オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
感想でこちらの方が語呂が良いと助言を受け、確かにそうだなと思ったので修正。
集会所までの道すがら、ジョンはエンリに村の中に増やした設備の簡単な説明をし、エンリの家も修繕した事を伝えながら歩いていった。
一緒に歩くンフィーレアは村の家に設置された《環境防御結界》と《永続光》を利用した照明器具。共同浴場、教会、《フィルター》を使った屎尿処理設備に、前髪に隠れた瞳を零れ落ちんばかりに見開き、エ・ランテルでエンリからポーションを見せられた時よりも衝撃を受けた様子でふらふらとしながら歩いていた。
「エンリ、これって世界基準からするとおかしいのか? 村の人は喜んでたんだけど」
「ええと、私も魔法の事は良く分らないので……」
余りにも衝撃を受けている薬師ンフィーレアの姿に、ジョンは困ったように頭を掻きながらエンリに問う。
しかし、エンリもどうしてンフィーレアがこれほどの衝撃を受けているのか分らず、困ったように答えるだけだった。
「なぁ、ンフィーくん。これってそんなに凄いのか? 全部、第1から第3階位の魔法だから、君たちでも出来るものだよな?」
「そそそ、そうです。出来ます。効果の永続化は出来ないものもあります…けど、確かに僕たちにも出来ますけど、けど……こんな使い方は想像もした事もありませんよ!」
あ、この子は薬師と言うより錬金術師なのか。
だから自分達の技術で何が出来て何が出来ないか。その発想の幅まで理解してるから、この世界の発想から外れてる設備を見て衝撃を受けてる。
若いし、技術あるようだし、俺と違って発想力もあるようだし、この子は買いじゃね?
道々、ンフィーレアに聞いてみると薬師と錬金術師の区別は曖昧で、祖母がエ・ランテルで薬師として名声を得ているので薬師と言う事になっているが、実際には錬金術師になるだろうと言う事だった。その話を聞き、ジョンは思う。
【ンフィーのアトリエ】……ありだろ。
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集会所でテーブルを囲んだ3人であったが、ジョンの前には黒々草茶、エンリとンフィーレアの前には赤い果実水があった。
「カルバイン様、黒々草茶を飲まれるんですか?」
「この苦味が気に入ったんだ。……そんな畏まらないでくれ。飲むんですかーぐらいで良い」
ひらひらと手を振って答えると、黒々草茶をごくりと飲み干す。それを見て、エンリとンフィーレアも目の前の赤い果実水を恐る恐る一口飲む。
「甘い!」
「これは……ブドウ、ですか?」
エンリは単純にその甘さに、ンフィーレアは自分の知るブドウよりも遥かに甘く芳醇な香りの果汁に驚いた。
二人の驚きにジョンは笑って答える。来年あたりからは、このブドウも植えて栽培を始めたいと。
ンフィーレアは、先ほどまで野生の獣のような姿をしていた青い人狼――今は大柄な銀髪金眼の青年――が、自分達より遥かに多くの知識を持っている。自分達よりも優れた文明的な存在なのだと理解し、ごくりと唾を飲み込んだ。
そのンフィーレアの前で、エンリとジョンの話が始まっている。
内容はンフィーレアも知っているものだった。
村を出発する時から、ゴブリン達の護衛も有り、特に何事もなく帝国の陣地まで行き、村が襲われた話を帝国騎士に話し、鎧と羊皮紙を置いてこれた。
そのままエ・ランテルに寄り、神殿に移住希望の募集をお願いし、友人であり薬師であるンフィーレアにポーションの鑑定を頼んだところ、詳しい話を聞きたいとンフィーレアが護衛を用意して一緒に来てくれたのだと言う話だった。
色違いのポーションにそこまで興味を持ったのか、とジョンがンフィーレアに顔を向ける。
「その前にカルバインさん……」
ジョンの金の眼がンフィーレアを興味深げに見つめる。見返すンフィーレアは憧憬と感謝の眼差しでジョンを見上げている。
そんな純真な少年の態度にジョンは照れくささを覚える。
ンフィーレアは望んでいたポーション、神の血の詳しい話をいよいよ聞ける喜びに身を震わせ。けれど、間違えちゃいけない。そう自分に言い聞かせる。
今この時だからこそ、ンフィーレアは自分を振るい立たせて立ち上がり、テーブルを避けてジョンの正面になるように立つ。知識欲はある。ポーションの製法も知りたい。
けれど、エ・ランテルの工房を突然訪ねてきたエンリの話を聞いて、自分は何を思った? 血の凍る思いではなかったか?
当たり前の日々。当たり前に続くと思っていた未来が、実は何の保障もないのだと突きつけられたあの時、自分は、僕は、何を大切に思った? 何を守りたいと思った?
神妙な表情でジョンの前に立ち、真摯な眼差しで金の眼を見つめる。不思議そうに首を傾げたジョンへ、ンフィーレアは万感の想いを込めて深々と頭を下げた。
「この村を助けて下さって、本当にありがとうございました!!」
突然、深々と頭を下げたンフィーレアに、ジョンは眼をぱちくりとさせた。
「どうした? 君は別にこの村に住んでいるわけでも……」
「いいえ! ありがとうございます。僕の好きな人を助けてくれて! おかげで! 僕は、また好きな人に会う事が出来ました!」
「……ンフィーの好きな人って、この村にいたの?」
「「え?」」
心底、不思議そうなエンリの声に――ンフィーレアは膝から崩れ落ちた。
「し、しっかりしろ、傷は浅いぞ!」慌ててンフィーレアを助け起こし、いもしない衛生兵を探すジョン。「
助け起こした不憫な少年へ、ジョンは自分の事を棚に上げて沁み沁みと語りかけた。
「伝えてもなかったのか……俺はてっきり
「わーー! カルバインさん!!」
「えー!?」
ジョンの言葉に両手を口元にあてて驚くエンリ。頬を赤く染め、同じく真っ赤になったンフィーレアへ「……本当に?」「…う、うん」などと実に微笑ましいやり取りをしている。
ジョンはジョンで(良いなー。青春だなー。俺はリア充爆誕の瞬間を見たぞ)とか、(お? エンリは驚いてるけど、嫌がってはいない感じ? それなら……)などと考えていた。
出来れば、青春すぎて痒くなるので、俺のいないところでやって欲しいなーとも、思っていたが。
「エンリを嫁に連れてかれると困るんだが……ンフィーくん。この村に移住しないか? 今ならポーションの研究資料と機材もついてくるぞ」
この場合、世の薬師、錬金術師が涎を垂らす研究資料と機材は全て、エンリのおまけ扱いである。
「……それは、とても魅力的ですが、どうしてそこまで」
「ここのポーションの作り方を知らないのが一つ。俺達の知ってるポーションの材料が手に入るか分らないのが一つ。だから、ここで作れるようになれれば、それに越した事は無いからだな。あとはポーション以外も作れる錬金術師の
俺はンフィーくんが思うほど、大した事は出来ないんだよ。
そう言って朗らかに笑い。
(エンリとのやりとりで良いリアクションしてくれたから)とは賢明にも、今回は口に出さなかった。
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ンフィーレアの話から、この世界でのポーションは青色で時間経過で劣化する薬草を主とするもので、かつては劣化しないポーションが神の血と呼ばれていた事が分った。
消耗品であるから、赤いポーションはなくなり、青いポーションだけで何百年か経つ内に神の血は青いなどと言われるようになったのだろう。
ジョンとしては、鉱物系の材料から製作するポーションと同等の効果を薬草系の材料から作り出すって、そっちの方が凄いんじゃね? と思う。
そんな事を考えながら、エンリとンフィーレアと連れて門の所へ戻ると、ゴブリン隊と冒険者“漆黒の剣”がルプスレギナの用意した軽食を取りながら談笑していた。
それは予定通りの光景だった。
その中にしれっと交じる大柄で両手剣を2本背負った漆黒の戦士の姿がなければ。
「ですよね! モモンさん! まったく皆、好き勝手してばっかりで!」
ぺテルと漆黒の戦士が、メンバーの苦労話で盛り上がっていた。漆黒の戦士はすっかり輪の中に溶け込んでいる。
PKから助けた人と話し込んだり、野良パーティ組んだりした時も、モモンガはちゃんと会話できていたのだ。
別にコミュ障と言うわけではない。その気になれば、冒険者に溶け込む事も出来るだろう。その気になれば。
(……そんなに冒険に行きたかったのか)
この辺りはダーシュ村攻防戦をしながらギルドの維持に協力してきたジョンと、自分にはAOGしかないとナザリックの維持に全力を注いでいたモモンガの意識の違いだろう。
あの日、あの場所で終ったユグドラシルの続きを、ジョンだけとはいえ行える。仲間の残したNPC達も、仲間の心の欠片を持って、ここにいてくれる。
それがどれ程の喜びか。
常に冷静である筈のモモンガの精神が浮かれまくって、この世界で始めて会った冒険者に近づいてアレコレ話を始め、あわよくば一般常識を教わりながら一緒にエ・ランテルまで行って冒険者を始めたいと、迷わず行動に移す程の喜びだ。精神作用効果無効がなければ、見ていられない程、はしゃいでいたのではないだろうか。
見た事も無いほど明るいモモンガの様子にジョンが唖然としている間に、話題は仲間の事になってしまったようだ。
「それでも皆、素晴らしい仲間達でした。出来る事ならもう一度会いたいものです」
「あ……す、すみません」
「え!? いや、もう会えないぐらい遠い世界にいるのは確かですが、誰も死んでいませんよ」
(……モモンガさん、それ普通に死んだって受け取られないか?)
モモンのフォローになっていないフォローを受けて、漆黒の剣の面々の表情が、申し訳なさそうな微妙なものになっていた。
その微妙な空気に気づいているのか、いないのか。
「ジョンさん! 彼等と話しまして、一緒にエ・ランテルへ行って冒険者登録なんかを手伝ってくれるそうですよ!」
浮かれまくった骸骨もとい漆黒の戦士の
ぐわぁん、と鈍い大きな音が響き、その音の大きさに漆黒の剣とゴブリン達が、ぎょっとしてモモンに注目する。
「落ち着け、モモンgーさーん」
「うわぁッ!? ってぇぇ、ぐわんぐわんするんですけど!?」
あれだけ音が響くと耳はさぞ酷い事になっているのだろうと同情の眼を向けられながら、平然と会話を続ける二人。
その姿に、この二人は自分達を超えた領域にいる強者に違いない。その場にいるもの達はその思いを強めた。
「そりゃ『アイアン・スキン』と『アイアン・ナチュラル・ウェポン』を常時展開してるからね」
「それ意味あるんですか?」
「特訓と言えば定番でしょ? 持久力を養い、常に展開する事で能力の底上げを狙う。あと不意打ちされても防げるな」
《そして、その心は?》
《その方がカッコイイから!》
モンクの初歩にして必須スキル。
『アイアン・スキン』と『アイアン・ナチュラル・ウェポン』を常時展開しているとの言葉に漆黒の剣は耳を疑う。
それは戦闘時に使用するもので、日常で連続使用し続けられるものでは無い筈なのだ。
武技:戦気梱封や流水加速を常時使い続けるようなものだろうか。ぺテルはどちらも使えないが。
強者の行いに、自分達も日常から出来る事はやるべきなのだとの思いをぺテルは強めた。
「ほら見ろ、ルクルット。やっぱり常に備えて歩くのは大事なんだよ」
「だからって、街中でも隊列組んで歩く事はないだろっ!?」
「襲われるかもしれないからな」
「警戒はいついかなるときでもするべきである」
ペテルは常に隊列を組み、有事に備える大切さを改めてルクルットへ説く。ダインも分ってくれるようだった。
だが、ドルイドであるダインはそう返答をしつつも、その顔には『なわけないよな』という表情が浮かんでいたが。
「するべき時と、しない時ってあるだろうよ!」
「いや、超遠方から飛来したドラゴンが、突如襲撃を仕掛けてくるかもしれませんよ?」
せめて、街中とか見通しの良い街道はやめようぜ。隊列の先頭に立つルクルットは叫ぶが、魔法詠唱者であるニニャからも同意が貰えない。
肉体派ではないニニャは面倒なので、どうでも良いと言った雰囲気だ。
「そりゃどこの糞みたいな物語だ。常識で考えてそんなことがあるのか!!」
漆黒の剣では度々繰り返されているやりとりであったが、今回はそんな常識を持っていない存在が隣にいた。
「あー俺は結構あるぞ。探知範囲外から(超位)魔法撃ち込まれたり、ドラゴンとかに強襲されたり、
「マジかよ! どんだけ狙われてるんだよ!」
「いやいや、冗談に決まってるだろう?」
「そうですよ、そんなわけ……」
「強者の日常とは凄まじいものであるな」
「「「ダイン?」」」
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ジョンとモモンガ、ルプスレギナ、エンリ、ネム、ンフィーレア、ゴブリン隊に漆黒の剣が、ぞろぞろとエンリの家まで移動する。
村の人口が40名余まで減った中、エンリとネムとゴブリン隊が村に加われば、村は60名余の数となり、村人の3分の1をエモット家が占める事になる。
死の神アインズから角笛を授けられ、村の救世主たる人狼達からの覚えも良いエンリ・エモット。どう考えても次期村長は間違いなくエンリ・エモットだろう……本人は気づいていないが。
綺麗に修繕されたエンリの家は目の前に広い訓練所があり、訓練所を中心にして、コの字の左右にゴブリン達が使う家がある。
「んで、ンフィーくん達は今日はこのまま村に泊って、明日から大森林に入って薬草採取。モンスターを討伐しつつ、エ・ランテルに戻る、と」
「ええ。薬草を取りにきたのは本当ですし、お話頂いた件は、帰ったらお祖母ちゃんに相談します。間違いなく、こちらでお世話になるようになると思います」
ジョンとの会話で、エンリが心配で冒険者まで雇って村まで来た事がバラされたンフィーレアは、開き直って薬草がついでで、本命はエンリですと言葉の端々に出し始めた。
漆黒の剣やゴブリン隊はそれに気づいたが、エンリにはもっと直接的に言わないと伝わらなさそうな所が周囲の涙を誘う。
「お祖母さんに反対されたら?」
「移住についても反対しないと思いますよ。でも、万一反対されたら僕一人でもこちらでお世話になります。その時は宜しくお願いします」
そう言って深々と頭を下げるンフィーレア。
街での名声も、祖母からの工房も投げ捨て辺境の村へ移住すると迷いなく言い切る少年。
エンリも流石に迷いないンフィーレアの言葉に驚き、何か言い掛けるが、そこで迷うように口を閉ざした。
その様子にルクルットとペテルがひそひそと話し合う。
「ところで、エンリちゃんとンフィーレアさんどうしたの?」
「なんだか微妙な距離感になってるな」
それが聞こえたジョンは深く考えずにルクルット達へ喋ってしまう。
「ンフィーくんに『僕の好きな人を助けてくれてありがとうございました』って礼を言われた時にさ。エンリちゃんが『え? ンフィーの好きな人ってこの村にいたの?』って……それで崩れて落ちたンフィーくんがあんまりだったんで、つい『ンフィーくんの好きな人って、エンリに決まってるだろう』って、俺が言っちまったからかな」
あっはっはと能天気に笑うジョンだったが。
「「うわぁ」」
呆れたような声が、ニニャとルプスレギナから上がった。
思わぬところから上がった声にジョンは慌てる。
「待ってくれ。てか、なんでルプーが!?」
「え? ジョン様、友達感覚でお話して良いって言ったじゃないっすか?」
「うん、言ったな。そうしてくれて、嬉しいぞ」
気安く話してくれて至高の御方は嬉しいぞー。でも、なんで今なんだ。
モモンが良いなーと言った風にこっちを見ているが、そこは自分でなんとかして下さい。
「そうは言っても、事故でもなんでも、自分では伝えられない想いが伝わったんだから、そこは感謝してもらっても良いだろう?」
実にヘタレらしい言い草であったが、女性的な感性からは共感は得られなかったようだ。
珍しく、ルプスレギナのジョンに対しての呆れたような言葉が続き、ニニャもそれに続いた。
「それはどうすかねー」
「本人からきちんと伝えるべきだったと思いますけど」
「うへぇぁ、厳しいっすねー。ちなみにニニャちゃんはどんな告白が良いっすか?」
「私は……え? いやだな、ルプスレギナさん。私は男ですよ?」
「え?」
「え?」
ジョンとルプスレギナがペテル達を見て、ニニャを見る。
彼らの間を天使の軍勢が通り過ぎて行った。
次いで、ニニャがしまったと言う表情をし、ペテルが二人とニニャへ申し訳なさそうに言葉を発する。
「すみません、お二人ともそれ以上は……」
「ルプー、俺達は何も気づかなかった。良いな?」
「はぁ、ジョン様。了解っす。……ばればれっすけどねぇ」
「俺達にはな。人間は気がつかないんだろう」
人狼である自分達からすると丸分かりだったのだが、ニニャに取ってはそうではなかったようだ。
ニニャは仲間達にも性別を偽っていたようだが、仲間達はそれを承知で気づかない振りをしていたようだ。
なんとかニニャを宥めようとあれこれやりとりしている。
そんな仲間を思う姿を懐かしそうに、眩しそうに眺めているモモンガ。
漆黒の剣を羨ましげに見ているモモンガへ、やれやれと肩を竦めてジョンは話し掛けた。
「冒険者やるって、モモンさんは戦士で通すの? じゃあ、俺は魔法詠唱者かな。え、名前? そのままじゃ不味い? え?…なん、だと」
モモンガさんの口から「偽名の方がカッコイイでしょう」だって!?
ジョンは、ついにモモンガも
モモンガとしては、ジョン・カルバインは戦士長に名乗った名前であり、それは王国に喧嘩売ってる人狼の名前だから、一応は違う名前を名乗っておけと言う意味だったのだが。
そんな気遣いに気づく事無く。ジョンはモモンガの漆黒の戦士モモンはたっち・みーのリスペクトだろうかと考え、モモンが戦士なら自分は魔法使いだなと自分の外見を考慮せず決める。
その大柄な身体。野性味溢れる褐色の肌、逞しく筋肉のついた肢体、鋭い金の瞳。銀の髪はトップ部分を狼のたてがみのように立たせたウルフカット。人狼形態の普段着(ズボンのみ)から変身し、上着を羽織っただけの姿。その上着の前は開け放たれ、割れた腹筋と逞しい胸板を見せびらかす魔法詠唱者。
10人に聞けば、10人が「お前のような魔法詠唱者がいるかっ!!」と突っ込みを入れるだろう肉体。しかも第三位階まで使える設定にするつもりである。
「カルバイン、タルバイン、ジョン、ジュン、ジャン……しっくりこないなぁ。ジョ、ジョ、ジョン。ん? ジョ、ジョン。ジョジョン。良しッ――ジョジョン・シマ・シゲルでどう?」
「おー良いですね!」
「そ、そう?」
モモンガの感嘆の声に照れるジョンだった。既に冒険者としてエ・ランテルへ行く流れになっているが、どの道、豚なども買い入れたかったから良いだろう。これも開拓の一旦だ。出稼ぎである。出稼ぎ。決して、うっかり『何でもするから助けて』とか言った所為ではない。
傍から見れば、凄く騙されていると言うか、本末転倒のような気もするが、本人が納得しているのだから良いのだろう。
「それで、ゴブリンリーダー。……ジュゲムだっけ?」
「なんですかね、怖い兄さん」
「モモンさん程は怖いつもりはないんだが……まあ、いいや。一寸、特訓もとい訓練しないか。お前さん達がどのぐらい出来るのか確認しておきたい」
「事故は起きませんよね?」
「それなら村の外で、皆まとめて薙ぎ払ってる」
「……信じますぜ。怖い兄さん」
「お前さん達みたいなの。俺は好きだぞ」
そう言って笑うジョンの表情を見て、ルクルットが「うわぁ」と零し顔を覆う。
ペテルが「どうした?」と不思議そうに問うと、ルクルットは明るい笑い声をあげた。
「いや、今の笑い方がルプスレギナさんにそっくりで、敵わねぇなぁって」
「そうか! そっくりか!」
ジョンも笑って答え、ルプスレギナも「いやぁ、照れるっすね」と頭を掻いた。
次回本編「第23話:辛い特訓を考えて見たまえ。」