切る。

黒い残光が軌跡を描き、周囲の空間を震わせる。

 

「陛下! お下がりください!」

秘書官の叫びを、ジルクニフは手で制した。

「下がってどうする! お前たちが倒れたら誰が民を導く!」

 

彼は振り返らずに叫ぶ。

「侍女たちは地下回廊へ! 近衛は門を閉ざせ! 魔導通信は死んだか!?」

「いえ、まだ数分は――!」

 

そのとき、廊下の奥で爆音が轟いた。

魔獣の群れが押し寄せる。

だが――

 

「下がれ。ここからは我が担当だ」

 

闇を裂く声とともに、黒いローブの魔法使いが歩み出た。

骸骨の顔、赤黒く輝く瞳――アインズ・ウール・ゴウン、すなわちモモンガ。

 

「〈魔法の矢(マジック・アロー)〉――百二十連射(コンティニュアス・フルバースト)」

 

無数の光弾が一斉に飛び、通路を埋め尽くした。

連鎖する爆音。閃光。

敵は一瞬で灰に変わり、風が静寂を運ぶ。

 

モモンガはゆっくりと腕を下ろした。

「……ふぅ。久しぶりに本気を出したな」

 

ジルクニフは剣を下げ、微笑を浮かべる。

「助かった、魔導王陛下。いや――友よ」

 

モモンガは骨の顔にわずかな笑みを刻む。

「礼など不要だ。お前の民を守る覚悟、その眼に宿っている」

 

ジルクニフは頷き、再び剣を構える。

「では、肩を並べよう。皇帝と魔王、いま一度この世界のために!」

 

モモンガの赤光が輝きを増した。

「いいだろう。――並び立つ者として」

 

そして二人は歩き出す。

滅びゆく帝都の廊下を、光と闇が並んで進んでいった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。